ハートキャッチプリキュア~もう一人のプリキュア~ 作:雪乃音色
砂漠の使徒撃退から半年。
無事、地球を元の姿に戻すことができたプリキュアたちは、戦いとは無縁の日常を過ごしていた。
その日常のなかであっても、わずかな変化はあった。
その一つが、無事に誕生したつぼみの妹、ふたばだった。
その日も、えりかはつぼみを待つ間、みずきに抱っこされているふたばの頬をふにふにとつつきながら、だらしない顔をさらしていた。
つぼみ「お待たせしましたぁ……えりか?」
えりか「おぉ、つぼみ!!」
つぼみ「おぉ、つぼみ!!じゃありません!!いくら、ふたばが可愛いからってほっぺたつつきすぎです!!」
本当は自分もつっつきたいのだが、それを我慢していることを、半分涙目になりながら話すが、えりかはそんなことはまったく気にする様子はなく、つい、といいながらこめかみをかいていた。
そんなやりとりをしつつ、二人は一緒に通学路を歩き始めた。
二人は道中でいつきと合流し、町を一望できる丘へとむかった。
なお、砂漠の使徒を倒してから、いつきは髪を伸ばし、制服も白の学ランから女子の制服へと変えていたため、すっかり美少女になっていた。
一面、砂漠だった町が元の姿に光景を見て、えりかはどや顔になりながら、胸を張った。
えりか「あたしたちはすごいことをしてしまった!世界がいま輝いているのは、あたしたちのおかげ!!たった十四歳の少女が、地球を救ってしまった!!」
なんて言っていた。
いつき「……まだ言ってるよ」
つぼみ「わたし、聞きすぎて堪忍袋の緒が切れそうです」
最後の戦いが終わってから半年。
えりかはずっとこんな調子だった。
もっとも、つぼみもいつきも、最初は同じようなことをしていたのだが、すでに踏ん切りがついたらしく、えりかのような感動はもうないようだが。
えりか「なによーーっ!つぼみといつきだって、こないだまであたしと同じこと言ってたじゃん!!言ってたじゃん!!無限の愛だよ!!地球を救っちゃったんだよ!!あたしの人生、これ以上何があるっていうの?!悩んじゃうなぁ!!」
確かに、つぼみといつきも、えりかと一緒になって同じことをしていた。
だが、つぼみといつきはもうそのことに囚われていなかった。
そんなえりかに、冷たいツッコミが入った。
ゆり「えりか、まだそんなこと言ってるの?」
椿「いつまでもそう言っていると、ももかに笑われるよ?」
えりか「……すみません」
声がした方へ視線を向けると、そこには、シプレとコフレを抱きかかえているゆりの姿と、隣で同じくポプリとサシェを抱いている椿の姿があった。
ちなみに、コロンはゆりの右肩いる。
さすがに、ゆりのツッコミには、えりかも素直に頭を下げて謝罪した。
戦いの後、シプレたちパートナーの妖精は枯れてしまった心の大樹の根元に芽生えた心の大樹の新芽を守護し、育む役割を担うことになったのだ。
つぼみ「シプレ、心の大樹はどうでしたか?」
シプレ「すくすく育ってるですぅ。このペースなら、一か月もしないで普通の木と同じ大きさになるはずですぅ」
シプレのその言葉に、つぼみは安堵したように微笑みを浮かべた。
それを見たゆりは、大樹がいまも漂っているであろう快晴の空を見上げた。
ゆり「いままでは、心の大樹がわたしたちを見守ってくれていたけれど、これからはわたしたちが心の大樹を育てて見守っていくのよ……だから、いつまでも無限の愛や無限の力に頼ってばかりじゃだめ……自分の人生なんだから」
えりか「……しかし、人生とは……なんとも深いっしゅ」
ゆりの言葉に、えりかは深く考え込むような顔をしながらそう呟く。
椿「えりかちゃんには一流のファッションデザイナーになるって夢があるでしょう」
えりか「おぉ!!そうだった!!」
つぼみ「わたしは、えりかの夢、精いっぱい応援します!!」
いつき「ぼくも!」
サシェ「サシェも!」
シプレ「シプレも!」
コフレ「コフレも!」
ポプリ「ポプリもでしゅ!!」
つぼみといつきの応援宣言にのっかり、妖精たちも混ざって応援宣言をした。
そんな和気あいあいとした様子を横目で見ていたゆりと椿の方へ、つぼみは視線を向けた。
つぼみ「ゆりさんと椿さんは、これからどうするんですか?」
ゆり「わたし?」
椿「……?」
つぼみ「はい!」
ゆり「わたしの夢……わたしも、自分の人生、考えないとね……」
まだ、具体的に何をやりたいのかは決めていない。
なにしろ、今までそんなことを考える余裕など、微塵もなかったのだから。
ゆり「けれど、まずは……お父さんとの時間を大切にしたいわ……新しい家族も、ね」
デューンとの決戦から帰還した英明は、月影家へ戻ることになった。
事情は、春菜にだけは真実を伝えたいという英明のたっての希望で、ゆりは自分がプリキュアであったことを話し、英明は研究に行き詰まった心の弱さを利用され、砂漠の使徒に洗脳されていたことを明かした。
意外にも、春菜はそのことを受け入れ、理解してくれたため、話はそれ以上こじれることはなかった。
むしろ、問題になったのは、ゆりが口にした『新しい家族』のことだった。
戦いから数週間後、妖精達が心の大樹の幼樹の側で一人の少女を見つけたのだ。
春菜には、前述述べたように全て話しているので、その少女が英明が造ったダークプリキュアの生まれ変わりである事を話、ゆりの妹であると教えた。
当然、春菜は困惑したが、これまたすんなりと、少し嬉しそうにしながら受け入れてくれた。
ちなみに、何故ダークプリキュアが転生したかというと、心の大樹が最後の力で転生させたのではないかというのが、つぼみ達と薫子の考えだ。
ともあれ、ようやく戻ってきた父親と新しく迎えた家族との時間を大切にする。
それがいまのところ、ゆりがやりたいことだった。
椿「私は……植物学者になりたい」
ゆり「マジシャンじゃなくて?」
椿「うん。確かに、兄さんが芸能界に出ているけれど、私は植物が好きなの。だから、特技を活かしたいなって」
椿は自分の特技:ポプリ作りを活かしたいと言う。実はお世辞無しに椿が作ったポプリは見た目も香りも良い。
それを聞いて、他の四人も椿にピッタリと感じた。
二人の言葉を聞いて、いつきも自分がこれからどうしたいのかを口にした。
いつき「ボクは、そうだな……明堂院流の道場を続けながら、いろんなことにチャレンジしたいな」
えりか「たとえば?」
具体的にどうするのか気になったのか、えりかがそう問いかけると、いつきはにっこりと微笑みながら返した。
いつき「それは秘密だよ」
えりか「教えてくれたっていいじゃん……つぼみは?」
つぼみ「わたしは、もう一度、宇宙に行きたいです!今度は、自分の力で!!」
それは、あの決戦のあとになって見つけた、つぼみの夢だった。
だが、単に宇宙に行きたいわけではない。
つぼみには、宇宙に行って、やりたいことがあったのだ。
――そして、できるなら……草も花もない宇宙に、少しでも花を咲かせたい……
あの決着の一撃を、自分の想いを込めた拳をデューンに打ちこんだとき、ブロッサムは心の種を、デューンの心に植え付けた。
それを受け取ったデューンが去り際に振り向いたとき、その表情は、いままで見せたことのない、穏やかで、優しい微笑みを浮かべていた。
――せめて、そうすれば……
きっと、これ以上、デューンのように憎しみを無意味に振りまく存在に、愛を芽生えさせることができるかもしれない。
そうなることが、いや、そうすることが、つぼみが見つけた、自分の夢だった。
だが、今回の戦いを通じて、いや、デューンとサラマンダー男爵と出会って、彼らの憎しみと悲しみに触れた。
そして、それは彼らだけではない、おそらくこの地球上のどこかで、誰かが抱えている痛みでもある。
そして、その痛みがあるから、人は争い、奪いあう。そこからまた悲しみと憎しみの連鎖が生まれてしまう。
その果てにあるものを、デューンは見せてくれた。
なら、それを少しでも遅らせるために自分ができることをしたい。
つぼみはそう自分の夢を告げた。
えりか「あたしも応援するよ!」
いつき「ぼくも応援するよ!」
シプレ「シプレもですぅ!」
コフレ「コフレも!」
ポプリ「ポプリもでしゅ!」
ゆりと椿も、言葉には出さないが優しい暖かい目でつぼみ達を見ている。
その場には、彼女たちの夢を応援するかのように、春風が優しく吹き抜けて行った。
因みに、完全に余談ですがダークプリキュアの新たな名前は“こゆり“です。