月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き) 作:マリア様良いよね
数時間前
少女を運ぶ道中、狩人は徐に鐘を取り出した。
「共鳴する不吉な鐘」
血塗れの、暗い情念や呪いを宿した不吉な鐘。
本来であれば、これはあらゆる不吉な鐘の音に共鳴し、使命を全うせんとする別次元の狩人へ敵対する為の狩道具である。
しかし、今や狩人はただ一人。不吉な鐘を鳴らすヤーナムの狂女もまた存在しない故に、最早共鳴を探す意味など皆無だが……
確かに、鐘を鳴らすものは居ない
狩人も、この世界にはたった一人
だが、忘れてはならない。
狩人とは、次元を跨いだその先に
であるならば。たとえこの世界に狩人が一人だろうと、此処がヤーナムでなかろうと。
———嗚呼、聴こえてくる。不吉な鐘を呼ぶ音が
人の営みから遠ざかる様に、冬木の街の外れに位置する間桐邸にて。
間もなく聖杯戦争が始まる二日前に迫ったこの日。
間桐桜が魔術鍛錬を拒否し、あろう事か逃げ出した
「……よもや、あの娘にまだそれだけの気力が残っておったとはの」
桜への魔術鍛錬を始めて早一年、既に心も精神も完全に壊れていたと思い込んでいた間桐臓硯からすれば、些か予想外のことではあった。
逆に言えば、たったそれだけ。逃げたとて、所詮は子供。当てもなく彷徨い歩いたところで、限界など高が知れている。
そもそも、桜の今の位置など手に取るようにわかる。万が一の為に仕込ませた蟲が、まさか数日ばかりで役割を果たすとは。
始めこそ驚いた臓硯であったが、所詮はその程度。文字通り、駄々をこねる様を観ているようで、ほほえましさすら感じる。
だが、おいたが過ぎた子供に罰は必至。
「呵呵!さて、如何様にしたものか……む?」
そこまで考えたところで、気が付く
桜に埋め込んだ
「……なんじゃと?そんな馬鹿なことが……!?」
次いで襲う、全身を潰されかけたような感覚。
「………グッ…ギギガ……!」
間違いない、桜の身に何かが起きた。
加え、単なる端末越しから本体に直接攻撃を仕掛けるような得体の知れない何者かに攫われた
すぐにでも手を打たなければ……相手が何者か分からない上に、後手に回るのは不味い!
そうして、『蟲群』を放とうとしようとした直後、
███████、███████
———いやに耳に残る、鐘の音が聞こえてきた
「………鐘の音?一体、何が起きてお———」
それが、500年もの間生き長らえた
人の形を成していた穢らわしい
その骸の背後に
硝煙が僅かに残った銃身を構える、
紅い血の様な気を纏ったナニカが立っていた
「……………………………」
ソレは、なんの感慨を抱くことも無く
周囲を見渡すように見た後、徐に空砲を抜き、
———蜃気楼の様に消えていった
———————————————————————
———夢を視た
聖職者が獣と化す、狂気の夢を
夢を観た
探求者が神を犯す、冒涜の夢を
悪夢を見た
██が万象を鏖殺する、終末の夢を
生きとし生けるもの全てを嘲笑い
己に牙を向けた愚者を嗤い
同じ獣を人と宣う滑稽さを憐れんだ
…………私は、なにを成せば正しかったんだ?
人を喰らう獣を狩った
人を殺す狂人を狩った
人を弄ぶ偽神を狩った
目に移る不愉快な事象の悉くを狩った
……………本当に、それで解決したのか?
もっと他にできることがあったのでは無いのか?
もっと、誰かを、
一人でも、助けることは出来なかったのか……?
いくら後悔しようとも、
失った時間を取り戻すことなぞ誰にも出来はしない
全てを忘れ、やり直すことはできても、
そんなもの、ただの自己満足な幻想の投影に過ぎず
個人の我儘が罷り通る程、世界は甘くない
…………それでも、私は████
———————————————————————
———ひどく虚しくて、悲しい夢を視ていた
「……ん、んぅ………」
雪が降り始めるこの季節には珍しい、暖かな陽射し。微睡みからゆっくりと目を覚ます様に、優しく包み込むような温もり。
朝は辛い。虐げれられた体の痛み、苦しみ、重くのしかかる様な倦怠感。忘れていた感覚が、再び現実へと戻すから。
でも、今は何故か、それらは感じられない。
身を内側から切り裂かれていく苦痛も。肌が荒み、震えるような寒気も。心の底から吐き気を催す悍ましい蟲群から与えられる
穏やかで、まるで昨日までの日々が嘘のように
「…あ、れ……?」
まだ少し眠い体を起こして周りを見ると、ここが間桐邸ではないことに気付いた。
知らない天井
知らない部屋
知らない、知らない、知らない……
……ここは、一体どこだろう?どうしてこんなところに?
少しづつ今の現状へ戸惑い混乱し始めた時、部屋の扉が控えめにノックされた。
ゆっくりと、誰かが入ってくる。
「おはよう、お嬢さん?……む、もう目が覚めていたか」
「……あ」
狩人
その名を
その姿を
その業を
覚えている/覚えた
知っている/知ってしまった
夢で視た、彼の慟哭を思い出した
「ん?どうした、そんなにじっと見つめて」
「……ううん」
「…?」
彼は、狩人だ。獣を狩り、神をも殺す。
でも、優しくて。狂気に晒されながら、誰かの救済を求めた人。
しかし、いくら手を伸ばせども、彼に救いは訪れることはなく。ただただ虚空へと帰結した。
むしろ救われるべきなのは、彼の方ではないかと思うまでに。何度も何度も何度も何度も……
「おにいさんの………夢をみた」
「私の、夢?……その様子だと、あまり良いものでは無かったようだな」
前も後ろも右も左も上下さえも。どこを見ても真暗闇。自分が本当に存在しているのかすらわからない、暗い暗い深淵。
最初に聞こえたのは「声」だった。
知らない人の声。優しいけれど、どこか哀しみを感じさせるような、そんな男の人の声。
なにも見えない筈の底で、何故か彼には少女の姿を見ることが出来るようで。
やがて彼は、少女を助けてくれた狩人の過去を語り始めた。
———紡がれたのは、「月の狩人」と呼ばれた者の物語
「………………こわかった。でも、おにいさんが……ずっと、がんばってて……でも、くるしそうで……」
「———それでも、ずっと前をむいてた」
「…………」
「だから……うまく言えないけど………私も、がんばらなきゃって…思った……の」
「……そうか」
「……うん」
特徴的な帽子を更に目深に被るよう手を添えながら呟いた言葉は、どこか重く。噛みしめるようにゆっくりと頷くと、そっと手を少女の頭にのせて撫でる。
おにいさんに触れられると……なんだか少し、あたたかい
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」
「
「サクラ……良い名だ」
「……そう…ですか?」
「あぁ。どんな意味が込められているのかは分からない。だが、尊いものだと感じる。例えるなら、儚くも今を確かに生きる一輪の花の様に。いや、私が知らないだけで、もしも花の名に準えたのならば。君にこそ相応しいのだろう」
「………ありが、と……」
名前を聞かれただけなのに……でも、少しも悪い気はしない。やっぱり、どこか嬉しい気がする。
……不思議な人
気にしないでくれ。そう言いながら立ち上がった彼に、桜は思いたった様に口を開いた
「………あ、の………おにいさんの、名前は?」
「私の名前、か……そういえば、久しく名乗ることもなかったな」
彼と出逢ってから、あるいは夢の中においても。彼が名前で呼ばれたり、名乗ることなど一切無かった。
知りたい。月の狩人ではない、彼の本当の名前を
「—————私の名は、ルーナ。ルーナ・ルクス。擦り切れ、忘れてしまった記憶の中で、唯一憶えていた………私の存在証明でもある。」
サクラ……どうか、忘れないでくれ
そう呟いた
けれど、少しだけ嬉しそうに見えた
「———成程。微笑ましい、とはこういうものか」
「「!?」」
———いつの間にか、いつからか。狩人と桜から少し離れた部屋の隅にある椅子に、少女が座っていた。
「穏やかな日常というのは……こうも温かいものなのだな」
「………貴公、何者だ?いったい、いつからそこに」
「
「………何?」
「
「!!……よもや私が、気配に気付くことすら出来ていなかったとは……!?」
自然体に椅子に座る少女は何の事は無いように。狩人が驚愕する事実を淡々と述べた。獣の気配であろうと、自らを狩らんと息を潜める敵対者であろうと、ただそこに居るだけのナニカであろうと。いずれの
「無理もないだろう。確かに最初から居たが、椅子に座ったのはたった今だ。それまで、ずっと霊体化していたからな」
「霊体……?」
「? 嗚呼、そういえば。まだ
———其の者、あらゆる魔を切り裂く者
———其の者、あらゆる神を穿つ者
———其の者、人の祈りを束ねし者
「———我は、抑止の守護者」
魔神・沖田総司
臓硯「ぎぇええええええええええええ」
血に狂った狩人「灰エヴェの味はどうだ?」
さくらちゃん「えへへ……」
ルーナ&魔人さん「「可愛いな……ん?」」
聖杯「」
抑止力「」