Be my here.   作:破月

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6/23 加筆修正あり


始まりの話

「ヒーローに、なりたいと思う?」

 

 

 なれるのなら、なりたいと思うよ()()()

 

 

 

 

― ― ―

 

 

 

 

 事の始まりは中国、軽慶市。"発光する赤児"が生まれたというニュースだった。以降、各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま、時は流れる。いつしか、「超常」は「日常」に。そして、「架空(ゆめ)」は「現実に」。世界総人口の()()()が何らかの"特異体質"である超常社会となった現在。混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。それは、強きを挫き弱きを助ける者。または、悪逆を許さず正義を貫く者。そんな彼らを、人々はこう呼んだ。

 

 

「ヒーロー」

 

 

――――と。

 

 まあ、そんなモノローグ的なものを挟んでみたとして、色々な意味で個性溢れるこのご時世、珍しくも()()()な僕。発現の最高目安である4歳まで粘ってみたが、うんともすんとも言わなかった検査結果を見れば、この先、奇蹟でも起きない限り僕に個性が発現するはずもない事は判り切っている。さらに言えば、そんな僕がヒーローになろうとする事さえ、本来ならば烏滸がましいのだろう。……例外を知っているからこそ、一概にそうとは言い切れない部分もあるのだけれど、それは最高機密だ。僕が知っているのはおかしい事だし、知っているとばれたら、いずれ生まれてくる僕の甥っ子がヒーローになれないかもしれない。僕という存在そのものが既にイレギュラーではあるけれど、彼の継承者は僕ではなく「緑谷出久」である。

 

 それはそうと、「無個性」である。より詳しく言うならば「発現するべき個性が無い」という事だが、これはつまり、"何者にでもなれる"という事だと僕は思っている。ほら、可能性は無限大だって、どこかの偉い人が言っていただろう。まさに、「無個性」であることは、その無限大の可能性を秘めていることに他ならないのだ。なぜこんな事を言いだしたかと言うと、それなりの理由はある。強力な個性を持つあまり、「将来はヒーローだね!」と言わんばかりの周囲に煽られ、初めからその選択肢しかないと思い込んだ状態でヒーローを目指すよりよっぽどいい。ヒーローを目指す全ての人がそうであるとは限らないけれど、そう言った煽りを受けてヒーローになった人も、少なからずいる筈だ。

 

 では、「無個性」ならどうだろうか。普通に考えて、非超人であるからだれもヒーローなんて職業を進めてくることはない。無難なのは会社員、もしくはヒーロー事務所の事務員。正義感の強い人は警察なんかを選ぶ。小さな料理店を営む人もいれば、無職よりはいいと家業を継ぐ人もいる。もっとも、「無個性」の人が減少しているから、どの職に就くにしろそれなりに皆さん個性は持っている訳だけど。それを言い始めると堂々巡りなので、脇に置いておく。

 

 さて、ここで僕の話をしよう。僕が「無個性」であることは、散々言ってきた通りだ。ちなみに、僕には姉がいるが、彼女には個性がある。「ちょっとした物を引き付ける」程度の、見ようによっては地味な個性だ。だが、案外これが役に立つ。手の届かない高い位置にある物を取るのに踏み台をわざわざ用意する手間が省けるし、落としてしまったものをしゃがまずに拾い上げる事が出来る。ほら、意外と便利。幼い頃、好奇心に負けて道路に飛び出して車に轢かれかけた僕を救ってくれたのも、姉さんの力だ。……人体はちょっとしたものではないという突っ込みはスルーする。あの時は場面が場面だから、鍜治場の何とやらが仕事をしたのだと思っている。

 

 話を戻そう。当然のことだが、姉さんには泣かれた。それはもう、わんわんと。まだ個性が発現していないのに、危ない事をしないで、と。この時俺は2歳で、個性発現の可能性の余地はあった訳だが、二年後に「無個性」だと判明した時も姉さんは号泣した。いや、二年前と比較するのも戸惑われるほど、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。ごめんね、と何度も謝罪の言葉繰り返され、挙句の果てには「私の個性をあげられたらよかったのに」とまで言わせてしまったことは一生忘れない。そんな、普通なら幼い心に深いトラウマを刻んでもおかしくないような瞬間に、ふと、思ったのだ。

 

――――――――なんか、似たようなことがずっと前にもあった気がする。

 

 それからの僕はヒーローに憧れてこそいるが、同年代よりも大人びた、物分かりのいい子供だったと後から両親に聞いた。「無個性」であることを同い年の子達に馬鹿にされたり、そんな彼らの親達に憐れまれたりしたものの、それら全てを丸っと受け止めて、仕方がないと割り切っていた。よく考えてみてほしい。たった4歳の子供が、周囲と違うことに捻くれたり拗ねたりする訳でもなく、むしろすっぱりと割り切ってしまえるのだろうか。普通そんな子供がいるか?と思うだろう。あの頃の僕に()()()()()()()としても、良い子すぎる。まるで僕じゃないみたいだ!という冗談はさておき。実際、とんでもない良い子だったというのが両親と姉さんの意見で、小学生になってもそれは変わらず。むしろより一層諦めのついた表情を浮かべる事が多かったらしいのだが、全く記憶にない。……無意識だったんだ。

 

 さて、そんな僕が運命的な出会いを果たしたのは、それから六年後。忘れられる訳もない、中学校の入学式。時間に余裕を持って校門をくぐった僕は、校舎の影に一本だけ置き去りにされたように咲いている桜を見つけ、近寄った。ら、その根元で、真新しい制服に身を包んだ、おそらく僕と同い年の少年が、あどけない寝顔を晒しているのを見つけたのである。その顔に、酷く見覚えがあった。近所に住んでいる子にしては、見覚えがない。小学校でも見た覚えがないとなると、他校だったのだろう。それにしてはどこか見覚えのある顔つきで、確かに知っているはずなんだよなあと首を捻る。どこで、と思い出すより先に、少年の瞼が震えた。

 

 

「……ぁ?」

「えーっと……おはよう?」

「…………はよ」

 

 

 一瞬だけ色づいた瞳と、目が合った。無造作に伸ばされた黒髪が一瞬逆立ちかけ、その光景に懐かしさを覚えた。少年特有の声変わりがまだ済んでいない高い声と、まろみを帯びた健康そうな頬。若いなぁと、無意識に呟きかけて、かちり、と脳内でパズルのピースがはまる音を聴いた気がした。何処に在ったのかと思うほど沢山のピースが集まって、一枚の絵――――もとい一つ記憶を形作っていく。それが完成したのちに、僕は"僕"を理解した。

 

 

「僕は、緑谷()()。君は?」

「……た、だ」

 

 

 そして、納得する。

 

 

「相澤消太だ」

 

 

 ()()()()()はその時に思い出したけれど、()()()()()は小さい頃から僕の中に息づいていたらしい。それなら、大人びた、物分かりのいい子供になるのも当然だ。それより、今気にするべきは目の前の少年で。

 

 

「(相澤先生と同級生……)」

 

 

 このまだ無垢な少年が、いずれは合理性を説くある意味ものぐさな彼に成長していくのかと思うと、なにやら感慨深いものがあった。ああ、そうそう。後で気付いた事なんだけど、相澤先生とは家も近所だった。所謂幼馴染ってやつだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――言い忘れていたけれど

 

 これは、僕、緑谷出麻が

 

 大衆のヒーローではなくて

 

 たった一人の誰かのヒーローになる

 

 そんな、物語だ




 緑谷 出麻(いずま)

 Birthday:8/11
 Height:167cm(15歳) / 186cm(30歳)
 好きなもの:読書、情報収集


 The・裏話
・緑谷出久の母、緑谷引子の弟。そんな設定にしたのにも理由がありますが、ネタバレになるので現段階では黙っておきます。

・前世の記憶が戻ったのは中学校の入学式、相澤消太と名乗る少年と出会った瞬間。それまでは、自他共に同年代よりもちょっと大人びていて、知識欲が強い子程度の認識。
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