まあ、バカップルにもいろいろあるということで。
……うん、わかった。
勢いがありすぎるとか、技術の問題じゃない。
俺は、ズキズキと痛む唇を押さえながら、京子に告げた。
「京子、キスする前に眼鏡を外さなくてもいいから」
「え、え?だって、かけたままだと怖くない?」
と、涙目の京子。
口元を押さえているあたり、涙は痛みからくるものだろう。
ここは、冬の北海道。
新千歳空港だ。
再会、と同時に眼鏡を外した京子に飛びつくようにキスされた。
ああ、うん。
キスのようなもの?
ぼやけた視界で突っ込んでくるから、衝突事故になる。
つまり、そういうことだろう。
京子にとって、『勢いよく飛び込む』だけの気力を必要とする行為。
まあ、そんなこと周囲の人間には関係ないことで。
怨念めいた嫉妬視線や、あらあらうふふな感じの野次馬視線など。
俺と京子は、逃げるように空港を後にした。
「……そんなに恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに」
「……だって」
だって……なに?
「ああやって最初にキスすれば……また、あなたは会いに来てくれるでしょ?」
どうしよう。
冬の北海道には可愛い生き物がいる。
これは保護しないといけない。(確信)
理性を総動員しつつ、俺は京子を抱きしめた。
……細いなあ。
ちゃんと、ご飯とか食べてるのかなあ。
そんなことを考えていると、京子の手がそっと俺の背中に。
いくつも雪玉が飛んできて、俺たちはその場から逃げることを余儀なくされた。
いつの時代も、理不尽な迫害は存在する。(錯乱中)
時は2月。
札幌雪まつりの時期だ。
うん、京子は何も言わないけれど、2月5日は京子の誕生日だ。
忘れちゃいない。
というか、教えてもらった時の状況が状況だけに、絶対忘れない気がする。
ひとまずは、2人で買い物をすませて京子の家へ。
うん、う……ん。
まあ、大学生はこの時期、試験期間だったりして忙しいからね。
こんなもんだろう。
「京子」
「な、なに?」
「そこの押し入れ、開けてみていいか?」
「……」
「飯の準備をしている間に、片付けなさい」
京子がちょっと拗ねたように言う。
「お母さんみたいな事を言うあなたは、ちょっと嫌い」
「いいとこばっかり見せても仕方ないからな」
「それはまあ、そうね」
仕方ない、という感じで押し入れを開け……取り出した箱の中身を片付け始める京子。
やはり、『お片づけ箱』に放り込んで押入れに、という手順が取られた模様。
部屋の中が適度に散らかってて、生活感を残してあるあたりが計算高い。(笑)
さて、俺は食事の用意をしよう。
うん、台所は綺麗なもんじゃないか、感心感心。
……使ってねえな、このやろう。
まあ、彼女の指を絆創膏だらけにするのも忍びないといえば忍びないのだが。
包丁を使わなくても、料理はできる。
というか、実は俺は野菜の皮むきに使うピーラーが苦手だ。
包丁やナイフを使ったほうがよっぽど早く、綺麗にできる。
スライサーは便利だと思うけどな。
しかし、冬の北海道は侮れん。
いや、北海道といえばじゃがいもも有名だろ?
でも、冬の北海道は普通に氷点下になるんだぜ。
興味があるならじゃがいもを凍らせたらどうなるか調べてみるといい。
もしくは、食べ物を粗末にする覚悟を決めて、冷凍庫に放り込んでみればいい。
まあ、アンデスの方には、凍らせたじゃがいもを踏んで水を出し……みたいな保存方法もあるみたいだけど。
あと、暖房の設定によっては、部屋の中の温度が夏の北海道と変わらなくなる。
正直、料理の感覚というか、手順が狂ってくる。
まず、自分の体感覚が狂う。
湯が沸く時間が変化すれば、調味料投入のタイミングも狂う。
そういう細かい狂いを無視すると、ろくなことにならないのは当然だ。
だから、いつもより、料理に神経を使わざるを得ない。
「……また腕を上げたような気がする」
「たまたまだろ」
本音だ。
たまたまうまくいった。
まあ、京子が喜んでいるならそれで良いんだけど。
あの夏。
俺は8月の終わりまで札幌に滞在し、本州へと帰った。
メールと電話のやりとり。
残念ながら、秋の北海道は、都合が付かなかった。
クリスマスは、会えなかったが、電話で声を聞いた。
そして、今。
半年ぶりに再会していきなりキスをぶちかまし、そのまま彼女の家に行って、俺の作った料理を2人で食べているわけだ。
どう考えても、京子と俺は、少々いびつなカップルだ。
出会って数日で、ホームステイ状態。
距離感とかいろいろ問題がありすぎるとは思うのだが。
なんというか、京子の隣にいるのは楽だ。
俺のできることと、京子の出来ることがあまりかぶらない。
価値観が、あまりぶつからない。
俺は1度目のチャンスに、様子を見ようとして見逃す。
京子は、最初のチャンスを逃さない。
俺が、『旅人』として様子を見ようとしたとき、京子はもう、スパッと決断してしまっていたのだろう。
だから、ああいう行動に出た。
時間がどうのとか、互いに知り合うとか、京子本人にはたぶんどうでもよかった。
あんなのは、『俺を納得させるための』口実だ。
あれから俺は、競馬で勝負をしようとは思わなくなった。
競馬ファンは、そのまんまだが。
あくまでも趣味だ。
遊びで馬券を買う。
皮肉なことに、回収率自体はやや向上した。(笑)
まあ、自惚れたりはしない。
「ん~ん~」
京子がご機嫌な様子でアイスを食べている。
「理屈としては理解できるが、冬の北海道でアイスを食べるとか……あれだよなあ」
「部屋の中は、暖房がつけっぱなしになるもの……冷たい飲み物なんかも普通に飲むわよ」
「……まあ、暖房は消せないんだろうなあ」
「言っておくけど、札幌は暖かいのよ?」
「……頭では理解してる」
京子が笑い、俺にスプーンを差し出した。
「ほら、あーん」
「んっ」
「……少しは照れてよ」
「じゃあ、次は俺な」
と、スプーンをとって、アイスをひとすくい。
そして、京子に差し出す。
「……もう、
恥ずかしげに口を開く京子。
「されるよりする方が好みだな」
「私だってそうよ」
というか、相手が恥ずかしがるのを見て楽しむプレイなのか、これ。
岩見沢といえば、俺は甲子園によく出てくる某高校を連想する。(2014年閉校)
「……岩見沢競馬場、うん、かすかに聞き覚えがあるような、ないような……たぶん、ばんえい競馬の開催地だと思うんだけど」
自信なさげに俺が言うと、京子が苦笑を浮かべた。
「まあ、さすが競馬ファンというか、聞き覚えがあるだけでも十分よ……ばんえい競馬は、某テレビ番組で少しだけ知名度上がったのかしらね」
京子が、ぴっと人差し指を立てた。
「でもね、今日見に来たのは、人間ばん馬選手権」
……名前からして、馬の代わりに人間がソリを引っ張る感じ?
「ご名答。チームの総体重とか、細かいルールが決められた本格的な大会が夏にあるんだけど……」
「今日のは違う、と?」
「そうそう。岩見沢市のドカ雪まつりのイベントでね、面白いのよ、これが」(開催時期と場所の違いはご都合主義です)
俺は、少し首をかしげた。
つまり、本格的な大会とは違う面白さがある、と。
「ポイントは、地面が雪ってとこ」
「地面が雪だと、ソリは運びやすい……けど、人の足も滑るよなあ?」
「そう、そこなの。単純に体が大きくて力が強いチームが勝つってわけじゃないのがいいのよ。本格的な大会も悪くはないけど、どこか遊び心が足りないと思うのよね」
なるほどな。
スポーツは、首から下は地獄の世界って言うし。
というわけでやってきました、岩見沢駅。
札幌駅から、特急に乗って30分ほど。
うは、雰囲気あるな。
駅の構内というか、ホームにばん馬の銅像があるし……あれ、銅像か、これ?
……木だ、これ。
え、なに?尻尾は何で出来てるの、これ?
「……」
「あ、ごめん」
「いいの、楽しそうなあなたを見ると、こっちも楽しくなるから」
そうは言っても、京子の優しさに甘え続けるわけにもいかない。
と、いうか……俺を楽しませるために、ここを選んだな、きっと。
岩見沢競馬場に向かう。
歩くとちょっと遠いらしいが、まあ俺にとっては観光だ。
というか、『雪道に少しなれたほうが良い』と京子が言うので、それもそうかと。
……うん、駅前はちょっと寂しい感じ。
小さなソリに荷物を載せて雪道を引っ張ってる人を見て、雪国だなあと感じてしまう。
「……というか、雪が多くね?」
「ドカ雪まつりって名前をつけるぐらいだもの。調べたわけじゃないけど、このあたりは雪が多いんだと思うわ……川があって、背後には山脈。雪が降る条件は揃ってるわね」
うん、駅前から離れていくと、さらに雪の量が……除雪されてないだけか。
「ゆっくりでいいの。汗をかかないぐらいで」
「ああ、了解」
競馬場通りと名前のついた道路を歩いて、到着。
岩見沢競馬場。(2006年で終了)
うん、地方競馬場としては、やや小ぶりの印象……駐車場はやたら広いけど。
構内に入って、階段を下りて……え、ここって本来は雪だまりになる場所じゃねえの?
嫌な予感。
「あ、あっちよ。来て」
うん。
雪道になれたほうが良い、ね。
なるほどなあ。
「いやあ、助かったよ。メンバーのひとりの都合が悪くなってなあ」
「本州からの観光客だって?いい思い出になるさぁ」
ソリの重さは約300キロ。
せーの、でダッシュしたら滑ってコケる。
頭ではわかってるんだけどなあ……。
「お疲れ様」
クスクス笑いながら、京子。
「……転びまくって、足引っ張ったわ。悪いことしたな」
「いいのよ。遊びなんだから」
「遊びだろうが、やるからには勝ちたいって……というか、上位3チームには賞金が出るとか言ってたぞ?」
「雪道に慣れてない人間を参加させる時点で、本気じゃないってことよ」
「そりゃ……そうか」
汗かいてどうしようと思ったけど、京子がちゃんとシャツの着替えとか持ってきてくれていた。
こんな美人できがつくマネージャーが欲しかったなあ。
怪我でリタイアした俺には関係なかったが。
そもそも、監督が『ウチは女子マネージャーは断る』だったからな。
まあ、その理由を聞けば納得したが……理性と感情は別だ。
「あなたは、スケートやスキーはしたことないの?」
「ない……というか、大学進学で都会に出るまで、スケートリンクなんか見たこともなかったし」
シャツを脱ぎ、汗を拭き、シャツを着る。
うん、寒いわ。
ちょっと補充な。
「え、ちょっ……」
京子を抱きしめて暖を取る。
あー、ドキドキする。
よし。
暖まった。
「……もう」
行きは特急、帰りはローカル。
しかし、札幌から旭川をつなぐ路線なのに、函館本線なのね。
この時期、札幌雪まつりだけではなく、北海道の各地でこうしたイベントが開催されているらしい。
まあ、広いしな、北海道。
次の日。
俺は京子に案内されながら北大キャンパス内を歩いていた。
ポプラ並木が有名らしいが、樹齢というか、倒れる危険があるとかで、いろいろあるらしい。(2004年の台風で3分の1程が倒れた)
なので、新しくポプラ並木を作ろうとしているそうな。(平成ポプラ並木)
「北海道の農村風景というか、防風林のカラマツも根が浅いから、強風でよく倒れるらしいわ。本当に、根っこから倒れるって」
「……それ、根が浅いというか、土壌とか、気温の問題じゃねえの?」
「かもしれないわね……観光地という意識もあるから、見栄えがいいように防風林を減らして……なんて話もあるそうよ」
それを聞いて、俺は襟裳岬での会話を思い出す。
「……難しいなあ」
「ええ……と、ここよ。ここがエルムの森」
京子が、右手で指し示す先。
「おお、ここが『エルムステークス』の……」
「ちょっ、待って。エルムは楡の木というか、ハルニレの樹のことよ?」
「札幌競馬場の隣にある、北大キャンパス内のエルムの森。そこからエルムステークスが……」
「知ってる。あなたがそういう顔をしてる時は、嘘をついてる時」
「まあな……でも、元々は、『シーサイドステークス』って名前だったんだぜ。開催地が函館から札幌に変更されて、名前もエルムステークスになったんだから、俺の言う理由の方がロマンがあると思う」
京子はため息をついた。
「ええ、あなたがそう思うならそうなんでしょうね……」
まあ、軽いジョークだ。
「それで、最近はシネマ研究会はどんな感じ?」
「3人ほど辞めちゃったわ……まあ、ある意味風通しは良くなったけど」
「……そうか」
「あなたの言うように、いろんな人と話をしてみたわ……『映画が好き』っていうのにも、いろいろあるわね」
「たぶん、一般的には、『映画を見るのが好き』って人間が多いと思うぞ」
「そうね……映画の製作を念頭に入部してくる人は少ないわ」
まあ、今頃になってそれに気づくあたり……どれだけ周囲が見えてなかったのかって話になるが。
「荷物持ちでも、編集作業でも、なんでもいいんだ……暇そうなやつをちょっと使う。それで興味を持つやつも出てくるかも知れないしな……やれと言って素直に1から10までやるほど、大学生は子供じゃねえだろ」
「それはそれで、少し寂しいけどね」
そう言って、京子がエルムの木を見上げる。
「高校野球も、みんなが甲子園を目標にってわけじゃないんでしょ」
「……最初からチームの方針が決まってるからなあ。『本気』か『思い出作り』の二択かな。甲子園常連の高校でも『甲子園なんてどうでもいい』って思ってる部員がほとんどのところもあるしな」
「どういうこと?」
「入部する人間の大半が、『プロ志望』なんだよ。そして『プロを諦めた奴が、甲子園に行きたいなあって言い始める』らしい」
俺は苦笑しながら言葉を続けた。
「そこじゃ、『甲子園が目標』って部員は、馬鹿にされるし……諦めたやつの挫折感は、恐ろしく深いな」
「……シビアな世界ね」
「野球に限った話じゃないだろ」
「そうね」
京子の視線が足元に落ち……そして、俺を見た。
「私、そういうシビアな世界に飛び込むつもりなの」
「知ってる」
「自惚れじゃなければ、飛び込むだけはできる……はず」
「思うように、やればいい。歩くのをやめることはいつでもできる。でも、歩き続けないと届かない。そして、歩き続けても、届くかどうかわからない」
左手で、右肘を撫でた。
「そういう世界だろ……ある程度想像はできる」
まあ、想像しかできないとも言うが。
「あれ、朝比奈じゃない?」
「ホントだ。この寒いのに何を……」
「ごめん、お邪魔しましたぁぁ……」
乱入というか、闖入者に、空気をガッツリ換気された。
「どこのラブコメだ」
俺のつぶやきに、京子が笑う。
そして、俺も笑う。
俺も、京子も、春が来れば大学4年だ。
特に京子は、チャンスが来れば大学を辞めてでも、そこに飛び込むだろう。
まあ、色々と決めなきゃいけない時期なのかな。
ただ、問題は……。
俺の言葉に、なんの保証もないことだろう。
キャンパスを後にして、街を歩く。
日が沈み、札幌の街は彩られた。
雪像。
たくさんの人。
「野球を諦めた時って、どんな気持ちだった?」
「諦めたというか、怪我のせいで否応なしに諦めさせられたって感じだからなあ」
「……」
「まあ……残骸だな」
京子が息を呑む気配がわかった。
「人生全賭けだったからな、そうなるだろ」
「……ごめん、そうは見えない」
「……頭の中で、子供の頃からやり直すんだよ。野球をしなかった自分を、シュミレーションして、残骸の中に放り込んでいく感じか」
俺の手が、強く握られる。
「まあ、同じような経験をした連中が、どうなるのかは知らん」
「そりゃ、そうね……」
「京子としては、私生活を俺が支えて、仕事は別に支えてくれるパートナーを見つけて……って感じか?」
「そ、そうなんだけど、そうなんだけど……あなたの口からあらためて語られると、うわぁって思う」
その反応だけでも、愛されてるなあと思う。
まあ、反論はされるだろうから口にはしないが……野球を諦めた時から、俺の人生は、余生みたいなものだと思っている。
もちろん、投げやりに生きるって意味じゃない。
人の心なんてものは、理性と感情が複雑に絡み合っている。
余生だと思いながら、自己保身が働く。
100%の覚悟なんて、ありえない。
どこかに虚飾があるような気がする。
まあ、考えてもキリがない。
だったら、人間は、面倒な生き物だぜ……の一言でいいだろう。
「ん?」
明かりが消えた。
「ああ、もうこんな時間……雪まつりのライトアップは夜の10時までなの」
「なるほど」
俺は空を見上げた。
「……やっぱり、札幌は都会だな」
「どういう意味?」
「街全体が明るいから、星の光が弱い」
「天然のライトアップにはならないわね」
月明かりという言葉がある。
でも、星明かりという言葉は、あまり聞かない。
まあ、田舎では、星明かりって言葉を実感するんだがな。
新月の夜、街灯のない夜道を微かに照らす星の光。
そういや、都会に出てきて、いつの間にか懐中電灯を持ち歩く癖がなくなった。
「帰りましょう」
「んー、もうちょっと歩こう」
「どうして?」
「明日は京子の誕生日だ」
「……何か、サプライズでも?」
そういうわけじゃないんだけど。
まあ、寒いけど今日は、風もないし。
「夜道を歩きながら、京子の誕生日を祝福したい」
「……事前にネタバレするってどうなの?」
「拒否する時間が与えられるね」
そう言って、俺は微笑んでみせた。
「いいけど……何か食べましょ」
「そうだね」
食事を終えて、店を出たのが23時30分頃。
うん、寒いけど、やっぱり風がないのって重要だ。
足元の感触が、がつっ、がつっ、と氷を砕くような感じ。
あれ?
温度が低いと、氷や雪が溶けにくくなって、反対に滑りにくくなるのか?
「あの時さ」
「どの時よ?」
「去年の夏」
「夏のいつ?」
ポンポンと、言葉のキャッチボール。
心地よいタイミングで返ってくる。
「俺が、『旅人』って言って、様子を見ようとしたとき」
「あぁ」
京子が笑った気配がした。
「私は、逃がさないと思ったわ」
「決断早すぎ」
「だからよ」
「何が?」
足を止め、京子を見る。
京子も俺を見る。
「あなたを、失いたくないって思う」
「うん」
「あなたに苦労をかけたくないとも思う」
「……なんだろう。昭和世代のセリフが、男女逆転してる気がする」
「茶化さないの」
「はい」
うん、照れ隠しだ。
俺の。
俺のどこが好きなの……なんて質問に意味はない。
好きだから。
欲しいと思ったから。
たぶん、そんなとこ。
後付けの言葉は、いつだって心を飾り付けていく。
うん。
キスしよう。
「っ!?」
思えば、俺の方からキスするのは初めてだ。
したいと思ったときはあるけど、いつも先にされた。
やっぱり、眼鏡を外さなくても大丈夫じゃないか。
ちょっと顔を傾ける必要はあるけど。
などと、バカなことを考えてたら、京子に背中を叩かれた。
「……どうしたの?」
「い、息、息が……不意をつかれたから」
「ごめん、大丈っ…」
やり返された。
やっぱり負けず嫌いだよな、京子は。
だが、俺の肺活量を舐めないでもらいたい。
……鼻呼吸は、したくないね、確かに。
「ぷはっ、あっ、はぁっ……」
勝利。
うん、ムードってなんだろう。
俺も彼女も、致命的に、何かが下手くそなんじゃなかろうか。
「誕生日おめでとう」
「今それを言うの!?」
どうしようもなくおかしくなって。
俺も。
京子も。
2人して笑った。
深夜の騒音だ。
手と手を取り合って、2人で逃げる。
札幌の星空の下。
足場の悪さも何のその。
どこへでもいけそうな気がした。
まあ、そんなに甘くはないだろうけど。
俺は、この手を離さない。
ホント、帯広のシナリオどうしよう?
明理に、『ウチは日本一不幸な少女や』などとしゃべらせたい私がいるとかいないとか。(笑)