【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺   作:クリス

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書いていて思うこと、主人公色々変わりすぎて草

※第二章からは一つのエピソードにつき一話から二話で投稿していきます。投稿速度も遅くなりますが、ご理解のほどよろしくお願いします。


私の時間
五十一時間目 名前の時間


 時は九月末。私たちは裏山の森にてあるものを待っていた。

 

「ねぇ、またそれ着るの?」

「ああ、そうだけど」

 

 速水がよこにいる草の塊こと私に話しかける。正確に言うと草に偽装した麻紐だ。優れた染色技術によりこの麻紐は驚くべき偽装効果を発揮する。俗にいうギリースーツと呼ばれる迷彩服の一種だ。潜伏地の植生に限界まで似せたこれを着た人間を森の中で見破るのは不可能に近いだろう。

 

「正直これでも妥協したほうなんだがな」

「だ、妥協してそれなんだ……」

 

 今年も九月の末に入りかなり涼しくなったとはいえ、この鬱蒼とした森の中で熱の籠りやすいギリースーツを着て移動するのはまだまだ厳しいものがある。流石に赤道近くのジャングルに比べれば天国のような場所だがそれでも暑いものは暑い。

 

 しかも偽装効果を高めるため顔にバラクラバを被っているため肌の露出が一切ない。案の定滝のようとまではいかないがそれなりの量の汗が噴き出ている。どうやらここに来てクーラーに慣れ切った弊害が出てしまったようだ。おのれ文明の利器め。

 

「ま、あんたの我慢強さは知ってるけどほどほどにね。熱中症にでもなって倒れられたら私達が迷惑なんだから」

 

 相変わらずわかりにくいが速水なりに気遣ってくれているようだ。今ではこういう気づかいを当たり前のように受け取ることができるようになった。

 

「わかってるさ。なに、こんなものアフリカのジャングルに比べれば天国さ」

「ほんとに分かってるんだか……」

 

 ちょっとした冗談のつもりで返したのだが速水は不満そうである。何か気に障る言葉でも言ってしまったのだろうか。いつも通りの無表情だが心なしか真剣な眼差しで私に浮き直る。

 

「もう、止めたんでしょ?」

 

 何を止めたのかなんて言うまでもない。兵士としての私はあの日にいなくなった。カエデに抱きしめられたあの夜、私の戦争は終わりを告げた。私が人を殺すことは二度とないだろう。

 

「ああ、もうあそこには戻らない」

 

 あの乾いた戦場には戻らないし、戻れない。そう考えると少しだけ、本当に僅かだが、郷愁の念に駆られる。理由は分かっている。どんなに忌み嫌っていたとしても間違いなく私は戦場で育ったからだ。

 

 きっと私は寂しいのだろう。あれほど嫌っていた戦場を寂しがるとは不思議なものだがよく考えれば当然のことだ。私はあの戦場で全力で生きていた。戦って傷ついてまた戦う。一寸先の命すら分からない地獄で必死に自分の命を繋ぎ止めていた。

 

 間違いなく私は生きていた。どうして気が付かなかったのだろうか。何が歩く死人だ。私は生きていたじゃないか。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもないさ」

 

 思考の海に沈みかけていたところを速水に引きずり戻される。速水の人形のような顔が私を見ていた。相変わらず無表情だがその瞳からは強い意志を感じた。

 

「また勝手にいなくなったりしないわよね?」

 

 いつか渚に聞かれた言葉を思い出す。あの時は嘘をついてしまった。カエデや皆がいなければ私はきっと取り返しのつかないことをしていただろう。

 

「ああ、もうあそこには戻らない」

 

 だから決意と感謝を込めて宣言する。確かに私は戦場を懐かしく思っている。だが、それ以上にここに、このE組に、私自身の未来に惹かれているのだ。

 

 だからもう戻らない。

 

「……そ、じゃあいい」

 

 速水の瞳から力が抜けた。どうやら合格だったらしい。先ほどまでの剣呑な空気は消え去りどこか気楽な雰囲気が私達を包む。そろそろ動きがあってもいい頃だな。

 

「でも、何かあったらすぐに相談して。それに……」

「それに?」

 

 速水は一呼吸おくと次にとんでもないことを口にした。

 

「たまには年上に甘えなさい」

「そ、その話は止めてくれ……」

 

 思わず声を溜息を吐く。速水の誕生日は7月。そして私の誕生日は9月。ただし14歳の。つまりどう頑張っても私は速水と同い年になることができないのだ。速水というかクラスメイト全員だが。

 

 ちなみに私の年齢詐称の件はとっくの昔に全員にばれている。最初は隠そうとしたのだが、ことあるごとにカルマにからかわれ、その度に私は自爆して結局全員にばれてしまった。

 

 それ以来こうして年下扱いされることが多くなった。もう諦めの境地に入りかけているが、それでもまだ完全に諦めたわけではない。というかカルマの奴……絶対わざとだろ。

 

「い、言っておくけど戸籍上は──」

『そこ、静かにして。堅物にばれたらどうするの?』

 

 耳にはめていたヘッドセットからクラス委員長の凛とした声が鳴り響く。流石に声が大きすぎたようだ。

 

『堅物が来たみたい。二人とも移動を始めてくれる?』

 

 堅物……この名前に相応しい人間を私は一人しか知らない。じゃあそろそろ行くとするか。私は地面に置いていたAR-15を手に取りワンポイントスリングを肩に掛けた。そして立ち上がり己の向かう場所へと眼を向ける。

 

「じゃあな速水」

「違うでしょ?」

 

 おっと、そうだったな。私は速水こと目の前のクラスメイトで大切な友達の新しい名前を呼んだ。

 

「ではまたな、ツンデレスナイパー」

「わかった」

 

 どうしてこう呼ぶようになったのかというには理由がある。それを説明するためには今朝に遡る必要があった。

 

 

 

 

 

「じゃ、ジャスティス!?」

 

 今朝学校について扉を開けようとすると何やら木村の席辺りが騒がしかった。扉の向こうから聞こえるのはカエデの疑問と驚きに満ちた声。どうしたのだろうか。

 

「おはよう、どうしたんだ?」

「あ、おはよう祥子!」

 

 中に入った途端、カエデは私のほうを振り向くとニコニコした顔でこちらに近づいてきた。誕生日パーティの件以降ただでさえ近かった距離がもっと近づいたような気がしてならない。このままいくと融合しそうな勢いだ。

 

「カエデ、顔近いから」

「えー、こんなの普通だよー」

「いや、誰が見ても距離近いと思うぞ」

「知りませーん。あ、祥子寝癖ついてるよ」

 

 磯貝からの指摘も何処吹く風と言わんばかりである。私としてもカエデが楽しそうならどうでもいいのでこれ以上は放っておくことにする。

 

「ふふ、茅野さん本当に臼井さんと仲良いよね」

「まあ、あの二人凄いよな」

「なんか仲良すぎてたまにビビるけどな」

 

 寝癖を直すために手を伸ばしているカエデと高さを合わせるために屈んでいる私を横目に神崎と木村と磯貝の3人が好き放題言っている。まあ事実なので否定する必要はないが。

 

「はい!もういいよ!」

「ああ、ありがとう。そう言えばさっき何か大声で言っていたがどうしたんだ?」

 

 確か正義と言っていたようだがなんなのだろうか。その疑問はすぐに解決した。

 

「えっとね──」

「あー俺から言うわ」

 

 カエデの言葉を繋ぐように木村が少し言い辛そうな顔をしながら口を開いた。

 

「俺の名前って正義(せいぎ)って書くだろ?」

「ああ、知ってる正義(まさよし)だろ?」

 

 正義という名前は中々インパクトがあるが日本では大して珍しい名前でもないだろう。

 

「いや、違うんだ……実は正義って書いてジャスティスって読むんだ」

「そうか……ん?」

 

 ジャスティス……直訳して正義。どうやら彼の両親は凄いネーミングセンスを持っているようだ。これは確かに困るだろうな。

 

「な、おかしいだろ?」

 

 確かに一般的な日本人の名前ではないな。自身の名前に関するカミングアウトをした後、木村はどうしてそのような名前になってしまったのかを説明してくれた。要約すると警察官の両親が自分達の職業に肖って付けたとの事。

 

 当然、そんな奇妙な名前では日常生活に支障をきたす。だが、木村がそのことを両親に訴えても親が付けた名前なんだから口答えするなと聞き入れてもらないようだ。

 

「からかわれた子供がどんな思いするのか考えてねーんだろうな」

 

 吐き捨てるように木村は言った。どうやらこの名前で相当嫌な思いをしてきたらしい。そういうこともあって友人や殺せんせーには通常の読み方で呼んでもらっているそうだ。しかし病院や入学式のフルネームで呼ばなくてはならない場所ではどうしようもないらしく、彼は病院が苦手だそうだ。

 

「あんたはまだましなほうでしょ」

「ん?狭間か」

 

 私の向こう側にいた狭間が私たちの会話に反応して近づいてきた。どうやら何か言いたいことがあるらしい。そういえば彼女の名前は確か……

 

「私なんてこの顔で綺羅々(きらら)よ。そんなふうに見えるかしら?」

「そ、そうだな……」

 

 黒魔術師のような風貌はとてもじゃないが綺羅々と呼べるようなものではない。そういえばテレビでもおかしな名前を付けられて事によって苦労してる子のことが報じられているのを見たことがある。噂には就職活動にも影響がでると聞く。

 

 名前如きでそんな苦労をしなくてはならないのが不思議でならないが、単にそれは私が名前に無頓着なだけなせいだ。その証拠に木村や狭間の目は明らかに不満が見て取れる。

 

 名前なんてそれこそ一生ついて回る。しかもそう簡単に変えることもできない。そんな大事なものを軽はずみな気持ちで決められたらたまったものではないだろう。

 

「いくら思いを込めたってその通りに育つわけじゃないのにね……」

「狭間も苦労してるんだな」

 

 長期間日本で暮らした記憶がないのでわからないが、日本のような平和な国でも気苦労は絶えないようだ。いや、むしろ豊かなだけあって問題もより複雑で面倒なのだかもしれない。

 

「まあ何だ。親に名前を付けてもらえるだけありがたいと思うんだがな。私なんて昔は名前すらなかったからな」

「あっ……」

「祥子……」

 

 だから呼ばれるときは苦労したものだ。おいとかお前とかならまだいい。酷い時はそれとかこれとか完全に物扱いされていた。時が経ち戦果を上げていくと途中から扱いが完全に化物になり最早物ですらなくなった。

 

「こういう話は押しつけみたいで好きじゃないが、世の中には名前すらない人間がごまんといる。自分の名前を好きになれとは言わないが、名前を付けてもらえるってことは幸せなことだよ」

 

 結局自分の名前を取り戻すことができたがそれまでは名前を付けてくれる人すらいなかったと思っていた。私が名前に無頓着なのもきっとそういうことが原因なのだと思う。

 

「それにだ。私は二人の名前、好きだぞ」

「「えっ」」

 

 私の発言に二人は驚いてこちらを見た。もしかしたらこういうことは言われたことがなかったのかもしれない。だがこれは私の本心だ。

 

「お、おう」

「臼井さんって……やっぱり変わってるわよね」

「まあ臼井さん変人だからねぇ」

「ん?カルマか」

 

 そう言えば彼の名前もぶっとんだセンスをしていたな。ジャスティスや綺羅々はまあ分からなくもないがカルマは本当にどういう意味を込めて付けたのか皆目見当がつかない。字から察するに仏教かヒンズー教に肖ったのだろうか。

 

「いきなり変人とは失礼だな。まあ同意するが」

「同意しちゃうんだ……」

 

 誠に遺憾ではあるが自分が日本の一般的なセンスからは致命的にずれているのは自覚している。完全にここに馴染むにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「それにしても皆変な名前付けられて大変だねー」

「いや、君が言うな」

「ん?俺はこの名前気に入ってるよ。普通にセンスあるしね」

「そうか……」

 

 カルマは私のことを変人だと言ったが、E組の中でぶっちぎりで変わっているのは彼だと思う。悪魔のような悪戯心にずば抜けた頭脳、色んな意味でインパクトが凄い。

 

 岡島は……まあ別のベクトルで変わっているとだけ言っておく……あいついつか捕まるんじゃないか?

 

「というかさずっと前から聞きたかったんだけど臼井さんの名前ってやっぱあれ?」

「あれとは?」

「臼井祥子……逆から読むと祥子臼井」

「祥子、臼井……さちこ、うすい、さち、うす……幸、薄い……あっ!」

 

 どうやら渚が私の名前の秘密に気が付いてしまったようだ。そう、私の名前である臼井祥子とはそのまんま幸薄いから取っているのである。無意識に本当の名前に引きずられていたとはいえ当時の私はどうかしていたな。

 

「さ、さっちゃんさんもしかして……」

「皆まで言うな。お察しの通り幸薄いから取った。笑えるだろ?」

 

 傭兵仲間にこの話をするとたいがい笑っていたのだが……どうやら駄目だったようだ。

 

「こ、これって笑うべきなのかな……」

「ブラックすぎて笑えねーよ……」

「臼井さんってたまに不意打ちでヘビーなの飛ばしてくるわよね」

 

 むしろ笑ってくれないと困る。案の定カルマを除いて皆顔が引きつっていた。どうやら失敗したようだ。先ほどまでの明るい空気とは打って変わりどんよりとした暗い空気が流れている。

 

「さっちゃん!」

「祥子!」

 

 二名の友人の私を呼ぶ声……この声のトーンは不味いな、明らかに怒っている。恐る恐る顔を向けると予想通り怒った顔の陽菜乃とカエデがいた。

 

「は、はは、幸薄いから臼井祥子……なんちゃって」

 

 苦笑いでごまかそうとすると二人は飛びかかりそうな勢いで私に肉薄してきた。これは説教確定だな。

 

「さっちゃん!そういうのしないってカエデちゃんと約束したよね?」

「倉橋さんの言うとおりだよ!私そういうの嫌い!」

「い、いや名付けたのは昔の私だからな?」

「「言い訳しない!!」」

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 こうなるともう駄目だ。ひたすら謝るしかない。カエデは前からこうだが近頃陽菜乃までこうなることが多くなったような気がする。やはりあの誕生日会の時のせいだろうか。それしか思い当たるところがない。

 

 自分を蔑ろにするような発言をすると何処からともなく聞きつけて叱られるのだ。お陰で自虐的な発言は殆どしなくなったがそれでも染みついた癖というのは中々抜けないもので、こうして口にしてしまうことがある。

 

「ああ、いつもの臼井だな」

「うん、倉橋さんがいるのが珍しいけどいつも通りのさっちゃんさんだね」

 

 いつも通りとはなんだ。私ってそんなに叱られていたのか?記憶を辿っていく。うん、叱られていたな。

 

「臼井って何回も同じようなネタで説教喰らってるのにわざとやってんのかってくらい綺麗に自爆するよな。」

「逃れられぬポンコツの呪いか……」

「あ、あははは……」

 

 人が動けないことをいいことに好き放題言ってくれるな。というかポンコツの呪いってなんだ。

 

「もう、さっちゃん聞いてるの!?」

「二人ともそれくらいにしといてあげなよ。臼井さんにはまた罰ゲームさせておけばいいんじゃん」

 

 見かねたカルマが仲裁に入ってくれた。が、その角と尻尾が生えてそうな笑みはなんだ。それに今なんて言った?

 

「むぅ、カルマ君がそう言うなら……」

 

 ショッピングモールでの惨事が脳裏に蘇る。もう十分女子らしくなっただろうに。これ以上どうやって辱めるつもりだ。カエデたちもそれで納得するな。

 

「そりゃあ、その時のお楽しみに決まってんでしょ」

「それならまた沢山女の子らしくしなきゃね!ね、カエデちゃん」

「うん!今度は何着せようかなー」

「はぁ、もう好きにしてくれ……」

 

 諦めにもにた境地で深い溜息を吐く。

 

「やっぱ変な名前だと色々苦労するんだな」

「こ、これはちょっと意味が違うんじゃないかな……」

 

 ふと木村の後ろに黄色い影が現れた。そうだ。この不満は殺せんせーにぶつけるとしよう。

 

「先生も、名前について不満なことがありま──」

「木村伏せろ」

「え?あ、うん」

 

 インサイドホルスターから1911を引き抜き安全装置を解除、木村がしゃがんだのを目視しアイソセレスでBB弾を連射。

 

「にゅ、にゅやー!!先生も話に混ぜてくれたっていいじゃないですかー!」

「だったら少し憂さ晴らしに付き合ってくださいよ」

「あれ完全に八つ当たりだろ……」

 

 それなりの速さで撃ったが当然の如く全弾回避された。弾倉の弾を撃ち尽くした1911が虚しくホールドオープンしている。やはり真正面からの点攻撃は無理があるか。

 

「い、いきなり何するんですか!」

「いや、ついカッとなって、反省はしてません」

「そんな暴力事件の容疑者みたいな理由で殺そうとしないでください!!」

「いや、暗殺対象が言う台詞じゃないでしょ……」

 

 渚のツッコミに同意しつつ1911の弾倉を交換しインサイドホルスターに戻す。やはりというかフルサイズのハンドガンだとコンシールドキャリーには不向きだな。今度烏間先生にサブコンパクト型のエアガンがないか聞いてみるか。

 

「で、なんでしたっけ?名前がなんとかって言ってましたけど」

「そうなんです!先生も名前に関して不満があるんですよ」

 

 普段の反応からして不満なんて感じていないと思っていたのだが、何かあるのだろうか。

 

「殺せんせーは気に入ってんじゃん。茅野が付けたその名前」

 

 殺せんせーという名前は茅野が付けたのか。今初めて知った。どういう意味だろうか。後で聞いておこう。

 

「ええ、気に入ってますとも。だからこそ不満なんです」

 

 そう言って先生は教卓付近で話していた二人の教師に目を向けた。そう、烏間先生とビッチ先生である。そう言えばこの二人……

 

「あの二人だけなんですよ。名前で呼んでくれないのは」

 

 殺せんせーの告白に二人の肩がびくりと震えた。そうだ。二人とも一度も先生のことを殺せんせーと呼んでいるのを見たことが一度もない。いつもおいとかタコとかそんな感じだ。

 

「いつもお前とかタコって!先生の顔がそんなにタコ焼きに見えますか!」

「いや、どう考えてもその触手が原因だろ……」

「そう言えば先生達なんで殺せんせーのこと名前で呼ばないのー?」

「だ、だっていい年して殺せんせーとか正直恥ずかしいし……」

 

 子供っぽいわりにはそういうことを気にするのか。いや、逆か子供っぽいから余計に気になるのだろう。烏間先生の場合は……言わずもがなだな。

 

「別にいいじゃないですかー呼んで下さいよー」

「あぁもう!近寄らないでよ!絶対に呼ばないから!!」

「ほらー烏間先生も一緒に」

「俺に振るな」

「うわぁ、すげぇうざそう……」

 

 杉野の言うとおりこうなった時の殺せんせーは非常にウザい。

 

「じゃあ、いっそのことコードネームで呼び合うってのはどう?」

 

 そんなヌルヌルした事態を見守っているといいことを思いついたと言わんばかりに矢田が立ち上がった。

 

「コードネーム?」

「なるほどぉ、それは良いアイデアですねぇ」

 

 こうして私たちのいつもと少し違うE組の一日が始まったのであった。

 

 

 

 

 

「さてと、ここら辺だな」

 

 あの一件のあと殺せんせーは今日一日本名で呼び合うことを禁止し代わりに皆がクラス全員のコードネームを書きランダムで選ばれたコードネームを使って呼び合うこととなった。

 

「矢田も中々面白いことを考えるな」

 

 なんでも離島で出会った殺し屋たちや私のことを参考にしたそうだ。確かに彼等も本名を隠しコードネームで呼び合っていた。しかしあれは個人情報を隠すためのものでありE組でコードネームを使ったとしても大して意味もないだろうに。まあ面白いからいいか。

 

 岩の上に腹ばいになりバイポッドを展開。銃を構えいつでも撃てるように準備する。岩の上は丁度苔と草が生い茂っているのためギリースーツを着てじっとしていればまずばれることはない。さすがの烏間先生も初見で私に気が付くことは難しいだろう。

 

「そろそろ連絡するか……はぁ」

 

 所定の位置へついたことなので片岡こと凛として説教に連絡することにする。それにしても誰が考えたのかは知らないが無駄に長ったらしいが。非常に彼女らしいコードネームだと思う。

 

「こちら……」

 

 ヘッドセットに手を当てたまま固まる。いつもの流れなら自分の名前を言うところだが今回はコードネームを言わなくてはならない。そう、コードネームを使わなければいけないのだ。

 

「こちら……うす──」

『あれぇ、違うでしょ?ちゃんとコードネーム使わないとわかんないなあ』

 

 か、カルマの奴……人が嫌がってるの知りながら。いや、仕方ない。ルールはルールだ。私は意を決して不本意なコードネームを口にした。

 

「こちら、さ、サバ読みアーミーから凛として説教へ、狙撃地点に到達した。これより待機する。オーバー」

『こちら凛として説教、オーケー。サバ読みアーミーは堅物が来たら予定通り狙撃してちょうだい。失敗したら予定通り毒メガネと永遠の0に合流して遊撃に回って』

「了解、交信終わり」

 

 深い、深い溜息を吐く。私に付けられたコードネームはそれはそれは酷い物だった。この悪意しか感じないこの名を名乗るたびに心に傷を負っていく。

 

「これならハードラックのほうがまだましだ」

 

 だいたいサバ読みアーミーってなんだ。上手いこと言ったつもりか。確かに韻を踏んでいるが……ってそうじゃない。

 

「まあ、皆のもたいがいだがな」

 

 片岡の凛として説教や速水のツンデレスナイパーはまだいい。ひどいものだと前原の女たらしクソ野郎や寺坂の鷹岡もどきにいたってはただの悪口だ。正直笑いを堪えるのに大変だった。特に寺坂の鷹岡もどきって……

 

「わ、笑うな……ふ、ふふ」

 

 思い出したらまた笑いがこみ上げてきた。傍から見ると草の塊が震えてるように見えるだろうな。

 

「おっといけない。気を引き締めないと」

 

 頬を叩き思考を元に戻す。ヘッドセットから聞こえる情報によれば烏間先生こと堅物は現在磯貝こと貧乏委員率いるチームの包囲をすり抜けて鷹岡もどきの率いるチーム方向へと逃走中とのことだ。

 

「……いた」

 

 AR-15を構えスコープを覗けば堅物がこちらに向かって走ってきているのが見えた。相変わらず凄い身のこなしだ。ただ通信を聞く限り鷹岡もどきが背中に一発当てているようだ。

 

 しかしこれは殺せんせーに当てるための訓練。背中に一発当てた程度じゃ音速で動く先生には当たらないだろう。少なくとも烏間先生の胸と背中にあるターゲットを蜂の巣にできるくらいじゃないとな。

 

「来た……」

 

 安全装置を解除。銃を構える。距離50、風速微速、呼吸、脈拍共に異常なし。レティクルを堅物の胸に合わせる。

 

「狙え、そして外すな……えっ?」

 

 レンズに映った堅物の口元がニヤリと笑うのと私が引金を引いたのは同時だった。銃口から放たれたペイント弾。絶対に命中すると思っていたそれは虚しく空気を切り裂くだけに終わった。

 

「しまっ!」

 

 慌てて次弾を発射。引金を引き続ける。が、堅物は巧みなステップでことごとくを回避。どんどんと近づく堅物。そして訪れた弾切れ。

 

「くそ!」

「遅い!」

 

 立ち上がりサイドアームを引き抜こうとした一瞬の隙に先生は私の横をすり抜けていった。駄目だ。動揺して油断していたようだ。

 

「サバ読みアーミー!気配の隠し方は一級品だがレンズが日光に反射しては隠せるものも隠せないぞ!」

「えっうそ!?」

 

 避けられた理由がわかった。どうやら木漏れ日がレンズに反射してしまったようだ。キルフラッシュはつけていたはずだが、まさかあんな小さい網目の間の反射を見破ったというのか。いや、あの人ならやりかねないな。

 

「こちらサバ読みアーミーから永遠の0へ、堅物がそっちに行った!」

『りょ、了解!』

 

 一応となりには奥田こと毒メガネがいるが期待はしないほうがいいだろう。これはあれをやるしかなさそうだ。

 

 AR-15は岩の上に置いたまま移動。走りながら必要のないハーフギリーとバラクラバを脱ぎ捨てる。新鮮な風が私の火照った頬を冷まし気分を落ち着かせた。

 

「ギャルゲーの主人公へ、こちらサバ読みアーミー、プランJをやりたい。誘導頼む」

『了解』

「聞こえたな。頼むぞ!」

 

 ヘッドセットの向こうにいるもう一人の人物に向けて連絡する。しばらくして返事がきたのでそのまま走り続ける。戦場にいた頃はスタンドプレーが殆どだったからこうしてチームで戦うのは少し新鮮だな。

 

「にしてもギャルゲーの主人公ってどういう意味だ……」

 

 千葉のコードネームだが正直意味が分からない。恐らくゲーム由来だろうから今度神崎あたりにでも聞いてみるか。

 

「よし、ここだな」

 

 しばらく走り続け森の中にできたドブの前で止まる。深さはちょうど腰が浸かるほどでしゃがめば完全に身を隠すことが可能だ。しかも泥で濁っているため覗きこまない限り中に何が沈んでいたとしても気が付かないだろう。

 

「目標地点に到着した状況は?」

『今俺とみんなで誘導している途中だ。あと一分くらいでそっちに来ると思う』

「了解」

 

 あまり気は進まないがやるなら全力でだ。軽く息を整えドブの中に身体を沈める。冷たい水が私の身体を冷やし服が肌に張り付いた。

 

 そのまま腰を下ろし胸、首元、と沈ませていく。1911をホルスターから抜きいつでも撃てるようにし完全に水の中に沈んだ。

 

 泥水のため視界は殆どきかず微かに届く音と振動で外の様子を把握する。このドブは私が予め掘っておいた穴に水を貯めて作ったものであり。ドブの四方は草木で覆われ袋小路のようになっている。

 

 先生の運動能力を考えればこんなものはさして役には立たないのは百も承知である。しかし一瞬でも隙を作れば私たちの勝ち。正面から倒すのが不可能な以上こうした搦め手を使うしかあるまい。

 

 それに私達は殺し屋だ。戦う必要なんてどこにもないし利用できるものは全て利用するべきだ。ただ、まあ後でカエデたちがうるさいだろうな。二学期の初めにやった暗殺ケイドロで、先生から隠れるために泥まみれになった時は色々と面倒なことになった。

 

 そんな関係のないことを考えているとすぐ近くまで何かが走ってくるのを感知した。歩き方のパターンからして堅物がやって来たのだろう。

 

 やがて振動はドブの傍で止まった。水中からも微かに影が見て取れる。よし、いよいよだな。意を決して水中から音を立てずにゆっくりと眼だけを出す。

 

「なるほど、誘導したわけか……」

 

 標的はまだこちらに気が付いていない。手にした1911をゆっくりと水から出し上にいる標的の背中へと向ける。

 

 フロントサイト、リアサイト、視線の三つを直線に結び引金を絞る。これはやったか?

 

「惜しいな」

「─ッ!?」

 

 当たったと確信した瞬間私は信じられないものを見た。放たれたペイント弾は背中に当たることなく、いつの間にか背中に回された板切れによって防がれていた。

 

「ここの地形は粗方頭に入れている。君の発想と潜伏技術は見事だが俺の記憶力を甘く見ていたな」

 

 ドブに浸かった私を見下ろしながら堅物はニヤリと笑った。まさか初めから警戒されていたとは。

 

 いやでも警戒していたとしても背後から撃たれたペイント弾をノールックで防ぐってやっぱりおかしいような……

 

「それに前にも似たようなことはあったからな。当然警戒はするさ」

「ケイドロの時ですか……」

 

 先生から差し出された手を掴みながらドブから身体を出す。当たり前だがつま先から頭の天辺までびしょ濡れだ。後でカエデたちにどやされるのが目に浮かぶ。

 

「もうそろそろ時間だが……どうする、ギブアップするか?」

 

 確かにこの状況で正面から撃っても当たることはないだろう。

 

「そうですね……それがいいんでしょうけど……」

 

 だが、残念だが私は本命じゃないんだな。左手の親指を下に向ける。そして彼は降りてきた。この時を待っていたとばかりに彼は標的の背後へと降り立つ。そう、彼の名前は……

 

「──ッ!!」

「やれ!ジャスティス!」

 

 裏山に勝利を告げる銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「で、どうでしたか?」

「「「「「どっと傷ついた……」」」」」

 

 一時間目の授業が終わりコードネームという名の悪口を聞かされ続けた私たちはというとそのあまりに大きな精神的ダメージからか皆して机に突っ伏してダウンしていた。

 

「毒メガネって……」

「私なんてサバ読みアーミーだぞ……」

 

 かくいう私も酷い精神的ダメージを負っている。最早コードネームではなくただの悪口大会と化していたな。

 

「というか考えたの誰だよ……ん、なんだカルマ……」

「いやぁ、別にー」

「なんだその笑みは……まさか君」

「さあねー」

 

 絶対こいつだろ。いつか絶対復讐する。私は胸に誓った。

 

「でも、烏間先生に当てられてよかったですね」

「ああ、流石に背後からの不意打ちを防がれた時は驚いたがな」

「俺としては臼井がびしょ濡れになってたことに驚いたけどな。だいたい想像つくけど何してたんだ?」

「ドブに潜んでた」

「そうか……」

 

 最早慣れたと言わんばかりの千葉の反応。実際に何度も似たようなことをやっているので最早どうでもいいといったところか。

 

「だ、駄目ですよ臼井さんそんなことしたら!風邪ひいちゃいますよ!」

「なに、こんなの何てこと……く、くしゅんッ!?」

 

 予想外のくしゃみに思わず動揺する。冷水で身体を洗ったのが不味かったのか。やはりクーラーに慣れ切った弊害だな。おのれ文明の利器め。

 

「ほら、言わんこっちゃない」

「臼井がくしゃみって何気にレアだな。ていうかくしゅんって……」

「う、うぅ……」

 

 やめろ菅谷……はぁ、後で職員室で温かいココアでも貰うか。ああ、恥ずかしい……

 

「それにしても何で俺だけ本名のままだったんだよ」

 

 前にいた木村が皆が思っていたであろう疑問を尋ねた。そう、他の皆はコードネームで呼び合っていたのだが、何故か彼だけは本名のジャスティスのままだったのだ。まあ殺せんせーのことだから大よそ想像はつくのだがな。

 

「君の機動力なら活躍すると思ったからです」

 

 確かに高速で移動する烏間先生に気付かれずに木々の上を渡って移動する身体能力には目を見張るものがった。足が早いのは知っていたが平地以外でも速いとはな。

 

「どうでしたか?ああやってかっこよく決めた時ならジャスティスって名前も悪い物ではなかったでしょう?」

「うーん……そ、そうか?」

 

 陽菜乃が同意しているが本人は流石に納得しきれないらしい。そんな彼をフォローするように殺せんせーは名前が変えられることをわかりやすく説明していた。

 

「こんなことを言うのはあれですが、親がくれた名前に正直大した意味はありません」

 

 それはそうだ。どんな思いをこめたところでその子供がどう生きるかはその子供次第だ。

 

「意味があるのはその人が実際の人生で何をしたか」

 

 だから幸せであれと名付けられた子が、死をまき散らすだけの存在になったとしても、それはどうしようもないことなのである。

 

「名前は人をつくらない。人が歩いた足跡の中にそっと名前が刻まれるだけです」

 

 何故だかその言葉が耳に深く刻まれた。

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったね」

 

 横にいるカエデが楽しそうに笑った。時は放課後、私は渚達と別れ今はカエデと二人で家に向かって歩いていた。

 

「ああ、楽しかったには楽しかったが……」

「うん……」

「「疲れた……」」

 

 お互いに不名誉なコードネームで呼ばれたせいで未だに精神的ダメージを引きずっていた。

 

「カエデは確か永遠の──」

「いわないで」

「え?」

「い わ な い で」

「……わかった」

 

 別に胸の大きさなんて誰も気にしないと思うんだがな。まあ、カエデの胸に対するコンプレックスは今に始まったことじゃないのでもう慣れっこだが。

 

「それにしてもビッチ先生がドライヤー持ってたからよかったけど、祥子は女の子なんだからもっとああいうことしちゃ駄目だよ!風邪ひいたらどうするつもりなの?」

「私があの程度で体調を崩すと思うか?」

 

 あの裏山の百倍は酷い環境でサバイバルしたこともある。死人が出るような雪山で行軍したこともある。だが、そんなことを言ってもカエデには意味がないだろうな。

 

「今まではそうかもしれなかったけどこれからはわからないでしょ!いいから駄目なものは駄目!わかった?」

「……わかった。気を付ける」

「うん、よろしい!」

 

 きっと烏間先生でも姉モードになったカエデを止めるのは無理だろう。だから大人しく言うことを聞くのがベストな対応だ。

 

「意味があるのはその人が実際の人生で何をしたか、か……」

「ん、どうしたの?」

 

 ふと自分の名前のことを考える。祥子、パパとママがつけてくれた私の大事な名前。祥は幸せを意味する。親が付けた名前に意味なんてないのは分かっている。だが、それでも私の人生はあまりにも不幸に満ちていた。

 

「私の親は何を思って祥子って名前を付けたんだろうな、と思ってな」

「それは……祥子に幸せになってほしかったからだと思う」

「ああ……わかっている。わかってはいるんだ。でも、私の人生は……」

 

 幸せになると決めた。もう戦場には戻らないと決めた。でも……

 

「本当に私にできるのかな……」

 

 歩みを止め道に立ちどまる。脳裏に浮かぶのは硝煙と血の匂い。きっと大丈夫なのはわかっている。だがそれでも不安なものは不安なのだ。息がつまり自分の立っている足場が小さくなるような言い知れぬ不快感に襲われる。

 

「祥子」

「ん?」

 

 そうやって一人考え込んでいるとカエデの優しい声が私を呼んだ。

 

「ちょっと屈んで」

「……わかった」

 

 言われたとおりに屈むと視界が真っ暗になった。頬を撫で付けていた風の代わりに感じるのは人の温かい体温。

 

「大丈夫だよ……大丈夫だから」

「うん……」

 

 頭を撫でられ抱き締められる。心にかかっていた靄が晴れていく。きっと傍からみたら異様な光景だろう。

 

「私いつもこう思ってるんだ。祥子はもう一生分の不幸を使い切ったんだって」

 

 一生分の不幸を使い切った……そんなふうに言われたのは初めてだ。確かに普通の人間が一生に一度あるかないかという不運を連続で体験してきた。

 

「そう、なのかな……」

「そうだよ。だから後はいっぱいいっぱい幸せになるだけだよ。だから……大丈夫だよ」

「……あかり」

 

 少しでも気を抜くとこの底なしの優しさに溺れそうになる。依存してしまいそうになる。辛いのはカエデだって一緒なのにあかりに甘えてばかりで何も返せていない。

 

「もう、大丈夫だから。離してくれ」

「駄目、はなしません」

 

 私の頼みに反してあかりの力は強くるばかり。これはもう諦めるしかないな。身体に入っていた力を抜きされるがままにする。

 

「わかった……じゃあ、もう少しこのままでいさせてほしいな」

「……うん!」

 

 はぁ、もっと強くなりたい。戦う強さじゃない。もっと別の、もっと大事な強さだ。銃だけじゃ何も解決できない。銃だけじゃ何も守れない。どうしてもっと早く気が付かなかったのか。

 

「もう大丈夫。ありがとう」

 

 しばらくしてあかりから解放された。少し名残惜しいがこれ以上は変な目で見られる。

 

「本当に大丈夫?もっと甘えてもいいんだよ?」

「あかりは私を何だと思っているんだ……」

「え?甘えんぼ?」

「そうか……」

 

 もう何も言うまい。あかりの中では私は完全に妹になっているようだ。今に始まったことではないが誕生日パーティ以降こうされることが急激に増えた。嫌だとは微塵も思わないが本当にこれでいいのかと思ってしまう。

 

「ねぇ祥子。この後祥子の家に行っていい?夜ご飯作ってあげるから」

「それは魅力的な提案だが……本当にいいのか?」

「もちろん!お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 力こぶを作るように腕をアピールするが、細い二の腕が見えるだけであった。私は……私は……

 

「どうせ私はデカ女だよ……」

「い、いきなりどうしたの祥子!?」

「はぁ、もっと女の子らしくなりたい……あっ」

 

 つい口にしてしまった。恐る恐るカエデを見る。

 

「なーんだ、やっぱり祥子も女の子らしくなりたいんだ」

「い、いや今のはな」

「そっかー女の子らしくなりたいんだ。なら、まずは髪型から変えてみようよ!ね、早くいこ?」

 

 腕を引っ張られ、オレンジ色に染まった街を走り出す。きっと家で三つ編みやツインテールにされるんだろうな。

 

「ああ、わかったよ……お姉ちゃん」

「え、何か言った?」

「いや、別に」

 

 今までいろんなことがあった。今までの私の人生は間違いなく不幸だった。でも、今はこう言える。

 

「ああ、幸せだな……」

 

 だからもっと頑張ってみよう。私は改めてそう誓った。

 

 

 

 

「そう言えば祥子の昔のコードネームって何だったの?」

「ん?ハードラックだが」

「は、ハードラック……」

「ああ、それがどうした?」

「……ごめん、ちょっとダサって思っちゃった……」

「……そうか」

 

 そうか……

 




用語解説

サバ読みアーミー
主人公のコードネーム、命名カルマ。他の案としてポンコツアーミー、メスゴリラ14、年齢詐称ウーマンなどがあった。

キルフラッシュ
スコープのレンズ部分に装着する網状のパーツ。レンズが傷つくのを防いだり太陽光が反射して居場所がばれるのを防ぐ役目を果たす。

永遠の0
どうあがいても絶壁

ハードラック
主人公のクソダサコードネーム。もう少しかっこいいのにしておけばよかったと常日頃から思う。
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