IS 全ては兄の為だけに   作:白ウサギ

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7話

「ああああっ!!!!」

 

 

 ラウラの絶叫と共にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電流が放たれる。

 そしてそれはラウラを攻撃したシャルルに向けられ、シャルルは吹き飛ばされる。

 

 

「なっ!?」

 

 

 一夏は勿論、そこにいた全ての者が己の目を疑った。何故ならラウラのISが変形しているのだから……。

 変形というのは些か語弊があるだろう。あれはまるで溶けた鉄のようにどろどろとしている。

 黒いそれはゆっくりとラウラを飲み込み始める。

 

 

「ラウラ!」

 

 

 いち早く再起したライラ飲み込まれていくラウラに手を伸ばし、助けようとするが、やはり激しい電流の餌食になる。

 シャルルの時よりも強く吹き飛ばされたライラを心配して、一夏が駆け寄る。

 

 

「ライラ、大丈夫か?」

 

「うん、何とかね」

 

 

 一見、怪我はなさそうなので一安心する。シャルルを心配してないわけではない。勿論、している。

 しかし、ライラは病弱な上、シャルル以上の電流をくらったのだ。最悪の事態がどうしても頭をよぎるものだ。

 とりあえず分かった事がある。

 ラウラは意識がない。もしくは、何者かに体の自由を支配されているか。

 あの、あのラウラが間違っても兄であるライラに危害を加えるなど絶対にありえないことは、知り合って間もない一夏でも分かっている。

 そうこうしている内に、ISだった何かは徐々に形が整っていく。そして人型になって、落ち着く。

 黒い全身装甲(フルスキン)の体形はラウラのそれだった。

 一夏は武器を見て、それが何なのかを理解した。

 『雪片』。嘗て、彼の姉である織斑千冬の代名詞でもあった刀。それに酷似したものをあれは持っていた。

 それを認識するや否や、一夏は黒いISに向かって飛び出す。

 黒いISは居合いの構えをして、待っている。そして一夏がある程度の近距離になると、一夏の懐へ飛び込む。一閃。

 

 

「――っ!」

 

 

 それで構えられていた『雪片二型』を弾く。がら空きの一夏に縦の一撃を放つ。

 見覚えのある動きに反応し、緊急回避命令を送り、紙一重の所で無傷――とはいかないが致命傷は避けることが出来た。

 しかし、今の一撃で彼のISのシールドエネルギーは底をつく。

 けれど、一夏は止まらない。むしろ、火に油を注いだ。白式を装備したまま、黒いISに突っ込む。

 

 

「一夏、危ないよ」

 

「シャルル、退いてくれ! 俺はあいつをぶっ飛ばすんだ!」

 

 

 再び飛び出していこうとする一夏を、慌てて止めるシャルル。だが、一夏は収まらない。

 激昂する一夏の頭には、千冬に剣技を教えてもらった頃の思い出があった。彼女の剣を握ることの意味を教えてくれた時の表情が甦る。

 姉の教えてくれた言葉。それは鮮明に覚えている。そして、今は黒いISとなったラウラを見ると、苛立ちが募る。

 

 

「退いてくれ、シャルル! じゃないと俺はお前も――」

 

 パシーン!

 

「目、覚めた?」

 

 

 シャルルに叩かれて漸く、一夏は落ち着きを取り戻し始めた。

 一夏が冷静さを取り戻し始めたのを確認して、訊いた。

 

 

「どうしたの、一夏。もしかしてあのISについて何か分かったの?」

 

「あれは、千冬姉のデータだ。あいつは千冬姉だけのものを使ってるんだ」

 

「それだけ?」

 

「それだけじゃない。変な力に振り回されて、護らなきゃいけねえ大切な人を傷つけたラウラも気にいらねえ」

 

 

 一夏は座って休んでいるライラを一瞥する。緊張下で慣れないISでの戦闘、そして先ほどの電流で限界に近づいていた。

 

 

「理由は分かったけど、今の一夏に何が出来るの?」

 

 

 全くの正論に何も言うことのできない一夏。彼のISは黒いISの一撃で、装甲を展開する程度しかエネルギーが残っていない。『雪片弐型』を使う余裕などない。

 そこへ放送が流れる。緊急事態のため、教師部隊が送り込まれる。生徒たちは速やかに避難しろ。という内容だ。

 

 

「一夏がやらなくても、終わるみたいだけど?」

 

「それでも、それでも俺がやりたいからやるんだ。我が侭だろうと、引いたら俺じゃねえ」

 

「……ふぅ、分かったよ」

 

 

 一夏が誠心誠意伝えると、シャルルは不承不承といった感じだが、納得はしてくれた。

 

 

「エネルギーは多少だけど、僕のをリヴァイヴのコア・バイパスで移せるから使って」

 

「ほんとか!?」

 

 

 エネルギーを移動させることは普通のISでは無理なのだが、シャルルのリヴァイヴ・カスタムⅡにはそれが可能だった。

 しかしシャルルもエネルギー残量がたくさんあるわけではない。むしろ少ない。なので再三、無駄遣いはしないようにと注意をするシャルルたちに、控えめで「あ、あの……」と声をかけてくる者がいた。勿論、ライラだ。

 

 

「どうした?」

 

「あ、あの僕の分も受け取ってください」

 

「え? でもどうやって? ライラのISにもそういう機能があるの?」

 

 

 シャルルの問いに首肯で答える。

 ライラのISは基本、後方支援機だ。支援機なのであまり被弾することも、前衛よりは少ない。となれば、エネルギーに余裕も出てくる。更に言えば、前衛がやられたら支援機は接近戦においてはいい的だ。前衛には踏ん張ってもらわなければいけない。

 そうであるなら、不測の事態に備え、前衛にエネルギー供給が出来るようにした方が良い、と軍は判断したのだ。

 兎も角、ライラの提案を一夏は承諾した。少しでもあった方がいいに決まっている。

 

 

「……ごめんね」

 

「え?」

 

「……ごめんね、本当は僕がラウラを止めないといけないのに、織斑君に任せちゃって」

 

 

 一夏の心境がどうであれ、妹のラウラが起こした不祥事だ。出来ることなら、ライラが行き、終息させたいが、今のライラにはそれを行えるだけの体力もなければ技術もない。

 そしてそれを一夏にすべて任せるというのが堪らなく悔しかった。何も出来ない自分を呪った。

 そんなライラの頭を一夏は一極限定モードとなり、武器と右手の装甲以外なくなったので、装甲の付いてない左手で撫でる。内心、うわっ、髪すげぇサラサラ、と驚いたが、それをおくびにもださず、言った。

 

 

「聞いてたかもしれないけど、俺がやりたいからやるんだ。お前が気に病む必要はねえよ。それに必ずラウラは助けてやる」

 

「……うん、ありがとうね、織斑君」

 

 

 一夏に勇気付けられたようで、微笑みながらお礼を言うライラに不覚ながらもドキッとした一夏。一夏の周りには肉食系女子が多く草食系は少ないのだ。つまり耐性がない。……念のために確認しておくが、ライラは男だ。

 そして良い雰囲気の二人をシャルルがジト目で見ている。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「一夏、絶対負けないでよ」

 

「応!」

 

「織斑君、気をつけてね」

 

「ああ」

 

 

 二人の激励を貰った一夏は黒いISに向かう。武器と右手の装甲以外はない。それは当たれば、即、死を意味する。

 零落白夜を発動させ、相対する。一夏の意を汲んだのか、その形状は日本刀の形をしていた。よくできた相棒だ、とほめる。

 そんな相棒を握り締め、居合いの構えて黒いISに向かう。

 近づいている一夏に黒いISが刀を振り下ろす。それは千冬がするように、鋭い袈裟斬り。

 それを待っていた一夏は、腰に構えていた刀を抜き、横一閃。相手の刀を弾く。そして、頭上から振り下ろし、相手を断つ。

 黒いISが真っ二つになり、中からラウラが出てくる。そしてラウラと一夏の視線が交叉する。その目には未だ強い意思が見えた。

 

 

 

       ◆ ◆ ◆

 

 

 

 強さとは何か。答えは一つだけではなく複数あるのだろう。ただ漠然と力だけを求めていった私は複数ある内の一つすら見つけることが出来ない。

 

 

『強さっつーのは心の在り処。自分がどうありたいかを常に思うことじゃないか、と俺は思う』

 

 私の心の在り処は兄様。常にお傍に控えていたい。これではだめなのか?

 

『お前のは独り善がりなんだよ。そりゃあ、その想いは良いと思うし、正しいと思う』

 

 ならば何故だ。

 

『やり方が間違ってんだよ。ライラに迷惑かけてたら本末転倒だろ? そんなのは話にならねえよ』

 

 私はそんなつもりは――

 

『たとえそうでも、行動はそう見えるんだよ。それにお前やライラはもっと周りの人に接した方がいいと思うぞ』

 

 …………

 

『俺はお前の過去を知らねえから、どうしてお前がそんな風な態度をとるのか見当もつかないけど、それだと人生損するぞ?』

 

 ……聞きたいことがある。何がお前を支えているのだ。

 

『やってみたいことがあるんだよ。自分のすべてを使って、戦ってみたい』

 

 ……あの人のようだな。私も変われるだろうか?

 

『変われるさ、今からでも遅くないと思うぜ』

 

 最後に一つ聞きたい。私は兄様を笑顔に出来ると思うか?

 

『出来るさ、お前なら。いや、お前にしか出来ないと思う』

 

 そうか、ならば安心だ。

 

 

 

       † ☆ †

 

 

 

「うっ……」

 

 

 目が覚めた直後にぼんやりとした光が差してくる。此処は?

 

 

「気がついたか」

 

 

 そう考えていると、声をかけられた。教官の声だ、間違うはずがない。

 見てみれば、やはり教官がいた。

 

 

「私……は……?」

 

「全身に無理な負担をかけたことから、しばらくは動けないだろう。無理をするな」

 

 

 掠れる声に苛立つ。しかし『無理な負担』か。フランスの男のシールド・ピアースを受けたところから、記憶がない。何がどうなったのだろうか。

 

 

「何が……起きたのですか……?」

 

 

 無理をして上半身を持ち上げる。予想以上の痛みに少し顔を歪めてしまう。そして教官を見て、尋ねた。

 すると教官は「……一応、重要案件で、機密事項なのだがな」と前置きをしてから続けた。

 ヴァルキリー・トレース・システム――通称『VTシステム』が私のISに搭載されていたようだ。VTシステムは現在、研究・開発・使用、そのいずれも認められていない。

 しかし重大なのは――搭載されていたことも十分重大だが――それは、さまざまな条件、たとえば操縦者の意思などが揃わなければいけない。

 操縦者の意思。つまり、私の望んだ事。

 弱い自分が許せない。兄様を護れず、さらにはこんなものに頼ってしまうような自分が。

 そういえば。ふと、そう思って周りを見る。しかし兄様はいなかった。私に幻滅なされたのだろう、こんな失態を晒した私に。

 いやそんなことはない、と思いたいが、そう言い切るだけの自信がない。

 

 

「ライラは今、事情聴取されている。もう暫くして終わったら、お前に会いに来るはずだ。それまで横になっていろ」

 

 

 教官から言われた事を聞いて、安心した。事情聴取されている、それもそのはずだ。そんな事も忘れているとはな。どうやら思った以上に焦っていたらしい。

 だが、よかった。まだ私は見限られていないんだな。

 安堵していると、教官は「しっかり休めよ」と私を気遣って言ってから、部屋を出て行った。

 ……こうしてベッドに横たわりながら、兄様を待つことが嘗てあっただろうか? その逆はごまんとあったが。

 そう思考に耽っていると、どたどたと足音が聞こえる。兄様だろう。どうやらかなり考え込んでいたようだ。

 勢いよく扉が開けられる。やはり兄様が息を切らせ、肩を息をして、目に若干の涙を滲ませ、私を見ていた。その光景はどこか既視感があった。

 

 

「ラウラ!」

 

 

 ああ、そうだ。私は一度だけこんな事を経験した。

 あれは確か幼い時分だったはずだ。実弾を使った訓練の際、私は調子付いて無理をしすぎて怪我を負った。幸い、大怪我や傷跡が残るようなものではなかった。しかし最悪、命を落としかねないものだった。

 あの時もこのような感じだった。もっとゆっくりといらっしゃればいいのに、と言いたくなる程、急いで来られた様子だった。

 あの時と同じように兄様は私に近づいて、私を抱きしめた。同じだ。唐突にあの時のことが鮮明に思い出される。

 確か兄様はこう仰られたはずだ。

 

 

「生きてて良かった……」

 

 

 同じ台詞をおっしゃる。

 私も兄様を抱きしめ返す。放さないように、しっかりと。

 

 

 

       ◆ ◆ ◆

 

 

 

 事件があって学年別トーナメントがなくなった次の日、朝のホームルームにはシャルロットと、ラウラ、それにライラがいなかった。

 シャルロットとは何かあるようで、食堂で別れた。ボーデヴィッヒ兄妹は、ラウラは恐らく怪我か事情聴取で、ライラは妹の世話で休んでいるんだろう。

 

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

 

 やつれた感じの山田先生。なんかあったのか?

 そう心配していると、転校生がどうとか言い始めた。またか? て思う。その前に一組、転校生多すぎだろ。他のクラスはどうした。

 でも入ってきた転校生は意外だった。シャルロットが入ってきたのだ。え? 思考が追いつかない。

 そして自分の事を明かした。大混乱の中、鈴が入ってきた。

 

 

「一夏ぁっ!! 死ね!!」

 

 

 理不尽にも鈴は俺に『龍咆』をフルパワーで放ってくる。あ、俺死んだ。

 

 ズドドドドオンッ!

 

 怒髪、天を衝くような表情の鈴がそこにいた。あれ、生きてる?

 恐らく間一髪で俺と鈴の間に割って入ってきたのは――ライラだった。

 

 

「今度は僕が織斑君を助けれたね」

 

 

 思わず見惚れるほど綺麗な笑顔だった。

 

 

 

       ◆ ◆ ◆

 

 

 

 勢いよく飛び出していった兄様はシールドで『龍咆』を防ぐ。……お見事です。

 

 

「あんたら、何いちゃついてんのよ!」

 

 

 中国の女は怒りが収まらないようで、もう一度『龍咆』を放とうとしている。

 しかし兄様と織斑一夏は気がついていないようだ。兄様は兎も角、織斑一夏、貴様は何をぼけっとしている。

 私はISを展開し、兄様の前に出る。

 そのとき、兄様と接触してしまったようで、兄様が倒れるのを確認した。自分の未熟さが憎い。

 『龍咆』は停止結界で無効化した。

 

 

「「「きゃああああああ!!」」」

 

 

 クラスの連中が叫ぶ。

 何があったか知らないが、そんな事より兄様だ。振り返った私はあまりの衝撃の大きさに固まってしまった。

 それもそうだろう、兄様と織斑一夏がキスをしているからだ。

 ふはははっ、貴様に少しでも気を許した私が馬鹿だった。貴様を殺してやる。




漸く二巻が終わりました。今回も予想以上に長くなりました。
ていうより、VTシステムの件がかなり酷い。でもこれが精一杯でした、すみません。

次回は三巻! と行きたいところですが、感想でも指摘されましたライラのキャラクターの薄さ。作者もそれを感じていましたので、丁度良い機会ということで次回は閑話にします。
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