エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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出来る事ならTVシリーズと同じ話数書いてみたいですが、おそらくその前に力尽きると思います。……せめてシンジとアスカのイチャラブぐらいは書きたいなぁ(ぇ?

底力……スパロボの特殊技能。HPの残量に応じて攻撃力、防御力、クリティカル率などが上昇する能力。最高で9までレベルがあり、ある小技を使うと実質10に出来る。

精神コマンド……スパロボの要素の一つ。精神ポイントを消費して様々な効果を発生させるもの。気迫は気力をプラス30させる。

気力……特定の能力や武装を使うために必要なパラメータ。これが高いと攻撃力なども上がるので高ければ高い程戦闘が有利。


第二話 見慣れぬ、天井

 戦闘を終え、回収された初号機は誰もが知る状態へと戻っていた。まるで最初からそうだったかのように。映像で確認しても分からない程、自然に本来の状態へ戻っているのだ。言うなれば、世界そのものを騙すように。そんな初号機を現在ネルフスタッフ総出で調べている。勿論戦闘でのダメージなどのチェックもあるが、一番はやはりあの変化についてだ。そして、それはパイロットにも及んでいた。

 

「じゃあ、何も分からないのね?」

「はい。僕はてっきり見たままだと思ってました」

 

 ネルフ内の医務室。そこでシンジはリツコからいくつかの質問を受けていた。内容は当然ながら初号機に関して。だが、乗っていただけのシンジがその変化に気付けるはずもなく、彼はただがむしゃらに生き残ろうとしていただけなのだ。機体性能によって楽勝だったとはいえ、彼がそもそも戦おうとしなければ現在の結果はない。だが、シンジは残念ながらその事へ思い至る事は出来なかった。彼としても、気が付けば終わっていたのに近いために。

 

「あの使徒を倒した武器。それはどう?」

「えっと、マゴロクソードだった気がします。何か武器はないかって思ってたら、突然頭の中に名前が浮かんできたんです」

「頭の中に?」

「はい」

「ちょっち待ち。シンジ君? それって人の声だった?」

 

 そのミサトの質問にリツコは興味を持った。非現実的ではあるが、もしあるのなら初号機から聞こえる声はシンジの母であるユイのはずだ。だが、シンジが果たしてその声を覚えているのだろうか。どちらにせよ、知らない声か母の声と返せばリツコは自分の仮説が信憑性を持つと思えた。

 

「えっと……よく分かりませんでしたけど人でした。それと、男の声ではなかった気がします」

「男じゃない、ねぇ」

「聞き覚えは?」

 

 頭を掻くミサトに対しリツコはやや驚きを滲ませながら問いかける。シンジは何故彼女が驚いているのか分からぬまま、懸命に記憶を手繰り寄せた。だが、やはりこれと言った該当者はなく、シンジは力なく項垂れる。それがリツコに対する答えとなった。

 

「そう、ないのね。ありがとうシンジ君。疲れてるでしょ? 今日はゆっくり休みなさい」

「あ、それなんだけどシンジ君。住む場所どうする? 希望するなら司令、つまりお父さんとも暮らせるけど」

「……それを父さんは望んでるんですか?」

 

 どこか察している雰囲気を漂わせながら、シンジはそう問いかけた。二人の妙齢の美女は一瞬言葉に詰まる。面倒だと思った訳ではない。悟ったのだ。目の前の少年に渦巻く複雑な心境を。そんな事はないと知りつつ、もしかしたらをどこかで信じている。そんな矛盾する二つの想い。それがシンジの中にあるのだと。

 

「いえ、望んではないわ」

「リツコ……」

「そう、ですよね」

「でもね、そうじゃないと断言は出来ないわ。人の気持ちはロジックではないの。時に本当に思っている事と真逆の言葉を口にしたりもするのだから」

 

 リツコの言葉はシンジにとっては信じられないものだった。だけど、信じたいとどこかで思うのだ。自分が本音を言えないように、父もまた本音を言えないかもしれないと。こうしてシンジは一人暮らしを選ぶ事になる―――はずだった。

 

「さ、行くわよシンジ君」

「……あの」

「ん?」

「どうしてミサトさんと一緒に住む事に?」

 

 自分はネルフ職員へ割り当てられる個室に住むのではなかったのか。そんな言葉がシンジの表情からアリアリと浮かんでいた。それを無視するようにミサトは苦笑する。彼女の中にあるイメージの中学男子なら、年上の、しかも美人と共同生活とくれば喜ぶしかないはずだったからだ。

 

(や~っぱ一筋縄じゃいかないか……)

 

 人との繋がりを求めているのに、それを自分で遠ざける。そんな印象をミサトはシンジに抱いていた。先程の父との同居もそれだ。自分が踏み込めばいいのにそれをしようとしない。それなのに、その相手との繋がりを求めている。矛盾。その単語がミサトの脳裏に浮かんだ。

 

「シンジ君、今何歳?」

「えっ? 十四歳ですけど……」

「未成年じゃない。だから保護者が必要なの」

「でも……」

「ね、年上の女性は嫌い?」

 

 その問いかけにシンジは赤面した。何も年上女性が好きだからではない。ミサトが自分へ問いかけながら屈んだため、その豊かな胸元が強調されたためである。

 

(見ちゃダメだっ!)

 

 そう思うも思春期真っ盛りの少年には、その眼前の光景は目を逸らすには惜しいものだった。無論、これはミサトなりの計算である。あからさまにそうやってはシンジは見る事をしない。だが、偶然を装えばきっと目を逸らす事はしないだろうと。

 

「シンジ君、嫌だったら嫌でもいい。だけど、少しだけ試してみない? 私と、他人と過ごす暮らしを」

「少しだけ、ですか?」

「うん。そうね……最初は一週間ぐらいで更新。次は一か月。どう? それならやってもいい?」

 

 シンジの視線はずっと胸元へ注がれている。それに気付かぬミサトではないが、今は色仕掛けを使ってでもシンジを一人にさせたくなかった。何故だが重なって見えたのだ。父を失った頃の自分と。このままでは、彼は生きているのに自分の中で父を死なせてしまう。そう直感的に感じたからこそ、ミサトはシンジを孤独にさせたくなかった。

 

「それなら……」

「うっしっ! じゃ、早速行きましょう」

 

 鼻の下を伸ばしそうなシンジだったが、ミサトはそれを見てむしろ安堵していた。歳相応の部分もちゃんとある。それがよく分かったからだ。気を良くしてシンジを連れて歩き出すミサト。向かう先は駐車場だ。そこにある彼女の車で葛城家へ向かうために。

 

「シンジ君、一つだけ君に覚えていて欲しい事があるの」

「何ですか?」

「それはね、君が怖がる事はみんな基本的に怖いって事。でも、それをみんなが逃げたらみんなダメになる。だから立ち向かうの」

「……一人ぐらいなら逃げてもいいですよね、それなら」

「ええ。でも、一度逃げると大変よ? ずっと逃げなきゃいけなくなる。そして、逃げて逃げて逃げ続けて、一番逃げたい時に逃げられないの。これ、昔から言われてる事なんだから」

 

 そう告げてミサトはシンジへ振り向く。その顔は苦笑い。

 

「あたしも実感したのよ。ただ、救いだったのは、それに気づいたのが逃げ切れなくなる前だった事」

「僕は……逃げたいです」

「うん、逃げてもいいわ。ただ、続けるのは止めなさい。時には逃げずに立ち向かうかやり過ごしなさい。そうすれば、また逃げてもいいから」

 

 その言葉はシンジには目から鱗だった。逃げてもいいと肯定してくれただけでなく、立ち向かう事とやり過ごす事を同列にしていいと言ってくれたからだ。その別の在り方を示唆してくれた。それがシンジの心を少しだけ軽くした。

 

「いいんですか、逃げて」

「ええ、でも何度も言うけど無条件で逃げていいのは一度だけ。一度逃げたら、次は逃げる前に立ち向かえるかやり過ごせるかを考えて。それがダメそうなら逃げなさい。だけど、最後までそれはダメよ? さっきも言ったけど、一番逃げたい時に逃げられなくなるからね」

「……一番逃げたい時」

 

 ミサトの教訓めいた言葉を噛み締めるように呟き、シンジは考える。それは一体いつだろうと。エヴァに乗る事はもうそこにはなかった。あれは逃げたいけれど一番逃げたい事じゃない。それが今のシンジの考えだった。様々な事を考えながらシンジはミサトの後をついていく。そしてここへ来る際に乗った車へ乗り込み、やがて車はあるマンションへと到着する。そこがこれからの自分の家になるかもしれない。そう思ってシンジはその建物を見上げた。

 

「じゃ、ついて来て」

「あ、はい」

 

 言われるままにミサトの後ろを歩くシンジ。その歩みは一つのドアの前で止まった。表札を見れば葛城とある。

 

「ここよ? ちょっち片付いてないけど勘弁してね」

「はぁ……」

 

 どこかで女性の部屋というものに憧れを抱いていたシンジだったが、それをこの時完膚無きまでに粉砕される事となる。そこは表現するならゴミ屋敷だった。シンジはその光景に絶句し、しばらくフリーズした後再起動。ミサトを邪魔にならない場所へ移動させた後、大掃除を開始したのだ。後にミサトはこう語った。

 

―――あの時のシンちゃんほど怖いシンちゃんをあたしは知らないわ……。

 

 そう評される程、シンジは苛烈に葛城家を清掃した。とはいえ、時間的にも体力的にも部分的に留まり、彼としては不満の残るものとなったが。

 

「すごい……ここまで綺麗になるなんて」

「僕、ミサトさんのおかげで女性への憧れとか夢がなくなりそうです」

 

 そんな皮肉を言うぐらい、シンジは精神的に疲弊していた。それが分かったのか、ミサトも申し訳なさそうに両手を合わせる。

 

「ごめんねシンちゃん」

「シンちゃん?」

「……ダメかしら。どれだけになるか分からないけど、一緒に住む間は家族みたいなものよ。だから、シンちゃん。っと、いけないいけない。大事な事忘れてたわ」

 

 そう明るく言うと、ミサトはシンジへ笑顔を向ける。

 

「おかえり、シンちゃん。ここがしばらくあなたの家よ」

「…………ありがとうございます」

「ふふっ、それは嬉しいけど違うでしょ? ほら、帰ってきたら?」

「た、ただいま……」

「うん、よく出来ました」

 

 そう言って微笑むミサトを、シンジは心から綺麗だと思った。きっと母親が生きていればこういうものなのかもしれない。そう思う程、その時のミサトは母性に溢れていた。だが、この日の食事は買い置きのレトルトとなり、シンジはそこで一人で暮らす女性への幻想を打ち砕かれる事となった。更にそこで紹介された、温泉ペンギンのペンペンなる同居人もまた彼の驚きを生んだ。こうして二人と一匹による奇妙な食事を終え、シンジはとりあえず用意された―――というか用意した―――部屋へ行き、ベッドに横になったのはいいのだが、その視界に映る景色のせいか落ち着けない。音楽を聞こうとしたのだが、そんな気分にもなれなかった。

 

「……いつか、見慣れるんだろうか」

 

 今は見慣れぬ天井。それもその内慣れるのか。慣れる程ここにいるのか。あるいはいられるのか。考え始めると不安ばかりが先に立つ。そしてずっと車に乗った時から頭の片隅にある一つの疑問。一番逃げたい時は今の自分にとって何だろうというもの。それが彼に音楽を聞く気持ちを無くさせていたのだ。と、その時ドアをノックする音が響いた。

 

「シンちゃん、まだ起きてる? 起きてるならお風呂入っちゃいなさい。その方がよく眠れるし」

「あっ、えっと、分かりました」

「ん。あたしは先に頂いたから色んな事気にしなくていいわよん。じゃ、おやすみ」

 

 言うだけ言って遠ざかるミサトに何とも言えない気分となるシンジではあったが、その口振りもまた母親らしく思えて苦笑い。

 

(もしかして、ミサトさんは僕の母親みたいに振舞ってくれているのかな?)

 

 そう思うとその優しさに照れくさいものを感じ、でも考えすぎかもしれないと頭を振り、シンジは忙しい感情の動きを覚えた。と、そこである事に気付いて赤面する。

 

「ミサトさんはもう入ったんだよな。つまり……」

 

 そう、今の残り湯は年上女性の入ったもの。その事実を認識した時、シンジは頭を抱えながら元気になる己の一部へ視線を落とす。

 

「……とりあえず入ろう」

 

 こうして内心ドキドキしながらバスルームへ向かったシンジだったが、そこで彼を待っていたのはペンペンも入った事がよく分かる浴槽の状態という悲しいものだった……。

 

 碇シンジは精神レベルが上がった。底力LV1を習得した。精神コマンド気迫を覚えた。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第二話「見慣れぬ、天井」完


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