かしばなし   作:えび^^

1 / 3
チロルチョコ捜査網1

 関東近郊の海に面したとある田舎町の片隅に、その店はあった。シカダ駄菓子。現在国内では、絶滅危惧種のような駄菓子屋。

 昭和の古き良き時代がそのままタイムスリップしたような店内では、店主の息子である鹿田ココノツが店番をしている。

 店内に客はいない。ココノツは鼻と口の間に鉛筆を挟みながら、大学ノートに書きこんだ自作の漫画のネームを考える。静かな店内にはココノツの唸り声だけが響いている。

 

 不意にがらりと店の引き戸が開く。

 

「お邪魔するわよココノツ君!」

 

 午後の傾きかけた太陽を背に、片手を腰に手を当てた少女が一人、挑戦的な笑みを浮かべながら仁王立ちをする。

 彼女はシカダ駄菓子の常連で、名を枝垂ほたるという。駄菓子に対して偏執的なまでの愛を持つ、大手菓子会社『枝垂カンパニー』の社長令嬢である。

 とある事情からココノツにこのシカダ駄菓子を継がさんと画策しているのだが、その目的を抜きにしてもこのお店を気に入っており、この店にほぼ毎日通っているのだ。

 

「あっ、ほたるさん。いらっしゃい」

 

 いそいそと大学ノートをしまい、接客モードに入るココノツ。彼女の派手な入店の仕方にも慣れたもので、頬杖を突きながら駄菓子を物色する彼女を見つめている。

 

「さて、今日は何を頂こうかしら」

 

 鼻歌交じりに腕組みをしながら駄菓子を品定めするほたる。ここ最近日常となった光景に、今日はどんな駄菓子の話をするのだろうかと、無意識に心が高まるココノツ。

 

 しかしながら今日のシカダ駄菓子には、駄菓子屋に似つかわしくない珍入客がやってくる。

 

 

「へぇ、駄菓子屋ってこんな感じなんですね、タチバナさん。僕、初めて来ましたよ」

「……だろうな。青山、お前は子供のころからお菓子と言えばゴディバのチョコとかそこらへんの高級品ばっか食べてたんだろう」

「失礼ですね。僕だってチョコボールとか、子供の頃はよく食べてましたよ」

 

 ほたるが開けっ放しにした玄関から二人の男性がシカダ駄菓子に入ってくる。

 一人は青山と言われた育ちのよさそうな青年。ブランドのスーツと時計を身にまとい、できるサラリーマンといった風貌だ。

 もう一人は40歳を過ぎたタチバナと呼ばれたおっさん。よれよれのベージュのスラックスにYシャツを着た彼は、清潔感が微塵も感じられない。よく見ると肩にはふけが若干かかっており、周囲にはビンビンに加齢臭をまき散らしている。

 

「しかし、紋次郎いかにきな粉棒。おっ、こっちにはモロッコヨーグルトまである。……まるでタイムスリップしたような気分だな」

 

 店の中をジロジロ見回しながらタチバナが呟く。子供の頃に食べたお菓子たちとの数十年振りの再開に、感動も一塩といった様子。

 

「へぇ、僕は初めて見るお菓子ばっかりですけどね。どれもこれも安いですねー。これなんて、一個30円ですよ」

「子供のお小遣いで買うお菓子なんだから当然だろ。10円玉とか50円玉を握りしめて、限られた予算でその日に何を買うか悩むのも醍醐味なんだぞ。……と言ってもお前にはわからんか」

 

 対して物珍しい様子で駄菓子を手に取る青山は、初めて見る駄菓子の数々に新鮮さを感じていた。

 

「タチバナさん、このお菓子、なんで爪楊枝なんて入ってるんですか?」

 

 青山がタチバナに差し出したお菓子は共親製菓の『フルーツの森』。角型の小さなグミのような3色の飴がピンク色の最中の皿に入っているロングセラー商品。

 

「なんでって、刺して食べるんだよ。このグミを」

「別にベトベトしているわけでもないですし、爪楊枝で食べる必要なんてなさそうですよね? 結構堅そうだし、これに刺さるんですか?」

 

 得心がいかない青山に、思わずため息を漏らすタチバナ。

 

「遊びだよ、あ・そ・び。普通に食ったってつまらんし直ぐに食べ終わっちまうから、爪楊枝を入れて工夫してるんだよ。そういう部分も含めて駄菓子なの」

 

 ったく最近の若い者は、というぼやきを飲み込みながら解説するタチバナに、未だにピンとこない青山。そんな二人の様子を見つめる二人の視線。

 

 

「へぇ……。あのおじさま、中々わかってるじゃない」

「えぇ、そのようですね」

 

 ほたるの言葉に頷くココノツ。二人の目は怪しい光を帯びている。青山とタチバナが入店してから、さりげなくココノツのそばに移動し二人の男性を観察していたほたるは、タチバナの言葉に感じるものがあったようで、思わず先ほどの言葉を口にしていた。

 対するココノツもどこか駄菓子に対してのスイッチが入ってしまったようで、青山とタチバナが駄菓子を物色する様子をどこか楽し気に見つめている。

 

 そんな視線に気づかずに駄菓子に心奪われる成人男性二人組。そんな視線を余所に青山は次のお菓子を手に取りタチバナに話しかける。

 

「あっ、これなら僕もよく食べますよ。ついついコンビニで買っちゃうんですよねー」

 

 そうしゃべりながらながら青山が手にしたのは……。

 

「ふふっ、それはチロルチョコね!」

「おう?」




るろ剣の方は年内に更新予定です。ちょっとリハビリがてら書いた次第です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。