地下シェルターに急いで向かってみれば、分厚い扉が引きちぎられて通路に転がっていた。
その近くには上条さんが右手を前に構えて、光を受け止めている。右手で何かをマイナスにしているような、そんな感覚を感じ取ることもできる。
「なんてこと!」
「―――――――――――」
インデックスが何かをつぶやいているが、うまく聞き取れない。
そもそも言葉として成立しているかさえわからなかった。
「そんな、なんで魔術を?使えないはず……」
「ちょっ、何?仲間なんだからそれくらい知ってて欲しかったのだけど!」
「そんな、こんなの。」
「あれは何?」
「わかりません。初めて見る魔術です。」
「そう。ならやることは一つね。」
「一体何を?」
訳かわからないといった様子の魔術師達は、私を静かに見下ろすだけ。うまくサポートしてくれるといいんだけど、突貫工事もできていないこの不格好なチームには圧倒的な力が必要なんだ。
「アイツみたいに拳で勝負すんのよ。たとえ術者でも意識を刈り取っちゃえば、あんな複雑な術式なんて形成できないだろうし。」
簡単に、殴って倒す。それだけ。
光に包まれる直後、後ろからワイヤーが飛んできてインデックスの体勢が崩れると同時に、また光が柱となり、天井を焦がした。
インデックスの向く方に光が放たれていくようだ。
「魔術師!私の言うとおり、魔力に言葉をこめなさいな!」
光をかき分けるかのように私はどんどん前に進んでいく。それじゃあ埒が明かない。
「
「さ、
神裂が復唱する。そうすると、私を拒むように降り注いでくる光の柱が二股に分かれて、光の壁のように私の横を通過していく。
私のために道が切り開かれた。
「警告、第六章第十三節。新たな敵兵を確認し戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。最も難易度の高い敵兵『鿣芵벝ꋣ芦뿣莼듣莃』の破壊を胥蒪裣膗뻣膙」
私が最も難易度の高い……ね?流石にそうだ。
そうでなければおかしい。私の能力でインデックスの攻撃は通らないもの!
でも、それだけじゃない。悪いけど書庫に干渉させてもらう。
「致命的な知識汚染を確認。魔術の術式の逆算に成功しました。ꓧꖞ鏣膋觥법꣣膕賣膟ꫧ蒶蟦讝ꯣ膊釣芋蟥꺙껦鎬뫥貖闣芌鿧ꖞ跣芍韣膨ꯥ꺚、対古神道用の術式を組み込み中……失敗。再検索を行います。」
私を撃破するに値する術式を組めないようで、再検索を何度も何度も繰り返している。
やるなら今だ。
開かせた道を無理やり進んで光に押し戻されないようにインデックスの頬に手を伸ばし、思いっきり殴りつける。
「悪いけど、そう簡単にやられるわけには行かないのよ!」
コキンと、関節の音が聞こえてインデックスがぶっ飛んだ。大丈夫。感覚的には首の骨は折れていないはず。
私が確認をするその前に、私の横を上条さんが駆け抜けて、そしてインデックスの頭を右手で掴んだ。
何かが砕ける音がして、インデックスがまた何かをつぶやいたが、眠るように意識を失ってあたりが呼吸音のみとなる。
「不味いです!上!避けてください!」
そう、神裂の声がしたので上を見ると羽根がふわふわと舞い降りてきた。
それが壁に当たると爆発音とともに衝撃波で上条さんとインデックスが吹っ飛ばされる。
私は影響外だが、それは次々とぽっかり空いた天井から降り注いでくる。
光が羽に変わったようだ。至るところで爆発し、連鎖的に羽根は爆発していく。
「くそっ!神様よぉ、インデックスが何をした?」
責任転嫁は止めてもらいたいもの。こんなことになったのは人間のせいだというのに。
「はは、いいぜ!この世界があんたの作ったシステムの通りに動いているっていうなら、まずはその幻想をぶち殺す!」
そう言って上条さんは右手を上に突き上げて羽根を一枚一枚消していこうとする。
でも、もう遅い。
わからないの?その動作こそ、失策。
あなたが動く度に余計な風が生まれて羽根が舞い上がる。
あなたが一枚一枚消そうと藻掻くせいで、インデックスを安全地帯に運べない。
「さっきの!」
「あっ、
一瞬、たった一瞬だけ羽根が降り注ぐことのない空間が生まれる。
助けることができるのはたった一人。インデックスだ。
連鎖的な爆発がインデックスと上条の体にダメージを与えていく。
インデックスの服を引っ掴んで神裂に向かって投げた。
「オラァア!!!!!」
無事ではすまないだろうが、生きることはできる。
それに彼女なら、何を差し出しても治してくれと懇願するものもいるだろう。
ついでに爆風に翻弄される上条さんを掴んだとき、体が浮遊するかのように、ふわりと浮いた。
今更だけど、右手はなにか……能力やそういった類の物を無効化する能力なのかもしれない。
あぁ駄目だ。下手に人間なんか助けようとするから不幸を踏むんだ。
吹っ飛ばされる方向には壁。
「あっ。」
・・
「お疲れ様だね?検査の結果は異常なし。おでこの内出血以外健康体だね?」
カエルに似た医者はそう笑っているけど冗談ではない。痛いし、恥ずかしい。
くっきりはっきり分かってしまった。
これもあれも全部ウニ野郎が悪い。
上条さんなんて敬語なんていらないね。あんなのウニ野郎さ。
あのときの浮遊感は、上条の右手が私に触れたことにより、私の能力が打ち消されでもして、能力が機能しなかったから、爆風に飲まれて吹き飛ばされたからだ。
いろんなことをしれたのはいいけど、おでこに痣ができた。痛い。
「まったく!私のこの美しくプリティーでキューティーなおでこちゃんに、傷が付いたというのにまぁーだ寝てるのね?」
「まぁ、彼は全身に爆風をうけたみたいだからね?仕方ないんじゃないかな?ともかく行こうか?」
診療室から出るとそこには神裂と炎の魔術師が待ち構えていた。
律儀に最敬礼のお辞儀をした神裂は、まるで高官に報告をする兵士のように背筋を整えた。
「今回の件は、多大なるご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした。」
「まぁ、昨日は散々だった。おでこに痣で来ちゃったし、研究所は地下から天体観測ができるようになっちゃったしね。」
「はい。今回の件、イギリス清教がすべて全額負担。御遺族にも誠意を持って対応すると、貴方に誓います。」
「良い判断よ。私としてはそこらへんきっちり、パパあたりと調整してくれれば。お金で解決できるなら、それでいいわ。」
昨日の件で、私の専属の使用人の体の一部が見つかった。
上条を庇ったのかまきこまれただけなのか、なんでインデックスはあんな事になったのかはもう知ることが出来ないけれど、科学の街で科学者の使用人が魔術が原因で死亡する。というのはかなり問題視されるものらしく、イギリス清教が誠意を持って対応してくれるほど、大事なのかも。
「上条当麻に会っていかないの?あれこそインデックスを救った救世主でしょ?」
「……本来であるなら、そうするのが正しいでしょうが、インデックスの待遇についての調整をしければならないので。それに、貴方を知ってしまった以上報告しなければならないので。」
「あっそっ!なら不法侵入した魔術師ちゃんたちはさっさとこの街から出ていってほしいわねー。」
「君、かなりフランクになったかな?」
「いい子でいるのを止めることにしたのよ。」
あの様子から上条当麻のことなんかまるで分からないようだ。
そりゃ、一日、そのたった数時間の出会いで相手を心配しろだなんて人間には出来ないだろうし。
私は、どうだろう?なんで助けようとか思ったのかはどうでもいいけど、上条当麻を高く評価してる。
異能を打ち消す右手を持った高校生。
奇跡も加護も打ち消すから不幸になるらしい。
今まで命を狙われたり、見世物にされそうになってきたりしたため、パパは嫌がった。
でも、昔を覚えていないほうが良いかもしれない。
「上条当麻くんは、記憶喪失だね?喪失と言っても物理的な物だから消失といってもいいんだよ?」
「喋ったり歩いたりは?」
「できるよ?ただ、思い出の記憶がないんだね?」
「はぁ。運のいい。」
「色々教えてあげてほしいんだよ?よろしくね?」
カエルの顔をした医者は一方的に押しつけて歩いていってしまう。めんどくさ。
上条当麻と書かれたプレートのあるドアの前にいつの間にか誘導されていた。
ここまで来てしまえば、顔を出したほうがいいと思う。
ノックを2回すると、「どうぞ。」と上条の声が聞こえてきたので、ドアを開ける。
個室のその病室は角部屋で、光が多く差し込んでくる。
上条当麻はベッドから起き上がっていた。
上条の近くの窓は開け放たれており、そこから風が入り込んで白いカーテンがひらひらと揺れる。
「あの、病室を間違っていませんか?」
上条当麻はわざとそう言ってこちらの反応を窺っていた。
丁寧な言葉を使うように気をつけて。
カエルの医者曰く、
しかしそれは奇跡しか打ち消すことができない。それによって生じる物理現象や反応を打ち消すことは出来ないらしい。
羽は爆発するだけだった。爆発によって生じた衝撃波と熱が私と上条にダメージを与えたのならば、それは打ち消すことができない物。
「私にそんな冗談効かないからね。」
「あはは、引っかからなかったか流石だな
「一応、私の名前フルネームで言ってもらっても?」
「え?竜宮
「
上条当麻は目を少しだけ泳がせたあと、バツの悪そうな顔をする。
原因は分かってないようだ。
「私はミサカ=アウターゴッツと名乗る者ですよ。上条さん。」