月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き) 作:マリア様良いよね
自由な鳥は夢を見る
虚無と欺瞞に塗り固められた悪夢へ囚われ
孤独に抱かれた哀れな鴉の夢を
夕陽に染まるヤーナムの街で、私はある少女の願いを聞いた。
『お母さんを探して欲しい』
獣狩りの夜が始まり、灰色の血を、臓腑を撒き散らしながら街を進んでいた頃に。初めて聴く筈なのに、何処か懐かしいオルゴールの音色に惹かれて、気付けば話しかけていた。
常であれば官憲の者に頼む事案。だが忌避すべき血濡れの夜に外を出歩くのは自殺行為だ。故に狩人である私に頼んだのだろう。
それに、家族の安否を案ずる彼女の切実な願い、断る道理も無かった。
嬉しそうに喜ぶ少女の声音を聞き、これからに思いを馳せ、再び歩きだした。
ヤーナムを訪れ不治の病の完治と引き換えに狩人となったらしいが、そもそも何故ここへ訪れたのか。輸血をされてから記憶が無い為わからない。本当の目的も、病気の治療ではないのだろう。
記憶を失った私には何も残っていない。正しく無だ。願いも
だが遅かった。遅過ぎた
古狩人ガスコインと死闘を繰り広げ、死の瀬戸際を生き延びた先に待っていたのは
————物言わぬ骸となった少女の母親だった
こんな筈ではない
こんなことを望んではいない
こんな報われない終わりなど、誰も救われない
鮮血の様に混じり気の無い真っ赤なブローチを手に取る。少女にとって母親の形見となるもの。燃えるような見目に合わずその感触は、酷く冷たかった。それが、私に不甲斐なさをより克明に刻み込んだ。
少女の家の近くまで戻ると、家族が帰って来ない孤独感と恐怖に嗚咽をもらす声が聞こえてくる。
年端もいかぬ少女が背負うには重すぎる傷を負っていたという事実に、己の認識の甘さを思い知った。
そっと、ブローチを窓際に置いて去る。合わせる顔がない、ある筈がない。
見つけた時には手遅れだった?違う!助けられなかった!何も報いることが出来なかったんだ!!
……その結果が全てであり、役立たずの無能と蔑まれるのは当然だった
…………嗚呼………でも、私はただ
泣き咽ぶ慟哭ではなく、母娘の無事に安堵する
そんな救いを求めただけだったんだ………
「……スー……スー………」
「………………」
穏やかな夕暮れは過ぎ、辺りには夜の帳が下りた。この少女を助けて数時間。街の雰囲気も、人々の賑わいも、闇空に煌々と輝く月も。なにもかもがヤーナムとは違う概念で彩られた光景にしばし目を奪われ、やがて深い感慨を覚えた。狂気ばかりを見つめてきた身からすればあまりにも眩しいものばかりだ。それだけで、報われた気になりそうなほどに温かい。
だからだろう。この世界に於いても
獣狩りの夜が終わろうと、人が人である限り獣もまた陰より脅かす。以前に比べ幾らかは消極的な様だが、だからといって見逃すほど甘くない
獣が未だに朽ちぬならば、その悉くを狩り尽くそう
「………ん…ぅ…」
「……………」
一先ず、休める拠点を探さなければ。私は兎も角、幼い身の上の子供に野宿をさせるなど以ての外だ。何処か空き家でもあれば良いが。
「………スー……スー………」
「……………」
………それにしても。子供というのはこんなにも温かく、見ていると何処か落ち着くものなのか。
「……ぅ、ん………お…にぃ……さ………」
「………ふ、寝言か」
「……………スー……」
「今はまだ、寝ていたまえ」
そっと手を頬に触れる。少し冷えてきた。いい加減、裏路地を歩きながらの視察も飽きてきたところだ。空き家なら住宅街をうろ付けばそのうち見つかるだろうが、暖炉の一つでもあれば良いな。
静寂な空間に、水の滴る音が響く
ピチョン、ピチョン、ピチョン
音は等間隔に、時計の針はくるくる回る
カチ、カチ、カチ、カチ
家主のいない家に、ナニカがいた
————………………—–———
ソレは、呼吸をしている。生き物だから
ハァ……ハァ……ハァ……!
ソレは、怯えている。真黒の宙に浮かぶナニカに
滴る雫は、赤色でした
ジル「………はて?私の出番は?」
狩人(………獣が減っただと?)
聖杯「アサシンもう居るけど?」
抑止力「」
聖杯「?」
抑止力「…………勝手に行った」
聖杯「」