死にたくないんだ   作:お餅さんです

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全作初のまともな戦闘シーン……勉強します


二話

 湯がくれの里から少し離れた森の中。

 そこは他でもない、観光事業化計画の要ともなる温泉を掘るための作業場となっている。

 

 当初は里内に既にある温泉を拡張すればという案が出た。元より医療用として使えればそれでよいと大した設備もなかったため態々取り壊す箇所もなく、拡張に合わせて施設を建てるだけなのだから確かにその方が効率がいい。

 けれどあくまで予定でしかないが、この先成功すれば良い者も悪い者も大勢訪れる場になる。警備上多少の面倒ごとは避けられないだろうが、将来的な治安を顧みた結果、以前里外で発見された源泉を中心として行われることとなった。

 

 そしてそのような場で見上げれば日が真上から少しずれた、昼が過ぎたころ。

 作業着のような服を着ている者たちが見守る中、まだ何もなく木々が払われ開けた場所で果し合いのように向かい合う者が二人。

 

 片方は銀髪にオールバックといったニヒルな笑みを浮かべるいかにもな男。見た目こそ未だに青年の域を出ていない。だがその顔立ちは整っており、着崩した着物がやけに様になっている男は、この現場だけでなく、計画全体の責任者としても知られる飛段。

 逆にもう一方は飛段よりさらに若く見える作業着姿の少年。相対して笑みすらを浮かべている飛段とは違い、ギラギラとした目つきがこれから始めることへの意気込みを物語っている。

 

 とはいってもこれは突発的な物だったのだろう。取り囲む者たちは皆一様に自身の隣にいる者と何事かと語り合い、またどこからか人が集まってくる。

 そしてやってくる人々の数も落ち着き、ざわめきも小さくなった頃。不意に少年の方が飛段へと向かって走り出し、そのまま腰に付けたポーチから取り出したクナイを上段から振り下ろす。

 

 対する飛段は自然体のまま後ろへと一歩下がる事でなんなく躱し、逆に振り切ったことで空いた少年の脇腹へと蹴りを入れた。

 少年は完全に既知外からの攻撃を受けたことにより声を上げ、思わず手に持っていたクナイを放り軽く飛ぶ。だがそれでも直ぐに体勢を立て直すべく受け身を取り、また飛段へと地面を踏みしめ駆け出した。

 

 飛段は先ほどと変わらぬその光景にどこか呆れた表情を見せた。そしてまた同じように回避の動作に入ろうとしたところで、今度はここに来て初めて自身から動き出す。

 その速さは少年とは比ぶべくもなく、少年が近くに落としていったクナイを拾いそのまま少年の背後に回る。

 

 そして首元へとクナイを押し当て、躊躇なく掻き切った。

 

 それと同時に上がる悲鳴。

 勿論のこと張本人でもある飛段ではなく、かといって喉を掻き切られ今にも地面に倒れようとする少年でもない。それは二人のやり取りを見守っていた者たち。特に少年のようにまだ若い、子どもとも言えるような年齢の者たちだ。

 

 少年と同じように額当てを付けている事から里に認められた忍にあるに違いない。

 だが相手は忍になりたての子ども、目の前で自身と似通った世代の者が殺されるのを見せつけられて平静を保てる者は少ないだろう。

 

 たとえ、殺された少年の体が軽快な音と共に煙になろうとも。

 

 突然の事に周りの者が目を剥く中、切られたはずの少年が現れたのは飛段の背後。手にはいつの間にか取りだしていた別のクナイが握られており、消えた少年の首を掻き切った姿勢のままでいる飛段の背へと迫る。

 

 今にも突き刺さんとする少年の顔には喜色が浮かんでいた。

 それは周りの者が自身が起こした快挙に対し、ポカンと口を開け声を失っていることによる誇らしさから来るものか。それともその快挙自体に少年自身が一種の達成感のようなものを感じているのか。

 

 なんにせよ、少年の心中は今この場にいる誰よりも興奮している。この場で、これを成すために今までどのような修練を自身に課してきたのかは他の者達には分からない。だが、少年の様子をみるにそれは報われたのだろう。

 

 そして周りに示しつけるよう、勝鬨を上げようとしたとき

 

 

「やっt……なっ!?」

 

 少年の持つクナイが宙を舞った。

 

 どこかジンジンと手に熱を持ったような痛みを感じる中、少年の頭の中では疑問が渦巻いていた。けれど当事者はともかく、傍から見ている者たちからすればこれ以上ないほど分かりやすい。

 

 背を向けていた飛段の片足が、体勢をそのままにその背後へと向かって蹴り上げるかのように曲がっていた。もちろんその足先は少年がクナイを持っていた手首へと当てられている。

 

 つまりはクナイを弾くように、少年の手首を蹴った。ただそれだけ。だがその的は飛段にとって自身の死角であるはずの背後。一瞥すらせずにどうしてそのようなことができようか。

 気づいた少年は驚きよりも先に思わず呆れを感じてしまうが、その時には既に背後を取られ先ほどと同じようにクナイが自身の首元に。

 

 もしここで首を掻き切られれば、今度こそ地面へと血に染まる遺体が一つ倒れ落ちる。

 少年はそれでもどうにかしようと考えるも、ニヤついていた顔に似合わず飛段の佇まいに隙はない。

 

 するとやがて諦めたように息を吐き、少年はその手にもつクナイを離した。そして飛段はそれを見届けると満足そうに笑い、クナイを少年に返して右腕を突き上げ叫ぶ。

 

 

「俺の勝ちだぁああああああああああああ!!」

 

『うぉおおおおおおおおおお!!』

「くっそぉおおおおおおおお!!」

 

 大人げない飛段の叫びに呼応して雄叫びをあげるのは作業着姿で見守っていた者達。そして逆に悔しさから声を上げるのは先ほどまで飛段と組み手をしていた少年。

 そんな者達を見て大人げなく叫んだ飛段はさも愉快だと豪快に笑い、叫ぶことなく見ていた者達はまたあいつかとただ苦笑いを浮かべていた。

 

「それじゃあ、やることやってくるか。お前らも持ち場に戻れよ!」

「あ、飛段の兄ちゃん、もう一回! あと一回だけやらせて!」

 

 先ほどの組み手、特に最後のダメ押しがよっぽど悔しかったのだろう。少年は立ち上がると、一頻り満足したのか立ち去ろうとしている飛段を呼び止める。

 

「ああ? やる前にさっきので最後って決めたじゃねえか」

 

 だが、飛段にもはずせない任務がある。なかった所で組み手に付き合うかどうかは気分次第だろうが、少なくとも今回ばかりは大事な任務が入っているのを少年は知っている。何せ今ですら少年の無理を聞いて時間に遅れているのだから。

 

「あ……そう、だったね」

 

 少年の顔は驚くほど暗く俯いていくが、周りの者たちはさもありなんと頷くばかり。何故ならば近頃飛段の周りでその光景は一日一度、必ずと言っていいほどよく見かけるからだ。

 

 飛段は最近里長から里の将来に関わる任務を任された。集会で知らされたそれは、紛うことなき最重要事項。優秀な忍としてただでさえ忙しい飛段の時間が削られるのは当然のこと。そしてそれに伴い、飛段に憧れを抱く者が飛段との時間を減ってしまったと認識してしまうのもまた当然ことだった。

 

 そのため少年の口調や仕草からも丸分かりなそれは、見ていた者達全員もまたかと、当たりをつけた。

 けれどその誰もが意気消沈といった雰囲気の少年へと駆け寄ることはない。

 

「へ……?」

 

 何故なら飛段とて、伊達に慕われていないわけではない。

 

「さっきの組み手、特に最後の変わり身の術の使い方は悪くなかったぜ。()()()()()()俺に印を見せないよう気をつけろよ」

 

 そう言いながら呆ける少年の頭をワシワシと乱暴に撫で付け、そしてまた同じようにこの場から立ち去ろうとする。

 

 だが先程とは違い、少年が飛段を呼び止めることはなかった。

 

 

 

 

 

「相変わらず人気者ですね」

「……上司をからかうんじゃねえよ」

 

 人込みから離れてしばらく、作業着姿の者たちを作業場に戻らせた飛段にタモツが声をかけた。

 表情は笑顔だったものの、図星だったのだろう。ジト目でにらみつける飛段を見て思わずといった風に乾いた笑いをもらした。タモツのもはや隠すきすらないその素振りに飛段は思わずため息をつきそうになる。

 

 野次馬のように集まっていた者たちが察していたのだから勿論のこと、飛段本人も最近の少年少女からの人気ぶりを自覚していた。それも遊びや修行の約束などの可愛らしいものから、つい先ほどのように突然の組手等々。

 特に先ほどの少年は組手の筆頭。今日ほど終わりを渋ったのは初めてだが、突然殴りかかられた回数は両の指では数えられない。

 

 尊敬ともなると何故、と思わず真顔になるが好かれているのだと思えば悪い気はしない。

 ただ、今は慣れない責任者としての業務に追われる日々。顔にこそ出すことはないが、疲労は確実に溜まってきていた。

 

「そんで? お飾りつってもわざわざ仕事中の責任者に聞いて来たんだ、なんかあるんだろ?」

 

 疲労からか言外にこれ以上仕事を増やすなよ、と自身に補佐として与えられたタモツに釘をさす自称お飾りの責任者。

 

 というのも責任者、計画発案者といえば聞こえはいいが、飛段はどこまでも忍でしかなく生まれてこの方温泉など掘ったことはない。

 そのため大まかな案や仕組みを飛段、具体的な設計や指示などは元より里にあった温泉を管理していた一族に任せている。本人こそこれから増えるであろう仕事への皮肉のつもりでしかないが、お飾りとは案外的を得ているかもしれない。

 

 そんな上司のブラックジョーク対して苦笑いを浮かべるタモツ。だが苦笑いの理由はそれだけではない。

 言いづらそうに渋る素振りを見せるも自身の要件、そして苦笑いの理由とも言える言葉を告げようとする。

 

「人員増加の件なんですが……」

「おお! やっと返事が来たか、それで何人寄越してくれるって?」

「ゼロです」

「――は?」

「だから、ゼロ人。国からは誰一人出すつもりはないそうです」

 

 飛段とタモツが話すのは、湯の国に出した里を挙げて行う観光事業計画の応援人員について。

 

 戦後間もないということもあり、復興の人手や心象などといった理由から里内で強制的な徴収をするのは控えられた。実際今現在働いている者も飛段を慕った者たちによる志願者が殆ど、といったぐらいに圧倒的な人員不足。

 そもそも国を通さず無断で事業を増やすなどあり得ないため、計画がある程度決まった際に認可のついでに国へ応援を願い出ていたのだ。

 

 結果として大名は新しい物好きといった噂は本当のようで、認可自体は使者を送ってしばらくもしないうちに認められた。ただ人員については今の今まで見送られ、タモツに告げられた通りゼロだった。

 

「ゼロって、そりゃそんな期待してなかったけどゼロってお前……」

「力の弱い小国といっても一応大戦後も生き残ってますからね。よっぽど厳しい部下がいるんでしょう」

 

 飛段達の希望では、考えなしに大名が周りを押し切って馬鹿みたいに送ってくれたらなというもの。

 だがよくある話、組織の上はともかく下は優秀だったらしい。というより、仮にも大名が認めた事業に対して人手が皆無。不満こそないがむしろ計画自体よく認可などしたものだ。

 

 

「今一度言っておくが、出ないものは出ないぞ」

 

 不意に沈んだ雰囲気の飛段の耳に入ったのは凛とした力強い声。

 飛段が自身の後方、聞こえるはずのない声の方へと視線を向ける。するとそこには飛段達、ひいてはこの里に存在する全てを治める者。湯がくれの里の里長である生湯ノドカが雄々しくその両手で杖を突き佇んでいた。

 

 ただ、どうも様子がおかしい。

 

 端正な顔立ちは普段以上に眉間にしわを寄せ、視線はまるで射殺すかのように鋭く冷たい。脇に控えている二人の忍は里長としての護衛なのだろうが、冷や汗が止まらず顔もどこか引きつっている。

 以前、知らせの際に飛段が遅刻した時も似たような状態ではあった。けれど今回に限っては飛段に身に覚えが全くないのか、今の時間帯ならば執務を行っているはずの生湯を見てどうしてここにいるのだと呆けている。

 

「……反応からしてタモツか。大方現状を見聞きすれば考えが変わるとでも思ったのだろう、無駄だ徴収はあり得ない」

 

 その言葉に飛段は状況を察した。恐らくタモツが視察とでも称して生湯を呼びつけ、わざと先ほどの話を聞かせたのだろう。

 思わず飛段は呆れるが、護衛達同様引きつった顔のタモツを見れば強くは言えなかった。

 

「ただ、お前たちの働きによっては考えてやらんこともない」

 

 けれど次に生湯が無感情に告げた言葉により各々の表情が劇的に変わる。

 護衛達の顔は驚愕に染まり、目を見開かんばかりに隣にいる生湯を見つめた。反応からして生湯が普段部下たちに対してどう思われているのか分かるが、まあそれはいいだろう。

 

 何故なら、本来その話へと持っていきたかった筈のタモツは何かヘマをしてしまったかのように。先ほどから流されるままだが、人手こそ欲しがっていた飛段は胡散臭げな表情を生湯に向けていたのだ。

 

「なに、簡単なことだ。お前たちは――特に飛段、お前はいつも通りそのままでいい」

 

()()()()でいてくれればいいだけだ」

 

 意味深に告げた生湯の口角は、僅かながら上がっているように飛段には見えた。

 

 

 

 

 

「イヤだ!!」

「もうやるしかないですよ飛段さん。発端自分なんであれですけど……」

 

 抵抗する飛段にそれを引きずるタモツ。知らせの際にも似たようなことをしていたが、湯がくれの里ではもはや見慣れた光景である。

 

 すでに二人が歩く(?)のは森の中にある作業場ではなく、里中央にそびえたつ屋敷の渡り廊下。森の中に残された作業員への指揮はいつも通り知識のある部下に任せ、生湯達は一応の視察を予定通りにこなすことに。

 

 本来、お飾りであるとはいえ責任者である飛段が現場を離れることは認められない。それは単純な話、知識云々は抜きにしても立場上、士気向上に大幅に影響を与える恐れがあるためだ。

 ならば何故その作業場から離れ、ましてや今のようにふざけていられるのかと言えばそれもまた単純な話。すでに就いている任務以上に重要、又は短期的に終わらせる必要があるにも関わらず相応の実力をもつ人手がいない任務を任されたから。

 

 そして今回は里長である生湯直々に任された任務。里の観光事業化は確かに優先させるべき任務ではあるが、仮にも平和主義を掲げ、その理念の下で里を治めることを会議で表明したのはその生湯本人。

 ならば今回飛段達に下された任務は元の任務のためになりこそすれ、邪魔になり破綻するようなことはありえないだろう。

 

 事実報酬として人手は口約束だが確約されており、生湯の言ったように優秀な忍として付き合いの長い飛段達はそれを何となくではあるが理解している。

 

「それでもおかしいだろ! 『優秀な忍でいてくれればいいだけだ』……え、それだけ? 何をどうしろって話じゃねえか!?」

「それ、自分たちで考えろってことですよね? ……今に始まったことじゃないじゃないですか」

 

 ただそれにしても飛段の言う通り、告げられたのは任務とも呼べないようなおかしな物ではあった。

 

 何故なら生湯が飛段とタモツに向けて話した任務の内容は本当にその一言のみ。

 さらに言ったら言ったで意味を図りかねる飛段達を脇に置き、責任者のしばらくの不在を指揮する部下に告げるよう近くにいた者に言づけ視察へと向かう。

 なぞかけのような任務、仕事の剥奪、居場所を追われる。あれよあれよという間にことを進めていく様は、流石は里長といったところか。

 

 このようなことは以前から行われてきたようだが未だに抵抗する飛段はともかく、ことの発端でもあったタモツは諦めた。

 報酬としてもらえるだろう人手を抜きにしても、里長直々に任された任務を断れるはずもない。早くに復帰出来るよう、大人しく()()()()をなすための手がかりを探すほかなかった。

 

「……大体手がかりっつてもよ、あてはあんのかよ」

 

 少しふてくされた口調ではあるが、聞いたところを見るに一応やる気はあるようだ。引きずられていることには変わりなくともその言葉を聞いたタモツの頬がゆるむ。

 それは口やポーズでは抵抗しつつもやるべきときはやる男だと再確認したことによる嬉しさ。そしてこの後の飛段を思ってのちょっとしたいたずら心。

 

 引きずっているため飛段には見えないだろうが、口元にはもはや隠しきれない笑みを浮かべながら返事を返す。

 

「ええ、飛段さんもよく知るあの人なら何か知っているはずです」

「ああ……やっぱそうなるよなあ」

 

 飛段を引きずるタモツは抵抗されながらではあるが、ここまで迷い立ち止まることなく歩いてきた。小さいながら仮にも一つの隠れ里。さらに屋敷自体もも里の政務を行う必要があるため部屋数多く広大ではあるにもかかわらず、だ。

 

 極めつけに、進んできた道筋は物覚えの悪いあの飛段でもよく知っている。

 実際先ほどの飛段の質問も確認のようなもので、タモツの返事から予想していたことが確信に変わりうなだれてしまった。

 

「そういえば、飛段さん最近あまり会っていないそうじゃないですか。この前会いましたけど、待っているのに来てくれないって寂しそうでしたよ?」

「……あれはそんなこと言うほど殊勝なやつじゃねえだろ。つうか、お前なら知ってんだろうが。あいつは元々俺の――――

「あっ、着きましたよ飛段さん」

「お前……後で覚えとけよ」

 

 話をふったくせに自身の言葉を遮るタモツに思わず青筋を浮かべる。そしてついでのように文句をつけたが、相手は飛段を敬称で呼ぶにもかかわらず毒づくことは決してやめない男。

 

 ――どうせ何言おうが変わらねえんだろうな。

 

 毒づかれる原因を理解せず、心の中で自身のことを棚に上げながら飛段は立ち上がった。

 

 

 首元を掴まれ後ろ向きに引きずられていたため分からなかったが、服の汚れを払いながら振り向けば扉が一つ。それも大人一人が両手精一杯広げても届かぬほどの両開き式であり、白塗りされているがぱっと見だけでも重厚な鉄製だと分かる。

 

 見た目和製の建築様式であるこの屋敷。けれどむしろ中にある座敷は来賓用として少なく、洋式のつくりの部屋が多いといった不思議なつくりになっている。

 そのため屋敷内を歩く際に両開きやドアノブ付きの扉を見つけるのは珍しくもない。だが飛段は他の扉とは違い、ここまで厳重になっている一室は目の前にある一つしか知らなかった。

 

「――――」

「どうぞ?」

 

 飛段が念のため、本当にこの部屋で合っているのかとタモツを見れば、むしろ飛段から入るよう促される。それを見た飛段はこのあたりが潮時だと、不承不承ながら扉に取り付けられた取っ手に手をかけた。

 

 取っ手は仮にも金属であるためひやりと冷たい。けれど決して我慢できない程ではないそれは重い音をたてつつ、飛段が力を入れたためにゆっくりと開かれていった。


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