【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺   作:クリス

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書いていて思うこと、やっと離島終わってでござる……


三十八時間目 終息の時間

「終わった、のか……」

 

 甲板の手摺に身体を預け水平線の彼方に消えていく島を見ながら一人ごちる。予想通りと言っては何だが殺せんせーの封じ込めは失敗に終わってしまった。それから肝試しやビッチ先生と烏間先生のデート計画などがあったらしい。

 

 私はというと一人淋しく部屋で休んでいた。というか出ようとすると交代で見張りについた女子に強制的に部屋に戻され寝かされた。私がいくら大丈夫だと言っても聞きやしない。そんなこともあり二日目は何もできずに終わってしまった。そして今日、帰りのフェリーで沖縄本島に向けて航行中というわけなのである。

 

「あれでよかったのかな……」

 

 フェリーの中で私は意を決して過去を教えた。カエデに言った時よりはマイルドに言ったつもりだったのだが一部の女子にはかなりショッキングな内容だったようだ。陽菜乃なんかは泣きながら私を抱き締めてしばらく離れなくて困った。

 

 だが予想とは違い誰も私を拒絶することはなかった。心の中まではどう思っているかはわからないが、拒絶するような態度を取る者は一人たりともいなかったのが意外だった。烏間先生の言った通り私が思っているよりも遥かに強かったのだ。

 

「皆さんと一緒にいなくていいんですか?」

 

 風切り音がして振り向けば球体ではないいつも通りの殺せんせーが立っていた。この人は普通に現れることはできないのだろうか。

 

「少し考え事をね……」

「それは、皆さんのことですか?」

 

 私の過去を聞いても皆はそれほど動揺しなかった。というか一部の者は今更などと言ってくる始末。確かに今更な部分もあるにはあるが正直反応が軽すぎて不安になる。

 

「本当はですね、ばれたら学校を辞めるつもりだったんですよ」

 

 どう考えたって人殺しが紛れ込んでいたら迷惑がかかるのは明白だ。だからばれるまでと心に決めていた。なのにあの反応だ。

 

「でも、予想と反応が違って困っている。そんなところですかね?」

「よくわかりましたね。まあ、そんなところですよ」

 

 罰せられることを恐れるあまり、それが願望になってしまった。だからこうやって困惑するんだ。

 

「臼井さんは、今でも出て行こうと思っているんですか?」

「本当ならそうするべきなんでしょうね……」

 

 どうみたって釣り合わない。彼等と私では住む世界が違う。だけど、もう独りぼっちには戻りたくない。あんな銃声と悲鳴しか聞こえない世界には行きたくない。

 

「何をするべきかではなく、何をしたいか」

「え?」

「今の君に必要なのは自分したいことを自覚することです。臼井さん、君はここにいたいですか?」

 

 そんなこと決まっている。私は……

 

「私は、ここにいたいです……もう、独りぼっちは嫌だ……」

 

 ずっと一人で戦ってきた。誰も助けてくれなかった。友達なんてできるわけがなかった。だけど、ここでは独りじゃない。一人で戦う必要なんてない。

 

「なら、それが答えです。それでいいんですよ。それが当たり前なんです。臼井さんは何も卑下する必要なんてないんです。君は人として正しく成長できている」

「そう、なんですかね?」

 

 感情のなんと難しいことだろうか。皆はいつもこんな強大なものに立ち向かっているのか。昔の私がいったいどれだけ人間として生きることを放棄していたかよくわかる。

 

「それと、先日は先生の不甲斐なさのせいで臼井さんに怪我を負わせてしまいました。本当に申し訳ない」

「別に謝らなくていいですよ。あれは私の個人的な喧嘩だった。私自身が望んで戦いました。だから、全部自己責任ってやつですよ」

 

 倒そうとするのなら倒される覚悟がなくてはならない。そういう意味で考えれば自決すら厭わなかった鷹岡は覚悟をしていた人間なのなのかもしれない。だがどんな理由があろうと無関係な者を巻き込んでいい理由にはならない。

 

「それでも、ですよ。本当なら私たち大人がなんとかするべきことを君一人に押し付けてしまった。力があるとかそんなものは関係ないんです。そんなことはどうでもいいんです。子供を守るのは大人の義務ですから」

 

 ああ、駄目だ。ここは優しすぎる。優しすぎておかしくなってしまいそうだ。今更こんなふうに優しくされてもどうすればいいんだ。こんな優しいならなんでもっと前に助けてくれなかったんだ。そんなお門違いな疑問まで飛び出す始末。

 

「あ、ああ……」

 

 でも、どうしてだろう。何故こんなにも嬉しいのだろうか。私はこの人の前ではただの中学生なのだ。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 震える声を必死に制御し言葉を紡ぐ。多分こんなことを言うのは生まれて初めてだ。だから、とても、とても勇気がいる。

 

 でも、少しだけ頑張ってみよう。

 

「こ、今度は……助けてくれますか?」

 

 今まで誰にも言えなかったこと、言ってはならなかったこと。だけど今なら、ここでならならきっと大丈夫だ。一瞬の空白がまるで無限のように長く感じる。

 

「当然です……当たり前に決まっているじゃないですか」

 

 静かに、だが力強く。己の全てに賭けて誓う。そんな印象すら抱かさせる先生の姿を見て、私は嬉しいような、悲しいような、泣きたいような、笑いたいような、いろんな感情がごちゃ混ぜになり頭の中をぐるぐると回った。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 結局出てきた言葉はたったのこれだけ。でも今までで一番思いを込めた言葉だったと思う。

 

「ヌルフフフ、礼なんていりませんよ。仕事ですから。では私は皆さんのところへ行ってきます」

 

 仕事でもなんでもいい。私は貴方の仕事に救われた。ここに来てから色々なものを貰いっぱなしでそろそろ抱えきれなくなりそうだ。潮風が私の頬を優しく撫でた。しばらくこうして眺めているのも悪くないかな。

 

「こうして見れば海も綺麗なものだな……」

 

 こんなことすら知らなかったのか。私はいつおどおり自嘲した。

 

「で、君はいつまでそこにいるつもりだ?」

 

 ずっと前から気が付いていたが話しかけてくるわけでもないので黙っていた気配の主へ声をかける。

 

「ったく、気付いてんなら声かけろよな。心臓に悪いっつーの」

 

 呆れたような寺坂が私の隣まで近づいてくる。こういうのもなんだが実はこの手の反応を見るのが意外と好きだったりする。以前にもいい性格をしていると言われたが本当にそのとおりかもしれない。

 

「中に戻ったほうがいいんじゃねえか?撃たれてんだろ」

「ほぉ、君が気遣ってくれるなんて珍しいな」

 

 口ではこういうがそんなことは微塵も思っていない。普段は粗暴で粗が目立つが本当の彼は仲間思いの善良な人間だ。

 

「うっせ、撃たれた人間に何かいうほど薄情じゃねえよ」

 

 出会った頃と今とで印象が大きく変わった人物はカエデと彼である。はじめは正直あまり良い印象ではなかったのだ。プールでの一件以降から認識を改めはじめ、そして屋上での一件で完全に印象が変わった。鷹岡の言葉に心が折れそうだった私を救ってくれたのが彼の言葉だった。きっとあの言葉がなければ私は心が折れていたに違いない。

 

「そうか、それもそうだな。ああ、そうだ。皆の様子はどうだった?」

「ああ?別に普通だけど」

「そうか、怖がったりはしないんだな……」

 

 怖がってほしくないのに怖がってほしい、拒絶されたくないのに拒絶されたい。まったく、天邪鬼にも程がある。でもこれは私が人としての感情を取り戻しているという証拠。ならこれはきっと捨ててはいけない。

 

「なんでてめぇのことなんかビビらなきゃいけねんだよ」

「私ってそんなに威厳がないのか?」

 

 敵にも味方にも恐れられる不死身の化物傭兵だったはずなんだけどなあ。ここに来てからあだ名ももののけ姫だとかポンコツとかそんなのばかりだし。私の印象っていったい……

 

「一応これでも大悪党なんだがなあ」

 

 アフリカで名を轟かせ、中東では出会ったら最後とまで言わせしめたこの私こそ大悪党に相応しいと思う。金で戦争してたしなおさらだ。

 

「それ自分で言うか?恥ずかしくねえの?」

「いや、まったく」

「そ、そうか……」

 

 何を恥ずかしがる必要がある。全て嘘偽りない事実だ。まるで変なものを見てしまった時のように深い溜息を吐く寺坂に私は首を傾げた。

 

「まあ、お前がいいならいいんだけどよ……んじゃ、戻んぞ」

「いや、話が唐突過ぎてさっぱりわからないのだが」

 

 ぼりぼりと気怠そうに頭をかく。その様子から察するにどうやら自分の意思で言っているわけではないようだ。恐らく彼が私に話しかけたのも何かしらの意図があったに違いない。

 

「女子共に臼井連れてこいって追い出されたんだよ。なんか文句あるか」

「いや、文句はないが……流れを強引に変えすぎだ。絶対途中で話すの飽きただろ」

「い、いやそんなことねーよ?」

 

 なぜ疑問形なんだ。いや、まあどうでもいいか。女子の皆には悪いが今は一人にさせてほしい、それになにより皆も心の整理が必要だろう。

 

「君には悪いがしばらく一人にしてくれないか?海を眺めていたいんだ」

 

 この世界にはまだまだ私の知らない美しいものがたくさんあるのだろう。それらを全て見ることは叶わない。だが今目の前にあるものは出来る限り焼き付けておきたい。また見られるとは限らないのだから。

 

「別に、誰も気にしちゃいねえよ」

「なんのことだ?」

「ごまかすの下手すぎんだよ。てめぇも人のこと言えねえじゃねえか。何が海眺めたいだよ。唐突すぎんだろ」

 

 ま、流石にわかるか。海を眺めたいのも嘘ではないんだがな。だが何となく答えづらくなり耳には波の音だけが響く。

 

「誰も気にしてねえよ。今更なんだよ」

「そういう問題じゃないんだよ……」

 

 確かに私の今までの行動を見れば今更すぎるのも頷ける。赤羽なんかにはかなり初期のころから怪しまれていたしそもそもその頃の私も隠す気なんて微塵もなかった。ただ言わないだけ。ばれればすぐに出ればいいと思っていた。

 

 でもここで学んでいるうちに居心地がよくなってしまった。知ってしまえば戻れない。人類が再び銃のない戦争などできないように、一人で戦い続けることなんて私にはもう耐えられない。

 

「あぁ!!もうめんどくせぇな!!」

「え?」

 

 沈黙に耐えかねたのか、いきなり頭を掻きむしり始めた。

 

「いいからこい!」

 

 私の右手を掴み連れて行こうとする。なので私は、

 

「えい」

「あがっ!!?」

 

 掴んでいる手を利用して思い切りアームロックを決めた。両腕を使い完璧に極まっている。私が力を込めれば彼の左腕は簡単に圧し折れることだろう。

 

「お、折れる!折れるから止めろ!!」

「あっ」

 

 つい何時ものように条件反射で関節技を決めてしまった。こ、これはどうするか……と、とりあえず謝っておこう。

 

「すまん!うっかりしてた」

「うっかりで関節技かけるやつがいるか!しかも無駄にうめえんだよ!!」

「ふ、自慢じゃないが一通りのサブミッションはマスターしているんでな」

 

 何せ敵は殆ど私より遥かに大きな体格をしていた。そんな私が格闘で勝つには搦め手を使うかこういった関節技が必要不可欠だった。それにしてもこうして直に腕を触るとやはり凄い筋肉だな。

 

 彼も成長したものだ。昔なら女子の願いも聞くことなんて絶対になかっただろうに。あんなことなんて言わなかったはずだ。私のお陰なんて己惚れるつもりはない。結局寺坂は変わることができる人間だった。それだけのことなのだ。感謝の言葉は自然に口から出ていた。

 

「君の言葉のお陰で私は壊れずにすんだ。君があそこで叫んでくれなかったら、私はきっと、本当に心が折れてしまっていたに違いない。私が今ここにいるのはね。間違いなく寺坂、君のお陰でもあるんだよ。だから本当に、本当に、ありがとう」

 

 時間がかかってしまったが、ようやく伝えることことができた。

 

「なあ、臼井」

「なんだ寺坂」

「…………この状況で言われても全然頭に入ってこねえんだよ!!」

「あっ」

「いいから早く腕離せ!マジで、マジで折れる!!」

 

 やばい、すっかり頭から抜けていた。というか、今思い出したがあの時かなり酷いこと言われていた気がするな。ポンコツやら悪食やら世間知らずやら散々な言いようだった。あれ、思い出したらなんだか腹が立ってきた。

 

「そういえばあの時はよくもポンコツだの世間知らずだの散々言ってくれたなあ……」

「げっ、あ、あれはだな」

 

 おい、こいつ今げっとか言ったぞ。助けてくれたのには感謝しているが、それとこれとは別だ。込めていた力を少し上げる。

 

「わ、悪かった!マジで悪かったから勘弁してくれぇ」

「安心しろ。人には……あれ、いくつだ?まあいい、骨がたくさんあるんだ。一本くらいどうってことないだろ」

「全然安心できねえんだよ!!」

 

 勿論折るつもりはないが少しくらい痛い目を見てもらったほうがいいだろう。このあと心配してやってきた皆に凄く残念な人を見る目で見られたり赤羽が便乗して悪戯しようとしたりしてカオスなことになってしまった。

 

 結局私の過去のことはどさくさに紛れてうやむやになった。でも、多分これが答えなんだと思う。そう簡単に答えなんて出せないけど、とりあず出て行くのは保留にしておこう。

 

 そういえば、突き詰めていけば一番の原因って、殺せんせーだよな。ふとそんなことを思った。今更だった。

 

 

 

 

 

「レポートは読ませてもらったが……」

 

 旧校舎、職員室。私は鬼の様な暑さを我慢しながら烏間先生と対面していた。先生は私の提出した戦闘に関するレポートを読みながら眉を揉んだ。あれから一週間が経過した。私はフェリーで那覇に到着した後、烏間先生の部下に問答無用で車に詰め込まれ自衛隊病院に運ばれた。そこで検査をしたわけだが、特にこれといって異常はなかった。むしろ怪我以外は健康そのものと言われ褒められたくらいだ。やはり命を守る物には金を惜しんではいけないな。下手に安物を買っていたらどんな目に遭っていたか。

 

 そして例の強心剤だが、業者に問い詰めたところやはりただのアドレナリンだった。何でも子供に薬を売るほど落ちぶれたつもりはない、とのことである。つまり私はただの思い込みであそこまでハイになっていたのだ。恥ずかしいったらありはしない。もう取引しないと言ってやったが次の注文は送料を無料にしてくれるというので勘弁してやった。決して釣られたわけではない。

 

 鷹岡がどうなったのかは知らない。だが、国家反逆罪にも等しい行為を行ったのだ。ウイルスが偽物だったのは考慮されるだろうが、この国の司法はそこまで甘くないだろう。然るべき罰を下してくれるはずだ。だからこれ以上私が何か思う必要はない。だけど、あの言葉は未だに頭から離れない。

 

「何かおかしな点がありましたか?」

 

 そんなこんなで一週間が経過し、私は烏間先生にホテルでの戦闘を報告するために学校に出向いていた。予め送ったレポートもちゃんと形式に則って書いたので特に不備はないはずなのだが、先生の表情は険しかった。

 

「いや、そうではないが……これは、あまりにも無謀すぎる。中学生がやっていいレべルではない。あの状況では仕方なかったとは理解しているし臼井さんが制圧してくれたおかげで被害が最小限で済んだことも感謝している。だが、こんな戦い方はもう止めてくれ」

 

 それは最早懇願にも近い言葉だった。先生は善人だ。きっと子供が戦うことが気に入らないのだろう。

 

「この際だから言っておこう。俺は君を中学生としてしか扱わない。無論、能力で区別をつけることはある。だが、過去に関して俺は一切考慮しない」

 

 今までのことから烏間先生がこういうのは何となく想像できたが面と向かって言われるとどうにも不思議な気持ちだった。思い返してみれば先生は今まで一度たりとも私の経歴に基づいた依頼をしてこなかった。修学旅行の時は最後まで渋っていたくらいだ。

 

「俺が銃を使うように指示することはないと思ってくれ。臼井さんが自発的に銃を使うのまでは止めないが、その時は必ず、必ずだぞ。事前に報告するように」

 

 どうやら無許可で銃火器を持ち込んだことがあれだったらしい。疲れたような表情で念を押す先生を見て私は頷くほかなかった。

 

「それと、あまりこう言った話はするべきではないのだろうが、今回の件で上は臼井さんに借りができたと考えているらしい。当然、今回君が用意した武装の費用も負担することになった。何度もすまないが後日詳細を送ってくれないか」

 

 上、防衛省あたりだろうか。まあ、それも当然か。何せ身内がテロ紛いのことをしでかし、その尻拭いを少年兵崩れにやらせたのだ。面子丸つぶれというレベルではない。それにしても全額負担か。私の意思で用意しただけなので正直余計なお世話だが、貰えるものは貰っておこう。

 

「そういうことなので今すぐに何か起きるというわけではないが、頭には入れておいてくれ」

「わかりました」

「わざわざ出向いてもらってすまなかった。では、これで」

 

 ようやく用事が終わったので帰ることができる。そろそろ昼だし、どこかで食べていくのもありかもしれない。そんなことを考えながら職員室を後にしようとすると烏間先生に思い出したかのように呼び止められ、振り返ればピストルサイズのガンケースのようなものを手渡された。まったく意味が分からない。

 

「あの、これは?」

「例の三人組の殺し屋から君宛てに届いた荷物だ。中身は改めさせてもらったが危険物はなかったので安心してくれ」

「私に贈り物?それは、随分と奇特ですね」

「ああ、そうだな。だが、きっと気に入るはずだ」

 

 重さからしてきっと銃だろう。私は僅かな胸の高鳴りを感じつつケースを開けた。

 

「な、なんだこれ?ウェルロッド?」

 

 ケースに収められていたのはやはり銃だった。だが、一般的な銃とはまるで形が異なる。一言で表すなら筒にグリップが付いただけのものというべきだろうか。辛うじてトリガーガードと引金があるので拳銃だとわかるが一見するとただの筒状の道具にしか見えない。手に取り観察する。

 

「これは……サプレッサーか。作動方式はボルトアクション方式。銃身は……スムースボア?何を撃つんだ?」

 

 ケースの中に弾薬箱があったのでそれも確認する。中にはまるで捕獲用の麻酔弾を9mmサイズまで小さくしたような不思議な形状の弾が50発。いい加減わけが分からなかったので私はご丁寧に日本語で書かれた説明書を見つけ読むことにした。

 

 銃の名前はB&T VP9、これはそれを麻酔弾専用に改造した代物のようだ。麻酔弾の威力は一発で成人男性なら三時間はぐっすり眠らせることができるらしい。しかも後遺症なし、むしろ前より元気になるそうだ。意味がわからない。殺せないならこれでも使えと言いたいのだろうか。

 

「殺そうとしたくせに……」

 

 プロらしいともいうべきか、一度事が終わればあとはどんなに恨んでいようと関係ないということか。説明書の最後には、仲間のためにたった一人で乗り込んできたイカれた女へ、と書いてあった。ふざけやがって、勝ったのは私のはずなのに一本取られた気分だ。

 

「必要ないのなら俺が処分しておくが」

 

 私の表情をいらないと勘違いした烏間先生が提案を申し出るが、これは当然貰っておく。使い勝手は悪くないだろうしこれなら街中でも使える。使わない手はない。

 

「いえ、結構です。貰っておきます。では、今度こそ失礼します」

「ああ、二学期にまた会おう」

「はい!」

 

 ケースを抱え、私は旧校舎をあとにした。なんかだ少しだけ気分がよかった。あれだけ不快だった蝉の鳴き声も今は少しだけ好きになれそうだ。私はふとそんなことを思った。

 




用語解説(久しぶりの用語解説やでぇ……)

ウェルロッド
第二次大戦時にイギリスが開発したボルトアクション式消音拳銃。鉄パイプにグリップと引金が付いたような独特な見た目をしている。見ようによってはトンファーにも見えなくもない。

スムースボア
ライフリングの刻まれていない銃身、ショットガンなんかもだいたいこれ。ハーフライフリングとか話し出すと面倒なので割愛。

B&T VP9
上記のウェルロッドをモデルにスイスのB&T社が開発したボルトアクション式消音拳銃、用途は獣医や警察が死にかけの野生動物に止めを刺すためらしい。実際には9mmの麻酔弾なんて存在しない、本作オリジナル。

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