一条家次男は第一高校   作:クッペ

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手が冷たすぎてタイピング速度落ちるんだよなあ


九校戦編Ⅸ

 

 『ピラーズ・ブレイク』の新人戦は男女同時進行だ。そのため異性の選手を見に行くことは困難だ。

 男子ピラーズブレイク新人戦、煌輝は第一試合で初戦の相手は二校の生徒だ。

 『ピラーズ・ブレイク』は身体をほとんど動かさず、単純に魔法力を競い合う競技だ。その為『ピラーズ・ブレイク』は毎年ファッションショーみたいなことになっている。

 煌輝は普段バイクに乗る時のダークレッドのライダースーツ。煌輝が入場すると主に女性からの歓声が沸き起こる。新人戦『ピラーズ・ブレイク』は将輝と煌輝のどちらかが優勝と言われている。双子同士が優勝候補とあり、その片割れが初戦なのだ。これだけの歓声が上がっても不思議ではない。

 一方の二校の生徒は黒い学ランに鉢巻という格好で出て来た。鉢巻には≪常勝≫と書かれており、気合十分といった様相だ。

 双方が自陣の舞台に立ちCADを構える。煌輝は拳銃形態の特化型CAD、二校の生徒は腕輪型の汎用型CAD。煌輝は『ピラーズ・ブレイク』で恐らくたった二人の特化型CADを使う選手だ。もう一人は勿論将輝である。

 汎用型は攻守一体型の戦法、特化型はただひたすら攻めるだけの戦法の時に使われる。ただ『ピラーズ・ブレイク』でただひたすら攻める選手は数少ない。本戦でも一高の花音だけだろう。彼女の場合汎用型だが。

 開始の合図のシグナルがすべて消え、ブザーが鳴り試合が始まる。

 二校の生徒は自陣の領域干渉を展開。領域干渉で煌輝の攻撃を防ぎながら煌輝の陣地の氷柱を倒そうという算段なのだろう。

 煌輝からすれば絶好のカモでしかない。煌輝の干渉力は将輝の干渉力を上回る。その将輝の干渉力も魔法科高校九校全体でトップクラスに高い。つまり将輝よりも干渉力の低い二校の生徒が領域干渉を広げても、煌輝の攻撃は防げないのだ。

 煌輝はCADの引き金を引く。氷柱が爆散し、消滅する。二校の生徒は防げなかったことに動揺したのか、こちらに攻撃するための魔法も発動できなかった。

 引き金を引き続ける。十一回引いたところで相手の氷柱はすべて壊れ試合が終わる。

 煌輝は本戦、新人戦合わせての最短試合記録を大幅に更新した。それでも最初は相手の出方を少し窺ったので、最初から攻撃をしていたらもう少し縮められただろうが。

 相手選手ががっくりとうなだれる中、煌輝は一礼をして退場していく。煌輝が退場するまで歓声がスタジアムを包んでいた。

 

* * * * * * * * * *

 

 男子予選一回戦は三人が無事勝ち抜いた。しかし男子の一人の次の相手が将輝のため、次で一人は脱落するだろう。

 煌輝の次の相手は四校の生徒。問題は無いだろう。これは煌輝の驕りとかではなく、魔法の相性的な問題だ。

 引き金を一度引くだけで一つの氷柱を破壊できる煌輝と将輝。時間をかけて氷を破壊しなくてはならない他の選手。煌輝と将輝は『爆裂』があるため『ピラーズ・ブレイク』との相性は抜群なのだ。

 今日はもう一戦やったら終了、明日がいよいよ本戦となる。

 煌輝の出番が近付いてきたため会場へと向かう。

 

「一条君、CADの調子はどうですか?」

 

「問題ありません。今日はこのまま行けそうです」

 

「そうですか、あと一回勝てば今日は終わりですから、頑張ってくださいね」

 

「ええ、勿論です。こんなところで負けられませんから」

 

 煌輝の前の試合が終わったようだ。煌輝はステージ袖へと向かう。

 ステージの準備が済んだようだ。係員の人に呼ばれ入場する。相手の選手も同時に舞台へと上がる。白衣に伊達眼鏡。研究者のような恰好をしている辺り四校の生徒らしい。

 双方CADを取り出す。相手は携帯端末型の汎用型CADだ。

 試合開始のシグナルが点滅、一つづつ減っていきすべてが消えブザーが鳴り試合が始まる。

 先ほどとは違い始まった瞬間引き金を引く。相手も防御は捨てて攻撃重視らしく、領域干渉も情報強化も展開しない。

 引き金を引き氷柱を破壊し続ける。相手も振動魔法を使い氷柱を攻撃してくる。しかし煌輝が全ての氷柱を破壊し終えたころ、相手は煌輝の氷柱を一本しか破壊できていなかった。

 先ほどよりも試合時間を縮め、煌輝の圧勝だ。しかし『ピラーズ・ブレイク』の試合最短時間は将輝が塗り替えている。将輝よりも試合時間がかかったという事実に煌輝はため息をついてしまう。

 女子ピラーズブレイクは全選手達也が担当しており、スピードシューティング同様三人全員予選を突破したようだ。

 男子は一高の選手が将輝に敗北し二人が予選通過。将輝の相手をした選手も決して弱くはなかったため、今回はクジ運が悪かったと言わざるを得ない。

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日の朝、今日はいつもよりも調子がいい。柄にもなく気分が高揚しているのだろう。

 朝ご飯を食べ諸々の準備をしてから作業車へと向かう。中条先輩は昨日に引き続きすでに到着していた。

 

「おはようございます、中条先輩。すいません、今日も待たせてしまって」

 

「あ、おはようございます、一条君。大丈夫ですよ、私もついさっき来たばかりですから。一条君は服装の準備とかもあるんですから仕方がないですよ。早速CADの調整をしたいんですけど、良いですか?」

 

「ええ、お願いします」

 

 昨日と同じ手順で想子波を計測する。

 

「あれ?昨日よりも数値がいい結果を示してますね」

 

「ええ、少し気分が高揚していて」

 

「無理もないですよ。今日は決勝戦ですから。調整が完了しました。違和感とか無いですか?」

 

「問題なさそうです。ありがとうございます」

 

「私が力を貸せるのは後は試合後の調整だけです。頑張ってください、一条君!」

 

* * * * * * * * * *

 

 『ピラーズ・ブレイク』はトーナメント式だ。将輝と煌輝が当たるとしたらそれは決勝でしかありえない。つまり別ブロックということだ。

 二回勝てば決勝進出。その二回戦とも三校の生徒だ。

 本戦一回戦、昔の自衛隊のような迷彩柄の服を着て対戦相手が現れる。これも戦闘系の魔法を重視している三校故のものなのだろうか?

 相手は特化型のCADを構えて来た。煌輝相手にいくつも魔法を使うよりも、単一魔法で攻める方が将率は高いという結論に至ったのだろう。特化型は汎用型に比べて魔法の発動スピードは速いのだ。

 双方舞台上でCADを構えて試合が始まるのを待つ。シグナルが点きやがてすべてが消え、ブザーが鳴り試合が始まる。

 煌輝と三校の生徒は始まった瞬間引き金を引く。煌輝が引き金を引いた瞬間氷柱を破壊できるのに対し、三校の生徒はやはり振動魔法だろう。煌輝が氷柱を三本ほど破壊する間にようやく一本倒せると言ったペースだ。煌輝は引き金を引き続け、やがて氷柱をすべて破壊し終える。煌輝が十二本倒し終えた時点で三校の生徒は四本破壊し終えたところだ。

 続いて準決勝、またも三校の生徒だ。今回は剣道の袴を着ての登場だ。袖を袂で結んで腕の自由は確保している。

 双方が特化型CAD。今大会は『ピラーズ・ブレイク』で最も特化型CADが使われた新人戦となるだろう。

 試合が始まり双方引き金を引く。相手は加速魔法で空気を熱し氷柱を溶かしに来た。しかし一つの氷柱を溶かすのにかなりの時間を要している。煌輝は引き金を容赦なく引き続けすべての氷柱を破壊し終えた。

 煌輝は無事決勝進出。恐らく将輝も問題なく決勝に進出してくるだろう。

 女子の方は上位三人を一高が独占するという快挙を成しえたらしい。深雪、雫、エイミィの三人がそれぞれ競うか、それとも同率優勝という形にするかという提案がなされた。その討論の結果、決勝として深雪対雫という形になったようだ。

 男子『ピラーズ・ブレイク』の新人戦の決勝は≪一高の一条煌輝≫対≪三校の一条将輝≫となり、九校戦始まって以来最高の盛り上がりとなった。

 決勝の時間は当初同じ時間の予定であり、双方の決勝を両方同時に見ることができないと会場内は騒がれていた。

 ついに決勝が始まる時間となった。相手は将輝とあって今までとは集中力が段違いだ。

 将輝の衣装は煌輝と同じライダースーツ。偶然同じ格好となった。これも双子故なのだろうか。

 煌輝と将輝が入場すると一気に歓声が上がる。男子の方は女性の観客の比率が多いようで、女子の方は男性の観客が多いのだろう。

 双方がCADを抜いて開始まで待つ。今までよりも時間の流れがゆっくりに感じる。周りの音は一切耳に入って来ず、ただ始まりの合図を待ち続ける。

 シグナルが点滅し、青から黄色、黄色から赤、赤いシグナルが消えスタートの合図が鳴る。

 双方引き金を同時に弾く。次々と引き金を引き続け氷柱を破壊し続ける。しかし微妙に煌輝の方が将輝よりも破壊するペースが遅い。時間を計測しているわけではないが一回の爆裂を発動するのに掛かっている差はおよそ0.1秒。全ての氷柱を破壊し終えるまでには二秒もの差が生まれてしまう。

 引き金を引き終えたタイミングは煌輝と将輝が同じだった。しかし魔法発動スピードの差で将輝が先に煌輝の氷柱を破壊し終える。将輝が煌輝の氷柱を破壊し終えた約二秒後、将輝の氷柱をすべて破壊し終えたがすでに勝敗は決していた。

 男子新人戦『ピラーズ・ブレイク』は第三高校の一条将輝の優勝。第一高校の煌輝は準優勝で幕を閉じた。

 

* * * * * * * * * *

 

(畜生……畜生、畜生!畜生!!)

 

 煌輝は退場した後、控室でただ敗北の悔しさを噛み締めていた。

 

(負けた……将輝に負けた。一番、誰よりも負けたくなかったのに!)

 

(始まる前から結果はある程度予測できていた?そんなことは関係ない!魔法の発動速度が将輝の方が早いから?違う!それはただの言い訳だ!)

 

 控室の壁を殴り続ける。自らの拳が割れていることを厭わずに。

 

(ただ負けたくなかった……一緒に育ってきたからとか、双子だからとか、そういうのは一切抜きにしても、将輝にだけは負けたくなかった!)

 

 悔しさのあまり涙が流れてくる。堪えきれずに嗚咽も漏れ出てくる。

 

「畜生!!!」

 

 もう一度壁を殴り、完全に拳が砕け、喉が枯れるまでその絶叫は止まらなかった。




ここで負けたのは意味があると思います

常に勝ち続けられるわけではないということですね

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