マジ恋短編   作:黒亜

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普段の一話より短いです。
次の話につなごうとする癖があるので、なかなかこれが大変でした。


海斗くんちの大家さん

―ある日の休日

 

 

「お、海斗。今日は珍しく家にいるんだー」

 

「……なんで唐突にあがってくるんだ。鍵しまってなかったか?」

 

「じゃじゃーん、マスターキー。これが大家の権限ってやつね」

 

「普通に合鍵って言えよ、ここの部屋しか開かないだろ」

 

「細かいこと男が気にするんじゃないの。それより海斗暇なんでしょ。私一緒にお酒でも

飲もっか?」

 

 

躊躇なく人の部屋に上がり込んでくる大家。

それなのに不快感を感じさせないのがこの大家特有の厄介なスキルだ。

まあ、こいつの家と言えばその通りなので文句も言えない。

 

 

「あーもう、暇だからって絡んでくるな!あと、いくら飲んでも酔わないお前に付き合う

相手はどこ探してもいない!」

 

「ひどーい、それが女の子にかける言葉?」

 

「もう女の子って歳じゃ……」

 

「なにか言って?」

 

 

片手で握っていた酒瓶に亀裂が入る。

 

 

「……なんでもない」

 

「あら、そう」

 

 

すぐに柔和な笑みを浮かべるが、そこから安心感は感じられない。

この大家に年齢の話だけは禁句だった。

もし今のようにぽろっと口を出ようものなら、周囲の気温が5度くらい下がる結界が展開

されたのかと錯覚するほどの寒気は不可避だ。

 

 

「部屋にいるってことはどうせすることないんでしょ?」

 

「まぁな」

 

「じゃあ、いいじゃない。たまの休みに付き合ってくれるくらい」

 

「確かに俺は休みだが、大家としての業務はどうした?」

 

「もうっ冗談でしょ、こんな一人しかいないアパートで大家も何もないわよ」

 

「それ自分で言っちゃうのかよ……」

 

 

だが本当に俺しかいないこのアパートで大家としての仕事なんて無に等しいだろう。

どう働こうが、少なくとも儲けなんて得られないのだ。

にもかかわらず、俺をずっとここに置いてくれている。

別に意図や企みがあるわけでもないのに、どれだけお人よしなんだろうな。

 

 

「あ、そうだ」

 

「ん?どした、どーしたー?付き合ってくれる気になった?」

 

「ちょっと座って待ってろ」

 

 

普段からこんなおちゃらけた性格で、真っ直ぐに感謝なんて出来たためしがない。

けど、言うまでもなくこの大家がいなきゃ、今頃どうなっていたか分からない。

俺はそんなことを思いながら、台所に立つ。

うん大丈夫だ、手順は覚えてる。

 

 

………

 

……

 

 

 

「ほら、待たせたな」

 

「おそーい、もう待ちくたびれちゃったわよ」

 

「なんでさらに酒瓶空けてんだよ!?」

 

「独りで放置よ。飲まなきゃやってらんないじゃない」

 

「それで全然酔ってないのな……」

 

「あー、こんなもん水よ水」

 

 

本日の名言いただきました。

 

 

「待たせて悪かったよ。いいから、これ食え」

 

「なにこれ、肉じゃが?」

 

「ああ、この前たまたま覚えた」

 

「え、海斗の手作りなの!?あんた料理スキルまで手に入れちゃったの、それ以上モテる

要素求めて何になりたいのよ」

 

「いや作れんのはそれだけだし、てか説明するのも面倒だからさっさと食え」

 

 

箸を渡し、食べるように勧める。

 

 

「……ん、美味しいじゃない!やっぱ何やらせてもきちんとこなすわね、海斗は」

 

「そりゃよかったよ」

 

 

味見はしっかりしていたが、やはり美味しいと言われると安心する。

人の味覚に絶対なんてないからな、どんなものでも好みはある。

 

 

「ただもうちょっと味が濃いほうがお酒が進むわね」

 

「酒のつまみじゃねーよ、飲みすぎないように作ったんだろうが」

 

「私にとっていつでも主菜はお酒なの、どんな料理もお酒の前では副菜よ」

 

 

 

ちょっとどころじゃなく変人で、ちょっとどころじゃなく優しいこいつがうちの大家だ。




時間軸的にはあのキャップとの決闘のあと付近ですかね。
ヤマなしオチなしですが、移転中なので既に読んで新しいところを
待っている方々へのせめてもの罪滅ぼしということで。
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