月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き) 作:マリア様良いよね
———もう、どれだけ彷徨ったのだろう
女王の為を想い、血の穢れを求め幾星霜
気が遠くなる程歩いて、走って、穢れを探しながら、殺して、殺して、殺されて、殺してきたヤツをまた殺して
目に映った醜い異形、凶刃を以て迫り来る血に酔った同胞達、凄惨窮まる尋常ではない実験を未だに繰り返す医療者共
血の女王へ穢れを捧げ、狩りを続け、穢れを集める
終わりなど、きっとない
女王は不死だが、俺は違う
それに、もう夢を見ることもない
叶えられぬ悲願と知りながら俺は狩りを止めない
いや、
なぜなら、
「……貴公。また、行くのか?」
「———我が身は女王のモノなれば。穢れを捧ぐは我が使命」
「……そうか」
今もこうして、
「……貴公、また戻り給えよ?」
「………御意」
「カインハーストの名誉のあらんことを………」
俺を待っていてくれる人が居るのだから、
———
「……………戻り給えよ、
どこか寂しげに呟かれた言霊は、鴉の背に届くことはなく
———赤い月の夜、大聖堂にて
鮮血と共に漆黒の羽が散った
荒れ狂う暴威の中、血濡れの鴉は観察する
「………………」
「フハハハハハハハハ!!!!!どうした?先程の威勢はどこへいった?逃げるばかりでは我に触れる事すら叶わんぞ!!!」
獲物を狙う狩人は、いきなり襲う様な下策はしない
「口だけが達者なようでは世を渡ることも出来まい。おっと、貴様は汚物を啄む烏であったか!それだけの理性すら失った畜生のなぁっ!」
「………………」
絶えず降り注ぐ宝具の雨は地面を抉り、爆ぜ、その余波ですら生命を刈り取るにあまりある破壊力である。
「……………」
今の奴には、隙が無い
絶え間のない波状攻撃は掠りでもすれば致命傷、奴からすれば俺はただただ逃げに徹する、それこそ雑兵に見えるか
だが、
「……チッ!」
様子見は終わりだ。狩りを始める
宝剣を避けながら、腰のホルスターに掛けたエヴェリンを抜き、骨髄の灰を込めた直後、
———————————————————————
「………なんだ?焼きが回ったか?」
腰に下げていた銃を取り出したかと思えば、即座に投げ捨てた。大方、今の状況を覆そうと取り出したは良いが、撃つ隙が無いと諦めたと見える
所詮、取るに足らない有象無象であったか
それが、目の前を逃げ回る無様な烏へ対する英雄王の評価だった。いや、評価ですらない。今までと変わらない、変わることはない。
己を愉しませる事すら出来ぬ三流にかの王は飽きてきていた。
王の威光を前にただ畏れ慄き、逃げるだけ
実に、つまらぬ
此度の聖杯戦争へ赴いたのも、自らの財を奪うと抜かす身の程知らずな愚か者共から回収する為。ただそれだけ。
召喚者である時臣も、形式的ではあるが配下の礼を示すならば、それに応じるのも王が務めではある。が、典型に過ぎる故にやはり、つまらぬ。
無聊の慰めにも成らぬ煩わしい烏めを消し去ってくれよう———
そう、思った矢先。突然、烏の姿が消えた
この期に及んで悪足掻きか?と、最早呆れを通り越して憐れみすら感じかけた直後、白い残光を横目に捉える。
———まさか
いや、あり得ぬ。今まで、さんざ翻弄されていた筈の雑種如きが———
「———慢心が仇になったな、英雄王」
咄嗟に後ろを振り向くと、刀を納刀し、抜刀の構えを取る烏が居た
「宣言通り、腕は貰うぞ」
鯉口を切り、柄に添えた右手に力を込め、鞘から抜き放たんとし———
「———戯け。貴様如きが我が玉体を傷付けるなどと、片腹痛いわ」
黄金の波紋が即座に烏の周囲に展開、同時に無数の黄金の鎖が烏の身体へ巻き付けられる
「逃げ回るだけの無能かと思えば、小さくも牙を隠しておったか。しかし、この我を出し抜こうなどと、夢のまた夢であったな」
「……………………」
構えの姿勢を取ったまま、体は完全に拘束され、身動きが取れない。自力で外すには困難だろう。
「しかし、意表を突かれたという一点のみは認めよう。せめてもの褒美だ。苦痛なく殺し———」
「いいや、やはり片腕は貰う。
———貴様はオレを、最後まで侮った」
「……何?」
戯言を、と。二の句を告げることは、出来なかった
後方で鉄の破裂音の様な乾いた音が聞こえた瞬間、
「っぐぅ!?」
———突如背に、
鎧を貫通こそしなかったものの、気を取られるのには充分過ぎた
拘束していた天の鎖が消え、
致命的な隙を晒してしまう
「——————ッ!」
神をも斬り伏せる居合抜刀を、避けられる筈もなく
英雄王は、右腕を斬り飛ばされた
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「……嗚呼………オレは……負けた、のか」
赤い月の夜。聖堂街の中枢ともいえる大聖堂にて。カインの流血鴉は二人の狩人を相手取り、月の香りのする者に敗北した。
「…………申し訳…ありません、女王……私は…」
道半ばにして、自身の悲願でもあった夢が終わる
なんと無念なことか
なんと惨めなことか
なんと無様なことか
己の全てを賭けて尚、あの狩人には一歩及ばなかった
全て、全て、全て、忘れてしまう
散々色んなモノを殺めておきながら、この期に及んで生に未練がましくもしがみつきたくなる甘さに、我がことながら自嘲する
そして思い出す。これから訪れる、暗い死を
「………出来……こと、なら………私は…」
嗚呼。今際の際に思い出す。冷たい鉄仮面の奥で。いつも我が身を気にかけて下さった、血の女王を
そう。出来ることなら
「………貴女の……願い、に………応えたかっ……た………」
女王の隠したもう一つの願い
同じ血族をもう喪いたく無い、と。哀しみに憂う彼女の願いに、応えたかった
「———貴公」
他ならぬ致命傷を与えた月の香りの狩人が、死に際の鴉へ呼び掛ける
「貴公の遺志は、尊いものだ。私は何者でも無いが故に、貴公のソレは輝いて見える。貴公がもし許してくれるのなら、私にその遺志を継がせてはくれまいか?」
人の夢を砕いておいてよく言う、と。恨みがましい思いもなくは無かった。
だが、それでも。彼女がまた、独りにならずに済むというのであれば
自然と、静かに、けれど意志を込めて
「………ありがとう。私は……いや、オレは。貴方の遺志を引き継いで、血の女王を支えよう」
防疫マスクを外した狩人の顔は、見る者によっては冷たい印象を与えるだろうか。
だが、その口元は、慈しむかのように微笑んでいた
きっと、俺を殺した
もうアンナリーゼを悲しませる事は無いだろうと、根拠のない安心が心に残った
宝具
『失われた血刀』
ランク:A+++ 種別:対人/対神宝具
血に狂った狩人が使っていた仕掛け武器。刀身に自らの血を纏わせることで本領発揮する呪われた刀。居合斬りはしたが、変形機構そのものは用いていない。
余談だが、血を纏わせると夢の中で上位者殺しも積極的に行っていた狩人である為、この世界では神殺しへと化ける。肝要なのは刀の方ではなく、
その血は劇毒であり。蓄積すれば身体を蝕み、一定量を超えた瞬間相手は即死するという恐ろしいもの。即死する対象に例外は無い。
『エヴェリン』
ランク:A 種別:対人宝具
カインハーストと呼ばれる血の貴族の騎士達が用いた独特の銃。水銀の弾丸を用いることでは工房の銃と変わらないが、カインハーストそれはより血質を重視する。
女性名を冠されたこの銃は、意匠にも凝った逸品であり騎士たちによく愛されたという。
強靭な獣の動きを止めるどころか仕留める程の火力を誇るが、骨髄の灰を使用する事で神ですら場合によっては屠れる代物。血の狩人達の愛用品。
狩道具
『古い狩人の遺骨』
古い狩人の遺品。その名は知られていない。
その狩人は、老ゲールマンの弟子であったと言われ初期狩人の独自の業「加速」の使い手でもあった
その遺骨、意志から古い業を引き出すとは
夢に依って遺志を引き継ぐ、狩人に相応しいものだろう
使用する事で狩人の敏捷を一時的に上げる。効果時間は短いが、敏捷のランクが二段階上がる。
※尚、血に狂った狩人の宝具は他にもある模様