博士たちに依頼され、『めりくり』のことを調べることになったかばんとサーバル。手がかりを知るというフレンズがいる『ジャパリゲレンデ』に足を運んだ二人だったが……?

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メリークリスマスの気持ちを込めて。
あと、何とは言わないですが予行演習的な。

アニメ一話放映一周年にもなんかやる予定なのでよろしくです。


12.X話

 サーバルは、今日もパークを謳歌していた。

 

「わぁ~! 雪がすっごいね! 毛皮もあったかくて今日のゆきやまちほーは楽しいな~!」

 

 楽しげな声と共に、白銀の平原が疎らな足跡で彩られる。得意の跳躍力から繰り出されるスキップは、本人のテンションの高さも相まってか既に三メートルを軽く超えていた。

 そんなサーバルの恰好は、常の物とは少しばかり違っている。ヒョウ柄──正確にはサーバル柄──の厚手のコートを羽織り、大きめの手袋までしているサーバルはすっかり防寒をマスターしているようだった。

 もちろん、サーバルに防寒の支度をするような心得はない。こんな知恵を利かせることができるフレンズといえば、当然。

 

「さ、サーバルちゃあん……待ってよぉ~」

「あ! ごめんねかばんちゃん。わたし、雪がしゃくしゃくするのが楽しくって」

 

 サーバルの後を追うように現れた、ご存知ヒトのフレンズ――かばんである。

 かばんもまたクリーム色を基調とした厚手のコートを身に纏っており、全体的に暖かそうだ。サーバルと違うのは帽子の上からしっかりとフードを被っている点で、おそらく耳が邪魔でフードを被れないサーバルよりずっと着込んでいる印象がある。

 

「でも、本当にこの『うわぎ』のお蔭で、雪の中でもあったかいね。ラッキーさんのおかげだよ」

「そうだね! 毛皮がいっぱいなのはちょっと不思議な感じだけど……あったかいと雪を歩くのがもっと楽しくなるよ!」

『今回ハ 事前ニ準備スル時間ガ アッタカラネ』

 

 コートの袖の下から漏れ出てくるラッキーの声色も、今日はどこか誇らしげだった。

 

「でも……あんまりゆっくりもしてられないんだよね」

 

 そんな風に和やかな雰囲気ではあったが、そこでかばんの表情が曇る。日はまだそんなに高くもないが、かばん達にはのんびり雪山観光と洒落込んではいられない理由があるのであった。

 つられて難しい顔をしようとして若干失敗しているサーバルはさておき、かばんは前日の夜にあったことを思い出しながら、呟く。

 

「早く『ジャパリゲレンデ』に行かないと、『くりすます』ができないから……ちょっと急がなきゃ」

「うみゃー! がんばるぞー!」

 

 そうして、二人は地面に白い足跡を残しながら先を急ぐ。

 

 ――――遅れ馳せながら、二人が雪山仕様で雪原を歩いている理由を説明しよう。

 それは、昨晩のことだった――。

 

 

     

 

けものフレンズ

 

めりくり

 

     

 

「めりくりです」

「めりくりなのですよ、お前達」

 

「…………はぁ……」

 

 二人で星を眺めながらお喋りしていたかばんとサーバルのもとに博士と助手がやってきたのは、かばんがそろそろ眠くなってきた頃のことだった。

 音もなく降り立った博士と助手にかばんの『食べないでください』が出たのを一蹴しての第一声が、これである。重くなった瞼をどうにかこじ開けているかばんでなくても、そんなことを出し抜けに言われたら『はぁ』と気の抜けた返事をしてしまうに違いない。

 

「めりくり? 何それー?」

 

 一方、寝転がった姿勢から身体だけ起こしたサーバルは、そう言って首を傾げる。実に話を進めやすい素直な疑問の言葉だった。

 博士もそんなサーバルの反応に満足げな頷きを返しつつ、

 

「『めりくり』とは、昔ヒトがいた頃に、毎年寒い時期に催されていたイベントだと思われるのです」

「『くりすます』とも言われていたのですよ」

「へー、そうなんだ!」

 

 サーバルのちっとも分かっていなさそうな感が満載の頷きだったが、それに続いてかばんも小さく頷いた。

 

「それは、なんだか楽しそうですね。それで、その『くりすます』が……?」

「おお、かばんも分かりますか」

「流石はヒトなのです。ヒトのイベントならヒトにお任せなのです」

「ボクはヒトのことは全然分からないんですけど……」

 

 困り顔なかばんはスルーして、博士と助手はかばんが『めりくり』に好意的な反応を示したのをいいことに、どんどん話を先に進めていく。

 

「われわれ、偶然としょかんで『めりくり』のことを知ったのですが……としょかんにある本では限界があったのです」

「おいしそうな絵があることしか分からなかったのです」

 

 そこまで言うと、博士はピッと人差し指を立てて、かばんの前に突きつける。

 

「そこで、かばん。お前には『めりくり』について調べてもらいたいのです」

「ボクが、ですか……?」

「そうなのです。実はゆきやまちほーに、『めりくり』に詳しいフレンズがいると聞いたです。われわれ、この島の長なのでそういうとこは詳しいのですよ」

「この耳羽(じう)にはさんだのです。この島の長なので」

 

 多分小耳にはさんだというのをフクロウ風に言いまわしたであろう助手の補足を聞きつつ、かばんはようやく話の流れが呑み込めてきた。

 要するに、博士と助手は『めりくり』――『くりすます』なる催しにあるらしい『食べ物』が食べてみたくて、そのイベントを現在のパークに再現させるつもりなのだろう。

 その為には雪山地方にいるフレンズに情報を聞く必要があり、その聞き取り役にはヒトのフレンズであるかばんが適任――というわけだ。大方、料理の方法を調べるのも期待されているに違いない。

 が。

 

「分かりました……けどもう……」

「む、待つのですかばん。まだ話は終わってないのですよ」

「フレンズの話は最後まで聞くですよ」

「う……」

 

 こてん、と。博士と助手の制止もむなしく、かばんは眠気に負けてそのまま地面に横たわってしまう。もともと寝ようとしていた矢先の登場だったので、仕方がないと言えば仕方がなかった。

 

「オイシイ話の途中で寝るとは失礼なヤツですよ」

「かばん、オイシイ話は途中ですよ」

「待って待って! かばんちゃん夜行性じゃないから夜は眠くなっちゃうんだよ」

 

 問答無用で起こしにかかろうとした博士と助手に、サーバルが割って入る。かばんの安眠を死守したサーバルは、そのまま胸を張って言う。

 

「代わりに、わたしが二人のお話を聞いてあげる。任せてよ!」

「サーバルに任せるのは論外として……」

「明日の朝いちばんで説明を再開しましょう、はかせ」

「それがいいですね、じょしゅ」

「ええー!? 二人ともひどいよー」

 

 ──とまあ。

 そんな感じのことが、前日にあったのであった。

 

 

     

 

「でも、はかせ達も突然だよね~。昨日の夜に来て、『今日中に話を聞いて来い!』だもん。寒いの苦手だから大変だよ~」

「サーバルちゃん、前に雪山地方に来たときも大変だったもんね……」

 

 あのときはかばんがいなければ寒さで行き倒れ必至なのであった。

 今回はその点、かばんの『何か暖かくなれる方法はありませんか?』という鶴の一声で動き出したラッキーによって上着が発見されたので、幾分か寒さの影響は和らいでいるが。それでも、基本的に雪山地方の気候は寒さしかない。

 たまたまその前にロッジ地帯でアリツカゲラに『安全な寝床の見つけ方』をレクチャーしてもらっていた為、距離的にはそこまで問題ではないが……フレンズの健脚を以てしても、日の出直後くらいに出発して、既にもう一〇時くらいになろうかという頃合いだった。

 

『モウスグ 目的地ノ「ジャパリゲレンデ」ニ着クヨ』

 

 そこでかばんの袖口から、ラッキーが目的地への到着を告げる。

 ラッキーの言葉に、かばんが遠くを見遣ると──小高い丘の向こう側に、巨大でなだらかな坂道がどこまでも広がっていた。

 

「わー!? 何あれ、何あれー!」

「すごい景色だね。ここが『ジャパリゲレンデ』かな?」

『ソウダヨ。此処デハ スキー板ヲ借リタリ、ソリヲ借リタリシテ遊ベルヨ。下ノ方デハ 雪遊ビヲスル スペースモ アルネ』

「かばんちゃんかばんちゃん! 早速遊びに行ってみようよ!」

 

 ボスの説明を聞いて、待ちきれなくなってしまったのだろう。サーバルは居ても立っても居られないという風に耳をぴくぴくさせ、そのままかばんの返事も聞かずに得意の跳躍でさっさと丘を登り切ってしまう。

 かばんは慌てて、

 

「あっ、サーバルちゃん! ダメだよ、まずここにいるフレンズさんに『クリスマス』のことを聞かないと……」

 

 と、急いで声をかけるが──時すでに遅し。かばんが丘の上を駆けのぼり終えた頃には既に、サーバルは坂道を下り始めていた。──というか。

 

「うぎゃ~~~~!?!?」

「さ、サーバルちゃん!?」

 

 足を滑らせて、雪の坂道を転がり下りていた。

 

 転がるサーバルに、慌てつつも叡智を振るって坂道を滑走したかばんが追いついて助けたりなんだりしつつ。

 

「あ、ありがとうかばんちゃん……目が回っちゃって大変だったよ……」

「気を付けようね……」

 

 身体についた雪をはたきながら言うサーバルに、かばんはそれを手伝いながら苦笑した。もっとも、そういうところがサーバルのよさでもあるので、かばんとしても別に今のままでいいのだが。

 

「でも、かばんちゃんすごいね! さっき転がってたわたしにあっという間に追いついちゃってたよね」

「ああ、うん。ああしたら、速く下りられるかなって……」

「楽しそうだったなー。そうだ、わたしもやってみたい! かばんちゃんやり方教えてよ!」

「待って待って!」

 

 早速脇道に逸れだしたサーバルを、今度こそかばんは未然に制止する。このままだと普通にゲレンデで滑って遊ぶだけで一日が終わりそうだった。

 

「その前に、ここにいるフレンズさんに『くりすます』の話を聞かないと」

「あっ、そうだったね。でもどこにいるんだろー? このへん、坂道の脇に林があるくらいで何もないよね?」

「うーん……」

 

 サーバルの言う通り、このゲレンデは広大だが、ものは何もない。

 今は坂道の中腹といったところだが、この下にはおそらく子どもの遊び場であろう場所があるくらいで、施設らしい施設はどこにも見当たらない。あるとするならば、両脇の林の向こうということになるのだが……と。

 

「あれ?」

 

 そこで、かばんは妙なものに気付く。

 林の先に、何やら柱のようなものが連続して建っているのだ。ちょうどジャパリカフェのある高山地帯で見たものと同じようなものだった──が、異なる点が一つ。

 柱を繋ぐロープのようなものから、転々と氷の柱のようなものが垂れ下がっているのだ。これは当然ながら高山地帯のものには存在していなかったので、余計にかばんの目を惹いた。

 

「あ、かばんちゃん、何か思いついた?」

 

 かばんの視線が何かに釘づけになったのを見て取ったサーバルが、そんなかばんの横顔を覗き込む。

 しかもかばんの観察力は、さらなる事実をも読み解いていた。

 

「うん。あっちの柱……よく見ると、氷の柱みたいなものが何本も垂れ下がってるように見えるんだけど」

「えっ? どこどこ……あ、ほんとだ! よく見つけたねかばんちゃん!」

「うん。でもあの氷の柱……なんだか、一直線に並んでいるみたいで……。もしかしたら、あの氷の柱の先に何かあるのかも。ちょっと行ってみてもいいかな」

「よく分かんないけど……やっぱりかばんちゃんはすっごいね! いいよ! 行こう行こう!」

 

 かばんの指さす先には、確かに地面につきそうなほど長い氷柱(つらら)が何本も垂れ下がっていた。単に寒いから氷柱ができただけかもしれないが、高山地帯のロープウェイと同じようなものなのだとしたら、氷柱がぶら下がれるほどのスペースが存在するとも思えない。

 『何か』があるかもしれない以上、そこまで行ってみる価値は十分にあった。

 

「問題は、そこに行くまでに林を抜けたりしないといけないんだけど……」

「うみゃー! 探検ごっこだね! がんばるぞー!」

 

 ──このサーバルの勢いと一緒なら、林くらいは苦にもならないだろう。

 

 

     

 

 そうして歩くこと約一〇分。

 林を抜けさらにて歩くと、氷柱の正体がようやく分かった。

 

「あれは……」

『ロープウェイダネ。途中デ止マッタ ロープウェイノ籠ガ 氷柱ノ核ニ ナッテイルンダネ』

 

 視線を上に向けると、氷柱の天辺には何やらカゴのあるのが見て取れる。おそらく、あそこで止まったカゴの下に水滴がつき、凍って氷柱になったものが長い年月をかけて鍾乳石のように少しずつ伸びていったのだろう。

 

「わー、すっごーい! きれーだね、かばんちゃん!」

「うん。本当にきれい……」

 

 ヒトの遺物が自然の一部になるほどの時間が経過している──文明を知る者であればそこに一抹の不気味さを感じてしまうものだが、知らねばそれは文明と自然が織りなす時間の芸術でしかない。

 感心しつつも二人は足を止めず、さらにロープウェイの氷柱を辿っていく。すると、

 

「あれ? なんだか雪の中に道ができてるよ?」

 

 急に、サーバルが不思議そうに首を傾げた。

 それも無理はない。此処ジャパリゲレンデは基本的に雪が深く積もった原っぱなのだが、その雪原の只中に突然、雪を踏み固めて作った道が出現したのだ。

 それも細い道ではなく、人一人が優に通れそうなほどの余裕がある道。誰かが意図的に作らない限りは絶対に生まれないであろう形状だった。

 

「なんでこんなのがあるんだろ?」

「もしかしたら、此処に住むフレンズさんかも……」

 

 と、かばんが言いかけた、ちょうどその時。

 

「おっ? もしかしてお客さんだゾ?」

「わあああああっ! 食べないでくださぁい!」

 

 突然横合いから声をかけられて、かばんは思わずひっくり返りそうになった。

 かばんの『食べないでください』はいつものことだからスルーして、変わってサーバルが突然現れたフレンズの姿を確認する。

 

 そのフレンズは、かばんたちの着ているのとは違うこげ茶色のコート──ダッフルコートを身に纏っていた。この雪景色の中では肌寒そうな格好だが、当の本人は全く気にした様子もなかった。

 毛先の白いこげ茶色の髪を後ろでまとめた頭部からは、シカ科フレンズ特有の角のような癖毛が伸びている。瞳の色は右目が赤、左目が緑のオッドアイ。首元のベルといい、スカートの赤緑の色彩といい、『それ』を知る者からすれば非常に『らしい』フレンズだっただろう。

 

 

   クジラ偶蹄目 シカ科 トナカイ属

  トナカイ

   Reindeer

 

 

「わたしはトナカイだゾ。お前達、よくこんなところまで来たなぁ!」

「わたしはサーバル! こっちはかばんちゃんだよ」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 ようやく立ち直ったかばんも、少々ひるみつつ挨拶を返す。するとトナカイは嬉しそうに笑いながら、

 

「やー、お客さんが来てくれたとは嬉しいゾ。早速『げれんで』を案内するゾ!」

「えっ、あの、ボク達は……」

「早速こっちだゾ! こっちに『すきーいた?』と『そり?』があるんだゾ。はかせに教えてもらったんだけどな」

 

 強引に連れられつつも、そう言われてかばんはなんとなく得心がいった。この島のフレンズたちは自分のことを知るのに博士の力をよく借りるようだ。トナカイも自分のことを知りにきたとき、ついでにスキー用品のことも教えてもらったのだろう。

 そしてその時に、はかせ達にクリスマスの概念を知っていることを匂わせ──そして今に至るというわけだ。

 

「ここが『げれんで』の小屋だゾ! 疲れたらここであったまるといいゾ!」

 

 そうこうしているうちに、かばん達の目の前に大きめの小屋が現れる。

 トナカイに連れられて中に入ってみると、そこは洋風の装いになっていた。木造の内部の中央には大きな絨毯が敷かれ、その周りに大き目のソファが三脚ほど並べられている。隅の方は煉瓦造りにされており、そこに暖炉が作られていた。

 

「わー、これなんだろー? としょかんにあったのと似てるね?」

「うん……多分、ここに火をつけてあったまるためのものなんじゃないかな……?」

「おおっ!? これの使い方、知ってるんだゾ?」

「知ってるというか、なんとなく……」

 

 早速暖炉の使い道を言い当てたかばんに、目を丸くするトナカイ。横で何故かサーバルが嬉しそうに胸を張っているのはいつもの光景だ。

 ちなみに、かばんが語気を弱めているのは、どうせ暖炉の使い方を教えても火を怖がってしまうフレンズ達にとっては有難迷惑だろうと遠慮しているからである。

 

「ってことはかばんちゃん、ここはりょうりをする場所でもあるのかな?」

「うーん、どうだろう。できないことはないと思うけど……」

 

 かばんはそう呟きながら、暖炉の様子を見てみる。暖炉の内側には何かを引っ掛けられそうなでっぱりが幾つか確認できたが、それだけでは流石にかばんもどういうものなのかまでは予測がつかない。

 

「お前達、不思議なフレンズだゾ。でもまぁ、久しぶりのお客さんだし精一杯歓迎するゾ。こっちにはきっちんがだな……」

「あ、それなんですけど」

 

 気を取り直して案内を再開しようとしたトナカイに、かばんは待ったをかけるように口をはさむ。心苦しいが――いつまでも本題に入らないままでは、一向に話が進まない。

 

「ボクたち、このげれんでのお客さんじゃなくて……トナカイさんに、『くりすます』のことについて色々とお聞きしたくて」

「お、お客さんじゃなかったんだゾ……?」

「わーっ! アルパカみたいになってるよ!」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 気を取り直して。

 

「『クリスマス』のことね。わたしもよく知ってるわけじゃないんだゾ」

「そうなんですか?」

 

 クリスマスの話を聞こうとしたかばんだったが、当のトナカイは説明開始早々にこの一言だった。

 

「う~ん、全く覚えてないってわけじゃないけど、記憶がオボロゲというか、起きてちょっとしたらなんとなくぼんやりしちゃった夢の記憶っていうか」

「分かりづらいよ!」

 

 ともかく、クリスマスの正確な記憶はあまりないということらしい。かばんもそれでは困るので、どうにか思い出してもらえる方法はないかと考え──。

 

「あ、そうだ。ええと……おいしいものを食べたりとか、しませんか?」

「おいしいもの? うーん……。そういえば……白くて丸いもの……食べたような」

「ジャパリまん?」

「違うゾ。もっと大きくて、ふわふわしてて……そう! けぇき! けぇきを食べるんだゾ! ろうそくを立てて火をつけるんだゾ!」

「ひっ、火?」

 

 ぱっと思い出したトナカイに、サーバルはちょっと引き気味な反応をした。この発言に特に反応したのはかばんで、興味深そうにトナカイに問いかける。

 

「トナカイさん、火が大丈夫なフレンズさんなんですか?」

「あんまり大きいとちょっとだけど……小さい火なら特に問題ないゾ?」

 

 そこは、クリスマスをよく知るフレンズの面目躍如ということだろうか。クリスマス関係なら、けものの本能もある程度は抑えられるということなのかもしれない。

 ともかく、トナカイの話を総合すると、『クリスマス』とはケーキなるものを作ってみんなで食べるイベントということらしい。この結論であれば、おいしいものを食べられるので博士達も満足するに違いない。

 そう思ったかばんは、そこで目の前のフレンズを見遣った。

 トナカイは、なんとなくそわそわとしているような──より正確には、何か不安そうな表情をしているように、かばんには見えた。

 

「……そうですね、こんなに広い場所なら、もっと色んなフレンズさんが来ていいと思うんですけど……」

 

 と言いつつ、かばんは此処にお客さんが来ない理由も分かっていた。

 要するに、高山地帯のアルパカと同じである。過酷な環境下、ここにやってこれるフレンズはまさしく一握りというわけだ。

 ただ、アルパカのジャパリカフェとは違う条件もある。ここには、ロープウェイの目印が存在している為、場所が分からないというようなことはない。道も比較的平坦だから、ここが歩けないというフレンズもそうそういないだろう。

 ただ問題は気温である。寒すぎるせいで、ここに来ようと思えるフレンズは殆どいないのだ。

 

「でも、今日は久しぶりに二人が来てくれたから楽しいゾ。もっとゆっくりしていくといいゾ!」

 

 もちろん、かばんも時間が許す限りこのゲレンデで遊ぶつもりではある。

 ただ、なんとかこのフレンズの望みを──ゲレンデを賑やかにするというささやかな願いを叶えてあげたい。

 ふと、かばんがそう思ったときだった。

 

「……あ」

 

 不意に、かばんの脳裏にとある閃きがよぎった。

 

「かばんちゃん、何か思いついた?」

 

 その様子を目敏く確認していたサーバルが、横からひょいと顔を出す。そして自慢げに胸を張って、トナカイにこう告げた。

 

「ふふん! かばんちゃんはね、すごいんだよ。いつもこういうときに楽しいことを思いついてくれるんだ!」

「おお~!」

「えへへ……ちょっと思い付きがあるんですけど……いいですか?」

 

 かくして。

 ゲレンデにも、人類の叡智が齎されることとなった。

 

 

     

 

 要するに、ゲレンデにフレンズが来れるような仕組みを作ってやればいいのだ。

 足場はそれほど悪くないし、道が分からないというようなこともない。ただ、寒いのが問題。

 だが、考えてみればこの問題、実は最初の最初にかばんとサーバルが解決しているのである。

 

 つまり、上着を着ればよい。

 

 寒くていけないのなら暖かくすればいいのであって、そうする為の準備なら、ちょうど『めりくり』にご執心な博士に依頼すればきっと一気に済ませてくれるだろう。

 食いしん坊な博士達を動かす為の報酬も……。

 

「さあ、これが『ケーキ』です」

 

 うまい具合に、ゲレンデの小屋に用意されていた。

 

「おお~……」

「これは……」

 

 その日の夜。

 かばんの用意した大きなホールケーキを前に、コートを着込んだ博士と助手は感嘆の声を上げる。

 

 というのも、暖炉の内部にあったでっぱり。あれを見て怪訝に思ったかばんが小屋の中を調べてみると、でっぱりに引っ掛ける為の鉄板や、その他の調理器具がごろごろ出てきたのだ。トナカイがキッチンと言いかけていたエリアからは、使っていない食材や食器もたくさん出てきた。

 おそらく、ここで休憩をとることを目的として作られた施設だったのだろう。

 

「これで、『クリスマス』ができるんじゃないかと」

「でかしたのです、かばん」

「これでオイシイ思いができるのですよ、かばん」

 

 そう言いつつも目線はホールケーキに釘づけな博士と助手に、かばんは思わず苦笑いを浮かべてしまう。本当に食い意地のはった『この島の長』だ。だが。

 

「あはは……()()()の分もありますから、そんなに慌てずに食べてくださいね」

 

 こうして島のフレンズを集めることができるのは、確かにこの二人の力なくしてはできないことかもしれない。

 

「わーい! 滑れるぞー!」

「わーっ!? 転がるでありまーす!?」

「ふわあああああああああ!?!?」

「アライさーん、またやってしまったねー」

 

「ここでスノーライブというのも、オツなものね……寒いけど」

「寒い場所でのライブなら、PPPにお任せよっ!」

「ロックで寒さも吹き飛ばすぜ!」

「このくらい、生まれ故郷の寒さに比べればなんともないな」

「さ、さむ~い……」

「ふ、フルルさん!? しっかりしてください!」

「うぇへへへ……フルルさんは温帯生まれだから寒さが苦手なんですよねー……うぃひひ……」

 

「おお~……寒くて凍えるかと思いました~……」

「もう。寒さをなめてると、死んじゃうんだからね」

「でも、このコートのお蔭で暖かいわね。サーバルもやるじゃない」

「でもまだ寒いのでこっちにもう一枚よこすといいと思いますよ」

「お前なあ……」

 

「キタキツネさんに教えてもらって、かまくらというのを作ってみたッス……! あったか、ほかほか……」

「いいなぁ、君、いいもの作るなぁ!」

「かまくらいいよね……。だらだら……」

「こういう住居も、素敵ですよねぇ~……」

 

「ほ~ら、こうやって雪でフレンズを形作ると、雪のフレンズが元になったフレンズを乗っ取りに……!」

「ひ、ひい! 先生怖すぎます!!」

「ゆ、雪と戦うとか、オーダーキツすぎますよ~……怖いですよ~……」

「フン、ま、子どもだましにしては上出来だナ……ってなんでオレの形にしてんだよ!? シャー!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお雪だぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「うわっ!? なんだあれ……全然分からん……」

 

「けぇきと一緒に紅茶もあるよぉ。ほらいっぱいあるよぉ!」

「まったく……なんでわたしまでけぇきとやらを作らなければいけないんだ……ハンターなのに……」

「ふふっ、でもヒグマさんのエプロン姿、似合ってますよ?」

 

 他にも、島中のフレンズ達が博士の呼びかけに応じ、このゲレンデにやってきていた。先ほどまでの静寂が嘘のように──今はもう、穏やかな喧噪がゲレンデに広がっていた。『ここじゃレースは難しそうだね』とか『クリスマスもかな──り久しぶりだな、にっしっし』なんて声も漏れ聞こえている。

 どのフレンズ達も普段の恰好の上に一枚上着を着ており(PPPなどは除く)、普段とは一味違った装いを見せているのが、どことなく新鮮だ。

 そんなゲレンデを眺めながら、かばん達はほっと一安心していた。

 

「これで、皆さんも『げれんで』に遊びに来やすくなったんじゃないかなと……」

「ありがとなぁ! これでみんなもいっぱい来るゾ! 嬉しいゾ!」

「かばんちゃん、ほんとにすっごいね! みんな楽しそうだもん!」

 

 と、嬉しそうなトナカイと共に喜び合うかばんとサーバル。

 そんな三人をよそに、今回の首謀者と言ってもよい博士と助手は、自分の思惑通りに事が進んだことに喜んでいた。

 

「ふふふ……これでわれわれもめりくりですよ、じょしゅ」

「一年の締めくくりもこれで完璧ですね、はかせ」

 

 そんな風に密かに笑い合っていた二人の呟きを得意の耳で敏く聞きつけていたサーバルは、今頃になって首を傾げた。

 

「そういえばずーっと気になってたんだけど、『めりくり』って何のこと? 栗の仲間?」

「あっ!」

 

 そんなサーバルの問いかけを聞いた瞬間。

 トナカイの思考が、まるで霧が晴れたみたいにぱあっと明快になる。まるで──ずっと忘れていたことを、ようやく思い出せたような心持だった。

 そんな心持で、トナカイは言う。

 

「それなら、知ってるゾ。いいかサーバル。『めりくり』っていうのはだな」

 

 みんなの幸せを、心から祈るような笑顔で。

 

楽しい楽しい夜を(メリークリスマス)! という意味なんだぞ」

 

 

 

 

 

     

 

「それじゃあ、くりすますってどういう意味なんだろ?」

「えーと……うーん…………分かんないゾ」

「あははは……」



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