ロウきゅーぶ!〜バスケはないけど大丈夫だよね〜   作:秋兎。

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高校の入学を目の前にし、両親が事故で亡くなった。
行く予定だった高校を諦め、俺は養子としてこの街にやってきた。


出会い。

目の前には、白木の門がそびえ立つ。門の右柱には、木製の板に「湊」と刻まれた名札が取り付けられていた。そう、この純和風建築の家こそが、俺が今日からお世話になる湊家である。

 

 

 

「いざ家の前まで来るとやっぱり緊張しちゃうな・・・」

 

 

おろしたての茶色いスーツに身を包み白いシャツに赤いネクタイを合わせ、自分が持っている服の中でも一番の正装でこの場所に立っている。

駅を降りてから、住宅街の中を歩いて来たが、規模だけで言えばこの家が1番の大きさだろう。和風ということもあり、そこはかとない荘厳さに包まれている。

だが、このままここにいるわけにもいかない。門に近付き、インターフォンを押して反応を待つ。

 

『はい』

 

「こ、こんにちは。本日からこちらでお世話になる高嶺徹です」

 

『おー、徹くんか! 遠い所からよく来たね。入りたまえ』

 

「はっ、はい! 」

 

聞こえてきた声はこの家の主人ーー湊忍(みなと しのぶ)さんのものだった。両親の葬式で一度顔を合わせだぐらいの関係だが、落語家である忍さんの声はとてもよく通る。分かりやすい声質だったため、すぐに誰だか理解した。少し上ずった声で名乗ってしまったが、忍さんは明るい口調で迎え入れてくれた。

美しく整えられた庭を眺めながら玄関までの石畳を歩く。隅々まで手入れが施されていてとても綺麗な風景だ。

 

「お、お邪魔します」

 

玄関まで来ると引戸が開いていたのでそのまま中に入る。

 

「いらっしゃい。今日から家の子としてよろしく頼むよ」

 

目の前で腕組みをして立って迎えてくれたのは、先ほどの声の主である忍さん本人。その出で立ちは、まさにこの家の主人である事を物語っている和装をまとっていた。

「お久しぶりです。徹さん」

 

すると、後ろから一人の女性が近付いて来た。

静かに微笑むこの人は、湊花織(みなと かおり)さん。忍さんの奥さんだ。

2人は俺の両親の高校の時の同級生だった。両親が亡くなり、親戚もいなくて行くあてのなかった俺を、養子として預かると言ってくれた。

最初は、新しい環境で暮らしていく事や、養子になって苗字が変わる事への迷いがあったのだが、両親からは以前から友人の話を聞かされていたため二人のことは知っていた。

信頼されていた二人であったからこそ、俺自身もここに来ることを決意したのだ。現にこうして家庭に迎え入れてくれたことにはとても感謝している。その恩をここで暮らす中で出来る限り返していけたらと思う。

玄関で一通りの挨拶を済ませると、家の中へと案内される。外から見た通り、やはり中も相当広い。廊下を進んで行くと前を歩いていた花織さんが足を止めた。

 

「ここが、今日から徹さんの部屋です」

 

襖を開けて中に招き入れられる。部屋の中は、六畳ほどの大きさで隅の方にテーブルと反対側にはタンスが置かれていた。

 

「部屋にある物は自由にお使いください。あとで布団もお持ちしますので」

 

「ありがとうございます」

 

何だろう、この部屋に入ってからというもの少し懐かしい感じがする。

 

「徹くん、君がこの部屋を使うのは…いや、この家に来るのは2度目なのだが覚えているかね?」

 

「えっ⁉︎」

 

後ろにいた忍さんが意外な事を聞いてきた。確かに、懐かしい気はしていたが気のせいでは無かったようだ。

でも、いつ来たのだろう。

 

「徹さんが、まだ小学校一年生ぐらいの時に一度お父さんとお母さんとで遊びに来た事があるんですよ」

 

「そうだったんですか。……すみません。全然覚えていなくて」

 

「うふふ、覚えてなくても無理はありませんよ。あんなに小さかった時の事ですから」

 

「あの徹くんが、こんなに立派になるとは。あいつの面影がある」

 

忍さんのいう「あいつ」というのは、父さんの事だろう。周りからはよく似ていると言われてきたからな。

 

「でも、髪はお母さん譲りですね」

 

花織さんは、優しく俺の髪に触れた。少しフワフワした髪質は母親譲りで、小さい時はコンプレックスだったが、今となっては自慢の髪質だ。

2人にじっと顔を見つめられ、少しこそばゆくなってきた。

 

「あ、そういえば。家に来た時に撮った写真があったはずです。少し待っていてくださいね」

 

そう言うと、花織さんはスタスタと部屋を出て行ってしまった。待っている間に荷物の整理でもしようと鞄を広げる。荷物は大した量はなく、最低限の物しか持ってきていない。

しかし、こんなにいい部屋に住まわせてくれるとは思ってもみなかった。前にいた家よりも正直豪華だ。

 

「花織が戻ってくる前に、着替えてはどうだろう。今日から君は、家の家族になるのだからもう少し楽にしてくれても構わんよ」

 

「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」

 

「ああ。もし、必要な物があれば遠慮せずに言ってくれ」

「はい」

 

失礼ながらも、暖かい微笑みを向けてくれる忍さんの前でさっそくスーツを脱ぎ、部屋着へと着替え始める。

優しいな。忍さんも花織さんも本当の家族みたいに接してくれる。この二人なら父さんも母さんも安心して見守ってられるだろう。でも、やっぱり二人をお父さん、お母さん呼びにするには相当な時間がかかると思う。しばらくは今まで通りになってしまうだろうな。そんな事を考えながらきっちりとしたスーツ姿からラフなパーカー姿へと着替えた。

着替えを終えて、しばらく忍さんと雑談混じりの会話をしていると、

 

「お待たせしました〜」

 

花織さんが一冊のアルバムを持って戻って来た。目の前でアルバム開き、写真を見せられる。

そこには、小さい頃の俺と、父さんと母さん、忍さんと花織さんが写っていた。

そして、

 

「あの、花織さんが抱っこしている子は?」

 

写真の中の花織さんは、一人の女の子を抱っこしていた。

 

「ふふ、その子は娘の」

 

ガラガラガラ

『ただいまー』

 

質問の答えを聞く瞬間、玄関が開く音と同時に声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

なぜ、こうなった。

現在、俺の目の前には、ほくろがチャームポイントなショートカットの女の子が机を挟んで宿題に取り組んでいる。

この子の名前は、湊智花(みなと ともか)ちゃん。二人の娘で、この町にある慧心学園の初等部に通う六年生。

智花ちゃんが帰ってきてすぐに、忍さんは仕事へ、花織さんは夕飯の買い出しへと出かけて行ってしまった。

今いる部屋は、なんと智花ちゃんの部屋だ。智花ちゃんの部屋は、俺の部屋から見て廊下を挟んだ正面にある。2人の親睦を深めるとかで忍さんが、提案したらしい。

そして、一人でいるのは、暇だろうからという理由で花織さんが智花の部屋にいるようにと言い残していった。

それにしても、見ず知らずの男を部屋に上げるというのは智花ちゃんにとっては中々のハードルだろう。だけど、拒まれなかったという事は嫌われてはいないのかな?

しかし、部屋に上がってから互いに自己紹介した後は、現在のような沈黙が続いている。一応、これからは兄妹関係になるのだからもう少し仲良くなりたいな。

 

「(よし!)…智花ちゃん?」

「は、はいっ⁉︎」

 

おっと、急に話しかけてしまったのでビックリさせてしまっただろうか。

 

「気になってたんだけど、建物も入り口も純和風なのにこの部屋だけ少し洋風な感じがするんだけど何でなのかな?」

 

この部屋の中は、俺の部屋と違いフローリングのモダンな部屋になっていた。

「えと、私が産まれてすぐ、この部屋だけリフォームしてくれたそうです」

 

なるほど、確かに小さい子供にとっては洋室の方がなにかとつかいやすいかもしれんな。ご両親の愛情を感じる話である。

 

「そっか」

「はい」

 

……会話終了。

くそう、何で俺はこんなにもコミュニケーションを取るのが下手なんだ。今すぐ自分を殴ってやりたいくらいだ。

だが、ここで神様が見ていてくれたのか逆転のチャンスが訪れた。

 

「あのう」

 

目の前にいた智花ちゃんに急に声をかけられた。どうしたのかと思い、顔を上げると智花ちゃんは先程までスラスラ動かしていた手を止めてこちらを見ていた。

 

「ん?」

 

「い、今算数の宿題をしていたんですけど、最後の問題がどうしても解けなくて。も、もし宜しければなんですけど、教えて頂けませんか?」

 

智花ちゃんは、顔を赤らめながらお辞儀をした。

当然俺の答えは、

 

「うん、いいよ」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ、隣座ってもいいかな?」

「は、はい。どうぞ」

 

智花ちゃんは、俺が立ち上がると同時にスススッと座っていた位置からずれて空間を開けてくれた。俺は、そこに座り問題を見る。小学校で習う範囲なら大丈ーーー

 

「ーーんん?」

 

問題を読み終えるとある事に気づく。これ、中学レベルの問題だ。明らかに、俺が小学科の時に習っていた算数とは、レベルが違う。

智花ちゃんの通う慧心学園は、進学校と聞いていたがここまでとは、だが、解けない問題ではない。落ち着け。

 

「…徹さん?」

 

「智花ちゃんごめん、ちょっと計算書かせてくれる?(何気に、今名前で呼ばれなかったか⁉︎)」

 

「はい、大丈夫です…よっ⁉︎。」

 

シャーペンを借りてノートの余白にメモを取りながら計算を始める。中学レベルとはいえ、もう高校生なんだ。とりあえず、小学生で習った時の式を使ってーー

…ふう。何とか理解した。これで分りやすく説明できるはずだ。

 

「お待たせ、この問題はね……ん?智花ちゃん?」

「〜〜〜っ」

 

顔を横に向けると、智花ちゃんは頰を真っ赤に染め、肩をすくめて縮こまっていた。

どうしたんだろう、もしかして夏でもーーー

 

「あ!ごめんっ!」

 

ようやく自分の愚行に気が付いた。

気づけば俺は、問題を解くのに夢中でお互いに肩を密着させて、凄く近い距離にいた。

 

「い、いえっ。大丈夫、です…」

 

すぐに距離を取り、反省する。

 

「…そっか。なら良かったよ。じゃあ、解説始めるね」

 

「は、はいっ!よろしくお願いします」

 

智花ちゃんはすぐに笑顔を取り戻しこちらに向き直ってくれた。

 

解説を終え、宿題も終わり一息着く。

気づけば、智花ちゃんと普通に話せるようになっていた。

 

「智花ちゃんは、俺がこの家に来ることについてどう思った?」

「えっ?」

 

これから先、一緒に住んで行く以上聞かずにはいられなかった。智花ちゃんにとって急に年の離れた兄ができるというのは抵抗があるのかもしれない。会ってからずっと考えていた。

俺は、こんなに可愛い妹ができて嬉しいけど、本人の心境はどうなのだろう。

 

「………」

 

「………」

 

沈黙が続くのが怖い。場合によってはこの家を出て行かなくてはいけないかもしれない。忍さんと花織さんには悪いが、やっぱり。

 

「…もし、智花ちゃんが嫌なら俺」

「嫌なわけないです!」

 

突然の返答に俺は、目が丸くなる。急に声を上げられたのはもちろん、その答えが意外だった。

 

「私、昔からお兄ちゃんに憧れていて、ずっと欲しいと思っていたんです。徹さんが家に来る事を知ってすごく嬉しかった。こんなに素敵な人がお兄ちゃんになるんだって楽しみにしてたんです。だけど私緊張してしまって、全然話せないし嫌われたらどうしようって不安だったんです。でも、こうして話せるようになって、せっかくいい兄妹になれると思っていたのにそんな顔をさせたくなかった」

 

涙を浮かべる智花ちゃんを見てようやく自分がどんな顔をしていたのか気づいた。部屋にあるスタンドミラーには、苦しそうな俺の顔があった。

そうか、不安だったのは俺だけじゃなかったのか。なのに俺は、

 

「…っ⁉︎」

 

俺は、智花ちゃんの頭を優しく撫でた。

 

「ありがとう。こんな頼りないお兄ちゃんだけど、これからよろしくね。智花ちゃ…いや、智花」

「…っ。こちらこそよろしくお願いします。お、…と、徹さん…」

 

智花は、恥ずかしがりながらも、涙を拭い明る笑顔を見せてくれた。お兄ちゃんと呼ばれる日は、まだ先かもしれない。まぁ、俺も慣れないから今のままの方が正直ありがたいけど。

 

これが、俺の運命を変えてくれた女の子、智花との出会いだった。

 

つづく

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。
のんびり投稿して行くのでよろしくお願いいたします。
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