魔王様が女の子だったらどうなるんだろう、という思い付きから成るモノです。
心が広い方のみお読み下さい。
月曜日。
それは学生であれば誰もが憂鬱であって然るべき曜日。
学校はこの日から金曜日までの五日間続き、その後は自由な土日の二日間が待っている。しかし、その二日が過ぎればまた五日間がやってくるのもまた事実。
それはさながら無間地獄のよう・・・・・・とまではいかないが、兎にも角にもこの月曜日という物は憂鬱な物なのだ。特に、彼女にとっては。
「・・・・・・・・・・・・はあぁ」
若干なよなよしさを含んだ声で溜息を吐き、己が通う学校の廊下を歩く女子。
彼女の名前は
実は外国人の血も混じってる混血だったり、実はとんでもない秘密を抱えていて謎の組織に追われていたり、実は少女マンガよろしく複数の男子に言い寄られていたり、実は自覚が無いだけで傍から見たら美少女だったり・・・・・・なんて事ある筈も無い、平凡を絵に描いたような至って普通の女子なのである。仮に『平凡な人ランキング』なんて物があろうものなら本選でいいトコロまで行きそうな位、オーラが無かった。むしろ普通なオーラが出てるまである。
一応擁護するなら、彼女は別に不細工な訳ではない。身嗜みも特にだらしない部分は見当たらず、肩より下に伸びたセミロングの黒髪は年頃の女子らしくちゃんと手入れもされていて、肌も元々あまり運動しない為か色白だ。とはいえ、彼女本人にそこらの女子高生らしい一種の派手さという物が無く、目立とうとかもてようなんて気も無い為か、どうしても地味な印象がついてしまう。
ちなみにその両親について軽く触れると、母親は売れっ子の少女漫画家、父親はゲーム会社の社長である。無論、彼女がそんな二親の影響を受けてサブカルチャーに造詣が深くなるのは当然と言えば、まあ当然である。比率としてはゲーム全般に多少偏ってはいるものの、世間一般で言うオタクと言うには十分なレベルだ。
さて、ここまでの説明で、彼女があまり目立たない生徒であるのは何となくわかるだろう。本人が少しは女磨きに精を出していたり、或いは自身の趣味に関して過度に外面に出していれば話は別だが、彼女は遊びもイタイ言動も特にしていない。趣味に関しては隠していないが、かと言って進んで全面に押し出す必要も無い。学校以外の時間を趣味に費やす為部活にも入っていないので、むしろ普通にしていればそのまま一度も目立つ事なく三年間を終えていたはずだ。
にも拘らず、彼女は何故か、高校入学時から二年生である現在まで・・・・・・ものの見事に、悪目立ちしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあぁぁ」
またもや溜息を吐くハジメ。特に自分が何かした訳でも無いのに、何故こうなってしまったのだろう、と。
かと言ってその原因
とうとう教室に着いてしまい、覚悟を決めるように深呼吸して、入り口から室内に一歩踏み出した。次の瞬間目の前に現れたのは、
「おはよう、ハジメちゃん」
超が付く程の、文句無しの美少女だった。
「う、うん、おはよう。白崎さん」
「もう、香織でいいって言ってるのに」
うわあ、という言葉をどうにか呑み込み、どうにか返した挨拶への返事は、男女問わず魅了するであろうとびっきりの笑顔と、呼び方に対する不満であった。
ちなみに、ここでの『うわあ』は自分では戦うまでも無く惨敗を認めるしかない超絶美少女への感嘆を込めた『うわあ』ではなく、彼女が今日
そんなハジメの内心を知る由もなく、今も変わらず素敵な笑顔を浮かべるこの女子生徒の名前は
誰もが認めるであろう整った顔立ち。腰まで伸びた流れるような美しい黒髪。シミ一つ無さそうな美肌。鈴を鳴らすような綺麗な声。何処をとってもパーフェクト。男女問わず学校中の人気を集めて止まない、正しく女神のような扱いを受ける生徒なのだ。
さて、そんな彼女が一介の女子生徒、しかも特に部活にも所属していない、地味めなオタク女子に毎日話しかけていたとしたらどうなるだろうか。
無論、周りの生徒、特に彼女のファンが黙ってはいない。そう、これこそがハジメの憂鬱の原因であり、学校中の視線に曝される事となった最大の要因である。
入学時から何故か頻繁に話しかけに来る彼女に、最初は戸惑ったし困りもしたが、不真面目な部分を見せていればその内勝手に離れていくだろう、と考えていた。元々高校卒業後の進路を両親のどちらかの職場(どちらに転んでも即戦力になれる程には技術を既に身に付けている)に設定しているので、そこまで真面目に勉強する必要が無かった。そんな姿を見せていれば、彼女も呆れて自分に興味を無くしていくだろう、とハジメは考えていたのだが・・・・・・結果は御覧の有り様である。
今もやたら嬉しそうな香織と話している自分に、色々と煮詰めたような視線がクラス中から突き刺さっていた。「なんであんな地味子なんかと・・・」「白崎さんが気に掛けてくれてるのに、どうして真面目になろうとしないの?」「視線だけで人を呪えたら・・・・・・」etc。
むしろどうしてこんな地味な自分に学校のマドンナが親し気に話しかけてくるのか、未だに自分でもわからないというのに、こんな視線を学校にいる間中ずっと受ける自分の身にもなって欲しい、と思わざるを得ない。その上肝心の本人はそんなハジメに対する露骨な視線には全く気付いていないのだから、もう堪ったものではないのだ。
更に不幸な事に、ハジメが学校中のヘイトを集めまくっているのは香織の所為だけでは無かったりする。
「やあハジメ。また香織に世話を焼いてもらっているのかい?」
親しげな声で何処かズレた事を宣う爽やかな声に、思わず頰が引き攣りそうになったのを頑張って堪えるハジメ。自分の表情筋を手放しで褒めたくなったのもすぐ引っ込み、教室の入り口にて後ろを振り向いた。そこにいるのは、これまた文句無しのイケメンと熊の様に体格の良い男子、それにポニーテールと切れ目が特徴的な美少女の姿。
「香織は本当にハジメの事を気に掛けているんだね」
「全くだぜ。毎度毎度、言っても聞かねぇんならほっといてもいいと思うけどな」
「はあ……いつもごめんなさいね、ハジメ」
自分に対して三者三様な反応を示したのは香織とは幼馴染みで、学校では一緒にいない方が珍しいとすら言える同じみのメンバーである。
親しげに下の名前で呼んできたイケメンが
そして最後に、ハジメにとっては唯一の良心であり、この香織を含めた四人の中で最も常識人である
こんな嫌でも目立つ面子が全員幼馴染みだというのだから、本当に世の中は侮れないものだ。全員が常に一緒にいる為、一人が誰かと話していれば他三人ももれなく付いてくるという豪華セットである。ここまで言えば分かるだろうが、要するに、香織がハジメの事を構う所為でこのメンバー全員と結果的に距離が近くなってしまったわけだ。普通なら遠慮して、少し話せたらラッキー位が当たり前のカーストトップグループに、何故かハジメが近しい関係にある事もキツイ視線を頂戴している由縁であった。
客観的に見てみれば、いくら香織が高嶺の花とはいえハジメは女子であり、男子が彼女を敵視する理由はない。
しかし、光輝というイケメンと話しているという時点で女子からのやっかみは確実なものとなり、それにつられた男子も何割かいる。また、純粋に超の付く人気者達と近しいが故に嫉妬する者もいるのだろう。
「お、おはよう。八重樫さん、天ノ河くん、坂上くん」
「おはよう、ハジメ。今日もギリギリで来るなんて、相も変わらずのんびり屋さんだね。でも、いい加減香織に甘えてばかりではいけないよ?」
「いやあ、その、朝は弱くて」
愛想笑いをしながら光輝の爽やかスマイルを回避し、曖昧な答えを返す。最早いつもの光景だったりする。そこらの女子なら正面から直視しただけでクラッときそうな微笑みに対し、ハジメは無反応。
初めて会話した時は文武両道なイケメンの笑顔に、確かに少しは「カッコいいな」という女子らしい反応は示した。しかし、光輝の人となりを知る内にむしろ警戒するようになった。
というのもこのイケメン、正義感が強く、何でもそつなくこなす所為か、思い込みがかなり激しいのだ。その思い込み故に自分を疑うという事をせず、それ故にトラブルに巻き込まれる事もあるらしい。常識人である雫の苦労が偲ばれる。
ちなみにだが、王道系主人公には必ず搭載されている鈍感系スキルはちゃんと常備している。
周囲の視線を気にしつつ、「いい加減席に座りたいなあ」等と考えながら、光輝の無自覚スマイル攻撃をどうにかかわしていたハジメだが、これまた天然お姫様な香織が平然と爆弾を投げ込んでくる。
「? 私はハジメちゃんと話したいから話してるだけだよ?」
きょとんとした顔でそんな事を平然と宣ってくる香織の所為で、ハジメに対する圧力が更に増したのは言うまでもない。
ハジメがまた一つ溜息を吐いた。
睡魔との闘いに負け、九割方眠って過ごした四限が終わり、皆が待ちに待った昼休み。クラスの者達が思い思いの時間を過ごす中、ハジメは黄色い外箱でお馴染みの栄養食(メープル味)で簡単に済ませ、そのまま昼寝に移行しようとする。
「ハジメちゃん、一緒にご飯食べない?」
だがやはりお姫様は見逃してはくれないらしい。可愛らしい弁当箱を持った香織が、お昼の同席を求めてきた。このまま言う通りにしようものなら、お約束の視線による針の筵となるのは間違いない。「ほんとにどんだけこの人の事好きなんだアンタら!!」と声高に叫びたい。普通に考えれば、男子目線では女子同士の単なるトークに過ぎないというのに、男女問わず睨んでくるのだから本当に恐ろしい。
「ごめんなさい。御覧の通りもう食べちゃったから、私の事は気にしないで良いよ」
「駄目だよそれだけじゃ!!ちゃんと食べなきゃ。私のお弁当、分けてあげるから。ね?」
一瞬にして視線の鋭さが増した。結局針の筵は避けられないらしい。更に不幸な事に、他三人も当然寄ってきて、クラスどころか学校中で人気のトップグループがハジメの席に集まってくるという事態となった。
(いっその事、今ネットで話題の異世界転移でもしないかなあ。この人達)
そんな投げやりな事を考えた、その時。
それは、起こった。
「え?」
突如、教室の床の一部が眩い光を放ち始めた。場所はちょうど光輝の足元だ。その光はよく見ると紋様になっていて、きれいな円形の、正しく"魔方陣"という呼び方がぴったりなデザインだ。
「皆さん!早く教室の外に!!急いで!」
いきなりの出来事に硬直する生徒達に、担任である
その時には既に輝きを増していく光は教室全体を覆い、床の魔方陣の大きさは完全に教室内をほとんど囲うまでになっていた。
愛子の叫びも虚しく、臨界点に達したかのように爆ぜる光。そして光が収まる頃には・・・・・・
もはや、誰もいなかった。
残されたのは、食べかけの弁当に、蹴倒された椅子、そして最初から誰もいなかったのではないかと錯覚させるような静寂だけ。
この事件は、白昼に起きた集団神隠し事件として世間を騒がせる事となった。
第一話は年内投稿・・・・・・出来たらいいなぁ(願望)