ライオンハート   作:截流

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どうも、氏政です。


今作は花陽ちゃんがヒロインという事で、花陽誕記念の短編を書いちゃいました!!久しぶりに書いた誕生日記念の短編ですが、楽しんでいただけると幸いです。



それではどうぞお楽しみください!!


番外編
番外編 夜風の約束


―――ピンポーン!

 

『かよちーん!来たよ~!!』

 

『ばっか凛、声でけえよ!近所迷惑だろ!』

 

 

「あ、来た来た。入っていいよ~!」

 

 

1月17日の昼下がり、私こと小泉花陽はチャイムの音と、インターホンに声を掛ける2人の幼馴染みの声に胸を弾ませ、2人に返事をしてから玄関へと足を運んだ。

 

きっと今日も素敵な誕生日になりそうな気がする・・・、そんな思いを抱いて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かよち~ん!!お誕生日おめでとうにゃ~!!」

 

玄関の扉を開けるなり花陽に飛びつく少女の名前は星空凛。彼女とは幼稚園に入る前からの幼馴染みで、毎年こうやって花陽の家に誕生日を祝いに行っている。

 

「凛ちゃん苦しいよ~。」

 

花陽はそう言うが満更でもない様子だった。大事な幼馴染みに抱き着かれて嬉しいのは当然だと思う。

 

 

「その辺にしといてやれよ凛。今日の主役が気絶なんてことになったら笑えないぞ?」

 

俺、康介は花陽と凛が楽しそうにじゃれているのを眺めていたが、このままだと収拾がつきそうになかったので冗談めかした言葉で凛をたしなめた。

 

「凛はそんなに力強くないもん!かよちんだって平気だったでしょ?」

 

「うん。それにしてもこーちゃんその大きな袋はどうしたの?」

 

凛の言葉に笑いながら頷いた花陽は俺が右手に下げている大きな袋に興味を示した。

 

「それはねかよち・・・むぐぐ!?」

 

「おっと、それ以上は話さないでもらおうか・・・。」

 

凛が俺の袋の中身を花陽に話そうとしたから彼女の口をふさいだ。乱暴な手段ではあるが花陽へのサプライズを台無しにされるよりは百倍マシだ。

 

「あら~、凛ちゃんに康介くんいらっしゃい。毎年花陽のためにありがとうね。」

 

リビングからひょっこり顔を出したのは花陽のお母さんだ。なんていうかこの親にしてこの子ありといってもいいくらい花陽と見た目と性格がよく似ている。

 

「寒かったでしょ、上がって上がって!」

 

「うん!」

 

「じゃあお言葉に甘えて。」

 

花陽に促されて俺と凛は靴を脱いで花陽の家に上がった。

 

 

 

 

俺たちが花陽の家にお邪魔してからしばらく経って、テーブルの上にケーキやごちそうが並べられて花陽の誕生日祝いのパーティーが始まる。

 

『かよちん(花陽)!誕生日おめでとう!!』

 

「ありがとう二人とも!」

 

「さ、ろうそくの火を消してくれ!」

 

「うん!」

 

花陽が力いっぱい息を吹いてケーキの上に立っているろうそくの火を消す。頬を膨らませて力いっぱい息を吹くその姿はまるでタコがスミを吹いてるような雰囲気を連想させたが、これを言うと多分怒るだろうから俺はそれを口にしないよう心に念じていた。

 

別に何も花陽がタコみたいだと言っているのではなく、ろうそくの火を吹き消すのに必死になってる彼女の姿がとてもかわいいと思っただけであると俺は主張する。タコの話を出したのはあくまでも言葉の綾だと言っておこう。

 

「かよちんおめでと~!!」

 

花陽が火を消し終えると凛がまた彼女に抱き着いた。

 

(はぁ・・・。俺も女だったら凛みたいに気兼ねなく花陽に抱き着けるんだけどなぁ・・・。)

 

俺は二人のやり取りを見ながら心の中でため息をつく。言葉にするまでもないが凛が羨ましい。花陽に(一方的にではあるが)想いを寄せている俺からすれば凛の花陽に対する過剰ともいえるスキンシップには羨望の念を抱かずにはいられない。

 

だが俺は男であり、凛と比べると花陽との付き合いも短い。凛は女であると同時に花陽との付き合いも非常に長いからこそあのような過剰なスキンシップが取れるのであり、俺には性別的にも立場的にもそれを行うに相応しい存在ではない事もちゃんと理解しているつもりだ。

 

 

さて、そんな祝いの席に似つかわしくない(よこしま)な願望の話は止めにしてあれ(・・)を出すとしようか。

 

 

「花陽、実はお前にあげたいものがあるんだ。」

 

「え?なになに?」

 

「もしかしてあれを出す気にゃ!?」

 

俺が思わせぶりに言うと花陽と凛が期待の声を上げる。ちょっと待て凛、お前は俺が何を出すのか知ってるだろ。

 

まぁ、花陽の期待を煽るのには十分効果的だからよしとしよう。

 

「じゃ~ん!これが今年の花陽へのプレゼントだ!」

 

「こ、ここここれって!越後魚沼産の最高級コシヒカリ!?すごいよこーちゃんどうやって手に入れたの!?」

 

花陽は俺が出したプレゼント、越後魚沼産コシヒカリを見て目を輝かせていた。お米が大好物であり毎日最低でも3杯は白米を食べる花陽にとっては至高のプレゼントといっても過言ではないのは彼女のリアクションでよく分かる。

 

「この日の為にお小遣いを少しずつ少しずつ貯めて注文したんだ。」

 

「これきっとすっごい高かったよね・・・。ありがとうこーちゃん!これ大事に食べるね!!」

 

「い、いいって事よ・・・。」

 

花陽は満面の笑みで俺にお礼を言ってくれた。うん、その言葉とその笑顔だけで俺は十分幸せだし、ここしばらくの貯蓄生活も報われるというもんだ。彼女の笑顔が見られるならもう何でもできそうな気がする。

 

「じゃあ今日はかよちんの誕生日ってことでいっぱい楽しむにゃ~!!」

 

「うん!」

 

「お前は毎日楽しんでるだろ?」

 

「そんな事ないにゃ!」

 

『あはははは・・・。』

 

 

 

 

花陽の家で開かれた誕生日パーティーは日が暮れるまで続いた。3人でごちそうやケーキを食べたりとりとめのない世間話に花を咲かせたり・・・、いつもとやってることが変わらないとは思うが俺も、花陽と凛も心の底から楽しんでいた。

 

途中から花陽がアイドルソングリサイタルを始めた時はびっくりしたもんだが、凛が乱入したり花陽のお母さんが花陽にコールを入れたりとなかなkみんなその空気に馴染んでいた。俺は途中までそんな賑やかな光景をただ眺めるだけだったが、花陽に誘われて結局3、4曲ほど歌って踊らされたりしたがけっこう楽しかった。花陽がアイドルにハマるのも分かる気がする。

 

 

 

「じゃあねかよちん、また明日ね!」

 

「うん、また明日!」

 

「じゃあな~。」

 

楽しい時間は過ぎ去り、気が付けば時計の針は7時を指していた。俺たちはパーティーの後片付けをしてそれぞれ家路についた。

 

3人とも家がそれほどはなれていないので花陽も見送りについて来ている。

 

「じゃあこーちゃんもまた明日ね。」

 

花陽がそう言って手を振りながら俺に別れを告げ、自分の家のある方に足を向けた。

 

 

 

「ちょっと待った!」

 

俺はそう言って彼女の手を引いた。

 

「ど、どうしたのこーちゃん?」

 

いきなり手を引かれたことに戸惑っているのか花陽は目をぱちくりさせながら俺の方を見る。

 

「あ、あのさ・・・。ちょっとだけ話したいことがあるんだけど、いいかな・・・?」

 

とっさの事とは言え、呼び止めるだけでよかったはずなのに花陽の手を引いたのは流石にやりすぎた。俺は自分の右手に残る彼女の手の感触とほのかな温もりにドギマギしながら彼女に話があるという事を伝える。

 

「うん、いいよ。」

 

彼女はにっこり笑ってそう言ってくれた。

 

 

 

 

そして俺たち2人は花陽の家の近くにある小さな公園に行って話をすることにした。

 

「ほい、寒いから飲んでよ。」

 

俺はそう言って近くの自動販売機で買ったホットココアの缶を彼女に渡す。

 

「うん。あ、お金・・・。」

 

花陽はそう言ってココアのお代を払おうとコートのポケットをまさぐるが、

 

「お金はいいよ、今日は誕生日なんだからさ。」

 

俺はそう言って彼女を止め、ホットミルクの缶をくいっと(あお)る。

 

「ねえ、話ってなあに?」

 

花陽が俺に話の内容をたずねる。別に詰問されてるわけでもないのに心臓が高鳴る。好きな子から何かをたずねられるというのはなかなか緊張するものだと思いながら俺は呼吸を整える。せっかく手にしたチャンスをここでふいにしてしまうのは男が廃るというもんだ。

 

「あの、実は・・・。」

 

「・・・。」

 

花陽は俺が言葉を絞り出すのを待ってくれている。彼女は昔から優しかった。小さい頃は彼女に負けず劣らず人見知りで恥ずかしがり屋で、何かを喋るのにも時間がかかってその度に急かされて余計に緊張して上手く話せないことが多かった。

 

しかし花陽だけは違った。花陽だけは俺が言葉を紡ぐのを待ってくれていた。その何気ない優しさは幼心に深く響いたことを今でも覚えている。

 

でも今は違う。流石にこの寒空の下でいつまでも彼女を待たせるわけにはいかない。だから俺は覚悟を決めて言葉を紡ぐ。

 

 

「これ!誕生日プレゼント・・・、受け取ってくれ!」

 

 

俺はそう言ってポケットから出した、手のひらサイズの小袋を彼女に差し出した。

 

「プレゼントって、さっきのお米じゃなかったの?」

 

花陽はそう言って首を傾げた。

 

「ああ、あれもプレゼントだ。でもこっちが本命のプレゼントなんだ。」

 

そう、これこそが本当に彼女に渡したかったプレゼント。この日の為に何日もかけて作ったプレゼントなのだ。これを渡す事こそが今日の最終目的だった。

 

「開けてもいいかな?」

 

「いいよ。」

 

花陽が俺にそうたずね、俺が頷くと、彼女は小袋を開く。

 

 

 

「これって・・・、お守り?」

 

彼女の手にはお守りがあった。神社で売られているものに比べてみると形が少し歪んでるように見える。

 

「ああ、学業成就のお守りさ。少し不格好なのは大目に見てくれると助かる・・・かな。」

 

「もしかしてこれ、こーちゃんが作ったの!?」

 

花陽は上ずった声で俺に聞いた。まあ、俺がそこまで手先が器用じゃないのは花陽もよく知ってるので驚かれるのも無理はないか。

 

「ああ。作るのに時間だいぶ時間がかかってな。一昨日になってようやく完成したんだけど、見ての通り神社と果で売ってるものに比べると不格好だからさ・・・。」

 

正直なところ出来栄えには自信がなかった。だから俺は照れ隠しで頭を掻きながらそう言ったが花陽は、

 

「ううん、すっごく嬉しい・・・!ありがと、こーちゃん!」

 

と俺に笑顔でそう言ってくれた。

 

「あ、ああ!気に入ってもらえて俺も嬉しいよ…!」

 

俺はそう言って思わず目を逸らしてしまった。そりゃそうだ、たかだかお守り1つ、しかも神社で買えるものに比べてお世辞にも上手いとは言えないものを受け取ってもらえた上にあんなに嬉しそうな顔でお礼なんて言われたら嬉しさを通り越して罪悪感が湧いてきそうなくらいだからな。

 

「だってこーちゃんが心を込めて作ってくれたんでしょ?嬉しくないわけないよ!」

 

花陽は本当に優しい子だ。この言葉にも嘘偽りは1つもない事が彼女の表情と口振りでよく分かる。

 

本当に、本当に今まで俺の側にいてくれてる事がもったいないとすら思えてくるぐらいだ。

 

ともあれもう少し彼女と一緒にいたいと思った俺は場をつなぐために世間話をすることにした。

 

「そういえば受験勉強の方はどうなんだ?」

 

俺が切り出したのは受験の話だ。学業成就のお守りを渡した後だし、話題のチョイスとしては悪くは無いはずだと信じたい。

 

「う~ん、凛ちゃんがまだ少し苦戦してるみたい、かなぁ・・・。」

 

花陽が苦笑いしながらそう答えた。花陽が自分と同じ学校に通いたいと言う凛に、一緒に受験を合格できるようにと一緒に勉強をしていたのは知っていた。

 

だが凛は花陽と比べるとお世辞にも成績がいいとは言えなかった。このままだとマズい結果になってしまいそうだと思った俺は花陽にある提案をした。

 

「なあ、俺も一緒に勉強に付き合おうか?」

 

「え、いいの?こーちゃんは大丈夫なの?」

 

花陽はどうやら俺の提案が意外だったらしく目を丸くしていた。

 

「ああ、俺は大丈夫さ。凛が音ノ木坂に入れなかったら花陽も悲しいだろ?」

 

「うん、ありがとう。」

 

花陽はそう言ってココアを一口飲んだ。

 

 

 

「もう1つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

俺はこの時花陽に対してある疑問を抱いていた。そしてそれに関する彼女の真意を知るためにまた俺は彼女にたずねる。

 

「うん、どうしたの?」

 

花陽の言葉を聞いた俺は1つ深呼吸をしてから言葉を紡ぎ出す。

 

「UTXにはやっぱり行かないのか?」

 

UTX、それは秋葉原駅の前にあるビルの中にあるUTX学院という高校で、最新設備が整っていたり芸能科があったり、そしてA-RISEという凄いスクールアイドルが在籍している事が有名で、入学希望者がここ数年増え続けている新進気鋭の高校だ。花陽は元々ご両親からUTXへの進学を進められていた。俺も花陽の学力なら少し頑張れば問題なく入れると思い応援していた。

 

だが彼女はそれを断って音ノ木坂学院への進学を決意した。

 

正直俺はそれを聞いてびっくりした。UTXに行けば彼女の夢であるアイドルへの道も切り開けそうだったのに・・・と。とにかく俺は彼女が何を想って音ノ木坂へ進学することを決めたのか、それを知るために俺はこの質問を花陽にぶつけたのだ。

 

「・・・お父さんもお母さんもね、私にすごい期待しててくれてたんだ。でもね、それがすごく申し訳なかったの。」

 

ほんの少しの沈黙の後、花陽がぽつりぽつりと語り始めた。

 

「申し訳ない?」

 

「うん。お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんはいつも花陽のことを褒めてくれて、期待もしてくれてるけど・・・。私はホントはダメな子だから、そんな風に想ってくれるお母さんたちに申し訳ない気持ちになっちゃったの・・・。」

 

花陽が家族から愛されているのは、小泉家とは家族ぐるみの付き合いを持っていたからよく知っていた。でも花陽がそんな感情を抱いていたのは知らなかった。

 

「・・・そうだったのか。」

 

花陽がいつもの朗らかな笑顔の下に隠していた感情を知った俺はただそう言う事しかできなかった。失望とかそういう感情は全くなかった。ただ俺は花陽がそれほどの大きな悩みを背負っていた事を知ってなお、何も言えないことが歯がゆかった。

 

「でもね、だから私はこれから何をすればいいのかを自分で考えて、自分の足で立って行かなくちゃって思ったんだ。」

 

「・・・それで音ノ木坂学院を選んだのか。」

 

俺の言葉に花陽は無言で頷く。その時の彼女はアイドルの事を語る時とはまた違う力強い目をしていた。

 

ああ、花陽はいつの間にか強くなってたんだな。花陽はいつも俺の先を進んでいってやがる・・・。

 

 

「やっぱり凄いな花陽は。こりゃあ、俺もウカウカしちゃいられないな。」

 

俺は向こう疵を右手の指でつーっと撫でながら笑ってそう言った。

 

「こーちゃんの方はどうなの?」

 

「え?」

 

「こーちゃんの方は受験は大丈夫なの?」

 

 

これは予想外だった。まさか質問を返されるとは思ってもみなかった。この話題はできるだけ避けたかったのだが、受験の話をした時点でこう聞き返されることは分かっていたはずだろう。

 

気合を入れて覚悟を決めるんだ俺よ。花陽だって、力強い一歩を踏んでいるのだから。

 

 

「ああ、俺の方はそうだな・・・。正直に言わせてもらうと受験勉強はほとんどしていない。」

 

「え!?受験勉強、全然してないの!?」

 

俺の言葉に驚いた花陽がひっくり返った声で俺に詰め寄る。

 

「落ち着けって花陽!殆どしてないって言っても基礎やら復習やらはちゃんとしてるぞ。ただ他の連中と違って塾に行ったり、長時間の勉強漬けをしてないだけだ。」

 

俺は詰め寄る花陽を引き離して努めて冷静にさっきの言葉を補足した。花陽に詰め寄られた時に心臓が爆発しそうになったのは内緒の話だ。

 

「ねえ、こーちゃんの志望校ってどこなの?」

 

「!!」

 

まずい、まずいまずいまずい!!こればかりはまずい。志望校の事だけは本当にまずい。いくら花陽が相手でもこれだけは言えなかった。

 

「・・・。」

 

ああ、花陽が凄いジト目でこっちを見つめてくる・・・。辛い、悪い事なんて何もしてないのに花陽にそんな目で見られるのは本当に辛い。

 

「どうしても言わなきゃいけませんかね?」

 

「はい!ダメです!」

 

ジーザス、逃げ道は完全に絶たれた。こうなった以上は言わなきゃずっとこの寒空の下で睨み合いを続けなくちゃならなくなる。流石に花陽に風邪をひかせるわけにはいかない。

 

「どうしても言えない事なの・・・?」

 

 

ああもうダメだ、その上目遣いは反則だろう。捨てられた子犬のように目を潤ませての上目遣いなんてされたら喋るしかないじゃないか。ほんと花陽の事に関してはちょろくなる俺自身を恨みたくなる。恨まないけど。

 

「分かった、言うよ・・・。俺の志望校は『淡田町高校』なんだ。」

 

「嘘!?淡田町高校って・・・、音ノ木坂よりも偏差値低いよ?こーちゃんくらい頭よかったら神峰橋とかにも行けるのにどうして・・・!?それに淡田町高校って―――」

 

「ああ、この近辺じゃ誰もが知ってる不良校だよ。」

 

そう、俺が志望校について話したくなかった理由はこれだ。俺の志望校が札付きの不良校だったからだ。

 

「でもどうしてこーちゃんはそんな所に行こうとしてるの?」

 

「・・・そこしかないんだよ、俺が行ける高校は。」

 

「え・・・?」

 

「言ったままの意味だよ。俺が受験できる高校はそこしかないんだよ!!」

 

俺は思わず叫んでしまった。花陽はそれに怯んで肩をビクッと揺らす。

 

「あ、ごめん・・・。」

 

「そこしかないってどういうことなの・・・?」

 

花陽は恐る恐るたずねる。ここまで来てしまった以上もう止まることはできない。俺はすべて話すことにした。

 

「内申点だよ。俺の内申点は神峰橋とかの進学校に行けるほど・・・いや、普通の高校に行ける事すらできないほどしか無いんだ。」

 

「内申点が無いなんて・・・。そんなはずないよ、こーちゃんは真面目なのにそんな事・・・。」

 

あの事件(・・・・)さ・・・。あの事件で俺の内申点はほとんど全部削られたんだ。先生に言われたよ。『お前が行けるのはここだけだ。ここに行くのが嫌ならお前は中卒だ。』ってね。」

 

俺は真実を告げた。脚色することも、誤魔化すこともなく、ただ淡々と花陽に真実を告げた。

 

「うそ・・・。じゃあこーちゃんの顔の傷がついたのも、行きたい高校に行けなくなったのも、花陽のせい(・・・・・)で・・・。」

 

花陽は顔を青ざめさせながら自分を責める言葉を口にしたが、

 

 

「それは違う!!!」

 

 

俺はそれを止めた。花陽の手をしっかり両手で握り、彼女を安心させるように言葉を紡ぐ。

 

「いいか、俺のこの傷も俺が淡高に行くのも全部俺の選択の結果だ。俺はこの向こう疵のおかげで強い男になるって決意を抱く事ができた!淡高に行くのだって俺の意志だ。淡高に行きたくなければ受験勉強なんてせずに今頃は就職活動してるさ。」

 

「でも、こーちゃんは真面目なのに、あの事件のせいで今まで不良呼ばわりされてて・・・。淡高に行っちゃったらもっと・・・!!」

 

「大丈夫だよ。俺には俺の事を分かってくれてる花陽や凛、それに成明や勝次がいる。それだけで俺は十分さ。それに不良校に行っても必ず不良になるわけじゃない。そりゃあ周りからのレッテル貼りはひどくなるかもしれないけど、それでも花陽たちが俺の事を信じてくれる限り俺は大丈夫だから・・・!」

 

俺は花陽の手を強く、そして優しく握りしめながらそう言った。まるで親が子供と約束の指切りをするように・・・。

 

「この傷に誓うよ、これからは花陽を悲しませたりしない。だから俺を信じてくれ。」

 

「うん、約束だよ・・・!」

 

俺の誓いの言葉に応えるように花陽は俺の手をきゅっと握り返す。この寒さのせいで冷たいけれど、その感触は柔らかく、そして不思議と温かく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしょい!!!」

 

「あ、少し話し込んじゃったね。」

 

あの後からまた少しとりとめのない世間話に花を咲かせていたが、俺のくしゃみで和やかなひと時は終わりを告げる。

 

「ああ、そうみたいだな。」

 

俺は鼻を軽くすすりながらベンチから立ち上がる。

 

「じゃあ花陽、家まで送るよ。」

 

「え、いいよ。ここから家まですぐだし・・・、それにこーちゃんに悪いよ。」

 

俺が花陽を家まで送ろうとすると彼女は断ろうとする。さっきくしゃみをしたからそれを気遣ってくれてるのだろうか。だとしたら本当に優しい子だなぁ・・・。

 

「いやいや、すぐって言っても何があるか分からないからね。さっきあんな事言ったのになんかあったら後で凛に怒られそうだしな。それに俺んちだって走って帰れば花陽の家から5分もしないうちに帰れるから。」

 

そんな彼女に対して俺は何だかんだと理由を作る。

 

今ここで並べ立てた理由もホントの事だけど、心の奥底から本音を言ってしまえば俺はただ花陽と一緒にいる時間を数秒だけでも延ばしたいだけなのだ。

 

「そっか・・・。じゃあお言葉に甘えちゃおっかな。」

 

花陽はにこりと笑って俺の手を握ってくれた。よくよく考えるとさっきから花陽の手を何度か握ってるが、改めて今こうして彼女に手を握られると俺の顔がみるみる熱くなっていくのを感じた。さっきまでのは平気だったのかって?話の内容が内容だったからそんな事を気にする余裕がなかったんだよね。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、こうやってこーちゃんと手を繋いで帰るのっていつ振りだろうね?」

 

「さぁ、覚えてる限りだと小5になる頃にはもうやってなかったなぁ・・・。」

 

公園から花陽の家まで、俺たちは昔の事を語りながら歩いていた。昔はこうやって手を繋ぎながら帰っていたなぁ・・・。もちろん凛も一緒にいる事が多かったが、花陽と二人っきりなんて時も無いわけではなかった。

 

あの頃は彼女に対して恋愛感情を抱いてはおらず、ただの仲良しな幼馴染みとして一緒に手を繋いでいた。それが次第に無くなっていき、中学生になる頃には昔に比べて距離が少しだけ遠くなっていた。そんな寂しさの中彼女への恋心を抱き、もどかしい思いをしながら中学校生活を送っていたが、今こうやってまた僅かな時間だけでも手を繋げるようになったのは心の底から嬉しかった。

 

 

そして気が付けば彼女の玄関の前に着いていた。

 

 

「今日はお祝いしてくれてありがとうね、こーちゃん。」

 

「いいんだよお礼なんて。俺たちは幼馴染みで、こうして誰かが誕生日になればお互いに祝って来たんだからさ。」

 

花陽のお礼に対し、俺は照れ臭そうに笑ってそう言う。

 

「じゃあこーちゃん、また明日ね。」

 

花陽がそう言って家に入ろうとしたその時、

 

「花陽っ・・・!」

 

俺は思わず彼女に声を掛けてしまった。

 

「どうしたの?」

 

彼女はきょとんとした表情で俺を見る。

 

「あ・・・その・・・。」

 

さっきまであんなに楽しそうに喋ってたのに言葉が出ない。

 

俺はいつもそうだ、こうやって花陽に思いを告げられそうな瞬間が来たと思って彼女に声を掛けたと思えば口が思うように動かなくなる。我ながら自分の情けなさに恥ずかしくなる。

 

「・・・なんでもない!また明日な。それと音ノ木坂、絶対凛と一緒に合格しろよ。」

 

やっとのことで絞り出せたのは別れの挨拶と激励だけだった。

 

「・・・うん!ありがとう、おやすみなさい。」

 

花陽は最初はポカンとしていたが、嬉しそうに笑って挨拶をすると同時にドアを閉めた。

 

 

 

「・・・さて、帰るか。」

 

俺は花陽の家の玄関の前で何秒か立ち尽くした後、我に返って俺の家に向かって歩き出した。

 

「はぁ、せっかく二人っきりになったのにまたチャンスをふいにしちまったな・・・。」

 

俺が誰に聞かせるまでもなく呟いた後悔の念の宿った独り言が北風に乗って冬の夜空に消えていく。そして俺はまた一つ、いつものようにため息をついて家路を一人寂しく歩いて行く――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、寒かったぁ・・・。」

 

私はこーちゃんに別れを告げて家に入った後、部屋に戻ってコートを脱いで一息ついた。

 

「こーちゃんの手、おっきくて温かかったなぁ・・・。」

 

右手を掲げて私はひとりごちるように呟いた。まだこーちゃんの手の感触がほのかに残っていてなんか不思議な感じ。

 

「そう言えば、さっきこーちゃんは何が言いたかったんだろ?」

 

私はこーちゃんからもらったお守りをいじりながら考え込んだ。

 

こーちゃんは別れ際に何かを言おうとしていた。中学生になってからよくこーちゃんのあんなもじもじした様子を見るようになった。でも、その後は凛ちゃんが割り込んできたり、こーちゃんがまるで何かを誤魔化すかのように当たり障りのない事を言ってその話が流れちゃうことがほとんどなんだけどね。

 

「花陽~、お風呂湧いたから入っちゃいなさ~い。」

 

「はーい。」

 

お母さんの呼び声で私の考え事は中断され、私はお守りを机の上において部屋を出て行った。

 

 

 

こーちゃんが私に何を伝えようとしてるのかは今は分からないけど、いつかちゃんと話してもらえたら嬉しいな。




いかがでしたでしょうか?



推しの誕生日という事で気合入れて書いたらおよそ10000字とかいう短編とは言えない量になっちゃいましたw

今回は物語の前日誕という形で、まだ康介や花陽たちが中3だった頃の話を書かせていただきました!花陽ちゃんが音ノ木坂に進学した理由については彼女のSIDを読んでそれを参考にしました。そして今回にも「あの事件」という単語が出てきましたが、それについては作中でおいおい触れていくので、それが開かされた時にもう一度この話を読んでくださると嬉しいです。


『ライオンハート』は更新速度はゆっくりではありますが少しずつ進めて、他の作品同様最後まで書くつもりですのでお付き合いいただけると幸いです!感想なんかを書いてくださったりすると具体的には執筆速度が上がるくらい、もっと嬉しくなりますw


それでは次回もまたお楽しみください!!


花陽ちゃん、誕生日おめでとう!!!
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