エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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皆さんお待ちかねの話へ。戦自の突入はどうするのか。きっとこの話の胆はそこになるんでしょう。戦々恐々としながら書いてみました。こんな話で申し訳ない。


第二十五話 Air~終わらせない世界~

 カヲルが四号機と共に改めてネルフへ迎え入れられた日の夜、シンジはゲンドウとリビングで向かい合っていた。リツコに言われた事を覚えていたからである。

 

「父さん、もう隠してる事はない? これで本当に全部?」

 

 レイの生まれや正体。それを知ったシンジであったが、それさえも彼は受け止めた。レイは人間であり彼女だとの強い想いで。だが、それとゲンドウが隠していた事は別。たしかにシンジもあの時にそれだけでいいと言った。しかし、しかしである。それでも話して欲しいとの気持ちもあったのは事実。ゲンドウもシンジの覚悟をその声から感じ取ったのだろう。大きく息を吐いて告げた。

 

「レイは、おそらくユイの遺伝子とアダムの遺伝子が結びついて生まれた存在で、その魂はリリスという使徒のものだ」

「……カヲル君と似てるのはそういう事でもあったんだ」

「ああ。きっとレイがお前に興味を示したのは、ユイの遺伝子の影響だろう」

 

 告げられたのは、意外な事実。そして、それはシンジにとって聞き流す事は出来ない事でもあった。レイに母の遺伝子が存在しているとなれば、それは倫理的に兄妹のようなものだと分かったのだ。

 

「……待ってよ、父さん……。じゃ、綾波は……綾波は僕にとっては異父兄妹みたいなものって事じゃないかっ!」

「……そうとも言えるな」

「っ! どうしてそんな事を黙ってたんだよ! 何で教えてくれなかったのっ! 綾波は僕の妹みたいなものだって」

「言ったなら、お前のレイへの気持ちは消えるのか?」

 

 激昂するシンジを遮るように放たれた言葉は、まるでシンジを諭すような声だった。ゲンドウの静かな問いかけに、感情を高ぶらせていたシンジもその意味する事に気付いて思わず息を呑む。

 

「シンジ、愛情というものは分からんものだ。永遠に消えぬと思う時もあれば、一瞬で消え去る事もある。かつての私は母さんへの愛情がそうだった。だからこそ分かったのだ。お前がレイへどれ程の想いを抱いているのかが」

「父さん……」

「これで確信した。やはりお前は私に良く似ている。外見はユイに似たが、内面は私に似たんだなやはり。不思議な感じだが、嬉しいものだ。私の血はたしかにお前に流れているか」

 

 噛み締めるように言いながらゲンドウはシンジを見つめた。

 

「渚君の件とレイの件、いやこの四季を失った世界さえ何とか出来るかもしれない。その可能性があるとして、お前はどうする? どうしたい?」

 

 真剣な眼差しで問いかけるゲンドウに、シンジも思わず表情を引き締める。いつかの母に会えるとしたらとの問いかけ。それよりも強い気持ちと熱量を感じて。

 

「答えはあの時と変わらないよ、父さん。可能性があるならやるだけだから。カヲル君も、綾波も、世界さえも守れるならやってみる価値あるよ」

「……失敗すれば全てが無に返るとしてもか?」

 

 その言葉にシンジは小さく笑ってゲンドウへ胸を張るように見つめて告げた。

 

―――忘れたの父さん。男は失敗した時の事を考えないものだよ?

 

 以前の風呂場でのやり取りのお返しをされた。そう思ってゲンドウは大いに笑った。

 

 同じ頃、アスカとレイは入浴を終え、水分補給も兼ねてリビングで何するでもなくソファに腰掛けて呆けていた。揃いのパジャマを着て、揃いのグラスで牛乳を飲む。そして同時にそれを置いた。

 

「ね、レイ」

「何?」

「同居、解消しましょうか」

 

 突然の申し出にレイは驚きを浮かべてアスカを見た。彼女はレイを見る事なく宙を見上げている。

 

「……どうして?」

「レイ、リツコと暮らした方がいいもの。ママなんでしょ? 一緒にいたいって思わない?」

 

 その言葉はアスカの気持ちだと理解し、レイは優しく微笑んで首を縦に振る。だけどすぐにこう言葉を付け加えた。

 

「でも、私はアスカと暮らしたい。お母さんとはいつか一緒に暮らせればいいわ」

「どういう事よ。普通は」

「二世帯住宅と言うものがあるって聞いたわ。お母さんは、碇君と結婚したらそうして欲しいって」

 

 あまりにも先を見すぎなリツコの意見にアスカは呆れるも、次第に沸々と沸き上がる気持ちがあった。そう、それはつまりアスカの両親を考えていない事になる。たしかに彼女の両親はドイツ住まいであるし、わざわざ移住してきたりもしないだろう。だけど、蔑ろにされたようで怒りを覚えたのだ。

 

「リツコめぇ……そもそも結婚出来ないって可能性は考えてない辺りがらしいじゃない」

「お母さんが言うには、私を受け止めきれるのは碇君ぐらいだって」

「そ、それに関してはあたしも納得するけど……」

「大丈夫よアスカ。いざとなったら私がカヲルと偽装結婚するわ。で、四人で暮らしましょう」

 

 レイのあまりにも具体的且つ厄介な発想に、アスカはその背後に何者かの影を感じた。なので片手を突き出し、待ったをかける。

 

「レイ、それ誰から入れ知恵されたの?」

「カヲル。もし世間が煩いならそういう手があるって」

「あいつ、変なとこでこの国の知識とか得てるわね。というか、レイはそれでいいの?」

「最悪構わないわ。それに、カヲルと私は似ているもの。周囲の目も誤魔化せる」

「…………うわ、お似合いの夫婦だわ」

 

 想像してみてアスカは項垂れる。突っ込み不在の夫婦となったレイとカヲルの生活を思い浮かべて。それともし自分とシンジが同居となったら、それはもう毎日突っ込みが追いつかない日々となるだろう。しかも、ほとんどが彼女の仕事だ。

 

「そう? さっき試しにヒカリにもメールで聞いたら同じ事を言ってたわ」

「でしょうよ。あのねレイ。シンジがあたし達に告白した時、何て言ってたか覚えてるでしょ?」

「ええ。だからこその最後の手段。碇君が守ってくれるのは嬉しいけど、いつまでも傷付いても欲しくないから」

「……なら、その時はあたしとじゃんけんしましょ。で、負けたらカヲルと偽装結婚」

「どちらにせよ、カヲルはそういう立場なのね」

「あいつもシンジと暮らせるならって言いそうだから怖いけどね」

 

 そう答えた後でアスカはある事に気付いてため息を吐く。言いそうも何も、彼はそれを理由にサードインパクトを回避したのだと思い出したからだ。つまり、レイへ教えた発想もそのためのもの。本気で自分達三人の人生を見守っていきたいのか。そう考えてアスカは呆れつつも笑みを見せた。

 

―――ま、そう出来るのが一番なのよね。

 

 限りなく可能性が低い未来ではあるとアスカも分かっている。どういう手段を取るにせよ、カヲルの問題を解決するのは容易ではないからだ。それでも、不思議と不安はあまりない。それは、彼女の愛する少年の存在があるからだろう。

 

 微笑むアスカへそっとレイが近寄り同じように微笑みを浮かべる。この日、二人は初めて部屋で一緒に寝る事にした。今度はレイからのお願いだった。

 

―――レイ、約束して。何があっても諦めないって。

―――アスカもね。

 

 最初は背を向け合った二人が、今や向き合って笑みを見せ合うようになっていた。その手は繋がれたまま、二人の少女は眠りにつく。その笑みも絶やす事なく……。

 

 

 

「なるほどねぇ。それが真実か」

 

 アスカとレイが眠りについた頃、ミサトの部屋のリビングで加持は彼女の口からカヲルの話を聞いていた。どこかで残念に思う反面、安堵している自分がいる事に彼は気付いている。間違いなく彼が追い駆けていれば、そこへ辿り着く前に力尽きていただろうと予想出来たからである。

 

「そ。これで少しは満足したでしょ?」

「まあな。出来ればこの目と耳で確かめたかった事ではあるが、聞いた感じ無理だったろうな」

「まず間違いなく消されてるわ。今の話だって、本来なら機密も機密よ」

「分かってる。その渚カヲルって少年が今後の争点かね?」

「どうかしら。あたしやリツコはむしろカヲル君じゃなくシンジ君とレイだと睨んでるわ。カヲル君の話や司令の言葉から、レイの魂はリリスで間違いないもの」

 

 だが、それさえもミサトやリツコにはある意味で関係ない。レイはレイだから守りたいのだし、その魂が何だろうが関係ないのだ。加持もそんな彼女の気持ちが分かるのだろう。苦笑しつつ空になった缶ビールを手にして立ち上がった。

 

「ま、何にせよだ。次の戦いが最後になるって訳だな」

「最後の最後が人間相手。シンジ君達は気にしない風だったけど、実際はそうじゃないに決まってるわ」

「だろうな。んじゃ、俺の出番かね?」

「リョウジの?」

 

 缶を軽く水洗いしながら何でもないように告げる加持へ、ミサトは心からの疑問を投げかける。彼女の声に彼は苦笑し、振り返ってこう尋ねた。

 

「俺のバイト、覚えてるか?」

「ええ」

「いや、簡単に辞めさせてくれない職場で助かったかもしれないな」

「……まさかまだ繋がりが?」

「完全に抜けようとするとヤバイんでな。だが、こうなるとそれが功を奏すかもしれない。最後の戦い、俺なりに少し動いてみるわ」

 

 真剣な面持ちの加持にミサトは胸騒ぎを感じる。それを彼も分かるのだろう。そのままの表情でミサトへ告げた。

 

「これが最後の綱渡りだ。だから心配しないでくれ。今までの俺は自分のためにそれをしてきた。だけど、今回はミサトやシンジ君達のためにする。それで失敗すれば泣かせる相手が多すぎるからな。今まで以上に失敗出来ないと発奮出来るさ」

「……危なくなったら生き延びる事だけ考えてくれていいから。例えあたしやみんなを売る事になっても」

 

 涙で滲むミサトの視界。加持は彼女の眼差しと想いに小さく笑みを浮かべ、静かに近寄るとその唇へ己の唇を重ねる。その温もりを決して忘れはしない。決して失いたくはないと互いに互いを求め合う二人。気が付けばミサトも立ち上がり、加持と抱き合ってキスしていた。

 

「……ね、今夜は一緒にいたい」

「朝まで、か?」

「出来るなら永遠に」

「そりゃ魅力的だ。だけど、それは最後の仕事の成功報酬で頼む」

「随分殊勝じゃない。成功報酬なら、貴方の血を継ぐ存在辺りが妥当だと思うけど?」

 

 微笑みながらの提案は加持の心を大きく揺さぶった。そして、それが何を意味しているかも。

 

「先渡しとは気前がいい」

「ええ、だから絶対成功させて帰って来なさい。じゃないと泣かせる理由が一つ増えるわよ」

「おお怖い。なら、泥水を啜ってでも生きて帰るさ」

 

 そこから二人は会話もなくキスをし、そのままミサトの自室へと消える。余談ではあるが、その夜、加持とミサトは最高記録を更新する。翌日、疲れ果てた男と、同じ状態ながらどこか満ち足りた女が部屋から出てくる事になるのだが、それはやはり生存本能の為せる業なのかもしれない。

 

 

 

 あのカヲルの一件があった翌日も、シンジ達は学校へ向かった。何事もなく授業を受け、いつものように昼休みは三人で屋上へと向かう。が、何故かそこへケンスケが顔を出したのだ。それもどこか真剣な面持ちで。

 

「少しいいか?」

「ケンスケ? どうしたの?」

「ん。一つ聞きたい事があるんだ。すぐ終わると思うから答えてくれると助かる」

「何よ? スリーサイズとかじゃなきゃ教えてあげるわよ?」

「アスカ、さすがにそれはないと思うわ」

 

 気楽な感じで話すアスカとレイを見て、ケンスケは何故か深呼吸をするとシンジ達を見据えて告げた。

 

―――使徒って何だ?

 

 間違いなく三人の顔に驚きが浮かんだ。そのリアクションでケンスケも何事かを察したのか、小さく「やっぱり……」と呟いて三人を見つめた。

 

「昨日、綾波がカヲルに使徒である証拠を見せろって言っただろ? で、何故かカヲルがその後やった行動でシンジと惣流はすぐ納得した。三人共知ってるんだろ? あの怪物が使徒って言う事を。どうしてだ?」

 

 そこで三人はケンスケのその推理に感心していた。僅かな情報を手掛かりに、彼は一晩である程度の確信を得て行動したのだ。どうするべきかと迷うシンジとレイだったが、アスカだけは違った。

 

「知らない方があんたのためよ、相田。これはそういう話」

「……そうか。じゃ、やっぱりそういう事なんだな」

 

 何かを理解したように呟き、ケンスケはシンジへ視線を向ける。その目はどこか寂しそうなものだった。

 

「実はさ、俺、シンジが転校してきた初日にあるメッセージを送ったんだ。あのロボットのパイロットかって」

「え……?」

「ま、どうやらその様子じゃ気付かなかったみたいだけどな。そうか、やっぱりそういう事だったんだ……」

「相田君、どうして碇君がそうだと思ったの?」

 

 当然と言えば当然の質問だ。だけど、ケンスケはそれに根も葉もない噂だったと前置いて話し出した。あの第三使徒との戦闘後、シンジは転校してきた。それと前後して、あのロボットのパイロットは自分達と変わらない年齢であるとの噂があったのだ。だが、実際来たシンジはそうと見えないぐらいの覇気の無さ。更に人を寄せ付けない雰囲気さえあった事で、早々信じる者はいなくなった事を。

 

「だけど、俺はもしかしてと思った。そういう奴って、どうしてもどこかに人と違うもんが出ると思うんだ。自信だったり、自負だったりとな。だからシンジはそういうのを隠してるのかもしれないって」

「……結果的に当たった訳だ」

「なぁ、シンジ。どうして黙ってたんだよ。そりゃ、誰彼構わず話していい事じゃないと思うけどさ」

 

 ケンスケの口調は責めるものでも疑問に思うものでもなかった。彼は、悲しく思っていたのだ。どうして一人で抱え込んだのかと、その目と声は言っていた。ケンスケも分かっている。秘密にしなければならない事だろうと。だけど、二人の彼女を作ったとさえ打ち明けてくれたのなら、それも教えてくれたっていいじゃないかと思ったのだ。

 

「ある時、こう教わったんだ。こういう事は知られずに終わるのが一番いいって。僕だって、ケンスケやトウジに話したかった。綾波やアスカには言えない弱音を聞いて欲しかった。だけどさ、僕も男だから。出来るだけかっこつけたかったんだよ」

「シンジ……お前って奴はぁ……」

 

 目に光るものを浮かべながらの本音にケンスケも感じるものがあったのか、思わず目を潤ませる。同じ男だからこそ分かったシンジの気持ち。そして見かけではなく中身の男らしさを感じたからこそ、ケンスケも何も言わなかった。ただ一言、この事は自分の胸にしまっておくとだけ返して彼は屋上を去った。

 

 その姿が見えなくなったのを確認して、アスカとレイはシンジを見つめた。彼は泣くまいとして空を見上げていたのだ。

 

「シンジ、いいの?」

「相田君はたしかに喋らないと思う。だけど……」

「いいんだ。もう使徒は現れないなら……エヴァが必要なくなる日もすぐだよ。僕らがそのパイロットだって事も、意味を無くす日は近いから」

「そうね。碇君の言う通りだわ。エヴァはもうすぐいらなくなる。私達もパイロットじゃなくなる。そうしたら、この情報に何の価値もなくなるもの」

 

 噛み締めるようなシンジの声にレイも同じような声を返す。アスカはそんな二人に同調するように頷いて、少年と同じように空を見上げた。レイもそれに気付いて空を見上げる。そこには、雲一つない青空が広がっていた。

 

「僕は、最後まで変わらない。この街を、大切な人達を守りたい。絶対に僕の見てる目の前で誰一人として犠牲になんかさせたくない」

 

 その言い聞かせるような言葉に、アスカとレイも頷いた。それは、少年の逃げ。それは、少年の覚悟。そして、それは三人の誓い。一番嫌な事から逃げるためにする、最高の逃げ方なのだから。いつだって足を前へ出す。逃げる時は後ろではなく前へ。あのミサトから言われた教えが今のシンジを作った。そのシンジが今のミサトへ変えた。人は関わり合って影響し合い、互いの形を変えていく。小さな変化の積み重ねが大きな変化を呼び、やがてそれが世界さえも変える力となる。生憎、それをシンジ達は知る事はない。だけども、どこかで感じ取っているのだ。自分がする事は決して無駄ではないと。

 

―――世の中に無駄や無価値なものはない、もんね。

 

 あの日、加持から言われた言葉を胸に、シンジは笑みを浮かべた。何があっても絶対に負けないと、そう改めて決意しながら……。

 

 

 

「僕にお話とは何でしょう?」

 

 その日、司令室にカヲルの姿があった。その視線の先には難しい顔をしたゲンドウがいる。カヲルはゲンドウから呼び出しを受けたのだ。

 

「単刀直入に聞く。アダムとリリスの融合。それによってこの変わってしまった世界を戻す事は可能か?」

「不可能ではないと思います。ただ、貴方では無理です」

「分かっている。それを成し遂げるのは私ではなくあの子だ」

「……シンジ君なら、あるいは」

「そうだ。レイと君を変え、私の目を今に向けさせてくれた子だ。未来を創るのはいつの世も子供でなければならない、か……」

 

 どこか納得するように呟き、ゲンドウは右手の手袋を外した。そこには、奇怪な胎児のような存在が蠢いている。それこそアダムと呼ばれる第一使徒。加持やミサトがターミナルドグマで見たのは、アダムではなく第二使徒であるリリスなのだ。カヲルはゲンドウの右手を見て小さく笑う。

 

「やはり貴方の手の中でしたか」

「そうだ。これを君に返しておきたい。いつがいい?」

「まだ先になるかと。その時が来ればこちらから受け取りに行きます」

「そうか」

 

 その意味する事を理解し、ゲンドウは手袋をはめ直した。そしてカヲルへ問いかける。

 

「人類は、リリンは本当に滅ぶべきではないと思うか?」

「もうそれを決める権利は僕にはありません。ただ、リリン自身にはあるかと」

「我々自身?」

「ええ。同士討ち……いえ、戦争と呼びましょうか。それをリリンが繰り返していくのなら、この星は生命の息吹を失う事でしょう。それはリリンが自ら選ぶ滅びです」

「……心に留め置こう」

「そうしてください。既にこの星でのアダムの子とリリスの子による生存競争は決着しました。後はリリン全体の問題ですよ」

「ああ、そのようだ」

 

 かつての敵であった存在からの警告。それが持つ重みと意味をしっかり受け止めゲンドウは頷いた。その頃、ミサトはある場所で言葉を失っていた。それはネルフ内にある射撃訓練場。そこにマコト達オペレーター三人の姿があったのだ。

 

「何でみんなしてこんなとこに?」

「葛城三佐と同じですよ。みんな、あの停電騒ぎの事を思い出してたんです」

「あれが本部の構造を把握するためなら、それは誰が何のためにやったか。そう考えれば思いつくのはそう多くないですよ」

「戦略自衛隊による強行突入。勿論普通なら成功しません。こちらだってMAGIを使って本部の防衛や隔壁による侵入阻止が出来ますからね」

 

 最後のマヤの言葉にミサトは悟る。以前彼女とリツコが予想した事を目の前の三人も予想したのだと。

 

「まず、MAGIのハッキングか最悪クラッキングさえも考えられます」

「それが成功するかしないかで戦自の突入が決まりますが、もし突入となれば……」

「MAGIが使えない時は、待ってるのは軍人達による素人の蹂躙です」

「それでも、せめて自衛ぐらいは?」

 

 そんなミサトの問いかけに三人は苦笑して頷いた。

 

「僕らが死んだら、いくらシンジ君達が無事でも悲しませるじゃないですか」

「なんで、せめて最低限の努力ぐらいはってね」

「私も正直人殺しなんてしたくありません。だけど、それを下手をしたらシンジ君達にさせてしまう。なら、自分だけ手を汚さないなんて出来ませんから」

 

 それぞれの気持ちにミサトは感じ入り、微笑みを浮かべて頷いた。子供だけに嫌な事をさせる訳にはいかない。その気持ちを目の前の三人も抱いてくれている事。それが嬉しかったのだ。大人として、先に生まれた者として、後から生まれた者を守ろうとする。それはとても自然な事。故に思うのだ。こういうものを見て、カヲルは人類を滅ぼしたくないと思ってくれたのではないかと。

 

「そうね。あたしとしても助かるわ。無い事を願うけど、もしもに備える事は大事だもの」

 

 少年達の知らぬところで大人達が動き出す。それは当たり前の事かもしれない。幼い者を守るために、先に生まれた者がもがき足掻く事は。だけども、それを誇る事もなく自慢するでもないからこそ、人はそれをこう呼ぶのだろう。それこそが”強さ”であり、強さは愛だと……。

 

 

 

 それから数日は静かなままだった。少なくても、表面上は。シンジ達は学校へ通い、ミサト達は来たるべき時に備えて動く。そんな中、ゲンドウは理解していた。まだゼーレが準備をしている事を。そしてその準備全てが終わった時、最後の戦いが幕を開けるのだ。人が滅びるか滅びないかを決める戦いが。よりにもよって、その人類自身の手によって。

 

 そんな中、あの男がネルフ本部へ戻った事で事態は動き出す。

 

「それは本当か?」

「間違いありません。まずはMAGIのハッキングです。どうも、向こうも失いたくはないらしいので」

 

 司令室で向き合うゲンドウと加持。互いの後ろには冬月とミサトの姿がある。加持は内務省の人間としてゼーレの動きを少しではあるが掴んだのだ。そして、彼は既に必要以上の危険へ足を踏み入れる事を良しとしない。なので戦自への簡単な仕込みだけで切り上げ、ここへ戻ってきていたのだ。

 

「各国の同時ハッキングか。決行は?」

「残念ながらそこまでは。ただ、そう遠くはありませんよ。向こうも焦っていますからね」

「おそらく司令が自分達とは異なる目的を果たすかもしれないと考えているのでしょう」

 

 ミサトの意見に冬月も頷いた。ゲンドウは少し考え、加持へ視線を向ける。

 

「それで、戦自はどうした?」

「あまり大っぴらな事は出来ませんので、指揮官クラス以上は何も。ただ、前線に立つだろう者達へはそれなりに」

「と、言うと?」

「葛城三佐や赤木博士が思いついた事を教えてもらいましてね。それを少し」

 

 悪戯を成功させたように笑みを浮かべる加持へミサトが苦笑した。本当に抜け目ないと思ったのだ。その話はたしかにしたが、それはあの気怠い朝の何気ない会話だ。それをよくも覚えていたなと感心したのである。ゲンドウと冬月はそれを知らぬが、きっと真面目な話し合いからではない事は察していたのだろう。どこか笑みを浮かべていた。

 

「具体的には?」

「あの紫色のエヴァのパイロットがどういう相手かを教えただけです。正確には流した、ですかね」

「どうせそれだけではなく、他のエヴァパイロットの事もだろう」

「かもしれません。とにかく、一兵卒からすればこれまでの初号機は自分達の理想でした。被害を最小限に食い止め、犠牲者を出さないで外敵を討つ。本当にシンジ君が優しい子で良かったですよ。論より証拠じゃないですが、過程と結果、その両方が彼の想いを伝えていますから」

 

 そう言って加持が見せたのはこれまでの使徒戦における被害報告のまとめ。その中の一部が赤のマーカーで線を引かれていた。

 

「民間の死傷者数、ゼロ。これは無視出来ない事です。ただ、これは初号機が出撃した後のカウントです。その前に亡くなった場合はカウントされていません」

「いや、それだからこそ重要だ。あの初号機は出撃すれば必ず民間人を守り抜いていたとも言える。無論避難していたからというのも大きいが、第十四使徒との戦いが物語るように、シンジは必ず犠牲者を出さぬよう戦ってきた」

「それが、民間であれネルフスタッフであれ関係なく、ですわ」

 

 ミサトの噛み締める声に頷き、ゲンドウはある手段を思い付く。それは、戦自の突入を心理的に無効化する事。つまりはエヴァパイロットの公表である。問題がない訳ではないが、戦自が突入してシンジ達を殺す事が出来なくなる方法ではあった。

 

「冬月、シンジ達がエヴァのパイロットであると公表するとしたらどうだ?」

「大混乱とはいかないだろうが、ま、世論が騒ぎ出すだろう。年端もいかぬ子供を使ってとな」

「司令、本気ですか?」

「ゼーレは戦自の中にもその息を吹きかけているはずだ。ならば、それらが動けぬようにするしかない」

「大義名分を失わせる、ですか。ゼーレは所詮裏の存在。表の政府や幕僚本部は補完計画の真実を知らない以上、どうしても世論を気にしないといけませんからねぇ」

 

 妙案だと加持が感心する反面、ミサトはシンジ達の事を思い複雑な心境だった。下手をしたら全てが終わった後、好奇の視線に晒される事になる。しかも、シンジとアスカにレイは三角関係としか思えない結びつきだ。それさえ恰好のネタになるだろう。

 

「私は賛成しかねます。それならシンジ君達の命は守れますが人生を守れるとは思えません」

「命を守れても人生は、か……」

「ミサト、命あっての物種とも言うだろ?」

「生きるっていうのはね、ただ呼吸してればいいってもんじゃないの。ちゃんと健全に幸せになれる事を生きるって言うのよ。誰かの目を気にして生きなきゃいけないなんて、生きてるって言わないわ」

 

 はっきりと断言したミサトの言葉に加持が降参とばかりに両手を上げ、ゲンドウと冬月も負けを認めるように苦笑した。三人は感じ取ったのだ。女は強いと。そして、その言葉こそが人として生きる上での正論であるとも。

 

「ならば、何がなくてもMAGIを守り抜いて本部の守りを失わないようにする事か」

「ああ、そうだ。葛城三佐、赤木博士へ伝えてくれ。最初に全てがかかっていると」

「分かりました。きっと彼女も娘のためにと奮戦してくれるでしょう」

「戦自の動きはどうします? MAGIの制圧失敗と共に動き出すでしょうが……」

「ゼーレはおそらく下士官には手を出していないはずだ。それは効率が悪いからな。そこを突く」

「現場の人間、か。たしかにそこなら上の理不尽な命令に反感を抱きそうだ」

「いくら命令に忠実と言えど、人間は機械ではない。その心と体が完全に一致しなければいくらでも隙は出来る」

 

 ゲンドウの言葉はある意味で人間というものの本質を突いていた。機械のようにはなれても機械にはなれない。どれだけ命令を遂行するように訓練しても、心を無くす事は不可能だ。もしそれが出来るのなら、それは人間である必要が無い。それこそロボットを用意する方が確実である。

 

「ましてや、彼らはそもそもが人々を守る事を仕事に選んだ者達だ。女子供へ銃を向けるなど平気なはずがない」

「そうか。攻めるべきは彼らの自衛隊としてのプライドか」

「ああ。守るべき者を殺せと言われ、躊躇いなく銃を撃てるとすればそれは自衛隊ではなくただの軍人だ。渚カヲルの時と同じで、我々は力で勝つのではなく心で勝つしかない」

 

 ゲンドウの噛み締める声に誰もが頷いた。打てる手を全て打ち、後は出来る事を精一杯やるだけだ。そう決意を新たにして。

 

 同じ頃、シンジ達は本部内の休憩スペースでいつかのように飲み物を飲んでいた。ただ、カヲルの手元にはブラックコーヒーが握られているが。

 

「……うん、僕もこれは好きになれそうにないね」

「そっか。カヲル君でも無理かぁ」

「何て言うか、やっぱり不思議よね。あんたにも苦手があるなんてさ。で、それ、どうすんの?」

「うーん……シンジ君、どうすればいいかな?」

「えっと……」

 

 差し出される缶コーヒーを見つめ、シンジは考えた。誰かに飲んでもらう事は出来ない。かと言って自分も飲み干す事は無理。と、そこで視線を自販機へと動かすと何かを思い出したように頷いて立ち上がったのだ。

 

「ちょっと待ってて」

 

 笑顔でその場から走り去るシンジを見送り、三人はそれぞれの顔を見合わせ小首を傾げる。数分後、シンジがその手に瓶と給水用の紙コップを持って現れた。瓶の正体はシャワールーム近くにある自販機で販売している牛乳だ。

 

「これで、少し薄めればまだ飲めるはず……」

「考えたわね。それで走って行ったのか」

「碇君、その紙コップは?」

「きっとこれに注いで薄めるつもりじゃないかな? さすがにここへ直接混ぜる訳にはいかないだろう?」

「そうか。それもそうね」

 

 どこかのほほんとした空気を漂わすレイとカヲルに小さく苦笑し、シンジは紙コップを一つカヲルへ手渡す。次にレイ、アスカと手渡していく。そこまでくれば三人もシンジが何を考えているか分かった。あの歓迎会の開始を告げた行動。それをまたやろうとしているのだと。

 

「じゃ、カヲル君。均等に注いでくれる?」

「分かった」

 

 缶コーヒーが紙コップの半分程注がれる。そこへシンジが牛乳を注ぎ、簡易的なカフェオレが出来上がった。

 

「えっと、カヲル君との共存を願って乾杯」

「「「乾杯」」」

 

 どこか照れながらの乾杯の挨拶。それにアスカ達も笑みを見せながら紙コップを軽く合わせる。そして一斉にその中身を口にし、同時に少しだけ表情を歪ませる。

 

「「「「苦い……」」」」

 

 揃った呟きに気付き、四人は顔を見合わせてそして笑った。笑いながらシンジは思う。こんな時間がずっと続けばいいのにと。何事もなく全てが平和に終わり、自分達がただの子供になれればいいのにと。その気持ちは他の三人も同様に。四人の楽しげな笑い声が通路内を響き渡る。それを聞いたスタッフ達が、思わず足を止めて小さく笑みを浮かべて歩き出す。誰もが願っているのだ。こんな施設に子供の声が響かぬ時を。薄暗い施設ではなく、日の光を浴びて笑っていて欲しいと。そう、誰もが願っていた……。

 

 

 

 そして、遂に時は来た。その日、シンジはいつものように学校で授業を受けていた。だが、突然彼の携帯が振動する。授業中ではあるが嫌な予感を感じてシンジは携帯を取り出す。そこには一斉送信でメールが送られていた。文面は一言。本部へ急げ。

 

「「「「先生、家族が事故にあったそうなので早退します」」」」

 

 揃って告げられる声にクラス全体が驚き、ケンスケだけがその意味に気付いて喉を鳴らす。老教師はそういう事ならと承諾し、シンジ達は弾かれるように教室を後にしていく。その背を見送り、ケンスケは即座に机の端末を操作し始める。目的は一つ。戦自の動きを探るためだ。

 

(警報は出てない。怪物はもうカヲルで終わり。なら、シンジ達が呼び出されるとしたら相手は人間しかないじゃないかっ!)

 

 あのカヲルとの会話で彼自身が恐れた事。それが現実になろうとしている。そうケンスケは確信にも似た何かを感じ取っていた。もどかしさを感じながら端末を操作し、ミリオタ関係で得た知識を総動員して様々な掲示板などを渡り歩く。そして遂に掴んだのだ。

 

「……第3新東京市を目指して戦自の部隊が動いてる……」

 

 それは、箱根を目指して動く戦自の部隊を遠くから撮影したもの。ミリオタ達には、常にこうやって戦自の動きを観察している者達が少なからずいるのだ。実際に動いているところなどを見たがる層である。

 

「嘘だろ……ホントに怪物がいなくなったら戦争する気かよ……」

「相田? どうしたの? 顔色悪いけど……」

 

 あまりにも現実が酷い事にショックを受けるケンスケに気付いたのか、隣のヒカリがそう声をかけた瞬間だった。街中に警報が鳴り響いたのは。それに慌て出すクラスメイトや教師を余所に、ケンスケは困惑するヒカリとトウジを見つめて絞り出すように告げた。

 

―――このままじゃシンジ達が人殺しにされる……っ!

 

 一方、シンジ達は本部へと急いでいた。一番近いゲートを目指して走る。と、何故かカヲルがATフィールドを展開した。直後そこへ殺到する銃弾の数々。思わず息を呑むシンジが見たのは、銃火器を手にした五人の兵士の姿。

 

「どういう事だ!? あれは一体……」

「怯むなっ! エヴァパイロットは全員射殺せよとの命令だ!」

「くそっ! この化物めぇぇぇぇっ!」

「手榴弾だ。フィールドは前面にしか展開出来ない!」

「俺がやるっ!」

 

 カヲルの後ろに隠れるようにしながら、シンジはどうすればいいか考える。だが、アスカが真っ先に気付いた。相手の行動が妙である事に。

 

(おかしい……どうして応援を呼ばないのかしら? もしくは、呼べない理由がある? そもそも、どうしてあいつらだけここにいるの……?)

 

 カヲルの能力を見た以上、普通ならば応援を呼ぶのがセオリーだ。何せ彼女達を射殺せよとの命令が出ているのだから。にも関わらず自分達だけで何とかしようとする。それがアスカにはプロの判断に見えなかったのだ。

 

「カヲル、大丈夫?」

「ああ、これぐらいなら平気さ。それと、みんな僕の近くにいてくれると助かるよ。背面までは難しいからね」

「カヲル君、ゲートまで行けそう?」

「移動しながらフィールドは張れるけど、そうすると広範囲は厳しいな」

「安全を考えると現状維持しかないって事ね」

「そうなるね」

 

 シンジ達が戦自の襲撃を受けているその頃、発令所ではリツコとマヤを中心にMAGIへのハッキングを阻止していた。来ると分かっていれば対処は可能。それがオリジナルMAGIの凄さであった。外国からの同時ハッキングを受けながらも、あの使徒からのハッキングを受けた彼らである。今更人間のそれに驚く事はなかったのだ。

 

「あの時に比べれば可愛いもんだよ……なっ!」

「ああ、まったくだ。それにカヲル君のおかげで……」

「あの使徒もこちらに協力してくれるなんて……先輩っ!」

「ええ、これで仕上げね」

 

 戦力差1:5の戦いだったが、その1は使徒とのタッグである。あのMAGIと共存を図った使徒へ、カヲルが伝えたのだ。今度ハッキングされたら死ぬと。故に死を回避するために、有ろう事か使徒は逆ハッキングを仕掛けてしまったのだ。皮肉なものである。あの時はMAGIを使って自律自爆をしてしまおうとした使徒が、今度はそのMAGIを守る力となったのだから。

 

「A-801も発令されて一時はどうなるかと思いましたけど……」

「司令が三十分後には撤回されると言った時には違う意味で驚きですよ」

「あれ、どういう事なんでしょうか?」

「さあ? 世論を敵にしたくないから言われた事は果たしたってポーズを取らせるんじゃない?」

 

 リツコの言葉通り、ゲンドウによって内閣へあの計画が伝えられていたのだ。それは、エヴァパイロットの世界への公表。更にそれに関わるいくつもの黒い内容もだ。ゲンドウは己の全てを失う事も厭わず、日本政府へ刃を突き付けたのだ。国内世論どころか国際世論さえ黙っていないぞと。そこで人類補完計画の事を追及してきた首相へゲンドウは告げたのだ。

 

―――貴方にそれをリークした存在こそがそれを企てているんですよ。第一、私がそれを企てているのならとっくに行っています。妻を実験で失った以上、ね。

 

 上手な嘘のつき方は嘘の中に事実を混ぜる事。実際、ゲンドウは出来る事ならユイを失った瞬間にサードインパクトを起こしていただろう。その冷たい眼差しと声に首相もリークを信じ切れなくなり、ゲンドウはそれを見てこう告げたのだ。相手の思惑通りに動いてくれてもいいが、三十分後に撤回してみて欲しい。それが万が一を想定した訓練だとすれば問題ない。そこで動きを止めないところに相手の息がかかっているのだと。

 

 今、ゲンドウは発令所でモニタに映し出された戦自の部隊を見つめていた。

 

「どうやら戦自の上の方だったようだな」

「ああ、さすがに政府内部は実行力はない。利用価値は小さいだろう」

「あちらは戦自を動かすための装置だからな」

「さて、現場はどうなっているんだろうか……」

 

 冬月の祈るような声にゲンドウは目を鋭くしてモニタを見つめた。丁度その頃、あの第九使徒が上陸した際の指揮官達が幕僚達へ意見具申していた。

 

「ですから、既に政府からのA-801も近く撤回する旨が通達され、理由も非常時を見越した訓練だったとの正式回答がありました! なのに何故ネルフ本部への攻撃命令が撤回されないのか、その理由をお聞かせ願いたいのです!」

『何度も言うが、所定位置までの移動を含めての訓練だ。速やかに移動せよ』

「っ! では、この時点での無条件発砲許可など必要ないはずでは? 以前から部下達には、あのエヴァパイロットが十四歳の少年少女だと言う情報が流れ、守るべき子供に守られたと悔やむ者が増えているのです。そこへ来てのこの任務です。違和感や嫌悪感を覚えている者が少なくありません。部下達を納得させるためにも、訓練であるとの発表と発砲許可の撤回だけでもお願いいたします」

『くどいぞ』

「っ!? 切れたか……」

「どういう事だ! あの第九使徒の時といい、今回といい。上はネルフをどうするつもりだ! 俺達に子供を殺せと言うのかぁ!」

 

 語気を荒げて拳を机へ叩きつける男に、もう一人の方もかける言葉がない。あの後も幾度となく使徒が現れ、一度などネルフ本部近くまで迫った。それさえも退け、未だに死傷者を出さぬようにしている初号機。それを一番見てきた彼らだからこそ思うのだ。あれと戦う事は自殺と同じだと。そして、もう一つが士気の低さである。みな、自衛隊に入った以上、その力は国を、人々を守るために使えと口酸っぱく言われてきた。それが、ここにきて子供へ向けろと言うのだ。それも、今まで彼らの代わりに国や人々を守った存在の。

 

「とりあえず所定の位置まで部隊を移動させるぞ」

「っ! 貴官、正気か? どう考えてもこれは訓練じゃない。訓練であるのなら動かしている数がおかしいし、訓練でないならばもっとおかしい。既に政府は、ネルフへの保護等の破棄は訓練であるとして撤回すると言っている。にも関わらず、そこを我々が攻撃させられる理由は何だ? しかもこの期に及んで、上は非戦闘員への無条件発砲さえ撤回していない。これが裏を考えずしてどうする!」

「落ち着けっ! ……たしかにそれはもっともだ。だが、我々は軍人だ。命令は絶対。そうだろ?」

「俺は軍人になった覚えはない! 俺は自衛隊員だっ! この体も、この技術も、全ては国を、国民を守るためにあるっ!」

 

 再度振り下ろされた拳が一際大きく響く音を立て、机にヒビを生じさせていた。それを見つめ息を呑む男へ彼は鋭い眼差しで問いかける。

 

―――貴官に自衛隊員としての誇りはないのか? 俺にはある。

 

 そう告げるや、彼は階級章をむしり取り机へ置いた。その意味を理解して男は黙る。それは上への反抗。階級を捨ててでも守るべきもののために動くと、そういう決意の表れだ。だからこそ男もため息を吐いて手を動かした。そして服に付いている階級章を外していく。

 

―――貴官だけにいい格好はさせんよ。

 

 こうしてネルフ本部を取り囲む戦自隊員へ命令の変更が告げられる。それは、これは訓練の一環であり、非戦闘員への無条件発砲不可及び自衛以外での全ての発砲を禁ずるというもの。その自衛隊らしい命令に多くが安堵の息を吐いた。そしてその命令が伝わった時、本部近くで更なる事態の変化が起きる。

 

「この辺りのはずだけど……」

「な、ええ加減話してくれてもええやろ」

「そうだよ。どうして碇君達が人殺しなんて……」

 

 何とケンスケ達がシンジ達のいる近くに姿を見せたのだ。彼は一度自宅へ戻り、ノートパソコンを使って戦自の動きから本部の位置を大体で割り出し、学校からならどの辺りへ行くかを考えて動いていた。それがよりにもよって最悪の場所へと導こうとしていたのだ。と、その時ケンスケが足を止める。つられるようにトウジとヒカリも足を止めた。

 

「あの紫のロボット、知ってるだろ?」

「おう」

「うん」

「あれ、動かしてるのシンジなんだ。それだけじゃない。綾波や惣流もだ」

 

 突然告げられる衝撃の内容。だが、トウジとヒカリはそれを信じる事は出来なかった。あまりにも突拍子もなかったためだ。しかし、ケンスケもそれを分かっていたのだろう。ならばとシンジ達にも聞いた事を話し出す。その内容に二人も顔つきが変わっていく。まさか、そんなはずはない。そう思い出したところへ、ケンスケがとどめとばかりに告げた。

 

「思い出してみろよ。ロボットが増えたの、惣流が転校してきた後だ」

 

 偶然にしては出来過ぎである。これがカヲルの事さえ無ければそれでも信じられなかっただろう。だが、ここまで状況証拠が揃ってしまうと認めざるを得ない。そう思ってトウジが息を吐いた。

 

「センセがあのロボットのパイロット、かぁ。やっぱ尊敬して正解やったな」

「最初は綾波と仲良く話してたからだったなぁ」

 

 思い出すように呟くケンスケにトウジも懐かしむような眼差しをした。そんな彼にヒカリが微笑んで声をかける。

 

「サクラちゃん、守ってくれたんだっけ」

「おう。これは改めて礼を言わんと」

「で、相田。それでどうして人殺しなの? むしろ人助けしてきてるじゃない」

「……戦自がこの街目指して動いてる。しかも、かなりの数だ。そこへ来てシンジ達の一斉早退。分かるか? 戦自があのロボットを危険視したんだ。カヲルが最後の怪物で、もう戦いたくないって思った事をどうやってか知ったんだ。そうとしか思えない」

 

 深刻な声で告げられる言葉。トウジもヒカリもその意味する事を察して息を呑む。自衛のために攻撃しても、エヴァでは殺してしまうかもしれないからだと気付いたのだ。だからといって、何もしないでいては殺されてしまう。

 

「じゃ、センセ達は……」

「ああ、このままじゃ殺すか殺されるかの二択を迫られる」

「だからって、どうするの? あたし達じゃ何の役に立てないじゃないっ!」

「いや、そうじゃないさ。むしろ、俺達だから役に立てる。戦自だって馬鹿じゃない。あのロボットと正面からやり合おうなんて思わないはずだ。俺ならシンジ達を取り押さえる」

 

 ケンスケが何を言おうとしているかを悟ったのはヒカリだった。

 

「そっか。基地みたいな場所があるだろうからそこに入ってアスカ達を捕まえる」

「なっ!? せやから戦自か!」

「そうだよ。相手はプロの軍人だ。シンジ達なんか相手にならない」

「だけど、自衛隊には違いないから民間人のあたし達で盾になる?」

「さすが委員長。頭の出来がトウジと違うね」

「あのなぁ……」

 

 歩きながら話す三人の前に遂にゲートが見えてきた。それに推測が間違っていないと確信し、ケンスケが近寄ろうとしたその時だった。三人の耳に爆発音が聞こえてきたのは。一度顔を見合わせ頷く三人。そして音のする方へ近付いてみると、そこにはフィールドを展開するカヲルと、その後ろに隠れているシンジ達を見つけた。

 

「っ!? センっ?!」

「シッ! 静かにしろって。まずは相手の注意を引いてシンジ達を助けないと」

「ん」

 

 呼びかけようとしたトウジの口を塞ぎ、耳打ちするようにケンスケが作戦を考えようと持ちかけると、彼は小さく頷いた。一方のヒカリは怖がっていたが、目の前の光景を見てある事を確信していた。

 

「渚君は化物って言ってたけど、やっぱり違うよ。だって、アスカ達を守ってくれてるもん」

「ああ、カヲルが一緒じゃなかったらやばかったな。て事は、さっきの音は手榴弾? 何てもん使いやがるんだ、あいつら。いくら命令とは言え戦自らしくないな……」

「んー」

「あ、相田? そろそろトウジの口から手を離してあげて?」

「あっ、悪い」

 

 忘れていたとばかりに手を離すケンスケを少しだけ睨むような目で見つめるトウジだったが、それもすぐに消して腕を組む。彼なりにシンジ達を助ける方法を考えようとしていたのだ。彼にも分かったのだ。あの戦自隊員達は、自分達が撃つなと言って立ちはだかっても攻撃を止めないだろうと。

 

「な、あそこへセンセ達は行こうとしとるんやろ?」

「多分な」

「ワイらであいつらへ石投げたるんはどうや?」

「そんなんじゃ倒せないじゃない」

 

 子供の悪戯か。そう思って呆れるヒカリだったが、ケンスケはその意見に真剣な表情を浮かべていた。ミリオタである彼はサバイバルゲームなども好きだった。だが、共にやる相手がいないので専ら知識ばかりだったが。だからこそ相手の注意を引く事さえ出来れば何とかなるかもと思っていた。

 

「……ありかもしれないな、それ」

「「へ(え)?」」

「とりあえず俺達はシンジ達から相手の注意を逸らす事が出来ればいい。で、こっちに意識を向けたら出来るだけ入り組んだ道へ逃げながらシェルターを目指す」

「……なら、それはワイとケンスケでやろうや。ヒカリ、お前はどこかに隠れとけ。で、あいつらがおらんなったらセンセ達と一緒にあん中逃げろ」

「っ!? やだ……やだよトウジ。あたしも一緒に」

 

 トウジの提案にケンスケも頷いたのを見て、ヒカリが泣きそうな顔で首を横に振った。その涙にトウジが苦い顔をするものの、その両肩へ手を優しく置いた。

 

「分かってくれ。これは男としてのお願いや。彼氏として、大切な女だけは守りたい」

「トウジぃ……」

「委員長、頼むよ。俺もこんな危ない事へ連れてきて何だけどさ、本当の銃を見てやっぱ思うんだ。こんな世界に女の子を巻き込んじゃダメだって。大丈夫だって。絶対死なずに逃げ切るからさ」

「おう、約束する。絶対生きてまた会うって」

「相田……トウジ……」

 

 微笑みを見せて頷く二人。その姿にヒカリはしばらく黙っていたが、目を閉じて頷くとトウジへ近寄りそのままキスをした。思わず口笛を吹くケンスケと目を見開いて驚きを露わにするトウジ。やがて離れたヒカリは、やや潤んだ瞳のまま今度はケンスケのとなりへ近付き頬へキスをした。

 

「は?」

「相田も、男らしかったから特別。トウジの事、お願い」

「ああ、そういう事な。分かってる。何が出来るか分からないけどやれるだけやってみるよ」

 

 内心はテンションだだ上がりではあるが、あくまでもヒカリはトウジの彼女。それを痛感しつつ、だからこそせめてヒカリの大事な相手だけは守り抜くか。そう思いつつケンスケはトウジへ目配せする。頷き合い、二人は近くにあった石を拾った。それを合図にヒカリが物陰に隠れる。

 

「いいか? 二手に分かれて逃げるぞ」

「おう。また会おうや」

 

 軽く互いの拳を合わせ、二人はシンジ達へ銃撃を続ける戦自隊員へ石を投げつけた。

 

「何だ?」

「おうおう! 何で戦自が子供へ銃向けとんのやっ!」

「しかもそれで仕留められないとか訓練やり直してこいよ!」

 

 突然現れた学生二人に意識を向ける戦自隊員とシンジ達。と、アスカが二人のやろうとしてる事に気付いて叫ぶ。

 

「何やってんのよ! 逃げなさいっ! こいつら、まともな戦自じゃないわっ!」

「……二人であのガキ共を捕まえろ。奴らの関係者だ。殺すなよ。投降させるための材料だ」

 

 その言葉で二人の戦自隊員が攻撃を止め、二人へと近付こうとしたのを見てケンスケ達が走り出す。それに一瞬出遅れる形となりながら追い駆ける二人の戦自隊員。

 

「くそっ! やっぱ全員では追い駆けてこないかっ!」

「どないするっ!?」

「言った通りだっ! 後で会おうぜっ!」

「分かったっ!」

 

 二手に分かれて逃げるケンスケとトウジ。それに戦自隊員も少しだけ動きを鈍らせながらも、ハンドサインでそれぞれが追い駆ける方を決めて加速する。残されたヒカリは追い駆けて行ったのが二人だった事から状況の打破には繋がらない事を察し、どうしようかと考えていた。

 

「どうしよう……どうすれば碇君達を助けられる?」

 

 危ない事はして欲しくないと言ったトウジとケンスケの言葉を思い出し、だけど自分だけ何もしないのは嫌だとばかりに考えるヒカリ。そこでふと思いついたのはある意味で女子ならではの発想。危ないかもしれないが、二人よりは危険性が少なく、またシンジ達をどうにか出来るかもしれない。と、そこでヒカリのポケットが振動する。メールが届いたのだ。クラスの友人からで、シェルターにいないからどこにいるのという問い合わせ。それにどう答えようと思ったところで、ヒカリは気付いた。これなら何とか出来るかもしれないと。

 

「そうと決まれば……」

 

 アドレス帳からアスカを選び、メールを送る。内容はこれだけ。

 

―――今から戦自の人達の攻撃を少しだけ止めさせるから、後はお願い。読んだら空メール送って。

 

 送信してしばし待つ。すると振動が起きてヒカリは携帯へ目を向ける。そこにはアスカからのメール。

 

―――信じてるからね。

 

 空メールでいいのに送られた内容。それが意味する事はただ一つ。ヒカリが危なくないように考えてるんだよねという信頼。それを嬉しく思ってヒカリは目を閉じて深呼吸をした。そこから息を吐くと同時に目を見開き、制服の裾を破ってスカートさえも少し裂け目を作るや大きな声で悲鳴を上げた。そして慌てて飛び出すように戦自隊員達がいる場所へ駆け込む。必死の形相で走りながら叫んだ。

 

「助けてぇぇぇぇっ!」

 

 その様子にさしもの戦自隊員達も一瞬ではあるが攻撃を止めた。それを見てヒカリは一番傍にいた戦自隊員へ抱き着いた。

 

「た、助けてっ! 助けてくださいっ! 乱暴されそうになったんですっ!」

「お、落ち着け。一体それは」

 

 ヒカリの告げた内容に受け答える戦自隊員だったが、その返事を聞く事は出来なかった。何故なら後方で二人のうめき声が聞こえたのだ。振り向いた先で見たのは、意識を失う二人の同僚。

 

「なっ?!」

「ヒカリ離れてっ!」

「君もこれで終わりだ」

 

 そして背後で聞こえた声に振り向く事も出来ず、彼もまた意識を刈り取られる。カヲルのATフィールドによって。そう、フィールドを収束して飛ばす攻撃法をアスカがカヲルへ伝え、収束せず放たせたのだ。その威力で二人は地面へ後頭部を打ち付けて意識を失い、残る一人も同じ運命を辿る事になった。

 

「アスカ……」

「ヒカリ、大丈夫? 怪我してない?」

「うん、あたしは大丈夫。でも、トウジと相田が……シェルターへ向かって逃げてるはずだけど……」

「ならそっちは僕が何とかしよう。シンジ君達は先に本部へ」

「分かった。気を付けてねカヲル君」

「ヒカリ、ありがとう。おかげで助かった」

「レイ……ううん、今まであたし達が助けてもらってたんだもん。これぐらいはさせて」

 

 潤んだ瞳で見つめ合う女性陣の後ろで、シンジは逃げた友人二人を助けるカヲルを送り出す。そして、彼らはアスカの提案で武器等を全て奪い取って、ヒカリ以外の二人がスカートを破り割いてその手足を縛る事に。シンジがさすがにそれはと止めようとするも、恥じらいよりも命が大事とはっきり返されて終わる。

 

 三人の戦自隊員を拘束し、シンジ達はゲートを通って本部へと向かう。その頃、トウジとケンスケは体力の差から追っ手の戦自隊員に追いつかれそうになっていた。それでも懸命に走る二人。だが、差は開くどころか詰まっていく一方であった。

 

「くそ……このままじゃ……っ!」

 

 必死に逃げるケンスケだが、どこかで悟っている。もう逃げられないと。それでも少しでも時間を稼ぐんだ。そう思って彼は何とか逃げ続ける。が、疲れたせいか足がもつれて転んでしまった。

 

「うおっ!?」

 

 何とか顔を地面に擦る事だけは避けたものの、膝は擦り剥けてズボンが破れて血が滲んでいた。もう走れそうにないと体が言っているようで、ケンスケは後ろを振り向く事さえしなかった。

 

(ここまでか……悪いシンジ。もし俺が人質になったら助けてくれると嬉しいぜ)

 

 かっこ悪いと思いつつ、ケンスケはその場で座りこんで捕まるのを待つ。すると、何かが倒れる音がした。何かと思って振り向くと、そこには思いもよらない人物がいた。

 

「か、カヲル?」

「やぁケンスケ君。どうやら間に合ったようだね」

 

 そこには気を失って倒れる戦自隊員と、にこやかに笑うカヲルが立っていた。あまりの事に目を何度も瞬かせるケンスケだったが、助かったと理解するや全身から力が抜けたのかその場で脱力してしまった。

 

「はぁ~……助かったぁ……」

「そうだね。で、鈴原君は?」

「っ!? そうだ! あいつは別方向からシェルター目指してるんだよ!」

「となると僕じゃ見つけられないかな?」

「別れた場所から予測するに、大体の進路は分かる。カヲル、俺が案内する。ついて来てくれ!」

「分かった。なら、僕が連れて行くよ。掴まって」

「へ?」

 

 こうしてケンスケはカヲルに掴まり、浮遊するように移動するという稀有な経験をする。その速度に恐怖しながら、ケンスケは思うのだ。カヲルが女子でなくて良かったと。でなければ、あまりにも情けなさすぎると思って。やがてカヲルが移動を停止し、ケンスケを下ろした。

 

「どうした?」

「リリンの気配がするんだ。それも二つ」

「……どっちだ?」

「向こうかな」

 

 カヲルの指さす方向を見て、ケンスケは物陰に隠れながら近づいていく。そして、見た。気を失っているようなトウジを肩で抱えて歩く戦自隊員の姿を。

 

「トウジ……」

「どうしようか? あれだと鈴原君を巻き込んでしまう」

「……不意打ちしよう。俺があいつの後ろから近付くから、カヲルはあいつの進路方向へ回って様子を窺ってくれ。で、あいつが俺に気付くか作戦が上手くいったら挟み撃ちだ」

「分かったよ。気を付けて」

「おう」

 

 一旦そこで二手に分かれる二人。ケンスケはゆっくり近付きながら狙う場所を考えていた。

 

(足……は無理だな。脛……なら効きそうだけど、狙うのが無理。膝もなぁ……となると……)

 

 狙い難いが、そこはどんな人間でも、特に男は鍛えようがない場所。即ち金的である。それを狙うしかない。そう決意してケンスケは戦自隊員との距離を詰めていく。と、何故かそこでカヲルが姿を見せた。

 

「やあ」

「っ!? お前は」

 

 動きを思わず止める戦自隊員。その瞬間、足の隙間を狙ってケンスケが思いっきり足を振り上げた。彼の足に感じる何とも言えない感触と共に戦自隊員はその場へ崩れ落ちる。そしてケンスケがトウジを何とか引き離すと同時に、カヲルがフィールドをぶつけてダメ押し。

 

「やったな」

「ケンスケ君のおかげだよ」

「でも、どうしてあのタイミングで出てきたんだ?」

「だって、彼は君に気付いていたようだったから」

「は?」

 

 目を丸くするケンスケへカヲルは平然と話し出す。カヲルが様子を窺うと、既に戦自隊員は後方のケンスケに気付いているように少しだけ視線を後ろへ向けていたのだ。だからカヲルは言われた通り、相手の前へ現れたのだ。結果として、それが功を奏したのだからケンスケとしては返す言葉がない。

 

「うっ……何や? ケンスケ?」

「お、気が付いたかトウジ」

「なら、移動しよう。ここにいるのは危険だからね」

 

 こうしてケンスケはカヲルと共にトウジを本部へと運ぶ事にした。シェルターの方がいいかと思ったのだが、どうせならシンジ達を安心させる方を選んだのだ。トウジとケンスケを連れ、カヲルは本部へと急ぐ。

 

 その頃、発令所までヒカリを連れてきたシンジ達は戦自に襲われた事を話していた。ちなみにアスカとレイはプラグスーツに着替えている。シンジもだ。無論、下着をシンジとヒカリ以外に見られないためである。

 

「そう、戦自がね……」

「でも、あいつら妙だったわ。応援を呼ぼうとしないし、平気で鈴原達を追い駆けたし、そもそもこっちに対して銃口を向ける事を躊躇わなかったもの」

 

 アスカの説明でミサト達が息を呑む。応援を呼ぼうとしない事から理解したのだ。襲撃者が戦自を装った別物か、もしくはその中にいたゼーレの息がかかった者達だろうと。

 

「とにかく無事で良かったわ。洞木さん、だったわね。シンジ君達を助けてくれてありがとう」

「い、いえ。あたしは今までの恩を返しただけだから……」

「それでもよ。だけど、こんな事はもうしないでね? 今回は運良く終われたけど、いつもこうとは限らないから」

「はい、分かってます。でも、きっと同じ事になったらまたしちゃうと思います。だって、アスカとレイは大事な親友だから……」

「「ヒカリ……」」

 

 照れくさそうに笑うヒカリにアスカとレイも笑みを返す。一人シンジはそんなヒカリ達を眺め、苦笑していた。自分はどうなんだろうと思ったからだ。だけどそれを聞く程野暮ではない。なので苦笑していたのだ。

 

「ミサトさん、多分カヲル君はトウジとケンスケを連れて来ると思います。さっき、ケンスケからメールが来たんです。みんな無事って」

「そう、良かった。それとシンジ君、司令が呼んでいたわ。到着次第司令室へ来るようにと。あとレイもね」

「「分かりました」」

 

 揃って頷き動き出すシンジとレイを見送り、ヒカリはアスカへ視線を向けた。プラグスーツ姿の彼女を見て、ケンスケの予想は本当に合っていたと確信していたのだ。真紅のプラグスーツ。それは弐号機と同じ色だったから。

 

「ミサト、ヒカリなんだけどどうしたらいい?」

「そうね……」

「あ、あのっ! 出来ればここに居させてください! もしもの時は碇君達の事、応援したいから!」

 

 健気で可愛い中学生女子。その願いを聞いて無下にするような者はここにはいない。何よりも、これが最後の戦いになると誰もが確信している。だから全員を代表してミサトが頷いて微笑みかける。

 

「いいわ。許可します。ただ、立ちっぱなしになるけどいい?」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

「マヤ、クッション貸してあげたら?」

「……そうですね。これ、良かったら使って? 床に置いてくれていいから。疲れたら座ってね」

「いいんですか? ありがとうございますっ!」

 

 マヤの発言にリツコが目を見開き、そしてゆっくり微笑みを浮かべる。気付いたのだ。彼女も成長している事に。アスカもそんなヒカリに笑顔を見せてその場から立ち去った。向かうは弐号機のいるケイジ。発令所に部外者がいるという珍事だが、きっとゲンドウもそれを責める事はないと誰もが分かっていた。それから数分後、発令所にカヲルとケンスケにトウジが現れ、ヒカリの思春期カップルらしい一面を見せて誰もが甘酸っぱい気分になった事を記す。

 

 

 

 司令室でゲンドウと向き合うシンジとレイ。だが、三人には一言も会話はない。ゲンドウは何かを待っている。そんな気がシンジとレイには感じられた。何しろ入室した二人にしばらく待てと言ったきり無言になったのだ。そしてシンジもレイもその待ち人が誰か薄々勘付いていた。と、そこで聞こえるノック音。全員の視線がドアへと向く。

 

「入ってくれ」

「失礼します」

「「カヲル(君)っ!」」

「やあ、お待たせ」

 

 笑みを見せながらカヲルが三人の近くへと歩み寄って行く。それを見てゲンドウは小さく頷き、立ち上がった。

 

「シンジ、レイ、よく聞いて欲しい。お前達には彼と共に世界創造をやってもらいたい」

「「世界創造……?」」

「簡単に言うと、この世界そのものを創り変えるのさ。シンジ君の思うように、ね」

「僕の?」

 

 余りにも唐突な内容に理解が追いつかないシンジだが、何となくさせようとしている事の本質は理解していた。そう、カヲルの事もレイの事も、そして世界の事も何とかする術とはそれの事だと。

 

「碇司令、どうして私達なんですか?」

「レイ君、もう君も薄々分かってきているはずだよ。このままだと僕も君も近い内に死ぬしかないとね」

「っ!? どういう事!?」

 

 その言葉は聞き捨てならなかった。レイもカヲルも死んでしまうなどと。シンジのその表情にカヲルは嬉しそうに笑い、話し始めた。彼とレイは造られた体である。それは魂が本来入るべき器ではない。よって、近く体がもたずに崩壊してしまう。その前に新しい体か、あるいは本来の体へ戻るしか生き残る術はないと。

 

「だけど、本来の体に戻れば僕も彼女も渚カヲルと綾波レイではなくなる。そうなると……」

「新しい体を用意する?」

「いや、それはもうダメだよレイ君。僕らはヒトになるんだ。それはヒトらしくないだろ?」

「シンジ、それも含めてお前達に託したい。この世界の未来と共に」

「世界の……未来……」

 

 ゲンドウの言葉にシンジはある言葉を思い出した。それは、彼の母が見せたいと言っていた事。人の明るい未来。それを今度は自分が掴み、初号機にいる母へ見せる番なのかと。正直まだシンジには世界創造というのがよく分からない。だが、世界の未来を作れと言われれば何とか分かるのだ。自分の知らない春夏秋冬という四季。それらを取り戻す事だと。

 

(僕に出来るか分からない。だけど、綾波とカヲル君の事を知っていてどうにかしたいって思えるのは僕しかいない……)

 

 逃げ出したい内容ではある。世界の未来を託されるのだ。しかも、おそらくだが、その方法は世界を滅ぼすはずだったサードインパクト。そこまで考え、シンジは体の震えを覚えた。その震えを感じながらシンジは目を閉じて深呼吸する。

 

―――逃げちゃダメだ……。

 

 まず思い出すのはカヲルの笑顔。

 

―――逃げちゃダメだ……。

 

 次に冬月の笑みとマコトにシゲル、マヤの笑顔。

 

―――逃げちゃダメだ……。

 

 トウジにケンスケ、ヒカリの笑顔。

 

―――逃げちゃダメだ。

 

 ミサトや加持、リツコの微笑み。

 

―――逃げちゃダメだっ!

 

 最後にゲンドウとアスカにレイの笑顔が浮かび、シンジは目を見開いた。

 

「やります。僕がやります!」

「シンジ……」

 

 覚悟を決めた顔。いつかの初号機前とは違い、その表情は優しさではなく力強さを感じさせるものだった。故にゲンドウは嬉しそうに頷き、右手袋を外す。そこに見える胎児のようなアダムに一瞬息を呑むシンジではあったが、それに少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。ゲンドウが教えてくれたと思ったからである。

 

「渚君、これを持って行ってくれ。シンジ、未来をお前達チルドレンに託す。我々大人の失敗を、繰り返さないで欲しい」

「分かったよ父さん。母さんに会って来る」

「ああ、しっかり顔を見せてこい。きっとそれが母さんを呼び戻す事になるはずだ」

 

 親子の会話が終わった事を悟り、カヲルがそっとゲンドウの右手へ自分の手を重ねる。するとそこにあったアダムは消えて、元通りになった右手だけがあった。

 

「行こう、シンジ君」

「うん。綾波、いいね?」

「ええ」

 

 頷き合って走り出す三人の子供。その背を見送り、ゲンドウは受話器を取った。

 

「冬月か。……ああ、アスカ君には苦労を掛けるがよろしく頼むと伝えてくれ」

 

 その話題に挙がったアスカは弐号機の中で待機していた。そこへ通信が入る。相手はミサトだった。

 

『アスカ、司令からの伝言よ。苦労を掛けるが頼む、だそうよ』

「頼まれようじゃない。相手はどうせ戦自の装備でしょ? エヴァの敵じゃないわ」

『……アスカ、分かってると思うけど』

「殺しはしないわ。言ったでしょ? 敵じゃないって。あれはそういう意味でもあるの。あたし、シンジと結ばれるまでは綺麗な体でいたいもの」

 

 さらりと告げられたとんでも発言に発令所が一瞬無言になる。だが、まずミサトとリツコが揃ってため息を吐いた。

 

「「紛らわしい言い方をしない」」

『あら? どういう意味か分からないわね』

「要するに両手を血で汚したくないって事でしょうが」

『以外にある?』

 

 ニヤニヤした声で返すアスカに誰もが何とも言えない顔をする中、ヒカリだけが言い返した。

 

「もうっ! ミサトさん達を困らせないの!」

『あはは、ごめんごめん。こうでも言っておかないと心配させ過ぎちゃうのよ。ま、今言った通り、あたしは人殺しをするつもりはないわ。エヴァの、弐号機の力なら殺さずに撃退出来る。あたしは、綺麗な手のままでシンジと手を繋ぎたいのよ』

 

 その噛み締める声に誰もが笑みを浮かべていた。同時に申し訳なさも感じてはいたが、それはみな胸の内にしまっておいたのだ。それは、この少女の荷物になりかねないと思って。

 

 その頃、戦自は本部周辺の包囲を完了しようとしていた。

 

「……部隊の配置、完了したそうだ」

「そうか。上からは?」

「壊れたレコーダーさ」

 

 呆れたように吐き捨てられた言葉で彼も理解した。未だに訓練と言いつつネルフを制圧せよと言っているのかと。ここまで来ればもう疑いようはない。幕僚の中に何かの意図を持っている者達がいる事は。

 

「なら丁度いい。こちらも壊れた軍人だ」

「ああ、専守防衛の軍人など壊れているさ。だから俺達はこれでいい」

「……このままで終わると思うか?」

「いや、思わん。部下の中にも何らかの動きがあるかもしれん」

 

 その意見に頷き、彼は考えた。どうするべきかと。きっと幕僚達やその者達を動かしている相手は、諦める事なく蠢いているはず。それを放置していては自分達の誇りに関わるのだ。故に何とかして自衛隊員らしからぬ者達を焙り出さねばいけないとも。

 

「どうする?」

「小隊に一人か二人単位か、あるいは小隊員全員か。どちらも考えられるだろうな」

「それも出入り口付近の配置が怪しいか。だが下手に動かすと不味い……」

「なら、一部隊ずつ撤収を通達するのはどうだ? もし不穏分子がいるならアクションを起こすかもしれん」

「…………そうだな。訓練終了と言って様子を見るか」

 

 即座にゲート近くの部隊へ訓練終了と撤収が伝えられ始める。すると、一部の者達が勝手な動きを見せた。その報告に二人は握り拳を作る。

 

「やはりかっ!」

「すぐに先に撤収を始めた部隊へ連絡っ! 戦自の恥さらしを止めろと伝えろっ! 最悪の場合射殺もやむを得んとなっ!」

 

 戦自内での動きが始まった頃、シンジは初号機と共にレイとカヲルを連れてターミナルドグマへ来ていた。そう、磔にされたリリスの前にである。

 

「これが……リリス?」

「ああ。レイ君の魂が本来宿る器さ」

「言われて見ると懐かしい気がするわ」

 

 ロンギヌスの槍と呼ばれる真紅の槍に貫かれたまま、リリスは上半身だけの状態で磔されていた。それを見つめ、シンジはレイへ視線を向ける。

 

「綾波は、戻りたいの?」

「いえ、私は私でありたい。綾波レイとして生きていたい」

「シンジ君、君が僕らをそう思わせた。だから、お願いするよ。僕とレイ君の未来を掴みとって欲しい」

「うん、分かった。絶対守るから」

 

 はっきりと返された言葉に、カヲルとレイが優しく微笑み頷いた。そして、二人はエントリープラグから外へ出ていく。そのまま二人はゆっくりと浮遊しながらリリスへと近付いて行く。それを合図にシンジは初号機で槍を引き抜いた。

 

「始めるよ、シンジ君」

「碇君、後はお願い」

「カヲル君……綾波……」

 

 吸い込まれるようにリリスへと入っていく二人を見届け、シンジは意を決して叫ぶ。

 

「初号機、やるよっ!」

 

 咆哮すると同時に姿がF型へと変化する初号機。そして手にした槍を自身へと突き刺した。

 

「ぐうぅぅぅぅっ! うわあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 痛みを受け入れ、辛さを受け入れ、苦しみさえも受け入れるシンジ。そんな中でも強く思うのは、いつか描いた未来絵図。高校生となって、友人達と笑い、父親達も笑っているそんな未来を。今、彼が一番嫌な事は、逃げたい事はそれが無くなる事。そのために、目の前の嫌な事へ立ち向かっていた。

 

「絶対に……絶対に負けるもんかぁぁぁぁあああああっ!!」

 

 そうやってシンジが自分と戦っている頃、ミサト達は本部へ侵入しようとしていた戦自の動きを察知しMAGIによる防衛を始めていた。

 

「第1ゲート、封鎖完了」

「続いて第2ゲート、封鎖完了しました」

「第3ゲートも間もなく封鎖完了します」

「戦自の様子は?」

「それが、侵入しようとした部隊と後から現れた部隊が交戦を開始しています」

 

 困惑するようなマヤの声にミサトはすぐに状況を察した。

 

「どうやら戦自も馬鹿じゃないようね」

「ええ、その仕事に誇りを持っている本物がいたようよ」

「既にA-801も撤回されているのに待機していたのは、このためだったんでしょうか?」

「おそらくね。自衛隊員としての尊厳を守りたかったんでしょう」

 

 ミサトの推測は当たっていた。ゲート付近で展開される戦自同士の戦いは、まさしくその誇りを守るための戦いだったのだから。

 

「何故こんな事をするっ! これは訓練だぞ!」

「本気で言っているのか! こんな一個師団を訓練なんぞに駆り出すはずないだろうっ!」

「我々は戦争をするためにいるんじゃないっ!」

「そうだ! これは戦争じゃない! 鎮圧さ! ネルフは自らの手でサードインパクトを起こそうとしてるんだぞっ!」

「バカな事を言うなっ! ならば何故これまでの戦いでエヴァは被害を最小限にしようとしてきた!」

 

 その問いかけに返す言葉が詰まる。命懸けである使徒との戦い。そこで何故サードインパクトを起こそうとする者達が被害を気にするのか。これ程雄弁な反論はなかった。それに気付いて一人の戦自隊員が叫ぶ。

 

―――少なくともあのパイロットは俺達と同じ想いのはずだっ! どうしてそれが分からんっ!

―――だが上もそうだとは限らんっ!

―――だからと言って子供へ銃を向けるのが正義だとでも言うのかっ!

―――っ!?

 

 思わず銃撃を止めた襲撃部隊へ投げ込まれるスタングレネード。その激しい閃光と爆音で彼らの動きが鈍る。それを見逃さず戦自隊員達が素早く彼らを取り押さえていく。そしてそれは、他の場所でも同じだった。彼らはみな、ネルフが人類を滅ぼすサードインパクトを行おうとしていると吹き込まれていたのだ。それを秘密裏に阻止せよ。それが襲撃部隊の者達に共通する理由だった。彼らは彼らなりの思いで動いていたのである。その信念を利用される形で。

 

「そうか……分かった、一応拘束しておけ。そいつらも自衛隊としての信念で動いたようだが、命令無視は命令無視だ。監視を怠るなよ」

「これで終わりか。ならば、全部隊を撤収させ戻るとするか」

「軍法会議ものだがな」

「構わんさ。例え自身へ銃口を突き付けられても、守るべき者へ銃口を向けるよりはマシだ」

「まったくだ」

 

 小さく苦笑し合う二人。こうして戦自の部隊は撤収作業を開始する。だが、それを合図にしたかのように巨大な輸送機の編隊が出現したのだ。それらはゆっくりと機体下部にあるハッチを開く。そこからは、白い体の不気味な頭部をした存在が投下されていく。それは、量産型エヴァンゲリオン。S2機関を搭載し、飛行能力さえ有した機体だ。

 

「何だ、あれは……?」

「エヴァ……なのか?」

 

 それらはあろう事かそのままネルフ本部を目指すように攻撃を開始。その光景を見ていた誰もが呆然となり、即座に指揮官へ指示を求めた。それはどうすればいいかではない。攻撃許可を求めるものだった。彼らは直感で理解したのだ。襲撃部隊が聞いた情報は、今目の前でネルフを攻撃している存在がやろうとしている事だと。各部隊から続々と入る声に、指揮官達は笑みを浮かべていた。それは獰猛な笑み。今まさに戦略自衛隊としての本懐を果たす時が来たからである。

 

「どうする?」

「聞くまでもない。ネルフにいる者達はこの国の国民だ。国民を守るのが俺達戦略自衛隊の義務であり存在意義だっ!」

「よぉしっ! 全部隊に通達っ! 全武装使用許可っ! あの謎の存在を攻撃せよとな! これは訓練ではないっ! 繰り返すっ! これは訓練ではないっ!」

 

 戦自が量産型を攻撃し始めた頃、ミサト達もまた動きを見せていた。いや、動かねばならないと思ったからだ。このままでは戦自に犠牲者が出てしまうと。

 

『アスカ、たった今戦自が戦闘を開始したわ! お願い、彼らを守って!』

「言われなくてもそうするわ! 出してっ!」

『武運を祈るわ。エヴァ弐号機、リフトオフっ!』

「行くわよ、ママっ!」

 

 アスカの声に呼応して弐号機の目が光る。今、最後の戦いの幕が切って落とされようとしていた……。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第二十五話「Air~終わらせない世界~」完




ご都合主義全開な話で申し訳ない。これが自分の限界です(汗

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