作:ねりわさび

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今回は白糸台メンバーです。
2話の前編みたいな感じです。


2-1話 西東京編

-3週間後。京太郎は首都・東京に来ていた。

群馬、山梨、埼玉と旅をしてきたが、東京は流石に一遍して人が溢れ、高層ビルが立ち並んでいた。

といっても、東京全土がこういうわけではなく、東京にも村はあるし、長閑な場所はいくつもある。

インターハイの時に東京へ来たことがあるとはいえ、やはりこの景色は長野と比べても圧巻だ、と京太郎は思う。

東京の中心から外れ、少し人里離れた場所で歩く。

左右を交互に流しながら見、駄菓子屋があることに気付く。

子供の頃は良く通っていたが、年齢が上がるにつれ回数は減っていった。

「5円チョコとか、すっぱグミとかまだあるのかな?」

駄菓子屋の向かいには公園があるので、駄菓子を買って休憩がてらベンチで食べることに決めた京太郎は、駄菓子屋の入口の戸を開く。

戸を開けた瞬間、女の子の元気な声が店中に響く。

先客が居たか、と思いながら物色をする。

懐かしい駄菓子から見たことのない駄菓子まで、豊富に揃えてある。スルメイカやモロッコヨーグル、フルーツの森がもの凄く懐かしいと感じる。

一歩進んでは物色し、一歩進んでは物色。先客の女の子たちは5人で行動しており、とても楽しそうに駄菓子を選んでいる。

(あ、ヤングドーナツだ。懐かしい)

一つの袋に四つのミニドーナツが入っている駄菓子だ。「子供が喜ぶような小さくて食べやすく、しかも美味しいドーナツ」というコンセプトで作られた人気の駄菓子。

この店でも人気なのか、ヤングドーナツは一つしか残っていなかった。

女の子達がヤングドーナツを取る様子もないので、京太郎は最後の一つを手に取った。

が、ヤングドーナツを取った手は一つではなかった。

見ると、いつの間にか女の子が京太郎の横まで来ており、最後の一つを手に取ろうとしていた。

「あ、すみません」

京太郎は反射的に謝る。しかし、京太郎はこの手を離そうとはしなかった。

残り物には福がある、というわけではないが、小学生以来の懐かしい駄菓子だ。駄菓子屋に寄ったついでどうしても今欲しいのだ。

手を離そうとしない彼の様子を見て、女の子も手を離さず京太郎に話しかける。

「先に手に取ったのは私だよ」

金色の長髪をした女の子も、どうやら譲る気はないようだ。

これを察した京太郎は、彼女と同じ言葉で返す。

「先に手を取ったのは俺です」

「私だよ!絶対私!」

「いいや、俺だね!」

お互いに手を動かさず、口だけで反抗する。

駄菓子屋という、どこに居ても店全体を一望できる程度の店でこの声量はとても目立つ。

「俺の方が0.1秒早かったぞ!」

「私の方が0.2秒早かったもん!」

子供のような言い合いを続ける二人。店のおばさんはそれをニコニコしながら見つめている。

「0.2秒とかそんなの分からねえだろ!」

「0.1秒だって分かんないじゃん!」

「残念、俺は分かるんですう!だからこれは…あ」

二人はお互いに興奮状態にあったが、京太郎は彼女の背後の存在には気づくことができた。

彼女は彼の様子を見て不思議に思い、背後を振り向く。

 

「淡、何をしている…」

そこには、彼女より背の高い青い長髪をした女性が鬼の形相で彼女を睨んで立っていた。

淡と呼ばれる彼女はそれを見て、先ほどの興奮状態から一気に青ざめ、あわあわとしている。

「連れが失礼致しました」

青い髪の女性が代わりに謝罪をしてきた。右手で淡の頭を掴み強引に頭を下げさせる。

「いえ、こちらもつい興奮して…すみません」

京太郎も謝る。

「この最後の一つはあなたに譲りますので」

彼女は京太郎にヤングドーナツを渡す。淡はそれを見て「あー!」と叫んだが、青髪の女性はそれを「うるさい」と言って制止させる。

 

「どうしたの?」

気づけば他の三人もこちらに近づいてきていた。

京太郎は突然、何かを思い出したかのようにハッとし、女性たちに指を差しながら叫びだした。

女性たちは当然ビクリと体を動かす。

「咲のお姉さん…!それに、白糸台高校の皆さんじゃないですか!」

大声で興奮しながら叫ぶ。

白糸台高校といえば、全国大会で団体戦二連覇を果たした日本最強の高校である。

白糸台高校の絶対的エ―スの名は「宮永照」と言い、咲が全国大会に行く決意をした理由が、この宮永照に会うためであった。

見知らぬ男性が「咲」と呼んだことに照は眉をピクリと動かし、京太郎に質問を投げかける。

「咲のお友達?」

「はい、中学の頃からの友達で。高校も一緒でだったんです」

京太郎は照と直接の面識は無かった。雑誌やテレビでしか見たことがなかった。

「照の妹の友人か」

この背の高い女性が弘世菫。京太郎達が1年生の時、つまり3年前の白糸台の次鋒選手であった。

中堅の渋谷尭深、副将の亦野誠子、大将の大星淡。

3年前の白糸台レギュラーが全員揃っていた。

京太郎も白糸台メンバーも同じ会場にいたが、やはり全員との面識は一切なかったため、まるで好きなアイドルグループを見かけた人のように興奮している。

が、比較的常識人である京太郎は、有名人がプライベートでいる時にサインを求めるようなことはしない。

「なんだ、サキの友達なんだ」

「はい。さっきはすみませんでした」

「いいよいいよ。ていうか同い年なんだしタメでいいって」

「何でお前が偉そうなんだ…。それにお前は上級生相手でもタメ口だろ…」

菫が嘆息して言う。淡は「気にしない気にしない」と言って軽く流す。

「そうだ!折角だし、このままお菓子買ってそこの公園で食べながらお話しようよ!」

淡が続けて提案をする。淡達は元々そうする予定だったようで、京太郎もそれは同じだった。断る理由が無いので快諾する。

 

 

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各々お菓子を買い終え、向かいの公園にてベンチに座りお菓子を広げて談笑する。

京太郎は宝くじを当てて全国の旅に出ていること、咲との出会いや親しくなったきっかけ、麻雀部での出来事等を話した。

5人とも、どちらの話にも興味を示したようで、お菓子を口に運びながらずっと京太郎を見て話を聞いていた。

 

「確かにサキって大人しいから、親しくなるまでに時間かかりそうだよね。京太郎は実はスゴイ人なのでは!」

淡が目を輝かせながら言う。

「実際功労者じゃないか?」と、亦野が言う。今度は皆が亦野の方を向く。

「だって、宮永先輩の妹さんを麻雀部に誘ったのが須賀君なんだから、凄い人でしょ」

「確かに!京太郎よくやった!」

淡が親指を立てて言う。

当の本人である京太郎はそんなことを今まで一度も考えたことがなかった。ただ麻雀が出来ると聞いて誘ってみただけ。誘っただけで、入部するきっかけになったのは原村和という存在と、本だった。

(ん?けど、その和と出会わせたのも俺のおかげなのか?実は俺ってスゴイ人なのでは?)

当時は咲の実力があそこまで強大とは思っていなかったが、事実彼の功績はあまりにも大きい。

宝の持ち腐れにあった彼女を誘っていなければ天江衣は一生変わらないままであっただろうし、実姉と仲直りをすることもなかったであろう。

彼女の存在によって日本の麻雀界が盛り上がったのも事実である。

「京太郎君。ありがとう」

照が頭を下げる。

「そうだな。須賀君、君は大した男だ」

菫も続ける。あまり褒められていない京太郎は顔を赤くして「い、いえそんな」と謙遜する。

 

この後も、時間を忘れて談笑をした。照と菫の出会いの話、照が淡を連れてきた話、菫と照が卒業した後の白糸台での出来事等。

強豪校というのは上下関係が厳しいところである、と思っていた京太郎はこの5人を見て心底仲良しだと思えた。

 

「おっと、もうこんな時間なのか」

菫が腕時計を見て言う。確かに日も暮れ始めていた。全員お菓子も全て食べ終えており、この中でも飛び切りお菓子が大好きな照は追加で買ってこようとするが、それを菫が制止する。

「須賀君は旅をしている身なんだ。彼にも予定があるだろうし、今日はここらでお開きにしよう」

照はそれに従いベンチに座りなおす。が、淡はそれに反対した。

「え~、じゃあ明日も遊ぼうよ!」

「おい、人の話を聞いていたのか?」

「俺は全然平気ですよ。旅はゆっくりするものですから。それに、皆さんとこうしてお話していてとても楽しかったので、俺もまた遊びたいです」

京太郎は柔らかい口調で言う。淡は「決まり!」と叫び、菫は「君がそう言うのなら…」と諦めた。

 

「それじゃあまた明日ねー!ばいばい京太郎!」

お互い反対方向へ歩き、手を振る。淡は一層大きく振ってお別れを告げる。

5人の姿が見えなくなるまで彼女らを見つめ、背を向けて歩き出す。

(旅の醍醐味はこういう出会いがあることだよな)

 

今日の出来事を振り返り自然と笑みがこぼれ、旅は良いものだと実感する京太郎であった。

 

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