エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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アニメでは総集編も兼ねた話。なので一応アニメの再構成という体ですので、今作でも前半はこれまでの戦闘の振り返り。大事なのは後半部分ですかね?


第十四話 ゼーレ、魂の座

 西暦2015年、第三使徒サキエル襲来。通常兵器は通用せず、国連軍はその殲滅を断念。全権をネルフへと託した。そしてその転機は訪れる。出撃したエヴァ初号機はその圧倒的な性能を見せ使徒を圧倒。街への被害さえ抑え見事撃破する。それらを第3新東京市街地戦中間報告書として、当時一尉だったミサトが提出した中にこんな記述がある。

 

「その結果として、こちらは損害をほとんど受けず、未知の目標に対しこちらの戦力が完全に上回った事は特筆すべき事である。また、初陣の少年が無傷で帰還した事は我々を安堵させてくれた。作戦課としては、今後も同様の結果を出せるよう全力を尽くす所存である」

 

 第三使徒撃破は大きな爆発を生んだものの、それは空中で起こった事もあり、大きな被害を生まずにすんだ。更に幸運な事は初号機がその爆発を背にしながら無意識にフィールドを展開していた事だろう。その事が彼の作文からも窺える。鈴原トウジの作文よりの抜粋だ。

 

「わしの妹はまだ小学二年です。こないだの騒ぎでおっきな花火をロボットの背中に見た言うてました。後、暖かかった言うてたんで、爆発の熱が来るぐらいの距離やった思います。知らん間にその近くへ行ったらしいですが、あのロボットが敵を空中でやっつけてなかったらと思うと、正直キモが冷えました。あのロボットには感謝しかありません」

 

 第四使徒シャムシェル襲来。だが、これは本格的避難が始まる前に初号機によって撃破される。よって被害無し。その戦闘の早さを物語る文章があった。洞木ヒカリの手記である。

 

「警報が鳴って、みんなで避難しようとしてる途中でそれが解除になったんです。男の子達は残念がって、私達は迷惑だなぁって感じました。こんなに早いなら避難する必要なかったのにって」

 

 第四使徒は一刀両断され、一応その亡骸は残りサンプルとして回収された。だが、その分析結果は未だに報告されていない。

 

 第五使徒ラミエル襲来。これまで無敵を誇った初号機を撤退させた相手に対し、当時の葛城一尉はヤシマ作戦を提唱。これが承認され実行された。ファーストチルドレンである綾波レイが凍結解除された零号機で初出撃。この作戦に対し、赤木リツコ博士はこのように述懐している。

 

「あの作戦はあの初号機でなければ成功どころか発想さえ出来なかったでしょうね。あのポジトロンライフルだけではおそらく間に合わなかった。それにレイとシンジ君。二人のパイロットと二機のエヴァがあって、初めてあの作戦は成り立った。そう思うわ」

 

 ヤシマ作戦完遂。エヴァ両機共に損傷なし。だが、初号機パイロットのみ極度の疲労により二日間の入院。

 

「シナリオなどあってないようなものだな」

 

 そこで初めてモノリスが喋った。いや、正確にはその声を出していた人物が喋った。そのどこか疲れ果てた声にゲンドウは内心ほくそ笑みながら表情は同意するように歪めた。

 

「結果は予測範囲内です。まだ分かりません」

「既に誰も分からぬよ」

 

 隣の冬月がその場にいる全員の気持ちを代弁するように呟いた。

 

 第六使徒ガギエル襲来。セカンドチルドレンである惣流・アスカ・ラングレーが弐号機で初出撃。初の海上での近接戦闘及び水中戦闘。使徒は連合艦隊との共闘により撃破された。その事をあの連合艦隊の艦長は無愛想な顔で語る。

 

「ネルフの女性将校は、本来なら強権発動で指揮権を奪えたにも関わらず、最後までこちらに従う形で協力してくれた。ジャップの、いや失礼。日本人の中にあんなサムライのような女性がいるとはな。使徒に対しては、たしかにエヴァへ任せるのが一番かもしれん。連合艦隊と同等の戦力の、な」

 

 そんな風に語りながら、最後はどこか嬉しそうに彼は笑みを零すのだった。そんな彼とは違い、ガギエル戦の結果を見て一人の老人が悔しそうに口を開いた。

 

「この戦闘で国連海軍は全艦艇の四分の一を失ったな」

「失ったのは君の国の艦だろう。本来はもっと失うはずだったのだ。運が良かったな」

「左様。初号機なしでこの程度で済んだのは幸運だ」

 

 ここぞとばかりに言葉を交わす老人達。そのやり取りをゲンドウと冬月は無反応で聞き流す。

 

 第七使徒イスラフェル襲来。初の分離・合体能力を有する。更に分離時に限り絶命させられた攻撃を二度目以降は無効化ないし無力化する能力を所持。だが、エヴァ三機による連携攻撃により撃破。その攻撃を見ていた伊吹マヤ二尉はこう語る。

 

「零号機と弐号機が完全にシンクロしていて、そのとどめを初号機がまるで最初から分かっていたかのように走り出して、二機が分裂体を蹴り飛ばした時にはもうその間を駆け抜けていたんです! そして合体した瞬間の使徒をマゴロクソードで一撃っ! もう、映画か何かみたいな連携でしたっ!」

 

 第八使徒サンダルフォン発見。ネルフによる捕獲作戦が実行される。電磁柵へ一時拘束するも使徒が変態を始めた事で捕獲を断念。その殲滅へと移行し、弐号機が初号機の支援を受けこれを撃破。この作戦に従事していた日向マコト二尉はこんな感想を述べていた。

 

「あの作戦は、まるで僕らとアスカの信頼関係を構築するような内容になった。以前シンジ君が僕らへ自分と初号機を信じてくれと言ったように、彼女もまた自分と弐号機を信じてくれと言ってきたからね。だから信じる事にしたんだ。どんな時でも僕らが出来る限りの事をして、ね」

 

 第九使徒マトリエル襲来。何者かの手により本部機能が麻痺する中、エヴァ三機を補助動力などを使った人力で出撃させる。使徒の出していた溶解液とその完全な亡骸をサンプルとして採取。これも分析報告書は未だ提出されていない。この騒ぎを蚊帳の外で後から聞いた加持リョウジはこうぼやく。

 

「まったく、何かするならこっちにも教えて欲しいってもんだ。ま、そうしない事で俺のアリバイやら何やらにしたかったんだろうがね。結局俺が怪しい奴だってのは変わらないから意味がないのさ」

 

 第十使徒サハクィエル襲来。成層圏より飛来する目標を相手に、エヴァ三機による直接攻撃でこれを迎撃。見事撃破。この結果行われた四人だけの祝勝会について青葉シゲル二尉はこう述べた。

 

「いや、いいんですよ。彼ら三人を労うのは俺達だってしてやりたいし文句はない。でも、なぁんで一言声かけてくれないんですかね? しかも聞けば葛城三佐の昇進祝いにも俺と日向は呼ばれてないんですよ!? ならせめて祝勝会ぐらいは呼んでくれたってねぇ……ダメ?」

 

 第十一使徒は襲来したのか定かではない。一部では、本部内への侵入を許したとの報告もある。それらがこれまでのネルフによる使徒戦の全てであった。これらほとんどの結果に関係しているのがあの初号機。あれが全ての始まりにして、ゼーレのシナリオを根底から揺るがす存在であった。

 

「碇、使徒がネルフ本部へ侵入したというのは本当か?」

「いえ、そんな事実はありません」

「では、第十一使徒侵入の事実はない。そう断言するのだな」

「はい」

「この場での偽証は死に値すると知って言っているんだろうな」

「勿論です。疑うのでしたらMAGIのレコーダーを調べてくださって結構です」

 

 平然と嘘を吐くゲンドウ。そんな彼に老人の一人が激昂した。

 

「笑わせるっ! 事実の隠蔽は君の十八番じゃないかっ!」

「タイムスケジュール自体は死海文書の記述通りに進んでおります」

「……まぁいい。今君を処分すればサードがどう動くか分からん。息子に感謝するのだな碇。あの初号機は今はまだ必要だ」

 

 その言葉にゲンドウは何も返さない。それを面白く思わない老人達だが、彼の有用性も分かっているのだろう。何か言うでもなくこう続けた。

 

「碇、分かっていると思うが君が新しいシナリオを用意する必要はない」

「分かっています。参号機の方はどうなのですか?」

「そちらはまだ色々と時間がかかる。完成次第サードを乗せろ」

「あの初号機には近付けますかな?」

「……碇」

「申し訳ありません。少々出過ぎました。私としてもあの初号機には頭を悩ませているもので」

 

 軽い煽りを繰り返す対応に冬月は内心で大きくため息を吐いた。

 

(老人達があまり強気に出られんと思って……まるで子供だな)

 

 冬月の予想通り、まだ現時点でゼーレはゲンドウを切り捨てる事は出来なかった。その理由はあの初号機にある。シンジでなければ使えず、その彼は父であるゲンドウへ執着を残しているからだ。今までの報告で使徒戦に限り出現しているF型だが、もしあれがシンジに敵対する者への反応ならば。そう考えれば迂闊にゲンドウを処分出来ないのだ。

 

「とにかく、今回の君の罪と責任は追及しない。有難く思いたまえ」

「感謝しております。では、全てはゼーレのシナリオ通りに……」

 

 心にもない言葉を告げるゲンドウに冬月は怒りを通り越して呆れていた。これが目に見える形でのネルフのゼーレからの離反の始まりであった……。

 

 

 

「初号機はどうして碇君にだけ反応するの?」

「答えられない? それは何故?」

「理解出来ない? 今の私では無理だから?」

「違う。教えちゃいけないのね。知られてはダメ」

「あれは非常の力。非常の武。非常の矛」

「碇君にだけ使わせるのは、彼が一番使うのに適してるから?」

「そう、そうなのね。一番臆病だからこそ一番優しく使ってくれる」

「私も優しい? ありがとう。そう言われたのは初めて」

「……それは分からない。でも、これだけは言える。私は……」

「私は、碇君と一緒にいたい」

 

 そこでレイは意識を取り戻す。今日は第1回機体相互互換試験。レイは初号機に乗っていた。零号機と変わらない安定したシンクロ率を見せ、彼女はテストを終了する。

 

「お疲れ様レイ。どこか体に違和感や気になる事はある?」

 

 リツコに出迎えられ、レイは小さく首を横に振った。

 

「いえ、特にありません」

「そう。一応メディカルチェックをするから」

「はい」

「ね、レイ。初号機とシンクロするってどんな感じ? やっぱり零号機と違う?」

 

 マヤのその問いかけにレイは少し考え、どこか納得するように頷いてからこう答えた。

 

「零号機は静かですが、初号機は賑やかです」

「「は?」」

「伝わりませんか? なら……零号機が私で初号機がアスカです」

「……あの、先輩?」

「つまり、零号機は反応が鈍いけど初号機は反応が良いという事?」

「はい、赤木博士の言う通りです」

「先輩……すごぉい……」

 

 まるで赤ん坊の泣き声で判断出来る母親のようだ。そう思ってのマヤの感嘆する声にリツコはどこか照れくさそうに咳払い。この辺も個人的に行っている特別授業の成果と言えた。レイは語彙も豊富ではなく、知識と経験が結びつかない事が多い。そのため、言いたい事を正しく説明出来ない事が多いのだ。それをマヤよりも知っているからこその理解であり、経験の差でしかない。

 

「あのねマヤ、貴女もレイと二人きりで色々辞書を片手に話せばこれぐらい分かるようになるわ」

「どれくらいですか?」

「そうね……三日」

「意外と短いですね」

 

 告げられた期間に対しマヤは素直な反応を返した。だが、そこでリツコは悪戯っぽく笑う。

 

「は、何も分からないわよ」

「ええっ!?」

「ね、レイ。貴女、最初は恥らうって意味さえ分からなかったものね」

「はい。今は分かります。男性に肌を見せる事などで生じる感情の一種です。具体的には、この前の回収時に碇君に少し見られた時に感じました」

「ね? ここまででも大変だったのよ」

「……お察しします」

 

 茫然とするマヤへリツコは噛み締めるような声でそう言った。そんなリツコに、マヤはどことなく育児疲れの母親を重ねる。そんな二人をレイはどこか申し訳なさそうに見つめるのだった。

 

 一方、アスカは弐号機を使ってのテストを行っていた。第87回機体連動試験である。全て正常値を叩き出し、問題なく終えたアスカは、物足りなさを感じつつオペレーターであるシゲル達と会話していた。

 

「ねぇ、弐号機もあの初号機みたいに追加装甲とか追加武装出来ないかしら?」

『うーん、それは難しいかもしれないな。知ってると思うけど、初号機はテストタイプだから拡張性が高いんだ。だけど弐号機は一つの完成形だからさ』

「そっか。拡張性に関しては初号機程の発展性がない、か」

『そういう事。精々武装の追加ぐらいだけど、それもなぁ……』

「マステマ、だっけ。あれを使わせてもらうのが今のとこそれっぽいもの」

 

 アスカの言葉が全てだった。現状追加武装案として一番実現出来そうなのがマステマだったのだ。ただし、威力に関しては絶対及ばないと誰もが確信していたが。マゴロク・E・ソードはあの威力が再現出来るならともかく、今はとてもではないが不可能。それにマステマは既に弐号機と零号機が使用し、使い勝手なども良好ともあって、現在その製作が開始されていた。

 

「でも、あたしとしてはあまり初号機から借りるってしたくないのよ」

『それはまたどうして?』

 

 アスカの言葉にシゲルは疑問符を浮かべた。もう既に彼女は自意識の高い少女ではない。歳相応の未熟さと柔軟性を持った優れたパイロットだ。それがシゲル達の認識である。今更シンジへ借りを作りたくないとは言わないだろうと思ったのだ。

 

「簡単よ。もしそのせいで初号機が使徒へ対処出来なかったら? あるいは痛手を負わされたら? だから借りたくないのよ」

 

 そこには少女なりのシンジへの想いが垣間見える。シンジはこれまでの事で分かっている通り、いざとなったら自分を犠牲にしても誰かを守るだろう。それをアスカも分かっているからこそ、初号機には万全の状態で戦闘して欲しいと考えているのだ。

 

(気が付いたら、あたしは加持さんじゃなくシンジばかり見つめてた。これはきっとそういう事よね)

 

 最初はライバルみたいなものだと思っていた。それがあの火口でのやり取りから完全に変わった。守ると言ってくれた少年を、少女は好敵手ではなく異性として考えるようになっていたのだ。

 

『そうか。たしかに初号機が勝てない使徒がもし出て来たら、余計武器の貸し借りなんて出来ないか』

「そう。だからこそ弐号機や零号機にも追加武装が欲しいのよ。いえ、出来れば零号機に劣化品でもいいからマステマをね」

 

 そして、今や同居人となった少女も彼女にとっては大切な存在である。だが、今の彼女にとってその少女は複雑な相手でもある。何せ恋敵なのだ。生まれて初めて出来た同い年の親友は、初めて出来た同い年の異性の想い人。そう考えてアスカは小さく苦笑。

 

―――ま、そっちの勝負はエヴァと関係ないもの。だから、エヴァでの戦いは助けてあげる。

 

 その誓いのような呟きは彼女の胸の中だけに。そしてシンジはといえば……。

 

「零号機、かぁ。何だか不思議な気分だな」

 

 先程のレイのように彼が零号機に搭乗していた。初めて乗る他のエヴァ。その違和感のようなものは、シンジの中にずっと残り続けていた。だが、それはどちらかといえば彼が多感な年頃だからかもしれない。

 

(い、いつもは綾波が乗ってるんだよね)

 

 意識しないようにしようにも、以前などここに全裸で入ったのだ。その瞬間、以前の回収時にチラリと見たレイの綺麗な背中を思い出す。その影響で熱膨張しそうな部分から気を逸らすためにシンジは違う事を考える事にした。

 

「そういえば、どうしてエヴァって誰にでも乗れる訳じゃないんだろ?」

 

 今まで当たり前のように流していた事。それがふとシンジには気になった。なので折角だからとばかりにリツコへ質問しようとした時、その相手から問いかけられたのだ。

 

『どう? 零号機のエントリープラグは快適?』

「えっと、何というか違和感みたいなものはあります」

『そう。レイは初号機は反応が良いと言っていたわ』

「反応がいい?」

『ええ。で、零号機は反応が悪いそうよ』

「……よく分からないや。ごめんなさい」

『いいのよ。また何か感じたりしたら教えて』

「はい」

 

 リツコとの会話をしながらシンジはぼんやりと先程の答えが分かった気がした。というのも、普段初号機の時に感じている安心感が感じられないのだ。それが感じられるから自分は初号機のパイロットになれたのだろう。そう答えを出して、シンジはそのまま零号機とのシンクロを開始していく。

 

「やはり初号機程のシンクロは無理ね」

「でも、全ての数値が安定しています」

「シンジ君は零号機も使えるって事?」

「その気ならね。あくまで使えるだけで使いこなせるとは別問題」

 

 リツコの返しにミサトは分かってるとばかりに苦笑した。そもそもあの初号機がある以上、シンジは必然的にその専属パイロットとして扱うのだ。

 

「でも、あの初号機にはあのシステムは使えないものね」

「ダミーシステムは無理よ。あの初号機は、おそらくだけど外見だけでなく中身も変化しているはず。覚えてる? 最初の頃、通信が一切出来なかった事」

「勿論。でも、あの第五使徒との戦いで突然可能になった」

「思うのだけど、あれはシンジ君のこちらへの心の距離が影響しているんじゃないかしら。最初の周囲全てを信じる事が出来なかった彼は外部からの声を聞く余裕もつもりもなかった。だけど、それが少しずつ変化した。ミサト、シンジ君があの初号機でまず最初に聞いた通信は、貴女の彼の事を思う悲痛な叫びだったわ」

 

 その言葉にミサトだけでなくマヤも息を呑んだ。心からシンジを思う声が、初めてあの初号機が繋いだ声だと気付いたのだ。

 

「じゃ、今の通信が最初から出来るのは……」

「おそらく、彼が私達へそれだけ心を開いてくれているのよ。そして、私達も彼へ心を開いてる。互いが心を開き合っているからこそ、今の初号機は通信が途絶えないんだわ」

「成程ね……」

 

 リツコの推測に心から納得しながらミサトは小さく笑みを浮かべた。そう考えると色々と思い当る節はあるのだ。彼女がシンジを家族として扱いたいと言った事。それに彼もぎこちなく応えてくれた事。あの日、二人で交わしたおかえりなさいとただいま。あれが全ての始まりだったのかと。

 

 そう思って思い出を噛み締めるミサトを余所にマヤはリツコの言葉からある存在を連想していた。

 

「何か、そう考えるとあの初号機ってシンジ君のお母さんみたいですよね。過保護な感じの」

 

 そして、その発言にリツコが思わず息を呑んだ。幸いにしてそれをマヤにもミサトにも気付かれなかったが、彼女はそれに構わず内心で目まぐるしい程の事を考え始めていた。

 

(もしかして私は勘違いをしていた? あの初号機は未来とかではなく平行世界のもの? それを初号機の中に眠る彼女が自身を媒介にして憑依させているとでも言うの? 有り得ないけど、その有り得ないものを何度も見せてもらっている以上、受け入れるしかないかも)

 

 実は以前の方が正解には近いと知らず、リツコはそこで一旦思考を中断した。何せ今はシンジの零号機とのシンクロテスト中。まずそれを終わらせてからにしようと切り替えたのだ。そこへアスカが姿を見せた。

 

「あれ? レイは?」

「着替えに行ってるわ。途中で会わなかったの?」

「お手洗いに行ったからかも。そっか、すれ違ったか」

 

 やや残念そうなアスカの反応にリツコ達は小さく笑みを浮かべた。本当に仲の良い友人関係となっていると、そう心から感じて。するとアスカは思い出したかのようにガラスの向こうを見た。そこには零号機がいる。

 

「シンジはもうあの中?」

「ええ。レイ程ではないけど安定した数値を出しているわ」

「へぇ、レイはどうだったの?」

「そちらも動かすのは可能よ。ただ、あの変化は望めないでしょうけど」

「ま、もし仮にレイでも変化したってシンジ程上手くは扱えないしね」

 

 そう言ってアスカは腕組みをして考える。それは、自分も初号機に乗れるかどうか試してみたいという事。レイに出来て自分に出来ないのは嫌なのだ。特にシンジに関わる事は。恋心を自覚したアスカは積極的でありながらアプローチが不器用だった。

 

「ね、あたしも初号機に乗せて」

「あら、いいの? 弐号機以外に乗るつもりはなかったのでしょ?」

「それは過去の話よ。もし仮にあたしやレイでも初号機が使えれば、シンジが怪我したり病気になっても初号機が戦える。更に、使徒戦で変化してくれれば言う事なしじゃない」

「……最後のは検証しようがないけれど、貴女もレイも初号機が動かせるのは作戦部長としては有難いわね」

「そうね。では、今度機会を設けましょう」

 

 ミサトとリツコの結論にアスカは自慢げに笑顔を見せた。

 

「まっかせなさい! あたしがバッチリ初号機とシンクロしてあげるわっ!」

「凄い自信……」

 

 アスカの態度にマヤが小さく苦笑する。ミサトやリツコも同様に。そんな周囲の反応にアスカは少しだけムッとするも、すぐに意識を切り替えシンジへと声を掛けた。

 

「シンジ、あたしも初号機に乗るけどいい?」

『アスカ? いいけど……』

「あたしの方がシンクロしちゃったらごめんなさいね」

『それはないと思うけど、もしそうでもアスカは弐号機に乗って欲しいかな』

「何? やっぱり初号機は自分が一番上手く使えるんだってやつ?」

 

 アスカの軽い煽りにも似た冗談にシンジは小さく苦笑すると優しい声でこう返す。それは、彼らしい言葉。そしてアスカのこだわりをある意味で肯定するもの。

 

―――何となくだけど、エヴァ自体も僕らに愛着みたいなのがあるんじゃないかな? 零号機に乗って分かったんだけど、初号機の方が心なしか安心出来るんだ。きっとアスカも弐号機にはそう感じるんじゃない? だからさ。

―――エヴァの方にも愛着、ね……。

 

 そう聞いてアスカはより一層初号機に乗ってみようと思った。正直彼女は弐号機に安心感など感じた事はない。だけど、それは彼女が弐号機しか知らないからだ。シンジのように別のエヴァに乗れば分かる事もあるかもしれない。そう結論を出し、アスカはシンジへこう言って通信を終える。

 

「シンジ、あんたは弐号機にも乗った事あるでしょ? それについて後であたしに教えなさい。いいわね?」

『あ、そうだった。うん、分かった。思い出しておく』

 

 そのやり取りを聞いてミサト達は楽しげな笑みを浮かべていた。何せ話している内容はともかく、そのアスカの雰囲気はどう見ても恋する乙女そのものだったのだ。

 

「変わったわね」

「ええ、自覚したのかしら?」

「以前よりも声が弾んでますよね、アスカ」

 

 いくつになっても女性は色恋沙汰が好きなもの。ましてやそれが年頃のじゃじゃ馬娘ともなれば尚の事だ。まぁ、そのじゃじゃ馬も最近では落ち着きを見せており、特定の相手にはじゃじゃ馬というよりは勝気な少女レベルまで変化しているのだが。レイも含め多感な少女達はその変化が良い方へ転がっている。それが知らず大人達へも波及しているのだが、残念ながらその事に気付いているのはリツコぐらいだろう。

 

「アスカ? こっちにいたのね」

「うん。レイ、お疲れ様」

「ええ、アスカもお疲れ様。少し捜したわ」

「あー、ごめん。あたし、着替え終わった後でトイレにね」

「そう。その可能性は気付かなかった」

 

 顔を合わせた途端会話を弾ませるレイとアスカ。それを見て女性達は揃って笑みを深くする。と、その頃シンジは一種のトランス状態のようになっていた。

 

「綾波……? 違う? でも、綾波……でもあるの?」

「どうして一緒にいてくれるの? あはは、前も綾波に同じ事聞かれたっけ」

「……うん、そうだよ。でも、今はそれだけじゃないんだ。僕は、あの頃よりももっと綾波と一緒にいたいんだ」

「アスカ? アスカも一緒にいたい、かな。それじゃダメかな? ……アスカならいい? そっか、良かった」

「そう、だね。今も言える。ううん、今はもっとはっきり言えるよ。綾波は僕が守るよってね」

 

 そう答えてシンジが意識を取り戻すとそこはエントリープラグ内だった。

 

『シンジ君、もういいわ。テストは終了よ』

「リツコさん……?」

『意識の混濁が見られる? シンジ君、大丈夫?』

「あ、はい。何か零号機と話したような気がします。何を話したかは忘れましたけど」

 

 シンジのその言葉にリツコ達が息を呑んだのが彼にも分かった。だが、それでも慌てる事なくリツコは少しだけ優しい声でこう告げて通信を切った。

 

『そう。では、何か思い出したら教えて。お疲れ様』

「はい、お疲れ様です」

 

 こうしてシンジの零号機とのシンクロは終わった。そして二度と行われる事はなかったのだ。シンジは知らない。それはかつて彼の母に起きた現象をリツコが恐れたからだと。エヴァは人を取り込んだ事がある。それをシンジが知るには、今しばらくの時間が必要になる。

 

 

 

「予定外の使徒侵入。それに付随して起きる様々な面倒事、か。嫌になるな、これは」

 

 冬月のうんざりするような声にゲンドウは頷く事さえせず前だけを見つめていた。

 

「だが、切り札はこちらが全て押さえている」

「だから事を構えても平気だとでも言うのか。息子のおかげで生き延びているようなものだぞ。今のお前も、私もだ」

「……それだからこそこちらのシナリオが優先出来る」

「それもあの初号機が台無しにするかもしれんぞ」

「問題ない。シンジは何も知らん。その制御も容易だ」

 

 その淡々とした言葉に冬月は初めて感情を向き出しで告げた。

 

―――碇、あの年頃の成長を侮るな! ……現にお前の息子は綾波レイを大きく変えたぞ。

―――…………それでも子供は子供だ。

 

 低く返された言葉には確信めいた響きが秘められている。ゲンドウの片手には携帯電話が握られている。その画面には一通のメールが表示されていた。

 

―――もし父さんさえ良かったら、今度ゆっくり話をしたいけどダメかな?

 

 その文面を思い出し、ゲンドウは微かに笑う。だが、彼も分かっていない。それはシンジが自分の機嫌を取ろうとしている事への笑みではない。健気に父を慕う子の気持ちを無意識に喜ぶ笑みだった。しかし、ゲンドウは気付かない。人は自分の事も意外と分からないものである。特に人付き合いが不器用な者ほど、余計に。

 

「アダム計画はどうなっている?」

「順調だ。2%未満の遅延で進んでいる」

「では、槍は?」

「予定通りだ。作業はレイが行っている」

 

 その頃、その言葉通りレイは零号機である場所へ巨大な真紅の槍を運んでいた。その作業中、レイは小さく呟く。

 

―――碇司令は、本当に私を必要としているの? 碇君は私を、綾波レイを守ると言ってくれた。なら、碇司令は?

 

 ゲンドウならシンジは抑えられるかもしれない。だが、レイは? アスカは? シンジを抑えたからといってそこを抑えられるとは限らない。恋は時に人を大きく変える。それをゲンドウも知っているはずなのだ。何故なら、彼もかつてそれによって変わり、今もその熱を、温もりを追い求めているのだから。

 

 明日の事は誰にも分からない。だからこそ未来は頑張る者にだけ光を与える。過去の残光を求める者達はそれに気付かない。逃げる事を止めた事で逃げ続ける息子と、逃げる事を止めない事で逃げられなくなりつつある父親。その道を繋ぐ鍵は、二人を包む一人の女性……。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第十四話「ゼーレ、魂の座」完

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