帰りたい。そう思わざるを得ないくらいの混雑だ。最も人が多いメイン通りを見回ろうと思ったのが、間違えだった。
しかしそうも言ってられない。そこかしこで魔法の実演がされているためいつどこでトラブルが発生するかどうかわからないのだ。メイン通りを注意深く見ていると後ろから何やら叫び声が聞こえてきた。
「おらおらおら!どきやがれ!」
「きゃーーー!!」
二人の女子生徒が何やら横に抱えられて連れ去られていく。あまりの出来事に一瞬呆然と仕掛けるが、これはいくら何でも部活の演習ではない。
そう決めつけて胸ポケットのに入れているレコーダーの電源を入れて、先ほど連れていかれた方へと向かう。普通に走ったのでは確実に追いつかないため、自己加速術式を展開して追いかける。
「そこの女子生徒を連行している奴、止まれ!風紀委員だ、魔法の不適正使用のため連行させてもらう」
「ちっ!風紀委員か・・・追いつけるもんなら追いつてみやがれ!」
ボードに乗った女子二人がスピードをさらに上げる。捕まっている女子生徒には申し訳ないが、少し実力行使に出させてもらう。
CADを操作し圧縮空気弾を発射する。威力はかなり抑えてあるが、当たれば確実に吹き飛ぶ。その圧縮空気弾を回避することに全力を傾けているために、どうしてもスピードは落ちる。自分はさらにスピードを上げて追いかける。
しかし追いつきそうになると向こうも被弾覚悟でスピードを上げる。圧縮空気弾では効果が薄かったため、偏倚開放に魔法を切り替える。圧縮空気弾を弾丸と例えるならば、偏倚開放はロケットランチャーの爆発後の攻撃のような範囲攻撃だ。全力で飛ばしている中躱しきれずに抱えていた女子生徒が吹き飛ばされる。
二人を助けるために荷重軽減の魔法を使って二人の女子生徒をわきに抱える。二人もいるとこうして受け止めるしかなかったのである。
「「一条さん?」」
「光井さんと北山さんか、無事か?」
「うん、私たちは大丈夫だけど、あの人たちは・・・?」
「魔法不適正使用と強制連行だ。制服でもないし部活動のユニフォームでないところを見ると卒業生だろうから、委員長に報告を入れておく。そのうち来ると思うから、見張っといてくれ」
「うん、分かった」
その場を後にして摩利へと報告を入れる。呆れたような口調になっていたが、煌輝の看過するべき所じゃない。
なお、北山さんと光井さんは先輩方の熱心なアプローチの甲斐あってか、SSボード・バイアスロン部へ入部することとなった。
* * * * * * * * * *
一通り見て回るが、馬鹿騒ぎをしているだけで問題らしい問題は起こっておらず、今日はこれで終了かと思った矢先、風紀委員の連絡コードに連絡が入った。
『こちら第二小体育館、逮捕者一名、負傷しているため、担架をお願いします』
達也が体育館で逮捕者を確保したらしい。そして煌輝のアドレスに摩利からプライベートの着信が来る。
『一条、至急達也君の応援に第二小体育館に向かってくれ』
「了解しました」
急いで第二小体育館に向かう。到着し、中の様子を見てみると剣術部の部員が達也に襲い掛かっていた。魔法を使おうとしている者もいたが、達也の両腕についているCADを操作すると、魔法式は霧散してしまう。地面が揺れたような感覚に襲われ、酷い人は膝をついて苦しんでいるものまで出ている。
そのことに堪忍袋の緒が切れたのか、剣術部が総出で達也に襲い掛かるが、達也の方からは一切反撃せずに、剣術部の部員たちはみな例外なくあしらわれていた。
* * * * * * * * * *
達也が剣術部の騒動を収めてから、一週間が経過した。達也は見回りの途中に何度も襲われたようだが、証拠がないため逮捕することはかなわなかったらしい。ここは三校かよ・・・と思ったのは煌輝だけなのだろうか。
そうしているも通りの放課後が訪れようとしていたとき、
『全校生徒のみなさん!!』
急に校内放送が流れてきた。急な放送と、大きすぎる音量に顔を顰めるものが大勢いた。
『失礼、全校生徒の皆さん!僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
この時点で煌輝の端末に摩利から放送室へ集合するように連絡が来たため、放送室へと向かう。
放送室にはすでに生徒会の鈴音、あずさ、風紀委員長の摩利が到着しており、少し遅れて他の役員たちも到着した。
立てこもり犯はマスターキーごと手に入れたらしい。
「明らかな犯罪行為じゃないですか!」
誰かがそう発言すると鈴音が
「その通りです。だから私たちも、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応するべきでしょう。」
「こちらが慎重になったところで、向こう側の聞き分けが良くなるとは限らない。多少強引にでも短時間の解決を図るべきだ」
生徒会側の意見と風紀委員側の意見がきっぱりと別れているため、踏み込むに踏み込めないのだろう。
「十文字会頭は、どうお考えですか?」
達也が克人に訊ねた。この場面で克人に聞くのはかなりの勇気が必要だろう。
「俺は彼らの要求する交渉に応じてもいいと思っている。もとより言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、今後の禍根を残さないことにつながるだろう」
「ここは、待機するべきだと?」
「それについては判断しかねている。不法行為を見逃すわけにはいかないが、学校の設備を破壊してまで解決を要する犯罪性があるとは思えないからな」
そこまで聞いて達也が自分の携帯端末を取り出し、どこかに電話をかける。
「もしもし、壬生先輩ですか?今どちらに?・・・はぁ、放送室にいるんですか、それはお気の毒に」
壬生、剣道部の壬生紗耶香だろう。剣道部と剣術部の諍いに関わって、その後個人的に会う機会があったようだ。
「いえ、馬鹿にしているわけではありません。先輩ももう少し冷静に状況を・・・それで、本題に入りたいのですが。十文字先輩は交渉に応じてもよいと仰っています。生徒会の意向は未確認ですが・・・いえ、生徒会側も応じるそうです。というわけで、交渉の場所や日程やらについての打ち合わせをしたいのですが。・・・ええ、今すぐです、学校側の横やりが入らないうちに。・・・いえ、先輩の自由は保障します。では・・・」
そう言って通話を終了する。
「すぐに出てくるそうです。それで、取り押さえる為の態勢を整えるべきでしょう」
「自由を保障するんじゃなかったのか?」
「俺が保証したのは壬生先輩の自由です。それに、風紀委員の代表として交渉しているなどとは一言も言ってませんから」
「人が悪いんですね、お兄様も。・・・ところで、壬生先輩のプライベートナンバーを保存していらした件については、後程詳しくお聞かせくださいね?」
放送室から出て来たところを、風紀委員のメンバーが取り押さえる。沙耶香は達也に食ってかかっていたようだが、こちらは他の人員を取り押さえているため、向こうがどうなっているかは分からない。
そうこうしているうちに、真由美が放送室へと到着した。交渉についての日程などを詳しく決めたいから、ここに取り押さえられている人たちを解放してあげて、との事らしい。
有志同盟側を代表して沙耶香が、それと生徒会長である真由美と部活連の会頭である克人が一緒に日程などを決めるらしい。他の生徒会役員や風紀委員はその場で解散となったため、煌輝も帰ろうとしたところを真由美に声をかけられてた。
「一条君も、一緒に来てくれる?」
それは第一高校の風紀委員としての一条煌輝ではなく、十師族一条家の一条煌輝に対してであることを、煌輝はその場で理解した。
今年もよろしくお願いします