【真帆】「ねーねー、もっかんのにーちゃんってどんな人、どんな人ー」
【ひなた】「おー。ひなも、ともかのおにーちゃんに会いたい」
【愛莉】「私も、智花ちゃんのお兄さんどんな人なのか気になるな」
【紗季】「そうね、家族にお兄さんが増えるって事は聞いてたけど、私もお会いしてみたいわね」
【智花】「ごめんね、みんな。さっき、お母さんが徹さんに買い物を頼んだらしいの。だから、まだ帰ってきてなくて。でも、いつも私の宿題で分からないところを教えてくれて、とても優しい人だよ」
【ひなた】「おー?お兄ちゃんいないの?」
【紗季】「そう、残念ね。じゃあ、そろそろ私たちも帰らなきゃだし、また後日挨拶させてもらいましょう」
【真帆】「えー、帰ってくるまで待とーよー」
【愛莉】「でも真帆ちゃん、お家の人たちも心配するから今日はもう帰ろう?」
【ひなた】「おー。もうこんな時間」
【真帆】「ちぇー。…あっ!じゃあさ、じゃあさ、次の日曜日、またもっかん家に遊びに来てもいい?」
【紗季】「こら真帆!急にそんな事言ったらトモの家に迷惑でしょ!」
【智花】「あっ、家は全然大丈夫だよ」
【紗季】「…トモがそう言うなら」
【真帆】「じゃあ、決まり!ほらっ。もっかんも、こう言ってるし。みんなで宿題持って来て、勉強会って事にすればいいじゃん!」
【愛莉】「楽しそう」
【ひなた】「わぁい。ともかのおにーちゃんに会える」
【紗季】「まさか、真帆から勉強って言葉が出てくるとは思わなかったわ。でも、その意見には私も賛成よ。トモは大丈夫?」
【智花】「私は、大丈夫だよ。と、徹さんにも大丈夫か聞いてみるね」
【真帆】「じゃー、日曜日はもっかんの家に集合ね!」
【みんな】『うん!』
さて、どうしたものだろう。とある男子生徒の生徒手帳を拾ってから早10分が経った。もしかしたらまだ近くにいるかもしれないと思い、店内を探してみたが、それらしい人物は見当たらなかった。
やはり、智花に頼むべきだろうか。落とした事に気付かず、家に帰ってしまったのかもしれない。それに、早く帰らないと花織さん達にも心配をかけてしまう。
とりあえず今日は、帰る事にしよう。
帰宅するために、自動ドアを目指す。自動ドアが開くと、外から走ってきた数人の男の子たちと入れ違いになった。
危ないなぁ。いくら急いでるからって店内で走るのはどうかと思うぞ。
そんな無言の喝を店内を走り抜けて行った子供らの背中に訴える。視線を自動ドアの方に戻し、外に出ようとしたが、
「あれ?」
ふと、ある事が頭に浮かんだ。慌ててカバンにしまっていた生徒手帳を取り出す。今走って行った数人の中の一人と、生徒手帳の持ち主の顔写真が似ていたような気がしたのだ。
手帳を開き、写真を確認する。俺の予感は的中していた。案の定、今の男の子とそっくりなのである。あの慌てようを考えれば間違いなくこの手帳の持ち主だろう。
急いで俺は店内に戻り、男の子を探す。少し早足で店内を巡るが中々見当たらない。どこに行ったのだろう。普通ならサービスカウンターとかを目指すと思ったがその周辺にはいなかった。
再び、入り口付近を探そうと思い首を捻ると右手にあったフードスペースからあの男の子が走っていくのが見えた。これ以上見失うわけには行かないので、店内を駆け抜ける。先程の彼への喝は何処へやら、まさかこの歳にもなって店の中で走る事になるとは。
「君!ちょっと待って!!」
「うわっ⁉︎」
何とか追いつき、男の子の肩を掴む。
「なっ、なんだよお前、離せよ!」
「君、竹中君だよね?」
まさか、小学生に「お前」呼ばわりされるとはな。結構、気が強い子のかもしれない。
「何で俺の名前知って…、もしかして不審者か!もし、そうなら警察に突き出すぞ」
すごいなこの子。いくら無邪気な子供だと言っても勇敢すぎるにも程があるぞ。正にこういった子が、将来は警察官になったりするのだろうな。
そんな事よりも、今はこの現状を打破しなくては。このままだと、本当に御用になりかねないぞ。
「まっ、まって!君、生徒手帳落とさなかった?」
「え?」
ようやく彼は、話を聞いてくれる気になったようでジタバタしていた体を落ち着かせる。俺も、彼に目線の高さを合わせるために屈みこむ。そして、手に持っていた手帳を差し出した。
「これ、俺の生徒手帳」
彼は、手帳を受け取り中を確認する。
「それ、買い物袋に、商品を入れるスペースに落ちてたんだ。名前を知ってたのは、中に持ち主の情報がないかと思って開いたら書いてあったからで、勝手に見てゴメン」
よかった。とりあえず、大事にならずにすんだようで安心した。
今更ながら、卵は無事だろうか。無我夢中で追いかけたので、袋を何処かにぶつけてしまったのではないかと心配になり、すぐさま卵の無事を確認した。…ふう、割れたりはしていないようだ。
「あの、すみませんでした!」
急に、明瞭な声が目の前から聞こえた。
顔を上げると、竹中君が頭を深々と下げていた。
「俺、生徒手帳を落とした事に焦って、回りが見えてませんでした。せっかく拾ってくれたお兄さんに、失礼な事ばかり口走っちゃて。ホント、すみません」
「ぜ、全然大丈夫だよ。急に知らない人に掴まれたりしたら、不審に思うのは当然だろうし」
先程までの威勢が、嘘のように彼はシュンと肩をすぼめる。なんだ、すごくいい子じゃないか。それにしても、こちらも、どうしていいのか分からなくなり、戸惑ってしまう。
「おーい、竹中ー!」
すると、後方から彼を呼ぶ声が響いてきた。振り返ると、竹中君と同じ制服を着た子たちがこちらに手を振る。
「あっ、他の奴らも一緒だったんだ。すみません!俺、行きます。生徒手帳、拾ってくれて本当にありがとうございました」
彼は、もう一度一礼すると、俺の脇を駆け抜けて友人と思われる子たちのもとへ向かっていった。
なるほど、さっき竹中君といた子たちも一緒に探してたのか。色々あったが、ようやく一件落着だ。
さて、それじゃあ俺も帰るとするか。
ーーーーーーーーーー
ようやく家に着いた。
さっそく、靴を脱ぎ台所へ行く。
「ただいま帰りました〜」
台所へ入ると、花織さんは晩御飯の準備を始めていた。
今日のご飯は何だろう。
「徹さん、おかえりなさい。急なお使いを頼んでしまって申し訳ありませんでした」
「いえいえ。いつも美味しいご飯を食べさせてもらってるので、これぐらいの事はお任せください」
「ありがとうございます。ふふっ、頼りにしてます」
俺は、卵と豆腐の入ったレジ袋を花織さんに手渡した。
花織さんは、それを受け取り、感謝の笑顔を向けてくれた。こうしてみると、やはり智花とそこはかとなく似た面影を感じる。
「あっ、お弁当すごく美味しかったです。すみません、昼食まで用意して頂いて」
「どういたしまして。育ち盛りですから、気にせずどんどん食べてくださいね」
「ありがとうございます」
花織さんは、卵と豆腐を冷蔵庫に入れ、夕飯の準備に戻る。さすがに、空の弁当箱を洗わせるわけにもいないので、花織さんに並び、水道で弁当箱を洗うことにした。
「徹さんは、お料理とかはなさるんですか?」
スポンジに洗剤を付け、泡立てていると花織さんが、話しかけてきた。
「はい。花織さんのように、上手にはできませんが、両親が共働きだったので、簡単なものならできますよ」
「そうなんですか。でしたら、今度一緒に料理してみませんか? 私、昔から自分の子供と料理するのが夢で、智花とも料理はするんですけど、お父さんが刃物は危ないからとお菓子作りぐらいしかした事がないので」
そうか。忍さんは、智花のことが大切なんだろうな。それにしても、忍さんも花織さんも、俺の事をもうただの友人の子供としてではなく。本当の子供として、受け入れてくれているんだな。なら、俺もそれに応えたい。
「俺でよければ、ぜひ」
「はい」
花織さんを見ると、柔和に微笑んでいた。
もし、料理をする時になったら智花も誘おう。忍さんの言い付け通り包丁で切る作業は、任せられないだろうが、俺がいれば、一緒に作れるし楽しそうだ。二人も喜んでくれるだろう。
弁当箱を洗い終えると、台所の外から足音が聞こえてきて、
「あっ、徹さん。おかえりなさい」
振り返ると、智花がグラスの乗ったお盆を持って登場した。
着替えていないという事は、智花も帰ってきたばかりなのだろうか。
「さっきまで、智花の友達が来ていたんですよ」
なるほど、どうりでグラスがいくつもあるわけか。制服だったのは、放課後そのまま学友たちと家に帰って来たからなのだろう。
「あのっ、徹さん。後で私の部屋に来ていただけませんか?」
「うん、分かった。部屋にカバン置いて、着替えたら行くよ」
「ありがとうございます!お待ちしてます」
智花は、流しにグラスを入れて、洗い始めた。
偉いなぁ。この歳のうちから、自分の事をしっかりやれるのはすごいぞ。
俺は、テーブルに置いていたカバンを持ち、部屋に向かった。
制服から、部屋着に着替えて部屋を出る。部屋を出て目の前の智花の部屋の襖に手をかけ、一息に開け放った。
「…………………………ふえっ」
「な…っ⁉︎」
そこで、俺が、見たものは。
慧心学園の制服を床に脱ぎ捨て、赤いミニスカートだけを身に纏い、今まさにTシャツを上に着ようとしている最中だった智花の華奢や姿。つまり、今の智花は、スカートを履き、上半身は下着姿が丸見えの状態になっていた。
「あ……あ…」
喉をか細く震わせながら、智花は全身を硬直させ、顔を真っ赤に舐め上げていく。
「ふぁ、ふぁあああううっ⁉︎」
「う、うわああああああっ⁉︎ごめん!!」
俺は、ようやく我に返り、襖を全力で引き戻した。
…やっちまったーーーーー!俺は、襖に背を向け頭を抱えながら蹲る。
まさか、智花の着替えを堂々と覗いてしまうなんて。よく考えれば分かる事じゃないか、俺が台所を出た時に智花はグラスを洗っていたのだから部屋に戻るのに時間がかかる。その後に部屋に戻るとなれば、今の時間帯は着替えていてもおかしくない。
「…徹さん。ど、どうぞ…」
しばらくすると、着替えが終わったらしく、部屋の中から智花に呼びかけられた。部屋に招き入れられて、何とも言えない重々しい空気が漂う。
「智花、ほんと、ごめんな…。部屋に入る前に声をかけるとか、考えて行動していれば」
部屋に入ってすぐに、俺は目の前の畳に額をこすりつけ、ひたすら謝罪を繰り返す。ああもう、妹とはいえ女の子の部屋に入るならもっと慎重にいくべきだったのに。
「い、いえっ!頭を上げてください。徹さんは、何も悪くないですっ!私がこれから着替えることを、事前に伝えていれば」
そんな俺を見て、智花は勢いよく立ち上がり、粗相を許してくれようとする。気を遣って、傷ついた心を隠し振舞ってくれているのだろう。なんて優しさだ。
「ありがとう。でも、完全に今回は俺の不注意だ。だから、謝らせてくれ」
「あ…、は…はい。ふぁ、ふぁう」
智花は、両手で顔を抑えながらこちらを見る。
そして、俺はようやく顔を上げて智花と顔を合わせた。
「それで、俺に用って何かな?」
こんな過ちをしてしまった以上。可能な事なら、ぜひ叶えてあげたい。
「は、はいっ!あの、実は。次の日曜日に、友達と私の家で勉強会をするんです。それで、徹さんに先生として一緒に参加してくれたらなと。そのっ、もちろん徹さんの予定とかが空いてればなんですけど」
「分かった。全然構わないよ」
「本当ですか!よかったぁ」
俺は、二つ返事で了承した。むしろ、ありがたいお願いだ。これで罪を償おうというわけではないが、それ関連のことなら得意分野である。精一杯努めさせてもらおう。
それにしても、この家に来てからというもの「妹」という存在には驚かされっぱなしだ。普通なら妹の友達が来るとなれば、部屋から出て来ないでとか言われるイメージがあった。あくまで、勝手な想像なのだが。
「では、お願いします。ふふっ、楽しみです!」
智花が、明るい笑みを見せてくれた事に、ひとまず安心した。
ーーーーーーーーーその夜、
いやぁ、今日は色々あったなぁ。初登校に、少し疲れた買い物、智花のきが…じゃなくて、勉強会。長い1日だった。
友達と一緒に勉強会かぁ。智花の友達ってどんな子たちなんだろう。次の休みが楽しみだ。
俺は、そんな事を、考えながら眠りについた。
ー交換日記(SNS)ー
【湊 智花】『みんな。徹さん、日曜日大丈夫だって!』
【まほまほ】『よっしゃー!にちようびまでまちどーしー!』
【紗季】『そう、よかった。じゃあ、私も手作りのお好み焼きを持って行くわね』
【あいり】『わぁ。私、紗季ちゃんのお好み焼き大好きだから、楽しみ』
【ひなた】『おー。ひなも、お気に入りのクマさんのバッグ持っていく』
【湊 智花】『じゃあ、日曜日お待ちしてます!』
つづく
早くも3話目です!
多分このペースで書けるのは、冬休みの間だけなんだろうなぁ。多分、今回が今年最後の投稿になります。
来年からも、よろしくお願いします。
みなさん、良いお年を〜♪