あと、何故か年末から年始にかけて爆発的に読んでくださった方が増えたみたいなんですが、どういう事なんでしょうか? ちょっと理由が分からず困惑しています。とにかく、読んで頂いた皆様ありがとうございます。作者名通りの拙作ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
直感……使用すると閃きと必中の効果を発揮する精神コマンド。ゲームだと二つを別々に使うよりも少しだけ精神ポイントの消費が少ない。
閃き……一度だけどんな攻撃も回避出来る精神コマンド。つまり、絶対避けれないはずの攻撃さえ回避出来る。
必中……一ターン(攻撃時と防御時合わせて)の間、攻撃が必ず当たるようになる精神コマンド。つまり、攻撃する時も反撃する時も目を瞑っても当てられる。
初号機を回収し、ミサト達が今後の戦い方を模索する中、第五使徒に動きがあった。
「目標、ゼロエリアに到達。ドリルのようなもので本部への侵入を開始」
「……どうやら初号機は脅威ではなくなったようね」
リツコの言葉に誰も返す言葉がない。事実、F型でさえ使徒を仕留める事は出来なかった。今まで一撃必殺だったマゴロク・E・ソードさえ防ぎ切ったのである。あの威力を超える武器などネルフには存在していなかった。
「使徒の本部への到達予定時刻は?」
「明朝午前0時6分54秒。おおよそ9時間55分後です」
「十時間足らずで倒す方法を考え出さねば終わり、という事か」
冬月の言葉はどこか諦めにも似た空気が漂っていた。無理もないだろう。これまで二体の使徒を瞬殺してきたF型が為す術もなく撤退せざるを得なかったのだ。これでどうやって希望を持てと言うのか。そんな心境に誰もがなりそうだった。そんな中、唯一の朗報が発令所に届いた。
「初号機を無事回収出来たそうです。パイロットも無事」
「そう、では念のためにメディカルチェックをお願い」
「ちょっと待って。少しだけシンジ君と、初号機パイロットと話をさせて」
ミサトの言い方に何か感じたのかリツコは無言で通信を繋げるようマヤへ目配せする。それを受け、彼女は手元のコンソールを操作した。
「シンジ君、聞こえる?」
『マヤさん? 何ですか?』
その応答を聞いてマヤはミサトにインカムを差し出した。ミサトはそれを感謝するように目礼し受け取る。
「シンジ君、聞いて。使徒は本部への侵攻を開始したわ。到着は今から約十時間後。それまでに使徒を倒さなければならないの。何か貴方に考えや気付いた事はある?」
実際相対してみたシンジだからこそ、何か分かる事や気付ける事があるかもしれない。生きた情報を持つ唯一の存在にミサトは縋ったのだ。
『気付いた事……』
「ええ、何でもいいわ。今は少しでも奴の情報が欲しいの」
『……あのフィールドは、もう一機エヴァがいれば破れるかもしれません』
「どういう意味?」
『攻撃力じゃないんです。フィールドって一方向しか展開出来ないじゃないですか。だから』
「そうか! 別の攻撃を叩き込んでフィールドを展開させ、その隙を初号機で突けば……」
「あの一撃が通る、か」
シゲルの感心するような言葉に頷き返しながらマコトが付け足す。だが、ミサトとリツコの表情は冴えない。分かっているのだ。その作戦の危険度と成功率が。
「シンジ君の考えは分かるわ。たしかにそれは有効よ」
「でもね、シンジ君。例え零号機を使ったとして、どうやってあの使徒まで接近するの? 零号機はあの初号機と違ってあんな短時間で距離を詰める事は不可能よ」
二人の指摘にまたもや発令所に沈黙が訪れる。しかし、シンジはならばと食い下がった。
『じゃあ、僕が注意を引き付けます。それならきっと綾波も攻撃出来るはずです。綾波が攻撃すれば使徒はこちらへの攻撃を止めるだろうから、その時に僕が』
「シンジ君、もし仮に初号機が使徒の攻撃を受けてしまったら? それで防ぎ切れず貴方もろとも消滅したら? そうなったらレイも死ぬしかないの。何としても使徒を倒したい気持ちは分かるし、貴方が真剣に考えてくれる事も嬉しいわ。でもね、私達の戦いは決して負けてはいけないものなの。この意味、今のシンジ君なら分かってくれるわね」
リツコの優しく諭すような声にシンジも反論出来ない。リツコはシンジの意見を否定している訳ではない。その問題点を指摘し、彼の事を心配していると分かったからだ。やはり自分ではこういう事に役に立てないのか。そう思ってシンジが肩を落とした瞬間だった。
―――ならば、接近しないで攻撃すればいい。
その声の主へ全員の視線が動く。ゲンドウは無表情のままでモニタの使徒を見つめていた。
「零号機が射撃を行い使徒のフィールドを展開させ、その間に初号機が使徒へ攻撃。これならば可能なはずだ」
「お言葉ですが、生半可な攻撃では使徒へ届きません。あの攻撃が主に自衛手段として使われると仮定しその範囲を割り出したとしても、かなりの長距離になるはずです」
「ではその距離をクリアし届く武装を手配すればいい。戦自へも協力を要請しろ。サードインパクトを起こされてもいいのかとな」
その言い方を聞き、誰もが内心で既視感を覚えた。だが、冬月だけは気付いていた。口調こそ落ち着いているが、食い下がり方はシンジそっくりだという事に。
(血は争えんか……)
微かに笑う冬月の横でゲンドウは無言のままモニタの使徒を見つめる。しかし、これだけは冬月も気付いていなかった。ゲンドウが本当に見ているものは、メインモニタの左下に表示されたシンジの姿だった事に……。
「超長距離からの一点突破。これに先程の初号機パイロットの意見を加え、作戦を立てます」
あれから一時間後、ミサトはゲンドウ達へ一つの作戦を提示していた。その内容は、零号機の攻撃そのものを使徒への本命としながらも、後詰として初号機も配置するという二段構えのもの。まず現状では戦闘行動は難しい零号機が射手となり、使徒の自衛範囲ギリギリに布陣。初号機も同じく自衛範囲ギリギリに待機するも、行動開始は零号機が攻撃した瞬間。つまり零号機の攻撃が万一通用しなくてもフィールドを発生させる事は出来る。そこで初号機がフィールドのない場所へ斬り付け撃破するのだ。この本命を二つ用意するという作戦は、F型の驚異的な機動性と攻撃力があればこそのものであった。
「反対する理由はない。成功させろ、葛城一尉」
「はっ」
こうしてミサトの作戦は実行に移される事となる。まずは肝心要の射撃武器の入手だったが、これは戦自技研から試作型の自走陽電子砲を徴発する事となった。本音を言えば戦自技研も断りたいが、サードインパクトを起こさせてもいいのかと迫られれば頷かざるを得ないからである。
「これでまず第一段階クリアか」
「次はこれの動力の確保ですね」
「そして、フィールドを破れるだけの威力を出せるようにしないといけないわ」
ブリーフィングルームで話し合うミサト、マコト、リツコの三人。その視線の先には徴発した自走陽電子砲の映像があった。既に改造が開始されていて、作戦開始までにはエヴァ専用の武装となる。そこまでならネルフの陽電子砲でもいいのだ。だが、ネルフの物では先に上げた問題点をクリア出来ないので徴発する事となった。そして、その問題点がマコトの告げたものだ。
「必要なエネルギー量は最低でも1億8000万キロワット。それを受け止めるだけの性能はありますが、これだけの大電力となると……」
「日本中からかき集めるしかないわ。そうでしょミサト」
「もち。既に本日午後11時30分から明日の未明にかけての全国一斉停電の実施が通告されているはずよ」
「明日未明にかけて、ね。本当に明日の日の出が来るかどうかは私達にかかっている、か。両肩が重くなりそうだわ」
リツコはそう言ってミサトを見る。その表情は気負うものでも自棄になっているでもない。落ち着いた雰囲気を漂わせる余裕さえ感じるものだった。ミサトもそのリツコと同じような顔をしていた。事ここに至っては、慌てたところで仕方ないと分かっているのだ。それに、一番両肩が重くなるのは年端もいかない少年少女である。だからこそ、その重圧を彼らへ感じさせてならないと二人は思っていた。
「ま、この重みはまだシンちゃん達にはちょっち早いか」
「ええ。十代で肩こりなんてさせる訳にはいかないわ」
「そうね。……大体、そもそもこんな事に関わらせる事自体おかしいんだから」
「まったくだわ。きっと碌な死に方しないわね。私も貴方も」
「いいわよ、それでも。そんな事であの子達が死なずに済むのなら……」
ミサトの噛み締めるような声にリツコも小さく頷いた。大の大人が揃いも揃って子供達に頼るしかない。その無力さと情けなさは辛酸を舐める思いだ。だからこそ、出来る事を精一杯果たす。それが大人達が子供達にしてやれるせめてもの事だった。
一方、シンジとレイは待機と言う名の休息を与えられていた。とても休める状況ではないと最初は困惑したシンジだったが、レイからミサトの「休める時に休むのもパイロットの仕事」との伝言を聞き、今もレイと二人、シャツにハーフパンツ姿となって仮眠室で横になっていた。最初はレイの姿に興奮しかけたシンジであったが、横になって目を閉じていた間で眠っていたのだ。さすがに熟睡はしなかったが、短時間の仮眠程度は取れていた辺りでシンジも疲れていた事を自覚した。その後も、眠れないでも目を閉じて横になっていたシンジだったが、ふと思う事があったので顔だけ横へ向け、隣のベッドにいるレイへ問いかけた。
「綾波、起きてる?」
「どうしたの?」
「そのさ、綾波は怖くない?」
「……何故そんな事を聞くの?」
「その、僕のせいで出撃する事になっちゃったから」
本当はシンジのせいではないのだが、彼が言い出した考えが呼び水となったのは確かであるので、あながち間違ってはいない。レイは気まずそうにするシンジを見て、体を起こしベッドから下りるとその傍へ近寄り彼の手を握った。
「綾波?」
「怖くはないわ。だって、私は一人じゃないもの」
「綾波……」
「私にはエヴァという絆があり、その先には碇君達がいる。だから怖くはない」
「……そっか。そうだね。僕らは一人じゃないんだ。ミサトさん達ネルフの人達がいるし、エヴァもいる」
「ええ」
繋いだ手から伝わる温もりがシンジの不安と恐怖を消し去って行く。と、そこでシンジは思い出す事があった。今回の作戦では零号機は無防備となる。そのため、攻撃と同時に初号機は動き出すのだが、その際にないよりマシ程度に装備されるものがあるのだ。それはスペースシャトルの装甲を流用した不格好な盾。万一の際、それを使って身を守れとリツコから言われている。それとF型の強固なATフィールドならば凌ぎきれる確率が上がるだろうと。
それを踏まえ、シンジはベッドから体を起こすとレイと向き合った。
「綾波、ありがとう。綾波のおかげで僕は怖くなくなった」
「そう」
「うん。だから、綾波には必要ないかもしれないけど、今度は僕にそうさせてくれないかな?」
「碇君に?」
疑問を浮かべるレイへシンジは小さく頷いた。そして、一度だけ深呼吸。
「……綾波がもし失敗しても、絶対使徒に君を殺させない。綾波は、僕が守るよ」
その優しい声と表情と共に握り返される手。それにレイは軽く目を見開いた。それでも、シンジへ感謝するように頷いてみせる。そんなやり取りの裏で、作戦開始時刻は刻々と迫っていた……。
夕方、初号機と零号機が揃って移動を開始する。目指す場所は別々ではあるが、目的は一つ。第五使徒撃破である。ある程度まで同行し、初号機と零号機は二手に分かれる。完全に同方向では使徒の攻撃で一網打尽にされるので、二体のエヴァをある程度離す必要があったからだ。
「じゃあ、また後で」
『ええ、また後で』
たった一言のやり取り。だが、そこに込められた想いは強い。再会を約束する挨拶を交わし、二体のエヴァはそれぞれの持ち場へと向かう。レイは陽電子砲を撃つ射手としての説明を、シンジは行動開始のタイミングの再確認と、急造の盾についての説明をそれぞれ聞いていた。それらが終わると、次は二人揃って作戦についての詳しい説明を受ける事となった。
「いい? 一番いいのは初号機がとどめを刺さなくてもいい事。つまり、零号機の攻撃で使徒を倒せる事よ。理論上は命中すれば倒せる。だけど、これはあくまで理論上。実際はまず当たらないといけない以上、絶対はない。しかもこのポジトロンライフルを撃つのにかなりの電力が必要となるの。故にレイが外すあるいは防がれた場合、その再装填には時間がかかるわ。シンジ君はもし何等かの事情でとどめを刺せない場合、その間の時間稼ぎに徹して。ここが重要なのだけど、今回は使徒を倒せる手段が二つある。二人共、無理しないでいいの。自分がダメでもまだ倒せる手段はある。そう思って相手を信頼しなさい。シンジ君はレイを、レイはシンジ君を」
『『はい』』
「ん。では、作戦開始まで待機してて。あっ、開始三十分前までなら通信でのやり取りを許可するから。心行くまでお話しなさい」
そのミサトの気遣いに周囲の者達が一瞬息を呑む。シンジとレイは作戦に対しての緊張を解すためだろうと受け取っていたが、ミサトはどこかで万が一を考えていたのだ。そのミサトの心情を周囲は察したと言う訳である。
こうしてミサト達が最後の詰めに慌ただしさを増す中、シンジとレイはただ作戦開始を待つ事になる。だが、やはり不安は消えても心配は残るもの。シンジはレイの、レイはシンジの事を思っていた。
(綾波が失敗したら、僕が行く。僕がダメでも綾波がいる。でも、もし使徒が僕よりも綾波を狙ったら……)
(私がダメでも碇君がいる。それに碇君が無理でも私は再攻撃が可能。でも、もし使徒が私よりも脅威となる碇君を狙ったら……)
使徒を倒せる存在が二人いる。それはつまり、裏を返せば自分以外も使徒に狙われる可能性があるという事に他ならない。そこで心配するのが自分ではなく相手というところに二人の本心がある。気付けばどちらからとなく通信を開いていた。
「『聞こえる?』」
同時に流れる声。その相手へ尋ねる声に互いは一瞬言葉を失い、気を取り直して口を開く。
「『先にいいよ(わ)』」
またも重なる。今度はシンジが耐え切れず吹き出し、レイはそんな彼の反応へ疑問を呈す。
『何がおかしいの?』
「ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」
『そう。碇君、先にいい?』
「うん、どうぞ?」
『作戦の事だけど、私の事より碇君自身を守って。今後を考えれば必要なのは碇君と初号機だから』
そのレイの言い方にシンジは感じるものがあった。これはそう理由を付け自分を危険から遠ざけようとしているのだと。何故なら似たような事をシンジもレイへ言うつもりだったからだ。
「綾波こそ、ダメそうならミサトさん達を守って逃げて欲しい。僕には盾もあるしフィールドだって丈夫だからさ。いざとなったらあのエヴァの力で何とかするし」
『それでも絶対じゃないわ』
「何もない零号機よりも危険度は低いよ」
『でも……』
「綾波、教えたよね? 僕のエヴァに乗る理由。僕は、僕のせいで誰かが苦しんだり困ったりするのが嫌だ。僕は、僕の目の前で使徒に誰か殺されたりするのが嫌だ。そして、それを誰かに知られて僕を攻撃されるのが一番嫌だ。だから、僕は綾波も守りたい」
『友達だから?』
そのレイの問いかけにシンジは一瞬だけ不意を突かれたような顔をするも、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべてこう返した。
―――そうだけど、それだけじゃない。僕が綾波を失いたくないんだ。
返ってきた声はとても優しい決意。その音色がレイの心を揺らす。だからだろうか。気付けばレイも無意識にこう返した。
―――私も碇君を失いたくない。
―――……同じだね。
―――……同じね。
いつかのやり取りを思い出したシンジの返しにレイもそれを意識して返す。そこからもう会話はなかった。けれど、二人は通信を開き続けた。会話はなくとも繋がっている。そんな気がしたからだろう。そして、遂にその時は来る。二人の私的通信の終了。それは作戦開始三十分前を意味していた。
「レイ、いい? 貴方は特に何かしなくてもいいわ。面倒な計算や処理はこちらでやるから。貴方はただ引き金を引いてくれればいい」
『分かりました』
返事をするレイの声が心なしか優しい気がする。そうリツコは感じて小さく笑みを浮かべた。
(きっとシンジ君だわ。この状況で緊張を解せるなんていいカウンセラーになれるかもしれないわね、彼)
思っても口には出さない。素質はあっても向くとは限らない事を彼女は知っているからだ。一方のシンジはマヤからミサトのある伝言を聞かされていた。
「いざとなったら僕に任せる?」
『ええ。葛城一尉が言うには、初戦でのシンジ君がエヴァらしき声に導かれて武器を取り出したように、また何か私達の知らない武装を使う事が出来るかもしれないと』
「知らない武装……」
『なので、もしかしたらあのマゴロクソード以外の武器で使徒を倒せるんじゃないかって』
「…………分かりました。とりあえず、僕は使徒を倒す事に全力を尽くせばいいんですね?」
『うん、それで構わないわ。……シンジ君、気を付けて』
「はい、ありがとうございます。マヤさん達の援護があれば大丈夫です」
『ふふ、ありがとう。絶対、成功させようね』
「はいっ!」
マヤの励ましに勇気をもらい、シンジは力強く返事をする。負けられない。負けたくない。その想いが体中を駆け巡るのを彼は感じていた。それは当然と言える。何故なら、今回は初めて彼だけではないからだ。レイが、ミサト達が共に戦場へ立つ。だからこそシンジは思うのだ。負ける訳にはいかないと。
(今度は僕だけが逃げれば済む状況じゃない。僕の横には綾波が、後ろにはミサトさん達もいる。逃げれば、みんなが危ない)
目を閉じる。こみ上げる震えを感じ、シンジはエヴァへ言い聞かせるように呟いた。
―――初号機、お願いがあるんだ。もし僕だけの力でどうにもならない時は、君の力も貸してほしい。あの最初の戦いで僕の気持ちに応えてくれたみたいに。それまでは、僕も自分の力だけで足掻いてみせるから。
当然それに応える声はない。だけどそれでも良かったのだ。シンジの体からもう震えは消えていた。分かったのだ。エヴァが変化したのを。伝わったのだ。その意思が。
「……ありがとう」
一度だけ心からの感謝を。そして、ここからは心からの誓いを。
「勝つんだっ!」
作戦開始まで、後十分を切っていた……。
巨体を寝そべらせ、狙撃手のような体勢で使徒を狙う零号機。片やスタートを待つような雰囲気でその時を待つ初号機F型。その手には今回のために用意された盾がある。
「よし、ヤシマ作戦開始っ!」
「ポジトロンライフル発射準備に入ります」
「重力及び地軸の誤差修正開始」
「始まったわね……」
慌ただしくなる周囲にリツコは噛み締めるように呟く。世界の命運を賭けた最も長い数分間の幕開けである。
「シンジ君、今作戦が開始された。行動のタイミングは分かってると思うけど、慎重にな」
『はい、分かってます。絶対成功させましょう』
「ああ。俺達も全力を尽くす。ゴールは頼むぞ、エースストライカー」
『はいっ!』
シゲルの軽い口調にシンジは感謝するように返事をする。分かっているのだ。それが最後まで自分を緊張させまいとしてくれている気遣いだと。その事がよりシンジへ力を与える。一人じゃない。戦っているのは自分だけではないと改めて感じさせてくれるのだ。
(みんなが一緒に戦ってくれている。そうだよ、今までだってそうだったんだ。僕がエヴァに乗るまでにも沢山の人が動いて、僕が戦った後も同じぐらいの人達が、もしかしたらもっと多くの人達が働いてくれてる)
一番辛いのは自分だと、どこか思っていた。だけど、それは違うのだとシンジは知った。みんながみんな辛い事をしている。その仕上げの部分が自分なのだ。それをこの作戦でシンジは目の当たりにした。普段見えない裏方の仕事とそれに従事する人達を見る事で。共に戦う。その言葉の本当の意味を少年はその目で、その肌で感じた。
「……絶対に負けられない。あの人達も怖いんだ。だけど逃げないで立ち向かってる。なら、僕だけ逃げる訳にはいかない……」
レバーを握る手に力がこもる。ミサトの言った言葉が脳裏に甦ったのだ。自分が怖いものはみんなも怖い。だからこそ、もうシンジは震えない。それをエヴァに乗らずに乗り越えている人達が大勢いるのだ。ならば、自分が震えていては格好がつかない。そう、彼もまた男だった。
そして彼は待った。スタートの合図を。だが、その合図を出す側に動きがあったのはそんな時だった。
「目標に高エネルギー反応っ!?」
「気付かれたか!」
「レイ、撃ちなさいっ!」
自身を倒せる攻撃を準備していると使徒が気付いたのだ。使徒が遮蔽物もなく無防備の零号機へ狙いをつける。それと発射準備が完了するのはほぼ同時だった。
「っ!」
レイが引き金を引くと同じく使徒からも閃光が放たれる。それは互いに影響し合い、凄まじい衝撃となって周囲を襲う。その衝撃の中を貫くように駆ける紫電がある。初号機だ。シンジはがむしゃらに体を押し返しそうな風を切り裂くように駆け抜けていた。それはシンジの閃きと彼の意思に初号機が応えた結果。手にした盾とATフィールドで二重の風よけにし、その行動を可能な限り支えていたのだ。だが、それでも前回と同じ行動は出来ない。ジャンプをすれば押し返されるからだ。そのため、シンジは衝撃波が消えるまでエヴァを使徒へ走らせていた。
「まだか……まだなのか……」
既に最初程の圧力は感じないがそれでも押し返す力は残っている。これが消えない限り使徒への攻撃は出来ない。何故なら相手は飛行しているのだ。そこへ辿り着き、かつもしフィールドを張られても破れるだけの一撃を加えるには、最大加速の最大跳躍からの加速度と重力を乗せた一撃でなければならないために。
『シンジ君、不味いぞ! 使徒の再攻撃が来る!』
そんな時告げられたのは最悪の報告。だが、シンジは逃げなかった。代わりにこう返した。
「このまま突っ込みますっ! 相手の撃つ時を教えてくださいっ! 跳んで避けますっ!」
『無茶だっ!』
「無茶をやらなきゃ勝てませんっ!」
その気迫ある言葉にマコトだけでなく誰もが息を呑んだ。本当にこの少年は覚悟していると伝わったのだ。そう、今回は生き残るために勝つしかない。シンジが逃げたところでサードインパクトが起きれば意味がないからだ。そんな一秒を争う時、真っ先に反応したのは彼女だった。
『行きなさいシンジ君! 後は任せたわっ!』
「はいっ!」
『高エネルギー反応来ますっ!』
「うわあああああっ!」
跳んだ。シンジは何も考えず直感に任せ、ただその場から跳んだ。その刹那の見切りが勝負を分けた。盾を構え、前を見る事なく跳んだ初号機の軌道を使徒の閃光が追うように放たれる。それが初号機を守った。一点集中でなくなった事でフィールドと盾を貫く事が出来なかったのだ。代償として初号機は盾を失うが、それはむしろ好都合だった。
「見えたっ!」
視界が開け、使徒の姿を捉える事が出来たからである。しかも、攻撃直後の無防備なところを。その瞬間、使徒が怯えたような気がシンジはした。
「これで……」
空中でマゴロク・E・ソードを取り出し、大上段に構えて落下する初号機。そして、その一撃が使徒へと振り下ろされる。
「どうだっ!」
その初号機渾身の一撃はまたもフィールドに阻まれる。だが、それでも良かったのだ。シンジは思いの限り叫ぶ。
「綾波ぃぃぃぃぃっ!」
「発射っ」
まさに不意打ちだった。初号機だけに気を取られ、零号機の再装填完了を気付かず第五使徒はその身を陽電子の光に貫かれた。それを見て初号機は全力でその場から離脱。それを合図に使徒は大爆発するのだった。
全てが終わり、初号機をミサト達がいる場所近くまで運んだ後、シンジはエントリープラグ内で脱力していた。今までにない程の疲れを感じていたのだ。彼は知らない。それが無意識で使った気迫と見切りの反動だと。
「……勝てた、んだよな」
その独り言に反応する者はいない。すると、突然エントリープラグのハッチが開いた。そこから外の声らしきものも聞こえる。リツコやミサトの声もするので、おそらく撤収作業の指示だろうとシンジは思った。それと共に姿を見せたのは使徒を仕留めた可憐な射手。
「碇君……無事?」
「綾波……?」
どうしてと思うも、疲れのせいで頭が上手く働かないシンジは声にも力が無かった。極度の疲れと緊張からの解放による眠気が押し寄せてきたのだ。それがレイには力尽きてしまうように見えたのだろう。慌ててシンジへと駆け寄った。
「碇君、しっかり」
「……大丈夫。ただ、すごく眠いんだ……」
「寝てはダメ。すぐに赤木博士達を呼んでくるわ」
「寝ちゃダメなんて……酷い事言うなよぉ……」
「だって、このままじゃ碇君が死んじゃうもの」
「死なないよ……寝るだけだって……」
「起きて」
「無理だよぉ……」
会話しつつもシンジの瞼がどんどん閉じていく。それを見たレイはどうすればいいかと考える。そうこうしている内にシンジは目を閉じてしまう。と、そこでレイはある童話を思い出した。眠ってしまった相手を起こす魔法。幾多もの物語で使われる手段を。
「ん……」
不意に感じた温もりにシンジはぼんやりと目を開ける。心なしかレイの顔が近くにあるような感じがして、彼はより安心を覚えて目を閉じる。
(やっぱり綾波は温かいや……)
その安らかな寝顔にレイはより一層慌てる事になる。そのすぐ後にリツコが姿を見せ、疲労による睡眠と診断する事でようやくレイは安堵する事となった。
碇シンジは精神レベルが上がった。底力のLVが上がった。精神コマンド直感を覚えた。
新戦記エヴァンゲリオン 第六話「決戦! 第五使徒VSダブルエヴァ」完