月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き) 作:マリア様良いよね
立ち向かう試練は、夢を乗り越えた先の現実にこそ
狩人とは、孤高であり。狩人とは、孤独である。
ただ獣を狩り、ただ蟲を潰し、ただ穢れを雪ぐ。そんな、単純な殺戮機構であればどれだけ幸せだっただろうかと、意味もなく考える。
目を当てることが苦痛なほどの惨劇。不治の病魔に苦しむ者、死んだ家族の帰りを待ち続ける少女、燃やされた悲劇の街を独りで守り続ける優しい古狩人。誰一人として救えない。手を伸ばすと、泡沫のように消える希望。叩きつけられる
そも、生きとし生けるもの全てに猛る憎悪と嫉妬の爪牙を向ける呪われた地に、ささやかな救いなど入る余地すらなく。ただただ心を殺し、狩りを続けるしかなく。己の不甲斐なさと遣る瀬無さが故に零れる涙を飲み込み、夜明けを偲んだ。
「……だからこんな
「君の気持ちはよく解るとも。だが、夜を終わらせた狩人がその先を求める様を見過ごせる立場じゃないのだよ。例え、
夜が終わろうと、また次の夜が来るだけ。繰り返し続ける無限回廊ならば、悪夢そのものを。
「矮小なる人の身で、悪夢を終わらせること能わぬと、何故気付かない?私のように、使われるだけの駒と成り果てるのが関の山だ。潔く、死を受け入れたまえよ。」
「真の『瞳』を得ない者が囚われることなど分かりきっているとも。馴染めば容易く上位者の器へと至る『へその緒』は既に取り込んだ。
——空の器は既に在り、青ざめた血は不要。注ぐ血は聖血にあらず、この悪夢そのもの也。」
「………君は、本当にそれを実行しようと云うのか。」
「無論だ。」
「…………そうか。」
草臥れた老人は徐に立ち上がる。弱々しい耄碌した雰囲気は霧散し、空気を鋭く裂く抜き身の刃が如く、若輩者を見据える。
「君はよくやってくれたとも。だからせめて、私の手で君を介錯しよう。安心したまえ。全ては悪い夢のように、全てを忘れて目を覚ますだけだ。」
「…………来い。」
「言われずとも。」
片手の曲刀をその背に負う
悪夢は巡るのだろう。だがそれも、今宵で終わりだ
———ゲールマンの狩りを知るがいい
———導きの光を手向けとしよう
獣狩りの夜に、最後の光が灯された
穏やかに流れる夕暮れ。秋の紅葉も枯れ始め、間もなく冬が来る季節。家々の前を通れば、夕餉の支度をする暖かい忙しさと、空腹をつつくような懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
ありふれた日常。幼子なら帰るべき時刻はとうに過ぎた頃。
だが、此処に、独りの少女が彷徨い歩いていた。少女の足取りは酷く重く、また視線は定まらず、今にも消えそうな雪のように儚かった。
帰る場所ならある。ただそこが、この少女にとって地獄であり、諦めるしかない絶望の
当たり前に、ごく普通に日々を過ごす事が、どれ程大切で尊い温もりだったのか、もう覚えていない。心が折れても尚、少女がその悪夢に向かったのは、ただそれ以外に選択肢が無いから。従わなければ容易く棄てられ、最悪命が絶たれるから。強制される魔術の訓練という名の常軌を逸した虐待は、少女に希望を捨てさせるには充分過ぎた。それでも逃げられたのは、限界がそろそろ近いことを悟り、壊れかけの心に悲鳴をあげた理性がその身をここまで動かした。
「……………」
ふらふらと、当ても無く歩き続け、ふと。寂れた空気を醸し出す公園に行き着いた。今の家に養子へ出される前に、よく母や姉と、たまに会いに来てくれた雁夜おじさんと、楽しく遊んだ場所だ。記憶がうっすらと思い浮かんだ。
「………ぅ……うぅ……ひっ……ぁぁあ………」
少しずつ、思い出していく。もう戻らないだろう明るかった日々を考えれば考える程止まらず、涙の雫が溢れた。
当然だ。心が折れていようと、まだ年端もいかぬ幼子。感情そのものが無い機械なぞではないのだから。
「……うっ……ぐす…………っ?」
何気なく。何となく。濡れる目元をこする時に映った視界に、何かが居た気がして。
潤んでぼやける目で凝らして見ると、誰かが倒れていた。
「………………」
否。正確には、木を背凭れにして寝ているようにも見える。だが、一切身動きしない様に徒ならぬものを感じ、恐る恐る近付いていく。見知らぬ人で見知らぬ服を着ていて、本来関わってはいけないかもしれない。なのに、何故か、声を掛けなければ、そうしなければ変われない、何故そう思うのかはわからない、でも。そんな気がした。
「………………………」
そばにしゃがみこんで、そっと肩を揺らす。離れていると解らなかったが、浅く呼吸もしている。ほっと息をつき、声を掛けてみる。
「………あ、の…………だい、じょう…ぶ……?」
「…………………………」
反応は無く。それでも、めげずに声を掛け、肩を優しく揺らす。不思議な事に、ただそうしているだけの時間がひどく暖かく感じた。
わからない。何故そう感じるのか。初対面でまだ話してすらいない。全く知らない筈なのに。それでも、早く起きて欲しいという気持ちはわかる。いつまでもこうしていては、また"悪夢"に戻ってしまう。少しずつ逸る焦りを抑え、揺らし続ける。
「…………ぅ……ん……………」
「………!」
うっすらと、重い瞼が開かれていく。深碧色の瞳がぼんやりと虚空を見つめる。視界に靄がかかったようにはっきりとしない。何度か瞬きした後、ゆっくりと視線だけ周りを見回す。
恐らくは遊具のようなものがそれなりにある開けた場所。どれも彼の地では見たことのない。
私は、少なくとも、ヤーナムや悪夢ではない何処かに居る。ゲールマンを弔った後、悪夢そのものを糧にすることで主となり、もう二度と獣共の犠牲にならないよう文字通り全てを終わらせ、自身は消える筈だった。
だから疑問に思う。ここは、何処だ?
私は夢から覚めたのか?
信じられず、思わず口から言葉が漏れる。
「……………ここは…………夢、か……?」
「……………夢じゃ、ない……よ……?」
「………!?」
まさか答えが返ってくるとは。
見ると、すぐそばに、見知らぬ娘が居た。
獣ではない、普通の………いや
裡に『蟲』がいるようだが。
「……………よかった。ぜんぜん動かないから……死んでるのかと、思って………目を覚まして、よかった。」
「……………………私を、起こしてくれたのか。」
「…………うん。」
「…………」
意識がなく無防備な私を前に襲わず、『蟲』による獣化もなく。だが、心身ともにボロボロの少女、か。恐らく『蟲』による何かしらの悪影響が原因なのだろうが………
「……ここは夢ではなく、現実なのか?」
「…うん。」
悪夢から覚めても、苦しむ人がいる。現実というのは、儘ならないらしい。
一先ず、状況を把握してから成すべきことを探そう。消え逝く私がこうして今も居るのは、何か意味がある筈だから。
「………では、ここが何処なのか教えてくれないか?」
「………………記憶が、ないの?」
「いや、記憶はある。ただ、ここがどこで、どうしてここに来たのか……全くわからない………」
「………………居場所が、ない……の?」
「………………そうらしい。」
「…………………」
怪しまれた……?流石に、事実は本当であれ、不自然だったか。記憶があるにも関わらず、何故ここにいるのか分からないというのは確かにおかしい。………嘘は余り吐きたく無いが、それでも記憶喪失という事にした方が———
「…………そう、なんだ………お兄さんも………独りは、いや……だよね………」
「……!」
「………うん……独りは……いや…………ぅ、うぅ……ぁぁ………」
「……………」
どうやら、この娘の中に居る『蟲』は余程醜悪らしい。年端もいかない少女がこれほど苦しむなど、あってはならない。悲しむ者を見捨てるなど、ましてやかつての地のように、
「……君が苦しい思いをしているのは、君の中に潜む
「!?………どう、して……」
「どうなんだ?」
「…………………………うん。」
彼の地では、手を伸ばそうと、誰一人とて救えなかった。だが、この娘はまだ———
「では、
「……………そんなの………」
「君がそう願うなら、私は必ず救うとも。」
私がこうして在るのは本来有り得ない事なのかもしれない。
放っておけば勝手に修正されるバグのようなもの。そんな私を気にかけてくれたこの娘を私は、助けたい。
この娘の負の運命を覆そう
「………………な……んで……?……わたし、は……わるいこ………なのに………」
「君は悪くない。悪いのはその体に巣食う蟲だ。」
「………ぅう…………なんで………たすけて、くれるの……?」
防疫マスクを外し少女と目線を合わせて、優しく頭を撫でながらふっと微笑む
「君が、私を目覚めさせてくれたから。悪夢から引き上げてくれたから。それだけで、私には充分過ぎるんだ。」
そうだ。目的がないなら丁度良い。私がここに居るのは、この娘を守る、唯一の居場所になる為に。そう定めよう
「………ひっぐ………あぁ………!」
「私に、君を助けさせてはくれまいか。」
「……っ……お願い、助けて……!!」
———その言葉を待っていたとも
懐から『青い秘薬』を取り出す
「承知した。では、少しの間眠ってもらう。大丈夫、君が目を覚ました時、私は必ず居るとも。」
「………ほんと?」
「無論だ。では、しばしおやすみ。起きた時、体に血が付いているかもしれないが、気にしないでくれ。」
「…………う……ん………」
青い秘薬の匂いを吸わせ、眠らせる。秘薬をしまい、代わりに白銀に輝く神秘の鐘、『聖歌の鐘』を取り出す。医療協会の上層「聖歌隊」の齎した秘儀。
これからするのは治療というには余りにも惨い。そしてすぐ様回復しなければならないやり方だ。ある種の根源ともいえる業。手を手刀に構え、
助ける為とはいえ、せめて方法は言うべきだったと苦笑する。
———躊躇うことなく少女の体を貫き、潜む蟲を容赦なく潰す。
手を抜き、血を浴びる事も厭わずすぐ様聖歌の鐘を鳴らした。幻想的に輝く真白の光球が、少女の傷を跡も遺さず癒し消えていく。
この娘が起きたら、まずは謝らねばな………
寄生する蟲だった肉塊を気にも留めず。少女を抱え、夜の帳の覆う街に
———第四次聖杯戦争。最大級の
臓硯 「ぎゃああああああああああ!?」
狩人(………そういえば、此処が何処なのか聞いてなかった。)
聖杯「いや、お前誰だよ。」
抑止力「」