情報屋コンビ「ネコとネズミ」   作:兄やん

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初投稿です。よろしくお願いします。


第1話

リンゴーン

リンゴーン

 

鐘の音が聴こえる。

そう認識した瞬間、『キンカ』は光に包まれた。

 

気付くとそこは、ゲーム開始地点である『はじまりの街』の広場だった。

キンカは、まず辺りを見渡し、状況を確認した。

 

「なんだ?」

「ログアウトできない!」

「どういうことだ?」

 

広場では多種多様な人間がひしめき合い、不満を漏らしていた。

その声はだんだんと大きくなり

 

「説明しろ!」

「GMはどこだ!」

「ログアウトさせろ!」

 

怒りの声に変わっていった。

それらの声を耳にしながらキンカは、転移する直前に発生した『メインメニューからログアウトボタンが消失する』というバグと、転移したこととの関連を考えた。

 

(……ログアウトボタンの消失は俺だけではないのか。それに、さっきの光は、強制転移か? なんの為に? バグの説明なら、一旦全員ログアウトさせてからが筋だろうし……)

 

しばらくすると広場の上空に、『Warning』と、その後『System Announcement』という表記がなされた。

説明があると思った多くの者が安堵したが一部の人間は不思議な顔をした。

 

(システムアナウンス? ますますおかしい。そもそもアナウンスはメニューウィンドウのインフォメーションに記される筈だ(※1)。多数のプレイヤーを集めてこんな大がかりに通達するなんて、少なくともβテスト時にはなかったが……)

 

上空に現れていた文字が消え去り、代わりに赤いフードが出現した。フードの奥、顔の部分は陰になっていて見えないが、キンカは、そのフードには見覚えがあった。

 

(あれは、βテスト時のGMの服装? という事は、GMからの説明がこれから始まるのか?)

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

 

 キンカはその一言に、言い様のない違和感を覚えた。

 

(私の世界? どういうことだ? それにこの声って……)

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

(やっぱり茅場か……、しかし、言葉の意味がわからないな。謎解きか?)

 

キンカは、以前に一度だけメディアで耳にした茅場の声を思い出した。

 

『プレイヤー諸君はすでにメインメニューにあるログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

(そんな馬鹿な……。ログアウトできないのが当初の仕様とか、本気で言っているのか?)

 

「なん……だと……?」

「そ、そんなァ!」(※2)

 

驚愕の声を上げる者もいるが、大多数は理解不能という顔をして、茅場晶彦を見上げている。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、自発的にログアウトすることはできない』

『また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合……』

 

キンカは、途方もないほどの嫌な予感に襲われた。

 

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

「は?」

 

キンカの口から呆けたような音が発せられた。

一瞬キンカは思考を停止しかけたが、すぐに持ち直し、茅場の発言の考察を続けた。

 

(ログアウト不可? それはシステム上可能だな。少し弄ってやればログアウトボタンを表示させないようには出来る。次、ナーヴギアの停止に伴うマイクロウェーブの放射? これは……)

 

「何言ってんだ?」

「そ、そんな事、無理に決まっている!」

「ハッタリだ!ハッタリ!」

 

信じられないのか、信じたくないのか、発せられる声の大多数は懐疑的だ。中には茅場の頭を疑う者までいる。

しかしキンカは、ナーヴギアを購入したときに読んだ取扱説明書を思い出していた。

 

(確か、ナーヴギア中身の数割はバッテリで構成されていたか?だったらマイクロ波を放出することもできなくはない、か。)

 

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク切断、ナーヴギアのロック解除または分解または破壊の試み――以上のいずれかの条件によって脳破壊シーケンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して通知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』

 

茅場はそこで一呼吸を置き

 

『残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

(そりゃ、悲惨だな……。人間の頭をマイクロ波に当ててやると、確か生卵を電子レンジにかけたみたいに破裂するって話じゃなかったか?)

キンカは、冷静さを取り戻そうと、不謹慎ながらも敢えておどけた風に認識した。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される意見はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 

「何を言っている! ゲームを攻略しろと!? ログアウト不可の状況で、吞気に遊べと言うのか!?」

 

別の場所で男が叫んだ。

 

「こんなのはゲームでもなんでもない!」

「そうだ! 俺たちを解放しろ!」

 

その声に同調したのか、茅場に対する不満の声がだんだんと大きくなっていった。

 

(解放しろ、か。確かに言いたい気持ちは解るが、そんな言葉で開放するなら茅場はそもそもこんな大がかりなことをしないだろうな)

 

『しかし十分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 その瞬間、キンカは茅場が途中で口にしていた言葉を思い出した。

 

(ふん、『この城の頂を極めるまで、ログアウトできない』ね。つまりは……)

 

『諸君らがこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保障しよう』

 

話を聞いたプレイヤーは、静まりかえった。誰もが茅場の言葉を信じられなかったのだ。

キンカは黙々と、思考を続けた。あたかも思考することが自分の使命だとでも言うように。

 

(ゲーム内の死が、現実の死と直結、か。死の恐怖を乗り越えてゲームクリアに乗り出し、全クリできたら、囚われたプレイヤー一万人を救った英雄となる……。但し、乗り越えた者の内、本当に死なずに百層まで上がれる者が何人いるか……、攻略者の内の.001%に満たないかな?勘だけど)

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 

その言葉に、プレイヤーはこぞって利き手の人差し指と中指を揃えて振り下ろした(※3)。

サウンドエフェクトと共に、メインメニューが開かれる。

キンカはまず、アイテムを具現化する前にアイテムの説明欄に目を通した。未知のアイテムほど恐ろしいものはない。

 

『現実を見せる鏡。この鏡に写った仮面は暴かれ、真実の姿を浮かび上がらせるだろう』(※4)

 

その一文を読み終わると同時に、キンカの顔は光に包まれた。

周りから驚きの声が上がったのを聞き、周囲の人間にも同じ現象が発生していると推測した。

 

「お前……、誰?」

「おい……、誰だよお前!」

 

目を向けると、先ほどまではハリウッドで主演を張れるほどの美男美女の集まりだったのが見る影もない、せいぜいmob止まりの平凡な顔をした人々の集まりとなっていたのだ。もちろんキンカの顔も現実にそっくりになったが、もともとキンカのアバターは、現実に近い造形にしていたのでそこまでの変化はなかった。

 

(ふむ……。ゲーム開始時に作り上げたアバターではなく、現実のものになったのかな? つまり、『仮面』とはアバター、『真実の姿』とはリアルの顔、というわけか)

 

「ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆っている。つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精密に把握できるんだ……」

 

 そばにいた黒髪の少年が、隣にいる赤髪の青年に説明しているのが聞こえる。

 

(あの子、優秀だな。あんなアナウンスを聞いた直後なのに冷静にものを考え、それを相手に伝えられる……。大した精神力だ。『仕事』をするときには、お近づきになりたいね。)

 

 ひそかに少年をロックオンしたキンカは、茅場の話は大筋終了したろうと、十割茅場の話に向けていた思考を半分、少年の観察に割いた(※5)。

 茅場は、群衆が一旦落ち着いたのを見計い、話を続けた。

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は、――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 

 一拍を置いたのち、茅場の雰囲気が変化した。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一歳の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

その雰囲気、茅場のわずかに覗かせた感情は『憧憬』のようだった。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君――健闘を祈る』

 

 茅場のアバターが消えた瞬間、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 

「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」

「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!」

「こんなの困る! このあと約束があるのよ!」

「嫌ああ! 帰して! 帰してよおおお!」

 

 あちこちで悲鳴や罵詈雑言が響き渡る。

 それを尻目に、一部の者たち――十中八九βテスターであろう――が広場を背に、はじまりの街から出ていくのをキンカは目にした。

 先ほど目を付けた少年も、赤髪の青年を引き連れて広場から出て行った。おそらくは彼らも次の村『ホルンカ』に向かったのであろう。

 キンカも、ある人を探すために歩きだした。

 その人物は、βテスト時にコンビを組んでいた相手で、顔がβ時と異なる現在、分るのはハンドルネームくらいである。現在このゲームには一万人のプレイヤーと無数のNPCが存在する。その中からたった一人をしかも名前だけで見つけるなんてことは土台無理がある。だがキンカには、その人物がこんな状況に巻き込まれていの一番に何をするのか、その予想が付いていた。

 

 

 

※1:オリ設定。原作で、インフォメーションをどうやって取得していたのかが定かではなかったのでこういう形にしました。

※2:ごめんなさい趣味です。理解できなかった方々は無視してもらって構いません。どうしても知りたい場合はGoogle大先生に訊ねたらよろしいかと……

※3:オリ設定、原作では「右手」となっていましたが、この作品では「利き手」としました。この際の「利き手」とは、「SAOのキャラクターを制作する際に利き手として選択した方の手」です。仮に右手に統一した場合、「左利きの人が左手に片手剣を持ち闘っている際、フリーな右の手でメニューを弄り、ピック等の武器を追加で出す」といった行動が可能になり、右利きよりも左利きの人の方が有利になるのでは? と感じたからです。

※4:オリ設定。アイテムなんだから、簡単な説明欄はあるっしょ。みたいな軽い気持ちで付けました。

※5:並列思考とかそんな大層なものではなく、ただ単に、かやひこの話を聞きながらもキリト君の方も注視する、程度のことです。

 




アルゴが好きなのに、アルゴヒロインのSSが少ない……。
だから自分で書きました。
投稿はかなり不定期になると思いますが、温かい目で見守ってくれたら嬉しいです。
感想、お待ちしています。
追記:3/26、表記の調整を行いました。
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