エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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温泉回……でしたよね? 他に何も大事な要素はなかったと記憶しています。それと、初めてゼーレの方達を描写。とはいえ、シリアスになりきれないのはご愛嬌。死海文書も何もあったもんじゃないですからね。


第十話 マグマダイバー

「修学旅行、かぁ」

 

 シンジの口から出た言葉にミサトは苦い顔をした。洗い物を片付けながらシンジはその反応に小首を傾げる。何か問題があっただろうかと思ったためだ。ミサトはそんな彼の疑問へ答えを告げる。容赦ない大人の事情を。

 

「シンちゃん、行先もう一度言ってみて」

「沖縄ですけど……」

「ん。そこにシンちゃんだけが行くなら最悪問題ないわ。でも、学校行事でしょ? レイやアスカも行く訳よね」

「……あっ」

「気付いてくれた? そう、誰もいなくなるの。エヴァに乗る人間が、本部近くに」

 

 シンジはミサトの申し訳なさそうな声で喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。それは自分が残ればレイやアスカは行けるのではというもの。だけど、それはあの二人が嫌がるのを知っている。あの第七使徒との戦い。そのための訓練最終日前夜の会話を思い出し、シンジは少しだけ悲しみを噛み締めながらも大人の答えを返す。

 

「そうですね。じゃ、僕らは待機をしてみんなの帰ってこれる場所を守ります」

「…………ありがとうシンジ君。ごめんなさいね」

「いえ、悪いのは使徒ですから。代わりに本部のプールで気分だけでも味わっていいですか?」

 

 そんなシンジのせめてもの提案にミサトは手にしていたビールをテーブルへ置いてから頷く。それは、彼女なりのシンジへの感謝と誠意の表し方だった。

 

 そうしてシンジがミサトへ修学旅行の事を話している頃、アスカは新居となったあの共同生活で使ったアパートである物を見て荒れていた。

 

「ああっ! どうしてあたしがこんな点数取らないといけないのよ!」

 

 それは返却されたテストの数々。まだ日本語の読みが完全ではないための失点が多く、本来ならば楽勝である内容も現在のアスカにとっては難解な暗号じみていたのだ。その不機嫌極まりない声に返ってくる声があった。

 

「仕方ないわ。まだアスカは日本に慣れていないもの」

 

 レイはそう言ってグラスに麦茶を注ぐ。実はアスカが新居をここにするにあたり、一つ懸念した事があったのだ。それはシンジが言ったように部屋が傷む事。さすがのアスカであっても三部屋全てを自分で使うのは難しい。それにそこまで広い部屋で一人は嫌だったのもある。あの共同生活がアスカにとっても楽しかったのだ。誰かが傍にいる事のデメリットよりもメリットがアスカには多かった。なので部屋が殺風景で老朽化しているような場所に住んでいるレイを無理矢理同居人としたのである。

 

―――レイ、あたしと一緒にここに住まない? 掃除や洗濯とか分担しながら。

―――いいの?

―――ま、今のあんたとならあたしもいいわ。お互い一部屋を私室にして、残りは共同の物置にでもしましょ。文句は?

―――特にないわ。でも……

―――何よ?

―――出来れば碇君も一緒が良かった。

 

 そのレイの言葉にアスカがどう答えたかは敢えて書かない。だが、そのアスカの返しにレイは「アスカらしい」と言ったとか言わなかったとか。ともあれ、今や女二人のルームシェア。家事は分担であるが、その下地はあの共同生活で培ったものだ。そう、シンジの手伝いである。思わぬ部分で二人へ女性としてのスキルを与えるシンジであった。

 

「まぁいいわ。あっ、そうだ。レイ、明日放課後水着買いに行きましょ。修学旅行用のやつ」

「沖縄だから? はい」

「ありがと。そ。まぁ見せる相手がいない以上気張る必要はないんだけど、こういうのは自分のために買う物だし」

「学校指定のではダメ?」

「あのね、授業ならいざ知らず折角の旅行よ? 可愛いやつ着ないでどうすんのよ」

 

 レイが差し出したグラスを受け取りながらアスカは持論を展開する。それを聞きながらそういうものかと聞き入るレイ。そして揃ってグラスへ口をつけて傾ける。まだシンクロ効果は残っているようだ。

 

「分かった。じゃ、洞木さんも誘っていい?」

「ヒカリ? いいわよ。そっか。あんたはヒカリとも仲良かったんだっけ」

「ええ、たまに料理の話をするわ」

「じゃ、明日はヒカリを講師に料理教室でもしてもらいましょうか」

「そうね。私から頼んでみる」

「いいわよ。どうせお昼に話すからあたしが言っておくわ」

「分かった。じゃあ、お願い」

「ん」

 

 シンジがいなくても会話が弾むようになった二人。ここにリツコがいれば感心しきりだっただろう。あのアスカとレイがここまで親しげに話すなんてと。ちなみに彼女達は、あの訓練のために購入した揃いの服や歯ブラシを当然ながら未だに使用しているので、ある意味では仲良しさんと言える。無駄を嫌うアスカと頓着しないレイだからこその流用と言えた。

 

「アスカ、一ついい?」

「何よ? 心配しなくてもお肉使わないもんにしてもらうから」

「そうじゃないの。私、水着見せたい相手がいるから」

「……シンジ?」

 

 その問いかけに迷いなく頷くレイ。アスカはそんな彼女にため息を吐いた。これで互いを友達と言うのだ。どう考えてもそれ以上だろうとアスカは思う。それでもそれを直接指摘するつもりはアスカにはない。

 

(シンジとレイが両想いならほっといてもいつかくっつくわ。なら無駄な事に構ってる暇なんてないもの)

 

 そう自分を納得させるアスカだったが、それだけでない感情がまだ眠っているとは知らない。案外自分の事は自分でも分からないものである。特にこういう恋愛関係は。こうしてアスカとレイはヒカリと共に水着を見に行き、それぞれに可愛らしい物を買うのだが、上機嫌でその話をした二人へ突きつけられるのは戦闘待機という非情な現実であった。

 

 

 

 どことも分からぬような空間にゲンドウはいた。そこにいる者達―――ゼーレと呼ばれる存在と会話するために。そこではこれまでの初号機の戦闘記録が流れていた。

 

「ご覧いただいたように、初号機の変化は我々が制御しているのではありません。映像にある通り、エヴァ自体が変化しているのです。しかも、使徒と戦う時だけ」

 

 ゲンドウの言葉と流れている映像にモノリス達はざわつくのみ。第五使徒との初戦闘時と再戦時。更に第七使徒との戦闘での唐突な変化も見せられては彼の言葉を信じざるを得ない。何せ、話しているゲンドウもどこか疲れているのだ。実は、彼は彼で頭を悩ませる事が出来たためだ。

 

(まさかレイが他者との関わりを自ら求め始めるとは……)

 

 アスカとのルームシェア。それを聞いた時、ゲンドウは耳を疑ったのだ。それを報告したリツコはとてもいい笑顔をしていたが。ともあれ、そんな事を知らないゼーレの者達はゲンドウの手に余る初号機をどうするかを話し始めた。

 

『どうする? いっそ初号機を封印するか?』

『たしかに強力過ぎる。だが、まだ代わりのエヴァはないぞ』

『参号機を急いで建造させるとして、理由はどうする?』

『そもそも初号機がここまで上げた戦果を考えれば、下手に封印などすると、日本どころか国際世論が黙っていない』

『では、サードを降ろしファーストに変更すれば……』

「理由を与えてくださるなら私が説得しますが、ないようでしたら無理です。今のサードはエヴァで戦う事を誇りとしています。子供だからこそ純粋に世界を、友人を守るとね」

 

 ゲンドウの言葉に一斉にモノリス達が黙った。今のゲンドウの言葉が結論だったのだ。今の段階ではシンジを納得させるだけの材料がない。それは転じて世論を納得させる事が出来ない事を意味する。いくらゼーレが強い影響力を持っているとしても、それは実質であって表向きではない。彼らの運用する資金などは世界経済と結びついている。ならば、ここで使徒による被害を最小限に抑え、民間人の犠牲者を一人として出していない初号機を封印する事は出来ない。

 

『……碇、初号機の件はしばらく任せる』

「分かりました。今の所は参号機が出来次第乗り換えという事で?」

『そうだ。初号機よりも高性能と偽り、サードを説得しろ』

「……あの初号機よりも、と?」

 

 ゲンドウの返しにモノリスが言葉に詰まる。他のモノリスも何かゲンドウへ言いたそうな雰囲気だが、彼の疲れ果てた表情と目がそれを口に出させなかった。

 

『……それに関してはこちらでも手を打つ。とにかく、今はシナリオの通りに事を進めろ』

「分かりました。やるだけやってみましょう」

 

 こうして両者の会談は終わった。一人きりとなったゲンドウは少しだけ楽しげに呟いた。

 

―――まさかこうも老人達が狼狽えるとはな。シンジに感謝してもいいかもしれん。

 

 

 

「何でこうなるのよぉ」

「仕方ないよ。僕らがいない時に使徒が現れたら修学旅行どころじゃないし」

「そうね。それに、考えようによっては、こうして三人で宿題を片付けられるからいいじゃない」

「だから、それも含めて文句言ってんのよ!」

 

 場所はアスカとレイの部屋のリビング。そこでシンジ達は揃って学校の課題を進めていた。修学旅行を休んだために出された課題である。期末テストの結果が芳しくなかったアスカのためにと、彼女だけ国語関係が多めになっているが、それをシンジとレイが教えて、代わりに数学などの言語がそこまで関係しないものをアスカが教えていた。

 

「仕方ないわ。表向きは家庭の事情での修学旅行休みだもの」

「課題だって、そこまで多くないじゃないか」

「くそ、せめてこの後の本部のプールで思いっきり遊んでやるわ」

「お昼は? 食べてから行くの? なら用意するわ」

「レイ、まさかまた素麺じゃないでしょうね?」

「また?」

 

 シンジの言葉にアスカはややうんざり気味に頷いた。あの水着を買いに行った日の夕食は、ヒカリから教わった乾麺の調理法で作った素麺だったのだ。茹でるだけならレイもアスカも余裕で出来る。しかも麺類ならばそれぞれに具を入れてやる事も出来るのでアレンジもし易い。こうして二人は良い物を教わったと、そう思ってスーパーで乾麺の類を買ったのだが……。

 

「それ以来、レイは素麺かひやむぎばっ…………っかり出すの!」

「アスカだってパスタばかりだわ」

「あんたバカァ? あたしのはソースで味をいくらでも変えられるでしょ!」

「こっちだって生姜やネギ、刻み海苔などで味を変化させられる」

「だとしても単調なのよ。そうそう、聞いてよシンジ。レイ、こう見えて一番好きなのペペロンチーノなの」

「ニンニク、好きだから」

「そ、そうなんだ……」

 

 少女二人の話を聞きながらシンジは内心でこう思っていた。あの時よりも仲良くなってると。そしてこうも思った。バランスが偏り始めてると。なので彼としては、ここらで簡単な料理を教えるべきかと思って立ち上がる。その彼へ二人の視線が注がれた。

 

「綾波、野菜はある? あとハムかソーセージでもあればいいんだけど」

「何? シンジが作ってくれるの?」

「あー、出来れば二人にやって欲しいな。で、僕が指示するから覚えて欲しい。新しい素麺の食べ方を教えるよ」

 

 その言葉に二人は互いの顔を見合わせ、シンジへ顔を向けて頷いた。こうやってまた三人での料理が始まる。違うところがあるとすれば、あの時はシンジがほとんどやって二人は手伝いでしかなかったが、今回はシンジが完全にノータッチ。代わりにアスカとレイがエプロン姿でキッチンを動き回っていた。

 

「シンジ、野菜は切り終わったわよ」

「ありがとう。じゃあ、それをまず炒めようか。油を十円玉ぐらいの大きさで敷いて」

「……こんなもん?」

「うん、後はそれをフライパン全体に馴染ませて」

「碇君、素麺が茹で上がったわ」

「ならザルに出しておいて。水は出来るだけ切ってくれるかな」

 

 こうしてシンジが指導して二人に教えたのは素麺チャンプルー。そう、沖縄料理であるチャンプルーをイメージしたのだ。炒めた事で今までとは違う食感になり、野菜の旨味と鶏ガラスープの旨味、更に一緒に入れたハムの旨味もあり、飽きたと言っていたアスカも美味しいと言わずにはいられない味となった。レイの分はハムをどけて盛ってある。そのためにシンジはハムを大き目に切るようにアスカへ指示を出していた。

 

「碇君、ありがとう。これでまた料理のレシピが増えたわ」

「良かった。それにしても、綾波もアスカも大分料理に慣れてきたみたいだね。自炊、頑張ってるんだ」

「ま、こういうとこでも負けるってのは好きじゃないからね」

「最初はお米をぐちゃぐちゃにした」

「っ!? レイ!」

「何?」

「あんただって卵焼きがスクランブルエッグになったじゃない!」

「あは、あはは……」

 

 本当に仲良くなってるなぁ。そんな風に思いながらも、シンジはだからこそ修学旅行へ行きたかったと、そう心から思うのだ。今のアスカとレイを見れば、もっとみんなと仲良くなれるのに。ケンスケやトウジもシンジが修学旅行へ行けない事を残念がってくれたのだ。まぁ、その後レイやアスカもと知った時の方がショックは大きかったが。

 

(まだ諦めてないみたいだしな、ケンスケ)

 

 いつかのレイのワンピース写真は飛ぶように売れたらしく、今度はアスカでも似たような物をと頼まれているのだ。もっとも、シンジもさすがにアスカは色々と怖いと知っているので断り続けている。だが、そこでふとシンジは気付いた。

 

(もしかして、綾波とのツーショットなら撮らせてくれるんじゃ?)

 

 勿論それを普通に売りに出せば問題だ。しかし、しかしである。それが同意の上なら問題はない。そして、下手な事を男子は出来ないとも。そこに関してシンジはある意味で確信を持っていた。そう、アスカが被写体の場合誰も迂闊な事をしないだろう事を。何せ隠し撮りのただの制服姿でさえ、写真を知るやただちにケンスケへ辿り着き、少女らしからぬ手段で報復したのだ。つまり、アスカにばれたらどうなるかを男子はよく知っている。

 

「どうしたのよシンジ。何か妙に真剣な顔して」

「何か悩み?」

「えっと、二人はもう知ってるよね。ケンスケのやってる事」

「「ああ、あの隠し撮り」」

「……うん、その隠し撮り」

 

 揃った言葉ではあったが、こめられた感情はまったく異なっていた。アスカは恨みや憎しみのようなものが乗っていたし、レイは呆れの色が強い。シンジはどちらにせよ好意的な感情がない事を改めて感じて、二人へこう話を持ちかけたのだ。それは、逆転の発想。勝手に撮られて困るのなら、こちらで無難なものを撮影し渡せばいいというものだった。それでレイはかつての事を思い出したのか、小さく頷いてシンジを見ていた。

 

「それであの時、碇君は私の写真を相田君へ渡したのね」

「う、うん……」

「何それ? どういう事よ?」

 

 アスカの問いかけにシンジは心の中で友人へ謝った。

 

(ケンスケごめんっ!)

 

 そして彼はあのピクニックの裏話を打ち明けた。レイのセクシーショットを撮ってくれと頼まれ、諦めさせるために引き受けるだけ引き受けた事。そうしたらレイが可愛らしい格好で現れ、ある意味でケンスケ達の需要を満たした事。そして、今はアスカのそういうものを撮ってくれと頼んできている事を。

 

「……成程ね。下手に抗うと相手も意地になって抵抗してくるから、こちらから無難な餌を与えればいいのか」

「そういう感じ。アスカだって常に隠し撮りを警戒するなんて疲れるし面倒でしょ?」

「まあね。ふむ、シンジにしては結構いい案じゃない。双方に益を出しながら損をさせないか」

 

 考え込み始めたアスカを横目にレイはシンジへ近寄る。ほのかにいい匂いがシンジの嗅覚をくすぐった。

 

「碇君、ちなみに私の時はどんなものを望まれていたの?」

「えっ!?」

「碇君もそれを欲しいって思ったの?」

「あ、綾波?」

 

 一体どういう事だ。そう思って混乱するシンジへレイはいつものように平然とした顔でこう告げた。

 

―――碇君にだけなら、私は撮られてもいいわ。

―――っ!?!?

 

 あまりの告白にシンジは必死に自分を落ち着かせた。あれはレイのいつものやつだ。自分の言っている意味を正しく理解出来ていないんだと。この時、シンジはレイの目を見ていなかった。もし見ていれば余計混乱しただろう。何せレイの目はこれまでの分からないけど気になるというものではなく、どこか彼の反応を窺っている眼差しだったのだから。

 

「っよし、じゃあそれなりに可愛い格好で撮られてやろうじゃない。ん? どうしたのよレイ。シンジの奴、頭抱えてるけど」

「分からないわ。急にああなったの」

「ふ~ん……ちょっとシンジ、写真の件だけど」

「ふぇ!?」

「何よ奇妙な声出して。まぁいいわ。あたしとレイでそれなりの格好してあげるから、それを撮って相田の奴に恵んでやりなさい」

 

 勝ち誇るように言い放つアスカだったが、レイはその発言に小首を傾げる。どうして自分もと思ったのだろう。求められているのはアスカの写真だ。ならば自分が写るのは違うのではないか。そんな思いがレイにはあった。

 

「アスカ、私は写る必要がないわ」

「バカね。相田達は結局のところ変な事に使うのよ。だったら美少女二人の方が普通の格好でも喜ぶわ」

「……そう」

 

 その瞬間、シンジとアスカは目を疑った。レイが頬を赤めたのだ。それは、明らかに変な事を理解しているからだと、そう二人は察した。それはあの共同生活での一言を丸投げしてしまった一人の女性の苦労を物語っていた。

 

((今度謝っておこう……))

 

 二人の脳裏には、レイへ性教育よりも面倒で厄介な事を教えて疲れる白衣の女性が浮かんでいた。その後、三人は後片付けをし、課題をキリのいいところまで片付けて部屋を後にする。そして三人で雑談しながら本部を目指した。もう彼らの気分は遊ぶモード一色であった。だが、得てしてそういう時程物事は上手く運ばないもので……。

 

「「「火山の中に使徒?」」」

 

 プールの使用許可と謝罪を兼ねたリツコの研究室への訪問。それはある意味で三人の平穏の終わりを告げる。

 

「ええ。さっき現地のミサトから連絡があったわ。どうも休眠状態の使徒らしいの。それで捕獲する事になったのだけど、場所が場所なので特殊装備未対応の零号機は使用出来ない。必然的に初号機か弐号機となるの」

「私は待機ですか?」

「それなんだけど……」

 

 そう言ってリツコはシンジとアスカを見る。その目はどこか悪戯を企てているような輝きを宿していた。

 

「現地の近くは言わずと知れた温泉の名所なの。ここだけの話、作戦終了後に軽く慰安を兼ねて宿を取っているみたいよ」

「あー……」

「そういう事ね」

 

 要するにミサトなりの修学旅行の埋め合わせ。そう受け取った二人は、レイをどう連れ出すかを考えろとリツコが言っている事を察した。なのでまずはシンジが口火を切った。

 

「例えエヴァが使えなくても現場で見る事から学べる事もあると思います」

「そうね。それにレイはこの中で一番戦闘経験そのものが少ないんだもの。少しでも知識はあった方がいいわ」

「ふふっ、いいでしょう。なら、私から司令へそう言って同行許可をもらっておくわ」

 

 良く出来ましたとばかりに微笑むリツコにシンジとアスカは満足げな笑みを浮かべる。一人レイだけは首を傾げるものの、二人とリツコが自分を連れ出そうとしている事は理解出来た。なのでそこで微かに笑みを浮かべて告げた。

 

「碇君、アスカ、ありがとう。赤木博士もありがとうございます」

 

 そのレイの感謝の言葉と表情にアスカとリツコが驚き、シンジだけが嬉しそうに頷き返した。こうして三人は二体のエヴァと共にミサトの待つ浅間山火口付近へと向かう事となる。蛹ともいうべき使徒の捕獲。その場所は灼熱のマグマ流れる火山の中。誰もが無事に終わってくれる事を祈りつつ、どこかで言い知れぬ不安を抱いていた。

 

「ねぇシンジ。一つあんたに聞きたい事があるんだけど」

『何?』

 

 移動中の輸送機での会話。当然エヴァ同士の通信だ。そこでアスカはやや声を潜めるようにシンジへ声をかけた。何か内緒話でもあるのだろうか。そう思いつつシンジも応じる。と、そんな彼へアスカはどこか躊躇いを見せながら、それでも意を決して尋ねた。それはアスカが己のプライドを次なる次元へ高めるためのステップ。

 

「どうしてあんたは父親に見てもらうためじゃなく、みんなのためにエヴァに乗るって決めたの?」

 

 思わぬ質問にシンジは不意を突かれたような顔になった。それでもアスカがそれをレイから聞いたのだろうと察し、ならばと照れくさそうな顔で答えた。

 

『一番嫌な事から逃げるため、かな?』

「は? どういう事よ?」

『……僕は、元々臆病だった。傷付きたくないし傷付けたくないから人と距離を取って生きてきた。でも、だからこそ、あの初号機は僕じゃなきゃダメって分かった時、怖くなったんだ』

「怖く?」

『うん、つまり使徒が出てきて初号機が出撃する。でも、そこで普通の初号機だと僕は乗ってないって分かる人には分かるんだ。それに、もし僕が乗ってない時に使徒が誰かを傷付けたら、殺されたら、僕が戦わなかったせいだって攻撃される。それが嫌だから戦いから逃げないって決めたんだ。一番嫌な事から逃げ続けるためには、目の前の嫌な事をやり過ごしたり立ち向かったりするしかないから』

 

 後ろ向きなようで前向きのような不思議な話。アスカはレイから聞いた時にぼんやりと感じた感想を、今はっきり抱いた。目の前の少年は決して誇り高くなどない。だからこそ逆に誇り高いのだ。気取っていないが、その逃げるための行動は後ろへ走るのではなく、足を前へ踏み出す事なのだから。

 

「……そ。うん、よく分かったわ。つまりシンジは勇気ある臆病者って事ね」

『え?』

「何でもないわ。そっか。一番嫌な事から逃げ続けるために……」

 

 少年の信念を自分へ当てはめれば何になるのだろう。そうアスカは考える。一番見て欲しかった相手は既にこの世にいない。だからある意味意地でエヴァに乗る事にこだわってきた。だけど、それだけでは目の前の相手に勝てないどころか並べない。パイロットとしてではない。人として負けている。そうアスカは心から認める事が出来た。

 

(あたしが目を背けていた事に目を向けてるだけでもシンジの方が強い。あたしは……負けたくないわ)

 

 シンジは自分の弱さを認めた。だからこそ強くなったとアスカは考えた。あの初号機の性能だけで勝ってきた訳ではないとも。なら、自分もまず勇気ある臆病者になるところからだ。そう思ったところで時間が来た。

 

『アスカ、シンジ君、到着したわ。後の指示はミサトに従って頂戴』

 

 リツコの声にアスカは気を取り直す。そういう意味では今日の作戦はいい機会となると、そう考えて。

 

「……アスカ、行くわよ」

 

 

 

 初号機の中でシンジは火口へとゆっくり下ろされていく弐号機を見つめていた。輸送機内での会話は一体どういう意味なのだろうと思いながら、ついぞアスカへその意図を尋ねる事は出来なかったのだ。

 

「アスカ……」

 

 潜水服のような物を着込んだ弐号機がついにマグマの中へと入って行く。初号機はその様子を火口から覗き込む形で見つめていた。無事に戻ってきて欲しい。そう思いながらシンジは祈るような面持ちで火口の中を見つめていた。

 

 一方弐号機はミサト達とやり取りをしながら休眠状態の使徒を捜していた。既に深度は限界値近くまでなっており、本来ならば使徒を視認出来るはずなのだが、そこで見つからないのだ。

 

「何も見えないわよ。本当にいるの?」

『対流が早くて誤差が生じているみたいね』

『どうしますか?』

『アスカ、まだいける?』

 

 ミサトの声が少し心配していると分かり、アスカは安心させるように明るく返した。

 

「勿論よ! さっさと沈めてくれないとその方が困るわ」

『……再計算と再度沈降お願い。アスカ、無理になる前に教えてね』

「了解」

 

 シンジを生存させるための作戦を立てる。そうなってからミサトは本来持っていた母性本能が目覚めていた。使徒を倒す事よりもエヴァパイロットが無事に帰ってきてくれる事。それを心から望むようになっていたのだ。だから、今回も捕獲よりも殲滅を優先したいとの思いがある。だが、一方で捕獲し詳しく分析してシンジ達の生還率向上へつなげたいとの気持ちがない訳でもない。

 

(だからって、これでアスカを危険な目には遭わせたら意味がないのよ)

 

 まるで姉か母と言った気持ちでアスカの無事を祈るミサト。その事を知らず、でもどこかで察しているアスカは注意深くセンサーの反応などへ気を配っていた。いつかの戦闘時、シンジが言った、心配している相手を絶対安心させる事。それを意識して。

 

(さっさと終わらせて温泉を楽しみたいのよ、こっちは。早く見つかんなさいっ!)

 

 使徒への文句を言った時、弐号機に繋がっている循環用のパイプに亀裂が生じる。

 

「深度、1480です。限界深度をオーバーしました」

「アスカ、どうする?」

『心配し過ぎよ。まだいけるわ。むしろ、身動き出来ない時にやれる事やっておかないと後が怖いじゃない』

「……ごめんなさい。もう少し我慢して」

『はいはい。代わりに終わった後はサービスしてもらうから』

「ええ、ちゃんとご希望に応えるわ。サービスサービスってね」

 

 軽い口調で話すアスカにミサトは感謝しながら応じる。きっと彼女は聡い子だから気付いているのだ。現状で自分達がどれだけ焦り、不安を感じ、続行か否かを常時考えている事を。そう思ってミサトは小さくため息を吐く。

 

「情けないわね。大人が子供に気を遣われるようじゃ……」

「限界深度プラス120」

「っ! 弐号機、プログナイフ喪失」

「限界深度プラス200っ!」

「アスカっ!」

『まだよ。お願い、あたしと弐号機を信じて』

 

 聞こえてくるのは真剣な声。それがいつかのシンジとダブり、ミサト達はみな気付かぬ内に小さく苦笑した。

 

「葛城さん、どうします?」

「そうね。ここで止めたらあたし達はシンジ君よりアスカを信じてない事になるもの。続行よ」

「はい。その代わり全力でサポート、ですね」

「もち。期待してるわ」

 

 マコトの言葉に笑みを返し、ミサトは再びモニタへ視線を戻す。そしてその時は来た。

 

「深度1780……目標予測修正地点です」

「アスカ、どう?」

『……いたっ!』

 

 その報告に指揮所が俄かに騒がしくなる。使徒の映像が中継されたからだ。しかも対流の関係で捕獲の機会は一度のみ。それを聞かされたアスカは不敵に笑った。

 

「大丈夫。必ず成功させるわ」

 

 ゆっくりと接近する弐号機と使徒。手にしていた電磁柵も問題なく展開し、遂に使徒の捕獲に成功する。本来ならば歓喜に包まれる結果だが、まだ油断は出来ないとばかりにミサト達は気を引き締める。何せ弐号機達がいるのは灼熱のマグマの中。無事帰還するまで油断の出来る環境ではないのだ。

 

「ここからが問題よ。幸いあの心配はなさそうだけれど」

「セカンドインパクト、か。そうね。それは本当に良かった」

「後は無事引き上げるだけ、ね」

「そうなるか。ま、家に帰るまでが遠足だもの」

「言い得て妙ね。レイ、何かアスカへ伝える事でもある?」

「いえ、今は特にはありません。ただ、気を付けてと」

 

 そのレイの言葉に指揮所の空気が和んだ。あのレイがそんな事を言うなんて。そう思いつつマヤがアスカへその言葉を届けた。

 

「そう、レイがね」

『ええ。でも、本当に気を付けて。こちらでも精一杯サポートしてるけど、そちらへ手出し出来る訳じゃないから』

「分かってるわ。何かあったらすぐ伝える」

 

 マヤとの通信を終え、アスカはふと思う事があった。レイでさえ心配してるなら、あの少年は必ずそうなっているはずと。なので今度は彼へ通信を入れた。

 

「シンジ、生きてる?」

『アスカ? えっと、それはむしろこっちの台詞というか何というか』

 

 あまりの聞き方にシンジがどう返すものかと考えていると、アスカは楽しげに笑みを浮かべてこう告げる。

 

「思ってた以上に楽勝だったわ。あんたもあまり心配すると禿るわよ?」

『そ、そんな事ないと思いたいけど。でも、それでアスカが無事なら構わないかな?』

「っ!? バカ言ってなさい。通信終わりっ!」

 

 慌てて通信を終えるアスカ。見えるはずもないのに顔の赤みを知られたくないと思ったからだ。

 

「嘘でしょ……? あたしってこんな簡単な女なの?」

 

 自分は年上の頼れる男が好みのはず。そう自分へ言い聞かせるアスカだが、それでも顔の赤みは引いて行かない。むしろ、熱を増す一方だ。声しか聞こえなかったが、間違いなくあの時のシンジは照れ笑いを浮かべていた。そう思ってしまったからだ。初対面時の時も今も、アスカの心へそっと触れていくシンジの言葉。その熱と想いが少女を乙女へ変えていく。が、そんな時間に浸っていられたのもそこまでだった。

 

「っ! ミサト、使徒が!」

 

 柵の中にいた蛹のような使徒が変態を始めたのだ。その瞬間、シンジが叫ぶ。

 

『アスカっ! もう無理だ! 初号機が変化したんだよ!』

「何ですってっ!?」

 

 聞こえてきた言葉は何よりもアスカが信頼出来る声だった。アスカはミサトの指示を待つ事なく捕獲を諦めて柵を離す。すると丁度ミサトからそうするように指示が出た。

 

『アスカ、捕獲は中止よ!』

「シンジから聞いたわ。変化したって」

『ええ、こちらでも確認した。戦闘準備しつつ撤収よ。出来る?』

「やってやるわ。ただ武器が……」

 

 その時、アスカは見た。使徒が弐号機へ襲い掛かってくるのを。それを辛うじて回避しながら、彼女は生き残るために考える。武器のない弐号機ではどうやっても勝ち目がない。だからと言ってこのマグマの中からすぐに出て行けるわけでもない。万事休すか。そう思った時、ふと思い出す事があった。

 

「そうだっ! シンジ、聞こえる? あのマステマって奴、貸して!」

『っ! そうか!』

 

 シンジも気付いたのだ。あれならば自由な動きが出来なくても戦えると。ガトリングの威力はあの分裂した第七使徒さえ回避に専念したのだ。ならば、今回の使徒にも通用する。初号機はマステマを手にしてそれをマグマへ投げ入れようとするも、何故かその動きが止まる。

 

「どうして? ……もしかして」

『シンジ? ちょっとまだなの!?』

「アスカ、待ってて。すぐ渡すからっ!」

 

 その発言と同時に初号機は勢い良くマグマの中へ跳び込んだ。だが、その体はマグマをかき分けるように沈んでいく。ATフィールドを最大で展開し、体から跳び込んだのである。その勢いは凄まじく、まるで噴火かと見間違うようにマグマを噴き上がらせ、一気に弐号機がいる場所まで到達。突然の登場に驚くアスカと使徒を余所に、初号機は手にしたマステマを譲渡すると戻ってくるマグマを再度押しのけるように戻って行った。

 

「……常識外れ過ぎでしょ、あの初号機」

 

 呆れつつも嬉しそうに笑い、アスカは手にしたマステマを使徒へ向けた。その時、たしかにアスカは感じた。使徒が怯えるのを。

 

「これでも喰らえぇぇぇぇっ!」

 

 発射されたガトリングの攻撃を使徒は必死に回避し続けるも、アスカもそんな事は分かっているとばかりに、攻撃を点ではなく面制圧として行い、哀れにも使徒はその体へマステマによる銃撃を受け散った。こうして無事マグマから脱出したアスカが真っ先に見たのは、自分へ手を差し伸ばす初号機の姿だった……。

 

 

 

「はぁ……良いお湯だな。でも、まさか加持さんがペンペンを送ってくるなんて」

 

 作戦終了後、シンジ達はミサトが前もって予約していた温泉旅館へやってきていた。残念ながらリツコ達はやる事があるので、残ったのは監督役としてのミサトだけで後は彼とレイにアスカだけである。しかも、他の客はおらず貸切にされていた。これもネルフとしての活動とミサトが言い張り、パイロット達への福利厚生の一環と押し通した結果である。

 

「シンちゃ~ん、そっちのお湯加減はどう?」

「あっ、はい! ちょっと熱めでイイ感じですっ!」

 

 隣の女湯から聞こえる声にシンジは声を張って返す。そんなやり取りもシンジにとっては妙にくすぐったく、また嬉し恥ずかしな体験。だが、そんな気分を吹き飛ばす言葉がミサトから返ってきた。

 

「そ。ま、余程じゃない限りあたしは注意しないから。後はそっちで楽しくやってねん」

「へ?」

 

 どういう意味だと、そう尋ねる前にシンジの後方で音がした。それは浴場への戸を開ける音。だが、ミサトは隣にいるし他の客はいない。どういう事だと、そう思いながら振り返った先には……。

 

「ええっ!?」

「何よ? 何か変?」

「この水着、ダメなの碇君」

 

 アスカは真紅のビキニタイプで、レイは白の同じくビキニタイプの水着を着ていた。それが二人が選んだ修学旅行用の水着である。シンジは直視しないようにしながらも、それでも二人の胸へ視線を向けてしまっていた。

 

「な、何で二人がここに?」

「何でって、決まってるじゃない。プールが無理なら温泉で着るしかないでしょ? で、水着を着れば混浴も平気だってミサトが言ったら、レイがあんたと一緒がいいってね」

「だって、三人で遊ぶ約束だったから。それに私もアスカもそのつもりで荷物を持ってきていた」

「それならそうって言ってよ。僕だって水着を……」

「いいじゃない。こっちと違ってあんたは見られても平気なんだから」

 

 シンジをからかうように見るアスカ。その覗き込むような体勢が余計そのスタイルをシンジへ印象付ける。思わず唾を飲むシンジだったが、だからこそもう一人の動きに気付けなかった。

 

「碇君、どうしたの? さっきから体勢が不自然だわ」

「っ?! あ、綾波、近いから……」

「レイ、シンジの体勢が変なのは当然よ。だって……ねぇ」

「っ! べ、別に自然だろ! アスカも綾波も可愛いんだからっ!」

 

 その自棄になったシンジの放った言葉で二人の美少女が赤面した。とはいえ、アスカははっきりと、レイはほのかにという差はあったが。惜しむらくは、それをシンジ自身が見る事はなかった事だろうか。彼はその発言と同時に二人へ背を向けてしまったのだから。それは、複雑な男心の反応である。見たいけど嫌われたくない。その結果がそれだった。

 

「ったく、バカシンジ……」

「アスカ、顔笑ってる」

「うるさい。そういうあんただって顔緩んでるわよ」

「……同じね」

「…………かもね」

 

 そう言い合う二人は微かな笑みを見せ合う。そして、この後主にアスカがシンジをオモチャにし、レイはそれに乗せられるまま付き合う事になる。その三人のはしゃぐ声と音にミサトは苦笑しつつ温泉を堪能する。そこへペンペンが現れ、またミサトを苦笑させた。

 

―――ホント、仲良くなっちゃって。

―――クェ。

 

 碇シンジは精神レベルが上がった。底力のLVが上がった。気力限界突破を習得した。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第十話「マグマダイバー」完




パチンコでもマステマが二号機リーチのチャンスアップでした。なのでマステマでの撃破。マグマダイバーは二体いたってとこですね。マグマダイバーズにしようかと悩んだのはナイショ。

気力限界突破……本来は150が限度の気力を170まで上げる事が出来る。エースアタッカー辺りが持っていると、撃破によって上がる気力上限が高いので従来の攻撃力がより恐ろしい事に。
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