【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺   作:クリス

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書いていて思うこと、更新するたびにお気に入りが減って辛いと思うこの頃。


四十四時間目 怒りの時間

 次の犯行が行われるであろう場所は意外にもすぐに見つかった。いや、見つかるようにわざとわかりやすくしたのだろう。場所が分かればやることは一つ。張り込み犯行現場を押さえる。それだけだ。

 

「狩の時間だ」

 

 装備を確認し私は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 人々が寝静まった深夜、人気のない街を一人歩く。閑静とは言い違い日本独特の統一感のない住宅街を通り抜ける。日本の街は清潔で夜中に女が一人で歩いても問題ないくらい安全で住みやすいが、建物の統一感のなさはどうにかならないのだろうか。せめて屋根の色くらい統一しろと言いたい。

 

「もういるみたいだな」

 

 そんな下らないことを考えながら歩いていると合流地点を視認した。目標地点から少し離れた場所に作られた小さな公園。そこには既に私を除いた全員が集合していた。

 

「すまない、少し遅れた」

「あ、さっちゃんさん来た……え?」

 

 皆が私を凝視する。何がそんなにおかしいのだろうか。何となく気まずくなり頬をかく。布越しで上手くかけなかった。

 

「う、臼井さん……」

 

 不破がまるで不審者を見るかのような目で私を見る。カエデを見る。

 

「さ、祥子……」

 

 同じ反応。渚も寺坂も全く同じ反応だった。いったい何がどうしたっていうんだ。どうせ同じだろうが赤羽を見る。ニヤニヤ笑ったあと何故か写真を撮られた。意味が分からない。

 

「うわあ、すげー銀行強盗みたい」

「「「あ、言った」」」

 

 銀行強盗?改めて自分の装備を確認する。真っ黒のタクティカルウェアーに同じく黒の二つ穴バラクラバ、そしてボストンバッグ。

 

「臼井よぉ、いくら何でもそれはねーよ」

「祥子、流石にそれはちょっと……」

「何故だ。黒っぽい服で来ようと皆で決めたじゃないか」

 

 まったく酷い理不尽だ。皆だって黒一色の動きやすい服で来たではないか。私と何が違うというのだ。いや、今の状況をよく考えろ。中学生の男女のグループに一人だけ頭からつま先まで真っ黒で怪しげなボストンバッグを肩に掛けた女。うん、強盗だな。もしくテロリストだ。

 

「んじゃどこ襲撃する?どうせなら金塊しまってるとこ襲わない?」

「何言ってんのカルマ君!?」

「はいはーい、茶番はそこまでー」

 

 赤羽が悪乗りして脱線しかけたところで不破が手を叩き場の空気を元に戻す。私も戦闘準備を始めるとするか。ボストンバッグを地面に置き中に入っているベルトと銃を取り出す。マガジンとホルスターを巻き付けたベルトを腰に巻き付け位置を整える。そしてホルスターにM&PとVP9を差し込む。

 

「臼井さん、それって……」

「見てのとおり本物だ。でも安心しろ」

 

 ボストンバッグからH&K HK69グレネードランチャーを取り出し構える。

 

「殺しはしない」

「いや、全然安心できないからね」

 

 ラッチを押し下げれば内蔵されたバネによって銃身が勢いよく跳ね上がる。ベルトのポーチから40mmゴム弾を取り出し薬室に装填、再び銃身を元に戻す。後はハンマーをコッキングすれば発砲可能となる。

 

「おお!なんか天空の城に行きそうな少年が持ってそうな大砲だ!」

「あ、確かに似てるかもって……そんなの撃ったら犯人死んじゃうよ!」

 

 なんか勘違いしているな。訓練のお陰で銃の使い方は知っていても細かい種類までは知らないのか。時間も勿体ないし今すぐにも行きたいが、説明しておいたほうが余計な勘違いをされなくてすむだろう。

 

「問題ない、撃つのはゴム製の非致死性弾。要はゴムボールを撃つようなものだから当たっても精々内出血で青痣ができるくらいだ」

 

 当たり所が悪ければ普通に死ぬけどな。

 

「いつも思うんだけどそんなの何処で手に入れてるの?」

「蛇の道は蛇ってやつさ。さ、行くとしよう」

 

 その言葉に皆が一斉に頷く。そして六人の影が街の闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 目標の施設は頑丈な塀に囲まれ正面の門も防犯カメラで監視されている。普通なら諦めるだろうが私たちには障害にもならない。

 

 というか侵入者対策が適当だな。最低でも塀には有刺鉄線が必要だ。より確実にするなら高圧電流を流すべきだろう。カメラの数も少なすぎるし生えている木を登ればそのまま内部に侵入できる。せめて監視所を作って歩哨を立たせるべきだ。

 

 木の上に上った赤羽がハンドシグナルで内部に人がいないことを伝える。それを合図に皆が順番に木に登り枝を蹴り、器用に塀の上へと脚をかけそのまま一気に内部に忍び込む。授業で教わったフリーランニングの応用だ。

 

 塀に背を付け周囲を警戒しつつ頭上で跳ぶ皆を眺める。まだまだ音が出てしまっているがそれでも十分静かで素早い。私を除いた全員が侵入したのを確認し行動を開始する。塀の高さは凡そ4m。これはそのまま登れるな。

 

 塀に身体を向け思い切り跳ぶ。そのまま塀を蹴りその反動で縁に手をかけ一気に身体を中に滑り込ませる。まるで猫のようにローリングし衝撃を吸収、完璧だ。

 

「ふふふ、身体も頭脳もそこそこ大人の名探偵不破参上!」

「やってることフリーランニング使った住居侵入だけどね」

「渚、痕跡を残さなければ誰もこなかったのと同じだ。罪はばれるから罪になるんだ」

 

 日本にはお天道様が見ているという概念があるためか悪事に関する心理的抵抗が他に国に比べて大きい。落とした財布が中に入っている現金がそのままで戻ってくるなんて日本くらいだ。

 

「相変わらずいい性格してんなおい」

「そう褒めるな。照れるだろう」

「臼井さん、それ褒めてないよー」

 

 HK69を構え周囲を警戒する。気配も物音もしないが罠だと思われる以上警戒するに越したことはない。

 

「んで、不破よぉ。どうして真犯人はここを選ぶと思ったんだ?」

「よくぞ聞いてくれました。ここは大手芸能プロダクションの合宿施設。この二週間は巨乳を集めたアイドルグループが新曲のダンスの練習をしてるんだって。つまりここには極上の獲物が集まるってわけ」

「なるほど」

 

 不破は頭が回るらしい。前々から頭の回転が速い奴だとは思っていたが、昨日の今日でここまで絞り込めるのは流石というほかない。私一人だったらここまでたどり着けたかどうか。

 

「ま、十中八九罠だろうけどね」

 

 赤羽の言うとおり、どう考えても罠だろう。あまりにもタイミングが良すぎるのだ。まるで来てくださいと言ってるようだ。生徒の信用を失いかけて焦っている殺せんせーなら多少不自然でも行くはずだ。

 

「同感だ。建物の中から人の気配がしない」

 

 思ったことを口にすれば何故か渚に不思議なものを見る目で見られた。

 

「け、気配って……そんなことまでわかるの?」

「そうだ。第六感というわけではないが半径10mくらいまでなら動いてるものを感知できる。それこそ目を瞑ってもだ。壁越しだと流石にあれだがそれでも人がいるかいないかくらいは何となくわかる」

「こ、こんな所に円の達人がいるなんて……」

 

 円?日本円のことだろうか。どういう意味だ。いや、不破の言うことだ。どうせコミック絡みのネタだろう。こういう時は放っておくのが一番だ。

 

「とっとと茂みに身を潜めるとしよう。いくら何でもあからさますぎる」

「はい師匠!」

「その設定まだ生きてたのか……」

 

 目を輝かせるながらあることないこと聞いてくる不破をいなしながら茂みに身を潜める。茂み付近には照明がないため全身真っ黒の私はさぞ目立たないだろう。

 

「師匠!どうやったら気配が探れるようになりますか!」

「師匠じゃないから。でもまあ、そうだな。一番簡単なのはあれだ。空気の流れを感じろ」

「空気の流れ?」

「物体が動けば当然進路上にある空気は押しのけられるだろ?それを身体で感じ取れば例え敵が死角にいても手に取るようにわかる。簡単だろ?」

「師匠!全然簡単じゃないです!」

 

 おかしいな、気配が感じ取れるようになるまではこれと音で敵を察知していたのに。兵士になって二年目には既に習得していたぞ。

 

「あ、みんなあれ見て!」

 

 渚が指さす反対側の茂みには殺せんせーがいた。頭に手ぬぐいを巻きジャパニーズニンジャスタイルの服を身に纏い犯人が現れるのを今か今かと待っている。

 

「やっぱ殺せんせーも同じこと考えてたか」

「なんて、怪しい格好なんだ……」

 

 サングラスや手ぬぐいのせいでどう見ても盗む側にしか見えない。もしかして私の思い違いなんじゃないか?

 

「言っとくけど現状で一番怪しいの祥子だからね」

「だな」

 

 反論の余地がなかった。というかいい加減暑いな。それに蒸れて気持ち悪い。しかも誰も覆面をしていないので正直意味がない。

 

「あ、脱いだ」

 

 我慢できずバラクラバを脱げば新鮮な空気が私を包み込んだ。ケチって安いのにしたのは間違いだったようだ。髪を整えながら反対側の茂みに潜む殺せんせーを見る。なんか……

 

「鼻息荒くないか?」

「きっと真犯人への怒りのあまり下着を見て興奮してるのよ」

「もうあいつが犯人でいいんじゃねーの」

 

 私の決意はいったいなんだったのだろうか。一人で深刻になって馬鹿みたいだ。そんなことを考えていると急に人の気配を感じ取った。右手の拳を突き上げて異変が起きたことを知らせる。

 

「あっちの壁の向こう側から微かに足音が聞こえる。どうやら敵のお出ましのようだ」

 

 HK69のハンマーを起こしいつでも撃てるように準備する。そして、奴は現れた。黄色いヘルメットを被りライダースーツに身を包んだ大男だ。洗練された身のこなしで塀を飛び越え敷地に侵入、凄まじい速さで干された下着へと距離を詰める。

 

「臼井さん!」

「了解、全員耳塞げ!」

 

 HK69のアイアンサイトを男の足に合わせる。地面につま先を付けるその瞬間、引金を引く。シャンパンの栓を抜いた時の音を何倍にも大きくしたような発砲音と共に40mmのゴム弾が飛翔。

 

「あだっ!?」

 

左足への命中を確認。全力で走っていただけに大きくバランスを崩し男は派手に転んだ。それを見逃す殺せんせーではない。

 

「捕まえたー!!」

 

 正確には私の撃ったゴム弾が当たるのと殺せんせーが男を取り押さえるのはほぼ同時だった。殺せんせーがヌルヌルしながら犯人にあれこれ文句を言っている間に素早くHK69を再装填しながら犯人に近づく。

 

「よくもなめた真似してくれましたね!押し倒して隅から隅まで手入れしてやる。ヌルフフフ!」

 

 いよいよ本格的にどっちが犯人だかわからなくなってきた。HK69を構えながらハンドシグナルで皆に待機するように合図する。

 

「顔を見せなさい偽者め!!」

 

 殺せんせーが男の被ったヘルメットを強引に脱がせる。その瞬間、私は呆気にとられた。ヘルメットの下にあった顔は見知った顔だったからだ。

 

「あ、あの人確か……」

 

 カエデの言うとおり、私達はこの男を知っている。話す機会こそなかったが何度もその姿を目にしている。烏間先生の部下の一人、鶴田さんだ。犯人は殺し屋ではなかったのか?何故政府が?疑問が頭の中を駆け巡る。

 

「ッ!?」

 

 悪寒を感じ一気にカエデたちの下までダイブする。どうやらその選択は正しかったようだ。背後で布が動く音がする。うつ伏せになっていた身体をローリングさせ音の方向を見れば、物干しざおに干されていたシーツが何らかの仕掛けによって広がり殺せんせーを取り囲んでいた。

 

「やはり罠だったか……」

 

 立ち上がりHK69を構え警戒する。私の予想は正しかったようだ。そしてもう一つの予想が正しければすぐにでも見知った顔が来るだろう。

 

「国に掛け合って烏間先生の部下をお借りしてね。この対先生シーツの檻の中まで誘導してもらった」

 

 私はこの声を知っている。腹の立つ喋り方、回りくどい手口、そして臭い。HK69を構えながら声の方向に振り向く。

 

「君の生徒たちを参考にしたんだ。当てるよりはまず囲むべし」

 

 謎の男、シロが立っていた。鼻を塞ぐ。ドブ川の腐った臭いがした。こいつがいるということはあれも来るのだろう。気構えた瞬間、新たな気配を感知した。シロに警戒しつつ気配の方向を見る。上空に影が一つ。

 

「さあ、殺せんせー、最後のデスマッチを始めよう」

 

 堀部イトナの殺意に満ちた瞳が檻の中の殺せんせーを射抜いた。

 

 

 

 

 

 対先生シーツの檻の中に飛び込んでいく堀部。その直後、触手どうしがぶつかり合う激しい音が幾重も連続して聞こえてくる。きっとあの向こうでは文字通り人外の戦いが繰り広げられているのだろう。

 

「シロ!全部てめーの仕業か!!」

「そういうこと」

 

 何となくこいつがやっているんではないかと考えていたが本当にその通りだったようだ。下着泥棒も学校に仕込んだのも全て奴の仕業と考えて間違いないだろう。

 

「どうせ下着ドロはイトナにでもやらせたんでしょ?そんで下着はあんたが仕込んだと」

 

 赤羽の言うとおりだろう。粘液は堀部の触手から出せばいいし殺せんせーの頭も触手なら再現できるはずだ。そして仕上げにここというわけだ。相変わらず用意周到なことだ。そして同時に回りくどくもある。

 

「そうだよ。よくわかったね」

「けっ、変態が」

「目的のためなら手段を選ばない。戦争の基本だよ」

 

いつの間にか鶴田さんがシーツの檻の中から這い出ていた。その顔には後悔の二文字がくっきりと浮かんでいる。きっと彼だって信念の下に働いていたはずだ。こんな低俗なことをやらされてさぞ悔しいのだろう。

 

「言っておくけど彼を責めないでおくれよ。仕上げのこの場所だけはどうしても下着ドロの代役が必要だったんだ」

「すまない……烏間さんのさらに上の上司からの指示だったんだ。やりたくないが断れなかった」

 

いつだって、どこだって仕事なんてそんなものだ。やりたくなくてもやるしかない場合なんていくらでもある。だがそれでもやりたくないものはやりたくないのだ。胸の奥で火花が散る。

 

「クソッ、俺らの獲物だぞ……」

「いっつもやらしいとこから手回して……」

 

 胸の奥で火花が散る。それは徐々に私の中にある何かに近づいていく。

 

「それが大人ってものさ。そうだ!中の様子が見えないと不安だろう?私の戦術を──」

 

 そして起爆した。手にしていたHK69を男の足元に向けて撃つ。銃声と共に地面が抉れる。誰もが突然の凶行に驚き私を凝視する。

 

「どういう、つもりだい?」

「黙れ」

 

 自分でも驚くほど低い声が出た。何でこんなことをしているのかわからない。こいつは私達に危害を加える意思なんてないだろう。殺せんせーを殺すという目的が達せられればいいだけなので私達を利用しようとは思ってすらいないはずだ。でも……

 

「お前の説明なんて聞きたくもない。今すぐここから失せろ」

 

 私はこいつが気に入らない。胸の奥で燃え盛るのは怒り。抑えなければ今すぐにも叫びそうになる。こいつは人を駒としか考えていない。私は、私の人生はこんな奴らのせいで滅茶苦茶にされたんだ!こんな奴らのせいで殺さなくちゃならなかったんだ!

 

「まあ落ち着いて。私が君に何かしたわけじゃないだろう?」

 

 私は前からずっとこいつが気に入らなかったんだ。その理由がやっとわかった。こいつは私の人生を滅茶苦茶にした奴らと同類だ。人を道具としか見ていない。だから平気で使い捨てるし平気で汚れ仕事もさせる。きっと必要とあらば子供にだって銃を握らせるだろう。人だって殺させるだろう。ふざけるなよ……

 

「お前みたいなのがいるから……私は、私は!!」

「さ、祥子?」

 

 一度引火した燃料はそう簡単には鎮火しない。檻の向こうでは激闘が繰り広げられているにも関わらず私の意識はもうこの男にしか向いていなかった。

 

「何を勘違いしているんだい?私は君に一度も危害を加えたことはないはずだけど」

「お前のせいで……お前みたいな奴のせいで……」

 

 怒りのあまり声がでない。震える手でHK69の空薬莢を取り除きベルトのポーチから榴弾を取り出し装填。距離は20もないが安物のコピー品だ。安全装置なんてついていない。こんな男簡単に木っ端微塵にできるだろう。

 

「祥子!」

 

 こんな奴がいるから!こんな存在がいるから!私は、私達は!

 

「祥子ッ!!」

 

 カエデの叫び声が私を現実世界に引き戻した。慌てて周囲を振り返る。赤羽も寺坂も不破も渚も皆私の変化に呆気に取られている。

 

「落ち着け……目的を見失うな……」

 

 HK69から榴弾を抜きスリングを肩に掛ける。危なかった。危うく全員巻き込むところだった。感情は本当に難しいものだな。一度落ちつくために大きく深呼吸をする。

 

「ふぅ……フンッ!!」

 

そして左手を握りしめ頬を殴り飛ばす。

 

「臼井さん!?」

 

 自分で自分を殴るのは初めてだ。なるほど、これは痛いな。強く殴りすぎたかもしれない。歯は折れてないようだが血の味がする。これは後で腫れるだろうな。

 

「いきなり銃を撃ってきたと思ったら今度は自分で自分を殴るのか……変な子だねぇ」

「祥子……何してんの?」

 

 カエデの声のトーンが怒りを帯びたものになっている。これは絶対後で説教タイムだ。でもお陰で完璧に意識が元に戻った。口の中に溜まった血を地面に吐き捨て、シロを見据える。

 

「そういえばさっき見た堀部の触手のシルエットがおかしかったが、何を仕込んだんだ?」

「聞きたくないと言ったくせに聞くのか……まあいい、彼の触手には刃先に対先生物質を練り込んだグローブを取り付けてある。超音速に耐えられるように混ぜ物をしているせいで効果は落ちるが、触手どうしがぶつかり合うたびに一方的にダメージを与える」

 

 だいたいこいつの考えていることがわかってきた。檻の中に閉じ込めて上から嬲り殺しにするつもりのだろう。ただまあ、

 

「何重にも対策をした暗殺。これで殺せないわけがない」

「いや、殺せないな」

 

 はっきり言って下策だな。私の言葉に皆も頷いている。こいつは一つ間違いを犯している。私は訓練中に何度もあることを教えていた。絶対に殺し合いはやるなと。

 

「お前、人の殺し方が下手だな」

 

 真に目指すべきは一方的な殺し。相手に一切の行動の余地を与えることなく必要最小限の力で最大限の打撃を与える。そこに戦闘という概念は存在しない。ましてや打ち合いなんてもってのほかだ。

 

 シロは私たちの作戦を真似たと言っているがこれでは猿真似以下だ。本質をまるで捉えていない。あの作戦の本質は意識外からの必殺の一撃だ。水の檻も急激な状況変化もそのための懸け橋にすぎない。硬質グローブ?対先生シーツ?舐めるのもいい加減にしろよ。

 

「断言してやる。お前らに先生は、殺せない」

 

 これが私たちが見てきた真実だ。シロという男は所謂頭のいい馬鹿だ。知識もあるし知恵もある。だが、人というものが分かっていない。こいつの敗因はつまるところ人というものを全く理解していなかった。それに尽きる。

 

 人が成長するように、殺せんせーだって成長するのだ。

 

「な、なんだこのパワーは……」

 

 檻に遮られ中で何が起きているのかは殆どわからない。だが、シーツの隙間から漏れる凄まじいエネルギーを感じさせる光は殺せんせーが新たな力を行使しようとしている証拠なのだろう。

 

「覚えておきなさいイトナ君、先生にとって暗殺は教育」

 

 光は尚も増大する。いったいどれだけのエネルギーがあの檻の中で生み出されているのだろうか。少しだけ嫌な予感がする。

 

「全員伏せろ!!」

 

 私の言葉に反応して皆が一斉に腹ばいになる。良い反応だ。光はまるで収縮するかのように小さくなる。

 

「暗殺教室の先生は、教えるたびに強くなる」

 

 そして解き放たれた。爆音、閃光、そして衝撃。爆風が私の背中を撫で付ける。

 

「なッ……」

 

 爆風が収まり立ち上がる。視界の先には解き放たれたエネルギーの膨大さを物語る惨状が作られていた。割れたガラス。吹き飛んだ檻。音速でぶつかり合う触手にすら耐えたシーツが影も形も見当たらない。

 

「そういうことです。シロさん」

 

 上空に吹き飛ばされた堀部を受け止めた殺せんせーがシロに勝利宣言を行う。誰の目から見ても勝ちは明らかだった。

 

 




用語解説

バラクラバ
目だし帽、防寒性は抜群だろうけど死ぬほど怪しい。

H&K HK69
ドイツのH&K社が開発した40mmグレネードランチャー、ピストルグリップと伸縮式ストックのお陰で使い勝手が良さそう。
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