それでは第二話目、よろしくお願いします。
キンカが向かったのは、広場の目の前にあるNPCの経営する酒場である。本来のSAOであれば、ゲームを始めたばかりのプレイヤーはこの酒場に入り、チュートリアルを兼ねたクエストをクリアするのだ。
情報屋が本サービス開始後最初にやるべきことは、手持ちの、β時の情報やクエストに変更点が無いかの確認である。こんな特異な状況になってしまったからこそ、情報の正確さはプレイするにあたっての生命線、文字通り、命を左右するほど重要なことだ。
βテストで情報屋としてプレイしていたキンカは、共に情報屋を営んでいた凄腕の情報屋『アルゴ』――通称『鼠』のアルゴ――を探して
「……アルゴ、だよな?」
酒場の奥まった場所にある、薄暗いテーブルでフードをかぶった小柄な人物が一心不乱に紙束に目を通していた。
「ン? ……キンカ、なのカ?」
「ああ、β以来だな。どうした? 俺の顔に何か付いてるのか?」
アルゴは、キンカの顔を見て固まった。
「いや、キンカの顔がβテストのアバターと変わってなかったからナ。手鏡を使わなかったのカ?」
「使うか使わないか悩んでテキストを読んでたら自動的にエフェクトが出現した。多分、具現化せずとも時間経過で自動的に使用されるアイテムだったんだろ」
一瞬停止した思考を再起動しつつ、これ幸いとキンカから情報を抜き取っていくアルゴ。まさに、情報屋これに極まり、だ。
β時代にまことしやかに流れたウワサ――5分雑談をすると100コル分のネタを抜かれる――を思い出し、
(この話も売る気なのか……。売れるかどうか知らんが)
と思いながらもアルゴの質問に返答していった。
「キンカには手鏡の効果がなかったのカ?」
「いや、俺の場合はアバターの顔を現実に似せて作ってたから殆ど変わらなかったんだと思う」
「ふぅン。そもそもゲーム内の顔を現実に似せるバカがいるとは思わなかったゾ。そんなに自分の顔を見て欲しかったのカ?」
「まさか」
アルゴの言葉をキンカは一笑に付した
「そこまで自分の顔に自信を持ってない。ただあの膨大なパラメータを調整して好みの顔を作ったりするのが面倒だっただけだ。それよりも……」
そろそろここへ来た本来の目的を達さなければとキンカは雑談を打ち切り、アルゴの手元へちらりと目をやり、その内容を尋ねた。
「……これは、ここで受けられるクエストの一覧、か?」
「そうダ。もとから、正式サービスが始まったらβテストとの差を探してネタにしようと考えてたんだガ、
「当たり前だよなぁ? さて、そこで提案なんだが、また一緒に情報屋活動を行ってはくれないか?」
「ふン? なんでだイ?」
「人手は多い方が効率いいだろ。それに、アルゴのビルドはどうせ
「……嬉しいことを言ってくれるじゃないカ」
アルゴはかろうじてそう返した。
茅場からのログアウト不可の宣告に死に対する恐怖、SAO内での情報屋という立ち位置からくる途方もないプレッシャー――それらを一手に相手しながらも仕事を遂行しようとしていたアルゴに対して初めて齎された温かい言葉、それも不意打ちに近い状況で与えられたソレに、アルゴは少し鼓動を速めた。
「じゃア、パーティー登録をしようかネ」
一瞬だけ詰まった息とほんの少しだけ朱が差した頬を隠すように、アルゴはフレンド申請とパーティー申請を同時に目の前の男に叩きつけた。
「そうだな」
そう言いながらキンカは、両方の申請を受諾し、晴れて情報屋コンビ『ネコとネズミ』は再結成を果たしたのだった。
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アルゴは、前のイスをキンカに勧めた。現状の確認と今後の方針を話し合うためだ。
「このゲームに囚われたプレイヤーは、限定販売されていたソフトを購入できた幸運な者たちダ」
「そうだな。とすると、当たり前ながら殆どのプレイヤーが初心者だな」
「当たり前ダ。世界初の、フルダイブを利用したMMORPGダ。購入者は廃ゲーマーが多いだろうガ、すでにフルダイブでの戦闘に慣れた元βテスターとは、経験にも情報にも圧倒的な開きが出来てるだろうナ」
「となると、元βテスターはこぞって前線へ出るな。攻略方法や美味い狩り場も知ってるし」
「するト、ニュービーとの開きが更に大きくなるル」
キンカは酒場に来るまでの間に考えていたことを、アルゴはキンカが来るまで酒場で一人、予想していたことをそれぞれすり合わせていった。
二人の予想――予感――は殆ど同じであり、認識のすり合わせはトントン拍子で進んでいった。
「するといずれ……諍いが起きる」
「そうなる確率ハ?」
「現状、なにもせずに傍観したらいずれ必ず起きるだろうな」
「だナ。オレっちもそう思うヨ。デ? 『なにもせずに』とはまた、意味深長じゃないカ」
「解ってるだろ?」
「悪いナ、冗談ダ。オレっち達がテスター以外のプレイヤーに情報を流せば少なくとも情報面での差は小さくなル」
「さて、アルゴはどうしたい?」
目的語の無い質問だが、そこは長くつるんだ二人、阿吽の呼吸でキンカが何を尋ねたいのかをアルゴは悟った。
「そうだナ……、オレっちは出来るだけ早く、多くの情報を多数のプレイヤーに知らせたイ。β時の情報でもいいから、どんどん情報を流していきたイ。それと並行して洗い出しを行い、変更点は随時公表しながら情報を更新していク。そういうキンカはどうなんダ? どうしたい?」
自らの考えを披露したアルゴは、キンカの方へ水を向けた。
「……アルゴの意見と異なって悪いんだが、俺は前線に情報を多く流したい」
「その心ハ?」
「全体に行き渡るように情報を流布するのは簡単だが、時間がかかる。攻略しようと取り組んでいるプレイヤーならともかく、その他のプレイヤーの欲しがっている情報がわからない上に、わかったとしても範囲が広くなりすぎる。ならば、前線の情報を多く収集して攻略プレイヤーに優先的に回した方が、前線の被害を抑えられる」
「確かに、前線優先も考えたガ、そうなうと右も左もわからない状態のプレイヤーを多く生み出すことになル。それは看過できなイ」
「……平行線だな」
「そうだナ」
キンカとアルゴ、共に前プレイヤーが現実に一日でも早く帰れるようにしたいと考えている。だからこそ、意見がぶつかり合ってしまった。
二人は黙り込んだ。それぞれに譲れないものがあり、お互いがお互いの言い分を理解してしまっているからこそ、口論をするわけでもなく考えを巡らすのだ。どう譲歩しようか、折衷案を考える為に。
「……アルゴ」
最初に口を開いたのはキンカだった。
「取り敢えず、『攻略本』を作ったらどうだ?」
「何を言ってるんダ?」
「アルゴがどうやってプレイヤーに情報を伝える気か知らないが、俺は情報を紙媒体に写し『本』という形態で売り出したらどうかと思うんだ」
「妙案だが、製本はどうするんダ?」
「俺が『製本スキル』を取得する。確か一層の工業街で製本師に弟子入りするクエストがあったはずだ。それをクリアすればスキル『製本』が手に入った」
「あ~、あったナ。そんなスキル。元から少ない生産ジョブの中でも誰もやり手がいずに需要のまったくなかった不遇スキル、カ」
「集めた情報を本にして、攻略本として安く売れば多くの情報を一気に広めることが可能だ」
「……だが、製本スキルは誰が
アルゴはキンカの案に対し、問題点を一つ一つ上げていく。
自分の考えと異なるからと全否定するのでは無く、一つの案を徹底的に議論し問題点を挙げていく。建設的な議論が行えるのは二人が--アルゴの実年齢は不明だが--精神的に十分成熟しているからだろう。
未熟な精神では『情報』なんていう薬にも毒にもなるモノを十分に扱いきれるはずがない。βテストの時に情報屋を十全に営め、それが評価されていた理由はこういうところにもあったりする。
「製本スキルは俺が取得する」
「それじゃア、キンカの戦闘能力ガ……」
「低層なら、β時代の経験と情報とプレイヤースキルでなんとかなるだろ。戦いようはある」
キンカは一息
「ま、多少のハンデは負うが、そこは譲歩した分のお代ってことである程度レベルが上がるまでアルゴに補助を頼もうかね」
茶目っけを含んだ言い方でアルゴにそう提案した。
このままでいたら、アルゴが譲歩させた形となりアルゴが負い目を感じることになる。キンカはそうならないように『譲歩料』として感情論ではなくビジネスの話にしてアルゴをフォローしたのだ。
アルゴもそのことに気付いたのか、苦笑しながら
「やっぱりキンカには敵わないナ」
と呟いた。
「フィールドに出ないプレイヤーに関しては、無料で配布するのはどうダ? 前線の町に有料で置き、その売り上げでこの街や周辺に無料で置ク」
スキルの話が上手い具合にまとまり、次の話に移り、アルゴがそういう提案を出してきた。
「なるほど確かに、更新も新しい本を公表したら良いだけだし……。いい案だ」
「だロ?」
「じゃあ、それでいこう。アルゴ、俺が製本スキルを取得してる間、情報をまとめるのを頼めるか?」
「まかせロ」
そうして情報屋『ネコとネズミ』の初仕事は始まった。
読んで頂きありがとうございます。
リアルで忙しすぎて年内に更新できるか不安だったのですが、何とか漕ぎ着けました。
具体的には、12月の30,31が仕事です。年明けも1,2,3と仕事です。長期休暇の筈なのに呼び出されて仕事です。しかも29日に通達されました。
本日仕事の後急いで仕上げました……
そんな作者のアホみたいなリアル事情は置いといて、取り敢えず作者のTwitterアカウントのIDを記しておきますね。更新についてとか呟きます。よかったら確認しておいてください。
@vampire_cats_
それでは皆さん、よいお年を。
追記:3/3、表記の調整をしました。