【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺   作:クリス

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書いていて思うこと、※中学生です。


三十四時間目 殺しの時間

 突入した私を出迎えたのは銃弾の雨だった。凄まじい速度で六発の銃弾がシールドに叩きこまれる。盾越しに感じる衝撃から357マグナムクラスの弾薬と推測。バリスティックシールドの防弾性能はレベルIIIA、44マグナムまでなら問題なく防げる。

 

「チッ、盾持ちか!」

 

 牽制のため盾から銃だけだし男に向かってセミオートで五発発砲。男は素早い動きでステージに設置された大型スピーカーに身を隠した。身のこなしから察するに恐らく傭兵か軍人上がりだろう。明らかに撃たれることに慣れている。

 

「お前がここにいるということは、スモッグとグリップはやられたっつー訳か。それに武装した見張りも五人いたはず。ただの少年兵崩れと思って馬鹿にしてたが……なんだよ、面白れぇじゃねえか!」

 

 距離を詰めつつスピーカーに向けて発砲。銃撃戦に必要なのは動きを止めないこと、そして相手の行動を阻害すること。銃弾の威力を知っている人間にとって、銃を撃っているという事実はそれだけで圧倒的な脅威となる。

 

「投降するなら今のうちだぞ!」

「ほざいてろ!!」

 

 スピーカーから銃だけを出して発砲、とんだめくら撃ちだが腕は確かなようだ。その証拠に何発かシールドに着弾している。お返しにMP9を発砲。徹底して頭を上げさせない。だが相手もこのままではいないはず。動かれる前に行動するとしよう。

 

「その銃声、MP9か!ガキにしちゃいいの持ってんじゃねぇか!!」

 

 銃声でそこまでわかるのか。まあいい、私は撃つのを止めMP9から手を離す。当然その隙を狙って相手が撃ってくるがそれはシールドが防御する。ボディーアーマーからMk3を手に取り安全ピンを抜く。そして男がリロードしている隙を狙い投擲。放物線を描いてスピーカーの真横に落ちる。

 

「──ッ!?」

 

 信管が作動しTNTが起爆。耳をつんざく音と共にステージが煙に包まれる。まだ生きているだろう。MP9を構え警戒する。

 

「逃げたか……」

 

 相手の武装は拳銃のみ、対してこちらはシールドとサブマシンガンそして手榴弾の重武装だ。普通に考えて勝ち目はない。私だったら撤退する。だが、私の勘がそうではないと告げている。先ほどまでの喧騒が嘘のようにホールは沈黙に包まれる。あれほど騒いでいた男も今では姿を見せない。

 

 マグキャッチを押しグリップ内に収まっていたマガジンが重力に引かれ床に落ちる。MP9を左腋に挟み、右手でマガジンポーチから新しいマガジンを取り出しMP9に装填……

 

「今日も元気だ!」

 

 私の右斜め後ろから男の声、とっさにシールドを構え振り向く。覗き窓に男の笑みが映った。銃口、覗き窓、そして私の目が一直線に並ぶ。

 

「銃が美味ぇ!!」

 

 銃声、リボルバーとは思えない凄まじい連射速度で覗き窓に弾丸がめり込んでいく。そして……

 

「クッ!!」

 

 6回目の銃声と共に覗き窓の強化ガラスが砕け散った。破片が私の頬を掠める。温かい血が私の頬を流れ落ちていく。だがもう6発目、薬室には弾が残っている。私はリロードの隙を狙いMP9を男に向け……

 

「誰が一挺だなんて言った?」

「なっ!?」

 

 男の左手には自動拳銃が握られていた。私は自分のミスを悟る。普通に考えれば予備を持っていて当然だった。そして銃声、右手に衝撃を感じMP9が吹き飛ぶ。最早アドバンテージはなくなった。私はシールドを構えつつ全力で男と距離を取る。

 

「逃がすかッ!!」

 

 自動拳銃による追撃、明らかに覗き窓周辺に弾が着弾している。もう覗き窓には何もない。狙われれば普通に死ぬだろう。

 

「糞!」

 

 何とかステージから見て左端の座席に身体を滑り込ませるも容赦なく銃弾が撃ち込まれ身動きが取れない。立場が逆転したのだ。失ったMP9の代わりにホルスターからP226を引き抜く。覗き窓を撃ち抜ける腕前だ。銃だけ出して撃っても意味がないだろう。

 

「てめぇ、何で俺を撃たねえ」

 

 銃声と声の方向から男がいるのは中央、私から見て15mは離れている。下手に顔を出せばすぐさま殺されるだろう。そしてもっと気になるのは男の言った言葉だ。何か嫌な予感がする。

 

「さっきから牽制しかしてこねえ。手榴弾だって明らかに避ける猶予があった」

 

 言い返せば男に私の正確な位置を悟らせてしまう。でも言い返したくて仕方がなかった。この男の言葉を聞いてはいけない。だが、現実は非情だ。男は遂に口を開いた。

 

「てめぇ、まさかこの期に及んで殺したくねぇとでも考えてるのか?」

「…………」

 

 言われてしまった。否定できない、この男の言うとおりだった。以前の私ならもっと容赦なく攻撃していた。なんの躊躇もなく殺していたはずだ。さっきのだって引金を引けば絶対に当たってた。でも私は撃てなかった。今日の記憶を振り返る。殺せんせーも命乞いをする男もそしてこの男も……いい加減認めよう。私は人を殺したくないのだ。

 

「その沈黙は図星か……は、呆れたぜ、少しはやると思ったが……まさか殺す覚悟すらないとはな!」

 

 銃を向けるたびに今までの思い出が脳裏に浮かび撃つことができない。殺そうとしたものは殺されなければならない。それだけは絶対に守らなければならないルールだったはずだ。

 

 確かに私は人殺しとして失格なのかもしれない。殺す覚悟のない兵士なんて最早兵士と呼べない。それでも私は……

 

「もう飽きた。てめぇはここでくたばってろ」

 

 私の横に何かが降ってくる。オリーブドラブの球体、先端には信管、間違いない、手榴弾だった。気が付いた時にはもう遅い。

 

「しまっ!?」

 

 咄嗟にバリスティックシールドを向ける。閃光、衝撃が私を襲った。

 

「──ッ!!?」

 

爆圧によって2mほど宙を舞い床に叩きつけられる。

 

「あ、あがっ!?」

 

 耳鳴りと頭痛、そして呼吸困難、首を振りパニックになりかけた思考を元に戻す。シールドが大部分を防いでくれたようだ。命に関わる負傷はしていない。

 

「─!───!」

 

 耳鳴りのせいで何を言っているのか聞き取れない、だが確実にこちらに近づいている。座席の裏に隠れてはいるが既に居場所なんて知られている。シールドは……駄目だ、もう弾なんて防げない。

 

「これで、終わりだ」

 

 私は咄嗟にシールドを通路に向けて投げ捨てた。

 

「そこか!!」

 

 いや、こっちだ。男は一瞬だけシールドに意識を持っていかれる。それで十分だ。私は立ち上がりマリーンマグナムのフロントサイトを男の顔に向けた。

 

 発砲、ビーンバッグが男の額に命中、装弾、続けて発砲、右手のリボルバーを撃ち落とす。装弾、発砲、左手の自動拳銃を撃ち落とす。装弾、発砲、男の鳩尾に命中、装弾、発砲、男の胸に命中、

 

「あ、ぐ、て、でめぇ……」

 

 そして六発目、私はゆっくりと狙いを付ける。男と目が合う。

 

笑えよ糞野郎(Smile you son of a bitch)!!」

 

 引金を引く。頬にビーンバッグが吸い込まれ男は崩れるように倒れた。口からは泡を吹き痙攣している。しばらくこいつが起き上がることはないはずだ。よかった、なんとか勝った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、糞!!」

 

 耐えきれず目の前にあった座席に座り込む。荒い息遣いだけがこのコンサートホールに木霊した。

 

「畜生、右足が痛い……」

 

 変な姿勢で着地したせいで右足が痛む。これは多分捻挫したな。他には服が煤けたくらいで大した被害はなかった。それでも正直言って限界に近い。

 

「これ、本当に薬効いているのか?偽物つかまされたんじゃないのか?」

 

 どうみても強心剤の効きが薄い。耐性が付いたとかそういうレベルじゃない。明らかに別のものを投与している。まあいい、今は少し休もう。

 

「律、聞こえるか?」

 

 ヘッドセットを耳にはめ私は頼もしい友人の名前を呼んだ。会話するついでにマリーンマグナムの再装填を行う。

 

『祥子さん!ご無事でしたか!6階からまったく連絡が取れなくなって心配したんですよ!今烏間先生に繋ぎますから絶対に切らないで下さい!』

 

 烏間先生か、どう言い訳しようか……というか言い訳の余地なんてもうないだろ。

 

『臼井さん!無事か!』

「え、ええ何とか。今さっき殺し屋と大立ち回りして疲れましたよ……あ、一応生きてますよ……」

『なに!本当か!?今、俺達は6階にいる。すぐに向かうから今は休め!これ以上は君の負担が大きすぎる!』

 

 腕時計を見る。交渉期限時間まで残り10分か……もう休んでいる時間はないな。烏間先生には悪いが、ここは一人で行かせてもらう。最後の六発目をローディングゲートから押し込む。薬室には既に装填済み、これで七発撃てる。

 

「申し訳ないがそれは聞けない頼みです。皆には心配かけてごめんと伝えてください。では」

『まて!まだ話は──』

 

 烏間先生が言い終わる前に私はヘッドセットを耳から外した。後は二階だけだ。もう隠密なんぞ知るか。正面から正々堂々と蹂躙する。誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやる。

 

「待ってろよ鷹岡!!」

 

 痛む右足を引きずりながら、私はあの糞野郎に鉄槌を下すべくこの身体を動かした。

 

 

 

 

 

 私は九階を通り越しいよいよ最上階のスイートへ続く扉の前までたどり着いた。九階には見張りは配置されてなかった。ホールは防音とは言え爆発には気が付いたはずだ。恐らくだが全戦力を最上階に集中させたのだろう。

 

「敵は多数、私は一人……」

 

 知ったことか、それがどうした。あいつだけは必ず殺す。皆を殺そうとした落とし前は必ずつける。生まれてきたことを後悔させてやる。

 

「律、私が合図したら部屋の照明を落とせ」

『はい、わかりました。あの……殺せんせーから伝言があります』

 

 あの人は今の私を見てどう思うのだろうか。一人じゃないとあれだけ言ってくれたのに私は結局一人で行ってしまった。あの人の教えを何一つ守れちゃいない。

 

『どんな手を使ってもいい、だから絶対に死なないでください。だそうです。』

「そうか……死なないで、か……」

 

 こんな私に生きてほしいと言ってくれる。それだけでボロボロになった身体に力が湧いてくる。あいつを倒せと魂が叫ぶ。兵士じゃない、暗殺者でもない、ただの人間としての私が戦えと言う。

 

『私も先生の言葉に同感です。私だけではありません。皆さんも絶対にそう思っています!だから、祥子さん死なないでください!』

「ありがとう、気持ちは十分伝わったよ」

 

 バックパックからファイバースコープ取り出し室内を観察。案の定銃を構えた敵が玄関に3人、リビングに2人いた。思い切り待ち構えているな。ならやることは一つだ。

 

「お望み通り正面から殴りこんでやる」

 

 マリーンマグナムのサプレッサーを取り外す。もうこれはいらない。バックパックからウォーターインパルスチャージを取り出し音を出さないようにゆっくりと扉に張り付ける。雷管はすでに取り付けている。暗視装置の電源を入れる。左の視界が緑の光に包まれた。起爆装置を左手に持ち右手にはM84スタングレネードを持ちピンを抜く。

 

「精々腰を抜かすなよ……」

 

 3、2、1、起爆装置のスイッチを押す。爆音と共に電子ロックされていた扉が吹き飛んだ。

 

「畜生!!何が起こった!!」

「うるせー撃ちまくれ!!」

 

 空いた扉に向けて銃弾が撃ち込まれる。だがそこに私はいない。

 

「律、灯り落とせ!」

 

 フロア全体が暗闇に包まれる。突然の事態に銃撃が止んだ。今だ!私はすかさずスタングレネードを室内に向かって投げ入れた。2秒後、4.5グラムのマグネシウムと硝酸アンモニウムが大爆音と閃光と成って男たちに襲い掛かった。

 

「ショウタイムだ!」

 

 突入、男たちは突然の爆発と閃光に呆然としている。銃を撃とうにも耳鳴りと閃光による見当失調症により自分がどこにいるのかもわからないはずだ。部屋にダッシュしつつ正面の男にビーンバッグを二発叩きこむ。残り五発。

 

「くそ、入ってきたぞ!」

「遅い!」

 

 右にいる銃を向けようとしている男に肉薄、マリーンマグナムのストックを思い切り脇腹に叩きつける。

 

「ガッ!?」

 

 男の右腕を左手で極めつつ拘束。パニックになった男が銃を暴発させれば、もう一人の男が拘束している男の撃った銃声を敵を判断し音と光だけを頼りに銃口を向ける。

 

「クソ!そこか!!」

「ま、まて撃つな!!」

「なっ!?」

 

 緑色の視界に映った男の動きが一瞬だけ止まる。それで十分だ。拘束しつつ片手でマリーンマグナムを発砲、顎にビーンバッグを喰らい昏倒。残り四発。

 

「このガキィ!うぉ!?」

 

 暴れる男の膝に蹴りを叩きこみ突き飛ばす。バランスを崩し鼻から倒れる男の後頭部にマリーンマグナムを二連射、そのまま動かなくなる。あと二発。身体を叩きつけるように壁際に隠れる。

 

「ああ、クソ!クソ!クソ!」

「死ね!クソガキが!!」

 

 一番近くでスタングレネードを喰らった二人が回復するも突然の爆破、閃光、銃声によりパニックとなり拳銃を滅茶苦茶に乱射している。銃を乱射すれば当然弾が切れる。

 

「くそ!弾が!!」

「見えねえ!!誰か明かりつけろ!!」

 

 こちらの番だ。マリーンマグナムを左手に持ち替え壁から上半身だけだし二連射、顔に二発貰った男は盛大に倒れ動かなくなった。これで一人。だがもう残弾はない。

 

「こなクソッ!!」

 

 敵が私のいる場所へ突貫してくる。サイドアームを抜く時間はない。弾切れのマリーンマグナムを胸元へ投げつける。

 

「あがッ!!?」

 

 胸に3.4キロの鉄塊を叩きつけられ悶絶、冷静にテーザーを引き抜きエクステンデッドポジションで構える。緑色の視界の中、男と目がった。

 

「おやすみ」

 

 二連射、四つの電極が男に突き刺さり悲鳴をあげ崩れ落ちる。私はその隙を逃さない。テーザーを捨てすぐさま肉薄し肩を掴み股間に何度も膝蹴りを叩きこむ。

 

「───ッ!!?」

 

 声にならない悲鳴をあげて蹲る男の耳を掴んで飛び膝蹴りを叩きこめば、男は大の字に転がりそのまま動かなくなった。私はP226を引き抜き警戒する。感じる気配は一つだけ、動くものも一つだけ、最後の標的だ。

 

 

 

 

 

「律照明を戻せ」

 

 再び部屋が明かりに包まれる。もうこれはいらない。私は暗視装置を頭から外した。そして未だに隠れているであろう男に向かって最後通告を行う。

 

「鷹岡!お前の負けだ!大人しく治療薬を渡せ!!」

「ククク、本当にあいつら全員倒しちまうとはなあ……ドア吹き飛ばすのは流石に予想外だったが」

 

 部屋の奥からゆっくりとその姿を表す。

 

「鷹岡ッ!!」

 

 顔を確認した瞬間、半ば条件反射的に引金を引いた。サプレッサーによって抑制された銃声と共に9mmの弾頭が鷹岡の髪を掠めた。

 

「なっ……」

「今のはたまたま外れたんだ。次は当てる」

 

 威嚇とはいえいきなり撃ってくるとは思わなかったのだろう。額には汗が滲んでいる。

 

「ま、まあ待てよ。これ見ても同じこと言えんのか?」

 

 指を差す先にあるのは爆薬の取り付けられたトランクケース。いつでも爆破できるということか。鷹岡は私がすぐに撃たないとわかったのか腰からシグザウアーP220を引き抜き私に銃口を向けた。その顔は最早人間とは思えないほど、憎悪と狂気に満ちていた。だが私は何よりも驚いたのは……

 

「お前、その顔……」

 

 鷹岡の左右の頬にはまるで爪で引掻いたようなグロテスクな傷跡ができていた。いや違う、まるでじゃない。本当に自分の爪で引掻いたのだ。その証拠に鷹岡の手の爪の先は血で黒く変色していた。

 

「この顔か?てめぇらにやられてから痒くて痒くてたまらねえんだよ」

「ただの自業自得だろうが」

「うっせんだよ!!てめぇの意見なんか聞いてねえ!!」

 

 そのとおりだ。こいつの意見なんて聞く必要なんてない。私は私のやるべきことをやるだけだ。

 

「約束通り一時間以内に来てやったぞ。お前のゲームはもう終わりだ。私は他の人のように甘くはない、もし治療薬を爆破してみろ。その時はお前を太平洋の養分にしてやる」

「おぉ、怖い怖い」

 

 私の言葉を全く意に介していないように鷹岡は右手に持ったP220の撃鉄を起こした。よく見ればシャツ越しにコードが浮かび上がり左手には起爆装置らしきスイッチをはめている。私は嫌な予感がした。

 

「胸に張り付いてるコードが見えるだろ。これは心拍計だ。俺の心臓が止まるか、腕のスイッチを押せばその瞬間治療薬はこの世から消え去る」

「なっ……」

 

 こいつ初めから私が殺しにかかってくることを予想していたのか。どうする。手足を撃って、いやそこまで甘くはない。爆薬を解除して、駄目だ。その前に銃で撃たれる。テーザー、さっき破棄したじゃないか。格闘は却下、既に身体はボロボロ。私が倒される未来しか見えない。八方ふさがりだった。そんな私の顔を見るのが楽しいのか鷹岡はそれはそれは楽しそうに顔を歪ませた。どこまでも醜悪な笑顔だった。

 

「当然、仲間思いの臼井ちゃんは俺を殺したりしないよなぁ?」

「こ、こいつ……」

 

 私は既に限界に近かった。銃を構える手は震え身体は今にも崩れ落ちそうだ。薬の効果は完全に切れている。今の私は支えているのは怒りだけだ。だが怒りでこの状況はどうにもできない。

 

「私がそれで撃たないとでも?」

「手が震えてるぜ?大切な友達の命が掛かってるんだもんな!いや違うか、確かお前にもウイルスを盛ってたなあ。それでここまで来たって、やっぱお前化物だわ」

 

 自分の優位を自覚している、どこまでも嫌味な笑顔だ。本当なら今すぐこいつの頭に銃弾を叩きこみたい。だが、この膠着状態で何をすればいいのか全く見当がつかなかった。

 

「そんなにお友達が大事ならやることはわかるよな?」

「い、言わせておけば……」

 

 言外に銃を捨てて投降しろと告げている。こんなとき皆がいれば……何が百戦錬磨の凄腕傭兵だ。友達すらまともに助けられないなんて!だが後悔したところでどうもしようがない。

 

「そもそもよ、お前みたいな人殺しの屑が友達なんて作れると、本気で思ってんのか?」

 

 心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。ずっと考え続けてきたことだった。私と皆は住む世界が違う。どんなに馴染んでも結局は私は白いインクの中に落とされた黒いインク。灰色になったとしても黒だったことには変わりがない。過去はなかったことにはできない。

 

「お前のお友達も……おっと、お出ましのようだな」

 

 背後から大勢の人間の走る音、数は15、間違いない。

 

「鷹岡ッ!!」

 

 振り向く、そこにはずっと見たかった顔ぶれがいた。

 




用語解説

P220
スイスSIG社とドイツザウエル&ゾーン社が開発した自動拳銃。主人公の使っているP226の前行モデル。ダブルアクションやデコッキングレバーなど、現代のオートマチックに必要な要素を全て取り入れているのに何故かマガジンキャッチだけ第一次大戦レベルの不思議な銃。

思い切り風邪ひいたんで次話の投稿は遅れると思います。


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