月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き)   作:マリア様良いよね

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おのれ……

おのれおのれおのれおのれおのれ!!!

たかが消された世界の異邦人風情に、事の運びを掌握されるとは……!!

飢えた鴉如きが、我が玉体を啄んだその不敬!羽も残さず塵にしてくれるわ!!!

完膚なきまでに八つ裂きにし———



…………………なんだ、これは






鴉の矜恃

 

 

 

 

深淵に浸るものにとって正常こそが狂気であり、故に彼らは怯え(嗤い)ながら殺すのだ

 

光の中に微睡む羊達を恐ろしい(悍ましい)

 

天空を羽ばたく鳥達を恐ろしい(恨めしい)

 

大海に生を育む魚達を羨ましい(妬ましい)

 

 

生を冒涜しているのはどちらであるのか、そんな問いは彼等にとって理解し難い当然の答えとして既に出ている

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()に他ならぬのだ

 

 

 

深淵を恐れよ

 

闇に呑まれては為らぬ

 

人のままであることを望むならば

 

 

一度でも虚底(うろそこ)覗けば、奴等は決して逃がさぬ故に

 

 

 

 

 

たとえ全てを忘れたとしても(そんな事は出来るはずもなく)

 

奴等は、決して忘れない

 

 

 

———————————————————————

 

 

「………………」

 

 

名も出自も知らぬ、たかが雑種と侮った狩人に腕を斬り飛ばされた英雄王。

 

本来であれば、真の王たる己を傷付けた下賎な輩にその万死に値する罪を王手ずから贖わせる所である筈なのだが。

 

「…………………」

 

無言。無表情。身動ぎ一つなし。ただ狩人を見るその瞳は未知に触れた探求者のように、或いは裁定者として改めて格を見定めるように。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………」

 

頭部を覆う特徴的な鉄兜により顔を窺うことは出来ないが、刀の柄を握る強さからして、狩人もまた警戒を解いていないことはわかる。

 

「…………………貴様」

 

英雄王が、血に狂った狩人へ呼びかける。見定める目はそのままに、『正直に応えねば殺す』と言わんが如く形相で

 

「…………………」

 

何も答えず。しかし、聞く意思はある様で、一先ず刀を納刀した。

 

「———貴様は、人に仇なす獣か?」

 

「———否。断じて否だ。」

 

即答。いくら血に狂っていようと彼女は狩人。

人を無差別に己が欲望のままに貪り食い散らかす獣であろうはずがない———

 

「貴様は他を殺める快楽を知っている。むしろソレを求めてすらいる。血を流し流される歓びと悦に浸る貴様が、何故獣ではないと言いきれる?」

 

理性が残っているから

感情のままに殺すことはないから

人々の為に獣狩りを始めたから

 

 

 

理性など、とうの昔に捨てた

感情の昂りは、強者との死合を得て増すばかり

何よりもまず、彼女は人々の為などという大層な理由で狩りなぞしていない

 

では何故、断言したのか?

()()()()()()

 

 

「私は狩人だ。であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………ほう」

 

 

狩人が狩るのは獣。獣とは欲に溺れ人ならざる身に堕ちた者。

獣の病?上位者の呪い?そんなものは関係ない。人の姿をしていようが異形の化け物だろうが人に仇なす全ての害は『獣』だ。

 

それらを見定め狩る彼女が、獣であろうはずもない

 

「この我を前にして、よく宣ったものだな。貴様は確かに獣ではないのだろうよ。だがな、知っていたか?人間とは他を踏み躙ることでしか生を謳歌出来ぬ獣の名だ。」

 

「……………」

 

 

だが、英雄王は言う

 

 

「つまり、獣でないと宣った貴様は、()以下の何かということになるな?」

 

 

貴様は人ですらない、と

 

 

「………………違う」

 

「違うものかよ。人とは欲深く、浅ましさのあまり見るに堪えん愚か者へと堕ちる者も居よう。だが、欲があるからこそ人間という種は栄えてきたのだ。それすら否定する者が居るとすれば、確かに獣では無い。()()()()()。貴様のことだぞ、()()()()()

 

「………違う!」

 

「認めよ。そして目を逸らすな。己のうちに潜む淀んだ業にな。」

 

「…っ……ち、が……う……ああ……!!」

 

 

なにかに苦しむように頭を抑えながら否定の言葉を吐く

 

————嗚呼、何故だろう

 

あの男の姿が歪んで見える

 

殺意が、溢れて止まらない

 

奴を殺せと(狩人)の本能が叫ぶ

 

 

————それはダメだ

 

今ここで英雄王を殺してはならない

 

耳を貸さず己を律しろ、正気を保て

 

何もかも手遅れになる、衝動を殺せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———殺しても、良いかな?」

 

 

蕩けるような、甘い声

 

 

「———キラキラ光って星みたい。きれい(おいしそう)

 

 

誘う様に、淫らに唄う

 

 

「———もったいないけど、味見したい」

 

 

奏でる様に言葉を紡ぐ

 

 

 

 

………だめだ

 

やめろ、それはだめだ

 

堕ちるところまで、堕ちてきた

 

今更悔いを償うことも叶わない

 

愚行に蛮行を積みかさねてきた

 

 

だが、それでも

 

 

獣を狩るべき己が、()()()()()()()()()()()……!

 

 

 

「………っ!」

 

鞘から刀を抜こうとする右手を無理矢理抑え付ける

 

 

「……っ………くっ!!」

 

「理性で以て自らの本能を律するか。だが、それもいつまでもつ?どうせ無為なのだ、潔く屈すれば楽であろうよ。」

 

今この場において、これ以上にない甘言に思わずつられそうになる。

 

それだけはいけない

 

ただの自己満足で不吉につられてきたというのに、顔も名も知らぬこの世界の狩人(平行世界の己)に余計な後始末を負わせるわけにはいかないっ!

 

 

故に

 

「………っ!!ゴホッ…!!」

 

 

自決した

 

 

「……なに?」

 

 

血を鞘へ過剰に流すことで刀を抜かずに死んだ

 

 

ゆっくりと、体が前に倒れていく。遮るものはなく、重力に従ってあっさりとその身は地に落ちた。

 

狩人の体が消えていく。陽炎の様に、まるで最初から無かったかのように跡形もなく消えて逝く。

 

 

「……欲に呑まれることを良しとせず、躊躇いもなく死を選ぶか。」

 

 

片腕を失った王は踵を返す

 

 

「………フン」

 

 

最後に、狩人が消滅した場所を一瞥してから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………己の矜恃を死をもって守り通したのだ。他ならぬ(オレ)が認めてやる。貴様は、確かに人間(ヒト)だ」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

私は、弱かった

 

目覚めてからすぐ、診療所で初めて見た獣に訳も分からず殺された。気が付いたら最初に戻ってて、少し進むと同じ場所に獣が居て、同じようにまた殺された

 

獣が怖かった。気付かれないように先へ進もうとしても、敏感に気配を察知して獣は追いかけて来た。がむしゃらに走った。必死に逃げたけど、無様に転んで追い付かれて、殺された

 

 

獣が、ずっと怖かった

 

夢に囚われて、武器を渡されて、身を守る手段を手に入れても安心なんて出来なくて。ずっと、死なないように必死だった。

襲ってくる民衆を殺すのも、化け物みたいな動物を殺すのも、獣を殺すのも、本当は嫌だった。肉を断つ感覚が、内臓を抉り回す感触が、骨を削る不快さが、大嫌いだった。

でも、死にたくないから。我慢して、気持ち悪くても耐えて、罪悪感から目を背けて、必死に殺した。

 

 

ただ、死にたくなかった

 

無様に死にたくなかった。油断して死にたくなかった。訳も分からず死にたくなかった。いきなり死にたくなかった。詰めが甘くて死にたくなかった。とにかく、死にたくなかった。

 

 

いつしか、どうでもよくなった

 

獣狩りも、上位者も、狩人の使命も、殺すことの罪悪感も、死への恐怖も、何もかも。

 

獣がどうした?いくら殺したってキリがない

 

上位者だと?ただただ気持ち悪いだけじゃないか

 

狩人の使命?獣狩りの終結?知るものか

 

殺すことへの罪悪感?感傷に浸るだけ無意味な事だ

 

死への恐怖?何度も何度も繰り返してきたんだ、今更……

 

 

 

 

何もかもどうでもよくなって、ふと思った

 

 

 

———私は、なんでこんな事をしているんだろう?

 

 

 

使命なんてどうでもいい。死ぬことなんてもう慣れた。獣を殺しても何も思わなくなった。

 

 

なのに、何故、こんな事を続けているのか

 

 

わからなかった。わからないのが、何故か怖くなった。理由なんて全く無いはずはのに、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

白痴のロマを狩り、儀式が破られて、気が付いたら大聖堂の近くの古協会の水盆に立っていた。その時は、何を思ったのかは覚えていない。ただ、何となく大聖堂の方に向かって歩いていた。

大聖堂の入口の前まで来ると、一人の古狩人が傷を負って階段の上で手摺りを背に凭れていることに気付いた。

 

狩人狩りアイリーン

 

理由なんて、もう覚えていないけれど。ただ一度だけ共闘した狩人だった。死にたくないと喚いていた頃の自分が何故か、その時だけは何度も何度も何度も死にながら、彼女だけは死なせないように立ち回っていたような気がする。

 

結局、意味なんてなかったようだが。

 

目の前でか細く息をする彼女は、どう見ても致命傷だ。どのみち助かりそうもない。過去に必死になって戦ったことも、無駄になってしまっただけらしい。………そう考える頭とは逆に、私は彼女をどうしても放っておくことが出来なかった。もう助からないのに。助けることなんて出来ないのに。

 

"大丈夫か?"

"誰にやられた?"

"輸血はしたのか?"

 

とんだお笑い草だ。口では心配しているようで、その実何も思っていないというのに。何も関わることなく、そのまま立ち去ればいいのに。

 

「………この先は、(あたし)の獲物だ。あんたは戻りな……手を出すんじゃあないよ……」

 

「……そう」

 

 

言葉とも、思考とも裏腹に、体は勝手に進んでいた。古狩人に致命傷を負わせるような相手に、何が出来るというのか。すぐに返り討ちに合うだろう。そう、わかっていたのに———

 

 

体は決して止まらなかった

 

 

そこから先は、一方的だった。

 

仕掛け武器を振るうと完璧なタイミングで狙撃(パリィ)され。瞬きの間にいつの間にか背後を取られて斬り伏せられ。蓄積していた体の傷に気付かず、感覚が戻った瞬間に体の負荷に耐えきれず隙を晒して首をハネ飛ばされた。

 

何度も苦しんだ

何度も殺された

何度も死を繰り返した

 

なのに、諦めなかった

……訳がわからない。自分の事なのに理解出来なかった。もう止めればいいのに。私では敵わないと、とっとと匙を投げてしまえばいいのに。

無理なんだと、諦めてしまえばいいのに

 

 

 

…………私は、弱いのに

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだい、あんた狩人かい』

 

 

ふと、思い出した。初めて、アイリーンと出会った時のことを

 

 

『どうした?まさか狩人が、獣が恐ろしいのかい?』

 

…………あぁ、そうだ!獣は恐ろしいよ、怖いに決まってる!訳も分からず殺されて、逃げたくても逃げられない。死にたくないなら、殺すしかないんだ!こんな狂った世界で私が正気でいられる訳ないじゃないか!?心すら壊れて、擦り切れてもう、自分が何者だったかのかさえ覚えてない!!無慈悲で、残酷で、この世界は変わらないのに!!!

 

狩人だから?獣は狩らなきゃならないから?悪夢を終わらせろ?

 

うるさい…………うるさい、うるさい………!

うるさい、うるさい、うるさいっ!!!

 

私に、なにができるって言うんだ……!

私に、なにが残ってるっていうんだ!!

私なんかに……………私なんかに!!!

 

私は……私は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、私は弱いままなのにっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁいいさ

 

 

————え?

 

 

フフッ……恐れなき狩人など、獣と何が変わろうものかね

 

 

『——————!』

 

 

———あぁ、そうか

私は、死を恐れない獣が怖くて。それを狩る狩人も、恐れてはいけないと、勝手に思っていた。

 

でも、そっか。狩人は、恐れてもいい。恐怖を忘れたら、それはきっと獣だから。

私が弱くても、私の弱さだと思っていた恐怖は、別に間違ってなんかいなかった。

 

———あぁ、そうだった

 

怯えていた私を、初めて励ましてくれた彼女を死なせたくなくて、私は————

 

 

 

 

 

 

—————その後、もう一度大聖堂の奥の奴(カインの流血鴉)と再戦すると、驚くほどあっさりと勝つ事が出来た。

 

先手で負けるならば、後手(カウンター)で。

相討ち覚悟で零距離射撃(散弾銃パリィ)

勝つ為にとか、そんなことは考えてなかった。

 

当たれば死ぬ程痛いし、当たりどころが悪ければ即死するかもしれない。ずっと、怖かった。

 

でも、それが正しい事だと思い出したから。

 

 

「……グ……ゴフッ……!!」

 

「………………………」

 

 

血溜まりの上に仰向けに倒れた、彼女と同じ狩装束を纏った狩人にゆっくりと近付く。頭の近くで膝を着き、カインの兜をゆっくりと外した。今際の際に、兜越しでは呼吸が辛いだろうと少しばかりの気遣いだった。

 

 

「……嗚呼………オレは……負けた、のか」

 

 

虚空を見つめ、譫言のように呟く最期の言葉を静かに聞く。

 

 

「…………申し訳…ありません、女王……私は……出来……こと、なら………わたしは…………」

 

「………………………」

 

想い人の頬に手を伸ばすように、彼は記憶の作り出した見えぬ虚像へと手を伸ばす。

 

彼の表情はとても穏やかで、

 

 

「………貴女の……願い、に………応えたかっ……た………」

 

 

けれど、後悔が滲むソレはどこか儚げだった。

 

 

「———貴公」

 

 

他ならぬ致命傷を負わせた私が、死に際の鴉へせめてもの手向けを送る。

 

 

「貴公の遺志は、尊いものだ。私は何者でも無いが故に、貴公のソレは輝いて見える。貴公がもし許してくれるのなら、私にその遺志を継がせてはくれまいか?」

 

 

この悪夢の中で尚強く、誰かを想う彼の姿に、私は少し惹かれたらしい。憧憬の念を抱いたようだ。

彼にとって、それは意外だったのか。一瞬呆けると、心の底から安堵したように頷いた。

 

 

「………ありがとう。私は……いや、オレは。貴方の遺志を引き継いで、血の女王を支えよう」

 

 

 

 

大聖堂を後にして、アイリーンの元へ戻るも、既に彼女は居なかった。その場に、『鴉の狩人証』と『狩り』のカレルだけを残して。

 

 

「……………………」

 

 

………彼女の遺志も、私が継ぐ

 

決意を胸に、その場を去った

 

———目元に、淡い雫を残しながら

 

 

 

 

 

私は一度、全てを捨てた。でも、ただ一人のために狩りを行うとしたら。

きっとそれは、私の拠り所となるだろう。

 

例え、夢を忘れ戻れなくなったとしても。数え切れない罪を重ねるとしても。私は彼と彼女の遺志を糧に、人として獣を狩ろう。

 

 

 

獣の愚かを恐れながら、ただ一人の為に

 

 

 










血の狩人ちゃん「今のオレは、負ける気がしねぇ!」

AUO「いいぞ狩人!貴様の本気を見せてみよ!」

血の狩人ちゃん「上等だっ!!」



聖杯&抑止力「やめてください」

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