達也が技術スタッフとして九校戦に参加することが決まった翌日、一科生のクラスではその話題にそれぞれが一喜一憂していた。
一科生としてのプライドが高いものや将来魔工師志望のものはかなり悔しがっており、何であいつが・・・という雰囲気だった。深雪、ほのか、雫の三名は当然とばかりに誇らしげだったが、そのような好意的な派閥はかなり少ないだろう。
午後の授業の時間を使って九校戦出場者の壮行式が行われることになっている。九校戦出場者には競技出場者、技術スタッフそれぞれ別の色のブルゾンが配布されており、それを着て壮行式に出なくてはならない。
午前の授業が終わり、出場者がそれぞれ壮行式の準備に入る。ブレザーを脱ぎ配布されたブルゾンを着用し、講堂の袖で待機している。司会進行役の真由美と、IDチップが組み込まれた徽章を着用する深雪は制服姿のままだ。
壮行式が始まり恙なく進行される。二年三年の生徒から始まり一年、そして技術スタッフの順に呼ばれることになっている。
二年三年の紹介が終わり、一年の紹介へと移る。煌輝は一年で一番端にいる。つまり最初に名前を呼ばれるのだ。
「一年A組、一条煌輝」
真由美から名前を呼ばれ一歩前に出てお辞儀をする。深雪が煌輝の前へ立ち、ブルゾンに徽章を着用する。この徽章が無いと選手として認められず競技エリアに入場できないのだ。
そのまま一年の紹介が終わり技術スタッフの紹介へと移る。最後の達也の名前が呼ばれたとき、一科生たちから野次が上がりそうになるが、前へ陣取っていた一―Eの生徒たちが高らかと拍手をしたことでそれは食い止められた。その様子を見て達也は苦笑していたが。
最後に真由美と深雪が拍手を行い、九校戦に出場する選手全員に対する拍手へと変わった。
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放課後となり九校戦に向けての練習が始まる。煌輝が出る『氷倒し』は先に敵陣の氷柱十二本を破壊したほうが勝者となる。
煌輝は『爆裂』によって氷柱を一瞬で破壊することができるため守備は捨てて攻撃重視の戦法を取る。守備をしても煌輝の干渉力を突破できる一年はそうそう居ないが、守備に魔法力を回すよりも攻撃に回すべきだ。
「一条君、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします、中条先輩」
煌輝のエンジニアはあずさだ。
「とりあえず使う魔法は『爆裂』のみですよね?それなら特化型のCADで大丈夫でしょうか?」
「はい、『爆裂』以外の魔法を使う理由はありませんし、速さ重視の特化型でお願いします」
煌輝が普段使いしているCADは九校戦で規定されているCADよりもスペックが高いため、競技用のCADに術式をコピーしなければならない。使う魔法は一種類なので、使い慣れている拳銃形態の特化型CADを使うのは妥当だろう。
あずさは煌輝が普段使いしているCADを受け取り競技用のCADに術式をコピーしていく。スペックの違うCADに術式をコピーすることはあまり勧められないのだが、あずさの技術は達也ほどではないが安全マージンは保障されていた。
「とりあえず術式を入れました。細かい調整は練習をしながら行っていきたいと思うのですが・・・良いですか?」
オドオドとした様子で聞いてくる。その様子に苦笑しながらも煌輝は首肯する。
三年の先輩がプールの水を移動魔法で氷柱の形にする。それを減速魔法で凍らせる。その作業が結構ギリギリだったようで息を切らしていた。
作戦スタッフの人からそれぞれ一回練習をする旨を伝えられる。最初は二年の千代田花音、百家の千代田家だ。それと三年の女子生徒がやるらしい。
それぞれが指定された場所へ立ちCADを構える。始まりの合図があると同時に二人がCADを操作する。
千代田家は『地雷源』と呼ばれ、地震を起こす振動魔法を得意としている。三年の生徒の魔法が花音の氷柱を一本破壊するが、花音の方は同時に三本破壊していく。
その様子を見て防御魔法を放つが花音の方は意に介さずといった姿勢で氷柱を破壊していく。花音が防御を全くしないことに気が付き三年の生徒も攻撃に転じるが、すでに自陣の氷柱は半分ほどとなっており、すべて倒されるのは時間の問題だった。
三年の生徒が五本ほど倒したところで、花音が全ての氷柱を破壊し終える。結果は花音の圧勝だった。
花音が人目をはばからずに担当エンジニアである五十里に抱き着き喜びを露わにしている。千代田花音と五十里啓は婚約者同士らしいが、五十里の方は持て余しているようだ。
そのまま練習は続き煌輝の出番となった。相手は同じ学年の男子生徒だ。
指示された場所へと立ちCADを構える。男子生徒は少しビビりながらもCADを構える。あくまで『爆裂』を使うのは氷柱であって、彼自身に使うことは無いのだが。
試合開始の合図が出され、煌輝は構えていたCADの引き金を引いた。それだけで一本の氷柱が砕け散る。
液体を気化する爆裂を氷柱に使うことによって氷は一瞬で砕ける。情報強化で一応の防御は可能だが、煌輝の干渉力を上回らなければ不可能なため一年の彼にはかなり荷が重い。
そのまま十二回引き金を引きすべての氷柱を破壊し終える。試合時間は数秒、ここまで一番早い花音ですら一分近くかかっているのだが、それを大きく上回る試合時間の短さに、見ていた人たちは驚きを隠せない。
一礼しあずさの元へと向かう。CADの調整のためだ。
「どうでしたか?」
「いつもよりも魔法の発動速度はかなり遅めですね。いえ、中条先輩の技術の問題ではなく、CADのスペックの問題ですのでそんなに落ち込まないでください」
目に見えて落ち込むあずさを慌ててフォローする。ただこれ以上早くするのは自分自身の問題だと分かり切っているため、しばらくはこれで発動スピードを上げるしかないと思う煌輝だった。
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家に帰り今日の復習と明日の予習をしていると電話が掛かってきた。相手は将輝だった。
「もしもし、将輝か?どうしたんだ?」
「少し聞きたいことがあってな。何でピラーズブレイクの単一エントリーなんだ?お前の実力なら、間違いなくモノリスコードも出るべきだと思うんだが・・・」
「少し・・・な」
「何かあったのか・・・?」
「特に何かあったわけじゃねえよ。まあテロリストが一高に襲撃してきてから少しあったんだよ」
「そう言えば一高がブランシュに襲撃されたようだが・・・まさか!」
「もういいか?それと、母さんと茜と瑠璃、父さんには話さないでくれると助かる」
そうして通話を終了する。このことに関して煌輝が何かできるわけではない。これは時間だけが解決してくれると思うからだ。
この長さで執筆にかかった時間は約一時間、意外と時間かかるものなんですね