ハートネットさん、申し訳ありません
今日は国立魔法大学付属第一高校の入学式だ。
七草家と十文字家には昨日、挨拶を済ませた。十文字家では特に何もなかったが、七草家の方で双子の妹の香澄さんと泉美さんにあっていろいろと聞かれた。
煌輝は言われた時間より早い七時五十分ほどに一高へと到着していた。早速リハーサルがされているであろう講堂へと行こうとしたのだが、校門前で一組の男女が何やら言い争っていた。
「納得できません!」
「まだそんなことを言っているのか・・・」
「なぜお兄様が補欠なのですか!?本来ならばお兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」
お兄様、と言っているということは兄妹なのだろう。それにしても似ていない。妹の方は十人中十人が振り向くような容姿をしているのだが、兄の方は平凡な容姿をしていた。
この妹に、将輝なら一目惚れしそうだな、とどうでもいいことを考えていた。
「魔法科高校なんだから、ペーパーの試験よりも実技が優先されるのは当たり前だろう。俺としては、補欠としてでも入学できたのはラッキーだと思ってるからね。それに、今年は何故か一条の片割れが一高に入学してくるんだ」
その一条の片割れが今ここにいるのだが・・・
「そんな覇気のないことでどうしますか!勉学も体術もお兄様に変えるものなどいないというのに!魔法だって本当なら――」
「深雪!」
妹、深雪が何かを言いかけたところで兄の方がきつく叱責をする。その雰囲気に多少なりとも驚いてしまった煌輝は、物音を立ててしまい校門前で言い争っている兄妹に見つかってしまった。
「ああー、えっと・・・すまない。盗み聞きをするつもりはなかったんだが」
「いったいどこから聞いていた?」
兄の方が先ほどよりも強い剣幕で滲みよってきた。
「『納得できません!』から・・・」
「最初からじゃないか・・・」
「何の話をしていたか知らないけど、俺がここで聞いた話は全部忘れることにするよ」
「すまん、助かる。それよりも、どうしてここに?俺が言うのもなんだが、入学式までまだ時間はだいぶあるぞ?」
「ちょっと挨拶をしておかなくちゃいけない方がいてさ。リハーサルが始まる前までに済ませておきたかったんだけど、校門前で痴話喧嘩をしているところに踏み込む度胸は流石になくってさ・・・出て行きづらかったんだよ」
「そうか、すまない。所で痴話喧嘩とは一体なんだ?」
「言葉の綾ってやつだよ。男女が言い争ってたら、兄弟でも痴話喧嘩って言いたくなるだろ。じゃあ俺はそろそろ行くよ」
「ああ、引き留めて悪かったな」
そう言ってその場を後にして行動へと向かう煌輝。そう言えば名前を聞いてなかったが、今後会うことがあるか分からないから別に構わないかと思い直した。
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「おはようございます、七草さん」
「あら、おはよう。一条君」
行動に入って少し見回すと、七草さんと他の生徒会役員であろう人物、それと腕に腕章を巻いた人物が目に入ったので、挨拶をさせていただく。
「初めまして、一条煌輝です」
「摩利、彼が風紀委員に入ってくれるって言ってた一条くんよ」
「ほう、君があの一条の。私は風紀委員長の渡辺摩利だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします、渡辺先輩」
「だが風紀委員でいいのか?お前も首席なんだから、生徒会役員の方がいいのではないのか?」
「自分はデスクワークよりも体を動かしている方が性に合っているので。もう一人の首席の方に役員はお任せしたほうがいいと思いまして」
「確かに、一条のネームバリューは風紀違反の抑制にはもってこいだな。いいだろう、入学式が終わった後、生徒会室へ来てくれるか?そこで風紀委員についての説明をしようと思う」
「分かりました。ところで七草会長、もう一人の首席の方はまだお見えになっていないのでしょうか?」
「もうすぐ来ると思うわよ。そろそろリハーサルが始まる時間だし・・・あ、来たわよ」
そうして行動の入口の方へ目を向けると、先ほど痴話喧嘩をしていた妹の方がやってきた。
「一条君、彼女が今回新入生総代の挨拶をしてくださる司波深雪さんよ」
「ああ、どおりであんなに早く来ていたわけですね。始めまして、司波さん。一条煌輝です。この度は新入生総代の挨拶を押し付ける形になってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず。事情は七草会長から聞いていますから。改めまして、司波深雪です。下の名前で呼んでくださって結構ですよ?兄の方と、区別がつきにくいでしょうから」
「そうさせてもらいます、深雪さん。リハーサルと本番、頑張ってください。応援してますから。では」
そう言って行動を後にする煌輝。入学式が始まるまではこれで完全に手ぶらになってしまうため、どこかで時間を潰そうと考えていた。
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とりあえず座って時間を潰せる場所を探して中庭に来ると、深雪の兄である人物が、何やらタブレットを開いて座っていた。
「隣いいか?」
そう声をかけて、顔を上げる。
「ああ、構わない」
「サンキュ、さっき妹の方と会ったぞ。首席だったんだな」
「ああ、自慢の妹だよ」
「知ってるかもしれないけど一応、一条煌輝だ。よろしくな、司波君。俺の事は煌輝でいいぞ」
「司波達也だ。俺の事も達也で良い。司波だと、妹と区別がつきにくいだろうからな」
「深雪さんにも同じことを言われたよ」
そこで会話が途切れて、特にすることもないのでボーっとしている。入学式の事前準備だろうか、在校生たちが忙しなく動き回りながら、何やらこちらを見てひそひそと話している。
「ねえ、あれって雑草じゃない?」
「なんでこんなに早く来てるのかしら?」
「所詮、スペアなのにな」
下らない。一科生だろうが二科生だろうが大して変わらないだろ。寧ろエリートぶって才能に胡坐をかいている一科生よりも、二科生の方が面白い人材は意外と眠ってるんじゃないかと思う。
「そろそろ時間だぞ」
「ああ、すまない」
そうして二人は行動へと向かった。
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講堂はものの見事に前半分が一科生、後ろ半分が二科生と綺麗に分かれていた。座る席は自由なのだが、ここでも一科生と二科生の差が出てきてしまっている。
波風立てることは趣味じゃないので、達也とはそこで分かれて前の方へと適当に座る。
「隣、いいですか?」
特にやることもなく、ただ座っていると、後ろから声をかけられた。髪をおさげで結んでいる少女と、ショートボブ?の少女だった。
「どうぞ」
特に断る理由もない。少女二人は隣に座ると、自己紹介をしてきた。
「あの、私光井ほのかって言います。よろしくお願いします」
「北山雫、よろしく」
「ご丁寧にどうも。一条煌輝だ。よろしくな」
「一条ってあの一条?」
「その一条だよ、北山さん」
周りに座っている生徒が少しざわめきだす。近くに座っていたのが一条家の御曹司だとは思わなかったようだ。
そうこうしているうちに入学式が始まる。深雪の新入生総代挨拶は『皆等しく』とか『一丸となって』とか『魔法以外にも』など結構ギリギリなフレーズが組み込まれていた。
入学式がつつがなく終わり、個別のIDカードが配布されるためその場所へと向かう。
「一条さんはどこのクラスですか?」
「A組だ」
「私もA組です。これからもよろしくお願いしますね」
「私も」
「ああ、よろしく」
「この後って、どうされるんですか?」
「生徒会長に呼び出されててね。新入生総代の挨拶を断ったお詫びとして、風紀委員に所属することになったからそれの確認に生徒会室に向かうんだよ」
「そうなんですか、では私たちはこれで失礼しますね」
そのままなし崩し的に一緒に行動をしていた二人と別れて、一人生徒会室へと向かった。
煌輝の容姿は将輝と瓜二つです