「ふふっ、それはチロルチョコね!」
「おう?」
ほたるがビシッと青山の手元を指差す。唐突な声に、おもわず素っ頓狂な声を上げるタチバナ。青山は声すら出ないご様子。
「チロルチョコ、1962年に発売されたロングセラー商品。駄菓子の中でも最古参で知名度の高い大ベテラン、まさにレジェンドね。あなたが好きなチロルチョコは何味なのかしら?」
「ぼっ、僕?」
唐突な問いかけに、いつものめんどくさい『めしばな』に巻き込まれたことを理解し、青山は内心顔をしかめる。そんな青山の気持ちを知ってか知らずか、ほたるは怪しい笑みを浮かべながら青山の回答を待つ。
「僕が好きなのは、きなこもちかなぁ」
愛想笑いを浮かべながら答える青山。妙な緊張感から、彼の頬には一筋の汗が流れる。
「きなこもちとはまた、ミーハーな答えだな。青山」
そんな彼の回答に、不満げな声を上げるおっさんが一人。最もこの場におっさんは独りしかいないのだが。
「いいか青山、チロルチョコってのはなぁ、毎年20個以上の新味が登場しては消えを繰り返し、今までに500以上の味が出てるんだ。その中でおまえさんにとっての一番は……。本当にきなこもちなのか?」
「そんなこと言われたって、僕はタチバナさん程チロルチョコに詳しくないですからね。食べたことがあるのだって、学生の頃にきなこもち味に嵌って一時期食べていたくらいですし」
思わぬ不満の声に、青山も不快感を隠さずに口を尖らす。
「確かにきなこもち味がうまいのは俺も認める。2003年に発売された、チロルチョコの中でもニューフェースに分類されるフレーバーで、出た当時は俺もチョットハマった。しっかりとしたきな粉味のチョコに、センターに入ったもちは、チョコレートで見事にきなこ餅を再現している。こう、コンビニで会計中にレジの脇にあると、無意識に2、3個買ってしまうような中毒性があることは俺も認める。しかし、チロルチョコで一番となれば話は別だろうよ」
唐突に熱く語り出すタチバナに、ほたるは満足げに笑みを浮かべる。この私の目に狂いはなかったと。
「僕は、ビスケットが一番好きですね」
溜まらずに声を上げたのは意外にもココノツ。このままだと何となく自分が会話の蚊帳の外に頬り出せれそうだと悟り、たまらず声を上げただけなのだが。
「ほう、ビスケットか。1984年のチロルチョコの中でも古参中の古参。スタンダードフレーバー系の中の急先鋒だな」
「えぇ、チョコレートのなかのビスケットのサクサク感がたまらい名品ですよ。未だに新味が生み出され続けるチロルチョコの中でも未だに現役で第一線で戦い続けてるまさに古強者。未だにアソートパックの中に封入されているあたり、根強い人気が伺えます」
不敵な笑みを浮かべながら語るココノツ。伊達に彼も駄菓子屋の倅ではないということだろう。
「ほら見ろ青山、お前よりこの子の方がよっぽどわかってるじゃねぇか」
「別に、チョコ一つでそんなに熱くならなくても」
タチバナの言葉に、視線を逸らしながら呆れたようにボヤく青山。
「あら、それじゃあ今日はチロルチョコの素晴らしさをお兄さんに理解してもらわなくちゃいけないわね」
怪しく微笑むほたるの笑みに、今日は中々帰れないことを悟る青山であった。
「まず一度整理しよう。俺が思うにチロルチョコの味には従来他のチョコレートでもある味のスタンダード系と、チロルチョコ独自の創作フレーバーであるニューウェーブ系に大別できる。まぁ、そのどちらでもないものも出てくるかもしれんから、あくまで大まかな区分と思ってくれ。ここまではいいか?」
「ええ、問題ないわよ。今まで出た味だと、ビスケットがスタンダード系できなこもちがニューウエーブ系ね」
「その通り、ちなみにビスケットの正式名称はビスだったりするんだが……。まぁいいか」
語り出したタチバナに、興味津々のほたる、諦めた様子の青山に、じっとタチバナの話を聞くココノツ。皆が思い思いの様子でタチバナの語りを聞いている。
「まずはチロルチョコを語るうえで外せないのが、このニューウエーブ系のフレーバーの多さだ。大ヒットしたきなこもち以外にも、もち系の『しるこもち』、『抹茶もち』、洋菓子系の『チーズケーキ味』や『ホットケーキ味』、果物系の『パッションフルーツ味』、『しゃりしゃりみかん味』とか、語れば語るほどキリがない。このニューフレーバー系の多さがチロルチョコの最大のウリでもあるわけだ」
「あっ、シャリシャリみかん味なら僕も食べたことありますよ。触感がシャリシャリ指定て普通のチョコレート違った触感がありましたよね」
自分が食べたことのある味の登場に、青山が思わず声を上げる。
「えぇ、他にも『大学いも味』とか『杏仁豆腐味』とか他ではお目にかかれない味もあったわね」
「『ポンジュース味』とか『ネクター味』なんかのコラボ味もありましたね。これもニューウェーブ系なのかな」
ココノツとほたるも自分の記憶を頼りにニューウエーブ系の味を上げる。
「発売初期から、『ワイン味』なんて出してるから挑戦的な味に寛容的な社風なんだろうな。他にも『食べるラー油味』とか『ピザ味』とか、ガリガリ君のナポリタン味とかクリームシチュー味に匹敵するようなゲテモノまで存在するのが、このニューフレーバー系の奥ゆかしさでもあるわけだが……。今まで上げたニューフレーバー系はつまるところ変化球。生き残っている味がほとんどないことから一発屋としての側面も強い」
「確かに、爪痕は残しているような気はするけど、どれも言われないと思い出しづらい味ばかりですね」
顎に手を当てながら、タチバナの言葉に頷くココノツ。
「以上の経緯から、俺が選ぶ『チロルチョコの一番』、それは紛れもなくニューウエーブ系ではなく、直球ど真ん中のスタンダード系だ」
ニヤリと笑いながら指を立てるタチバナ。
「へぇ、それでオジサマの一番好きなチロルチョコは何味なのかしら?」
はやる気持ちを抑えきれずに質問するほたるに対して、そう結論を焦るなといい、タチバナは言葉を続ける。
「代表的なスタンダード系を上げるのであれば、『ミルク』に『アーモンド』、『ヘーゼル』に『ストロベリー』なんかがあげられるが、数々のチロルチョコを喰った俺の一番、それは……」
「それは……」
答えを溜めるタチバナに、一同固唾を飲み次の言葉を持つ。十分に回答を溜めた後に、タチバナの口がゆっくりと開く。
「『コーヒーヌガー』だ」