北へ。~ひと夏の旅競馬~   作:高任斎

15 / 15
北の大地の物語。
これにて一応の幕。


エピローグ。
15:北海道に吹く、春の風。


 エピソード1:函館の春。

 

 

「ねえ、結婚しましょ」

 

 声が出なかった。

 ただただ、歓喜。

 両手を何度も、空に向かって突き上げた。

 

 大学を卒業して、函館にやってきて3年。

 俺ももう、25歳になる。

 

 背筋を突き抜けるような歓喜が、じわじわと、全身に広がって……ようやく声が出た。

 

「ついに温子がデレた!!」

 

 そう叫んだ俺の後頭部を、冷凍イカで殴った彼女の顔は、赤かった。

 俺の天使、超可愛い。

 

 

 

「……ああ、ようやくかい」

 

 おかしい、随分と水もぬるんできたというのに、早苗さんの反応が冷たい。

 

「実家の挨拶とか……気が重いね」

「ああ、なるほど」

「そういえばあんた、あたしの実家のことを知っても驚かなかったね」

「んー、なんとなく、いいとこの、お嬢さんかなって感じはしてたんで」

 

 馬券の買い方というか。

 妙に、お金に対して無頓着なところがあるし。

 というか、早苗さんの実家、函館の大馬主だったからなあ……。

 

「あたし、実家を飛び出した負い目があるからねえ……あんた、たぶん『子供は最低4人』とか言われるよ」

「温子の健康第一で」

「……」

「あ、これに関しては、絶対折れませんから」

 

 早苗さんがため息をついた。

 

「大丈夫よ、お母さん。あたし、5人でも6人でも産むから」

「ああ、頼むよ」

 

 なんか景気のいい話をしてるなあ……。

 ちなみにこの3年で、茜木鮮魚店は、年間経営収支をなんとか黒にしました。

 俺という従業員が増えたのに、純粋に黒字にしました。

 大事なことだからもう一度。

 黒字にしました。

 いやっほう。

 

 まあ、その一方で『建て替え費用を貯めなきゃねえ』などと、競馬の神様、早苗様が、毎月せっせと目立たない程度に積立をしてらっしゃる。

 

 そういえば、4年前の、俺がヤケクソで買った馬券。

 あのお金は、早苗さんが手つかずで残してくれてた。

 結婚式も、ウエディングドレスの買取もどんと来いですよ。

 

「あ、そうそう」

 

 温子がちょいちょいと、俺を呼ぶ。

 なんだろう。

 

「随分待たせたわね」

 

 何を?

 

 

 唇へのキス。

 

「……家族じゃないキスよ」

 

 照れながらそう言った温子がやばいくらい可愛い。

 可愛いけど、温子がデレたきっかけって何なんだろう?

 

「べ、別になんだっていいでしょ!」

 

 うん、確かになんだっていいよね。

 温子がいるし。

 

 温子をお姫様抱っこして、朝市を歩いていく。

 

「俺たち結婚しまぁーす」

 

 はははは。

 大学を卒業して函館にやってきた時、朝市のアイドルというかマスコットの温子の婿候補ってことで、お祝いと称して若手男性連中に港に突き落とされたからな。

 あの恨みは忘れん。

 

 ははは。

 温子がいるから、ろくに攻撃もできまい。

 などと余裕をかましてたら、ひたすら尻を蹴られた。

 痛くない痛くない。

 

 今俺の尻をけったやつ、ご祝儀はずめよ。

 

 その一方で、女性の方々はちゃんと祝福してくれる。

 ありがたいことだよ、ホントに。

 

 まあ、祝い事ってのはお祭りだ。

 結婚式とは別に、このぐらい派手に広める方がいい。

 

 北海道の冬は長いからな。

 春の訪れを盛大に祝おう。

 

 

 

 天使の住む函館に、春が来たぞ。

 

 

 

 

 エピソード2:札幌の春その1。

 

 

 

 ジャンルの割にはそこそこ売れた……ということで、別の作品を書いてみませんかというお誘いがあった。

 まあ、大学生だからね。

 ダメなら、出版社の方でダメ出しするだろと、軽い気持ちで書いてみた。

 

 表の顔は、バリバリキャリアウーマン。

 しかし、日常生活は……。

 

 まあ、基本は『土日はシラフじゃいられない』のデス子さんの焼き直しを違うジャンルで、みたいな感じ。

 

 なぜか、バカ受け。

 

 正直、書いた本人も、出版社の担当の人間も『えー?』という感じなのだが、流行りとか勢いとかは恐ろしい。

 

 うん、だから別に笙子さんをモデルにしたとか、そういうわけじゃなくてですね。  

 

「……何か言い訳は?」

「……ないです」

 

 言い訳の上手い下手は問題じゃない。

 言い訳をしなきゃいけない状況になった時点で詰みなのだ。

 

 うん、名言だなあ。

 つまり、笙子さん。

 もう少し、相互理解というか、コミュニケーションを取りましょう。

 

「札幌はいいところよ?」

「さすがに、大学を卒業するまでは動けません」

 

 笙子さんが、俺を見る。

 

「……来る気は、あるのね?」

「そりゃありますけど、勘違いしないでくださいね」

「何を?」

 

 

札幌(ここ)じゃなくて、笙子さんのそばに、いたいんです」

 

 

 うん、笙子さんって、時々チョロ……じゃなくて、乙女になるよね。

 

 

「……あなたが卒業するのを待ってたら、私、30歳になっちゃうのよね」

「そういうこと言ってると、デス子さん、そのまんまになりますよ」

 

 笙子さんが、目を細めて笑う。

 

「なるほど。お酒を飲ませて、家にお持ち帰りして、寝ればいいのね」

「……ちょいと下品ですよ」

「女にとって、30歳って意味は重いのよ」

 

 と、いうか。

 

「それ、本気と受け取りますよ。いいんですね」

「ええ、いいわ」

 

 見つめ合う。

 視線をそらさずに、笙子さんが言う。

 

「踏み込まないと、失敗すらできないんだもの」

「……失敗、させるつもりはないです」

 

 うん、俺として頑張ったつもり。

 なんだけどな。

 

「学生のうちから、そんなに気負うもんじゃないわ」

 

 軽やかに、いなされた。

 

 それでも。

 俺と。

 笙子さんは。

 

 お互いの時間を重ねて、歩き出し始めた。

 

 まだ、ゴールは見えないけどね。

 

 

 

 エピソード3:旭川の春。

 

 

 そっか、これが超1流のアスリートのメンタルか。

 

 体育会系の基本的な思考は、まず目標を定め、そこに至る手段を選択し、歩き続ける……という感じなのだが、スオミにかかると、こうなる。

 

 まず目標を定める。

 そこに至る障害を、周囲を振り回して排除する。

 

 

 ……つまり、俺に求められるのは。

 周囲へのフォローか。

 

「いえ、あの()の手綱を握って下さることなんですが……」

 

 ははは。

 自分にできないことを、他人に求めてはいけませんよ。

 

 例の、スオミの友人はいわゆる苦労人ポジションだった。

 

 というか、日本語上手ですね?

 

「……あなたに感謝とお礼を述べようと、頑張りましたので」

 

 訂正。

 この子も、大概チートだった。

 

 うん、まあ、しかし……なんだ。

 

「俺、なんでこんな場所にいるんですかね?」

「私に言わないでくださいます?」

 

 彼女は、笑いもせずに真顔で言う。

 

 まあ、本来彼女は選手の立場だもんな。

 スタッフのひとりとして、海外遠征の場にいるのは複雑だろう。

 でも、スオミが活躍すれば……フィンランドの出場枠が増えるかもしれない。

 彼女が代表枠に収まった時、こうした遠征の経験は活かされる可能性はある。

 

 と。

 

 飛び込んできたスオミを受け止め、くるりと一回転。

 

「お疲れ、スオミ」

「疲れてません、寂しかっただけです」

 

 そう言って、ぎゅーっと抱きついてくるスオミ。

 そして、スオミの友人(ハンナ)が壁を蹴る。

 

 ……仲良し、なんだよね?

 

「なあ、スオミ」

「はい?」

「俺、なんでフィンランドのスタッフになってんの?」

 

 俺の質問に、彼女が不思議そうに首をかしげた。

 

「私が最高の演技を見せられるように努力する、当然ではないですか?」

「え?」

「……この娘、ゴリ押ししたんです」

 

 なんで、スオミの意見がゴリ押しできるの?

 

「この娘、国籍を選べますからね」

「……ああ」

「ついでに言うと、この娘は……その、見た目が映えるでしょう?この大会のスポンサーは、フィギュアにお金を出したんじゃなくて、スオミに出したんです……協会や、大会関係者が、『このぐらいのお願い』に対して、逆らえるわけないですよ」 

 

 なんか、黒い話を聞いてしまった。

 ハンナさんも、結構黒いわ、これ。

 そしてスオミは、ニコニコ笑いながら言う。

 

「利用できるもの、全部使います。それが、スポーツマンシップ、ですよね」

 

 ああ、うん。

 世界一になろうかって人間は、やっぱ違うわ。

 

「スオミは……俺から見ればただの可愛い女の子なのにな」

 

 そう言いながら、スオミの髪の毛を、手櫛ですいてやる。

 

 いや、ハンナさん。

 なんで壁を蹴るんですか?

 

『ハンナ……この人とても鈍い。私も苦労した』

『なんのことですか?私はただ、感謝しているだけですよ』

『この人は私のもの。私はこの人のもの。諦めて』

『だから、何の話ですか?』

『この人、あなたの好みにストライクでしょう?』

 

 うん。

 ほんの少しだけど、フィンランド語がわかるってこと、黙っておいたほうがいいな。

 

「……って、いきなりほっぺたを引っ張り合ってどうしたの?喧嘩しちゃダメです」

 

ひんらんど(フィンランド)の、あほび(あそび)です」

へへ(ええ)ひひさい(ちいさい)ころから、よくこうしてあほびまひたほね(あそびましたよね)?」

 

 ニコニコと笑いながら、2人とも目は笑ってない。

 

 なんだろう。

 春は春でも、春の嵐が来てる気がする。

 

 

 

 エピソード4:北見の春。

 

 

「そろそろ年貢の収めどきだと思うよ、お兄ちゃん」

 

 自分のことを年貢とか言わないの。

 

 と、いうか……。

 

 俺は果鈴ちゃん……いや、どう考えてもちゃんづけはおかしいよな。

 果鈴をみた。

 

「俺から乗り換えるような相手、いなかったの?」

「お兄ちゃんは、わりと自己評価が低いと思うよ」

 

 ああ、もう……ホントに。

 一途に思われてると思うと、確かに縛られるよなあ。

 

「果鈴」

「はい」

 

 こちらに、既に購入しておいた指輪があるんだが。

 

「受け取って、もらえるか」

「どーぞ」

 

 すっと、左手を差し出す果鈴。

 

 なんかもう、ホントにすごいよなあと思う。

 15歳の恋を、ずっと。

 なんでいつも、あんなに自信満々でいられたんだろう、果鈴は。

 

 勝ち負けで話すことじゃないけど、俺はずっと負けっぱなしだった気がするよ。

 

 そんなことを思いながら、指輪を、果鈴の指に。

 

 果鈴が。

 指輪を見つめて。

 泣いた。

 

 

「……かった。良かったぁ……良かったよぅ……」

 

 ぎゅっと、指輪を胸に抱きしめるようにして、果鈴がポロポロと涙をこぼし始める。

 

 え?

 あれ?

 なんで?

 どうして?

 もしかして?

 

 不安……だったの?

 

 

 

 抱きしめていた。

 優しすぎないように。

 強すぎないように。

 

 ああ。

 そんなことも気づけなかった。

 馬鹿な俺を殴りたい。

 

 でも、そんな気持ちも全部。

 

 果鈴を大事にすることにつぎ込みたい。

 そう、思うよ。

 

 

 

 エピソード5:札幌の春その2。

 

 

 

「……随分と、ご機嫌斜めだな」

「斜めにもなるわよ」

 

 そう吐き捨て、京子はロングスカートを壁に叩きつけた。

 

「物に当たるな」

「壊れないものに当ててんのよ」

「……で?」

「……要約すれば、『映画は、売れてなんぼ』って嫌味を言われたわ」

 

 なるほど、と思う。

 

 色々と紆余曲折はあったが、日本を飛び出した京子が、監督として映画を手がけることができるまでに10年。

 よくわからない映画祭で賞をもらったのがその翌年。

 今回は、3つ目の賞をもらったということになるのだが。

 

 京子の映画は、よく言えば評論家好み、悪く言えば一般受けしない。

 どっちがよくてどっちが悪いかなんて話でもないと思うが……そもそも、条件も違うしな。

 

「じゃあ、あんたら。私に与えられた予算と同じ額で、1本撮ってみろってんのよ!」

 

 京子が吠える。

 まあ、いつものことだ。

 ドカンとガス抜きさせておくのが一番。

 そうしてある程度落ち着いたところで。

 

「……っ」

「……ん」

 

 唇を離し、あらためて。

 

「……なんか、ワンパターンよね」

「有効である限り、続けるよ」

「じゃあ、しばらくはこのままね……」

 

 

 そして、落ち付くのはベッドの上だ。

 

「まあ、確かに……売れ線を狙うのと、売れる映画を作るのは別物よね。実際に、売れた映画を作ったことは認めてあげないと」

「予算が出ないだろ?」

「悲しい現実よね……」

「というか、京子はそういう映画を撮りたいの?」

 

 彼女は微妙な表情を浮かべ。

 

「なんか負け惜しみって言われそうで嫌なんだけど……興味ないのよねえ」

「俺は素人だが、撮りたくないものを作っても、失敗すると思う」

「撮りたくないものでも、きちんと仕上げるのがプロよ」

 

 いつもの会話だ。

 

「少しだけど……予算集めようか?」

「どうやって?」

「ははは、『日本語しかわかりませーん』って言っとくと、結構無防備になるんだよね。せっかくの日本人の悪評なんだから、利用しないともったいない」

「……あなた、時々怖いわよね」

 

 俺は、舐められたら、まずそれを利用する事を考えるからなあ。

 

「ああ、うん……私にはできないわ、それ」

「まあ、それは冗談として」

「……冗談に聞こえないのよ、あなたの場合」

「映画監督としての京子の名前、日本でもそこそこ知られてきてるから」

「そうなの?」

「一度、日本に戻るってのも……ひとつの手だね」

 

 京子を見る。

 

「ちょっと環境変えたいな……とか思ってるだろ?」

「日本は、ちょっと……やりにくいのよね」

「だろうね」

「でも、もう一度……北海道を題材に、撮ってみたいとは思ってるわ」

 

 もう一度、か。

 たぶん、大学時代の……完成させられなかったもの、だろうな。

 

「あ、でも」

「なに?」

「私も年齢が年齢だし、もうひとり子供作っとく?」

「……今度は、どの国で産むことになるんだろう」

 

 俺がそう言うと、京子は笑って言った。

 

「決まってるじゃない」

 

 その時、私が映画を撮ってる国よ。

 

 

 

 エピソード6:帯広の春。

 

 

 

「……これで4月だもんなあ」

 

 と言っても、4月になったばかり。

 俺の目の前に広がるのは、大雪原。

 

 日中は10度ぐらいまで気温が上がっても、夜には氷点下。

 昼に溶けた雪が、夜にはまた凍る。

 なので、表層と下層で雪の質が全く違うというか……まあ早朝は、表面はガッチガチに凍っている。

 

 地面をなめるようにしてわたってくる風がね、まさに凍えるような感じ。

 

 さて、帯広にやってきた俺は、社会人1年生。

 いやあ、なんとかなるもんだわ。

 

『ここに何の縁もなさそうなのですが、動機は?』

『ここに住む、惚れた女と結婚するためです』

 

 なぜかスタンディングオベーションで受け入れられた。

 俺から見ると都会なのに。

 こっちにやってくる人は貴重なんだろうか。

 まあ、精一杯働くしかない。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 そして明理ちゃんは、この3月に高校を卒業して……専門学校の菓子部門へ。

 

 いや、その。

 良かったの?

 

 明理ちゃんが、微笑む。

 うん、卒業と同時というか、先日、彼女は人妻になった。

 

 まあ、俺がこっちに就職を決めて……原田さんをはじめ、周囲の人間が異様に盛り上がった。

 で、気が付けば先日の結婚式だ。

 うん、あれはもしかすると『逃がさない』という地域の意思表示なんだろうか。

 

 大学の友人たちから、ロリコン扱いされたのはお約束。

 

 

「あ、あ、あ、あの……」

「どうしたの?」

 

 明理ちゃんが、頬のあたりをかすかに染めて……恥ずかしそうにつぶやく。 

 

「……あなた」

 

 

 

 

 

 ……やるじゃない。

 一瞬、意識が飛んだわ。

 

 ならば俺も。

 

「なんだい、明理」

「ひぅっ!」

 

 妙な声を上げて、明理がたじろいだ。

 

 

「……朝食の準備をしようか」

「そ、そうですね」

 

 

 俺の感覚からすると、十勝の春は遅い。

 

 まあ、関係ないけどね。

 

 春は、もう来ている。

 

 

 

 

 エピソード7:札幌の恋。

 

 

 

「おふくろ……あれで、良かったの?」

「彼、きっと……『真面目に』私の夫であろうとするわ。そして、冬真の父であろうとするでしょうね」

「あぁ……そうだろうな」

 

 夏花が、足元に視線を落とした。

 

「そしてきっと……私はそれに耐えられなくなる」

「……俺が友人を一人失うから、じゃなくて?」

「冬真には、私がそんな殊勝な母親に見えるの?」

 

 夏花も、冬真も、何も言わずに見つめ合い……ほぼ同時に、視線を逸らした。

 

「再婚しろとは言わねえよ……でも、恋人ならありだろ」

「彼、真面目なのよ……本当に真面目なの」

「泣くぐらいならさぁ!」

「……」

「おふくろは、結構、好き勝手生きてきたじゃねえか!」

「……お願い、もうやめて」

 

 弱々しい夏花の言葉に、冬真はようやく言葉を飲み込んだ。

 

「傷ひとつ残せない好きなんて、好きとは言えないって言うわよね」

「……」

「あの人と離婚したとき、涙はもちろん、悲しいとも思わなかったわ」

「……」

 

 夏花が、笑う。

 

「もしかして、初恋だったのかしら……私にとって」

 

 

 

 エピソード8:春風にのって。

 

 

 

 ちょっと考えてみよう。

 失恋ってのは、恋を失うと書く。

 つまり、俺はまだ失恋してない。

 そういうことだろ。

 

 でもまあ、ちょっと時間を置いて……気持ちを整理するってのは必要か。

 それに日常生活を破綻させたら意味ないしな。

 

 

 秋が過ぎ、冬が来た。

 

 

 春が来た。

 

 

 夏が来た。

 

 

 秋が来た。

 

 

 冬が来た。

 

 

 俺は依然、失恋していない。

 俺は、夏花さんを想う。

 

『バカをやれば『何か』が見つかるんじゃなくて、『何か』を見つけたから、バカになれるのよ』

 

 ああ、そうなのか。

 俺の、『何か』は。  

 

『あまり困らせないで』

 

 俺の『何か』はきっと。

 

『あまり困らせないで』

 

 俺の『何か』はきっと……。

 

『あまり困らせないで』

『あまり困らせないで』

『あまり困らせないで』

『あまり困らせないで』

『あまり困らせないで』

『あまり困らせないで』

 …………

 ……

 

 

 

 すみません。

 

 困らせに行きます。

 

 

 卒論をさっさと提出し。

 一応、前もって冬真に連絡を……。

 

『来い!』

「え?」

『いいから来い!』

 

 おう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北海道の春はまだ遠い。

 

 それでも、春はやってくる。

 

 そして、新たな季節を……つないでいくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『困らせないでって……言ったでしょう?』

 

 そう言って、夏花さんは泣き笑いのような表情を浮かべて。

 

『困ってたの』

 

『ずっと、困ってたの』

 

『絵を描いても』

 

『ずっと、消えてくれなくて』

 

『あなたが、消えてくれなくて』

 

『胸が痛くて』

 

『涙が止まらなくて』

 

『冬真にも心配かけて』

 

 

 少女のように泣きじゃくる彼女を。

 俺はただ、抱きしめた。

 

 

 

 

 未だ冬の札幌に、暖かな、春の風が吹く……。

 

 




つまり、高任は夏花さんと温子と笙子がお気に入りなんだよ!(笑)

ゲームを再プレイできなかったのがきつかった……。
細かいネタが、全然記憶に残ってなくて……原作重視の方には申し訳なかったです。

おまけの話を書くかどうかは未定ですが、完結扱いということで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。