司令官を守ります!   作:たんじぃ

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幕間
7話


 

 対人型洋上兵器自立鎧。

 

 来る次の戦争に向けての人類の希望である。

 三メートル近くあるその体は西洋の騎士をモチーフに。二足の裏から吸い込んだ海水を、背中に二本ある可動性の噴射口から超高圧で排出し、海上での行動を可能にした。

 

 鎧の兜部分には映像解析による敵の認識、及び超音波による形状把握や距離の測定が行われる機構が備わっている。

 

 両腕には回転式の複数の砲身が環状に並び、そこから連続して放たれるのは掌サイズの徹甲弾。ただスケールを小さくしたものではなく、軽量に、かつ鋭利に、人型兵器への致命的な一撃を与えるためだけに改良されたものである。足元から吸引された海水は一度この腕を介し、冷却する役割もあった。

 

 問題はその薄い装甲と、実際に稼動させ試験を行えていないことにあった。

 この地下施設には約二十の鎧があり、数百人規模の整備士が汗を流している。

 

 そんな場所に場違いな、能天気な女性の声が響く。

「まさか長門の鎮守府の地下にこんなところがあるとはな」

「灯台もと暗しってやつですね。摩耶さん、青葉の取材力を認めていただけましたか!」

 百人が百人、地上へと繋がる階段へ目を向ける。

 そこにはキョロキョロと辺りに目を走らせる二人の艦娘がいた。

「お、おい! ここは立ち入り禁止だ!」

 呆気にとられていた整備士の一人が我に返り、慌てて声を荒らげるが遅い。

「そんな看板も立て札も電光掲示板もなかったぞ?」

 首をすくめ息を吐く摩耶は続けて、

「そりゃそうだろうな、なんせ立ち入る事を想定されてないんだから。ご大層に隠し通路なんて作りやがって」

 一歩、二歩と後ずさる整備士にカツッ、カツッと歩み寄る摩耶。

 

 ガシャン! と入口の方で大きな金属音が響く。見ると鎧の一つが横倒しになっていた。

「ち、違うぞ! 面白そうだから登ってみたら……そう! 勝手に転びやがったンだ!」

 慌ててブンブンと手を振り無実を訴えるのは江風。

「ハァ? そんなガラクタが勝手に動くわけねぇだろ」

「……いえ、動くみたいですよ」

 青葉はいつの間にか持っていた分厚い紙束をペラペラと捲りながら、

「『対人型洋上兵器自立鎧』だそうです」

「へぇ…」

 青ざめて紙束を奪おうとする整備士を、摩耶は一睨みで止めさせた。

 コホン、とわざとらしく咳を一つ、青葉は続ける。

「自立鎧と言うからにはコレに人が乗ったり、遠隔操作することは無いんでしょうけど……まぁそんなことはどーでもいいんですよ。問題はその前のキーワードでして」

 人型洋上兵器。

 これが艦娘のことを指すのであれば、吹雪の憶測が正しかったことになる。深海棲艦との戦争が終われば、人間の矛先は艦娘へと向けられる。その仮想を一気に現実へと引き寄せる光景が、目の前に広がっている。

 杞憂であれというのが半分、もう半分は吹雪を傷つけた復讐の口実が欲しいが半分。

 

「何用かな?」

 初老の男性が突然、摩耶に声をかける。

 明らかに他の整備士とは違う、刻まれたシワや傷跡から貫禄を感ぜられる。しかし摩耶に限ってそんな些事を気に止める事はない。

「アンタがここを仕切ってんのか?」

 ずいと詰め寄る摩耶は鎧を指差し、

「これで潰そうとしてる人型洋上兵器ってなんだ?」

「深海棲艦のことだよ」

 眉を寄せる彼女に続けて、

「だから鎮守府の地下に施設を設けている」

「深海棲艦に対抗できるのは艦娘だけじゃなかったか? それになんで人型洋上兵器なんてまどろっこしい言い方をする? 深海棲艦でいいだろ」

「それは、だね」

「…あのぅ」

 手を上げたのは青葉。ぽんぽんと手元の紙束を叩きながら、

「『深海棲艦撃滅後の大戦に備えて』とありますがこれはどう説明するのでしょうか?」

 開きかけた口をつぐみ、言葉に詰まる男性。

 それを見て、フンと摩耶は鼻で笑う。

「アタシらに嘘つくんなら、腹の底どころか骨の髄まで真っ黒に染め上げて出直してきな」

 突きだした手が男性の胸ぐらを掴むと、体格で劣るにも関わらず、数センチ程床から引き離す。

 今の戦争が終わると同時に幕を開ける、艦娘と人間による戦争。これを企てた人間、そして何よりそれに気づけなかった自分達に腹が立つ。これが半ば八つ当たりなのかと思うと、摩耶は情けなくて仕方がない。

 

「や、やめろっ!」

 摩耶がゆっくりと振り返ると、取り囲む整備士の一人が携帯用の拳銃を摩耶に向けて突きつけていた。

 整備士とはいえ、艦娘と接触の可能性がある者には銃の所持が許可されていた。発砲は任意であり、仮にそれで艦娘を処分してしまっても、残り火は国が完全に揉み消すのだ。

 仮に、処分できれば、の話だが。

 両者の距離は十メートルも無い。引き金を引けば確実に弾丸が摩耶を捉える距離であった。

 しかし摩耶は臆することなく、むしろこの上なく不機嫌そうに顔をしかめる。

「武器を向けるってコトが、どういうコトか解ってるんだろうな?」

 辺りの温度が数度下がった。そんな錯覚に陥る程に、摩耶の言葉は酷く冷たかった。

「同胞を守るために喧嘩売るのは上等だ。評価してやる」

 でもな、と。

「アタシが許せねぇのは、そのちゃっちい拳銃一つでどうこうできるって、ナメられたことだ糞野郎」

 摩耶は男性を投げ捨てると、未だ震えながらも照準を外さない整備士に向かい合う。

「か、構えっ!」

 投げ捨てられた男性が一声、辺り数十人が一斉に腰から銃を取り出し、これが摩耶へと向けられる。

 圧倒的な多対一に、しかし彼女は八重歯を剥き出しにして笑う。

「構え? 笑わせんな。訓練なんていうお遊戯でしか撃鉄を起こしてこなかった素人が、リアルな戦場で硝煙を嗅いできた本物に勝てるわけないだろ」

 ぶわっ、と拡散する濃密な殺気。歴戦の猛者でさえ怖気の走るそれに、一般人である彼らが無事で済むべくもなかった。

 ひゅうひゅうと喉が鳴り、呼吸すら苦しくなる。

 有利な状況のはず。そう自身に言い聞かせても本能は既に悟っていた。

 人差し指が引き金を押しつけ、爆発的な速度で射出される鉛。それは空気を切り裂いて彼女の皮膚を貫き、肉を深く深く抉る。そのイメージがどうしても頭に浮かばない。

 

 

「あ、江風は長門達に知らせてきますよーっと」

 江風だけは能天気に、鎧で遊ぶのに飽きたのか、ひらひらと手を振って鎮守府への階段をぴょこぴょこと駆け上がる。

 制止しようとそちらに銃口を向ける数人に摩耶は、

「アタシに背中向けんのか?」

 その一言で完全に彼らの体が凍りつく。

「艤装が無いから無力だって、高を括ったか? 甘いぜ三下」

 ぶっ殺されてーか?

 次いだ一言に、皆戦意を失った。

 

「摩耶さん、まだ上の話し合いができていないうちは殺しちゃダメですよ。例え銃を向けられてても、です」

 青葉の言葉にわざとらしく舌打ちを鳴らす摩耶。

「……ところで、これだけ対『艦娘用』の兵器があるんですから使えばいいのに。あ! もしかしてまだ実用段階ではないとか!?」

 下手な演技を交える青葉の表情には笑みさえあった。

 その馬鹿らしさに気が削がれたのか、摩耶はため息ひとつ。殺気が霧散していく。

 江風が開け放していた扉の外が騒がしくなっていた。話を聞いた艦娘が集まってきたのだろう。そろそろ潮時かと、摩耶は整備士が避け生まれる道を歩き出す。

 

 そして最後に摩耶は告げる。

「考えておけ、このまま深海棲艦と艦娘を敵に回し三つ巴の中朽ちていくか。掌を返して無様に艦娘様に頭を垂れるか」

 その瞳に感情はなく、ただただ事実を突きつけた。

 

「理解しろ。今、人間は、人類史上最大の選択を迫られてる事をな」

 

 

 

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