「フォースチルドレン?」
リツコの研究室でコーヒーを飲みながらの雑談中、ミサトは思わず聞き返した。聞き間違いかと思ったからである。それぐらいその単語の意味は理解したくなかった。
「そう。四人目の適格者ね」
「必要ある? シンちゃん達でエヴァはきっちり使えているのに」
「……委員会直々よ」
「真っ黒って事か」
リツコの答えに必要のない存在が来るこの上ない理由を察し、ミサトはため息混じりにカップを口へ近付け、何かに気付いて部屋を見回す。
「どうしたの?」
「ん? いや、今は真っ黒な物飲みたくない気分になったからさ」
「……そこに砂糖と一緒に置いてあるわ」
リツコの指さした場所へ目をやるミサト。するとそこには可愛らしい猫の親子が描かれたペン立てがあり、その中にスティックシュガーとコーヒーフレッシュが置いてあった。そこでミサトは気付く。たしかリツコはブラック派だった事に。
「ね、あれ」
「レイのためよ。あの子、甘めのカフェオレにしないと飲めないの」
「……そ」
思わず笑みを零すミサトにリツコが照れくさいのか咳払い。それが余計ミサトの笑みを深くしたところでリツコが話を戻す。
「一応、表向きはシンジ君達に何かあった時のための交代要員となってるわ」
「まぁ、それぐらいしか理由もないものね」
「ええ。で、これがその彼のデータ」
「彼? 男の子?」
「シンジ君が待ち望んでいた同性のパイロットがこんな形でとはね」
渡された書類を眺めミサトは何か違和感を覚えた。その表情が変わった事に気付き、リツコは息を吐いて告げる。それは彼女も思った事なのだ。
「レイと同じ肌の色と目の色なのよ」
「っ! それでか……」
「どうする? きっと真っ黒を通り越して完全に闇よ」
「……どうしてこんな事をすると思う?」
問いかけの意味をリツコは悟り、近くにあったメモ用紙へ何事か書き始める。やがてその手が止まり、リツコは用紙をミサトへと差し出す。そこには、人類補完計画と書かれていた。
「どういう意味?」
「司令の目的がユイさんとの再会だったように、彼らには彼らの目的があるの。そのためにネルフは何と戦ってきた?」
「使徒?」
「ええ。そういう事よ。つまり、時計を進めようとしているんでしょう。私達を利用して」
「使徒を倒す事で目的に近付く? そして、彼はレイに似てるって事は……まさか」
「使徒、でしょうね」
ミサトは思わず息を呑んだ。有り得るのかそんな事がと、その顔は言っていた。それでもリツコへ尋ねる事をしないのは、レイがいるからだ。レイもそういう意味では使徒に近い。それが今はリツコの娘として愛され、また彼女を母として慕っている。そこから考えれば人間と同じ姿を使徒がとってもおかしくないと言えたのだ。
「……シンジ君達に伝えるべき?」
「私は言わない方がいいと思う。シンジ君達に要らぬ先入観を与える事になるわ」
「動揺や恐怖から何かされるかもしれないって?」
「それもあるけど、これを私は使徒との最後の戦いに出来るかもしれないと思っているの」
そのリツコの言葉にミサトは疑問符を浮かべる。言っている意味が分からないからだ。リツコも伝わると思っていないのだろう。小さく苦笑して説明を始める。それはこれまでの使徒の動きから彼女が推測した事だった。シンジが初めて精神攻撃を使徒から受けた事。そこから始まったと思われる使徒の変化について。
「あのディラックの海でシンジ君は使徒と会話をしている。これを覚えておいて。それと、使徒には恐ろしい程の進化する力が、成長力がある事も」
「それで? どうしてそれが」
「慌てないで。シンジ君が使徒と会話したと見られる戦いの後、使徒はどう動いた?」
「どうって……参号機を乗っ取ったでしょ。で、次は凄まじい力を持った使徒」
「ストップ。そこまでが使徒の直接的進攻の終わりなの。つまり、自分達を倒してきた相手が自分達と近しいと知って、ならばとその上をいくだろう存在を生み出した」
リツコの言葉にミサトも小さく声を漏らした。そう、今の彼女は知っている。エヴァが何から生まれたかを。ならばリツコが何を言おうとしているかも何となくではあるが察する事が出来た。使徒は力ずくでこちらを何とかしようとするのを諦めた。その理由は初号機に負けた事。それも一度は勝てる寸前まで追い詰めた相手に。もし人ならば、そこから何を考え何を学ぶ。それをミサトは察したのだ。
「なのに勝てなかった、か。その要因がパイロット、つまり人間にあると考えた?」
「私はそう思うわ。だから次の使徒は人の心を探ろうとした。要するに人間を理解しようとしたのよ」
「そして、それが失敗したから次は取り込もうとした?」
「ええ。だけど、それをレイと参号機が受け止めた。これで使徒は次の動きに出たと考えられる」
「というと?」
読めてはきたがまだ完全理解には程遠い。ミサトの声はそれを如実に表していた。なのでリツコは一度深呼吸をしてから告げる。それは、彼女には中々言い辛い内容。
「レイは使徒に近いと知った。だから対話をしに来る可能性がある。自分達と近しい存在を受け入れ過ごしている私達に、ね」
「対話……それで最後の戦いに出来るかもしれない、か」
二人がそんな推測を話している頃、司令室では同じような話題でゲンドウが冬月と話をしていた。既にリツコから渚カヲルについての推測を聞かされていたからである。
「ここにきて、老人達も動いたか」
「ええ。もう待ちきれなくなったのでしょう」
シンジの父となったあの日以来、ゲンドウは冬月と二人だけの場合は言葉遣いが丁寧に変わった。それは彼なりの変化の表れ。自分は人の上に立てるような人間ではない。その気持ちがかつて大学の教師であった冬月への敬意を払わせる事に繋がっていた。その二人の視線の先には、リツコがミサトへ見せた物と同じ物がある。フォースチルドレンの個人データだ。
「渚カヲル、か。綾波レイに対しての名付けならば中々洒落た事をするな」
「それはどうでしょう。単なる偶然かと思いますが」
「どうしてそう思う?」
自分の意見を否定したゲンドウへ、冬月は不思議そうに問い返した。するとゲンドウは一枚のメモ用紙を手にし、そこへ文字を書き始めた。そこには、渚という漢字の後ろに=が書かれ、カタカナのシに者と言う漢字があった。
「これは?」
「シ者。つまり使者と言う事ですよ。おそらく最後の、ね」
あっさりと告げられた言葉。その意味する事に冬月は大きく息を吐いた。
「老人達も持っていたのか。いや、用意していたとみるべきだな。それでどうする?」
「どうもしません」
「何?」
「冬月先生、お忘れですか? ここにはレイを変えた存在がいます。ならば、下手な手を打つよりもその方がいいでしょう」
シンジの事を言っていると理解し、冬月はゆっくりと苦笑した。まさか使徒と思われる相手に対し、子供の心で立ち向かおうとは思いもしなかったからだ。だが、その結果は既に彼自身も目の当たりにしている。故に冬月は何を馬鹿なと言えなかった。
「力で勝てぬとしても、知恵、心でなら勝てると?」
「勝つ必要などありません。負けなければいいのです。シンジは以前私へ言いました。守りたいと。守る事は勝つ事ではなく負けない事です。あいつなら、私の自慢の息子ならば使徒に決して負けません」
「はっはっはっ……自慢のときたか。碇、お前はやはり変わったよ。それもいい方向にだ。お前だけではない。気付けば彼と関った者達が多かれ少なかれ変化している。教師をしていた者としては驚く限りだよ。特にお前を変えた事など、凡百の指導者よりも凄い事をやってのけているのだからな」
「止めてください。分かってはいますが、そこまで言われると」
「何を言っている? 苦労したのだぞ。あの頃のお前ときたら碌に面識もない私を」
このままだと過去の若さゆえの過ちを穿り返される。そう判断したゲンドウは大きく咳払いをすると、会話を終わらせるためにこう告げた。
―――フォースチルドレンに関しては、シンジ達との接触の結果を見てから考えますのでそのつもりで。
―――分かった分かった。ふっ、まさかこんな日が来ようとはな。長生きはするものだ。
そしてその日は来た。ネルフ本部への呼び出し。それを受けてやってきたシンジ達を待っていたのは、困った表情のミサトと彼らの通う中学の制服を着た見慣れぬ少年。それがどういう意味かを真っ先に悟ったのはアスカだった。
「何? 新しいチルドレン?」
「そうよ。自己紹介、よろしく」
「分かりました」
ミサトに促され少年は笑みを浮かべる。その肌の色と目の色はシンジとアスカの大事な存在と同一だった。そしてその相手である彼女は、目の前の少年を何とも言えない顔で見つめている。
「僕の名は渚カヲル。カヲルでいいよ。碇シンジ君、惣流・アスカ・ラングレーさん、綾波レイさん」
「えっと、なら僕もシンジでいいよ」
「あたしもアスカでいいわ」
「私もレイでいい」
あっさり名前呼びを許可する三人だったが、その胸中は同じではなかった。シンジは純粋に同性のパイロットが来てくれ嬉しいので、アスカは名前呼びが普通だから、レイはシンジと同じ呼び方をされたくないからという三者三様の想いがそこにはある。さて、こう言われて驚いたのはカヲルである。まさかいきなりフレンドリーとまではいかないものの、どちらかと言えば好意的な反応を返されたのだ。目を何度か瞬きさせ、それから小さく笑みを浮かべる。
「そうか。なら、そうさせてもらうよ。君達はとても興味深い」
「「「「は(え)?」」」」
「おや、表現法が違ったかな? とにかく僕としても君達と仲良くしたい。これからよろしく」
カヲルの言い方に疑問を浮かべるシンジ達だが、それを見て彼は小首を傾げてそう結んだ。それならばとシンジ達は納得し、ミサトがその場を後にする。残されたシンジ達は折角なのでとカヲルへ質問を開始した。それもまた彼を驚かせる事になる。
「カヲル、あんたってもしもの時は何に乗るか決まってるの?」
「一応弐号機か参号機と言われてるね。でも弐号機は無理だろう。君だって他者を乗せたいと思わないんじゃないかな?」
「なら参号機は?」
「そちらもどうだろう? そもそも、僕が乗る必要はない事を願いたい。僕が乗る事は君達のどちらかか、あるいは両方が乗れない事を意味するからね」
もっともと言えばもっともな意見にシンジ達も返す言葉はない。ならばと話題を変えたのはシンジ。
「じゃ、カヲル君は嫌いな食べ物とかある?」
「嫌いな食べ物? そんな物を聞いてどうするんだい?」
「えっと、まあ無難な質問ってやつだよ」
カヲルの言葉に少しだけ回答をはぐらかせるシンジを見て、アスカとレイは瞬時にその意図を察した。
「あー、そういう事ね」
「ええ、碇君らしい」
「おや、君達は分かるのかい?」
「「ええ」」
「教えて欲しいけど、どうやら無理そうだ」
とてもいい笑顔で声を返したアスカとレイに笑みを浮かべ、カヲルは諦めるようにそう答えるとシンジへ視線を向ける。その赤い瞳が彼の瞳を捉える。
「シンジ君も教えてはくれないみたいだしね」
「あ、あはは……何の事かなぁ」
「いいさ。それに嫌な感じはしない。なら、きっといずれ分かるんだろう。それまで待つとする。それと嫌いな物は特にないよ」
「な、何かごめんねカヲル君」
「気にしないでいい。今の君達はとても好意に値するから」
笑みを見せたままカヲルはそう告げて立ち上がる。そしてそのままブリーフィングルームを出て行った。残される形となったシンジ達は顔を見合わせる。
「何か不思議な奴ね」
「ええ」
「仲良くなれそうではあるけど……」
「なぁ~んかこっちを見る目がおかしいのよねぇ」
「私達を通して別の何かを見ている気がする」
レイの表現にシンジとアスカが納得するような声を出した。と、同時にどうしてレイがそんな事が分かるのかとも思ったのだろう。疑問を眼差しに宿して彼女を見つめた。レイもそうなるだろうと予想していたのだろう。実にあっさりと答えを告げる。
「碇司令が昔似たような眼差しをしていたわ」
「あ~……」
「? どういう事よ?」
理解出来るシンジと出来ないアスカ。その反応にレイは微かに笑い、説明をシンジへ委ねる事にした。何故なら彼女もそう見られていた事は分かっても、それが誰かまでは明確に知らないからだ。見当は付いているが念のためというやつだ。
「碇君、教えてあげて。私も絶対の自信はないから」
「えっと、母さんだと思う。父さんが言ってたんだ。綾波の声や顔が母さんに似てるって」
「……うん、それを聞いたのが今で良かったわ。じゃないと、あたしシンジのパパの事絶対変な目で見てた」
アスカの言葉にシンジは反論出来なかった。何せ彼も一度ゲンドウの事をロリコンと思った事がある。故にアスカの気持ちは分からなくもなかったのだ。そんなシンジとアスカとは違い、レイは予想が当たっていた事を喜びつつ、ならばと考えていた。
(彼は一体私達を通して何を見ていたの? それに、何故か彼は私に近いものを感じる……)
その後はシンジの発案でカヲルの歓迎会の話し合いが始まり、アスカとレイもならばヒカリやトウジ、ケンスケなども誘おうとなって、ならば日を改めて六人で話し合いをする事に決まった。そんな事を知らず、カヲルは一人本部内の廊下を歩きながら鼻歌を口ずさんでいた。
(綾波レイ、か。彼女は僕と同じはずなのに違うと分かる。それが彼らとの時間だとすると、僕はどうするべきだろう? アダムの分身達さえ僕の手には余るしね)
弐号機は既にその魂が覚醒している。参号機はそのコアに使徒を取り込みカヲルでさえ制御不能。初号機は言うまでもない。そういう意味で彼は手詰まりに近かった。彼を送り込んだ者達の意図する事を進めるには、今のカヲルは少々力不足であったのだ。
「……今は流れに任せてみよう。彼らが作る流れに、ね」
どこか楽しげに呟きカヲルは歩く。その鼻歌の通り、自らの運命をシンジ達へ委ねるように……。
「渚カヲルです。よろしく」
美少年であるカヲルの編入にシンジのクラスはアスカの時と同様か、あるいはそれ以上に騒ぎとなった。それは騒いだ人数ではなく上がった声量の高さでだが。女子の黄色い声は男子の声よりも周囲へ響くためだ。シンジを始めとする男子達が耳を塞ぐ中、カヲルは平然と女子達の相手をする。その光景を眺め、アスカとレイにヒカリは固まって女子トークを展開していた。
「ヒカリは騒がないの?」
「う、うん。だって、と、トウジがいるし?」
「そういうものなの? じゃ、世の中のタレントなどに騒ぐ人は相手がいない人?」
「そ、そんな事はないけど……アスカとレイはやっぱり?」
「「他に理由いる?」」
「ふふっ、ないよ。ていうか、それならこっちの答えも分かるでしょ」
ヒカリの言葉にしてやったり顔で笑うアスカとレイ。彼氏持ちとなった三人は楽しげに会話しながら休み時間を過ごす。一方のシンジ達と言えば少々複雑であった。
「センセ、あの転校生と知り合いか?」
「う、うん。父さんの仕事関係で」
「へぇ、なら親父さんの会社で会ったのか?」
「そんな感じ。ここの制服着てたから同級生になるとは思ってたけど……」
「まぁ、まさかクラスまで同じとは思わんわなぁ」
シンジとトウジは共に彼女持ちである。こう見ればケンスケだけが除け者だ。だが、ネルフの事を知らないという面ではシンジこそが除け者である。三人して共通の話題は自ずと限られるので、シンジは意図的にカヲル関連の話題を振っていた。
「それで、僕が父さんの部屋へ引っ越した事は話したよね? そこでカヲル君の歓迎会みたいな事をやろうと思うんだ」
「「歓迎会……」」
「うん。アスカや綾波、委員長と僕らで準備してさ」
そのメンバーを聞いてケンスケが若干ジト目をシンジへ向ける。
「シンジぃ、それだと俺が悲しい事になるんだけどぉ?」
「あ、その……」
「しゃーないやろ。それに、綾波と惣流の両手に花なんてのは、センセぐらい腹括らんと棘が刺さるで?」
「「棘……」」
トウジの例えにシンジはレイを、ケンスケはアスカを思い浮かべる。この辺りはまさしく事実を知る者と知らぬ者の差だろう。シンジが経験した棘と言えば、間違いなくあの口をきいてくれないレイであり、外から見ているケンスケとすれば、棘がありそうなのはアスカだからだ。
「とりあえず、ワイはええで。ヒカリも多分参加するやろ」
「俺も参加するだけするさ。あの転校生と傷を舐め合う事にする。はぁ、渚が女子ならなぁ……」
「あ、あはは……」
ケンスケの本音がこもった嘆きにシンジは苦笑いを浮かべるしかない。と、それを聞いたトウジが腕を組んでカヲルを一度だけ見やり、それからケンスケへ視線を戻してニヤリと笑った。
―――何なら女装でもしてもろうたらどうや?
ほんの冗談のつもりで言った他愛ない一言だったろう。現にシンジはそんな事を言ってと少し呆れていた。だが、ケンスケはその言葉に真剣な眼差しをしたかと思うと女子に囲まれているカヲルを見つめる。そして、そのまま無意識に呟いたのだ。上手くすれば両方に売れる、と。無論それが何を意味するか分からぬ二人ではない。こうしてケンスケは、シンジとトウジからカメラを壊されないように気を付けろと忠告される事になった。ただ、そう言いながらも二人も思っていたのだ。知らぬ者ならカヲルの女装は騙されるだろうと。
そうこうして時間は過ぎていく。この日の昼休みは久しぶりに大人数となった。登校初日であるカヲルを購買へ案内する事も兼ねての昼食会となったためである。ケンスケも、秘密裏に小遣い稼ぎの交渉をするべくカヲルへの接近を試みたかったのだ。
「いつもこうしているのかい?」
屋上で座りそれぞれに弁当を広げる光景を見て、カヲルが不思議そうな顔を見せた。彼の正面にシンジ、その両隣をアスカとレイ、アスカの隣はトウジが座り、レイの隣にヒカリが座る。ケンスケは本来であればカヲルの位置だが、今回は彼がいるのでトウジの横にいた。
「えっと、普段は僕とアスカに綾波かな。トウジと委員長は違う場所でケンスケは最近は教室」
「好きでそこで食べてる訳じゃないけどな」
「ええやんか。男同士で馬鹿話出来るって喜んどったやろ」
「そうでも思わないと悲しくなるんだよっ!」
どこか悔しさを秘めた叫びにシンジとトウジが何とも言えない顔をする。分かるのだ。彼らも、もし相手がいないままで親しい友人が彼女を持ち、しかも仲睦まじく食事をしているのを見せられたらと。
「……相田君は悲しいのかい?」
「渚は違うだろうけどな。俺、モテないし」
「モテない……? ああ、異性から慕われないって事かい?」
ザクリと音が聞こえた気がした。ケンスケを刺し穿つ無垢な槍。その一撃は思春期男子を沈黙させるに十分な威力を持っていた。シンジ達全員がカヲルを見てそれはないと言う表情を浮かべる程に。
「……僕は何か不味い事を言ったのかい?」
一斉に首を縦に振るシンジ達。それがどうしてか分からぬまま、カヲルはならばとケンスケへ視線を向ける。
「その、すまないね相田君。僕は君を傷付けてしまったようだ」
「……いや、いいさ。その代わり一つだけ頼みを聞いてくれれば」
「頼み?」
「ああ。大した事じゃない。それについてはまた後で」
ケンスケの企みを知っているシンジとトウジはそれに苦い顔を浮かべ、知らぬでも察する事が出来るアスカ達は呆れ顔を浮かべる。それでも止めないのは彼らなりにさっきのカヲルは言い過ぎだと思っているからだろう。なのでせめてと全員を代表してアスカが告げる。
「相田、程々にしておきなさいよ? カヲル、どうも世間ずれしたとこあるみたいだから」
「分かってるよ。精々女子が喜ぶ程度のものにするさ」
「……ねえトウジ。女子が喜ぶってどんなの?」
「知らん。それは女子に聞くべきやセンセ」
正論であった。だがシンジは知っている。トウジは出来ればヒカリに聞いてもらいたいと考えている事を。なので苦笑しつつ視線をヒカリへと向けた。
「委員長、どういうの?」
「え? そ、そうだなぁ……やっぱり渚君は色白だから王子様みたいな感じ?」
「ま、そういう路線が一番受けがいいんじゃない?」
ヒカリとアスカの意見を聞いて、いつの間にかケンスケが何度も細かに頷きメモを取っていた。シンジはそんな彼に小さく呆れつつ笑う。と、唯一意見を言わなかったレイが小首を傾げて問いかけた。
「王子様って童話とかの?」
「せやな。この場合はそんな感じやろ」
「馬に乗るの?」
「乗馬、だったかな? さすがにそれは無理だよ」
レイの言葉に全員が目を点にする中、カヲルだけが素直に受け応える。それにシンジ達は揃ってため息を吐いてこう思った。カヲルはレイに似ていると。それがある意味で正しいと知らないまま、彼らはやっと食事を始める。ケンスケと同じ弁当を買ったカヲルが中身を知らず、食べる都度あれこれと彼へ問いかける一幕があったものの、終始賑やかに穏やかに昼休みは過ぎる。
「渚って外国暮らしだったのか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「いや、いくら何でも知らない事多すぎだろ。せめてハンバーグぐらい」
「相田君、私も碇君やアスカと食事するまでハンバーグの事、知らなかったわ」
すかさず割って入ったレイの言葉にケンスケは「マジ?」と呟いてシンジとアスカを見る。そんな彼へ二人がゆっくりと頷いた事でケンスケもそういう人もいるのかと納得する事にした。一方のカヲルはそんな会話などどこ吹く風とばかりに弁当を食べる。すると、その表情が不思議そうなものへと変わった。
「ねぇシンジ君。このハンバーグという物にかかっているのは一体何だい?」
「え? 大根おろしを混ぜたポン酢だと思うよ?」
「あー、おろしポン酢ね。あたし、それ好きよ。お肉をさっぱり食べられるもの」
「そういえば、豆腐ハンバーグを作った時にかけて食べたわ」
懐かしむようなレイにヒカリが小さく驚く。彼女はそんなレシピを教えた事はないからだ。
「へぇ、レイってそんな物も作れるんだ」
「ええ。碇君に教えてもらったから」
「は~、センセはさすがやな」
「そ、そんな事ないよ」
「つうか、シンジって今も家事やってんだろ? もう主夫だよな」
ケンスケの指摘にシンジが照れながら頬を掻く。彼自身はもうそれに関してそこまで思う事はない。しかも、今は父親との男二人の暮らしともあって、ミサトとの暮らしよりもある意味では楽だったのだ。特に精神的な解放感が強い。いつかの加持との日々も似たようなものを感じていたが、ゲンドウとの暮らしはまた違った意味で楽しいのもあるだろう。
「そうかもしれないけど、僕がしたくてやってるとこもあるからね。いつか一人暮らしとかもしてみたいし」
「一人暮らしなぁ。ワイも憧れはあるけどやなぁ」
「何言ってんだよ。トウジは委員長と同棲だろ?」
「「っ!?」」
「相田、あんたね。分かっても言わないでいるもんでしょそれは」
アスカの呆れたような声にヒカリが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「そ、そんな事ないからっ! と、トウジと二人で暮らすなんて……」
「せ、せやっ! ワイらは清く正しい付き合いを」
「あ、でも知り合いのお兄さんみたいな人が言ってたけど、結婚を考えてるなら同棲は諸刃の剣だって言ってたよ?」
シンジのその言葉に全員が疑問符を浮かべた。その理由は様々だが、共通しているのはその話の続きを望んでいる事だろう。なのでシンジはあの数日間で加持から聞いた話を少しだけ教えた。同棲は共同生活となるので結婚生活の予行練習になる。だが、そこで今まで見えてこなかった相手の私生活での面が見えるので、マイナス査定が始まるのだ。こんなとこもあるんだと嬉しくなったり喜んだりする事よりも、嫌になったり困ったりする事の方が増える可能性が高いと。
「デートとかの短い時間だと、相手へ良い面しか出さないようにするから中々気付けないけど、一緒に暮らすってなるとどうしてもボロが出るんだって。で、それを見て受け入れる事が出来るか出来ないかで、夫婦として続くか続かないかが決まるんだってさ」
「で、教えてくれた人は何て言ってたのよ?」
「うん。一緒にだらしない生活をしてたから精神的には続くと思うけど、社会的にはダメになりそうだから頑張らないといけないかもって思ってたら別れを切り出されたって」
それを話した加持が苦笑していたのをシンジは思い出す。そんな彼が今やミサトと再び同棲を始めているのだから不思議なものだ。だからシンジはこう付け加えて締め括る事にした。
「そんな事言ってたけど、今その人は別れた人とまた同棲を始めてる。きっとダメだって思った事も年齢で変わるんじゃないかな? だから僕はこう思うよ。今はダメでもずっとそうとは限らないって」
「今はダメでも……かぁ。そうだよな。希望を持ち続けるって大事だよ」
自分に言い聞かせるように告げるケンスケへ周囲の視線が集まる。彼が何に対してそう言っているのか分かっている者達はどこか苦笑し、分かっていないレイとカヲルは疑問符を浮かべた。こうして彼らの昼休みは終わりを迎えるのだった……。
「じゃ、後は頼んだで」
「ああ、任せとけ」
放課後となり、シンジ達は歓迎会の話し合いをするべく動き出そうとしていたが、カヲルを驚かせたいため知られる訳にはいかない。なのでケンスケが先程の写真の件を理由に彼を誘って自宅へと向かう事になった。そこには彼氏彼女となったシンジ達五人への配慮も含まれている。こうしてシンジ達が会場となる碇家へ向かうのと別に、ケンスケがカヲルと共に行動を開始したのであった。
「それで、一体僕に何をして欲しいんだい?」
「あー、まあ写真を撮らせてもらいたいんだよ」
「写真? どうして?」
「……女子に買ってもらうためさ。俺、そういうので小遣い稼ぎしてんだ」
ケンスケの言っている内容がカヲルには理解出来ない。いや、正確には部分部分は分かるのだが、どうしてそれがそうなるのかは分かっていないのだ。写真は分かるし小遣い稼ぎも分かる。だが、それが=にならないのだ。
「興味深い事をしてるんだね、相田君は」
「そうか? ま、たしかに俺らの歳じゃあまりやらないだろうけど」
「彼女達にも売るのかい?」
「惣流達か? いや、売れるはずないだろ。あいつらはとっくに意中の相手がいるしな」
「意中の……?」
「ああ、そうか。渚は知らないもんな。気付いたとしても精々トウジと委員長だろうし」
そこで足を止めてカヲルへ向き直るケンスケだったが、勝手にシンジ達の事を教えていいものかを迷っていた。こういうところが彼の真面目でいい所なのだが、残念ながらそれは普通の付き合いでは中々見えない部分である。
「渚、お前って口は堅いか?」
「口? いや、君達と同じ柔らかさだけど?」
「……お前、もしかして天然か?」
「天然? どうだろう? ある意味ではそうかもしれないね」
「……噛み合ってないな、絶対」
「ん? どういう事かな?」
「もういい。じゃ、絶対誰にも教えるなって言ったら、その約束守れるか?」
カヲルの返事に自分の伝えたい事が伝わっていない事を実感し、ケンスケはならばと伝わるであろう言い方を選んだ。きっとここにレイかあるいはシンジでもいれば懐かしく思った事だろう。それは、かつてのシンジとレイのやり取りを彷彿とさせるものだったからだ。
「そういう事ならね」
「よし、じゃあ耳を貸せ」
「それは無理だよ。僕だって痛い事は避けたい」
「…………俺の口元に耳を寄せてくれ」
「ああ、そういう事なんだね。分かった」
内心疲れを感じながらケンスケはカヲルへシンジ達三人の関係を教える。するとカヲルはその目を見開いた。
「……本当かい?」
「まあな。だからこそ誰にも言うなよ?」
「うん、そこは約束するよ。本人達へ尋ねるのはいいかな?」
「ま、それぐらいなら」
「そう。だけど、まさか彼らが……」
「驚きだよなぁ。綾波も惣流もそれを上手く利用してシンジと接してるしさ」
実際、周囲はシンジとアスカにレイが付き合っているなどと思いもしていない。精々アスカとレイがシンジを取り合っていると思っていて、だからこそ大抵の生徒は三人の間に近付く事もしないし、たまに無謀な男子がアスカやレイへ接近するも、容赦なく振られるのがお決まりなのだ。
「いつからか教えてもらえる?」
「ん? シンジ達がそうなったのか?」
「ああ。とても興味深いからね」
「……教えてもらったのは確か一月ぐらい前か。でも、もう少し前からそれらしい感じがあった気も? とにかく、最近って言ってもいいぐらいだぞ」
「そうか。ありがとう相田君。君のおかげで僕はとても楽しみが増えた」
「それはいいけど、絶対バラすなよ?」
「勿論。君との約束は守るよ」
こうしてカヲルはケンスケの部屋を訪れ、そこでミリタリーの世界へ触れる。それはいわばホビーの世界。彼が今まで触れる事のなかった物。ケンスケも興味を示した事が嬉しかったのか、饒舌に語り出した。これが普通の相手ならば嫌になったり、興味がないと突っぱねただろう。しかし、相手がカヲルだった事。それがある意味でケンスケと、そして彼の運命を変える事となる。
―――でさ、これは今から……。
―――そんな事までこだわるんだね、リリンは……。
夢中になって語るケンスケとそれをずっと聞き続けるカヲル。結局この日カヲルはケンスケの話を聞き続け、気付いた時には夜となっていた。目的の写真は撮れずじまいで、ケンスケは内心項垂れながらも、趣味の話を最後まで聞き続けてくれたカヲルにとても感謝した。そして今度こそ写真をと言った彼へ、カヲルは少し考えてこう返す。
「それよりも僕はミリタリー? その話を聞きたい。相田君の好きな事は中々興味深いから」
「マジか? じゃ、話だけじゃなく、いつか一緒に本物の軍艦とか見に行こうぜ。模型や写真じゃ伝わらないものがあるんだよ」
「分かった。その時はよろしく」
「おう。それと、俺の事はケンスケでいいぞ」
「分かったよ、ケンスケ君。僕もカヲルでいい」
「ん。じゃあ気を付けて帰れよカヲル。また明日学校でな」
ケンスケに見送られ部屋を後にするカヲル。その足が一度止まり、振り返る。もう閉まったドアを見つめ、彼は思うのだ。シンジ達以外にも興味深い存在はまだいたのだと。
(リリンは本当に分からない。アダムの分身を扱えるシンジ君達以外にも、ここまで心を動かしてくる存在がいるんだね。成程。彼女が変化する訳だ)
誰に知られる事なくカヲルは笑みを浮かべ、その場から忽然と姿を消した。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。
明けて翌日、シンジはエプロンを付けながら二つの弁当箱をそれぞれ黒と白の無地のハンカチで包み、水筒と共にゲンドウへ手渡していた。まるで新妻のようであるが、エプロンの下は制服なのでその印象を受ける者はいないだろう。
「はい、これ。白はミサトさんに渡して」
「分かった。すまんな」
「約束だったしね。じゃ、気を付けて。仕事頑張って、父さん」
「ああ。行ってくる」
シンジに見送られ部屋を後にするゲンドウ。その背を見送り、シンジはため息を吐いてエプロンを外す。ゲンドウの弁当を作る事になったため、一人分では逆に面倒だと思ってシンジはミサトの分まで作る事にしたのだ。そしてそれをゲンドウに持たせて渡すように頼む。こうしてゲンドウとミサトは周囲にシンジを通じての擬似親子と囁かれる事になるのだが、それは今は関係ない。
「さてと、僕もそろそろ準備しないと……」
既にこの部屋で暮らし始めて一週間。既に天井は見慣れてきている。ゲンドウとの時間は中々合わない事も多いが、合えば他愛ない話が出来るぐらいにはなった。というよりも、むしろゲンドウの方が話を聞いてくるのでシンジとしては嬉しく思っていた。学校での事や味の好みや好きな料理。まだまだ二人は互いの事を知らなさ過ぎる。普通の親子になるにはまだまだ会話が必要だった。
「これでよし。後は……うん、忘れ物はないね」
鞄を持ち、靴を履いて部屋を出る。最後に鍵を閉めてシンジは歩き出した。やがてその足がゆっくりと速度を落として止まる。
「おはよう、アスカ、綾波」
「グーテンモルゲン、シンジ」
「おはよう、碇君」
そう、あの引っ越し祝いの日に聞かれた登校の仕方は、結局待ち合わせをして一緒に行く事となった。さすがに恋人繋ぎをしての登校はしないものの、その距離は肩が触れ合いそうな程近い。と、その三人の足が揃って止まる。彼らの視線の先には一人の男子生徒が立っていた。
「やあ、おはようシンジ君。それにアスカ君とレイ君も」
「カヲル君、おはよう」
「おはよう」
「おはようカヲル。何? ここであたし達を待ってたの?」
「そういう事だよ。少し聞きたい事があってね」
笑みを見せてカヲルはそう返すとシンジ達を軽く見回してから、レイに視線を合わせてこう切り出した。
「耳を貸してくれるかい?」
「……いいわ」
「へぇ、君は分かるんだね」
「何が?」
「別に。独り言さ」
躊躇いなく自分へ耳を近付けるレイに微かな驚きを見せつつ、カヲルは昨日ケンスケから聞いた事の真偽を確かめた。
―――君達二人はシンジ君と特別な関係というのは本当かい?
その問いかけにレイは首を縦に振った。そして同時にシンジとアスカへ聞こえるように問いかける。
「それを誰から聞いたの?」
「僕がそれを聞ける存在に心当たりはないかな?」
「相田君?」
「ご明察」
楽しそうに返すカヲルを見てシンジとアスカは何の事か分からないまでも、きっと自分達の事だと判断した。そして挙がった名前から内容も何となくで当たりをつける。
「えっと、僕達の事を聞いた?」
「そうだよ。驚いたけどね」
「相田め、カヲルだからいいと思ったのかしら」
「僕が原因みたいなものさ。彼に悪気はないよ。責めるのなら僕へ頼めるかな?」
平然と言葉を返していくカヲルだったが、その雰囲気がどこかシンジには懐かしさを覚えるものだった。自分というものが希薄であるような、そんな印象を受けるからだろう。それはかつてのレイと同じ。まだシンジはそこまで気付いていないが、それでも今の彼はカヲルのそういう部分に感じるものがあった。
「ううん、カヲル君が他の人へ広めないなら構わないよ。別にケンスケを責めたりはしないから心配しないで」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
「それと、別にカヲル君を責めるつもりもないからね」
「いいのかい? 君達のあまり触れられたくない事だろう?」
その不思議そうな表情にシンジは小さく笑う。たしかにそうではある。だが、シンジには分かったのだ。どうしてケンスケがカヲルへ教えたのかの理由を。
「うん、でもカヲル君はからかいたいとか弱みを握りたいとかじゃなく、純粋に気になったんだよね? だからケンスケも教えたんだと思うよ。僕もカヲル君の今の顔を見てそう思うから」
そしてその答えがシンジへある事を思い出させた。それは初めて出会った頃のレイ。分からないけど気になる。そういう事を言っていた頃のレイと今のカヲルが近い気がしたのだ。だから彼はチラリとレイを見る。それに彼女も気付き小首を傾げた。
「何?」
「ん。何となく昔の綾波に似てるかもって」
「……かもしれない」
「昔のレイ、ねぇ。あたしと会った時にはもう変わり出してたんでしょ? どういう感じだったの?」
「今のカヲル君に近いよ。色んな事を知りたがって、普通なら分かる事が分からないって感じ」
その説明でアスカが納得し、カヲルは理解するように頷いた。言われたレイも思い出したのか懐かしむように頷く。そしてそのまま四人は揃って登校する事になり、カヲルはシンジ達の少し後ろを歩く事になった。四人での登校は違った意味でシンジ達のクラスの話題となる。というのも、カヲルが熱っぽい目でシンジを見ていたと面白半分で誰かが言い出した時、その渦中の人物である一人がこう返してしまったのだ。
―――僕がシンジ君へ好意を抱く事は、何かいけない事かな?
こうして教室に男子と女子の様々な感情を込めた叫びが響き渡る事となり、シンジはそれらも含めてより一層カヲルにレイの過去を重ねる事となった。クラスメイトからの、やっかみやからかいといった幾多の感情をぶつけられながらもシンジは笑みを絶やさない。何故ならその根底には悪意がないからだ。いや、あるいはあったとしても、今の彼はそこまでそれを嫌がる事はないのだろう。
(こうしていられるのが平和、なんだもんな)
誰よりも平和の重みと大切さを知る者として、今のシンジはこんな日常が愛おしかったのだ。かつて、彼はこう言った。いつまでもエヴァのパイロットでありたくはないと。その思いは消えるどころか強くなる一方である。使徒との戦いが激化すればする程、いつかの想いは高まるばかりなのだ。
「ほらほら、そこまでにしとけや。どうせお前らも転校生が友人として言うたの分かっとるやろ」
「そうよ。ほら、そろそろ先生来るから。みんな席に着いて」
ある程度したところで男子をトウジが、女子をヒカリが鎮めていく。それらを数人が夫婦と囃し立てるも、今の二人は動じなかった。
「「それでええ(いい)から早(早く)座れ(座って)」」
まさしく開き直りである。こうなるともう返す言葉もないクラスメイト達は、苦笑しながらそれぞれの席へ着く。それを合図にしたかのように担任の教師が姿を見せ、今日もシンジ達の日常が始まるのだった。
「一応参号機とのシンクロが一番高いですね」
「そうね。でも、これじゃ動かすので精一杯かも」
カヲルのシンクロテストはミサトやリツコの予想を裏切っていた。それも悪い意味で。軒並みシンクロ率が低いのだ。初号機は言うまでもなく、弐号機さえ動かす事は厳しい。参号機だけが辛うじて合格という体たらくである。この結果を受け、ミサトはリツコへ視線を向けた。
「どう?」
「……一つだけ可能性があるわ」
「そ。じゃ、それは後で聞くわ。カヲル君に上がるように伝えて」
「分かりました。渚君、聞こえる?」
マヤが呼びかけを始める後ろでリツコはミサトへ自身の推測を話し始めていた。それは参号機以外の二機のその魂が目覚めている可能性。初号機は既にそれが疑いようがないが、弐号機もあのアスカの収束フィールド使用辺りからそうかもしれないと踏んだのだ。
「つまりシンジ君とアスカのお母さんがしっかり目覚めている?」
「ええ。だから彼でもその二機とはシンクロ出来ないのよ」
「じゃ、参号機は?」
「……レイが使徒を取り込んだでしょ? つまり彼以外の使徒がコアにいるとしたら、それと意思疎通は出来ないんじゃないかしら。何故なら、その使徒はレイといる事を選んだから」
リツコの考えに一定の理解を覚えつつ、ミサトはある部分が引っかかっていた。それは使徒同士の意思疎通が出来ないという点だ。それが本当だとしたら今までの使徒はどうやってその進化をしてきたのだろうと。
(いえ、そもそも使徒は一体何なの? 人間に害するものかと思っていたけれど、彼がもし使徒だとするならそうとも言い切れない? やっぱり謎が多いわね)
と、そこでミサトは思い出す事があった。使徒の分析結果である。第九使徒などはその体組織を採取している事を思い出したのだ。
「ね、リツコ。第九使徒の解析結果、教えてもらえない?」
「…………いいわ。おそらく今ならあの結果は大きな意味を持つし。後で研究室に来て」
そう返してリツコは意識を別の事へ向ける。ミサトもその目の動きを追う。その視線の先には黒のプラグスーツを着たカヲルがいた。
「どうですか?」
「ん。まあこの分だとカヲル君には参号機に乗ってもらう事になりそうよ」
「参号機、ですか。分かりました。でも、ない事を願います」
「同感よ」
ミサトもカヲルの言葉に心から頷いた。だからこそ余計に疑問が浮かぶのだ。一体彼はどうして使徒なのに人とここまで接触してくるのかと。だが、それにある事を加えると不思議と納得出来る事もある。それはレイの存在。彼女とカヲルがある意味で同じとすれば、と。
「とりあえずもう上がっていいから。お疲れ様」
「お疲れ様、ですか。はい、お疲れ様です」
どこか不思議そうな表情でミサトの言葉を反芻し、カヲルは最後に笑顔で挨拶して去っていく。その背を見送り、マヤとミサトは見つめ合う。
「何と言うか、不思議な子ですね」
「そうね。まるで立って喋る赤ちゃんの相手してるみたい」
「赤ちゃん、ですか。でも、そう言われると昔のレイみたいです」
「……マヤでもそう思うなら、そうなのかもしれないわね」
後輩の素直な感想でリツコもいよいよ確信を抱く。カヲルが使徒であり、かつてのレイのように様々な事へ興味を持ち出している事を。そして、その理由の裏には人への興味があるだろう事も。そしてリツコはミサトと共に自身の研究室へと向かう。そこで彼女へ見せたのだ。使徒の分析結果を。
「人の遺伝子とほぼ同じ?」
「ええ。構成素材は違うけれどね。今までどこか信じられなかったけど、今回の彼が何よりの証拠となるわ」
「ちょっと待って。たしかに彼はその説を裏付けるかもしれないけど、これまでの使徒はどうなるのよ?」
「ミサト、人間の肺が本来はどれだけの大きさか知っている?」
唐突な質問に面食らうミサトだが、少し考えて答えを返した。
「たしかテニスコートぐらいあるとか?」
「正確には二つ分程度かしら。つまりこの体に似合わず、肺だけでも総表面積は約70㎡。これをそのままの大きさで内包するとしたらどうなる?」
「……まさか」
「極論ではあるかもしれない。だけど、使徒は人が人の形を捨てた姿なのかもしれないと、そう考えればあの学習能力も納得出来るわ」
あまりの結論にミサトも言葉がない。だが、可能性だけならば有り得る話だ。実際今回は人間と同じ大きさで使徒が現れているのだから。
「純粋に強くなる事を考えると巨大化は簡単な方法よ。ただ踏みつけるだけでも大きな威力が出せるもの。でも、使徒はそこから様々な能力を付与してきた。そして、それらを私達は何とか退けてきたの」
「あの初号機と共にね」
「ええ。だからこそ使徒は考えたのよ。どうやって自分達の滅びを回避するか。使徒も死を怖がるのは以前本部へ侵入した使徒が証明した。つまり種としての滅びを回避するには、私達人間と共存するしかないと結論付けたんじゃないかしら?」
「使徒が……あたし達と?」
「もしくは、その可能性を模索している」
まるで自分へ言い聞かせているようなリツコの言葉にミサトも黙った。これまでの使徒戦を踏まえての推測故に信頼性は高いと言える。絶対ではないが、カヲルが使徒だと思われる以上リツコの考えは否定出来ない事でもある。そして何よりミサト自身も信じてみたいのだ。カヲルが使徒でありながらシンジ達と交流を持とうとしている事と、彼が使徒であると知らずでも関わりを持って仲良くしようとしているシンジ達を。
―――ね、どうなると思う?
―――さあ? まさに天のみぞ知るってとこじゃない?
そのやり取りは微笑みあってのものだった。可能性が良くも悪くもあるのなら、二人は揃って良い方を信じたいのだ。ゼロではない。その凄さをこれまで良い方へ転がし続けてくれた少年達を信じて。
「ケンスケ君、これは本来何のために造られたんだい?」
カヲルが見つめているのは戦自でも使われている戦車だった。昨日に引き続き、今日もカヲルはケンスケの部屋を訪れていた。今日は最初からミリタリー関係の話を聞くためだ。ケンスケは今まで誰にも興味を持ってもらえなかった事もあって、純粋に嬉しく思ってカヲルと話そうと思っていた。そこへ先制の質問だ。言うまでもないと思っていた事ではあるが、これまでの事からカヲルは本気で世の中の事を知らないと思う方がいいと考えつつある彼としては、内心呆れながらも簡単な答えを返す。
「何って戦うためだよ。軍備の一つだからな」
「何と?」
「何って……今だとあの怪物になるのか? でも、元々は人類だから……」
その呟きにカヲルが目を細めた。
「人は自分達と戦うのかい?」
「いやいや、自分達じゃないって。他の国とか他の民族とかだよ」
「同じヒトなのに?」
「ま、そりゃあ同じ人類ではあるさ。だけど、主義主張が合わない事なんてよくあるし、国が違えば利益なんかの配分やそもそもの資源量さえ違う。色々と問題が多いから防衛と侵略、両方の観点で軍備ってのは用意されるのさ」
言いながらケンスケは一冊の本を手にした。それは実際の戦車や軍艦、戦闘機などが戦う様を記録した写真集だ。その中の一ページを開いてケンスケはカヲルへ見せた。
「こういう風に、昔は戦争に使われてたんだ。今は分かり易い共通の敵がいるからそんな事もないみたいだけどな」
「……リリンは同士討ちをするんだね」
「ん? ああ、人類の事か? それ、どこの言葉だよ」
「僕の元々から知っている言葉さ。じゃあ、ケンスケ君はその共通の敵がいなくなったらどうなると思う?」
気楽な感じで問いかけるカヲルであるがその内心は違う。ある意味で彼はケンスケの答えを人類の答えとして聞こうと思っていたのだ。そうとは知らず、ケンスケは腕を組んで少し考え込んだ。そしてその結論は……。
「どっちかだろうな。また戦争の時代に逆戻りか、あるいはこのままゆっくり平和に向かっていくか」
「前者だけじゃないんだね」
「正直その可能性が高いとは思う。だけどさ、やっぱりこういうの好きだから思うんだよ。こういうのは平和だから趣味になるって。本当に戦争するようになったら、こういうのは好きなんて思えないさ。人殺しなんて俺はしたくないんだ。俺がしたいのは、あくまでフリ。それらしい気分になって、それらしい事出来れば十分なんだよ」
「……だから平和になって欲しい?」
「というより、これが趣味で終われる世界であって欲しいってとこ。実物が戦うとこは見たいけど、それが誰かを殺すとか、あるいは俺を守るとかで動いてるような状況は勘弁願いたいな」
噛み締めるようなケンスケの言葉にカヲルは呆気に取られた顔をしていたが、やがてゆっくりとその表情を笑みへ変えて頷いた。ミリタリーを趣味としているケンスケがこうなら、そうでない者達がこうでないはずがないと判断したのだ。ならばと、カヲルは次の質問をぶつける事に。
「なら、ケンスケ君はその怪物が仲良くしたいって言ってきたらどうする?」
「へ?」
「もしもの話さ。人間みたいな姿になって、君達と一緒に暮らせないかって言ってきたら」
「……正直難しいだろ。だって、今まで散々暴れて俺達を苦しめてきたんだ。それに、今は俺達と同じ姿だとしても、いつ怪物みたいになるか分からないんだろ? それじゃあ人類全体を納得させるのは無理だ」
「君達だけならどうかな?」
「俺達だけぇ? う~ん……どうだろう? 俺は正直可愛い女の子になってくれて彼女になってくれるなら」
欲望全開の解答をするケンスケだったが、カヲルからすればそれは少々理解出来ないものだった。何故性別が女性なだけでケンスケが受け入れようとするのか分からなかったからだ。
「ケンスケ君は怪物が女性ならいいのかい?」
「い~や、違うぞカヲル。可愛い女の子で、俺の彼女になってくれるなら、だ!」
「……可愛いというのは重要?」
「むしろ最低条件だ。重要なのは俺の彼女になる事」
力説するケンスケに少しだけ気圧されるカヲルだったが、そんな彼の眼差しが真剣である事を察して頷いた。本音を言っていると理解出来たからだ。
「可愛い、か。ケンスケ君からすると、それはどういう存在になるのかな?」
「可愛いかぁ……正直惣流や綾波ぐらいなら言う事ないな。てか、そういう事ならいいもんがあるぜ」
「いいもの?」
にやけた顔をしてケンスケが何かをベッド下から取り出す。それは所謂成人向け雑誌だ。それも男性向け。それをケンスケはカヲルへ見せる。彼はカヲルがそういう事へ興味を見せたと勘違いしたのだ。
―――ほら、こういうのが俺は好きなんだ。お前は?
―――僕は特に。これが可愛い?
―――いや、これは綺麗だな。で、こっちがエロい。
―――……僕には理解出来ないな。リリンの文化は奥が深いね。
傍から見れば中学生男子らしい光景かもしれない。だが、その片方は使徒である。ならば、その光景はより一層異質さを放つ。使徒がヒトと隣り合って成人向け雑誌を眺めているなどと。これも捉えようによっては平和と言えるかもしれない。この日、カヲルはケンスケから使徒としてはいらないが、ヒトとしては必要な知識を沢山教わる事となる。誰も知らぬところで、ゲンドウ達がシンジに望んだ事以上の働きをケンスケはしていた。カヲルに人の事を教えるだけではなく、年頃の男子としての常識なども教えていたのだ。それは、レイでいうリツコの恥じらい講座と同じ意味合い。
―――とりあえず、それ貸すからカヲルなりにエロい奴と綺麗な奴、それと可愛い奴を決めてこいよ。
―――分かった。やるだけやってみるよ。
知らず人を、もっと言えば思春期男子を学んでいくカヲル。その裏でシンジ達の歓迎会も準備が着実に進んでいた。カヲルに好き嫌いがない事は連日の昼食を見る事で把握していたのだ。なので気を付けるべきはむしろレイの好みだとなり、後は当日の決行を残すのみとなっていた。そうしてその日の晩、碇家の風呂場にシンジとゲンドウの姿があった。
いつかの約束であった背中を流す事。それを遂にこの日、シンジとゲンドウは果たす事が出来ていたのだ。親子二人での裸の付き合い。本来ならばとうにしているはずの事だが、それを物心ついたシンジがしたのはこの日が初めてだった。ちなみにシンジが裸眼のゲンドウを見るのもこの時が初めてとなる。それと、シンジには一つだけ気になっている事があった。ゲンドウが右手の手袋だけは外さない事だ。かつての火傷が酷く、見せたくないとゲンドウは告げた。しかし、シンジもどこかで察している。本当の理由はそれではないと。
「はぁ、いつか教えてくれるの?」
「……来たるべき時が来たらな」
「永遠に来ないとか、あるいは全て終わった後とかじゃないよね?」
「………………ああ」
「う~ん、今の父さんは信じられないかも」
苦い顔で答えながらタオルにボディーソープを付けるシンジと、何にも言えず項垂れるゲンドウの姿がそこにはある。そんな彼を見てシンジが堪らず吹き出して笑い出す。その笑い声にゲンドウもつられるように笑い、しばらく浴室に二つの笑い声が響く。やがてそれも静まり、代わりに背中を擦る音が聞こえてくるようになる。
「これぐらいでいい?」
「ああ……」
ゲンドウの背中を洗いながらシンジは知らず笑みを浮かべていた。どこかで憧れた景色がそこにはあった。父と風呂で背中を流しあう。もっと幼い頃に経験するはずの事だが、返ってこの年齢でするからこそ重みが生まれるのかもしれない。そんな風に感じながらシンジが背中を洗っていると、不意にゲンドウが話し掛けてきた。
「シンジ、フォースの様子はどうだ?」
「カヲル君? そうだね、どこか昔の綾波を思い出すよ」
「そうか。何か、その、困った事などは起きていないか?」
「特にないよ。あっ、そうだ。父さん、実はそのカヲル君の歓迎会を家でやりたいんだ。構わない?」
「……お前達を入れて四人か?」
「ううん、学校の友達も誘って総勢七人かな? さすがにクラス全員じゃ多すぎるし、まずは僕らと仲良くなって欲しいって。ダメ?」
「いや、構わん。ただし、あまり騒がしくし過ぎないようにな」
「分かってるよ。ありがとう、父さん」
背中をごしごしと洗いながら、シンジはずっと笑みを浮かべていた。ゲンドウも彼に見えないからとその表情を緩めている。親子は共に幸せを感じながら会話を続ける。途中で洗い手がゲンドウへ変わり、シンジの背中を流す事となった。
「そういえば父さん。一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
「もしも、もしも母さんと再会出来なかったらどうするの?」
その質問はゲンドウが考えないようにしていた事だった。だからこそ、質問された時ゲンドウは思った。どこまでも逃げる事を許してくれないのだなと。それでも今の彼は嫌がる事なく受け止める。そしてどこか噛み締めるようにこう返した。
「そんな事はない事を願う。だが、仮にそうなったら……」
「なったら?」
「……その時に考える。男は失敗した時の事は考えないものだ」
「カッコイイけど、それって要するに考え無しなんじゃ?」
「ならシンジ、お前はアスカ君とレイに告白する時は失敗した時の事を考えたのか?」
「ぼ、僕は考えたよ。その、すっぱり諦めるって」
「シンジ、お前はそこで二人が愛想を尽かす事しか考えていなかったな? もしどちらかに決めろと迫り、それまでアプローチされた場合はどうした?」
どこか楽しそうな口調で問い詰めるゲンドウにシンジは咄嗟に返す言葉がなかった。実際ゲンドウの言う通り、彼は二人に振られる事しか想定してなかったのだ。故にシンジは、ゲンドウの言った失敗した時の事はその時に考えるという答えを理解した。無責任に思えるが、どんな結果になっても受け止めるという覚悟でもあると分かったからだ。
その後は共に湯に浸かり、しばらく無言で過ごした。それも以前までとは違い、気まずい沈黙ではない。会話がなくとも繋がっているような、そんな感覚を感じられる時間だったのだから。だが、シンジは先程の会話で少し気になる事を思い出していた。そして、その事がきっとあまり良くない類である事を察し、彼は思い切って尋ねてみる事にした。
「……父さん」
「何だ?」
「リツコさんと、何かあったの?」
「どうしてそう思う?」
それはある意味で一番ゲンドウが聞いて欲しくない事だった。だが、どこかでシンジならば気付かないと思っていたのかもしれない。しかし、今のシンジは二人の少女を彼女としているため、そういう面でも鋭くなりつつある。故におぼろげに思ったのだ。最初の頃と今ではリツコの自分を見る目が違う事に。その理由を考えると、あの停電騒ぎの時に見たリツコのゲンドウへの眼差しが過ぎったのだ。今、彼女はゲンドウをどこか冷たい目で見ている事。それがどういう意味かをシンジなりに考えた結果である。
「リツコさんの父さんを見る目が前よりもきつい感じがするから」
「……大人の話だ。これはお前がもう少し大きくなったら話す」
「そっか。うん、分かった。答えてくれてありがとう、父さん」
「ああ」
どこか逃げるような答えではある。それでも完全に逃げた訳ではない。ゲンドウはシンジがもう少し大きくなったら話すと告げたのだ。だからシンジは感謝した。それを受けゲンドウも息を吐く。やはりどこか距離感の縮め方が分からない二人であった。
「カヲル君、いらっしゃい」
「やあ、シンジ君。今日は招待してくれてありがとう。それで、一体何の呼び出しかな?」
「カヲル、その前に靴脱いで上がってくれよ。俺が入れない」
「ああ、そうだったね」
話し合いを始めて三日目の放課後。カヲルは碇家を訪れていた。案内役のケンスケは彼の後ろに位置取り、自然な流れでカヲルを先にリビングへと向かわせる。何も知らずリビングへと向かうカヲルを見ながらシンジとケンスケは互いにサムズアップ。そして彼らも素早くその後を追った。
「これは……」
リビングには折り紙で作られた飾りと、裏が白のチラシを何枚か繋げた物にマジックで大きく”渚カヲル歓迎会”と書かれたものが貼ってあった。それに思わず立ち止まっているカヲルの後ろからシンジとケンスケが顔を出し、既に待っていたアスカ達へ目配せをする。
「せーのっ」
「「「「「「ようこそ! 第3新東京市へ!」」」」」」
揃って告げられた言葉にカヲルはやっと事態を理解出来た。これは自分を受け入れるための催しなのだと。目を何度も瞬きさせるカヲルに誰もが達成感を覚えて笑顔を見せる。
「どう、かな? 驚いてくれた、カヲル君」
「あ、ああ……こんな事は予想出来なかったよ」
「ま、そのために相田にあんたを引き付けてもらったの」
「渚君、喜んでくれた?」
ヒカリの問いかけに頷くカヲル。それでヒカリとアスカにレイが掌を合わせて笑い合う。
「「「やった」」」
「うし、じゃあとりあえず座れ転校生。今日はお前が主役や」
「トウジ、せめて苗字で呼んでやれって。な、カヲル」
「別にいいよ。それは鈴原君が呼びたくなったらで」
「聞いたかこの大人な回答。それに比べて……」
「な、何や! 別にワイはな」
「はいはい。とりあえずトウジも座って? 渚君、好きなの食べていいからね」
ケンスケへ意地になって反論しようとするトウジを宥めながらヒカリがカヲルへ料理を勧める。それを見てレイが紙皿を一枚手にして差し出した。
「これ、使って」
「ありがとう」
「はい、カヲル。これ箸ね。使える?」
「大丈夫だよ」
「飲み物は何がいいかな? 一応いくつか用意してるけど……」
「お構いなく。でも、出来れば水がいいかな」
一番の上座に座らされ、カヲルは笑みを浮かべて受け答えをしていく。その姿はどう見ても喜んでいるようにしか見えず、シンジ達は会の成功を確信した。
こうして始まった歓迎会は、カヲルからの料理の感想に始まった。それを作ったのが、トウジとケンスケの予想に反して女性陣だけと分かった途端、彼ら二人が争うように食べ始めてヒカリとアスカに説教を喰らう一幕があったものの、概ね平穏な時間が流れる―――かに見えた。カヲルがケンスケとの約束を果たそうとしなければ。
「ああ、そうだ。ケンスケ君、昨日の話なんだけど」
「ん?」
紙コップに注がれたコーラを飲みつつ、ケンスケはカヲルの方を向いた。それだけがある意味でせめてもの救いだったのかもしれない。
「君に貸してもらったこれで言われた通り、三つの要素を決めてみたんだ」
「ぶっ!?」
カヲルが鞄から出そうとしたのが昨日貸した成人向け雑誌であると理解した瞬間、ケンスケは盛大に口に含んだコーラを噴き出した。それは当然カヲルにかかり、周囲の注意を彼が手にした本から本人へと向かわせる事となった。
「ちょっと!? 何やってんのよ相田!」
「ご、ごめんカヲル! でも今のはお前も悪いぞ!」
「碇君、拭く物を貸して」
「うん、今持ってくる」
「ケンスケ、今のはないわ」
「渚君、とりあえずこれで手だけでも拭いて」
「ありがとう洞木さん。それとごめんよケンスケ君。君の本が」
「いや、それは気にしないでいいから!」
せっかく周囲の意識がそれから逸れているのだから。そんな気持ちでケンスケは返しながらカヲルに近付き、ティッシュで軽く上着を拭きながら耳打ちする。
「それ、俺以外に見せちゃダメなんだよ」
「そうなのかい? 分かった」
「あー、それは俺が受け取るって。その、また今度教えてくれ」
コーラで濡れたままの本を鞄に戻そうとするカヲルに気付き、それをそっと手に取って離れるケンスケ。それと入れ替わりでタオルを持ってシンジが姿を見せた。
「はい、カヲル君。これ使って」
「ありがとう」
「センセ、シャワー貸してやった方がええかもしれん。コーラやとベタつくで」
「そうね。着替えはシンジのシャツとかでいいだろうし、そうしたら?」
「悪いなカヲル、シンジ。俺のせいで」
申し訳なさそうなケンスケにカヲルとシンジは同時に首を横に振った。
「「別に気にしてないから」」
「……本気ですまん」
そのお人好しオーラにケンスケは余計申し訳なく感じて縮こまる。そんな彼の姿に誰もが笑った。それでこの件は終わりという合図でもある。こうしてカヲルはシャワーを借りる事となり、歓迎会もそこでお開きとなって後片付けを始める事になった。残り物を夕食に使おうとアスカとレイが詰める中、ヒカリはトウジにどれが一番美味しかったかを聞いていて、シンジとケンスケはそんな二組を眺めて苦笑する。
「惣流達、すっかり庶民染みたよな」
「そうだね。トウジと委員長もかなり親密って感じ」
「……このまま高校生になれるといいけどなぁ」
「どうかした?」
まるで大きな不安があるとばかりなケンスケの声にシンジが小首を傾げる。すると、ケンスケはそんな彼へ昨日カヲルと話した事を教えたのだ。使徒がいなくなった後、人類はどうするのか。カヲルにはああ答えたケンスケであったが、彼もあの後考えたのだ。
「シンジも知ってるだろうけどさ。あの怪物と戦ってるロボット、いるじゃないか」
「う、うん……」
まさか自分がそのパイロットなどとは思わないだろう。どこかでそう思いつつ、シンジはケンスケの言葉を待った。
「俺も直接見た訳じゃない。だけど、どうも凄い強いらしいんだ。で、思ったんだよ。あの怪物と戦ってる内はその強さは頼もしいし心強い。でも、怪物がいなくなったらその強さは恐怖でしかないんだ。だって、恐ろしい怪物さえも勝てない存在だぞ? それをどうやって恐れないでいろって言うんだ?」
「もう使えないようにすればいいじゃないか」
「うん、シンジの言う事はもっともだ。だけどさ、ここが人間の厄介なとこなんだけど、そうしたら今度はまた同じような怪物が出たらって考えるんだ。で、結局堂々巡り。これでみんなが安心して暮らせるようになるかってさぁ……」
噛み締めるような言葉にシンジも返す言葉が無かった。彼が思ってもいなかった方向からの意見だったのだ。エヴァの事を知り、自分でなければあの初号機にはならないと分かる自分達はいい。だけど、そうでない者達は違うのだと言われた気がしたのだ。
(そうだった。あの初号機が使徒と戦う時だけなんて知ってるのは一部なんだ。それに、使徒との戦いがいつ終わるかも分からないんじゃ、初号機を封印なんて出来ない……)
シンジもゲンドウと同じく考えないようにしていた事があった。それがこれだ。使徒との戦いに明確な終わりが来るのか。この時、シンジも意図せず大きな問題を突き付けられたのだった。真剣な顔で考え込み始めるシンジを見て、ケンスケは意外な表情を見せる。まさかここまでシンジが悩むとは思わなかったからだ。
「おい、シンジ。そこまでマジにならなくていいって。こういうのは俺達子供じゃなくて大人が考える問題だしな」
「……そうかもしれないけど、それでも自分の答えは出しておきたいかなって」
「真面目だなぁ。ま、そんなお前だから惣流と綾波も惚れたのかね」
最後は少し茶化しながらも褒めるようにしてケンスケは話を切った。と、そこでふと思い出す事があったのでそれもシンジへ教える事に。
「そうだ。な、シンジ。ちょっと耳貸せ」
「え?」
「実はさ……」
あのカヲルから問いかけられた、使徒が人の姿になって仲良くしたいと言ってきたらどうするか。それをケンスケはシンジへ教えたのだ。そして自分の答えも。その内容にシンジは呆れつつも同意する。彼も男だ。その気持ちは分からないでもないのだ。
「それで、カヲル君はどう反応したのさ?」
「いつもの事さ。何でか分からないって。あいつ、男だよな?」
「……だと思うけど」
そこで二人して思ってしまったのだ。実は女子と言われても違和感がない事に。そしてまるで確かめるのにうってつけな状況ではある。彼は今シャワーを浴びているのだから。無意識に二人の視線は風呂場へと向く。
「……渚カヲルは実は男装女子だった?」
「や、止めてよ。有り得そうで怖いんだ」
「そうしたら三人目の女だな、シンジ」
「からかわないでって。カヲル君は男子だから」
ニタニタ笑うケンスケへ、少しだけ顔を赤くしながら両手を振って否定するシンジ。そんな二人を眺め、アスカとレイは不思議そうな表情を浮かべていた。
「何やってんのかしら、シンジと相田」
「さあ?」
ふざけ合っている二人を眺め、やがて少女二人は揃ってため息を吐いて苦笑する。
「ま、いっか。シンジも楽しそうだし」
「そうね。同性との時間も大切だわ」
「……レイもそんな事を言うようになったのね」
「どういう意味?」
「そういう意味」
答えた後で嬉しそうに笑みを浮かべるアスカと、それを見てやや憮然とするレイ。それさえも二人には楽しい時間である。まるで姉妹かと思うぐらいの親密さを見せる二人を、トウジとヒカリが寄り添い合って見つめていた。
「惣流と綾波、ホンマ仲ええな」
「本当に。好きな人を取り合う事がないだけあるよ」
「せやなぁ。普通はケンカばっかな気ぃするけど……」
「碇君絡みでは、被害はほとんどその本人だって」
「……それもそれでどうか思うけど、本人達がええならええんやろな」
「うん」
まだたまにキス程度が精一杯で、常時恋人繋ぎなど出来ない二人ではあるが、その関係はゆっくりと進んでいる。名前で呼び合うようにして、出来るだけ手を繋ぐようになる事で。トウジはシンジの助言通りに引っ張りつつ彼女の反応を見、ヒカリはアスカやレイの助言通りに好きな気持ちを伝えてもらうようにねだる。
「トウジもやっぱり可愛い彼女が沢山欲しいって思う?」
「思うぐらいはな。でも、ワイには無理や。センセも惣流と綾波やから出来るんやと思う」
「どういう事?」
分からないとばかりにトウジへ眼差しを向けるヒカリへ、彼は前を向いたまま答えた。
―――男が可愛い女へ目がいくんは仕方ない。でもな、傍にいて欲しい思う奴は多くはないんや。ワイは、それがヒカリで、センセは惣流と綾波やった。それだけや。
言い終わると同時にヒカリの手を握る少しだけごつごつした手。それにヒカリは顔が熱くなるのと同時に、こみ上げる喜びを感じていた。だから答えは言葉ではなく、彼と同じく行動とする。ヒカリはそっとトウジの腕へ体を寄せたのだ。思わず驚くトウジだったが、その行動の裏を考えて無言で立ち尽くす。そこへシンジの貸した服へ着替えたカヲルが顔を出した。
「……何だか僕のいない間に空気が変わっているね」
その呟きはどこか不思議そうで、だけども嬉しそうな声。それにシンジとケンスケがまず反応し、そして残る四人もカヲルへ意識を向ける。そんな六人へカヲルは笑みを浮かべて告げるのだ。
―――出来れば、どうすれば君達のようになれるか教えてくれないかな?
するとシンジ達はそれぞれの顔を見合わせ、ややあってから同時に笑う。彼らの反応の意味が分からずにいるカヲルへ、シンジが代表するように手を差しだした。
「大丈夫だよ。もうカヲル君も友達だから。ゆっくり仲良くなっていこう」
「友達……? 僕がかい?」
「何だよ。カヲルは俺達じゃ不満か?」
「相田、そんな聞き方はないでしょ」
「ま、本当はこないな事言わんでもなっとるもんやけどな。カヲルは言わんと分からんやろ?」
「そうだね」
「即答!? ちょっとカヲル、そこはせめて少しぐらい考えなさいよね」
「仕方ないわ。分からないものは分からないもの」
「あ、綾波が言うと説得力が違うなぁ……」
「でしょう?」
その瞬間、カヲル以外が声を出して笑った。彼はそんな光景を見て笑う。ぼんやりとだがカヲルの中にも楽しいという感情が流れたのだ。歌を歌っている時とは違うそれは、カヲルにとって好ましいものと言えた。そうして彼らは笑い合って、シンジを残して帰宅の途に着く。トウジはヒカリを送る事になり、アスカとレイは揃って離れ、必然的にケンスケがカヲルと連れ立って帰る事になった。
「じゃ、俺はこっちだから」
「そうだね。じゃあこれで」
「おう、また明日なカヲル」
「……また明日、か。うん、また明日」
手を振って離れて行くケンスケを見送り、カヲルは小さく笑う。
「リリンか僕ら。どちらかが滅ぶしかないとしたら、僕は彼らに滅んで欲しくないな。でも、きっとシンジ君達は僕を殺してはくれないだろう。どうするべきかな?」
内容は物騒だが、カヲルはそれをとても楽しそうに呟いていた。まるで意中の相手をデートに誘うにはどうすればいいのかと言わんばかりの表情で。そして次の日、彼は信じられない行動に出た。この日、カヲルとケンスケが仲良くなった事を分かったシンジ達は、今まで通りにそれぞれで昼休みを過ごそうとしていた。だが、そこへカヲルが話したい事があるとシンジ達六人を屋上へと呼びだしたのだ。
「やぁ、集まってくれて嬉しいよ。ありがとう」
屋上の端に立ち、カヲルはシンジ達を出迎えた。丁度雲が出ているのか、彼のいる場所だけ影になっている。その大仰さにシンジ達が揃って苦笑いを浮かべた。どこか芝居がかっているように感じられたからだろう。
「それで、一体何の話や?」
「大事な話みたいだけど……」
トウジとヒカリの言葉にカヲルは頷き、本当にさらりとこう切り出した。
―――僕は君達で言うところの怪物なんだけど、それでも仲良くしてくれるかい?
今日はいい天気だね。明日も晴れるかな? そんな感じの言い方だった。あまりにも軽い感じで告げられた重い内容に誰も理解が追いつかない。それでも真っ先に立ち直ったのはレイだった。彼女はどこかで彼も普通の人間ではないと感じていた故に理解もシンジ達よりも早かったのだ。
「証拠は?」
「証拠? 必要かな?」
「ええ。貴方が使徒である証拠を見せて」
レイの発言にカヲルとケンスケが同時に反応する。ただし、カヲルは理解出来ないという表情だったのに対し、ケンスケは何か疑問を感じた表情という差はあったが。とにかく、ならばとカヲルは片手を突き出してフィールドを展開してみせる。
「これで満足かな?」
そのあまりな光景にトウジもヒカリも言葉がない。しかし、シンジとアスカは違った。それでカヲルの言っている事が本当だと理解出来てしまった。しまったのだ。
「本当、なんだ……」
「カヲル、あんたホントに……」
「分かってくれたようで嬉しいよ。それで、どうする?」
笑みを浮かべたままで問いかけるカヲルにシンジとアスカは顔を見合わせる。そしてすぐに同時に頷くと屋上の中央まで歩み寄った。困惑するカヲルへ微笑みかけながら。
「カヲル君が仲良くしたいって言うなら」
「ええ、あんた次第よ」
笑顔で言い切るシンジとアスカ。さしものカヲルもその返答は予想外だったらしく、目を見開いて何度も瞬きをする。それを見ていたトウジとヒカリも小さく笑い、頷いて一歩足を前へ踏み出した。
「ワイも出来るわ。ちゅうか、昨日ダチになったばかりで縁切りとか男が廃る!」
「うん。それに、渚君が怪物って言われてもピンとこないしね」
「鈴原君……洞木さんも……」
二人もまた笑みを浮かべている。昨日の歓迎会での様子やこれまでの事。それを見ていてカヲルを怪物とはどうしても二人には思えなかったのだ。ならばとカヲルはケンスケへ視線を向けた。
「ケンスケ君はどうだい?」
「聞く必要あるか、それ」
返されたのは冷たい声。それにカヲルだけでなくシンジ達もケンスケを見た。全員の視線に晒された彼は、それでも怯む事もなくため息を吐いてカヲルを見据えた。
「いつか一緒に本物見に行こうって言ったろ? せっかくミリオタ仲間が出来そうなんだ。それにここでカヲルがいなくなったら、また俺はこの中で一人になっちまうだろうが」
「ケンスケ君……」
「ま、可愛い女の子は無理みたいだけど、趣味の話が出来る友達が出来るだけ良しとするさ」
どこか残念そうに返してケンスケは頬を掻いた。心からの答えに目を丸くしているカヲルへ、いつの間にか近付いていたレイが手を差し出す。
「これが私達の答え。それで、手を掴むの? 掴まないの?」
「……僕がいると君達が滅ぶとしても?」
「大丈夫だよ。もしそうだとしても、きっと方法はあるから」
「そうよ。最初から諦めるなんて馬鹿らしいわ。やるだけやって、それでも無理なら諦めるのよ。ま、それでもシンジは足掻くでしょうけど」
「それ、アスカもでしょ?」
「おう、どう考えても大人しく諦めるように見えんわ」
「だな」
「言ってくれるわねあんた達っ!」
「「そういうとこや(だ)っ!」」
走り出すアスカから逃げるように走るトウジとケンスケ。それを見て呆れつつ笑うヒカリとシンジ。もうカヲルの使徒発言を気にもしていない周囲に彼は取り残されたように立ち尽くす。そんな彼の視界へ白い手が入り込む。それはレイの手。未だに差し出しているのだ。その意味を理解し、カヲルは周囲の光景をもう一度見てから笑ってその手を掴む。
―――後悔するかもしれないよ?
―――しないわ。きっと碇君はしない。私の時もそうだったもの。
はっきりとした言葉にカヲルは頷き、レイに連れられるように影から出て日の当たる場所へと歩き出す。そして、放課後になるとシンジ達はトウジ達と別れてネルフ本部へ向かう。勿論カヲルの事を何とか受け入れてもらうためだ。
「父さん、もしかしたらカヲル君の事を気付いてたのかもしれない」
「どうしてそう思うのよ?」
「その、聞かれたんだ。カヲル君の様子はどうだって」
「……碇司令にしてはたしかに珍しい」
「そうね。じゃ、シンジのパパはカヲルが使徒だって分かってて放置してたの?」
「そういう事になるね。そうか、シンジ君の父親は僕の事を気付いていたのか……」
本部への道すがら、シンジがふと思い出したかのように告げた言葉はアスカ達にも小さくない驚きを与えた。もし仮にそうだとすれば、カヲルの事は思ったよりもあっさり片付くかもしれない。そんな風にシンジは楽観視していた。だが、アスカは違った。彼女はそれがカヲルの出方を窺うためだけであり、彼を受け入れる事とは別かもしれないと考えたのだ。
(ないと思いたいけど、万が一は想定しておくべきよね。レイの事を知ってるから大丈夫だと思うけど……)
そう、アスカもカヲルの告白で気付いたのだ。レイも使徒なのかもしれないと。だからこそ彼女はカヲルを受け入れたのだ。大切な親友と同質の存在かもしれないカヲルを。こうしてシンジ達は本部へと到着するや、すぐにリツコの研究室へと向かった。レイの母的立場を認めたリツコならば、すぐにカヲルを排除に動く事はないだろうとアスカが判断したためである。そして今、リツコはシンジ達からカヲルの事を説明されていた。
「……そう、彼が使徒ね」
「そうなの。お母さん、どうにか出来ない?」
「カヲル君は使徒ですけど、僕らと戦う気はないんです」
レイとシンジの懇願にも似た表情と声にリツコは小さく息を吐き、カヲルへと視線を向ける。彼は何事もないように平然とその場で立っていた。それにリツコは懐かしい雰囲気を感じ取って微かに笑う。
「ホント、昔のレイに似ているわね」
「リツコもそう思うんだ。じゃ、やっぱりそういう事なの?」
「レイ、シンジ君に話してもいい?」
「……いいわ。碇君なら、きっと受け止めてくれるはず」
「えっと……何を?」
「私の秘密。碇君にも聞いて欲しい。もうアスカとお母さんは知ってるから」
思いかけず知ってしまったレイの秘密。その重さと内容にシンジはしばらく言葉がなかった。そして、ゲンドウがどうして話したがらなかったかも理解して。だが、リツコはそんなシンジへ容赦ない事実を突き付ける。
「シンジ君、今聞いた話をお父さんへして尋ねなさい。もう隠している事はないかと」
「……と言う事はあるんですか?」
「ええ。でも、それは貴方とお父さんの二人で乗り越えるべき事。私は話す気はないから」
「分かりました。父さんに聞いておきます」
リツコの言い方で母に関する事だと理解し、シンジは気持ちを新たにした。レイが例えどんな存在だろうと人間であり愛する彼女だと決めた以上、もう立ち止まるつもりはなかったのだ。そう決意しているシンジを見て、リツコはカヲルへ視線を戻す。
「それで、貴方がいると私達が滅ぶというのはどういう意味?」
「君達リリンが使徒と呼んでいる僕らと、君達は共存出来ないはずなんだ。ただ、例外が起きたようだけど」
「……参号機?」
「そう。君があのアダムの分身の中へ僕らの仲間を取り込んだ。それは本来なら有り得ない事なんだよ」
「なら、あんたもレイに参号機の中へ入れてもらうの?」
アスカの言葉にカヲルではなくレイが首を横に振った。彼女は分かったのだ。感覚的にカヲルでは同化出来ないと。
「無理よ。あの使徒とカヲルは何かが違う」
「さすがだね。そう、僕はこれまでの者達とは違うんだ。赤木博士に分かるように言うなら、僕は始まりの存在と同義なんだ」
「っ!? まさか貴方は……」
「だから言っているのさ。僕がいると君達が滅ぶしかないってね」
「お母さん、顔色が悪いわ。大丈夫?」
「え、ええ……心配いらないわ。ありがとう、レイ」
血相を変えるリツコにレイが心配するように近寄り抱き締める。アスカはカヲルの発言とリツコのリアクションなどでその意味を考え、シンジは気が付いたら雰囲気が重くなっているので困惑していた。
「え、えっと……これはどういう?」
「シンジ君、君達の気持ちは嬉しかった。だけど、どうやら僕は生きていてはいけないようだよ」
「そ、そんな事言わないでカヲル君。最後の最後まで諦めちゃいけないんだ」
「希望、か。思えばそれこそが僕らが君達リリンに負け続けた理由かもしれないね」
「リリン? それって僕らの事?」
「そうだよ。リリスの子である君達はリリンさ」
その一言でアスカが息を呑んだ。分かったのだ。カヲルが言った言葉の意味を。
「カヲル……あんたってもしかしてアダム?」
「正解だよアスカ君。そう、僕はその魂を宿してるんだ」
「アダム? 魂を宿してるって……カヲル君はカヲル君でしょ?」
シンジの何気ないその一言でその場の全員が目を見開いた。そして、同時に笑う。アスカとリツコは当然、レイとカヲルさえも笑っていた。彼のそういう考え方こそがレイを変え、ミサトを変え、関わった者達を変えていった根底にある気持ちなのだ。
「ふふっ、そうね。たしかに彼は渚カヲルだわ。それに、シンジ君がそう思っているなら可能性は残っているもの」
「僕が?」
「とにかく、まずは渚カヲルが使徒である事と、今の所こちらと敵対する意思はない事。これを司令達にも分かってもらいましょう。カヲル君、私は貴方が私達と友好的な関係を築けるなら築きたいと思い続ける限り、決して敵対しないと約束するわ」
「僕も約束するよ。レイ君の母を自他共に認める貴方には」
こうしてシンジ達は発令所へ向かう。だが、その道中でリツコは思うのだ。カヲルを受け入れるにしろ拒絶するにしろ、待っているのは茨の道であると。
(ゼーレは彼の死を願っている。とすれば、どちらに転んでも彼らは動く。だけど、シンジ君の話が本当なら司令はそれを分かっていて渚カヲルの変化を望んでいた事になる。その狙いは何? ユイさんをサルベージするためだとは思えない……)
ゲンドウの狙いがぶれている気がする。リツコはそう感じながら歩く。彼女は知らないのだ。ゲンドウが既に以前程の熱量をユイへ向けていない事を。しかも、その切っ掛けは彼女が言った”過去だけを見なければやり直せる”という発言である事も。今、ゲンドウは何が何でもユイと再会するとは思っていない。シンジとの今を壊すぐらいなら叶わずともいい。それぐらいにまで彼は男ではなく父となっていたのだ。
発令所へ到着したシンジ達を待っていたのはミサトとオペレーターの三人だけだった。そこにゲンドウと冬月の姿はない。当然と言えば当然であるので、シンジは気にせずミサトへカヲルの事を切り出した。彼女もリツコが共にいる事で大体は察していたが、実際に目の前でATフィールドを展開されると若干ではあるが冷や汗を掻いた。オペレーターの三人もそれぞれの椅子から立ち上がり、まじまじと肉眼でフィールドを見つめていた。
「ホントに使徒なのね?」
「君達からすれば」
「ぱ、パターンはたしかに青です」
シゲルが信じられないと言わんばかりの顔をしてミサトへ告げる。マコトはあまりの事に動揺を隠せないが、それでもシンジ達がカヲルに危機感を抱いていない事。それにあの初号機が何も動きを見せない事から信じてもいいと判断していた。マヤはリツコの様子から同様の判断を下そうとしていた。
「あの、渚君?」
「何ですか、伊吹二尉」
「ほ、本当に使徒だとして、目的は?」
「一応はここにいるアダムと接触する事でした。だけど、僕自身はそれよりもシンジ君達に興味を持ったんですよ。だからもっと観察したい。でも、僕が生きる事は彼らの滅びでもある。その事をどうにか出来ないかと思っています」
淡々とした説明ではあるが、誰もが聞きたい事を話していた。第十七使徒としての渚カヲルはアダムと接触したい。ただ、渚カヲルとしてはそれよりも人類、特にシンジ達の今後を見ていたいと考えていると。
「えっと、どうしてカヲル君が生き残る事があたし達の滅びになる訳?」
「生存競争ですよ。そちらの言葉を借りれば使徒が生き残れば人類が、人類が残れば使徒がそれぞれ滅びなければならないんです。分かりやすく言えば、元々この星には僕らかそちらのどちらかだけ根付くはずだった。それが、手違いか偶然か一つの星に二つの生命が根付いてしまった。ただし、先に目覚めたのが後からきたそちらだった」
あっさりと話すカヲルだったが、それはそこにいる全員にとって簡単に聞き流せる話ではなかった。
「ちょ、ちょっと待ってカヲル君! それじゃ、僕らと使徒は天敵同士って事?」
「いや、本来なら出会うはずのなかった者達さ。だから天敵ではなく同類に近い。ただ、進化の方向性が大きく異なった。リリンは知恵を、僕らは力をそれぞれ持って生まれた」
「どうやら少し遅かったようだな」
カヲルの言葉に続いて発令所へ聞こえる声がある。誰もが視線を上に向けた。そこにはゲンドウと冬月が立っていた。
「父さんっ!」
「シンジ、どうやら本当に使徒と、いや彼と対話する事に成功したらしいな」
「……僕を利用したの?」
「いや、正確には信頼だシンジ君。君の父は、自慢の息子ならきっと使徒に負けないと言って静観を決め込んだのだよ」
どこか悲しげな顔をしたシンジへ冬月が即座に答えてフォローを入れる。ゲンドウはどこか照れくさそうに咳払いをしながら定位置へ座った。その姿にカヲルを除いた全員が呆気に取られる。
「な、完全に親馬鹿になってないか?」
「いいだろ。一人息子を気にもしない親よりマシだ」
小声で話すシゲルとマコトにマヤが小さく苦笑する。ミサトとリツコも微かに笑みを浮かべ、アスカとレイは笑顔でシンジを見た。彼は同じように照れくさそうに頬を掻きながらゲンドウを見ていた。
「話の腰を折ってしまったな。渚君、続けてくれ」
「いいのですか?」
ゲンドウへ確認を取るミサトだったが、彼はそれに頷いた。
「もう隠していられる状況ではない。ならば、ここにいる者達だけでも真実を知ってもらいたいのだ」
「……どうやら君のお父さんは本当に君のお父さんのようだね」
「え?」
「君と同じ事を考えているのさ。正確には君の気持ちを応援しているのかな?」
カヲルの言葉でシンジは思い出す。それはあの第五使徒との初戦を終えた後の出来事。ミサトやリツコに諭され意見をひっこめようとした自分を、ゲンドウだけが後押ししてくれた事だ。あの時から、やはりゲンドウは知らず自分を支えてくれていたのだ。そう改めて思い、シンジは頷いてゲンドウを見た。
「父さん、ありがとう」
「礼はいい。それは、全てが無事終わったら聞かせてもらう。渚君、すまんな」
「いえ、僕を僕として扱ってくれるのならこちらもそれ相応のお返しをさせてもらうだけです。じゃあ、続けるよ?」
その場にいる全員へ問いかけるようにしてカヲルは話し出す。エヴァはアダムの分身であり、使徒のコピーと言える事。人類はリリスという第二使徒から生まれた事。そして、アダムとリリスこそが生命の始祖である事。故にアダムの子かリリスの子しか最終的にはこの星に残れない事を。
「ただし、君の乗る初号機だけはアダムから生まれていない」
「え?」
「そうだ。初号機だけはリリスから作られている。だからこそあの変化も起きたのかもしれん」
ゲンドウの言葉にシンジはぼんやりと思う事があった。それはもしもの話。自分がこれまでの戦いで負けていたらどうなっていたのか。それを彼はカヲルへ尋ねた。
「ね、カヲル君。もし仮に僕がどこかで使徒に負けてたら」
「君達で言うサードインパクトが起こされる。そしてこの星はアダムの子が住まう場所になっていたさ」
「……カヲル君はそうしたいの?」
「正直分からないんだ。魂だけが別の肉体に宿ったからか、それとも君達と接したからか滅ぶのも滅ぼすのも気が向かない。だから可能なら共存したいんだ。あの参号機の中に同化したモノのようにね」
そう言い切ってカヲルはゲンドウを見上げた。正確には彼の右手を。それが意味する事にゲンドウは気付き、どこか申し訳なさそうに顔を背けた。その反応に一瞬カヲルは小さく驚き、すぐに笑みを見せた。どことなくそのゲンドウにシンジの姿を見たのだ。
「父さん、何とかカヲル君と一緒に生きていける方法はないの?」
「……ない訳ではない。ただし、それは成功率が限りなく低い」
「嘘……そんなのあるの?」
アスカの呟きはその場にいるほとんどの者達のものと言えた。レイはゲンドウを見つめ、そのカヲルと同じ色の瞳で問いかけた。
「碇司令、教えてください。もうカヲルは私達の友達なんです。出来るなら助けてあげたい」
「レイ……」
しっかりとした意見にリツコが感じ入ったのか少しだけ瞳を潤ませて微笑む。それはまさしく娘の成長を喜ぶ母の顔であった。ミサトもそんなリツコに気付き、似たような微笑みを浮かべた。
「その前に、君に聞いておきたい事がある」
「何でしょう?」
「消滅したエヴァ四号機。どこにあるか知っているか?」
「ああ、あのアダムの分身ですか。ええ、知っています」
間違いなく全員がどよめいた。そんな周囲に気付き小首を傾げるカヲルだったが、その理由に気付いたのだろう。ポンと手を叩いて頷いた。
「そうか。君達はあれが欲しいんだね。何ならここへ出してあげるよ。それで僕に敵対意思がない証拠にならないかな?」
「どうなのミサトさん」
「うぇ!? そ、そうね……」
まさか自分にお鉢が回ってくるとは思っていなかったのか、ミサトは素っ頓狂な声を上げて周囲を見渡す。すると、マコトが話に割って入ってきたのだ。
「ちょっと待ってください。使徒とエヴァの事は分かりましたし、彼が使徒である事も分かります。でも、どうやって彼と僕らの共存を図るんですか? どう聞いても不可能としか」
「落ち着けって。さっき言ってたろ? 参号機が第十六使徒を取り込んだって。つまり、いざとなれば似たような事で何とか出来るかもしれないだろ?」
「それでは彼の意思はどうなる? 使徒の正体が僕達と同じようなものなら、兄弟とも言えるだろ。今までのように問答無用で攻撃してきたり、あるいは共存不可能と思われる相手ならともかく、彼のような相手に僕は共存とは名ばかりの従属関係を築きたくはない」
感情的になり過ぎないように答えるマコトだが、その声には隠し切れない熱があった。真面目な彼はカヲルの知っている事を全てを明かす行為に感じるものがあったのだ。人と同じだと、そう考えて対処するべき。そうマコトは言っていた。
「真面目だな、お前って」
「よく言われるよ」
「でも、それが日向二尉のいいとこでもありますから」
呆れつつも好ましく思って苦笑するシゲルと、からかうように笑うマヤにマコトは複雑な表情を返した。そんなやり取りを聞きながらミサトはゲンドウへ意見を求める事にした。無論彼女自身の意見も添えて。
「司令、私は四号機をこちらへ渡してくれるのなら、渚カヲルは人と敵対するつもりはなく、本当に共存の形を模索していると考えていいと思いますが」
「……渚カヲル。私個人としては君を信じてやりたい。だが、このネルフを預かる人間としてはやはりまだ信じ切る訳にはいかない。それでも四号機を渡してくれるのならば、この本部内での生活を保障しよう。無論、君が使徒である事はこの場にいる者達だけの秘密としてだ」
「そこが妥協点ですか。分かりました。僕としてもシンジ君のお父さんと事を構えるつもりはありませんので。どこへ出せばいいですか?」
「赤木博士、彼にサルベージポイントを指定し伝えてくれ。それと、四号機は渚カヲルの専用機とする」
そう告げるとゲンドウは立ち上がった。そして最後にシンジ達を見つめる。
「シンジ、これからは辛い戦いになるかもしれん。それでもいいか?」
「うん。僕は守るって決めたから」
「……ならいい。私はやる事がある。葛城三佐、息子達を頼む」
「はっ!」
敬礼で見送るミサト。自然と体が動いていたのだ。これから辛い戦いになる。ゲンドウの告げた意味を彼女は分かったのだ。そして、最後の頼みの重さも。
(碇司令は、最後に息子達と仰った。つまり、個人としての頼み事。もしここへ戦自が攻めてきた時、真っ先に狙われるのはシンジ君達。そして、この発令所の人間で戦闘訓練を受けているのはおそらくあたしだけ、か。そういう事なんですね、碇さん)
これからゲンドウは司令として、父として、そして男として戦うのだろう。その相手はカヲルとの共存を良しとしない存在。そこまで考えてミサトは息を吐いた。後ろではリツコがカヲルへ四号機をサルベージする場所を教えている。
「……エヴァが四機。それで迎え撃つのは……」
「本気か碇」
『ええ。アダムがこちらとの共存を望み、それにリリスも応じました。最早補完計画は不可能と見るのが正しいでしょう』
「こんな馬鹿な話があるかっ! 使徒を殲滅するのがネルフの仕事だろう!」
『殲滅? おかしいですね。私はこう言ったはずですが? 使徒は全て倒してみせますと。相手が戦う気を無くしたのなら倒した事になりましょう』
「碇っ! 貴様ぁぁぁぁっ!」
ふざけるのでも煽るでもなく、本気でゲンドウはそう言っていた。彼も腹を括ったのだ。最愛の妻に許してもらうために、自慢の息子と笑い合うために、この世界を失いたくないと。そのために、彼は自分のシナリオさえ修正したのだ。妻と再会するためではなく、過去から繋がる今日を、未来へ残すために。
『報告は以上です。もし共存が不可能になった場合、皆様のご希望通りの展開となりますのでしばらくお待ちください』
最後までぶれる事無くゲンドウは言い切って通信を終える。裏切りどころではない。もっと深刻な状況になった。そうゼーレの者達は考えていた。何せ最後の使徒であるカヲルはその正体を見抜かれたかあるいは明かしている。そこへ来てゲンドウが切った札はあろう事かリリスの魂を宿した存在の示唆。下手な動きを見せれば彼らの長年に渡って積み上げてきた物が一瞬にして無駄になる。
「鈴はどうしたのだ! こういう時のための鈴ではなかったのか!?」
「無駄だ。既にあの鈴は自ら役割を果たせないと告げてきていた。こうなる事を予測していたとは思わんが、己が危険を察知していたのだろうな」
「どうする? 碇の奴め、こちらへ含みを持たせるような捨て台詞を吐きおった」
「どうせハッタリだ。あのサードに人と同じ姿をした使徒を殺せるものか」
その一言にキールが大きくため息を吐いた。
「では我らは、誰にあの使徒を殺させるつもりだったのかな?」
誰も何も言えなくなった。そう、もしそう思っていたのなら彼らはゲンドウ以上の大馬鹿者である。何せ殺せないと分かっている相手へ殺してくれとカヲルを送り込んだとなるからだ。その間抜けさに気付き、沈黙する者達の中でキールは一つの決断を下す。
―――ネルフを碇の手から取り返し、本来あるべき姿へ戻すとしよう。幸い槍は残っている。我らの願いはまだ死んではおらん。
不気味に動き出す黒い闇。使徒との戦いは終わりを告げたかに見えた中、蠢き出すモノがある。今はまだそれを知らず、シンジ達は目の前で行われるカヲルの仕業に感嘆の声を上げるのみだった。
―――銀色なんだね、四号機って。
―――派手な色……。
―――仰々しい感じがカヲルっぽくてお似合いじゃない。
―――それは褒められてるのかな?
ジオフロントに現れる銀色の機体。それこそ消滅したはずのエヴァ四号機。こうしてネルフは四機のエヴァと四人のパイロットを揃える事となった。だが、その機体が動く事はもうない―――はずなのだ。しかし、どこかでシンジ達は予感していた。まだ戦いが起きるであろう事を。願わくば、今度こそその戦いが最後になる事を祈って彼らは四号機を見つめるのだった……。
碇シンジは精神レベルが上がった。勇者のLVが上がった。
新戦記エヴァンゲリオン 第二十四話「最後のシ者」完
とんでもないネタバレ回。使徒と人類の戦う理由やら何やらがカヲルによって明らかに。テレビならこの後はおめでとうENDなんですが……劇場版の方向へ行くのがトゥルーだと思いますので頑張ってみます。