序章 守られし者
肉体と魂の関係性は考えうる限り、互いの強度が釣り合わなければならない。
だからこそ、頻繁に行われる体の調整をしに病院に行く度に、困った顔をされてしまう。
体を鍛えれば、精神も鍛えられるという言葉があるのであるならば、逆もしかり。魂が体を強化していこうとするのだ。
そのために、医者は「改良の計画を建てるのが難しいんだよね?」と毎回私に意見をしてくるが、自然な流れなのでどうする事もできない。
「ミサカ嬢、お疲れ様です。」
「五条が新しい世話係なのね。男はあまり良くないと思うの。同性がいいわ。」
「そういうと思ってました。新しく雇うまでお供するだけですから。」
「まぁ、良いけど。」
誘導された車の後部座席には、極々自然にギターケースが鎮座しており、これからどこに行くのかがとてもわかり易い。
ギターケースの中にはメタルイータMXと呼ばれている対戦車用のライフルが入っているはずだ。
入手経路は五条の関係先が大いに絡んでいる。
五条が一番手に入りやすく、殺傷力が高いのがこの銃だっただけで、特に意味はないだろう。
「狙撃手は私の得意分野ではないのだけれど?あなたがやるのかしら?」
「とんでもない。反動だけでヘルメットが粉々になるものを素人の俺が扱うんですか?能力者のお嬢様とは違うんですよ。」
今回は誰かしらに依頼されただとか、助けるだとかそういうものではなく私のための行動だ。
願ってやまない
ただ、堂々と会いに行くには少し障害がある。
彼を利用しようとする者が現れたのだ
彼は元々とある実験に参加しているのだが、それは問題ない。五条をその計画の研究者として送り込んで工作させたりしていた。
その計画自体五条の働きかけと奇跡によって現在休止中にまで追い込んでいる。
やっと、日のもとで会えると思った途端、外部からの研究者が彼を利用しようとしているという事が発覚した。
掠め取られるなら、掠め取られる前に殺さなければならない。
甘言で彼を誘惑し、絵空事を並べて落胆させる奴を殺さなければならない。
まだ彼はあしらっているが、気が変わったらどうだ?
「無風です。誤差はないでしょう。」
「こういうのもオートにできないわけ?追尾とか。」
「それは難しいですね。距離、700。」
雑居ビルの屋上に移動した私達はそれぞれ双眼鏡とスコープ越しに標的を確認する。
スコープにはコンビニから出てきたか弱そうな少年を確認できた。
重そうなコンビニ袋を手に下げて歩く彼に、突然近づいて行くナイスバディなジャージの女がいて、何か腰に手を当てて注意するように、そしてなぜか
「おいおいおい!誰だあのジャージ美人??」
「
「保護下⁉ひとつ屋根の下ってことか⁉春?春なのかっ⁉ウェディングは近いってことかコンチクショウ‼クソぉクソぉ赤ちゃん抱っこしてぇ。末永く祝福してやる。」
「落ち着けストーカー!保護下だって!それに彼は子供としてしか認識されてないって!」
「そんなことない!同じ学校じゃないし先生と生徒の関係じゃないならありえる!あれくらいのは母性掻き立てられて愛情から結婚するやつだって!年下の男の子ってゆーてるもん!」
「まず落ち着いて!!おちついてください!!」
冗談はさておき、
二人の動向を確認して見るあたりまるで親子のような振る舞いであることがわかる。
まるで夜中に抜け出してコンビニに行った反抗期の息子を追いかけてたしなめるように。
「彼女は黄泉川愛穂。
「体育教師?心配になってきたぞい。
「体育教師になんの恨みがあるんですか?」
「いろいろとね。さぁ、か弱いミサカちゃんは射撃射撃!」
そんな二人の後ろからコソコソとあとをつけるいかにも研究者といった風貌のハゲがいる。ターゲットはこいつだ。
三沢塾と言う塾の研究者で、学園都市の技術を盗むために入り込んだとか、入り込んでいないとか。
ともかく
「本当に彼が
「ご自身が一番よくわかってるのでは?」
「……この距離でも彼から故郷を感じられるわ。彼が
「はい。そうです。」
最適解を聞いてぐっと息を潜めて標準を研究者に合わせる。
悪いけど死んでもらうわ。私のためにね。
二人に近付こうとする研究者の頭に狙いを付けて引き金を引く。
ものすごい発砲音と共に、少しの衝撃を肌で感じながらも直ぐにスコープで確認するが、暗くてよく見えない。
「十二発着弾。吹き飛びました。」
「やったりぃ。」
「黄泉川が肉片に気がついて
「構わないわ。警護が強化されるでしょ。さっさと痕跡消してずらかるわよ。」
大人しく大人からの庇護を受けいれて連れて行かれる中性的な彼こそがこの学園都市の能力者第一位。
私をこの世に呼び寄せた張本人、つまり
私を呼び載せてしまったばかりに本来の性質が捻じ曲がってしまった哀れな子羊ちゃん。
変質者に襲われてとっさの自己防衛で変質者に粉砕骨折の重症を負わせてしまったことが理由で遠巻きにされて孤独になった少年。
「さて、次は誰を殺ればいいのかしら?統括理事長さん。」
イヤホン型の無線機からは、男の声がぼんやりと聞こえてきた。
「次の依頼はデータを送る。複数人だが大丈夫だろう?」