ドラゴンボールY 逆行のヤムチャ 作:枝豆豆腐
反省も後悔もしている
内に星の輝く七つの玉を前に一人の男が立っていた。
鍛え上げられた肉体と顔に傷を持つ壮年の男である。
強い決意の宿った瞳を携え、彼は呪文を紡ぐ。
「いでよ神龍!そして願いを叶えたまえ!」
男の言葉に応えるように七つの玉が光り輝き、空が暗雲に覆われていく。雲に走る稲妻が七つの玉に落ちると同時、巨大な龍が玉より現れた。
どんな願いも叶える神の龍は男が初めて見た時と変わらぬ姿で、僅かにあの頃とは違う言葉を発した。
「さあ願いを言え。どんな願いでも三つだけ叶えてやろう」
男にとっては既に見慣れた光景である。巨大な龍の言葉に応え、男は願いを口にした。
神なる龍にとっては簡単な願いであった。
「容易いことだ」
そして彼の願いは叶えられた。
☆☆☆☆☆☆☆
きっかけは何だっただろうか。
復活したフリーザとの戦いに、クリリンや武天老師様すら参加した戦いに自分だけ参加できなかった時か。破壊神と戦う悟空の姿を見るしかなかった時だろうか。或いは魔神ブウに抵抗もできず、逃げ惑うしかなく殺された時か。
かつて地球の為に命をかけて戦ってきた自負が、既に戦いの場に立つことすら出来なくなっていた自分を振り返った時、どうしようもない虚しさを覚えた。
もう一度武術家として鍛え直そう。殆ど癖の様にトレーニングは続けていたものの、その程度では実力を維持する事すら出来なくなっていた自覚はあった。
そう考えて再び修行を再開したはいいものの、戦闘民族でもないこの身体は、加齢による衰えから応えてくれることはなかった。
魔神ブウとの戦いの時でさえもう40歳を超えていたのだ。肉体的なピークはとっくに過ぎていて、しかも10年以上は真剣に鍛えてもいなかった。当然の結果だったと言っていいだろう。
それを悟った時、どうしても羨ましくてなってしまった。歳を経ても若く衰えない肉体、鍛えるだけ応えてくれる身体。地球人とサイヤ人でこうも違うのかと。
ならば、自分が少しズルをするくらい見逃して欲しい。そんな風に魔が差したのは確かだ。自分が怠ることなく鍛え続けていたら、奴らにどれくらい近づけただろうか。今の様に無様を晒す事はなかったのだろうか。
一度考え出したら止まらなかった。
運の悪い事に、その妄想を実現する手段に自分は心当たりがあった。かつて仲間と一緒に探した時を思い出しながら、何かに追われるように7つの球を探し出す。
神龍を呼んだその時でさえ、自分でも何を願うつもりなのかわからなかった。しかしそんな心とは裏腹に、自分の口は願いを紡いだ。心の奥底にあった、その願望を。
ーー戻してくれ、俺を、若い頃に、昔の自分にーー
☆☆☆☆☆☆☆
結果、こうしてまさかのタイムスリップを経験してしまったという訳だ。この場合はタイムリープって言うんだったか?まあそれはいいとして。
ピッコロ大魔王と同じはずの、若返りたいと願いがこんな結果になってしまったのは驚いたもんだ。俺の言葉が曖昧だったせいもあるだろう。しかし、何より俺の心の奥底にやり直したいという願望があった事が原因だろうと思う。
確かに俺はそれを願っていたのだ。それは自分がよくわかっている。一度は諦めた自分が、もう一度全てをやり直して挑みたいなんて情けない願いを持っていた事を。
神龍に願えば帰れるかもしれない、帰れないかもしれない。しかしそのどちらにしても、俺は帰るつもりはなかった。
自分の愚かさを理解していても、このチャンスを逃したくない。そう思ってしまったからだ。
俺は歴史を変える、自分の下らない願いの為に。そう、決めた。
願いを叶えた後、最初に気が付いたのは懐かしい荒野の自分のアジトだった。勿論混乱したものの、暫くしてようやく自分の状況を理解した。トランクスの存在でタイムスリップという現象に対して理解があったのは大きかったと思う。
時期としては悟空達に出会う少し前といったところだ。盗賊稼業はとりあえず辞めて、身体を鍛えながらその時を待った。
肉体的にはかなり弱くなっているものの、技術や経験は失われていない。
自分で言うのも何だが、武術の神と謳われた武天老師様の教えを受け、本物の神様から指導を賜り、宇宙の管理者である界王様の修行を潜り抜けてきた俺は、例え今の肉体でもこの時点の地球で最強の1人に数えられる筈だ。流石に、神様やピッコロ大魔王が相手なら厳しいだろうが。
身体鍛えながら、感覚を肉体に合わせて調整する修行を何日か続けていると、悟空とブルマがやって来た。
懐かしいその姿に感動を覚えつつも昔の自分を思い出して演技しながら襲い掛かり、そして戦闘になった。
今の悟空は当然と言うべきか、技術的には俺の足元にも及ばない。肉体的には多少悟空が上回っているものの、負ける事はないと確信できる。武天老師様の弟子の祖父に鍛えてもらっていたとはいえ、まだ子供の悟空をそこまで本格的に修行させていた訳でもないだろう、この時の悟空には明確な師といえる人物がいないのだ。
最初は互角に、その後ジワジワと力を上げながら戦っていると、案の定悟空は一秒毎に成長するように戦いの中で強くなっていった。
暫く一手一手、悟空に足りない部分を見せるように戦いを続けたが、悟空の体力が切れてきたと感じた辺りで俺の勝利という形で決着を付け、適当な理由を並べてドラゴンボール探しに同行させて貰う。
以前をそのまま再現しようにも細かく覚えていないし、こっちの方が手っ取り早いと思ったからだ。今の俺には女性恐怖症なんてないしな。
当然ブルマはドラゴンボールを狙っているのかと警戒していたが、まあそれはしょうがない。行動で信用を得ていくとしよう。
☆☆☆☆☆☆☆
悟空に何度も組手をさせられた事を除けば、ピラフ一味に捕まる事も含め、俺にとっては順調に進んだ旅だった。苦戦したのは大猿になった悟空と戦った時くらいか。
尻尾を切れば戻るのは理解していたが、この時代に来てから鍛えてきた身体で一度全力で戦ってみたかった。
確かサイヤ人が大猿になった際の強化は10倍だったか。悟空は理性を失うし、今は気功波や舞空術の類も使えないからそう単純なものでもないだろうが、とりあえず全力で暴れても気を遣わなくていい相手なのは間違いない。
まあ正直甘くみていた部分はあった。昔から俺の悪い癖だ。
大猿になった悟空は強かった。俺は悟空と周りが更地になるような熾烈な戦いを繰り広げ、最後には今の肉体で扱いきれない界王拳を使っても倒す事ができなかった。
界王拳からのかめはめ波で悟空が崩れた隙をついて、なんとか力を振り絞って尻尾を切り落とした記憶を最後に、俺は力尽きて気を失った。
やはりまだまだ自分は弱い。勝手に歴史を変える以上、俺には前より良い未来へ導く責任がある。強くならなくてはいけない。
その後悟空は武天老師様の弟子になる為に別れ、俺はブルマについて西の都に行く事になった。
ブルマと平和な時間を楽しみながら、ブリーフ博士に頼んで作ってもらった重力室を利用して修行をおこなっている。重力発生装置の他に、酸素を薄くしたり室温を弄ったりと、精神と時の部屋を参考にして修行しやすい環境にしてもらった。
悟空が出場した天下一武闘会の見学に行った時、気を感じてジャッキーチュンが武天老師様だと気付いた時には驚いたもんだ。
少し話を聞かせてもらったが、師として弟子が増長しないように壁になる為に出場したのだという。
やはりこの人には敵わない。武術家としては勿論、人として尊敬できる方であるからこそ、俺たちは師として慕っていたのだ。
実は俺もこの大会に出場しようかと考えていたのだが、武天老師様の話を聞いてやめた。これは師匠の役割だろう。
結果は前回と同じく武天老師様の優勝で終わった。
旅の中で俺と幾度となく手合わせをしてきた事もあって悟空は前回より強くなっていたと思うのだが、武天老師様もそんな悟空を見て油断せずに鍛えて来たのだろう。
次回の天下一武闘会、俺はどうするべきだろうか。
前回の通りなら俺は予選で天津飯と戦うことになる。戦うのならば負ける気はないが、そうすると天津飯が悟空と和解することはないだろう。
天津飯も餃子も長く一緒に戦ってきた仲間だ。殺し屋なんて暗い世界に生きて欲しくはない。
そして確かこの大会の直後にピッコロ大魔王が復活してクリリンが殺されてしまった筈。その後は武天老師様や餃子も、他にも何人もの人間がピッコロ大魔王に殺される事になる。
確かに死んだ人間はドラゴンボールで生き返れる。前回はそれで上手くいったのだから、その通りに進めるのが無難だろう。
しかし、まず俺が俺としてここにいる時点で既に未来は変わっているのだ。トランクスが悟空に心臓病の薬を渡し、人造人間の事を教えただけで大きく未来が変わってしまった事実を考えれば、この世界がかつての通りの歴史を辿ると誰が保証できるだろうか。
結局の所、少しでも良い未来を掴む為に今この時で力を尽くすしかない。それに一度ならず死んだ身としては、例え生き返れるとしても、あんな経験は誰にもさせたくない。
賢い読者諸君は既にお気づきだろうが
この作品はこんな感じでサクサク進んでいくぞ
細かい描写とか戦闘シーンは期待しないことだ