「『コーヒーヌガー』だ」
タチバナが選んだチロルチョコのナンバーワン。それはコーヒーヌガー。
「へぇ、『コーヒーヌガー』ね。王道中の王道。正直意外だったわ」
「あぁ。あらゆる味を食べた俺が導き出した結論は、一周回って『コーヒーヌガー』だ」
「『コーヒーヌガー』って、あのねっちょりとした苦いアレが入っている奴ですよね?」
青山は『コーヒーヌガー』と聞いてもサッパリ何のことだか分からないようだったので、さりげなくココノツが質問する形でフォローする。
「ああ、それで合っている。そもそもチロルチョコの最初の味が『コーヒーヌガー』なんだ。お前さん達、チロルチョコの形が発売当初は正方形ではなく長方形だったって知ってるか?」
「えぇ、そうね。1962年の発売当初は今のチロルチョコが三つ並んだ形だったそうね。復刻版がでていたから大体のサイズは知っているわ」
「たしか、当時のオイルショックで原料の価格が高騰したせいで値上げをしたら売れなくなっちゃったんですよね。値段を据え置きにするために今のチロルチョコ3個分の大きさから2個分の大きさにして、最終的に今のサイズまで小さくなったと聞いたことが……」
タチバナの問いに、阿吽の呼吸でこたえるほたるとココノツに、内心でドン引きする青山。君たちまだ生まれてなかったのに、なぜにそんなにも詳しいのかと。駄菓子への愛のなせる業なのだが、青山にそれを理解できるわけもなし。
一方タチバナは自分が語ろうとしたウンチクを若い二人に取られてしまい、内心歯噛みしていたりする。このおっさん、意外と大人げないのである。
「あぁ、それとな。これが大事な理由なんだが、『コーヒーヌガー』は『チョコレート』なんだ」
「何を言ってるんですかタチバナさん、チロルチョコレートは全部チョコレートじゃないんですか?」
困惑する青山に、納得したような表情の若者二人。
「いや、俺の記憶が確かなら、先ほど上がった『きなこもち』と『ビス』は準チョコレートかだったはず。そもそもチョコレートと名乗れるのはな、青山。公正取引委員会の認定を受けた「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」によって規格が定められているんだ」
「そうね、日本でチョコレートと名乗れるのはチョコレート生地そのものか、チョコレート生地が60%以上のチョコレート加工品よ。ちなみにョコレート生地を全重量の40%以上使用して、クリームを全重量の10%以上含み、水分10%以上の製品は『生チョコレート』と称することができるのよ」
「……あぁ、その通りだ」
解説を横取りされ、苦虫を潰すような顔をするタチバナ。続きを語られまいと、急いで言葉を続ける。
「チロルチョコを開発した当時の松尾製菓の社長松尾喜宣氏は、チロルチョコの値段を10円と決めていたそうだ。当時高級品だったチョコレートを子供たちでも買える価格で売ろうと決めたかららしいんだが、ここで一つ問題があった」
「原料費、ですよね、たしか」
ココノツの言葉に頷きながらタチバナはしゃべり続ける。
「あぁ、想定されたサイズを全部チョコレートで作ると赤字になってしまう。そこで松尾氏が考えたのが、チョコレートの中にヌガーを入れてコストを下げることなんだが、ここで一つこだわりが合ってだな。ヌガーの背成分を工夫して、『準チョコレート』ではなく、『チョコレート』として売れるように成分を調整したんだ。子供の頃はなんとも思わなかったが、大人になってこの話を聞いてから10円の小さなチョコに込められた思いと工夫に、俺の魂は震えたもんさ、お前さんやるじゃないのってね」
ここで一呼吸区切り煙草を取り出そうとしたタチバナであったが、未成年二人と駄菓子屋という場所を思い出し、ポケットに伸ばしかけた手を止める。
「オイルショックのあおりもあったが、『10円あったらチロルチョコ』のキャッチフレーズで大ヒットしてな。その後はお前さん達も知っての通り、今なお色々なフレーバーを世界に送り出し続けているわけだ。そんなわけで、この『コーヒーヌガー』の味はチロルチョコにとっての原点にして始祖。コイツ以外ナンバーワンはありえないね」
そこまで一気にまくしたてた後、タチバナは一度息を吸い時計を見る。
「ロートルの古いおっさんにも歴史があるもんだぞ。お前さん達もたまには親の武勇伝でも聞いて親孝行してやるといい。それじゃ、そろそろ行くぞ青山」
「ちょっと、待ってくださいタチバナさん。それじゃ、君達またね」
あわただしく店内を出ていく大人二人。店内には若い二人が取れ残されたわけだが。
「ココノツ君、結局あの人たち何も買わなかったわね」
「えぇ」
「意外とケチなのかしら」
中々に楽しい時間を過ごせた満足したほたるが、その日はいつもより多めに駄菓子とチロルチョコを買って言ったのだった。
■入らなかった蘊蓄?
チロルチョコのチロルの名称は、オーストリアのチロルから採られたもので、美しく雄大な大自然のチロルの爽やかなイメージから名付けられたらしいです。
結局は自己満足な蘊蓄語りで、だがしかし原作のギャグとかおもしろさは一切ないですね。どちらかというとめしばな刑事に雰囲気近いかもなんて思って反省しています。
また、コーヒーヌガーを推す好みが、どちらかというとめしばな刑事の韮澤さん風ですね。どちらかというと、シャリシャリミカンあたりがタチバナさんっぽいかしらとか、いろいろ思うところあります。
次回をもし投稿することがあれば、ラーメン系スナックのお話でも書きたいなぁなんて思っています。題して『ラーメン系スナック包囲網』らあめんばばぁとか、ベビースターとか、ラーメン屋さん太郎とか、ヤッター麺とか、焼きそば屋さん太郎とかそのあたりをかければいいかなぁなんて思っています。
規約違反か怪しいと指摘があるかしばらく様子見です。この話を読んでチロルチョコを食べたいと思って頂ければ幸いですが、そんなことを目的で書いているわけではないんですけどね。
更新が遅れている、るろ剣二次書かなければいけないですしね。