エヴァだけ強くてニューゲーム 限定版   作:拙作製造機

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やっとの登場。ここからシンジの色恋もやっと自覚が芽生え始める……かも。

集中……使用すると一ターンの間、命中率と回避率が30%上がる精神コマンド。ゲームでは、それぞれの計算式を終えた後の数字から直接30%足し引きするのでかなり使える。つまり、本来なら当たらない攻撃も30%の確率で当たるようになるし、本来なら絶対当たる攻撃を70%の確率へ下げる事も出来る。

……こう書くと集中も大概反則ですね(汗


第八話 アスカ、来日

「弐号機が来る?」

「ええ、そうよ。近い内に本部まで移送されるの。パイロットと共にね」

 

 いつものメディカルチェックでの会話。最近シンジはそこでリツコから様々な情報を得る事が多い。ミサトよりもリツコの方が知っている事が多いからだろう。後はそれをしっかり伝える意識があるかないかだろうか。いや、ミサトの場合は驚かせるつもりもあるので意図している場合もあるだろう。とにかく、シンジにすればリツコとミサトならば情報源として圧倒的に頼りになるのが前者であるのは疑いようがない。

 

「男性ですか?」

 

 そのシンジの問いかけには期待するようなニュアンスがある。出来れば同性で、しかも秘密を共有出来る相手が欲しいとの想いが分かる程だ。リツコはそんなシンジを可愛いと思うも、無言で首を横に動かした。その意味を理解し項垂れるシンジだが、すぐにそれが何を意味するかを思い出し顔を上げた。

 

「じゃ、女性なんですね?」

「ええ、そう。しかもかなり可愛いわよ?」

「そ、それは……どうでもいいとは言いませんけど……」

「出来ればレイの友人になってくれたら?」

「そうです。僕もだけど、綾波にも苦労とか大変さを分かち合える同性の友達がいたらいいなって」

 

 何と心優しい事だろう。そうリツコは思いながらも、そのパイロットであるセカンドチルドレンの事を思い出し、何とも言えない表情をシンジへ見せる。

 

「初めに言っておくわシンジ君」

「はい?」

「弐号機パイロット、セカンドチルドレンはエリート思考のじゃじゃ馬さんよ。レイと真逆と思った方がいいわ」

 

 その宣告は、ある意味で同性ではないと告げられたよりもシンジの心を打ちのめした。

 

 そんな事があったのがつい先日。今、シンジはミサトと共にヘリの中にいた。そのヘリは太平洋上の空母へ向かっている。そこにいる弐号機パイロットへシンジを引き合わせるためだ。ミサトはその指示に若干の違和感を感じていた。何故シンジだけなのか。どうしてレイは連れていかなくてもよいのかと。

 

(もしかして上は、いえ司令はシンジ君とアスカの接触に何か期待してる? ……まさかレイをシンジ君に取られそうだからとかじゃないわよね?)

 

 ある意味当たらずとも遠からじではあるが、結局ゲンドウの思惑は理解出来ぬまま、ミサトとシンジを乗せたヘリは艦隊の中でも一際大きな空母へ着艦する。彼らと共にヘリはある物を運んできていた。それがこの日重要な役割を果たす事になるとは、まだ誰も思いもしなかった。その内の一人である少年もまた、静かに迫りつつある脅威を知らず、ヘリから甲板へと降り立った。

 

(何だか変な感じがするや)

 

 初めて踏みしめる鋼鉄の大地にシンジが何とも言えぬ感情を抱く中、ミサトはお目当ての相手を見つけて手を振った。

 

「アスカ~っ!」

「ひっさしぶりねミサト。元気そうじゃない」

「まあね。アスカも背が伸びたんじゃない?」

「ええ。他にも女らしくなったわ」

 

 シンジの前で展開される会話。それは懐かしむものであり、気安い感じもするもの。二人がそれなりに親しい事が伝わってくるものだった。シンジは、会話の邪魔をしてはと少し離れた場所でそれを見ようとしていたが、アスカと呼ばれた少女の視線が彼へ突き刺さったのはそんな時だ。

 

「で、あれが例の?」

「そう。サードチルドレンの……」

「い、碇シンジです。よろしく」

「……これが、ねぇ」

 

 事前にリツコから聞いていなければシンジも苛立ちを感じるような言い方と視線だった。だが、リツコからエリート思考でじゃじゃ馬であると聞いたシンジは、そこまで怒る事はしなかった。それは、きっと彼女もレイと同じで一般常識に疎いからだろうという発想。レイのように本来教えられる礼儀やマナーなどを知らないからこそ、目の前の少女もじゃじゃ馬なのだとシンジは思っていた。つまり、ある意味でレイと同じ扱いをするつもりだったのである。

 

(怒らない怒らない。きっとあの子も知らないだけだ。エヴァのパイロットだから普通の常識や礼儀なんかを教えてもらってなくて、訓練の成績だけが全てみたいに言われてたんだ。だから、あれがあの子にとっては普通。ミサトさんの感じからすると、誰もそういう事言ってあげてないみたいだし)

(何よ。こっちに優しげな視線向けてきて。……あたしに気がある? いやでもそんな感じの目付きじゃないわね。あれはどちらかっていうと……)

 

 そんなシンジの心を知る由もないアスカは彼の視線から思い当る事があった。それは彼女が憧れる一人の男性。その彼が自分を見るものに近い。そう判断した瞬間、アスカは大きく首を横に振った。

 

「どうしたのよアスカ。急に首なんか振って」

「別に。何でもないわ」

 

 自分の憧れる男性と同じ眼差し。それが意味するのはシンジが自分を微笑ましく思っている事。つまり年下の扱いだ。そう思ってアスカはシンジへ睨むような視線を向ける。それに若干ではあるがシンジが怯んだ。

 

「な、何だよ?」

「いい? 少しばかり使徒を倒したからっていい気になるんじゃないわよ! あたしと弐号機が来たからには、今後あんたなんかお払い箱にしてやるんだからっ!」

 

 その言葉にはシンジも黙っている訳にはいかなかった。今の彼にとって、アスカの言い分は聞き流せるものではなかったからだ。使徒を倒していい気になる。そんな事一度たりとも彼はなった事も思った事もない。それどころかやらずに済むならそうしたいとさえ思っていた。だからこそ、シンジは叫びたい衝動を抑えながらはっきりとした声で言い返した。

 

「君は何も分かってないよ」

「は?」

「使徒を倒していい気になる? そんなはずないじゃないか。エヴァは無敵の存在じゃないし僕は不死身じゃない。下手をしたら死ぬし、勝てたって大怪我をすれば一生車椅子になってもおかしくない。そんな事を僕はしてきた。それが僕にしか出来ない事だったからだよ。逃げたいって思った。嫌だった。でも、僕がそれから逃げたら多くの人が、物が、街が失われるって、そう分かったからもう逃げないんだ。君と弐号機がそれから僕を解放してくれるなら喜んでそうなりたいよ。でも、それでも僕はエヴァで使徒と戦う。使徒と戦うのは誰かに自慢するためじゃない。自分やみんなを守るためにしなきゃいけない事だから」

 

 そのシンジの言葉にアスカは返す言葉がなかった。最初こそ途中弱音を吐いたのでそれを指摘してやろうと思った。だが、彼の実戦を経て紡がれる言葉には重みがあった。更に覚悟と決意が見えたのだ。今の彼女には決定的に欠けているものが。

 

「シンジ君……」

 

 ミサトは初めてシンジの気持ちを聞き、感じ入るものがあった。初めて出会った時は頼りない少年だった。それが三度の使徒戦を経てここまで強い心を持つに至ってくれたのかと、そう思ってミサトは静かに微笑んだ。そんなミサトに気付かず、シンジは自身を見つめ言葉を失っているアスカへこう告げて締め括った。

 

―――それに、僕は君だって守れるなら守りたいんだ。こうやって知り合った訳だし。

―――っ!?

 

 それまでのやや凛々しい顔から一転しての少し照れくさそうな笑みと共に告げられたそれは、思いの外アスカの心を揺り動かした。そこに下心などがなかったのも大きいだろう。そういう視線や言葉であればアスカもある程度の耐性はあった。しかし、シンジのそれは本当に純粋な気持ちだけ。それはアスカが中々触れてこなかった人の温かさだった。

 

(な、何よ。あたしを守りたいですって? それに使徒と戦うのは自慢じゃなく自分やみんなを守るため? ……幸せな生き方をしてきたんでしょうね!)

 

 アスカにとってエヴァに乗る事は世界で一番大好きな人に自分を見てもらうためだった。そのためなら他がどうなろうと知った事ではない。それがアスカの偽らざる本音である。ではあるが、一方でシンジの言う考えこそエヴァに乗る者として相応しい信念だとも分かってはいた。しかし、分かっているのと受け入れるは別だ。

 

「言ってなさいよ! どちらにしろ、あたしの方があんたよりも凄いんだからねっ!」

「うん、それはそうだと思う」

「はぁ?!」

 

 アスカはもう訳が分からなくなりそうだった。シンジは謙遜でも嫌味でもなく心からそう言っていると分かったからだ。そう、シンジは本気で自分よりもアスカの方が凄いと思っていたのだ。彼と違い正規の訓練を受け、エヴァに乗るための努力を続けてきただろうアスカ。そんな相手に初号機の変化による高性能で勝利を収めてきた自分は劣っていると素直に認める事が出来たからだ。

 

「とりあえずそこまでよ。シンジ君、あたしはこの艦の艦長へ挨拶しなきゃいけないから。悪いけどアスカと待っててくれる?」

「はい」

「ちょっと、あたしにこいつのお守りをしろっての?」

「えっと、嫌ならいいよ。ただ、待ってていい場所を教えてくれないかな?」

 

 シンジの落ち着いた対応にアスカはムキになっている方がより子供っぽいと感じ、仕方なくミサトの言う通りにする事にした。そうして二人は甲板の手すりに掴まりながらミサトを待つ事となる。

 

(どうしようかな? どうも僕はあっちに嫌われてるみたいだ。……そうだよな。初号機のおかげで勝ってるだけで、僕自身はあっち程努力してないし……)

(なによなによなによっ! 少しばかり経験があるからってさ! あたしにあんな事、言ってくるなんて……。知り合っただけで、あたしだって守れるなら守りたい、か……。そこまでの気持ちがあるから、あいつは街への被害さえ少なくしたんだわ)

 

 アスカに嫌われていると思うシンジと、その信念に本当のプライドというものを感じたアスカ。共にどう会話を切り出そうと窺っていたその時、ふとシンジは思い出した事があった。

 

「えっと、少しいいかな?」

「……なによ?」

 

 自分との違いを感じて何ともいえない気分となっていたアスカは、シンジの声に過剰なまでの苛立ちを乗せた。それを自分への拒絶にも近い感情と取ったシンジは一旦言葉を飲み込みそうになるが、こんな事で逃げたら後が大変になると奮い立って言葉を紡いだ。

 

「そ、その、名前を教えてくれないかな?」

「……ミサトが呼ぶの聞いてたでしょ」

「うん、でも僕が勝手に呼んでいいのかなって。ほら、呼び捨ては親しい相手とかしか」

「惣流・アスカ・ラングレーよ。好きに呼べば?」

「えっと……苗字は惣流? それともラングレー?」

「あんたバカァ? スリーネームなんだからどっちも苗字みたいなものよ」

 

 シンジの無学さに呆れつつ、アスカはこのままだと面倒な事になると判断した。そう、どちらも苗字と教えると今度はどっちで呼んでいいかと尋ねてくると踏んだのだ。なので先手を打って彼女はこう言い放った。

 

「アスカでいいから」

「そ……え?」

「アスカでいいって言ってんの。どうせあんたの事だからどっちがいいとか悩みそうだし、大抵の人間にそう呼ばれてるから気にしないわよ」

「……そっか。ありがとう、アスカ」

「その代わり、あたしもあんたをシンジって呼ぶから」

「うん、よろしくアスカ」

「ふんっ!」

 

 ちらりと視線をシンジへ向けたアスカであったが、すぐにその顔は明後日の方向へ向けられる事となる。そう、シンジは嬉しそうな笑顔を彼女へ向けていたからだ。理由は簡単。初めて同年代の異性から呼び捨てを許可されたからである。しかも、その相手は日本人離れした美少女。これで嬉しくならない中学男子はいないだろう。何せあのレイからもそんな事を言われた事はないのだから。

 

(まさかアスカって呼んでもいいなんて……意外と嫌われてはないのかな?)

(な、何よあの顔。そんなに名前で呼べるのが嬉しいの? ……バッカみたい)

 

 そこから会話はなかった。いや、正確にはしようとしたが出来なかっただろう。シンジはアスカの個人的な事を聞いて嫌われたくないと考えて話題に困り、アスカはアスカで今更マゴロク・E・ソードや使徒との戦いを聞く事は出来なかったからだ。

 

 その頃、ミサトは空母の艦長と対面し挨拶を交わすと同時に、あるものの仕様書を手渡していた。それはエヴァの非常電源用のソケットのもの。だが、それが意味する事に艦長は不満の色を隠さなかった。

 

「この海の上であの人形を動かす事などありはしない」

「万が一の備えとお思い下さい」

「その万が一に備えての我々だ。それとも何かね? 我々国連軍は宅配屋とでもいうのかな?」

「……そうは思いません。ですが、我々日本人の慎重さと取ってください。石橋を叩いて渡るという諺がある国なのです。転ばぬ先の杖とも言います。使わぬままで終わればそれが一番だとこちらも思っています」

 

 ミサトは内心で歯軋りしながら表面上は相手を立てた。シンジが乗っている以上、この艦隊は最後の守りである。いくら弐号機があるとはいえ、何があるか分からないのが世の常。しかも、ここは陸地ではなく海の上。逃がすにしても簡単には行かないのだから。

 

 艦長もミサトが下手に出ているのを察し、これ以上皮肉を言っても意味がないと感じたのだろう。鼻息荒く渡された書類を手にしその内容を黙読し始める。やがて一読したのか、書類をミサトへ突き返してこう告げた。

 

「まだサインはしない。エヴァ弐号機及び同搭乗者はドイツの第三支部より我々が預かっている。その身柄を君らへ渡すのは新横須賀への陸揚げ後だ」

「……分かりました。ですが、有事の際はこちらも相応の対処をさせて頂きます。初号機パイロットの安全のために」

 

 極力嫌味にならないよう告げ、ミサトはブリッジを後にする。と、その背に声を掛ける者がいた。

 

「相変わらず凛々しいな」

「なっ……」

 

 その声に聞き覚えがあったミサトは驚愕の表情で振り向いた。そこには飄々とした雰囲気の男性がいた。

 

「よっ、元気そうだな葛城」

「どうしてあんたがここにいるのよ!」

「アスカの随伴でね。ドイツから出張ったって訳だ」

「迂闊だった……十分考えられる事だったのに……」

 

 男性とミサト。この二人は因縁浅からぬ仲であるが、それはまだ語るべき時ではない。こうして二人は連れ立ってシンジとアスカが待つ場所へと向かう。そして少年と少女の沈黙は、ミサトが不満そうな顔で男性と共に戻って来た事で終わりを迎えた。

 

「お待たせ……」

「よっ、君が碇シンジ君だね。俺は加持リョウジ。よろしく」

「えっ、はい……よろしく」

「加持さん、こいつの事知ってるんですか?」

 

 加持と名乗った男性はアスカの問いに苦笑した。

 

「そりゃあな。彼はこの世界じゃ有名なんだ。テストもなしにエヴァへ乗り、使徒を一撃で撃破したパイロット。シンクロ値もいきなり40オーバー」

「はぁ!? 嘘でしょぉ!?」

「えっと、僕が凄いんじゃありません。凄いのは初号機です」

 

 アスカの信じられないものを見るような声と視線に耐えかね、シンジは心からの本音を口にする。だが、それを聞いて加持もミサトも小さく首を横に振った。

 

「例え初号機が凄いとしてもだ。あの場で動かせるのは君しかいなかった。そこで逃げずにエヴァに乗ってくれた事は感謝しているよ。じゃなければ、今ここに俺達はいない」

「そうよシンジ君。それに、どんなに凄い道具も使う人間がいなければ意味がないの。貴方はそういう意味でちゃんと道具を、しかも正しく使ってくれた。それだけは誇っていいわ」

「加持さん……ミサトさん……」

 

 大人二人の心からの言葉にシンジは感謝するようにその名を呟く。アスカはそんなシンジを見て自分との違いを痛感していた。彼は自分を見て欲しいと足掻いている訳ではない。ただ、自分に出来る事を懸命にやっているだけ。それが結果的にシンジ自身を見られる事に繋がっていると思って。まだアスカは知らないのだ。彼も最初は彼女と同じく大切な親に見て欲しいからエヴァに乗ったと言う事を。

 

「……何よ。ミサトも加持さんもこいつばっかり」

「おっと、そうだった。だがなシンジ君、アスカだって大したものだぞ?」

 

 まるでアスカの呟きを聞いたように加持は彼女の近くへ移動し、その肩へ手を置いた。

 

「現在移送中のエヴァ弐号機専属パイロットとして、十分な訓練を積みそれに関する知識を持っている。更にそれを身に着けるだけの才能と、並々ならぬど」

「実力の持ち主なのっ! ま、あたしは素人同然のあんたとはものが違うって事よ」

 

 加持が努力との単語を使おうとしたのを察し、遮るように大声を出すアスカにシンジは驚いた。一方の加持とミサトはその行動の裏を察して苦笑。天才を自称するアスカは努力という表現や言葉を嫌うからだ。それを分かっていて加持はわざとああいう表現で悟らせたのだ。そこにはシンジへ劣等感を抱きつつある彼女の気持ちを切り替えさせる意味合いがあった。

 

「あんた、相変わらずいい性格してるわね」

「それはお互い様だろ? 寝相は直った?」

「ふん……」

「やれやれ……機嫌も直ってないか」

 

 小声で会話する大人二人と裏腹に、少年少女は至って普通の声量で会話していた。この際だとばかりにアスカが聞きたかった事を尋ねたのだ。

 

「マゴロクソード?」

「うん、今の初号機の一番強い武器なんだ」

「日本刀みたいだからって、名前までそうしなくてもいいじゃない」

「あ、あはは……」

「後は何かないの? どうせまだ何か隠してるんでしょ? 隠すとロクな目に遭わないわよ。というか遭わす」

「ええっと……」

 

 そこでシンジはミサトへ視線を向ける。アスカへ全部話してもいいのかという目だ。ミサトはそれに頷いてみせる。どうせ知られる事になるのなら本人の口からが良いだろうと判断したのだ。だが、それをシンジが答える前にアスカは何かを思い出したようにニヤリと笑った。

 

「いいわ。情報代としてあんたに凄いものを見せてあげる。ついてきなさい」

「えっ……ちょ、ちょっとアスカ待ってよ」

 

 歩き出すアスカの後を追うシンジを見送り、ミサトと加持は小さく息を吐いた。分かったのだ。アスカが何をシンジへ見せようとしているのかを。その予想を裏付けるように二人は別の艦へと移動していったのだ。

 

「弐号機かしら」

「だろうな」

 

 気分はまるで妹や弟を見守る姉夫婦である。そんな風に考えて、ミサトは冗談じゃないと軽く頬を叩く。それを加持が微笑ましく見つめた。

 

「何よ?」

「別に……。相変わらず美人だなとね」

「よく言うわよ。誰にでも言うくせに……」

「そうだが、一番言ったのは葛城に対してだぞ?」

「……言ってなさい」

 

 不覚にも喜んでしまった自分を恥じるように顔を背けるミサトと、そんな彼女に嬉しそうな笑みを向ける加持。二人の共通の友人であるリツコがいればこう言っただろう。あの頃から何も変わってないわね、と。

 

 一方、シンジとアスカは弐号機が格納されているオセローへ移乗し、早速その近くまで向かおうとしていた。と、その時だった。何かに揺れるように艦体が動いたのだ。

 

「今のは……?」

「水中衝撃波? もしかして……」

 

 慌てて甲板まで戻るアスカを追い駆けシンジも走る。手すりに掴まりながら周囲を確認した二人が見たのは、一隻の艦が何かに沈まされる光景。同じ光景を空母のミサト達も確認していた。

 

「おい、葛城。これは」

(不味いな。あれを届ける前に襲われるなんて勘弁願いたいもんだ。無事に陸地へ戻れるかね?)

「ええ、その可能性が高そうね」

(使徒、か。シンジ君とアスカは大丈夫かしら?)

 

 加持とミサトは険しい顔で互いを見合うとその場から急いでブリッジへ向かった。その胸の内では、まったく別の心配をしながら……。

 

 突然の事に慌てるオセローのクルー達を見やり、シンジは避難するためにどこへ行けばいいのかアスカへ尋ねようとして、その相手の表情に言葉を失う。アスカは不敵に笑っていたのだ。

 

「アスカ?」

「……チャンスよ。いえ、この場合は少し違うか。でもいいわ。どちらにしろいい機会だもの」

「えっと……?」

「行くわよ。あたしについて来て」

「う、うん」

 

 走り出したアスカに遅れまいとシンジもその場から駆け出す。一体さっきの言葉はどういう意味だと思いながらシンジはアスカの後を追う。やがて二人はある場所へ辿り着く。そこまでくればシンジもこれが避難経路ではないと理解していた。ならば、彼女がやろうとしている事も察しが付くというもの。

 

「アスカ、もしかして」

「着替えてくるわ。あんたはここで待ってなさい」

「戦えるの? ここにはケーブルが」

「あるわよ。てか、あんた達が一緒に運んできたものはそれ関連」

「……分かった。一応見張ってるよ」

 

 アスカの答えが自分の不安や心配を払拭した事でシンジは彼女を信じる事にした。あの振動を起こしたのが使徒だとすると、ここで戦うのが一番被害が少なく済むからだ。アスカの言ったチャンスとはその事だろうと思い、シンジは彼女がプラグスーツに着替えるのを待った。

 

(海の上での戦いか。水中戦になるかもしれない。エヴァって水の中でも戦えるんだっけ?)

 

 そこまで考えシンジはため息。ここが自分とアスカの違いなのだろうと。きっとアスカなら今の疑問など浮かばない。知っているからだ。対して自分はエヴァの事を何も知らないに近い。帰ったらリツコにでもその辺りの事を聞いてみよう。そう思うシンジだったが、実際はあの初号機で戦う限り地形の事は気にしないでいいのが真実とは夢にも思わないだろう。陸海空全てで十分に戦えるだけの性能をあのF型は有しているのだから。

 

「待たせたわね。さ、あんたもさっさと着替えて」

「えっ!?」

「いいから早くっ!」

「わ、分かった!」

 

 きっと何か考えがあるのだろう。そう思ってシンジもアスカと入れ替わりに部屋へ入り、赤いプラグスーツへと着替えた。着替え終わったシンジを見て、アスカは無言でまた歩き出す。向かう先には真紅の巨人がいた。

 

「これが弐号機……」

「そうよ。世界初の実戦型エヴァンゲリオン。それがこの弐号機なんだから」

「なら使徒だって……?」

「聞くまでもないでしょ! さっさと乗るっ!」

 

 アスカに急かされるままにシンジは弐号機へ乗り込んだ。一方、その頃ミサト達はと言えば……。

 

「ですから! エヴァの使用を進言しているんですっ!」

「必要ないっ! 我々だけで対処は可能だっ!」

 

 艦長の答えにミサトは歯を食いしばる。分かっているのだ。目の前の相手は面子やプライドといったものだけで物を言っていると。こうなると理屈では説得は難しい。ならばと、ミサトは強権を発動しようとしてその腕を何者かに掴まれる。思わず振り返るミサトの視界に真剣な表情の加持が映った。

 

「何よ?」

「妙だ。使徒はどうしてこの艦とオセローへ攻撃してこない? 沈めた艦は本当にただの護衛だ」

「……まさか待ってるの? エヴァが出てくるのを」

「報告で聞いたが、前回の使徒もまずエヴァの排除を目的にしてたそうだな。なら……」

「奴の狙いは弐号機とそのパイロット?」

 

 その時、ブリッジに一つの報告が入る。

 

「オセローより入電! エヴァ弐号機が起動中との事ですっ!」

「何っ!?」

 

 あまりの事に驚く艦長を見て、ミサトはここしかないと判断する。

 

「艦長っ! 使徒の狙いは弐号機とそのパイロットです。前回の使徒も初号機を狙った動きを見せました。ここは弐号機を発進させ艦隊の被害を減らすべきです」

「しかしっ!」

「大切な艦隊やクルーと預かり物の荷物。どちらが大事なんですかね?」

「国連軍は宅配屋ではないとおっしゃいましたが、宅配屋も危機に瀕した際守るべきものは間違えません。ならば艦長達が真に守るべきはお分かりになるはずです」

「しかもこちらの荷物は自衛可能、か……よかろう」

 

 加持の言葉にミサトが続けた言葉に艦長が折れた。即座に弐号機の戦闘を支援するべく非常用の電源を用意するよう指示を出したのだ。

 

「ご配慮に感謝します」

「それは無事に陸地へ着いてから言ってもらおう」

「大丈夫ですわ。必ず何とかしてくれます」

「そうですとも。それも、連合艦隊が協力していただければより一層確実、ですが」

「……いいだろう。ただし、あくまで全ての指揮権は我々にある」

「ええ、構いません。今生きている者が全員無事に陸地へ着ければ」

 

 艦長とミサトが見つめ合う中、加持は静かにその場を抜け出していた。そして、誰もいない場所で携帯を取り出しどこかへ連絡した。

 

「こんな所で使徒襲来なんて聞いていませんが?」

『そのための弐号機とシンジだ。それでも不安ならば一人で脱出するのだな』

「随分ご子息を信頼されているようで」

 

 そこで通話は切れた。加持はその反応に小さく笑みを浮かべる。どうやら逃げるよりも残った方が面白そうだと、そう思うもやはり彼の理性は冷静だった。結局彼は密かに空母から離脱する事を決意する。今はまだ、彼はミサト達程シンジの力を信じていなかった。

 

 そのシンジはといえば、弐号機のエントリープラグ内で沈黙を保っていた。理由は乗り込んだ後でアスカから言われた言葉にある。

 

―――ギリギリまで何もするな?

―――そう。これはあたしと弐号機の初戦闘。だからあんたには特等席でそれを見せてあげるのよ。

―――……それでもし、アスカと弐号機だけじゃ難しい状況や展開になったら手を貸せばいいの?

―――ま、そんな必要はないと思うけど念のためよ。それに、ほら……あんたが言ったんでしょう? あたしも守れるなら守るって。男なら言った事ぐらい守りなさいよね。

 

 そのやり取りを思い出し、シンジはひたすら弐号機の動きを観察していた。今は用意された外部電源へ接続するために跳び上がったところだった。そこに至るまで荒々しい行動をしていたアスカに、シンジは心からこう思っていた。

 

(無茶するなぁ……)

「よし、エヴァ弐号機着艦しますっ!」

 

 空母の甲板をその両脚で踏みしめる弐号機。その行動を迷う事なく出来るアスカにシンジは驚きと感心の気持ちを抱いていた。きっと自分では即決出来ないと。と、その時だった。ブリッジから聞こえてくる報告に焦りが混じったのは。

 

「目標、本艦に急速接近っ!」

「やはりか……」

 

 その報告はミサトの予想が当たっていた事を意味する。使徒がエヴァを狙う。それは前回と今回で起きた共通点。そこに何か理由はあるのか。そんな疑問を抱きつつ、ミサトは目の前の戦闘へ意識を向ける。そこでは弐号機が外部電源への切り替えを始めていた。

 

「来るよ、アスカ」

「分かってるっつのっ!」

 

 アスカの叫びに呼応しプログナイフを取り出す弐号機。それを構え、弐号機は使徒を待った。そしてその姿を見せると同時に弐号機の電源が切り替わる。

 

「切り替え終了! アスカっ!」

「どおおおおりゃあああああっ!」

 

 口を開けて向かってきた使徒を迎え撃ちながらプログナイフを突き立てようとする弐号機だったが、当然そんな事は出来ない。何とか使徒を受け止め踏みとどまるだけで精一杯だった。

 

「アスカ、このままじゃ不味いっ!」

「一々煩いっ! 言われなくても分かってるわよ!」

 

 答えながらアスカは微かな違和感を覚えていた。シンジが声を掛けた瞬間、僅かではあるが押し返す力が上がった気がしたからだ。そんなはずはないと思いつつ、アスカは試してみるかとシンジへ声をかけた。

 

「ちょっと! あんたも念じなさいっ!」

「念じる?」

「使徒を倒すってだけでいいから!」

「分かったっ!」

 

 シンジが返事した直後、たしかに弐号機が僅かに使徒を押し返した。アスカはそこで確信する。二人での搭乗で弐号機が少しだけ強化されていると。

 

(間違いない。シンジがあたしと息を合わせると弐号機が強くなる。こんな事有り得るの? いや、そもそもエヴァにチルドレン二人乗りなんて概念ないものね)

 

 きっとその想定外の出来事によるとんでも効果だ。そう結論付け、アスカは更なる追撃とばかりにプログナイフを突き立てた瞬間、暴れ出した使徒と共にそのまま海中へと落ちた。

 

「落ちたぞ! 大丈夫なのか!?」

「アスカ、その弐号機では水中戦は無理よ!」

 

 艦長の心配へ答えるでもなく、ミサトはアスカへ事実を告げる。今の弐号機はB型装備と呼ばれるもので、当然だが水中戦闘を想定した状態ではない。だが、そんな事はアスカも百も承知だった。

 

「やってみなくちゃ分からないわよ! 行くわよシンジっ!」

「分かったっ!」

「「止まれぇぇぇぇっ!」」

 

 二人の声が重なり、使徒に組み付いたままの二号機の目が光る。すると使徒の速度がゆっくり落ちていく。弐号機による押さえ付けが効いているのだ。しかし完全に止めるには至らない。このままではケーブルがなくなる。そう判断したアスカはどうすればいいかを考えた。

 

(どうする? いくら二人乗りでパワーを増した弐号機でも使徒を完全に止めるのは無理。かといって艦砲射撃ではフィールドを突破なんて不可能だし……)

 

 と、そこでアスカは見た。使徒に刺さったままのプログナイフを。直感的にアスカはそれがないと不味いと判断した。そのためにアスカは敢えて使徒から弐号機の片手を放してプログナイフへ伸ばし、掴むと同時に残る片手も放す。すると、使徒は弐号機を振り解くように暴れどこかへと去った。

 

「どうして手を放したのさ?」

「武器を取り戻すためよ。これがあるのとないのとじゃ倒せる確率が違うもの」

 

 シンジの疑問へ返答しながらアスカは弐号機の手にプログナイフを握り締めさせる。そして、何も見えなくなった海中を睨んで告げた。

 

―――それに使徒は絶対また襲ってくる。

 

 その言葉の通り、使徒は凄まじい速度で弐号機を急襲。その上半身へと噛み付いた。それこそアスカの狙いだと気付かぬままに。

 

(これなら力一杯ナイフを刺せるっ!)

 

 

 

 弐号機が使徒の再攻撃を受けていた頃、ミサトはその状況を知って使徒を倒す発想に至っていた。

 

「エヴァにフィールドを破らせ攻撃を通す?」

「それだけではありません。先程の攻撃からも分かる通り、奴には口があります。そこをエヴァでこじ開け攻撃を加えます。こちらの残存する戦艦を無人にして自沈させた後、使徒口腔内へ直射攻撃ののち自爆を行いとどめとして使用させて頂けませんか? 口腔内なら表面よりも脆い分、攻撃も通り易いはずです。残念ながら、今の弐号機には使徒を倒せるだけの火力はありません」

「……無茶だな」

「ですが無理ではありません。艦長、ご決断をお願いします」

「…………どのみちこのままでは全滅か。ならば、名誉ではなく命を守る方が賢明だ。化物を倒せるのなら尚の事、な」

「艦長……」

 

 そうミサトへ告げると艦長は微かに口元を上げ、ブリッジに響き渡る声で言い放った。

 

「総員退艦せよ! 各フリゲートには漂流者の救出を急がせろ! これより我々連合艦隊の意地を賭け、エヴァと協力してあの化け物の息の根を止める作戦を開始する!」

 

 その声に慌ただしくなるブリッジクルーを眺めるミサトへ艦長は少し抑えた声でこう問いかけた。

 

「これでいいかね?」

「ご協力、感謝します」

「構わん。その気になれば指揮権を奪えたのに、最後まで我々に華を持たせてくれた礼だ。しかしエヴァはどうする?」

「ご心配なく。あの子達は必ず生還します」

 

 その欠片としてそれを疑っていないミサトの声と表情に、艦長も言葉を返す事無く頷いた。

 

 

 

『いい? チャンスは一度っきりよ。頼んだわ』

「任せてっ!」

「やってみますっ!」

『無事に戻ってきてね、二人共』

 

 その最後の声にシンジもアスカも小さく笑みを浮かべる。

 

「心配性なんだからミサトの奴」

「でも、だからこそ絶対安心させなきゃいけないんだ」

 

 さらりと告げられたシンジの言葉にアスカは不意を突かれたような顔をした。

 

「……そう、それがあんたなのね」

 

 その呟きは幸か不幸かシンジの耳には聞こえない。彼は眼前の使徒へ全神経を集中していたからだ。やがてアスカも彼と同じように神経を研ぎ澄ませていく。巻き戻されるケーブルに引っ張られる形で使徒と共に弐号機は空母へと近付いて行く。高まって行く緊張感。そんな中、アスカはどこかにあった不安が消えている事に気付いた。その理由も程なくして分かる。彼女の肩へシンジが手を置いているからだ。

 

(あったかい。それに……不思議と落ち着く。こいつのそれが伝播してるのかしら? これが経験の差ってやつ? ……違うわね。ま、本当なら気安く触るなって言うとこだけど、今は非常時だし大目に見てあげるわ)

 

 この時、アスカは自分でも気付かぬ内に微笑んでいた。それにシンジも気付く事なく、二人はただ一心に念じる。使徒の閉じている口。それを開かせるために弐号機へ手にしたプログナイフで何度も使徒を攻撃させたのだ。フィールドに阻まれる一撃を諦める事なく、何度も何度も。

 

「届け」

「届け」

 

 重なる事のない声。だが、その祈りは同じ。プログナイフはまだ弾かれていた。

 

「届けっ」

「届けっ」

 

 まだ重ならない声。しかし、その気持ちは重なりを見せている。プログナイフがフィールドへ突き刺さった。

 

「届けっ!」

「届けっ!」

 

 重なり出す声。それに比例するように想いも強くなる。プログナイフのフィールド突破率さえ上昇していく。

 

「「届けっ!!」」

 

 遂に重なり合う声と願い。それが使徒のフィールドを突破し強烈な一撃となる。そして使徒が痛みにもがくように大口を開けた瞬間、弐号機は全身でそれを支えそこへ無人の戦艦二隻を突入させる。二隻は同時に主砲を発射。その瞬間、弐号機は使徒を足場に反動を利用して脱出し、そのまま二隻の戦艦は自爆して使徒と共に海の藻屑と消えたのだった。

 

 

 全てが終わり、弐号機とシンジ達は無事新横須賀港へ到着。そこでミサトは思わぬ光景を見る事となった。

 

「あらら、これはこれは……」

「何よ?」

 

 それはお揃いのプラグスーツに身を包んだシンジとアスカ。そうであるとどこかで分かってはいたが、実際目の当たりにすると微笑ましくなるのだなと、そう感じて苦笑するミサト。一方、何故ミサトが苦笑しているのか理解出来ないアスカへ、シンジがそっと耳打ちする。

 

「きっとお揃いの格好してるからじゃない?」

「はぁ? 当たり前でしょ? これしかプラグスーツないんだもの」

「それでもなんじゃない? たしかこれって、普通だとペアルックって言って恋人とかがやる事だし」

「な、なんですってぇ!」

 

 シンジの説明に冗談じゃないとばかりに大声を出し、アスカはミサトを睨みつける。

 

「ミサト、いい? 絶対加持さんへはこの事教えちゃダメだからねっ! というか加持さんはどこよ!?」

「あー、はいはい。言われなくても誰があいつと話すもんですか。それと、あいつならいつの間にかいなくなってたわよ」

 

 食って掛かるアスカへ応じるミサトの言葉に、シンジは一人心の中で首を傾げていた。

 

(ミサトさんと加持さんって、一体どういう関係なんだろう?)

 

 その疑問への答えは思わぬ形で教えてもらえる事になる。いつものメディカルチェックでの会話で。そしてシンジは思うのだ。恋愛とは、いくつになっても難しいものなのだと……。

 

 碇シンジは精神レベルが上がった。精神コマンド集中を覚えた。

 

新戦記エヴァンゲリオン 第八話「アスカ、来日」完

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