ーガールズ・トーク @住宅街ー
【真帆】「もっかんのにーちゃんに会えんの楽しみ〜」
【愛莉】「そうだね。うぅ、緊張しちゃうな」
【ひなた】「おー?あいり大丈夫?ひな、おにーちゃんといっぱい遊んでみたい」
【紗季】「ひな、別に今日は遊びに行くわけじゃないのよ」
【ひなた】「おー。そうだった」
【真帆】「でもでも、早く宿題終わらせたら遊べるじゃん!」
【紗季】「それはそうだけど。…真帆、あんたの集中力じゃ、10分と持たないわ。それとひな、トモのお兄さんをおにーちゃんって呼ぶのは控えた方がいいと思う」
【ひなた】「おー?どうして?」
【愛莉】「そうだね。この前、智花ちゃん、お兄さんの事お兄ちゃんって呼べないって悩んでたから」
【真帆】「まー、もっかんは照れ屋だからな!」
【ひなた】「分かった。ひな、他の呼び方にする」
【真帆】「あたしも、ニックネーム考えよっと!」
【愛莉】「私たちは、お兄さんでいいかな?」
【紗季】「そうね。トモのいるところで湊さんって呼ぶのは変だし、名前呼びはちょっとハードル高いから」
【真帆】「紗季ー、アイリーン!何してんの早く行くよ!」
【愛莉】「うん!」
【紗季】「はいはい」
ーーーーー日曜日、AM 11:30
暖かな春の日差しが、広間を照らす。
けれど、その景色だけでは俺の緊張を吹き飛ばしてくれる気配はなかった。
「そろそろ来る頃かな?」
「はい。お昼前に来るという話だったので」
本日家に訪れる来客たちを、妹の智花と広間で待っていた。
その来客というのは、智花の友達たちだ。今日は、そんなみんなと、家で勉強会をする事になっている。なんでも、智花の友達が俺に会ってみたいのだそうだ。それがキッカケで、今回の勉強会が開催される事になったのである。
俺は、みんなの先生という事で参加する。先生といっても授業のような形式で教えるわけではない。一人一人が学校の宿題に取り組み、分からない問題を俺が解説するといった個別指導のようなものだ。
この事に関しては何の問題もないのだが、すごく緊張する。そもそも、智花ぐらいの年齢の子たちとは、こうして会うことがあまりないからな。もしかしたら、大事な友人である智花の兄として、相応しいかどうか判断されたりしてしまうのだろうか。楽しみな反面、不安が押し寄せてくる。うう、そんな事を考えていたらさらに、緊張してきてしまったではないか。
だけど、学校の友達とはどんな風に話しているのか、普段は見られない智花の姿が見れるかもしれないと思うと、少しワクワクしてしまう。
「そういえば、本当にお昼ご飯は用意しなくても大丈夫なの?」
「はい。紗季…友達がぜひ、家のお好み焼きを食べてほしいって張り切っていて、全員分のお好み焼きを作って来てくれるそうなので」
智花の友達の一人は、家がお好み焼き屋をやっているらしいのだ。その子自身も、家の手伝いなどで実際にお好み焼きを作ったりしているようで、友達の中でも評判がいいらしい。しかし、お客さんに昼食を持って来てもらうのはなんとも申し訳ない感じがしてしまう。
今日は家に忍さんも花織さんもいないので、用意するなら俺が作ろうと思っていたのだが、今回は智花の推薦もあって、ありがたく頂くことにしたのだ。
それにしても、慧心学園に通う生徒たちは、皆すごい生徒さんばかりだなぁ。さすがは私立といったところか。
「じゃあ、お茶ぐらいの準備はしておこうかな」
「あっ、私も手伝います」
台所でお茶を用意しようと思い、スクっと立ち上がると、智花もそれに合わせてついて来てくれた。
お茶っ葉と急須を棚から出して、お湯が沸騰するのを待
つ。
「それにしても、俺も勉強会に参加しても良かったのかな?俺が教えるよりも、友達同士で教えあったりした方が楽しくない?」
「そんな事ないです。徹さんの教え方はとても上手で分かりやすいので、いつも助かっています。それに、私も徹さんの事は紹介したいと思ってたので」
智花の方を見ると、優しい笑顔を返して見せてくれた。
「そっか。なら、俺も智花の期待に応えられるように、精一杯頑張るよ」
「ふえ…」
俺は、智花の頭を優しく撫でた。
すると智花は、頰を染め照れくさそうに目を逸らす。
いかん。自分でした事とはいえ、非常に照れくさい。ひとまず話題を逸らそうと思い、何を話そうか考えていると、
ピンポーン、ピピピッピンポーン。
まさに、救世主とでもいうのだろうか。タイミングを計ったようにインターホンが連続で鳴り響いた。
「おっ、来たかな?」
「わ、私が見て来ます」
「うん。じゃあ、先に上がって広間で待っててもらえる?俺もすぐに行くから」
智花は、はい!と元気な返事を俺に残し、台所を出て玄関へ向かった。とても嬉しそうでなによりだ。
数分後、お湯が沸騰したので、人数分のお茶を淹れて広間へ向かう。
ゆっくりと、襖を引いて中に入る。
『こんにちはー!』
「うおっ」
部屋の中のテーブルを囲むように座っていた少女たちは、声を揃えて俺を迎えてくださった。
「い、いらっしゃい」
こちらは、元気な挨拶に押され気味になりながらも、なんとか言葉を絞り出した。
そして、お茶を一人一人の前に配り終えると、空いていたスペース、智花の隣に腰をかけた。
「とりあえず、初対面ですし、自己紹介から始めましょうか?」
やや緊張している俺を気遣ってくれたのだろう。智花がある提案をしてくれた。
心配そうに見つめる智花に頷き、俺が率先して口を開く。
「えと、みなさんはじめまして。智花の兄の湊徹です。一応、旧姓は高嶺といいます。15歳、高校一年です。えーと、今日はみんなの先生として、よろしくお願いします」
ぱちぱちぱち、挨拶を終えるとみんなの温かな拍手が鳴り響いた。小学校時代の自己紹介を思い出す。
「はいはーい!じゃあ、次あたし、あたし!」
さて、次はと思っていたところ、智花の隣に座っていた二つ結びの子が元気に手を挙げた。
「三沢真帆(みさわ まほ)でーす!あたしの事は、真帆かまほまほって呼んでっ。それから敬語は禁止ね!」
真帆さんは、立ち上がって白い歯を溢れさせた。
活発なイメージの子である。インターフォンを押したのもおそらくこの子だろうな。
「よろしくね。真帆さん」
「あー!さん付けも禁止ー。ちなみにみんなにもだからね!」
「じゃあ、…真帆で」
「うん!よろしくね、とーにいっ!」
結構無邪気な感じなのかな。どうやらこの子は他人に対して壁を作ろうとはしないタイプのようだ。それと「とーにい」というのは、ニックネームだろうか。なんとも安易なネーミングセンス。いや、良い意味で。
「じゃあ、お言葉に甘えて、他のみんなの事も呼び捨てにさせてもらってもいいかな?」
そうすると、他の子たちも一人一人が頷いてくれた。
よかった。とりあえずは、怖い印象とかは持たれていないようだ。
「では、次は私ですね」
次に、真帆の隣に座っていた子が立ち上がる。
眼鏡と、腰に届かんばかりの三つ編みの子である。
いかにも、文学少女感があるイメージだ。
「はじめまして、お兄さん。トモの友達の永塚紗季(ながつか さき)です。クラスでは、学級委員長をやらせて頂いてます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
実際に声を聞いて思ったことがある。声がよく通り、澄んでいた。とても耳に心地いい。学級委員長というのも納得だ。
続いて、肩に掛かる長さのオーソドックスなボブカットをし、おどおどした様子の子が立ち上がる。
「か、香椎愛莉です。占いとかが好きですっ。よ、よろしくお願いしまうっ。あ…」
緊張してしまっているのか、最後の方で噛んでしまったようだ。顔を赤面させて席に着いてしまった。
この子は、他の子達とは明らかに違う点がある。とにかく背が高い。見た感じ、170cmぐらいの俺と差ほど変わらない。小学生でこの身長であれば、バスケとかバレーではまさに逸材といえるだろう。
しかし、この子に関しては、事前に智花から一つ説明を受けていた。なんでも、高身長がひどいコンプレックスみたいなのだ。だから、身長に対しての話題は避けて欲しいと言われていたのだ。
「占いかぁ。俺も、子供の時流行ってたな〜。よろしくね」
何とか、第一印象とは、違う話題で乗り切る事ができた。これからも気をつけよう。
そして、最後の子が立ち上がる。
「おー。ひなはひなた。袴田(はかまだ)ひなた。徹、今日はよろしくお願いします」
「よろしくね。ひなたちゃん」
ひなたちゃんは、とびきり小さい女の子だ。ふわふわと緩いウェーブのかかったロングヘアが、お人形さんのように可愛らしい見た目の子だ。しかし、年下の子に呼び捨てをされるとは。別に悪いわけではないが、なんとも妙な感覚だ。
なぜだろう。他の子たちよりも小さく見えたからだろうか。無意識にちゃん付けで呼んでしまった。さっそく呼び捨てのルールを破ってしまう。なぜかみんなが納得したようにこちらを見てくる。だが、その事に反対する子は真帆を含め、誰もいなかった。
その後、ひなたちゃんには、無垢なる魔性(イノセント・チャーム)という二つ名がある事を知った。名前の由来を聞いて、皆の反応に納得がいった。どうやら、無意識の内に、無垢なる魔性の餌食となってしまったらしい。
全員の挨拶を聞き終えた後、少し談笑をしながらしっかりと顔と名前を一致させる。智花の話では、5年生の頃から全員同じクラスになったのだそうだ。みんな仲が良さそうで、安心した。もし、喧嘩とかになったら正直止められる自信がない。では、おしゃべりはこれくらいにして早速本題に入ろう。
「それじゃあ、みんなで宿題始めちゃおっか。分からないところがあったら聞いてね」
『はーい』
そうすると、各々がテーブルに教科書とノートを広げて勉強を始める。俺も、自分の宿題でもやろうとテーブルに置いていたノートを開く。
「とーにいっ!」
「わ!」
開始5分、突然真帆が、俺の首に飛びつくように腕を回し、背中に身体を押し付けてきた
「まっ、真帆っ。どこか分からない問題でもあった?」
「ねー、ねー。もう休憩にして、紗季の作ってきたお好み焼き食べよー」
頰に触れる髪の感触で、緊張感を頂点に立たせられる。体が反射的に硬直した。
「で、でもまだ5分ぐらいしか経ってないよ?」
「あたしの、頭がもう限界だー!」
マジか。もともと、ぶっ通しで一時間とか二時間の勉強を小学生相手にやらせようとは思っていなかったが、こんなにも早くギブアップ宣言されるとは。とりあえず、三十分ぐらい様子をみてからお昼を挟もうとは思っていたのだが。
「もう少し、頑張れない?」
「んー、問題が難しくて分かんない〜」
真帆はぐりぐりと首元に額を押し当ててきた。地味に摩擦が熱い。
どうしよう、先にお昼にした方が良かったかな。でも、まだ少し早い気もするし……
「ああもう真帆、お兄さんが困ってるでしょ。離れなさい」
「うぇっ⁉︎」
スッと背中の重みがなくなった。振り返ると、紗季が真帆の服を引っ張り、真帆を剥がしてくれた。
「もう。…ごめんなさいお兄さん。こいつ勉強がすごい苦手で。悪い気にさせちゃったらホントごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。少し驚いただけで、気を悪くはしてないから」
「だったら、良かったです」
なんとか、笑みを作り、全員に愛想を振りまく。別に勉強を嫌いなことに怒ったりしない。ただ、先生を務める以上、こちらにも責任がある。せめて、宿題を少しでも終わらせてあげたい。
「じゃあ、真帆。どこが分かんないのか言ってみな。教えてあげるから」
「えー」
「それが終わったら。お昼にしよう」
「うーん。…じゃあ頑張る」
真帆は、自分のプリントを持ってきて俺の横に座った。なんだ、素直で良い子じゃないか。
紗季も、安心したのか。一礼して「おねがします」と告げ、席に戻る。
「ここと、ここと、ここが分からない〜」
真帆が持ってきたのは、国語の問題だ。
前半は、漢字の書き取りなので、国語辞典を使わせる事でなんとか終わらせる事ができた。
しかし、
「ここでの、作者の考えを答えよとか意味わかんないしっ!作者じゃないんだから、分かるわけないじゃん!お腹空いたー、とかかもしんないじゃんっ!」
真帆がプリントに指を指しながら、抗議を始めた。
最後の問題は、「最初はゆっくり自分で考えてみな」と進めさせていたが、やはり無理だったようだ。
真帆が叫んでいる間に、愛莉に質問された、算数の問題の解説を終わらせ、再び真帆の元へ。
「真帆、落ち着いて文章を読んでみな。下線の近くにヒントがあるから」
俺は、真帆の後ろから、文中の下線を指差して助言をした。
「むむむむむむ」
真帆は、教えた場所を食い入るように見つめて考え始める。
ーーーーーーーーー
「できたー!」
しばらくして、真帆の課題が終わったらしい。
まだ、全部が終わったわけではないようだが、なんとか一段落付いたようだ。時計を見ると、すでに12時半を回っていた。
ここまでは、ほとんど真帆の説明に時間を費やしてたので心配だったが、他の子たちはあまり躓く問題はなかったようだ。
智花は、昨日の内に質問にも来てくれていたので、大体終わらせていたからか、すでに宿題を終了させていた。紗季も終わったようで、途中からは、ひなたちゃんに教えてくれたりして手伝ってくれていた。愛莉もひなたちゃんも、残るはあと数問で、あと少し頑張れば終わらせられるだろう。
だが、その前に。
「それじゃあ、今からお昼にしようか」
『はーい』
声を揃え、みんな待ってましたとばかりに手をあげる。
とりあえず、前半戦は終了。
次は、俺も楽しみにしていた、ランチタイムだ。
つづく
みなさま、あけましておめでとうございます。秋兎。です。
年が明けまして、初の投稿です!今年もマイペースで投稿していくつもりですのでよろしくお願い致します。
今回から、真帆たちが本格的に参加なのですが、キャラクターが増えるとやっぱり書きにくいですね(笑)
読みにくかったらごめんなさい。どうか温かな目で見守っていただけたらと思います。