この素晴らしい灰の心は折れている 作:最初の死者ニート
逃げるものを追い、隠されたものを暴き、正義を誇る狂人が
そして往々に、覚悟だけは足りぬものだ
ヴィルヘルム
ギルドの酒場、その隅の席にて、その女は居た。
薄汚れた騎士甲冑に中盾を背負い、そして直剣を鞘収め持ち歩いているものの、戦闘意欲などを感じさせず、まるで長生きした老人のような疲労感を漂わせながら。
料理を頼んで食べてるわけでも、だからといってパーティーメンバーを待っている訳でもない、そこにいるだけの騎士。
周りでは”臆病者の騎士”などと呼ばれている。
クエストに行ってない訳では無い。
だが彼女が受けるのは決まってそこまで難易度の高くないものだ。
ジャイアントトードの討伐などを受け、成功して帰ってきたら報酬をもらい、また席に戻る。
その生活を繰り返している。
他にすることといえば、話しかけてきた者に覇気を感じさせない疲れたような声で喋るか追い返したり、初心者にアドバイスと皮肉を送ったり、または金をあげたり…人として悪いことはしていない。
周りからの印象は、ステータスはいいのに積極的にクエストに行かず、その才能を捨ててしまっている人、という印象だ。
そんな彼女の話だ。
私は今、困惑している。
目の前の青髪の美少女は困惑している私を他所に未だよく分からないことを喋っている。
この世界のアクシズ教、その御神体である女神アクアだと言うのだ。
…だが残念ながら私が崇拝するのは太陽だ。
そういえば久しぶりに英雄グンダの前で太陽の戦士として手助けに行きたいな。
まぁ…輪の都すら攻略できない私が居ては足でまといになるかもしれないが。
話が逸れた。要約すると目の前の美女…アクアはお金を貸してほしいらしい。
別にそれはいいのだ、いつもの事だし。
ただこれだけは伝えておくべきだろうか。
「お金を貸すのはいいが、私が信仰するのは太陽だけだ…」
「あ、すみません…」
「…幾ら欲しい。」
「えっと、二千エリスほど…」
「……持っていけ。これだけあれば宿代と、最低限の武器…まぁ短剣を買っても足りるはずだ。」
と、私は五万エリスを渡す。
「え!?こんなに貰っていいんですか!?」
「構わない…どうせ私には無用の長物だ…連れがいるのだろう?もう行け…貴公らの旅路に太陽の導きがあらんことを…」
「あ、ありがとうございます!」
お辞儀をしてからバタバタと駆けていくアクア。
奇怪な格好をした少年が渋い顔をしながらアクアを見て、暫く会話をした後に思いっきり頭を叩いた。
アクアを引き摺ってこちらへ歩いてくる少年は非常に申し訳なさそうな顔をしながらこちらへ頭を下げた。
「この駄女神が迷惑かけてすみません…全額返した方が…」
「いや、構わんよ…本当に無用なのだ…」
「ありがとうございます…!」
実に律儀だ。
私がいたところでは狂った闇霊として入り、ホストに残り火を99個ほど渡して、共に攻略しよう!と剣に誓ってをやったにも関わらずバックスタブから白霊と共にタコ殴りにしてきた者もいた。
あれは素直に泣きたくなった。
…まぁそれはいいだろう。
少年はそのままギルドの受付へと歩いていく。
冒険者登録のためだろう。
私は暫く席を外すことにした。
そろそろ風呂へ入らねばならない。
風呂というのは最初は馴染めなかったが、まぁ身体が清潔になるのは素直にいい事だ。
誰もいない時間にしか入れないが。
亡者という訳では無いのだが、生憎全身傷だらけなせいで普通の女性には見せてはいけない。
その後、ギルドでちょっとした騒ぎがあったらしいが私は知らない。