IS 全ては兄の為だけに   作:白ウサギ

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地の文がかなり多いので読みにくいかもしれません。


5話

――にいさまにいさま、こんかいのくんれんでは一位でした!

 

――おめでとう、それとがんばったねラウラ。

 

 

 そう言って兄様は私の頭を撫でた。他の誰に触られても不快感しかなかったが、兄様に触られるととても心地よかった。安心できた。

 こうして撫でてもらうのが私は他の何より嬉しかった。だから何事も頑張った。ただ褒めてもらいたくて。

 何時からだっただろうか、強くなる事に執着し始めたのは。

 

 

 

       † ☆ †

 

 

 夢を見た。とても懐かしい夢だった。具体的な内容は思い出せないが、悪い夢ではないことは確かだ。

 隣にいらっしゃる兄様を見る。とても美しい寝顔がそこにある。何時見ても飽きなどしない。この顔を見ているだけで心が洗われる。

 いよいよ奴との決戦の場――学年別トーナメントが近づいてきた。不安はない。

 いや、全くない訳ではない。一つある。

 それは兄様が怪我をなさらないかという事だ。無論、私が全力でお護りするが、相手も二人。最悪兄様と分断させられるやもしれん。そうなったら危ない。

 ――悪い方向へ考えるのは止めにしよう。雑魚共を蹴散らし、織斑一夏を叩きのめし、優勝する事だけを考えろ。

 それにこのような状況で兄様をお護りできなかったら、私は今まで何をしてきたのだ。

 

 

 

       † ☆ †

 

 

 私に親はいない。生まれた時から親の顔など見た事がない。しかし私には双子の兄様がいた。

 私と兄様は試験管ベビーだった。今でこそ『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と『ライラ・ボーデヴィッヒ』と言う名前があるのだが、最初に付けられた名前は私が『遺伝子強化試験体C-00三七』で、兄様が『遺伝子強化試験体C-00三六』だった。

 親がいない事は私にとってはそう重要な事ではなかった。兄様がいらっしゃったからだ。

 最初の頃は良かった。

 軍の知らない男に色々と教えられ、それを淡々とこなしていく。それで周りは「上出来だ」と言った。

 その事を兄様に話せば、兄様はとても褒めてくれた。それだけで何不自由なかった。

 兄様は生まれつきお体が弱かったので、ベッドに臥せていらっしゃる事が多かった。しかし兄様は幸せそうだった。兄様が笑顔でいらっしゃり、私も笑顔でいられればそれでよかった。

 しかしその考えは変わった。あの話を聞いて。

 

 

 それは私と兄様が五歳の時だ。

 いつものように訓練を終えた私は、その日は珍しくゆっくりしていた。普段であればすぐに兄様の下に行くのだが。

 すると上官達が人目につかないような場所で話しているのを見かけた。そして私は興味本位で話を盗み聞きしてしまった、それがどんな話かも考えず。

 

 

「C-00三六の事だが、どうする?」

 

「あれは失敗作だからな、そろそろ潮時かもしれんな」

 

 

 『C-00三六』、それは兄様の事だ。私はより一層集中して聞いた。

 失敗作、潮時という言葉が私の胸に深く突き刺さる。

 唖然としている私を置いて、話は更に進む。

 

 

「やはりお前もそう思うか」

 

「当たり前だ。寧ろ今まで生きさせた事が奇跡だ。上からも遠まわしに処理するように言われている」

 

「一ヶ月以内に決めるか」

 

 

 鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 処理する――つまり殺すという事だ。最初は理解できなかった、したくなかった。そしてここまで冷徹になれるのかと驚きもした。

 私たち試験体は簡単に言ってしまえば『軍の駒』だ。向こうの都合のいいようにされる。

 私達の制作目的は強い兵の生み出すこと。

 しかし兄様を見れば、病弱でとてもではないが兵にはならない。だから殺す。

 言ってしまえば簡単なことだ。

 普通ならば裁判沙汰になるだろう。しかし此処ではならない。

 私達の存在自体知る人間など軍の人間以外いない。つまり殺されても世間の人間になにも言われることはない。軍の人間も権力に物を言わせれば口外になることは先ずない。

 当時の私はこんな事を考えてはいなかったが、このまま行けば兄様が殺される事は解った。

 

 その日から私はより一層訓練に励んだ。誰にも文句を言われないように全て十二分にこなした。

 私は優秀だ。私が頑張るから兄様は見逃してくれ。そういう思いを込めて。

 それが功を奏したのか最悪の状況からは免れた。これで兄様の事は安心だ。そう思った矢先、私の人生――いや、世界が変わった。

 ISが登場したのだ。

 

 ISの登場により男尊女卑から女尊男卑の世界に変わった。そして軍でもISを操縦できる女は地位が上がった。

 私はISでも優秀な成績を出し、兄様の安全を確固たるものにするはずだった。しかし世は無常だった。

 『ヴォーダン・オージェ』。これはISとの適合性向上のために行われた処置だ。

 『ヴォーダン・オージェ』は疑似ハイパーセンサーとも呼べるものでそれは、肉眼へナノマシンを移植し、動体反射などの向上させる処置だ。

 机上の空論ではないそれは、危険性は全くない。不適合もない――はずだった。

 しかし私は何故か不適合で左目が金色に変質し、通常なら自由にカットできるはずなのだが、私はそれが出来ずに常に稼動状態だった。

 結果、私はIS訓練において大きく遅れを取った。

 そして私は『落ちこぼれ』と言われ、兄様は『出来損ない』と言われ続けることになった。

 

 

 

       † ☆ †

 

 

 

 『事故』から数年経ったが、私は未だに思う様な成績を出せずに『落ちこぼれ』と言われていた。

 そんな不幸続きの私だったが、一つだけ良いことがあった。

 それは兄様の事だ。

 ISで成績を出せずにいた私はこのまま行くと兄様は殺されてしまうのではないか? と非常に心配していた。だがそれは杞憂に終わった。

 皮肉にもISのおかげで。

 軍のお偉いさん方は、他国よりも強いISを造り出そうと躍起になっているらしい。だから兄様の事に構ってはいられないらしい。

 まあ何せよ、兄様がいらっしゃる事は良い事だ。前向きに考えることにする。

 

 私の人生に第二の転換期が訪れた。織斑教官との出会いだ。

 

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位に戻れるだろう」

 

 

 衝撃的だった。私は何時いなくなってしまうか分からない兄様を守るため、一人でもかなりがんばったつもりだった。しかし成績は伸びず、低迷していた。

 その私が部隊内最強? 無理だと思う気持ちと、この人なら本当に私を宣言通りに最強にしてくれるのではないかという期待があった。

 そして一ヶ月後、本当に私はその言葉通りになった。あの人が言った事を忠実に行ったら、本当に。

 勿論、私はそれだけをやっていただけではない。確かにあの人の言っている事を行えば間違いないだろう。

 しかし私はもっと上に行かなければならない。そうでなければならない。私は空き時間には教官に私の動きを見てもらい、指導を受けた。

 

 そんなある日、私はある情報を得た。どうやら教官のご親族は弟一人のみらしいということだ。

 私はさらにあの人へ憧れた。兄と弟は違えど、同じような環境。

 教官のようになりたい、教官の様に家族を支えれるようになりたい。そう強く願うようになった。

 そこで私は意を決して教官にどうすればあなたの様になれるか聞く事にした。

 

 

「教官、少しいいですか?」

 

「ラウラか、どうした、また見てほしいのか?」

 

「いえ、今回は別件です」

 

 

 そう言って私は教官と人目のつかない場所に来た。

 

 

「教官の強さの秘訣を私に教えてください」

 

「それならいつも教えているだろ」

 

 

 頼むとそう教官は返した。

 

 

「いえ、どうすれば教官の様に家族を守れるようになれるのかを教えて下さい」

 

 

 私が再び頼むと、長い沈黙の後、教官が口を開いた。

 

 

「すまない。それは私には教える事ができない」

 

 

 教官の顔は暗く、自分を責めているようだった。

 

 

「どうしてラウラは私の様になりたいのだ」

 

「不相応にも私と教官の境遇が似ていると思い、そして教官の様に家族を守れる存在になりたいからです」

 

「家族を守る、か」

 

 

 私は真剣に答えた。貴女の様になりたい。初めてそう思った。

 貴女に近づきたい。その為には何でもするつもりだ。

 

 

「ラウラ、私の言う事を守れるか?」

 

「はっ、勿論です」

 

「ならば今から言う事を絶対に口外するなよ」

 

 

 教官に力強く頷いた。しかし口外してはいけない事。教官は何を私に話してくれるのだろうか?

 期待を胸に、教官の発する言葉に耳を傾けた。

 

 

「第二回モンド・グロッソ、私は不戦敗した。何故だか分かるか?」

 

「いえ、さっぱり」

 

 

 分かる訳がなかった。そしてそれは私が興味がある事だった。

 

 

「攫われたんだよ。弟をな……」

 

「はっ?」

 

 

 一瞬理解できなかった。思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

 

 

「決勝戦の日に私の弟は誘拐されたんだ。それに気づいた私はすぐに助けた」

 

「ならば何故そのような事を言うのですか。私からすればその行動は十分尊敬に値します」

 

「ラウラ、強さだけを求めても意味がない。それにたった一人の家族すら守れない私などを目指さない方がいい」

 

 

 分からない、何故教官がそう言うのか。何故そこまで自分を貶すのか。

 

 

「それでも、それでも私は貴女を目指します」

 

「そうか。……話は終わりだ。くれぐれも口外するなよ」

 

 

 私の決意を聞いた教官は暗い顔のまま去っていった。

 怒りが込み上げてきた。名も顔も知らぬ教官の弟に。のうのうと暮らしている姿を想像するだけでイライラする。

 家族で、しかも助けられた奴が教官を苦しめている事実が腹立たしかった。

 

 

 

       † ☆ †

 

 

 

 そして今年の二月、ある出来事が起きた。

 なんと男がISを動かせたのだ。最初はどんな奴か興味を持っていたが、名前を聞いた瞬間それは一気に冷めた。

 織斑一夏。それがISを動かした男の名前だ。ファミリーネームから察するに織斑教官の弟だろう。興味は一転し、侮蔑に変わった。さぞかし良いご身分なのだろうな。

 世界一の姉を持ち、唯一ISを動かせる男性として優遇される。順風満帆な人生だな。

 

 まあ、それは私の中ではどちらかというと、どうでもよかった。

 問題は兄様だった。織斑一夏がISを動かせたことで、軍の連中は『まだ動かせる男性はいるかもしれない』と思ったようで、軍にいる男性全員にISを触らせ、動かせるか実験させた。無論、兄様も同様に。

 そしてなんと兄様はISを動かせた。

 二人目のISを動かせる男性として世に公表するかと思いきや、軍は公表せずにその事を隠した。

 それは何故か。兄様で実験をする為だ。軍の人間以外に接点のある人物がいない兄様の事を隠し、どうしてISを動かせるか解析し、ISを動かせる男性を量産するためだろう。

 さすればドイツは他国に対し、圧倒的なアドバンテージを持つことができる。例えば他国と交渉する時、男がISを動かせる秘密を教えると言えば、相手は大抵の条件を呑むだろう。

 無論、私はみすみすと兄様をモルモットにはさせない。そこでIS学園に行くことを提案した。が、これもそう簡単にいかなかった。しかし、ありとあらゆる手を使い、なんとか承諾させた。

 更に私はある事を止めさせる事にも尽力した。それは『ヴォーダン・オージェ』だ。

 これを止めさせるのは存外簡単だった。双子なので私と遺伝子が同じ兄様は私のような『事故』が起きるかもしれない。そうなれば体の弱い兄様は最悪死んでしまうかもしれない、と言ったらあっさりと手を引いてくれた。向こうも兄様を失いたくはないのだろう。

 

 約四ヵ月後、私と兄様はIS学園のある日本へ飛んだ。

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