【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺   作:クリス

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書いていて思うこと、ようやくたどり着いた。


五十時間目 答えの時間

 気が付くと私は校舎の玄関の前に立っていた。身体を見ればいつものように制服に身を包み、髪を触れば柔らかくて大きなリボンが巻かれていた。

 

「いつの間に……」

 

 見慣れた景色のはずなのにどこか新しく感じる。きっとそれは私が生まれ変わったからだ。いや、その表現は違うな。あるべき姿に戻っただけだ。大きく息を吸い込む。新鮮な緑の匂いと少しだけ冷たい酸素を取り込む。

 

「この靴入れはどうしてこう小さいのか……」

 

 靴入れから上履きを取り出し履き替える。皆はローファーやスニーカーだからいいだろうが私は丈の長いコンバットブーツだ。当然靴入れには入らないので仕方なく靴入れの横に置く。

 

「……泣き声?」

 

 廊下に足を踏み入れると子供の泣き声が聞こえた。まるで迷子の子供が親を探し求める時のようなそんな悲しい泣き声だ。きっと不安で寂しくて辛いのだろう。

 

「……いい加減、迎えにいってあげよう」

 

 私は泣き声の方へと脚を運んだ。

 

 

 

 

 

「……いた」

 

 廊下側の窓から教室を眺める。いつか見た夢の少女が誰もいない教室で泣いていた。肩を震わせ俯き両手を目に当てて大きな声で泣いている。

 

「パパぁ……ママぁ……」

 

 その姿を見た私はもう我慢出来なかった。扉に手をかけ教室の中に入る。少女が驚きながらこちらを見ていた。そのまま少女の目の前まで近づく。

 

「お姉ちゃん……だれ?」

 

 少女が私を見上げた。この顔を私は知っている。何故なら毎日見ているからだ。しゃがみ込み少女に目線を合わせる。

 

「私か……私は臼井祥子という。読めるかな?こうやって書くんだ」

 

 ポケットに入れたメモを取り出し、自分の名前を書き少女に見える。私の名前を見た少女が笑顔になった。

 

「わぁ!お姉ちゃんわたしと同じ名前だ!わたしも祥子っていうんだ!あ、あとリボンもお揃いだね!」

「ああ……そうだな!お揃いだよ……」

 

 私がそう言って笑うと少女も笑みを浮かべた。そんな姿にいたたまれなくなり私は少女を抱き締めた。

 

「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

「ごめんね……本当にごめんね。ずっと放ったからしにして気付かないふりして……寂しかったよね?」

 

 涙があふれ出す。この子は私が戦場に置いてきてしまった心だ。人として失ってはいけない大切なもの。私が戦っている間、この子は独りでずっと泣き続けてきたんだ。だけどもう見失わない。もう独りになんてしない。

 

「もう大丈夫だよ……独りじゃないよ……パパとママにはもう会えないけれど私たちは独りじゃない。だからもう独りで泣かなくていいんだよ……」

 

 失ってしまったものを取り戻すように強く抱きしめる。過去はなかったことにはできないし失ってしまったものはあまりに大きい。だけど私には未来がある。希望がある。

 

「それじゃあ、行こうか祥子ちゃん」

「どこにくの?」

「ここじゃないどこか。まだよくわからないけど、私達なら大丈夫だよ。それに、友達だって沢山いるしね。今度祥子ちゃんに紹介するよ。みんなちょっと変だけと優しくて楽しい人たちなんだ」

 

 立ち上がって私に手を差し伸べる。過去は変えられない。犯した罪はなかったことにはできない。それでも未来は変えていくことができる。

 

「……うん!!」

 

 満面の笑みで私の手を掴んだ。視界が光に包まれる。意識が浮上する……

 

 

 

 

 

「……夢か」

 

 ベッドから起き上がり枕元の時計を確認する。まだ朝の五時だ。相変わらず体内時計は正確極まりないな。そんなことを思っていると時計の隣に置いてある写真が目に入る。

 

「ふふ、ふふふふ」

 

 写真に写るバースデーケーキの蝋燭を消そうとする私。そしてそれを見守るカエデたちを見ると、昨日のことを思いだし自然と顔がにやけてしまう。そのやり場のない感情を発散するようにベッドの上をごろごろと転がり続ける。

 

「ふふふふ、いて!?」

 

 転がりすぎて壁に頭をぶつけた。強めにぶつけたらしく頭をさする。らしくないというレベルではない。その気になれば目隠しをしてジョギングしながら学校まで登校できるというのに。

 

「そういえばトレーニングどうしよっかな?」

 

 いつもならこの後、トレーニングをすることになっている。でも今日くらいは、

 

「ま、いっか!二度寝しよっと!」

 

 ベッドに再び潜りこむ。シーツの柔らかい感触と温かさが私を心地よい眠りに誘う。私はまだ子供なんだ。子供は二度寝くらいするものだ。そんな下らない屁理屈は眠気によって遮断された。八年ぶりの二度寝だった。

 

 ちなみにこの後、遅刻しそうになって慌てて家を飛び出したことはどうでもいいことである。当然銃は忘れた。

 

 

 

 

 

 全力疾走で学校まで急行する。教室の扉を開け、中に滑り込む。先生はいないな。よし、セーフだ。

 

「おはー、ってさっちゃん髪ボサボサ!?」

「ははは、思い切り寝坊した」

「これで二日連続だぞ臼井。本当に大丈夫か?」

 

 陽菜乃や磯貝となんてことない会話をして自分の席に座る。奥田と目が合う。

 

「おはようございます。臼井さん……ってなんかボサボサですね」

「ああ、二度寝したらこの様だよ。お陰で家から全力ダッシュするはめになった」

 

 ここにきて身体の疲れを思い出し顎を出して机に突っ伏す。いくら私に体力があるといえどもあの距離を全力疾走し続けるのは骨が折れる。

 

「あ~、疲れた」

「ふふ、臼井さんなんかいつもよりふにゃっとしてて面白いです。それとお誕生日おめでとうございます!」

「どうもありがとう。まあ、ずっと肩肘張っても仕方がないしな」

 

 兵士である必要がなくなったせいか私はいつにも増してだらけていた。とりあえずこれはよくない。でもまあ、今日くらいはいいか。

 

「さーちこ!」

 

 視界の横に緑色の影が飛び出してきた。顔を上げればいつも以上にニコニコしているカエデが立っていた。

 

「あーもう!髪ボサボサじゃん。駄目だよちゃんとしないと」

「しょうがないだろ寝坊したんだから」

「そっか、じゃあ直すね」

 

 そう言って了承も得ずに勝手に髪を整え始める。昨日からずっとこんな調子だ。年下と分かったからって露骨すぎるだろうに。それが嫌かと言えばそうではなくてむしろ嬉しいという気持ちのほうが勝っているのが手に負えない。

 

「リボン結びなおしてっと……できたよ」

「……ありがと」

 

 ここには私が欲しかったものがある。ずっと欲しくてそれでも手に入れられなくて諦めてしまったものがある。一度は手放そうといたけれど、やっぱり駄目だった。知ってしまえば戻れない。もう、あそこには戻らないだろうし戻れないだろう。怖くないと言えば嘘になる。だけど、未来に怯えて立ち止まるのはもっと嫌だ。せっかく掴んだんだ。もう二度と手放すものか。

 

「あ、殺せんせー来たみたい」

 

 扉の開く音、人には出せない足音と共に黄色い頭と触手を持った教師が入ってくる。いつかこのクラスも終わるのだろう。それでもここで手に入れたものはなくならない。

 

「ヌルフフフ、今日も張り切って元気よく殺していきましょう」

 

 三年E組は暗殺教室、ターゲットは担任。今日も授業の鐘が鳴る。

 

 

 

 

 放課後の訓練を終え、家に帰るために山道に消えていく皆を窓から眺める。空はすっかりオレンジ色に染まりもうじき日が暮れることだろう。

 

「夕陽が綺麗ですねぇ」

「ええ、まったく」

 

 いつの間にか後ろに立っていた殺せんせーがいつぞやと同じセリフを言った。たった数ヶ月前の話なのにもう何十年も昔のように感じる。思えばここで全てが変わったのだろう。ただ下を向いて墜ちていくだけの人生から上を向いて飛び立つための生き方へ。

 

「臼井さんは帰らないんですか?」

 

 まだ帰るわけにはいかない。やり残したことがあるからだ。

 

「先生」

 

 振り向き様にバックパックを投げつける。こけおどしにしかならないが視界を塞ぐには十分だ。スローになった視界で殺せんせーを捉える。ホルスターからエアガンを抜きハイポジション構えBB弾を連射、続けてエクステンデッドポジションに移行。弾倉の弾が尽きるまで撃ち続ける。

 

「にゅやー!何するんですか!!」

 

 風切り音がなったと思ったら投げつけたバックパックを持った殺せんせーが肩で息をしていた。というか先生って呼吸するのか。

 

「あー、やっぱ駄目ですね」

 

 弾倉の弾を撃ち尽くしホールドオープンしたエアガンの弾倉を交換しながら笑う。昔の私ならM&Pで鉛玉を撃ち込んでいただろうな。

 

「ヌ、ヌルフフフ、しゃ、射撃速度は流石と言わざるを得ませんが、手や足の動きでバレバレですねぇ。今度はみなさんに協力してもらうことをお勧めしますよ」

 

 その割には焦っていたような気がするが放っておこう。そんなことを追求するために待っていたわけではない。

 

「殺せんせー、宿題の答えを言いに来ました」

 

 回答を保留にしたまま遂に二学期になってしまった。でもやっとわかった。それが正しいかはわからないけれど、先生に聞いてほしかった。

 

「それは素晴らしい。是非聞かせてください」

 

 息を吸い気持ちを落ち着ける。一歩踏み出すのはとても勇気がいる。だけどもう怖がる必要なんてないんだ。

 

「私はずっと自分のことが大嫌いでした。嫌いで嫌いで仕方ない、だから自分なんて死ねばいいと思ってました……」

 

 戦うことしかできない空虚な存在。本当は戦いたくないのにそれしかできない。それしか考えられない。そんな自分が大嫌いだった。生きる価値なんてないと思っていた。

 

「だけどそんな私に生きていいって言ってくれる人たちがいて、友達になってくれて、生き方を探してくれると言ってくれて、幸せになっていいと言ってくれて、空っぽだと思ってたのに、気が付いたら両手に抱えきれないくらいの宝物を貰いました」

 

 自分は幸せになる資格がないと言い聞かせてきた。だけどそんなつまらない考えはもうやめだ。背中を押してくれた皆のためにも、なにより自分自身のためにも。

 

「過去はなかったことにはできません。でも過去があるから今の私がいるんです。先生の言った言葉の意味がやっとわかりましたよ。どちらかを否定する必要なんてないんです。だってどっちも本当の私なんだから」

 

 兵士だった私も中学生の私も、どちらも本当の自分だ。人を殺せる私も、食い意地が張っててポンコツな私も本当の私だ。確かに銃を取らなかったら私は人殺しにならずにすんだのだろう。けど、銃を取ったからこそ私は皆に出会えた。だからきっとなかったことにしてはいけないんだ。

 

「私はこれからも戦い続けます。国の為でも、名誉の為でも、金の為でも、家族の為でも、仲間の為でも、ましてや戦う為でもない……自分の為に戦います」

 

 過去はこれからも私を苦しめるだろう。悪夢は見るだろうし、罪悪感に押しつぶされそうになることもあるだろう。だけど未来を恐れて過去に閉じこもるのはもうやめだ。

 

「それにね、夢ができたんですよ」

 

 昔の私なら死人が夢を語るなと笑い飛ばしていただろう。だが、私は生きている。生きてここに立っている。

 

「まずここを卒業したら高校に入るんですよ。できればカエデと同じ高校がいいな。それから大学に入って勉強して、それでバイクを買って色々なところに行くんです。まずは京都に行くつもりです。もう私を縛るものなんて何もない。どこにだって行ける。なんだってやれる」

 

 夢を語ると言うことは即ちこれからも生きていくということ。生きて人生を謳歌するということ。山に登ろう、海で泳ごう、川で釣りをしよう。湖でキャンプをしよう。友達と下らない会話で盛り上がりテストのために徹夜で勉強するのだ。

 

「そして大学を卒業したら世界中を旅します。五大陸全部見て周るんだ。エジプトに行ってピラミッドを見て、アイスランドに行ってオーロラを見て、オーストラリアでエアーズロックを見て、中国に行って万里の長城を見て、色んなものを見るんだ!綺麗な物も汚い物も美味しい物も不味い物も全部堪能するんだ!やりたかったこと全部やってやる!」

「えぇ!えぇ!」

「それで旅から帰ったら仕事に就くんです。私ならきっと何にでもなれる。通訳になったっていい、小説家になったっていい、看護士になったっていい。なんならパイロットになったっていいんだ!笑ったり、泣いたり、怒ったり、もしかしたら恋をしたり……そうやって普通に生きて普通に暮らして……」

 

 声に熱が籠っていく。いつしか両目からは涙がぽろぽろと零れ落ち頬を伝い床にいくつもの染みを作る。言いたいことは殆ど言った。だがまだ言ってない言葉がある。皆から貰った勇気をそして私自身の勇気を振り絞り宣言する。

 

「それで……それで……幸せになってやる!」

 

 悲しかったことも苦しかったこともなかったことにはできない。だから、その分幸せになろう。誰でもない私自身の生き方で、この残酷だけど美しい世界を生きるんだ。

 

「そうです!それでいいんですよ!!」

「ああ、そうさ!もう人を殺したり物を爆破するのなんて御免だ!銃だって今はまだ無理だけどいつか必ず捨ててやる!黒い悪魔?ハードラック?そんな奴知るか!私は臼井祥子だ!!」

 

 ここにいる限り、銃が必要になる日は必ずやってくるだろう。だからそれまでは銃を持ち続けよう。そしてそれが終わったら綺麗さっぱり捨てるのだ。まあ、猟銃くらいは持つかもしれないけど。

 

 先生は言った。才能なんて所詮力でしかないと。ならこの力は私と、私の宝物を守るために使おう。兵士として本当に沢山のことを覚えてきた。その全てが人殺しにしか使えない。そんなわけがないのだ。殺すだけじゃない、奪うだけじゃない。この力を使えばきっと守ることだって、与えることだってできる。

 

「幸せになって私の人生を滅茶苦茶にした連中にざまあみろって言ってやるんだ!だから、そのために……私は、いや私達は貴方を殺す!それが、私の答えです」

 

 思っていたことを言いきる。涙は収まりその代わりに心が震えるのを感じる。心臓が脈打ち、身体に熱が籠る。この熱はきっと生きる希望だ。明日への熱意だ。

 

「素晴らしい……満点以上だ……点数なんてもう付けられませんよ……」

 

 そういう先生の顔は本当に、本当に嬉しそうだった。それが何よりも嬉しかった。

 

「それと今はまだ会いに行く勇気がないけど、祖父母には必ず会いに行きます。何を言われるかわからないけど、それでもただいまって言うんです」

「ということは藍井祥子に戻るということでしょうか?」

 

 先生の質問に笑顔で首を振る。

 

「いいえ、戸籍はこのままにするつもりです。手続きとか面倒だし戸籍なんて所詮紙きれですから。それに正直言うと今更他の名前で呼ばれても違和感しかなくて。なにより私が覚えている。だからいいんですよ」

 

 藍井祥子は死んでなんかいない。私の中に生きている。私が墜ちるところまで墜ちなかったのはきっと両親の愛を覚えていたからだ。本当に何もなかったらきっと私は血も涙もないただの怪物になっていただろう。だから大丈夫なのだ。あと実を言うと酒を飲めるようになるのが遅れて嫌というしょうもない理由もあるのだがそれは秘密だ。

 

「そうですか……わかりました。ですが戸籍のことを決めるのはせめて御祖父さんと御祖母さんに会ってからにしませんか?確かに所詮紙きれかもしれませんが、それでも臼井さんと臼井さんのご両親が家族だということを証明してくれる唯一のものなのです。自分が覚えているからいい、それもいいでしょう。ですがそれだと臼井さんは赤の他人と思われてもいいととれてしまいます。それはあまりにも寂しくはありませんか?」

「……確かに」

 

 先生の言葉に少しだけ考えが揺らぐ。私が覚えていたとしても書類ではパパとママは赤の他人になってしまう。例え親戚に出会ったとしても私は赤の他人のふりをしなくてはならない。それはきっととても寂しいことだ。

 

「そして先ほど手続きが面倒だと言いましたが、死亡届が受理された人間が実は生きていたという例は珍しいですがないわけではありません。臼井さんの場合、飛行機事故による認定死亡なので、生きていることを証明できればすぐにでも死亡届は取り消せます。その点については防衛省のお墨付きがあるので問題ありません」

 

 なんか法律の話になってきたぞ。まずいな、私はこういうのはあまり得意じゃないんだ。だが何となく私が思っているよりも難しくないということは分かった。

 

「現在の戸籍については色々と特殊なので少々厄介ですが、必ず国が手助けしてくれるでしょう。烏間先生も元の戸籍に戻す準備は出来ていると言っていたし、戸籍を戻した際の学歴についても問題ないと考えていいそうですよ。どうするかは臼井さんが決めることですが、決して焦らずにゆっくり考えてください。今のように結論ありきで短絡的になってしまうのは、臼井さんの悪い癖だと先生は思います」

「う……」

 

 言い返せなかった。二回の自爆未遂に数えきれないほどの独断専行。何度も怒られているが一向に治る気配がない。今だって結論を急いで後悔することになるかもしれなかった。

 

「絶対に解けないと思う問題があっても、人に聞くと案外あっさり解けたりするものです。臼井さんもこれしかない、と思ったらまずは誰かに相談してみてください。意外と簡単に解決手段が見つかるかもしれませんよ」

「はい、そうですね……」

 

 本当にこの人は人を説得するのが上手いな。戸籍のことについては結構な覚悟の上だったんだが……でも、きっとこれが正解なんだろうな。

 

「ところで……」

「はい?」

 

 そうやって感傷に浸っていると何故か殺せんせーの顔が縞模様になっていた。これは舐めてる時の顔だな。改めて見るとこの顔腹が立つな。腹が立つからナイフを振るう。当然避けられた。

 

「さっき殺すって言っちゃいましたねぇ。まだ殺せるかもわからないのに」

「は、ははは」

 

 本当に殺せるのだろうか。不安で仕方ない。いやまあ、もう言ってしまったし三月までには殺してみせるさ。私と皆でな。

 

「ヌルフフフ、自信満々に宣言してましたよねぇ、これは失敗できませんねぇ……それはそうと先ほどの話を聞く限り臼井さんは大学に行きたいということでいいんでしょうか?」

「はい、そうなります」

「ヌルフフフ、わかりました。ならもっと勉強しないといけません。臼井さんの学力は確かに素晴らしいのですがいかんせんムラがある。これからは今の実力を維持しつつそのムラを減らしていきましょう。特に国語、国語ですよぉ……」

 

 なんか目が光ってヌルヌルしはじめた。これ勉強量増やされるパターンだ。なんか高校の範囲も入れておきましょうとか、目指せ国立とか言ってるのが怖い。まだ中学生だろうに。

 

「まあ進路についてはこれから煮詰めていきましょう。先生はこれからベルギーでブリュッセル風ワッフルを食べに行くのでこれで失礼します」

「なんか美味しそう……じゃなくて、わかりました!ではまた明日、さよなら殺せんせー!」

「はい、また明日。ヌルフフフ!」

 

 殺せんせーからバックパックを受け取り教室を後にする。窓から見える空は晴れ渡り、私の心はそれ以上に晴れ渡っていた。これからもきっと色々な困難が待ち受けているだろう。だけど私は戦う。世界に、そして何よりも自分に負けたくないのだ。

 

「あ、出てきた。おーいさっちゃんさーん!」

「祥子ー!」

「さっちゃーん!一緒にファミレスいこうよー」

「おーい十四歳!」

「え、臼井ってもう15じゃねーの?」

 

 玄関を出れば渚とカエデと陽菜乃が私に手を振っていた。隣には赤羽と杉野も待っている。待ってくれと言ったわけでもないのにな。仕方ない、じゃあ行くとするか。

 

「今、行くよー!というか赤羽それ秘密だって言っただろ!!」

 

 皆に向かって走り出す。

 

 三年E組は暗殺教室、ターゲットは担任。私の名前は臼井祥子。職業は中学生、そして殺し屋だ。さあ、明日はどんな暗殺をしてやろうかな。

 

「さっちゃんさん、隠したいのは分かるけど思い切り自爆してるからね」

「あっ……」

「祥子……」

 

 やめろそんな目で見るな。

 

 




用語解説

認定死亡
災害や大事故などにより確実に死亡したと考えられるが遺体を発見できない場合、死亡したと認定する決まり。似たようなものに失踪宣告があるが、そちらは死亡届の取り消しに裁判所の判断が必要になる。

ブリュッセル風ワッフル
甘さは控えめでアイスクリームやホイップクリーム、ジャムなどを付け合わせて食べる。美味そう。


これにて第一部完結です。ようやく主人公の人間になるための授業が終わりました。ここまで読んで下さった読者の皆様と誤字報告をしてくださった皆様に感謝申し上げます。第二部は現在執筆中ですのでストックがたまり次第、順次投稿させていただきます。しかしながら、作者のプライベートが忙しくなるので今までのようなハイペース投稿は不可能になると思われます。予めご了承を。

また、こういう話が読みたい、キリがいいから終わりにしろ、このキャラとの絡みがほしい、またはくっつけてほしいなどの要望がございましたら、是非とも活動報告の要望欄に投稿してください。番外編や、ストーリーの参考にさせていただきます。

以上、ではまた次回に。

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