こちら軍令憲兵 特務曹長、鎮守府視察官   作:ばばばばば

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ロリコン提督、駆逐艦鎮守府

「今回の鎮守府…艦娘への虐待が疑われているとのことですが…」

 

 雪がまばらに固まった師走の山道を運転しながら伍長は今回の任務、その概要を確認する。

 

「あぁ…性的虐待…鎮守府に出入りしている民間業者からのタレこみだ」

 

 艦娘への性的虐待…、提督が立場を利用するといったケース、先任艦娘によって無理やり関係を迫られるケース、出入り業者からなど…、艦娘達はその美しい容姿から悪意に晒される機会は多い

 

 今回の鎮守府では提督による性的虐待が報告されている。

 

「国を守る彼女たちにそんなことを…それが本当だったら許せませんよ」

「…俺が見た中で一番ひどかった鎮守府では接収(ドロップ)した艦娘をそのまま海外の人身売買組織に流していた提督がいた…、そいつは艦娘への絶対命令権を持っていてな…」

「…まさか、艦娘を外国に明け渡すなんて国家への反逆罪じゃないですか」

 

 現在の大本営には様々な形態の艦娘がおり、30年近くたった今でもその全てを解明するには至っておらず、たとえ同じ見た目だとしても鎮守府ごとに特性の差異が多くみられ報告され、中には提督の命令が艦娘に絶対の強制力を与えてしまうといったケースも過去には見られた。

 

「…しかし今回の鎮守府の提督は三十年以上前から戦い続けている方で、鎮守府の運営評価も問題ありません」 

「変な先入観を持つなということだ…、気を引き締めろ」

 

 それでも伍長は曹長の警句に納得していないようだ。

 

「そうは言いますが今から向かう鎮守府の提督は名将です。そのような方が艦娘を虐待などと…信じられません、曹長もキスカの奇跡はご存知でしょう?」 

「キスカ撤退戦における立役者か…」

 

「有名な話ですよね…たしか…」

 

  

 

 

 

 まだそれぞれの鎮守府が深海棲艦に対してどころか自身の鎮守府にいる艦娘の運用すらわからぬ時代

 

 その中で初期の艦娘運用として確立していったのが海域における攻略は戦艦、空母などといった強力な艦種をあて、駆逐艦、軽巡といった艦種は主力艦の護衛、輸送任務や哨戒任務といったものに絞ることで効率的な艦隊運営を行うといたものだった。

 

 結果として海域の攻略を行う艦娘とそれ以外に錬度の差が開くようになるが、そもそもの艦種による向き不向きと断定され、その時点では大きな問題とはみなされずにその危険性を指摘するものは少なかった。

 

 

 …しかしその欠点はすぐに表在化する。

 

 大規模侵攻における戦艦、空母を中心で構成された艦隊は不可解な潮流に流されていき、敵主力の元へたどり着くことができずに分断、そこを深海棲艦に突かれることで艦隊は瓦解

 

 命からがら撤退した艦娘たちもキスカ島で深海棲艦の完全包囲を受けてしまう

 

 包囲された艦娘たちの補給が絶たれ孤立状態、燃料もないため攻勢をかけることもできない、援軍を送ろうにも深海棲艦が原因と思われる海の異常な潮流により援軍が近づけない

 

 全滅は時間の問題であることは誰の目にも明白だった。

 

 軍部はこの異常な潮流をすぐさま調査、そしてこの潮流が艦種と艦隊の構成に左右されていること、潮流を突破するには軽量かつ高速な艦娘でしかキスカにたどり着けないことを突き止めることに成功

 

 軍部は駆逐艦でしかキスカにたどり着けないと見るやすぐさま水雷戦隊のみで構成された艦隊による救出作戦を計画する。

 

 しかしそれは計画の時点で多くの問題をかかえていた。

 

 当時の艦隊では水雷戦隊の錬度が低く、各鎮守府でも今回の作戦に耐えうる艦娘は一名いるかいないかであった上にそれぞれの艦隊から急造の艦隊で戦うことは連携に大きな不安があった為、誰もが作戦は不可能だと結論づけかけていた。

 

 その中で手を挙げる一人の男が現れる。

 

 

「私の駆逐隊の平均錬度は五三です。」

 

 

 この男こそキスカ島撤退作戦の立役者、件の提督、キスカの奇跡と呼ばれた男だった。

 

 軍部による艦娘への錬度とは経験した海戦とその戦果により簡易的に決められていたが当時のこの五三という数字は他の鎮守府の主力に並ぶ数値であり、回りを驚かせる。 

 

 彼は他の提督が大艦巨砲主義や空母最強を唱える中で鎮守府に多くの高練度の駆逐艦が所属

 

 結果として濃霧の中で、彼の水雷戦隊は圧倒的な技量と連携をもって救助作戦を成功に導く

 

 軍部は彼の武功をキスカの奇跡と称し、今回の作戦を反省として今までの戦艦、空母偏重主義をもう一度見直すこととなった。

 

 

 

 

 

 

「…こうして駆逐艦における有用性を知らしめたお方ですし、彼の人柄を表すエピソードとして後に戦果をやっかむ他の提督にお前の艦隊は駆逐艦ばかりで話にならないといわれた時、それに対しすました顔で『でも俺の駆逐艦達はすごいぞ。最高だ。』と言い返した逸話が好きですね」

 

 キスカの話は曹長も聞いたことはあったが伍長の熱の入った解説のおかげで最後まで聞いてしまった。

 

「…伍長はこういった話は好きなのか」

「なんたって軍のプロパガンダをみてここまで大きくなっているんですよ、好きじゃないわけがありませんよ」

「それを自覚しているんだったら大した奴だよ…」

「はは、…おっと、見てください件の鎮守府です」

 

 伍長の話はかなりの時を潰していたのだろう、気づけば車は波の音が聞こえるほど海に近づいていた。

 

 しばらく車を走らせれば大きな敷地を持つ建物にたどり着く

 

「曹長、着きました」

「ここか…」

「はい、ここが例の鎮守府ですね」

 

 袖からシャツをピッタリ一寸出している曹長に対して車を運転する伍長は寒さからか袖を伸ばして手を包んでいる。

 

「…これから出先だ。服装ぐらいはシャンとしろ伍長」

「分かってますが…、しかしこうも寒いとどうも…、冬の海風はすごいですね」

 

 季節はずれるものという例年の通例は無視され、今年は冬らしい冬が訪れているため回りは雪景色

 

 男たちがいるのは海を一望できる時代錯誤なレンガ造りの施設の前、今回の視察対象の場所である。

 

 ツカツカと先に歩く曹長に伍長は歩幅を合わせてついていく

 

「なかなか大きな建物ですね、たしか所属艦娘は妖精由来で所属は…えーと資料では…」

「三十八だ、そのうちの二十八が駆逐艦、五が軽空母、残りが軽巡、少数精鋭…ここも軍部に自由裁量を返していない鎮守府の一つだな」

「よく覚えてますね」

「報告書の類はお前もこの仕事を続けるなら嫌になるほど見ることになるぞ」

「うへぇ…新人時代を楽しませてもらいます…」 

 

 無駄話をするうちに施設の入り口に着く、伍長は入り口の守衛に要件を伝えようとするがそこにはすでに先客がいた。

 

「…うぉっ」

 

 思わず伍長は変な声を出してしまう、なぜなら守衛がいると思ったところには場にそぐわぬ少女がいたからだ。

 

 見た目は可憐、その銀髪は雪に映え、幻想的といってもいい姿は月並みの表現ではあるがよくできた絵画のようだったと伍長は感じる。

 

 …だがこんな軍の施設にただの少女などいるはずがない、おのずとその正体はすぐにわかる

 

「秘書艦の響だよ。きみ達が視察官?」

 

 その幼さに伍長は思わずたじろぎながら証明書を手渡す。

 

「東京憲兵隊管区第1師管 特務曹長、鎮守府視察官であります」

「おっ、同じく第1師管 伍長、鎮守府視察官付補助憲兵であります!」

「…確認したよ 曹長、伍長、司令官の元までは私が案内するよ、ついてきて」

 

 少女はそのまま振り向きもせずに鎮守府内へと入っていく

 

 伍長はその姿をみておそらく自身よりもはるかに年下、

 それもランドセルを担いでいる年の離れた妹と同じ世代の少女に頭を下げることに釈然としていない様子だ

 

「少しここで待っててくれるかな」

 

 少女は施設の奥に行き、憲兵たちは玄関口に少しの間待たされることとなる。

 

「…彼女は外で待っていたな、こちらの来る時間は大雑把にしか伝えてないのに」

「えぇ…そうですね、こんなに寒いのに申し訳ないことをしました。」

 

 そういうと曹長は口を拭うような動きをして伍長に声をひそめて話す。

 

「…伍長そのままの姿勢で聞け、視察官を警戒しているものほどその扱いは丁寧で、大抵は監視の目がつく。まさに今回のようにだ」

「…」 

「相手が中座した時も気を抜くな、ただしそれを悟らせるな。昔、盗聴器を仕掛けられたこともあった」

「…ほんとですか」

「正確な時刻を伝えずに訪問して相手の反応を伺うのもこの仕事のコツのようなものだ覚えておけ」

「…はい」

「…まぁそう緊張するな、そうはいっても視察官を警戒しない鎮守府なんて存在しないからな、気張りすぎて一人相撲なんてこともしょっちゅうだ」

 

 

 二人はしばらく無言で待つ、すると先程の少女が何かを持ってこちらに姿をあらわす

 

「雪だったから濡れただろう、よかったら衣紋掛けを使うかい?」

「えぇありがとうございます」

「じゃあついてきて」

 

 

 憲兵にのみ支給されるカーキ色のマントをかけ、少女についていく

 

 いくつかの扉を抜けた後、執務室の扉と思われるところまで通される。

 

 

「司令官、先ほど来られた視察官を通すね。」

 

 

 

 伍長は緊張の中でそのまま扉を開くのを待つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ^~秋雲がエロいんじゃぁ^~背中から腰にかけてのラインが妖艶すぎて辛抱たまらんなぁ~愛してるぞ^~」

 

 

 そこには幼い艦娘の腰にしがみつく男がいた。

 

 

 

「司令官…さすがにこれは、言い訳できないな…」

 

 少女があきれたように目を伏せた瞬間

 

 

「確保おぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――」

 

 

 伍長は己の職務など関係なく社会に属する大人として目の前の変態を捕縛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 提督との面会から数分後そこには手を前に縛られた鎮守府の最高責任者の姿があった。

 

 伍長はその目に明確な侮蔑の色をともして提督を見る。

 

「あなたは立派な提督だと聞き及んでいましたがこんなことになるとは残念です…艦娘に対するわいせつ行為の現行犯であなたを逮捕します。」

 

 対して提督は全く動じていない、それどころか物わかりの悪い部下に対してあきれているようなため息をつく

 

「待て君、いったい私のどこが違法だというのかな?」

「…どういうことです?」

 

 男は縛られたまま跳躍し、執務机にのぼってこちらを見下ろす。

 

「君は酷く狭い愛しか知らない、どうせこの私がただのロリコン野郎とでも思っているんだろ?」

「…いや普通に考えてそうでしょ」

 

「ナンセンス!ナンセンスだよ君ぃ!!」

 

 提督…いや性犯罪者は伍長を指さして声高に唱える

 

「私はロリだから彼女たちを愛したのではない!!愛した女性がロリだったんだ!!!!!」

 

 あまりの剣幕に伍長は思わず気圧されてしまう

 

「いうならばそう…美女と野獣…見た目に惑わされない真実の愛!それはロリコンなどや犯罪者などのレッテルでは覆いつくせはしない!!」

 

「いや野獣はあなたですよね…」

「…来るなら来い、愛は負けはしないと教えてやる」

 

 これ以上の抵抗を見せるようなら実力行使もいとわないそんな剣呑な雰囲気が両者の間に漂いかける時

 

「司令官、憲兵さん、ここは落ち着いてもらえないかい」

「あー、秋雲もそうおもうなー」

「…伍長、気持ちは分かるがここは押さえよう」

「なっ、曹長まで」

 

 少女達のことの言うことは聞くのか素直におとなしくなる提督、それを見て取りあえずの衝突は避けられた。

 

「はぁ…こんなことになるから今日はいつ憲兵さんが来てもいいように外で待っていたのに…、衣紋掛けを借りに来た時に今日は大人しくするように言ったよね、提督も…秋雲も」

「あははー…」

「…私が君たちを愛していることは隠すことでもない」

「き、君たちだと…これは複数の犯行を重ねている可能性が…なんて不誠実な男なんだ…」

「私の愛は無限だ!!!この鎮守府の彼女たち三十八人に等しく捧げている!!、初恋よりも純で!色よりも熱い我が愛を不誠実だというのか!!!」

 

 

「…提督はすこし黙ろうか」

 

 その眼力は少女とは思えぬ威圧感で提督を刺す。

 

「…ハイ」

 

「少し話をしようかな、できれば落ち着いて、提督がいると話にならないから秋雲は提督を外に運んで、私が憲兵さん達と話をつけるよ」

「おっけ~い」

 

 秋雲と呼ばれた少女が縛られた提督を引きずって部屋の外に運び出す。

 

 一連の動作を憲兵たちは見ることしかできない

 

 

「…なんというか、騒がしくてすまないね、昔の司令官はもっと真面目だったんだけどね」

 

 申し訳そうに形のいい眉をしかめる少女に曹長は今までの事態を鑑みて問う

 

「…つまり両者の合意で関係を結んでいるということで間違いないでしょうか」

「そうだよ」

「この鎮守府に虐待が起きているような事実はないと?」

「ないね」

「一応の規則として鎮守府を一通り見て回ってもよろしいですか」

「かまわない、それが終わったらもういいだろ?」

「はい、構いません…しかし二、三確認したいことが…」

 

 二人の話を聞いて伍長は納得できていない表情で曹長に問う

 

「曹長、いいのでしょうか…彼女達は未成年者ですよ」

「…伍長、それなんだが…」

 

 それを聞いていた少女はクスリと笑う

 

「さしずめ私は君にとって可愛いお嬢さんといったところかな伍長」

「えっ、えぇ…、君と提督はそれで良くとも社会の規範として…」

「待て曹長」

 

 曹長は少女の方に申し訳なさそうな顔を向けながら伍長の言葉を制す。

 

「まぁ気持ちは分かるがな…、伍長、この鎮守府は三十年以上前から戦い続けているんだぞ…」

「…えぇ聞き及んでいます」

「そうして私はその立ち上げ当初からいる秘書艦なんだよ」

「君が立派な艦娘ということは分かる…だけどそれとこれとは…ん?」

「…気づいたか伍長」

「え、それはつまり君は三十年前から生きて……っえッ!!!!三十歳!?」

 

 少女の見た目に似合わぬ…いや恐ろしく似合う蠱惑的な笑みを浮かべる

 

 

 

「そういうことだよ坊や、私は君より年増のおばさんなんだ」

 

 駆逐艦『響』、戦歴三十年の大ベテランである。

 

 

 

 思ってもない衝撃的な事実を受けて伍長の脳内は混乱の極みにあった。

 

「三十歳…、いや…しかし、良いのかそれは…」

「フフッ…私達の年齢が三十なら問題ないんじゃないかな?」

「そうです重婚!、日本では重婚は許されませんよ!?」

「実際に結婚してるわけじゃない、これは自由恋愛ってやつだよ」

「それは…」

「響殿、彼をからかうのもそこまでにして下さい」

 

 曹長が見かねて助け舟を出す。

 

「いや、ついつい伍長が新鮮な反応でね」

「私があなた方の鎮守府の問題としてあげたいのは風紀の問題ひいては世間の目です」

「というと?」

「…つまりこういった関係は軍にとって醜聞となりますし、あなた方の見た目もある、こちらとしてはそういったところは控えていただきたいということです」

「それは私達と提督の関係を止めろということかい?」

「有り体に言えば」

「…それは無理だね」

 

 その返答に対して曹長は本人としては顔をしかめたつもりで、実際はその気がないにしても睨みつけるような視線として彼女に向けられる。

 

「別に良いじゃないか」

 

 対して臆すること無く彼女はため息を付いて関心なさそうな顔を曹長に返す。

 

「私たち艦娘は人間じゃないだろ?」

「それは…」

 

 曹長は彼女の態度の急変に黙り込む

 

「艦娘は正確には日本国民でもない、人間でもない、だから人権もない、そんな存在にどんな法律が適応されるんだい?」

 

 なぜか伍長はその一言を聞きのがすことができなかった。

 

「…私はそのように人間らしく悩む貴方が人間ではないとは到底思えないです」

 

 伍長は何故か自分でも分からぬ怒りのようなものを感じながらつい語気を強めて喋ってしまう

 

 それに対して彼女は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。

 

「伍長はそう考えるのか…悩む…そう、私たちは心だけは人間と同じにできてしまった。年を取る艦娘も他所にはいるらしいけど、私達は違う、チグハグなんだ…」

「それは…」

「君はいつまでも子供の体である私たちがどれほど惨めな存在か考えたことはあるかい?」

「…」

「何もまともにできないのだよ、町でヴォトカを買うことも夜興も…恋もね…」

 

 何も言い返せない伍長に代わり曹長は普段よりさらに平坦な声を出して反論する。

 

「…がそれは一人の提督が艦娘を囲む理由にはなりえません」

「私たち三十八人全員が納得していることは関係なく?」

「私は先ほどから風紀の問題と言っているはずです」

「それが君たち軍にとって醜聞だからかい?」

「そうです」

「それが私たち欠陥品が唯一幸せをつかむ方法だとしてもかい?」

「えぇ」

「…君はまさに軍人の鏡だよ、まさに国家の(собака)だ」

「ありがとうございます」

 

 呆れたような彼女と嫌味をものともしない曹長をみた伍長は居心地の悪さを感じながらも一つの疑問を持つ

 

 

「その…あなた達は納得してあの提督と?」

 

 その言葉の意味をどう受け取ったのかは知らないが、はにかんで答える。

 

「言っただろ昔は真面目だったんだよ彼」

「その…先ほどのイメージが強すぎて…」

「最初は妙齢の女性に手を出すなんてしないし幼い姿の駆逐艦なんて絶対に手を出さないような男だったさ。でもね私たちも女だからね…腹の中にあるものを全部ぶちまけたんだ。」

「ぶちまけたとは?」

「今言ったようなうだうだしたことをぶつけてやった。そうすれば責任感の塊のような男がどう動くかなんて打算もあったからね……それで」

「それで?…」

 

 

 

 そこで彼女が話を止めて場には静寂が訪れる。

 

 

 

「司令官に私達だけを選ばせた。私たちの全部を使って」

 

 伍長たちは彼女の理知的な瞳が全く得体のしれない何かに置き換わっていくのを目の当たりにする。

 

 

 

「だからこの話はただ私達が提督を好きだっていう話なんだよ、()()()もそう思うだろ?」

 

 

 

 彼女のその邪気のない童女のような笑顔を自分たちではなくその後ろへと向ける。

 

 

 

 

 

 ここに来て二人は気づく、この部屋にいつの間にか覗いている目、目、目、目

 

 ドアの隙間、窓枠から見える向こうの建物の影から、壁の向こう、天井の裏、いたるところから自分たちに向けられる気配があると気付く

 

 

「ヒッ…」

 

「実を言うとホントは逆なんだ、司令官に私たちが言ったんだよ、人間じゃなくても、大きくなれなくても、こどもが産めなくても、それでも司令官が別の誰かを愛するまでは私たちを全員を愛して下さいってね…」

 

 憲兵達もここに来て虐待の存在などは疑っていない、この鎮守府に蔓延っているのはもっと別のものであると気づく

 

「一つ聞かせてほしいんだ…君は大本営に提督のことをどう報告するんだい?…もしかして」

 

 一呼吸おいて彼女は光を映さない目をこちらに向けて微笑む

 

 

 

 

 

「私達から提督を奪うのかな?」

 

 

 

 

 

 伍長と曹長は回りの空気が粘体のように纏わり付くのを感じる

 二人は何か喋ることも手を僅かに動かすことさえできない

 伍長に至っては呼吸すら危うく、今にも倒れこみそうだ。

 

 ひたすらに観察されているという不快感は脳の感覚を麻痺させ、時間の長短を分からなくさせる。

 

 現実時間以上の体感時間を味わいながら永遠に続くと思われた沈黙

 

 

 

 

 その均衡を破ったのは彼女の方からだった

 

 

 ふいに彼女はその威圧感を解き、今度は気安い態度で話しかけてくる。

 

「はぁ…どうせ提督が話したら拗れてしまうから私がなんて思ってたけど結局は同じだったのかもしれないね…説明は以上だ、これからどうするんだい?」

 

 曹長は舌が乾いていくのを強く感じながら声を出す。

 

「…では私たちは先程行ったように鎮守府内を一通り回らせていただきます。」

「二、三質問があるんじゃないのかい」

「いえ、お話の中で聞けましたので」

「そう…じゃあどうぞ……くれぐれもきょうつけてね?」

 

 曹長は伍長を引き上げて執務室を後にする。

 

 その後の鎮守府の調査では変わったようなこともなく順調に進み、気がつけば視察の業務はほぼ終えてしまった。

 

 つきまとう視線を除けば 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして鎮守府視察官はその仕事を終える。

 

 普段から視察官と言うものは歓迎されることは滅多になく見送りもなしに返されることもめずらしくもない

 仕事なので不平に思うことはないが感情としていつもは少し悲しい気持ちになっていた。

 

 …しかし今回はそれがなによりありがたかった。

 

 

 何事も無く帰れると隠れて安堵する伍長

 

 しかし帰り際の守衛所の軒先に誰かがいることに憲兵たちは気づく

 

 それは雪でよく見えぬがこちらに近づいてくるようである。

 

 

「本日の視察、ご苦労だった。結局ろくな挨拶をしなかったからな…改めて言わせてもらおうか、私がこの鎮守府の提督だ」

 

 現れたのは提督であった。

 

 その雰囲気は初めにあったようなものではなく、目は鋭く、姿勢は不動、まさに軍人として完成された佇まいだ。

 

「東京憲兵隊管区第1師管 特務曹長、鎮守府視察官であります」

「…同じく第1師管 伍長、鎮守府視察官付補助憲兵であります」

「呼び止めてすまない天気も悪いから手短に済ませるよ」

 

 提督は一度ためらうような素振りを見せた後に一つの質問をする。

 

「率直に聞こう、君たちは我が鎮守府についてどう思った?」

 

 二人は面食らいながらも曹長が聞き返す。

 

「質問の意図は憲兵として貴方の鎮守府をどう評価したということでしょうか」

「…それもあるが私としては君たちそれぞれの視点からの所感の方が聞きたい」

 

 先に曹長が答える

 

「まず初めに今回の鎮守府の視察では通報された虐待と言った悪質な事実はなく、艦隊運営においても非常に優れた鎮守府と評価できます」

「あぁ…」

「しかし風紀と言った面では貴方の鎮守府は問題があり、世間における鎮守府、ひいては軍の評判が下がると考えられます。今回の通報も然り、このようなことが続くようならば貴方の鎮守府への介入を考えなければいけないでしょう」

「それは視察官としての目線だ。それより君がどう感じたかが聞きたい」

「本官は憲兵本部により派遣された身であり、ここでの発言は全て公的なものと判じておりますのでお答えできかねます」

「馬鹿真面目だな…では君の方はどうだね?」

 

 伍長としては上官が答えないのに答えるわけには行かないので同じように返そうとする。

 

「伍長、君は何かいいたいのではないかな」

 

 

 

「…すこしあります」

「続けたまえ」

 

 伍長は思わずしまったと思い曹長を横目で見るがここまで来ては心に貯めたものを止められないと思い切る。

 

「あなたの鎮守府は表面上は良好です。しかし艦娘達との関係は正常とは思えません、いわゆる依存のような関係に見えてしまいます」

「あぁ」

「全ての艦娘を平等に愛するなど世迷い言です。おおよそ責任ある人間の行動とは思えません、いつか破綻が起きることはあなたもわかってるはずです。」

「その通りだ」

「艦娘達のメンタルケアのつもりならもう少しまともな方法を模索するべきです。それが提督としての仕事ではないのですか」

「…」

 

 一息でいい切った後、軍における上官にここまで言ってしまった後悔を押さえ込みながらも憮然とした表情を取る伍長

 

「あぁ…私は無能だ」

 

 そう力なくポツリと呟いた後にその佇まいをすぐさま戻す

 

「伍長、貴重な意見を感謝する。」

 

 何か言い返されるだろうと身構えた伍長に対し、提督はすぐに帰ろうとする。

 

 肩透かしを食らった伍長は思わず提督に問う

 

「…何かおっしゃらないのですか」

 

 ぼんやりとした表情をしながら提督は質問には答えずにふと何かに気づいたように話しかける

 

「あぁ、君はもしかして鎮守府の視察の経験は少ないのかな?」

「…えぇ、そうですが」

「気をつけなさい。艦娘に向き合うということは非常に難しい、よく見ることだ」

 

 全く的外れな言葉をかけられ言葉に詰まる伍長であったが提督は用は済んだと直ぐに鎮守府へと踵を返す。

 

 

 提督はそれきり振り帰らずに鎮守府に向かって歩き出す、伍長はその背中を見て声をかけることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜあの提督は言い返さなかったのでしょうか曹長」

「…否定されたかったんだろ、つまらん自衛行動だ」

「それはどういった…」

「伍長、いいか?この仕事を長く続けたいなら、 首を突っ込むな」

 

 

 車に向かう中で曹長が言った一言はひどく伍長の心に残った。

 

 

 

 

 




次回、艦娘の不満が多い鎮守府
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