エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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本来であればここがエヴァ三機による本格的戦闘回。ですが、既にそれはイスラフェルでやっている今作。なので、ここはこうなります。


第十二話 奇跡の価値は

 モノクロの記憶。セピア色の世界。ミサトはそんな中で忘れる事の出来ない背中を見る。

 

―――お父さん?

 

 十五年前の記憶。セカンドインパクト。南極。様々な単語と情報がミサトの中で浮かんで消えそして……。

 

「…………夢、か」

 

 悪夢ではないが良い夢でもない。もう二度と会う事の出来ない肉親との、最期の別れ。それを悪夢などと思いたくないのだ。そう考えてミサトは大きくため息を吐いた。

 

「シンジ君には、こんな経験をさせたくないわね」

 

 そこでミサトは何かの音に気付いて視線を窓へ向ける。外は雨が降っていた。その音を聞きながらミサトはふと何かに気付いて手を動かす。

 

「涙、か……」

 

 それが自分の父への想いの証な気がして、ミサトは小さく苦笑する。出来る事なら生きている内に見せてあげたかったと、そう思って……。

 

 

 

 降りしきる雨の中、シンジはケンスケとトウジを連れ家へと入った。突然の雨で濡れてしまった友人二人を雨宿りさせるためである。実は、二人をミサトの部屋へ連れて来るのは今回が初めてだった。

 

「へぇ、親父さんの仕事の影響で居候かぁ」

「親父さんと一緒に暮らせんのか?」

「その、忙しいから僕がいても面倒を見るのが難しいらしくて。だからそこの部下の人が面倒みてくれてるんだ」

 

 二人へ頭を拭くためのタオルを渡し、シンジは簡単に自身の現状を説明していた。ネルフの事は機密扱いのため、父親の仕事の都合で引っ越したものの、その仕事が忙しく家に帰る事も出来ないために、それを見かねた職場の部下の一人が保護者役を買って出てくれたと、事実を基にした言い訳を話したところだった。

 

「苦労してんだな、碇も」

「せやなぁ。それでいて毎日綾波の分まで弁当作るんやから」

「あー、でもそれも近い内に終わると思うよ?」

「「は?」」

 

 人情話に弱いトウジは少しだけ噛み締めるように告げた内容。それにシンジがどこか照れくさそうに返した言葉が、ケンスケとトウジに疑問符を浮かばせた。実はシンジやヒカリの努力もあり、レイとアスカの家事能力は向上の一途を辿っていた。そして、遂にレイが簡単なお弁当を作り上げたのだ。アスカも似た事が出来るようになってきた事もあり、シンジは少女達にある事を言われていた。

 

―――もうお弁当はいい?

―――ええ、自分の分は作れるようになったから。

―――ま、ここでシンジに甘え続けたら意味ないんだって。

 

 それが今日の出来事。だが、シンジはそれを聞いて感心する二人へ言えない内容を思い出していた。

 

―――それで、良かったら今後は私が碇君の分も作りたい。

―――え?

―――そうそう。で、あたしも作ってあげるわ。

―――は?

―――つまり、私達三人でローテーション。

―――まずレイが、次にあたし、最後にシンジ。これで三人分作って批評してもらうのよ。

―――お弁当、一人分だと作り辛いから。

 

 そう、実はシンジがレイの分の弁当を作るだけの日々は終わりを告げる。代わりに美少女二人の手作り弁当を食べさせてもらえる上、今後は屋上やその扉前での昼食にアスカまで加わる事になったのだ。こんな話をすれば確実に吊るし上げを喰らうと分かっているシンジは、肝心な部分を胸に秘めておく事にしたのだ。

 

(嘘は、言ってないよね?)

 

 毎日レイの分の弁当を作るのはもう終わり。それは事実なのだ。ただしが付くだけで。シンジも年頃。しかも相手は超を付けていい美少女二人。そんな彼女達と共に昼を過ごせるなど、邪魔されたくないし冷やかされたくないのだ。こうして頭を拭いて服も多少乾かした二人は傘を借りて帰路に着いた。それを見送ってシンジがドアを閉めるのを合図にしたかのように、別の場所のドアが開く。振り向けばそこに制服姿のミサトがいた。

 

「ミサトさん……」

「おかえりシンちゃん。誰か来てたみたいだけど?」

「えっと、学校の友達です。雨宿りさせてたんで」

「そう。分かってると思うけど……」

「はい、ネルフの事もエヴァの事も話してないです」

「よろしい。……ごめんね、シンちゃん。隠し事させちゃって」

 

 申し訳なさそうなミサトにシンジは少しだけ明るい声を返した。

 

「いいんです。こういう事は、知らないままで終わるならそれが一番いいって、そう加持さんが言ってましたし」

「……あいつが、ね」

 

 その、らしい言い方を思い出してミサトは微かに好ましく感じて笑みを浮かべる。その顔にシンジは少しだけ首を傾げた。加持の名を出してミサトがそんな好意的な反応を見せるのは、彼の前ではこれが初めてだったのだから。

 

「それよりもミサトさん、今から出勤ですか?」

「ん。あっ、そうそう。今夜はハーモニクスのテストあるの覚えてるわね? 遅れないで来て頂戴」

「はい、アスカや綾波と一緒に行きます」

「よろしくね。っと、そうだった。シンちゃん、これ見て?」

 

 そう言ってミサトが見せたのは階級章。これまでの事が評価され、この度ミサトは一尉から三佐へ昇進したのだ。生憎シンジは階級章の判別など出来ないが、それが何を意味するかは知っていたので良い事があったのだろうと予測。なので反応としてはこうなった。

 

「おめでとうございます。えっと、昇進したんですよね?」

「そうなのよ。これもシンちゃん達のおかげだから。私こそありがとうだわ」

「そんな……ミサトさん達がいないと僕らは戦う事さえ出来ないんですから」

「ふふ、じゃああたし達はシンジ君達がいないと生き残る事が出来ないの。ま、近い内に昇進祝いでパーッとやりましょ? レイやアスカ、リツコなんかも誘ってね」

「はいっ!」

 

 そう笑顔で話すミサトにシンジも笑顔を返す。その様は、出会った当初よりも自然な感じで姉弟のように見えた。シンジに見送られ、ミサトは部屋を出る。雨の降る音を聞きながら歩き、ふと彼女は足を止めた。

 

「……あいつも呼んでやるか」

 

 脳裏に浮かぶは煙草を吹かす気障な男。だけど、それに対してミサトは以前程の悪感情を抱いてはいなかった。あの日、リツコが咳払いをするまで見つめ合った夜以来、ミサトの中で加持への気持ちは嫌いから反転しつつあったのだ。誰かが言った。好きの反対は嫌いではなく無関心。では、嫌いの反対は? ここが人間の心の不思議なのだ。

 

 そうして迎えた夜。シンジ達三人はリツコ達の見守る中、ハーモニクステストを行っていた。そこでリツコ達は軽い驚きを見せていた。

 

「凄い……こんな事って」

「有り得ない、程ではないけれど珍しいのは事実かしら」

「ファースト、セカンド、サード、共に数値安定。こんな事もあるんですね」

 

 何とハーモニクス数値が同じなのだ。これまで訓練していたアスカやレイはともかく、シンジもそれと肩を並べる。それが意味する事をリツコは悲しそうな表情で呟いた。

 

「こんな才能、あの子達はいらないでしょうに」

「先輩……」

「使徒との戦いが終れば何の意味もないものよ? それを今、私達は褒めて伸ばそうとしないといけない。嫌になるわね」

「……はい」

 

 リツコの噛み締めるような言葉とその裏に秘めた思い。それにマヤだけでなく他の職員達も黙った。エヴァの才能。それは非常時しか意味を成さないもの。そんなものを必要とする世の中は間違っている。そうリツコは感じていたのだ。非常の才は目覚める事がない方が幸せだ。そんな声がどこから聞こえてきそうな程、リツコが心を痛めている事が伝わるのだろう。マヤはリツコに代わり三人へテスト終了を告げた。

 

「三人共、お疲れ様。これでテストは終了だから」

『あ~、やっと帰れるわね』

『今日は簡単に和風お月見パスタでいい?』

『いいわね。シンジはどうする? 何だったら食べてってもいいけど?』

『えっと……あっ、そうだ。リツコさん達は知ってるんですよね? ミサトさんの昇進』

「ええ、知ってるけど?」

「三佐になられたんですよね。これまでの事を考えると少し遅いぐらいですけど……」

 

 シンジの言葉でリツコとマヤは顔を見合わせて話し出す。辞令自体はとうに発表されていたからだ。と、そんなマヤの言葉にリツコが丁度いいかと思って笑みを浮かべた。

 

「昇進話自体はヤシマ作戦直後から上がっていたの。でも、ミサトが今まで固辞してきたのよ」

『『『「固辞?」』』』

「そう。これまでの手柄は自分の力じゃない。全てシンジ君達とマヤ達スタッフのおかげだとね」

 

 そのどこか微笑ましく思う声にシンジ達も気付いた。きっとそれはミサトだけでなくリツコも思っているのだろうと。だからシンジも笑みを浮かべて頷き告げる。

 

「今日ミサトさんと話をした時、そんなような事を言われました。僕らはミサトさん達がいないと戦えない。そう言ったらミサトさんは僕らがいないと生き残ってないって」

『そう。ミサトが、ね』

「それで、近い内に昇進祝いでみんなでパーッとやりたいって言ってました」

『それで思い出したのね。ミサトの昇進祝いをやれるなら今夜やろうかって?』

「うん」

 

 こうして話がまとまり、ミサトの家で焼き肉などをする事になった。買い出しをレイとリツコが担当し、調理をアスカとマヤがやる事に。シゲルやマコトは残念ながら既に帰宅していたため誘えずじまい。そしてシンジは同居人なので後片付けを担当する事で話は決まった。今、彼はそれをミサトへ伝えているところだった。

 

「まっさか話をした当日とはねぇ」

「迷惑、でした?」

「ううん、そうじゃないの。そうじゃないんだけどね……」

 

 ミサトの脳裏に加持の顔が浮かぶ。結局昇進祝いの事を話す事が出来ず、誘えていなかったのだ。まるで大学時代の自分へ戻ったような気がして、ミサトは恥ずかしそうに頬を掻いた。その動きの意味が分からずシンジは小首を傾げる。この後、ミサトはシンジを連れて家へ向かう。と、部屋に入った瞬間真っ赤な薔薇の花束が差し出された。

 

「……何であんたがここにいるのよ?」

 

 それを差し出した男性―――加持へミサトは微かに頬を赤めながら悪態を吐く。が、もう慣れたもの。加持は平然とその花束をミサトへ握らせあっさり種明かし。

 

「アスカが教えてくれたのさ。で、俺としても今日の葛城の変調の理由が理解出来たって訳」

「そ。シンちゃん、先に上がって」

「あ、はい」

 

 ミサトと加持を置いてリビングへと向かうシンジ。その背を見送り、ミサトは花束を見つめた。

 

「まぁ、花に罪はないからもらってあげるわ」

「そりゃどうも」

 

 そのまま靴を脱いで加持の横を通り過ぎようとした瞬間、ミサトの体が抱き寄せられる。

 

「ちょ……」

「それは俺の気持ちさ。偽りなしの、な」

「…………相変わらずキザね」

「嫌いか?」

「嫌いだったわ。ちょっち前までは、ね」

 

 その返しと表情に加持が軽く驚きを見せる。その隙を逃さずミサトは彼の手から逃れリビングへと歩き出した。その残り香に加持は何とも言えない風に頭を掻いた。

 

(手強いなぁ。昔は俺の方が完全に翻弄出来たんだが……)

 

 そう思いつつ、その顔は嬉しそうに笑っていた。そうして程なくしてリビングからは賑やかな声と音が聞こえ始める。ホットプレートには所せましと肉や野菜が置かれ、食欲をそそる匂いを放っている。更にお好み焼きの素まで用意されていた。それはレイが自分用も兼ねて買ったもの。チーズトロロ焼きが彼女の好みなのだ。

 

「さ、みんな気にせずじゃんじゃん食べてね」

「と言っても、お金を払ったのはリツコだけどね」

「いいのよ。後できっちり請求しておくわ」

「あの、このビール代も?」

「そっちは俺からの祝いだ。気にしないでくれ」

「な、何か私がいてもいいんでしょうか?」

「マヤさんは気にする必要ないですよ。本当ならもっと誘うはずだったんですし」

「碇君、それ焼けてる」

 

 大人四人と子供三人の大所帯。当然肉や野菜なども足りるはずもなく、すぐさまお好み焼きや焼きそばなどが始まる。ソースの焦げる匂いにビールを飲み干す大人達。子供三人は純粋にその香りで食欲を刺激されていく。あれよあれよと減っていく食べ物とアルコール。そして、そうなってくれば当然待っているのは……。

 

「あたしはね、こんなもんいらないのよ! ただ、シンちゃん達が無事で帰ってきてくれれば……」

「ですよね! 分かります! 私もいつも願ってるんです。シンジ君達が無事に帰ってきてくれますようにって」

「おい、葛城。そろそろ飲み過ぎだ」

「マヤもよ。まさかここまで酔うなんて……」

 

 赤ら顔で語り合うミサトとマヤ。今や発令所で一、二を争う母性の女性は酔いも手伝い本音をぶちまけていた。加持とリツコは二人程酔っていないが、それでも少し顔が赤い。そんな四人を眺めてシンジ達は残ったお好み焼きを食べていた。

 

「大人ってやぁね。酔っぱらうと手が付けられない」

「でも楽しそうだわ」

「うん。いつか僕らもああやってお酒を飲めるかな?」

 

 その何気ない一言にアスカとレイがシンジを見た。

 

「何? シンジはお酒飲みたいの?」

「え? う、うん。出来ればだけど」

「そう。じゃあ、約束」

「約束?」

「いいわね。二十歳になったらこの三人でお酒を飲みましょ。再会を祝うのか、あるいは単純に成人を祝うのか。はたまた別の何かがあるのか知らないけど」

「……うん、そうだね。約束しよう」

 

 そうしてシンジが言うと、レイとアスカが揃って小指を差し出した。その理由を悟り、シンジは少しだけ驚きながらも、照れくさそうに二つの小指へ両手を差し出し自分の小指を絡める。

 

「「「指切りげんまん。嘘吐いたら針千本の~ます。指切った」」」

 

 誰かがその様子を見ていればこう言っただろう。酒でも飲んだのかいと。それぐらい三人の顔は赤みを帯びていた。濃淡の差こそあれ、三人はそれぞれに顔を赤くしていた。きっと漂うアルコールの匂いにやられたのだろう。そう思う事でシンジもアスカもレイも納得していた。だけれど、三人は小指を離した後互いに背を向け合い自分達の胸へ手を当てた。

 

(((心臓がドキドキしてる……)))

 

 チラリとシンジへ視線を向けるアスカとレイ。そのシンジは自分の両手にある二本の小指を見つめていた。その様子をニヤニヤと眺めている者達がいる。先程とは打って変わって大人達が子供達を眺めていたのだ。

 

「あらあら、青春してるわね」

「シンちゃん、肝心なとこで鈍いんだからぁ。その気になればアスカかレイをものに出来るってのに……」

「いや、そんな子じゃないからこそあの二人も惹かれるんだろうさ。シンジ君には強引な時はあっても無理矢理はない。強引なのと無理矢理は似て非なるもんだ」

「あー、分かります。漫画とかでも、逃げ場を無くしてキスするのより抱き寄せてからキスする方がキュンキュンします」

 

 そのマヤの言葉に三人が揃って視線を彼女へ向けた。マヤはどこかうっとりした顔でシンジ達を見つめていた。それはさながら少女漫画の世界へどっぷり浸るような雰囲気。邪魔するのも野暮か。そう判断して三人は視線を互いへ向けた。

 

「彼女、今いくつだ?」

「加持君、女性に年齢の話はタブーよ?」

「ま、気持ちは分かるけどね。未だに少女趣味が抜け切らないのか……」

 

 ひそひそと話しながらチラリとマヤを見やる三人。それはまさにかつての大学時代さながらだった。そうして楽しい時間は終わりを迎える。赤ら顔でリツコとマヤを送ると言い残し加持は去り、念のためアスカとレイは空き部屋を臨時の客間として使う事で残り、ミサトは上機嫌で風呂へと向かった。今、シンジはアスカとレイの三人で後片付けの真っ最中だった。それは彼らにあの共同生活を思い出させるには十分な状況と言える。

 

「そういえば、今日発令所行った時司令も副司令もいなかったわね」

「うん、父さん達は南極へ行ってるんだ」

「南極?」

「どうして碇君がそれを?」

 

 二人の不思議そうな表情にシンジは少しだけ照れくさそうに携帯を取り出した。そしてメール画面を開いて一通のメールを展開して見せた。

 

―――南極へ行く。しばらく返信は出来ない。

 

 見る人が見れば素っ気無いと呆れるだろうが、シンジにとっては大事なメール。既に保護をかけ間違っても削除しないようになっているのがその証拠。アスカとレイはその文面を見て少しだけ苦笑した。

 

「へぇ、連絡取り合うようになったんだ」

「うん。といっても、僕が一方的に送るだけに近いけど」

「返事はないの?」

「たまにあるかな。ま、あっても今のみたいに短文かほとんど一言だけどね」

 

 そう言ってシンジは携帯をしまう。その雰囲気は二人が初めて見る程嬉しそうなもの。だからアスカは呆れつつもどこか理解するように、レイは微笑ましく、それぞれ笑みを浮かべて彼を見つめるのだった。

 

 その後シンジ達が眠りに就き、朝日を迎えようとしている頃、メールを送ったゲンドウ達は極寒の地に佇んでいた。

 

「あの日以来、全ての生物を拒む死の世界。地獄と表現しても差し支えない場所。それがこの南極か」

「だが、それでも我々は立っている。こうして生きたままな」

「科学と言う名の盾があるからな」

「剣にもなる」

「だから、その使い方を誤ってあの悲劇は起きた」

 

 その冬月の言葉にゲンドウは返す言葉を発さない。噛み締めているのか、それとも取り合うつもりがないのか。どちらにせよ冬月にとってはあまり愉快な反応ではない。

 

「結果を見ろ。与えられた罰として、これが適切か? 冗談ではない」

「……原罪の汚れ無き浄化された世界ではある」

「人が住めない事が、生命を拒絶する事が浄化だと? ならばこの星そのものの在り方を否定するぞ」

 

 厳しくもはっきりとした言葉がゲンドウへ響く。と、その時聞こえてくる叫びがあった。

 

―――ネルフ本部より入電! インド洋上空、衛星軌道上に使徒発見っ!

 

 

 

 眠い目を擦りながらマコト達は慌ただしく現れたミサト達へ報告を始める。

 

「つい先程突然現れました。じきにモニタへ出します」

「第6サーチ、衛星軌道上へ。接触まで後二分」

「目標を映像で捕捉っ!」

 

 そこに映し出されたのは、巨大な目のようなものから三本指の手が生えているような使徒の姿。その使徒はまるで自身の分身を爆雷のように落下させ、太平洋へと衝突させる。その威力は凄まじく、一瞬ではあるが海が抉れた様がはっきり見えた程だ。

 

「……っ!? 衛星を離脱させて!」

「え?」

「急いでっ!」

 

 ミサトの切羽詰まった声でオペレーター達が忙しく動き出す。迫り来る使徒から逃げるようにサーチ衛星は離れた。その様子を見てリツコも気付いた。

 

「警戒?」

「こっちの目を減らす訳にはいかないわ。それに、ATフィールドが単なる防御だけのものじゃないのはこれまで初号機が見せてくれたもの」

「そういえば風除けに使っていたわね」

「それだけではありません。前回は溶解液を受け流す役割も果たしていたそうです」

 

 シゲルの言葉にミサトは無言で頷いた。つまり、ATフィールドは質量を持っている。それを展開したまま迫ればどうなるか。それを考えればミサトの判断は正しかった。

 

「……また厄介な相手に変わりはないという事ね。それで、初弾は太平洋へ、二時間後の第二射はそこ。見ての通り誤差を修正しているわ」

「学習してる、ってとこか」

「第五使徒が初号機の排除を狙ったように、使徒もただ現れているだけじゃないって事よ。今回は宇宙空間からの攻撃だもの」

「……それで、使徒の現在位置は?」

「不明です」

 

 その簡潔な答えにミサトとリツコだけでなく、その場の全員が察していた。

 

「本命はここ、か」

「次は本体ごと来るわね」

「司令へは連絡が付きません。おそらく使徒によるジャミングかと」

「MAGIは何て言っているの?」

「全会一致で撤退を推奨しています」

 

 やや顔色が悪いマヤがリツコへ視線を向ける。それにリツコは頷いてミサトへ視線を向けた。司令と副司令へ連絡が取れない以上、現状での最高責任者はミサトとなる。つまり、彼女の判断がネルフの判断となるのだ。

 

「どうするの? 現状での最高責任者はあなたよ」

「まず民間人の避難をさせて。それとシンジ君達を集めてくれる? そこでみんなの意見を聞くわ。その上で私が判断します」

「撤退しないの?」

「どこに逃げるのよ。安全な場所なんてどこにもないわ。使徒がサードインパクトを起こそうとしている限りね。ここが文字通り最後の砦よ」

 

 暗に撤退をしないと告げたミサトに周囲はどこか諦め顔。だけどもそれは負の方向ではない。分かっているのだ。ミサトが言っている言葉の意味を。彼女はどう戦うかの意見と逃げたい者を逃がすための判断をしたいのだ。無理矢理戦わせるつもりはない。だからこそパイロットの三人も集めるのだ。

 

「司令の真似?」

「ま、意識しなかったと言ったら嘘になるわ」

 

 あの第五使徒との初戦。どうするかを迷うミサトに対し、ゲンドウが見せた判断。そして告げたのは、現場で命を賭ける者の覚悟を尊重する事。ならば、今回もそれをするべきだとミサトは思ったのだ。

 

「きっと戦うと言うわ」

「だけど、それを勝手に決めつけて動くのは違うでしょ? 強引と無理矢理は似て非なるものよ」

 

 その言い方にリツコは微かに苦笑した。分かったのだ。今のが昨夜の加持の言葉だと。

 

「でも、時には無理矢理じゃないといけない時もあるかもしれないわよ?」

「その時は泣きながら頭下げるわ。ううん、まずないようにするのがあたし達の仕事か」

「……分の悪い賭けよ?」

「あら? ゼロじゃないってのは凄い事なんでしょ? なら、やってみる価値あるわ。本音を言えば、あの子達だけでも逃がしてあげたいけど、ね」

「そう、ね。本当に、碌な死に方しないわね私達。大の大人が揃いも揃って」

「ホントよ。でも、万が一の時はあの子達が私達の死を悲しまずに済む。それだけが不幸中の幸いかしら」

「本当に嫌な幸いだこと」

 

 苦笑いしながら互いを見るミサトとリツコ。信じているのだ。どこかでまたシンジ達がやってのけてくれると。子供達を当てにするしかないからこそ、そこに全幅の信頼を。大人達はみな子供達に希望と願いを込めるのだ。今よりも明日を少しでも良くしてくれと。それが人の歩みであり、流れを作り、歴史となる。だが、どこかで大人達は忘れてしまうのだ。かつて、自分達もそうやって希望と願いを込められていた事を。

 

 緊急招集をかけられシンジ達が本部へ顔を出した頃には、既にネルフスタッフは迎撃へ動き出していた。政府各省庁への通達、松代へのMAGIのバックアップ要請、先に出していた避難誘導により市民の安全は既に確保されていた。だが、スタッフは分かっていた。この使徒の襲撃を阻止しなければ避難した者達も明日がないと。そんな慌ただしくなっている空気を感じながら、シンジ達はブリーフィングルームへと足を運んだ。そしてそこで告げられた作戦内容に彼らは耳を疑った。

 

「手で……」

「使徒を……」

「受け止める、ですか?」

 

 まるで台詞割りでもしたかのような三人にミサトは小さく笑みを見せる。

 

「ええ。先に言っておくわね。今回の作戦は成功率はゼロに近い。MAGIは全会一致で撤退を推奨。それにこの作戦は作戦というより方法でしかない。まず第一に、予測地点に使徒がこなければ失敗。次に、使徒を支え切れなければ失敗。これが今回の内容よ。どう? これでもやってくれる?」

 

 包み隠さずミサトは言った。遠回しに失敗するのが当然とまで言ったのだ。ここには、ミサトなりの気持ちがある。シンジ達がこれでもやると言ってくれれば他のスタッフ達の士気が上がると。逆に少しでも迷いを見せれば覚悟不十分としてエヴァと共に撤退させようと考えていたのだ。

 

(ずるいわね。結局こうやってこの子達の優しさにつけ込もうとするんだから……)

 

 けれど、どこかでミサトも分かっていたのだ。今のシンジならこう言えばどう返すのかを。

 

「やります。例え逃げたとしても、結局いつか戦わないといけないから。それにここは、この街は僕にとって大切な思い出の街です。それは、ケンスケやトウジ、みんなにとっても同じだから」

「学校もエヴァもネルフも絆。なら、私はそれを守りたい」

「ま、揃いも揃ってバカばっかって事よ」

「シンジ君……レイ……アスカ……」

 

 笑みをミサトへ向ける三人に、彼女は思わず涙腺が緩むのを感じて慌てて目を閉じる。泣くのは全てが終わった後だ。そう自分へ言い聞かせ、ミサトは凛々しい表情で三人へ告げた。

 

「ありがとう。申し訳ないけど、貴方達へ私達全ての運命を託します。奇跡を、起こして」

 

 その最後の結びにシンジ達は力強く頷いた。こうして少年達はエヴァへ乗り込む。と、その瞬間すぐに初号機が変化した。

 

「これは……ミサトさんっ!」

『こちらでも確認したわ。シンジ君、その初号機なら』

「はいっ! どこからでも間に合わせてみせますっ!」

『よし、作戦を一部変更っ! 弐号機と零号機は打ち合わせ通り各持ち場へ! 初号機はスタート位置で待機し使徒が落下する場所が分かり次第そこへ急行っ!』

「了解っ!」

 

 そのシンジの力強い返事を聞いてリツコが微笑む。

 

「もしかしたら、とっくに私達は奇跡を引き寄せているのかもしれないわね」

「シンジ君?」

「ええ。逃げてばかりいた子が逃げないと決めた時、世界を変える奇跡が起きたのかもしれない」

「起きた? 違うわよリツコ。シンジ君は起こしたの。目の前の嫌な事から逃げないという、自分で自分の中の奇跡を、ね」

「奇跡の中身は人それぞれ……そういう事ね」

 

 その言葉にミサトが頷く。発令所が次第にピリピリとした緊張感に包まれる中、シンジ達はエヴァの中で待機していた。ただし、ヤシマ作戦時同様ギリギリまで通信は許されている。なので三人はそれで会話に興じていた。それで少しでもリラックスしようと考えていたのだ。

 

『これが終ったら、またミサトのお金で美味しい物食べさせてもらうとしますか』

「お寿司とか?」

『私、食べられないわ』

『大丈夫よ。魚だけじゃないはず。ね、シンジ』

「うん。タマゴや納豆、漬物なんかもあるはず」

『……美味しいの?』

「好きな人は多いかな。最近なんかハンバーグとか焼肉なんてのもメニューに加えてるみたい」

『へぇ、何か意外ね。そういうのはお寿司にしないと思ってたわ』

 

 実はこの会話、些細なすれ違いが発生している。アスカはカウンターのみのような高級店をイメージしているが、シンジは回転ずしをイメージしている。そのため、アスカはシンジの言葉を聞きながら高級店にもそういうものはあるんだと内心驚いていた。

 

「お客さんのニーズに応えていかないといけないからじゃない? お寿司って名前だけに囚われてたら今はもうダメなんだよ」

 

 そのシンジの返しにアスカは思わず息を呑んだ。名前だけに囚われてはダメ。それがまるでかつての自分への言葉に聞こえたのだ。そして、ニーズに応えるという表現も。周囲が望む声に耳を傾ける余裕もいる。それはまさにアスカから見たシンジに近いものがあった。

 

「? アスカ?」

『そっか。本当にあんたって抜けてるんだか抜けてないんだか……』

「えっと?」

 

 聞こえてきたアスカの独り言に首を傾げるシンジだが、そこでふと思い出す事があった。それはいつぞや聞きそびれた事。もしかしたらこれが最後かもしれない。その気持ちでシンジはアスカへ問いかけた。

 

「あの、アスカ」

『何よ?』

「一つ教えて欲しいんだ。アスカはどうしてエヴァに乗るのか」

『私も知りたいわ。以前は教えてくれなかったもの』

『レイも? 仕方ないわね……』

 

 聞こえてくる声はどこか嬉しそうだ。そう思ってシンジはきっとアスカらしい答えが来るのだろうと予想した。それはある意味で間違っていない。アスカは自信満々にこう言い切ったのだ。

 

『自分自身の才能を世に知らしめるためよ!』

「な、何というか……」

『アスカらしい……』

『まあね』

 

 そこでマヤから間もなく通信終了時間になる事を告げられた。なので最後に一言ずつ言い合う事に。

 

『碇君、アスカ、また会いましょう』

「うん」

『ええ』

「じゃ、アスカも」

『ちょっと待ちなさい』

「え?」

 

 レイが通信を完全に切ったのを見てアスカはシンジを呼び止める。一体何だと思うシンジへ、アスカは小さく深呼吸してこう告げた。

 

―――さっきのは昔の理由。今は、シンジと一緒よ。そうなれたらって、思ってるわ

―――え……?

―――誰にも言うんじゃないわよ? 通信終わりっ!

 

 まるで照れ隠しのような最後の一言。それがシンジにあの火山でのやり取りを彷彿とさせた。

 

(まさか……あの時もアスカは照れてた?)

 

 尋ねようにももう私用通信は出来ない。それに、これは相手へ尋ねていいものではないとシンジも分かっている。だからこそ、余計悶々としてしまうのだが、そこでシンジはこう考えた。

 

(これを確かめるためにも、絶対生きて帰るんだ)

 

 そう思って目を閉じる。浮かび上がる沢山の人達の顔と声。それらは全てこの街へ来てからのもの。全ての出会いと思い出、そしてかけがえのない全てを守るためにシンジは呟く。

 

―――勝つんだ。

 

 それはあの第五使徒との再戦時と同じ言葉。だが、その声に込められた重みはあの時よりも増している。その理由は一つ。アスカという少女との出会い。レイが初めて得た何でも話せる同性の友人にして、シンジを引っ張ってくれる行動的な存在。今の彼と彼女をより強く結びつけてくれる大事な人。そして、それだけではない感情がシンジの中にはあった。

 

(僕は……アスカの事も好きなんだ。綾波と同じぐらい)

 

 アスカとの事を思い出せば、必然的にレイの事も思い出す。どちらも自分へ周囲とは違う扱いをしてくれている。それがどういう感情からくるのか。それをここでシンジはぼんやりと認識し出した。それは死が迫る事から来る本能の為せる業なのかもしれない。子を残したいという欲求が形を変えて彼へ囁いていたのだ。あの二人を失いたくない。そこにはまだ青い性の衝動も絡んでいる。

 

『シンジ君、聞こえる?』

「っ。はい、聞こえます」

 

 思考の渦へ没入していきそうだったシンジを引き戻すようにミサトの声が聞こえた。それに返事をし、シンジは作戦についてかと少しだけ身構えた。が、そんな話ではないとすぐに理解した。

 

『シンジ君、よく聞いて。本部内からの避難希望者はゼロだったわ』

「……そうですか」

『ええ。みんな、貴方達に賭けているの。ううん、信じてるのよ。今までも成功率の低い戦いを成し遂げてきたシンジ君達を』

「ミサトさん……」

『もしかしたら、これは今の貴方には重荷かもしれない。だけど、あたしはそれを一時的でも背負えると信じてるから。もう一度頼むわ。奇跡を起こして。他の誰でもない。貴方自身のためにも』

「……はいっ!」

 

 そこで通信は終わった。何となくだが、最後はミサトが微笑んでくれた気がシンジにはしていた。と、そこで彼はふと気付いた。先程のミサトは今の自分と表現してくれた事を。それはつまり将来はより成長してくれると言ってくれたのだ。それを噛み締め、シンジは少しだけ上を見上げた。

 

―――初号機、聞いた? 今の僕らを沢山の大人達が信じてくれてるんだって。なら、僕は君を信じるよ。いつだって一緒に戦ってくれる、君の事を。

 

 返事はないがそれでいい。きっと伝わっているはず。そうシンジは思ってその時を待つ。作戦が開始されるその時を。そうやってシンジが気持ちを固めた頃、ミサトはずっと彼へ言うべきか否か迷っている事を考えていた。

 

(あたしとシンジ君は似てる。父親に対する感情も、近いと思う。だけど、最近の司令とシンジ君は改善の兆しが見えている。そんな時にあたしと父の話は悪影響かしら)

 

 あの夢はもしかしたら父からのメッセージではないかとミサトは考えていた。このままでは碇親子が似たような結末を辿るのではないかと、そう亡き父が言っているような気がして。だからこそ、ミサトはこう結論を出した。

 

(帰ってきたら、話しましょう。あの子が無事に帰ってきたら……)

 

 そこでミサトは胸元にある十字架を握って小さく呟く。

 

―――だからあの子達を守って、父さん……。

 

 

 

「目標を最大望遠で確認っ!」

「距離、およそ2万5千っ!」

「来たか。エヴァ、全機スタート位置へ!」

 

 使徒が確認されるや一気に緊張感と騒がしさが増す発令所。ミサトの様子を見ながらリツコがインカム越しにシンジ達へ説明を開始する。

 

「いい? 目標は光学観測による弾道計算しかできないの。よって、MAGIが距離1万までは誘導するわ。その後は各自の判断で行動。……で、いいのよねミサト」

「ええ。全てをあの子達に任せるわ」

 

 共に柔らかな笑みを見せ合うリツコとミサト。そこでシゲルの声が響く。

 

「使徒接近っ! 距離、およそ2万っ!」

「作戦開始っ!」

 

 その声を合図にエヴァ各機がそれぞれ陸上選手のようにその場へしゃがむ。その巨体を動かす合図はまだない。

 

『シンジお願い』

『合図を出して』

「分かった。二人共、行くよ?」

『『ええ』』

「スタートっ!」

 

 ケーブルが切り離され一斉に走り出す二機のエヴァ。一機だけその場に残り、上空を睨むように見上げる初号機。そしてその落下地点の正確な予測が告げられた瞬間、弾かれるように駆け出す。突出した速度を出す初号機は、上空に姿を見せた使徒を確認するやその真下へ滑り込んだ。

 

「距離、1万2千っ!」

「初号機、使徒の真下へ到達!」

「恐ろしい反応速度ね」

「そしてそれを可能にする運動性とシンジ君の成長よ」

 

 発令所に微かだが勝利を確信する空気が流れる。それを感じ取るようにシンジは叫んだ。

 

「フィールド全開っ!」

 

 初号機のATフィールドが使徒のATフィールドとぶつかり合う。質量は明らかに初号機が負けているのに、フィールド強度は完全に上回っている。心なしか使徒が驚いたような気がシンジはした。だけど気を抜く訳にはいかない。その思いでシンジは耐えながら待った。頼もしい仲間を、信頼し合う友達を、大切な少女達を。

 

「待たせたわねっ!」

「碇君、今援護する」

「アスカっ! 綾波っ!」

 

 三機のエヴァが揃った瞬間、使徒がまるで恐怖したかのようにフィールドを強化した。初号機と互角のそれに、零号機も弐号機も突破する事が出来ない。しかも、ケーブルを切断しているために残された時間には限りがある。このままでは三機共動けなくなってしまう。そう判断したアスカは、一か八かの賭けに出た。

 

「レイ、あたしとあんたで使徒を支えるわよっ!」

「っ! 分かった!」

「シンジ、このフィールドを突破出来るのは初号機だけよ! 後は頼んだわっ!」

「碇君、お願いっ!」

「二人共……分かったっ!」

 

 そのシンジの頼もしい声に少女二人は笑みを浮かべ、凛々しく叫ぶ。

 

「「フィールド全開っ!」」

 

 両手を伸ばし使徒を支えるようにしながら二機のエヴァが大地へめり込み始める。いくら二機とはいえ、初号機の強度と互角のフィールドを支えるのは無理だった。だが、すぐに潰れないならそれでいい。そうアスカもレイも思っていた。何故なら二機のエヴァの中心で、まるで侍のようにマゴロク・E・ソードを構える初号機がいたからだ。

 

「これで……」

 

 居合切りのような低い体勢となる初号機。まるで大気が震えるような印象さえ受けるその威圧感に使徒はそのフィールドを集中展開させた。初号機の攻撃だけは通すまいとしたのだ。それがある意味でいけなかった。広く展開していたフィールドが狭くなった事で感じる圧力が重くなり、二機のエヴァがより大地へと沈んだのだ。それは、使徒と初号機の距離を一気に詰める事となる。落下速度も生じ、使徒は重力に引かれるように下へと向かった。その刹那、初号機の目が光った。

 

「終わりだっ!」

 

 放たれた剣閃は下へ向かう使徒の力と噛み合い、フィールドを切り裂く事に成功する。だが、そこまでだったのだ。シンジの攻撃はフィールドを切り裂くのが精一杯。使徒のコアへは届いていなかった。しかし、使徒は下へと向かっていた。その体はそのまま向けられた刃へと沈み……。

 

「……使徒の反応、消失っ!」

 

 自滅。つまり、どちらにせよ使徒の運命は決まっていたのだ。初号機に受け止められた瞬間に。決まっていなかったのは、斬り捨てられるか自刃するかの違いしかない。こうして全てが終わりを告げた。シンジ達が帰還し発令所へ姿を見せた時、それを裏付けるように通信が入る。

 

「電波システム回復しました。南極の碇司令から通信が入っています」

「そう。お繋ぎして」

 

 見えないゲンドウと冬月に対し、ミサトはせめて声だけもと誠心誠意をこめて口を開いた。

 

「申し訳ありません。私の勝手な判断でエヴァパイロットを始め多くのスタッフを危険に晒してしまいました」

『構わん。使徒殲滅が我々ネルフの使命だ。それに犠牲者を出さずに済んだなら言う事はない』

『ああ、よくやってくれた葛城三佐。君を昇進させた事に間違いはなかった』

「……ありがとうございます」

 

 心なしかゲンドウの声に温かみを感じた気がしてミサトは内心首を傾げた。と、更にそれを加速させるような事が起きる。

 

『初号機パイロットはいるか?』

「何、父さん」

『……今日もよくやった。他のパイロットと共にゆっくり休め』

「っ……ありがとう、父さん」

『では、葛城三佐。後の処理は任せる』

「はい」

 

 そこで通信は切れた。だが、全員が揃って一人の人物へ視線を向けていた。その相手、シンジは嬉しそうにもう聞こえなくなった通信機を見つめている。そんな様子にミサト達は一様に微笑み、同時に思うのだ。シンジが変わったように、ゲンドウもまた変わり出しているのでは、と……。

 

 

 

「あれだけの事をやってのけたのに祝勝会がラーメン?」

「仕方ないじゃない。あの昇進祝いで散財したのよ」

 

 文句を言いながら屋台のお品書きを眺めるアスカ。それを微笑ましく思いつつ、ミサトはそう言葉を返した。

 

「綾波は何にする? やっぱりニンニクラーメン?」

「……碇君と同じにする」

「僕と? いいの?」

「ええ。たまにはそういうのもいいかと思って」

「ならあたしもそうする。さ、MVPのシンジ? 一番に注文する栄誉を与えるわ」

「そうね。シンちゃん、決めて頂戴」

 

 そんな風に話を振られては仕方ない。そう思ってシンジはちょっとだけ贅沢なものにしようと決めた。

 

「じゃ、特製ラーメンで」

「はいよっ! 特製四つね!」

「特製か。って、ラーメンにしては高っ」

「炙りチャーシューに味玉、ごんぶとメンマ入りって書いてあるわ」

「成程ね。要するに全部のせみたいなもんか。あ、そうそう。レイ、明日の朝ごはんだけど」

「食パンが残ってるからそれを使うわ。それとチーズオムレツ」

「いいけどまたチーズ焦がさないでよ? ま、それはそれで美味しいけど」

 

 威勢よく答えラーメンを作り始める店主。その間の待ち時間に隣同士で話し始めるレイとアスカ。それを横目で眺め、ミサトは嬉しそうに目を細める。

 

(本当に仲良くなったわ。あのアスカとレイが、ねぇ)

 

 まるで母のような微笑みを浮かべ、ミサトは視線を横へ動かす。シンジは店主の動きなどを見て何事か呟いていた。きっと自分がラーメンを作る際の参考にでもするのだろう。そんな彼にミサトは苦笑しつつ、声を掛けた。

 

「ね、シンちゃん。少しあたしの話を聞いてくれる? あたしの昔話の一つなんだけど」

「え? はい、いいですけど……」

「ありがと。あたしの父はね、自分の研究や夢に生きる人だったの。母や家族の事なんか構ってくれなくて、そんな父だから母は離婚した。あたしも嫌いだった。だって、いつも母は泣いていたの。だから離婚されてショックを受ける父を見て、いい気味だって思ってた」

 

 自分と似ている。そうシンジは思った。特に父が家族へ意識を向けてくれないところや、子であるミサトが嫌う辺りも近いものがあると。そしてそこで気付いたのだ。どうしてミサトが自分を部屋へ招いてくれたのか。昔の自分と重ねていたのではないか。そう思ってシンジはミサトの顔を見つめた。ミサトもシンジの表情で何か察したのだろう。小さく微笑むと、どこか悲しげに口を開く。

 

「でも、本当は心の弱い人だった。現実から逃げていた人だったのよ。家族という現実から」

「……逃げ続けてしまったんですね」

 

 ミサトのあの言葉の根底にあったもの。それはそこからきていた。そう理解してシンジは呟く。ミサトも無言で頷き、最後のまとめを話す。

 

「でもね、そんな父でも最期はあたしを庇って死んだの。セカンドインパクトの時にね。あの時は何も言ってあげられなかった。でも、今なら言えるわ。ありがとうって。そしてごめんなさいとも。あの人がいたからあたしは今ここにいるんですもの」

「ミサトさん……」

「シンジ君は、ちゃんと伝えられる内に伝えておきなさい。例えそれで相手に嫌われるとしても。死んだり死なれたりしたら、文句も不満も感謝も、何も……言えないんだから……っ」

 

 最後の方が若干涙声になっている事に気付き、ミサトは慌てて目元を拭う。シンジはそんなミサトを見ないようにしてこれだけ返した。

 

「分かりました。ありがとうございます、ミサトさん」

「…………うん、どうしたしまして」

 

 その返事がいつものミサトの声である事に安堵しつつ、シンジは前を向いた。と、そこへ置かれる美味しそうなラーメン。見ればミサトの前にも置いてある。

 

「はいよ、特製お待ちっ!」

「わぁ……」

「これは意外とあるわね」

 

 大き目の炙りチャーシューが三枚に太めのメンマ、半分に切った味玉に大きな焼き海苔まで乗っている。まさしく特製の名に相応しい内容だ。それを横から見てアスカが唾を飲む。

 

「っ……思った以上に凄いボリュームね。レイ、あんたチャーシュー嫌いでしょ? あたしが食べるから頂戴」

「分かった。ありがとうアスカ」

「代わりにあたしの味玉あげるわ」

「どうせならメンマがいい」

「はいはい。でも全部はダメよ?」

「ええ、半分でいいわ」

 

 そんな話をしている二人の前にもシンジやミサトと同じ物が置かれる。そして、それぞれが割り箸を持って手を合わせた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 世界を救った奇跡の価値。今回は四人で合計3920円也。

 

 碇シンジは精神レベルが上がった。アタッカーを習得した。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第十二話「奇跡の価値は」完




F型の恐ろしさに使徒も段々対応し始めるの巻。とはいえ、まだまだ余裕はない上に追い詰められての火事場のクソ力的な感じではありますが。
そしてシンジ君の奇跡の価値はαシリーズでは習得出来ない技能の習得となりました。

アタッカー……気力130以上で発動。攻撃時に与えるダメージを1.2倍にする。最終的なダメージを上げるので、熱血や魂だけでなくクリティカルのダメージさえも倍化する。
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