この素晴らしい灰の心は折れている 作:最初の死者ニート
脱走者ホークウッド
装備に間違いはなかった。
信仰50、太陽の光の槍なども太陽の長子の指輪などでブーストし、無名の王の竜を数発で屠ふ威力にし、ロングソードを雷派生にし、これも同じく無名の王の竜を致命三回で屠る。
竜紋章の盾でブレスにも対応し、死角は無いはずだった。
だが、倒せない。
一回目はブレスの後のレーザーで盾を構えた腕ごと両断され、認識もできずに死んだ。
二回目はレーザーを回避した後横薙ぎ(周囲の地面へ向けたレーザーと言った方がいいのか?)もギリギリで回避し、頭を狙うと回避が遅れるため足を攻撃していたら奴が動き、尻尾に全身の骨と内臓をぐちゃぐちゃにされ吹き飛ばされ死んだ。
三回目は尻尾に攻撃されないよう立ち回っていたが、ブレスと勘違いし噛みつかれ、下半身を噛みちぎられて痛みに悶えているところを食われた。
四回目は…
五十二回目は、後一歩のところで死んだ。
太陽の雷の槍を頭に一発ぶち込めば死ぬところまでいったんだ。
その時は瀕死でエストももうない、灰瓶も使い切り太陽の光の癒しも使えないほどだった。
だが雷の槍は使えた、ギリギリなものの、一発は打てる。
私は雷の槍を奴の頭目掛けて投げた。
ブレスが終わり、レーザーを放つ直前だった。
当たる直前、やつはレーザーを放ち私の右半身をもっていった。
だが、当たった、死んだだろうと思っていた。
だが奴の体力は本当に少し、十数くらいだろうか?残ってしまった。
私はそれに絶望しながら、横薙ぎのレーザーに上半身を消し飛ばされ死んだ。
悲しみすらなかった。
もういいじゃないか。
ゲールを殺し、顔料を絵描きに届け、火も何度も継ぎ、奪い、消した。
螺旋の運命から逃れられないのは最早良いとして、なぜ私はここまで奴に…ミディールに挑まねばならない?
フィリアノールはもういない、なら既に亡き者の願いを叶える道理はないだろう。
ミディールが闇に呑まれようが知ったことではない、勝手に滅んでくれ。
いいじゃないか、もう。
ラップは救った、ヨエルも救った、誰も彼もを救った訳では無いが、救える者は全て救った。
願いも聞いた。
火を継いで、火を奪って、火を消して。
もう、いいじゃないか。
気が付いたら火継ぎの祭祀場に戻っていた。
王たちの薪が玉座の上にある。
それは私が幾度と無く同じことをして積み重ねたもの。
だがそれが今の私には、ただの生贄共の亡骸にしか見えなかった。
無性にかつての知り合い達と話をしたくて、アンドレイやカルラ、パッチや火防女に話に行った。
まぁ、私は特に何も言わなかった。
ただ一言「ありがとう」とだけ行って、私は祭祀場を出た。
まるで逆戻りするように私はかつてグンダが居た場所、そして自分が目覚めたところに来た。
ああ、篝火の火などではない。私が帰るべきはここなのだ。
倒れ込むように底へ沈むと、あぁこれが何とも落ち着く。
このまま狂った亡者になろうがどうでもいい。
ただ、此処で眠らせてくれ。
侵入者にすらまるで赤子の手をひねるように容易く殺されるような者はいらないだろう?
優位に立ってなお勝てない者はいらないだろう?
瞼が落ちていく、それに抵抗することもなく、ただ視界が暗転するのを待った。
あぁ、安らかな眠りなんて何時ぶりだろう。
眠ることがまずなかったな、なんて思いながら、私は眠った。
静かに、甲冑の中で寝息が反響するのを聞きながら。
気が付いたら…本当に気がついたら、平原にいた。
今や見慣れた美しい緑の平原。
生贄の道なんて目ではない、とても美しく、そして私が不死になる前、ただ静かに騎士であった父の趣味の農作業を見ていた少女であった時に何度も見た懐かしい風景。
最早風化しよく思い出せないその光景が酷く懐かしく、しばらく見入っていた。
しばらくして我に返り、ここに居てもなにも始まらないだろうと考え、歩き出した。
方角もなにもわからないため兎に角歩いていると、巨大な壁と、その前でスケルトンの大群と戦う人間を見た。
スケルトンで真っ先に思い出したのはカーサスの戦士達の亡骸だ。
彼らは強かったが、ファランの大剣でこちらが先手をとって封殺できたな、と考えファラン一式、ファランの大剣、生命の指輪+3、狼の指輪+3、狩人の指輪、騎士の指輪をつけ、スケルトンの大群の後ろから奇襲する形で攻撃を開始する。
カーサスの戦士達を想像していた私にとって、そのスケルトン達は異様に脆く、短剣を地面に突き立て大剣を振り回しているだけで殲滅は余裕だった。
指揮官のような奴もいたが、スカしたようにみせかけ攻撃を誘い、回転薙ぎで楽勝だった。
その時の私は純粋に驚いていた。
何故こんなに脆いんだ?と。
こんなに無双できたのは久しぶりだった。
いつもこうできればなんと嬉しいことか。
さて、まだスケルトンは残っている、殲滅せねばと後ろを見れば、ちょうど「私は純魔で、結晶槍は即死級威力です」と言うような見た目の女が襲われそうになっていた。
こちらにまるで「バクスタをしてください」とでも言うように背中を向けて。
そんなにしてほしいならしてやろう、ということで後からゆっくり近付き背中にドスッと大剣を突き刺し無力化。
純魔は無事らしい、少し唖然としながらこちらを見ている。
まぁ無事なら良い、言葉を交わすことなく私はスケルトンの群れに突っ込んで中心で回転するだけの簡単なお仕事に戻った。
結果、数十分でスケルトンの軍隊は殲滅された。
久しぶりに無双ができた喜びと心地良さは絶頂に値する。
爽快感、圧倒的爽快感。
これが私がされてきたことか!
これが奴らの気持ちか!
これがミディールの気持ちか!
そこらの石を蹴り飛ばすように私の命を刈り取っていた奴らの気持ちか!
あぁ、なんと素晴らしい気持ちだろう!
感謝を!をしながら私は心の中で叫ぶ。
あぁ!神よ!私をこの世界に送った神よ!感謝します!貴方からの命令ならば、たとえどんなことでも成し遂げましょう!神敵を討てというならば、その者達の耳と舌を捧げましょう!
───え、そんなことしなくていいです
そうですか…
と、神のお声を聞いていた私は「あの…」と声をかけられやっと我に返った。
「…なんだ。」
「先程は助けてくれてありがとうございます。私はウィズと申します。あなたの名前は?」
…名前、名前か…
本当に今更だが、私は名前を忘れてしまっている。
………適当でいいか、装備から貰おう。
「ファラン。しがない旅人だ。」
旅はしている、嘘は言っていない。
「ファランさんですか、よろしくお願いしますね。」
「ああ。」
その時、私はこのウィズと長い付き合いになるのだが、今は語るべきではないだろう。
こうやって振り返ると自分はなんであのような能天気さでスケルトンに戦ったんだろうと思う。ファランだ。
こうやって現実逃避をしていることには理由がある。
私の目の前には厳つい男がいるのだが、この男、席がないから私に席を譲れというのだ。
しかも長々と自分のあきらかに作り物の武勇伝を言う始末。
竜なんぞ私でもこの世界でも、前の世界でも倒したぞ。技バサ舐めんな。
「私は席を譲る気は無い。ここは私の特等席だ。」
と何度も伝えているがその度に「生意気なんだよ約立たずが」と言ってくる。
まずお前とあったことすらないというのに
私はよくこうやって絡まれるが、ウィズがいるからな。
元気にやっていこうと思う。
あ、だが厳つい男は容赦しない。
少し話し合ってもらったが、わかってくれたようだ。