北へ。~ひと夏の旅競馬~   作:高任斎

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札幌にヒロイン3人いるんだけど、どうすんの、俺。
競馬ネタと、観光ネタを増量してみました。(笑)

ゲーム発売当時、札幌開催は10月第1週まで続いてた。


札幌で見る夢1
3:札幌の女神。(催馬楽笙子)


 頭の悪い企画だったが、俺は函館開催を乗り越えた。

 

 野宿と素泊まりの民宿やユースホステルなどを併用しつつ、日雇い仕事をいくつかこなして。

 なんとかなるもんだなあ。

 まあ、第2週目のあのバカ当たりがなかったどうなっていたことやら。

 

 現在の軍資金は、15万と少し。

 それだけ聞くと増えてると思うかもしれないが、函館開催の2週目以降は緩やかに減少中だ。

 

 でもまあ、札幌までこれた。

 それだけで、どこか満足感がある。

 

 

 しかし、北海道は広いわ。

 函館から札幌への移動。

 俺がイメージする、同じ県の都市間の移動とは全然違った。

 つーか、地図で見ると、函館と札幌ってわりと近所の都市って感じがするんだけどなあ。

 

 電車なら特急で3時間半らしいが、車なら5時間……移動距離は、ちょうど逆Sの字を描くようなルートで300キロってとこになる。

 まあ、峠道を行くなら距離は短くなるよ、距離はな。

 

 仲間のいないバイクだから、無難なルートを選んだ。

 函館から長万部、そこから室蘭、苫小牧を経由して、札幌にゴー。

 途中で休み休み移動したから、7時間かかった。

 

 いやいやいや、北海道の南端の都市から中央寄りの都市に車で7時間?

 東京から大阪が直線で500キロぐらいだったか?

 

 北海道は広い。(確信)

 

 というか、札幌も広い。

 人口約200万の大都市だけど、そもそも面積が広いだろ、札幌。

 やべえ、久しぶりに観光気分だ、これ。

 函館にやってきた時がこんな感じだった、うん、こういう感じだった。

 

 ああ、なんか旅をしてるって気分が戻ってきた。

 やっぱ、旅の空の下でもルーチンワークはダメだ。

 

 そうだ、観光しよう。

 

 クラーク像は後回しだ。

 なぜかというと、札幌競馬場は街の真ん中にある。

 その札幌競馬場の隣に、北海道大学があるのだ……まだ確認してないけどな。

 つまり、競馬が開催される時に回ればいい……はず。

 

 しかし、大学のそばに競馬場って……スバラシイ環境だ。

 毎週毎週、競馬場まで遠出しなきゃいけない我が身を思うと、素直に羨ましいよ。

 

 というか、札幌って何があるんだ?

 がっかり名所と言われてる時計台と、テレビ塔と、ススキノとラーメンぐらいしか印象にないぞ。

 俺のイメージとしては、北海道の観光って雄大な自然なんだよなあ。

 人工物は人工物でしかない……とかいうと、身も蓋もないけど。

 

 そうだ、牧場だ。

 ガチで牧場めぐりをするつもりはないが、観光客向けの、ノーザンホースパークがあったはずだ。

 競馬ファンの観光っぽくていいだろ、これは。

 

 ああ、でも明日だな、さすがに。

 ちなみに、場所は……って、思いっきり通り過ぎてるじゃねえか!

 新千歳空港の近く……。

 

 車で15分は、近くとは言わないだろ。

 

 北海道は雄大でおおらかだ。(確信)

 

 まあ、札幌から、約60キロってとこね。

 1時間……まあ、1時間半みとくか。

 じゃあ、さっさと宿を決めて……ブラブラと街をうろつく感じで行くか。

 

 ああ、うん。

 こうやってみて回ると、都市機能を備えた観光都市って感じがするなあ。

 ある程度観光スポットが出来上がってて、観光客の流れが決まってるって感じの……良くも悪くも住み分けが出来てる感じだ。

 函館は、人の生活の中におじゃましますって感じがあったけど。

 まあ、どっちがいいとか悪いとかの話じゃないしな。

 好みはそれぞれだろ。

 

 さて、この焼きトウモロコシ。(しょうゆ)

 本当にうまいのか、観光気分による錯覚なのか。

 たぶん、考えたら負けだ。

 どうも、もぎたてを即焼くか茹でるのが一番うまいってイメージがあるんだよなあ。

 

 テレビ塔は、塔だなあと。

 

 ところで、札幌駅タワーは、これに対抗して作られたんだろうか?

 全面ガラス張りの展望トイレがあると聞いて、ちょっと興味が沸いたんだけど。

 

 まあ、高いところは苦手だからやめといたほうが無難か。

 山とかなら平気なんだけどなあ。

 

 

 そろそろいい時間だし、夕飯食って寝るか……んん?

 

 美人発見!

 

 あれ……でも、あの脚のさばき方。

 あの美人……男じゃね?

 男と女じゃ、骨盤の形が違うからな。

 どうしても、脚の動かし方に差が出てくる。

 馬と一緒だ。

 馬体と筋肉には逆らえない。

 うん、そういう意識で見ると、服装も男の骨格の特徴を隠す感じだなあ。

 多分そうだろ。

 

 まあ、男だろうが女だろうが、美人は美人。

 いいもん見たなあ。

 ちょっと忘れられないレベルだわ、マジで。

 

 

 次の日、朝から俺はバイクに乗ってノーザンホースパークへ。

 千歳空港あたりまでは一直線だったから良かったけど、そこからちょっとだけ迷った。

 夏季と冬季じゃ営業時間が違うらしいが、大人の入園料が千円かからない。

 

 やべ、楽しい。

 乗馬体験やら、馬とのふれあいはもちろんだけど。

 家族連れを想定してるのか、子供が飽きないように、遊べる場所がかなりある。

 アーチェリーとか燃えるわ。

 的の風船めがけて……矢が10本ごとに別料金だけどな。

 まあ、縁日の射的よりは安いとだけ言っておく。

 サイクリングコースやら、花が咲き乱れるガーデンが10種類以上あるとか、まさしく観光地だわ。

 気を付けないと、結構な金が飛んでいく。

 レストランや土産物店もあるしな。

 

 ああ、でも、なんか観光したっていうか、遊んだって感じがする。

 そうだな、せっかく北海道まで来たんだから、こういう日があってもいいだろう。

 

 帰ってきたらもう夜だ、まずい。

 夏の北海道は思いっきり観光シーズンだから……宿に関しては甘い期待は捨てるべき。

 こういう時は、大学の敷地内に入り込めばなんとかなる。

 夜間でも人の出入りはあるし、大学の警備なんて基本はザルだ。

 建物の中は無理でも、敷地内で野宿とか余裕だ……たぶん、きっと。

 

 これが若さだ。

 

 ……さて、ごはんごはん。

 まあ、一回ぐらいは行ってみますかね、ススキノ。

 

 イメージと違う。

 

 なんか夜の街というより、オフィス街と飲食街が合体してる感じ。

 区画が違うのか?

 さて、目に付いた居酒屋でご飯。

 明日は競馬だから、酒はなしで。

 なんか虚しい。

 

 店を出て……また美人発見。

 なに、札幌は美人の街なの?

 いやいや、眼福眼福……?

 

 ……どうしよう。

 

 ええい、旅の恥はかきすてだ。

 間違ってたらごめんなさいだ、チクショウ。

 

 うん、旅のテンションは危険だ。

 普段できないことができてしまう。

 

 

 

 

 

 

 さあ、札幌競馬場だ。

 札幌競馬場といえば、芝の1500メートル競争だ。

 中央競馬ではここでしか行われない距離。

 1~3枠の馬が必ずと言っていいぐらいの確率で勝負に絡んでくる。

 圧倒的内枠有利。

 まあ、競馬ファンならみんな知ってるから、儲かるかどうかまでは保証できない。

 

 函館競馬場と違って、札幌競馬場のスタンドから見える景色は、特に言うこともない。

 

「あら?」

「……おや?」

 

 キャリアウーマン風の美女が、にっこり笑う。

 

「あなた、大学生って言ってなかったかしら?」

「正真正銘の大学生ですが、それが何か?」

「学生は、勝ち馬投票券を購入できません」

「くそっ、なんて時代だ!?」

 

 俺は頭を抱えてみせた。

 

「……冗談よ。昨日はありがとう」

「いえいえ、余計なお世話かと、ヒヤヒヤしてました」

「あなた、『通りすがりの大学生です』って言い残して逃げちゃったもの」

「通りすがりの大学生、かつ、小市民なので」

 

 美女が、苦笑を浮かべた。

 

「面倒事は、ノーサンキュー?」

「それもありますが、美人のお姉さん相手だと、緊張して何を口走るかわからないので」

「……」

「……失礼。口走りました」

 

 俺は頭を下げた。

 大学生の男って、交友関係が大学仲間と年上の男性に偏りがちなんだよな。

 年上の女性と接することがほとんどない。

 慣れてないと緊張するだろ、普通。

 

「そのイントネーション。あなた、もしかして北大の生徒じゃないの?」

「本州からの観光客です」

 

 美女が、俺を見て、競馬場のコースに目をやって……目を泳がせた。

 

「観、光……?」

 

 そりゃあ、そうだよな。

 今日は別に、札幌競馬場でこのレースは見なければっていうレースがあるわけでもないし。

 本州から北海道にやってきて、札幌競馬場でなにやってんだって話になるよね。

 

 だって、ほかならぬ俺自身がそう思ってんだから、ははは。

 

 

 

「ああ、うん……旅費がなくなりかけて、一発逆転とかじゃないのね」

「ははは、そこまで無謀なことは。銀行預金残高もちゃんと確保してますし、軍資金が尽きたら素直に帰りますよ」

 

 彼女はため息をつき、呟いた。

 

「これが若さってやつなのかしら」

「ちなみに、来週からは農家のお手伝いでもしようかと思ってます」

「……歳をとったって実感したわ、たった今」

 

 またため息。

 

「俺から見て、格好いい大人って感じですよ。いい年齢の重ね方をしてきたってことでいいのでは?」

 

 じとっとした目で見られた。

 

「いくつに見える?」

「ははは、そこまで常識知らずってわけじゃないです」

 

 女性の年齢に触れるとか、無理無理。

 

「いいから。お姉さんに、正直に言ってみて」

 

 知ってる。

 その笑顔は知ってる。

 自分が望む答え以外は求めていない笑顔だ。

 

「働き出して3~4年目。25歳前後ですかね?」

 

 本音は30手前。

 外見じゃなく、雰囲気からの判断だ。

 明らかに大人って感じだもん、この人。

 

 ここはサバ1の法則を信じよう。

 年齢のサバ読みは1割。

 2割はきつい。

 

 つまり、2割サバを読んで答えると、あからさまなお世辞と思われる。

 

「ふ~ん。いいセンついてるかな」

 

 しゃおらっ。(気合を入れる掛け声)

 今日の俺のギャンブル運は絶好調。

 

 勝てる。(確信)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝った。(笑)

 

 うん、勝ったんだけどさ。

 

「ちょっと、なんであと50メートルが残せないのよ!」

 

 彼女が負けている。

 こういう時って、気まずいよね。

 

 君の買った馬券を見せてごらん。

 君の性格を当てて見せよう。

 

 というネタが一時流行ったんだが……。

 

 なんというか、彼女は……負けたレースを引きずりすぎって感じがする。

 あんまりスポーツ選手には向かないタイプか。

 スランプになると、負のスパイラルに陥って、脱出できない。

 気持ちの切り替えができないというか、下手なタイプだ、きっと。

 

 ああ、高校のチームメイトにこういうタイプが何人もいたよ……追い詰められていって、突拍子もない行動で現状を打開しようとするんだよなあ……。

 

 うん、ギャンブルは結構人の性格が見えてくるよ、マジで。

 

 まあ、俺の場合は……本当の冒険はできないタイプだ。

 どこかで保険をかけてしまう。

 安全マージンを取りすぎてしまう。

 これもまた、スポーツ選手としては、仮に能力があっても成功しないタイプ。

 

「ああーっ、もうっ!!」

 

 ああ、うん。

 無理矢理でも、気分を変えさせよう。

 なんか、放っておけない感じがする。

 いや、むしろ何か嫌なことがあったから、ここにいるんじゃないのか、この人。

 

「お嬢さん、食事でもいかがですか?」

 

 厚みの増した財布を、挑発するように振る。

 怒りを別のベクトルに向けさせる……つもり。

 

 彼女は、ジトーっとした目つきで俺を見つめ、口元だけで笑った。

 

 あ、見抜かれたわ、これ。

 

「奢りなさい、いいわね」

「承知!」

 

 あ、いい店知りません?

 

 美味い店は、地元民に聞け。

 鉄則だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイバラ、ショウコよ」

「西原…しょうこさん?」

 

 彼女が、目元だけで笑ってみせた。

 この人って、笑顔の種類が豊富だな。

 なんか、人に見られるってことを意識できてる感じがする。

 取材慣れしたスポーツ選手っていうか、そんな雰囲気。

 

「たぶん、あなたの考えている漢字じゃないわ……こういう字よ」

 

 取り出したメモに、サラサラと。

 

『催馬楽 笙子』

 

「へぇ、珍しい……ん?この催馬楽って名前、なんか昔の雅楽とか、そういう感じの、音楽とか歌に関係した言葉じゃありませんでしたか?」

「あら、物知りね」

「いや、聞いたことあるなって程度です……じゃあ、名前の笙子の笙も、楽器の……?」

「正解……先祖が、そういう家系だったみたいね。ちなみに、それが盛んになったのは平安時代で、室町の頃には廃れたらしいわ……古い記録には残っているらしいけど」

 

 珍しい苗字ってのは、いじられる可能性と、覚えてもらえる可能性と、まあ、善し悪しひっくるめてのものなんだろうなあ。

 

 それにしても、笙子さんのまつげ長ぇ。

 顔立ちがどこか日本人離れしてる感じ……ハーフとかクォーターとかって聞いても、なるほどって頷いてしまいそうだ。

 こういう声をハスキーボイスっていうのか?

 正直、直訳でかすれ声とか、よくわからんが……特徴的な声だ。

 

 

 

 

「じゃあね、ごちそうさま」

「いえいえ、こちらこそ。目も耳も、心も幸せな気分になれましたし」

 

 あ、これはちょっと呆れてる感じの笑みだ。

 大きく動くわけじゃないけど、表情が豊かだなって思う。

 

 そのまま、笙子さんとはお別れ。

 まあ、お話できただけでもラッキーってとこだな。

 さて、明日も札幌競馬場で……あ。

 

 やべえ、今日も宿をとり忘れてる。

 

 

 

 

 

 

 北大でクラーク博士(胸像)を拝んでからきたぜ。

 全身像って、別の観光地にあるのか……知らなかった。

 でもまあ、大志を胸に、今日も勝つ。

 

 今日は一進一退。

 人生そんなに甘くないし、ギャンブルの神様は性悪だ。

 こんな時は気分転換に、競馬場グルメだ。

 まあ、俺も競馬ファンの噂で聞いただけって話のぶっつけ本番だが。

 よく聞くのが、ホルモン煮込みと、ツブ串。

 

 ……って、別の店かよ。

 しかも、階が違ぇ。

 

 うん。

 まあ、普通にうまいけどさ。

『それで?』って聞かれると困る感じ。

 あれ、こっちの店の豚バラ丼って、美味そうじゃね?

 ああ、人気で売り切れですか。

 午後から再販?

 

 け、競馬がメインですので。

 

 

 

 ……さて、なんでいるんですか、笙子さん。

 

「リベンジよ」

 

 ……この人、ギャンブルやらせちゃダメな人なんじゃないか?

 

 

 

 

 

 うん、予想通り。

 とりあえず、飲み物とサンドイッチでも差し入れしとくか。

 

「まあ、一息入れてください」

「ありがと。次は当たるから。ほら」

 

 と、彼女が見せてくれたのは、単勝1.2倍のグリグリ1番人気の馬から全流しと、2番人気の馬から全流し。

 

 ……ヤバイ。

 このレース、荒れるぞ。

 この人、今絶対ドツボの流れだ。

 当たったけどトリガミ(賭け金以下の配当金)とか、そういうんじゃなく、完膚なきまでやられる流れ。

 

 2番人気の馬が飛ぶのはわかる。

 後方からの追い込み馬だから、展開が向かずに先行馬がそのまま行って届かずってのは普通にある。

 じゃあ、この1番人気が飛ぶレースって、どんなレース展開よ?

 先行馬で、好位差しの基本のような馬。

 スタートで出遅れ?

 故障?

 

 人気薄でも構わねえ、先行馬を中心に……まあ、買っとこう。

 昨日の勝ち分が結構あるからな、心の余裕がある。

 こんな時じゃないと、冒険できないし。

 ははは、当たればすげえぜ。

 

 俺が外れたら、笙子さんが当たるだろ。

 それはそれでよし。

 

『……全馬ゲートに入って……スタートしました。おっと、好スタートは、圧倒的一番人気の『オレニマカセロ』。後続馬を引き連れて、第1コーナへと向かいます……』

 

 普通だ。

 さて、ここからどうなる?

 

『2番人気の『マケチャイラレネエ』は、最後方のポジション。やや縦長の展開で……今、1000メートルを通過しました。61秒、ややゆっくりとしたペースで……』

 

 普通だ。

 とりあえず、不穏な動きはない……が。

 あの、『このレースはもらった』という表情の笙子さんが不穏すぎる。

 

『さあ、少しペースが上がって、最終コーナーへ……おっとどうした?『オレニマカセロ』がズルズルと後退していく……後続集団に飲み込まれて』

 

「え、ちょっ……まってまって!」 

 

 うわあ。

 スタンドがざわめいて、怒号とか飛び始めたよ。

 そりゃ、単勝1.2倍の馬なら、全馬券の8割ぐらいは絡んでるだろうし。

 しかもこれ、後ろの馬が届かない展開だろ……。

 

「あ、あぁ、嘘、うそうそ嘘ぉ!」

 

 ああ、これ完全に、最後追い込んできて4着か5着の流れだわ。

 笙子さん、マジすげえ。

 ギャンブルでドツボに嵌った人間って、恐ろしいわ。

 オカルトって言われたらそれまでだけど。

 

「あ、あぁー、なにやってんのよ!」

 

 競馬ファンがスタンドに馬券を撒き散らす。

 マナー違反だが、ある種のストレス発散だ。

 暴言を吐いたり、暴れたりするよりかはマシと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、なんかさっきのレースから、おかしくない?」

「ナ、ナニガデスカ?」

「いや、あなた……すごく挙動不審よ?」

「ソ、ソンナコトナイデスヨ」

 

 笙子さんが、不穏な表情で俺を見ている。

 いや、わかってるし自覚もしてるけど。

 

 俺は、猛烈に動揺している!

 

 あのレースの配当金、ヤバイ事になった。

 

 笙子さんの手が、優しく、だが有無を言わせぬ感じに俺の顔を挟んだ。

 

「お姉さんに、正直に、話しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 美人のお姉さんには勝てなかったよ……。

 

 10センチの距離で見つめられるとか……ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

「……まあ、明日朝一番に銀行に行きなさい。さすがに、バイクのひとり旅で持ち歩いていい金額じゃないわ」

 

 ですよねー。

 大人のアドバイスありがとうございます。

 

 この、銘の入った帯封は、記念に取ってかないと。

 

「ああ、それと」

「なんでしょう?」

「『私の馬券が外れると思って……』のあたりを、じっくり聞かせてもらうかしら?」

 

 ははは、美人は顔が整ってるから怒ると怖いとか言うだろ?

 怒って怖くない女性なんかいないんだよ。

 

 落ち目の人間の逆張りは、セオリーですと叫びたい。

 

 

 

 

 

 笙子さんに奢らされた夕食、高かったけど、美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、青空の下。

 全身を酷使する、肉体労働はきもちいいなあ。(体育会系的思考)

 

 

 最近の北海道は、観光地として旅人の宿が充実してきたらしいけど、昔はそうでもなかったらしい。

 夏になると、若者がバイクに乗ってやってくる。

 そういう連中は、基本的に節約旅行なのは言うまでもない。

 で、そんな旅人のために、簡易プレハブや、テントで作った無料宿泊所があちこちにあったそうだ。

 今も調べてみると、『ライダーの家』みたいな感じに、低料金の宿泊地があるのは、その名残なんだろう。

 バイク乗り同士が、キャンプ感覚で語り合ったりするわけだな。

 

 そして、そんな場所に農家の人がトラックでやってくるわけだ。

 

『農作業手伝わんか?バイト代は少ししか出せないけど、飯は好きなだけ食わせてやるぞ』

 

 希望者はトラックの荷台に乗せられて、農作業の手伝いに。

 

 

 うん、古き良き時代のお話って感じだね。

 労働基準法って、大切だけど、野暮だよね。

 

 

 そして今俺は、あくまでも『自発的に農作業のお手伝い』をしています。

 うん、観光の一環として。

 精一杯手伝って、美味しいご飯を食べさせてもらって、帰り際には『お土産』までもらって。

 

 なんの、問題も、ない。

 

 もぎたてを茹でたとうもろこし、うめぇ。

 なんでもない、塩おにぎりが、超うめぇ。

 

 ああ、そうそう。

 一緒に『観光』してた連中が、夕方にラジオを聞いていたんだけど。

 

『サイバラショウコの、カプチーノブレイクです』

 

 盛大にふいた。

 

 

 え、あの人……アナウンサー?

 芸能人?

 

 

『最近ちょっとむしゃくしゃすることがあって、気分転換に競馬場に行ってきたんですが……やっぱりダメですね。ああ、そうそう。私の買った馬券が当たらないからって、それをもとに予想する生意気な人がいまして』

 

 やめて!

 俺のプライベートを売るのはやめて!

 

 奢ったじゃん!

 めっちゃ高いご飯、奢ったじゃん!

 

 

 

 どうやらローカル放送局のラジオ番組っぽいけど。

 平日の夕方に、毎日放送。

 土日はないのね。

 なるほどね。

 

 まあ、別に名前を出されたわけじゃないからいいけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァイ」

 

 札幌競馬場の、先週と同じ位置に彼女は現れた。

 

「どーも、某ラジオ番組の、お姉さん」

 

 皮肉は言いたいが、名前を口にするのはまずいというぐらいの分別はあった。

 ストーカーやらなんやら、個人のプライバシーが危険な時代だからな。

 

「あら?聞いちゃった?」

 

 意外そうな表情で。

 ああでも、俺が聞いたのも偶然だしな。

 そんなもんか。

 

「聞いちゃいましたよ……飲んでたお茶を、撒き散らしましたよ」

「似たような名前はいくらもあると思うけど?」

「お姉さんの声、特徴的ですからね。間違えませんよ、たぶん」

 

 笙子さんが笑う。

 目も、口元も、そして、声も。

 

「声を褒められると嬉しくなるわ……少し、ね」

 

 美人はずるい。

 それだけで、いろんなものを許せてしまう。

 

 

 本日の結果。

 俺は、ちょい負け。

 笙子さんは、ちょい勝ち。

 

「ん~、スカッと勝ってストレス発散できないかしら」

「競馬場でその考えは危険ですよ。ほかのことに目を向けたらどうです?」

 

 気分転換ぐらいならまだしも、ギャンブルの『スカッと』の道は、地獄に続いてる気がする。

 

「そう、ねえ……」

 

 笙子さんが俺を見た。

 口元だけが笑ってる。

 

「明日、観光案内してあげましょうか?」

 

 ああ、それは……悪くない、のかな?

 この人、平日は仕事だから、休みは土日だけだろ。

 

 まあ、競馬は一年中やってるし、1日ぐらいはいいよね。

 つーか、美人と観光。

 

 一生ものの記念だろ、これ。

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、テレビ塔で待ち合わせ。

 

 彼女は車に乗って現れた。

 

「さて、どこへ行きましょうか。私のお勧めは、苫小牧、ニセコ、夕張って感じだけど」

「その地名を聞いて連想するのは、『フェリー』、『山』、『メロンと炭鉱』ですかね?」

 

 笙子さんが苦笑する。

 

「なるほど、どれかを選ぶほどの知識もないわけね」

「何も知らなきゃ、選ぶもへったくれもないです」

「そうね……何も知らなきゃ、選べないわよね」

 

 彼女の苦笑に、ほんの少しだけ影がさした……が、すぐに戻る。

 

「ただ、函館から札幌に来るのに、室蘭から苫小牧経由でやってきたのと、ノーザンホースパークには、この前行ってきました」

「競馬ファンよねえ……じゃあ、ニセコ方面にしましょうか。峠道を行くから、ちょっとかかるわ」

 

 笙子さんの運転する車が走り出す。

 正直、北海道の都市の位置関係を、俺は把握しきれてない。

 札幌から見て、なんとなく西に向かったぐらいの認識。

 

 えーと、俺は函館から長万部、室蘭、苫小牧、札幌ルートだった。

 この、長万部から峠道をショートカットすると、ニセコから札幌へと向かう感じか。

 じゃあ、地図で言うとあんな感じか。

 

 などと頭の中で考えるが、どこか怪しい。

 

「羊蹄山は、蝦夷富士とも呼ばれているわ……成層火山の独立峰でね、日本人が考える『山』って姿そのものよ」

「へえ」

「どうせなら、いろいろ見比べてみましょうか」 

 

 

 

「まずはここ、道の駅望羊中山。有名だから、聞いたことぐらいはあるかもしれないわ。ほら、あれよ」

 

 笙子さんが、指差す方向……おお、『山』だ。

 

「晴れてて良かったわ……どう、いい景色でしょ?」

「ええ、和みますね」

「そして、ここに来たら食べなきゃいけない、名物のあげいも」

「え、なんすかこれ、じゃがいもをそのまま揚げてるんですか、これ?」

 

 うわ、カリっとしてホクホクでもちもちで……わけ分かんねえのにうまい。

 

「ふふ、花より団子よね、あなた」

 

 

 しばらく休憩してから、また車で移動。

 

「個人的には、ここから見るのが一番好きよ」

 

 と、登山コースの1つらしい、倶知安ってとこから。

 ああ、これ……早朝とか、夕方に見ると綺麗だろうなあ。

 

「……」

 

 綺麗なんだけどなあ……笙子さん。

 どこを見ているのやら。

 

 

 そして、羊蹄山を回るようにニセコにやってきた。

 いや、やってきたんだけど。

 

 でけえ。

 ダチョウ、でけえ。

 いやいやいや、山も綺麗よ。

 でも、ダチョウだ。

 100円で餌を買って……この餌、乾燥トウモロコシ?

 わははは、文字通り、これでも喰らえ!

 

「ホントにもう……男の人って、すぐに子供に返るんだから」

「ああ、すんません。でも、ダチョウですよ、ダチョウ」

 

 笙子さんが笑う。

 

 また、俺は餌をまく。

 悪いな、ダチョウたち。

 お前らはダシになってくれ。

 

 笙子さんが、笑うから。

 ダシになってくれ。

 

 

 

 

「いやあ、面白かったっす。特にダチョウ」

「もう、そればっかり」

 

 札幌に帰ってきて、なんとなく、そのまま夕食の流れに。

 

「子供なんだから」

「働いてませんからね、子供ですよ。否定する気もないです」

「そう、ね……男の人ってずるいわ、なにかを追いかけ始めると、すぐに子供に戻っちゃう」

「……女性には、そういうの、ないんですか?」

 

 笙子さんはちょっと俺を見つめ、笑った。

 

「女はね、恋をすると子供に返るの……ううん、小賢しい大人から馬鹿な娘になっちゃうのよ」

 

 そう言った笙子さんを見てると、少しだけ胸が痛くなった。

 

 ああ、笙子さんは……そういう恋をしてるのか。

 たぶん、だけど。

 

 

 

 

 

 

 札幌の街を、ぶらぶら歩く。

 平日だ。

 競馬はないけど、農家で観光する気分じゃない。

 かといって、普通の観光をする気も起きない。

 

 うん、面倒くさい荷物を抱えてしまったなあ。

 心の荷物だ。

 どうしようもない。

 帰ってしまうというのも、ひとつの手だろう。

 日常生活の中で、そういうものは整理され、消えていく。

 

 まあ、根本的な問題として。

 

 つりあい、とれねえっての、ははは。

 

 

 

 何もせず、大通公園で、ぼんやりと景色を眺める俺。

 眺めてただけなのに、なあ。

 

 何をしてるんだか。

 

 鳩にたかられている彼女を、助ける。

 というか、お弁当を隠してくださいって。

 

 

 

「天気が良かったから、外で食べようと思ったの」

「一瞬、ヒッ〇コックの映画を連想しましたよ」

 

 大通公園のベンチで。

 二人並んで。

 どういう状況なんだか。

 

 少し恥ずかしそうにしている彼女は、いつもより幼く見えた。

 

「今日は、観光?」

「ぶらぶらしてます。観光客の皮をかぶった、プー太郎ですよ」

「あぶく銭はアテにしないほうがいいわよ」

「貯金が増えたって感覚ですね……それだけです」

「でもまあ、学生のうちだけだものね」

 

 ああ、楽しいぞチクショウ。

 病が重くなっていく。

 

 まあ、本当の意味で冒険できないのが俺なんだけどな。

 

 昼食を終え、彼女は戻っていった。

 何も聞けない自分が嫌だが、何も聞かないことが正解であることが分かる自分も嫌だ。

 

 俺が観光客だから、彼女は少しだけ心を許してくれている。

 距離を詰めようとすれば、逃げるだろう。

 

 彼女の不幸を願うような人間にはなりたくない。

 俺が望むようなイベントは、彼女には起きない方がいいに決まってる。

 

 これは俺の本音なのか、それとも言い訳なのか。

 ホント、面倒くさい心の荷物だぜ。

 

 ああ、でも……ラジオを買おう。

 競馬のためだ。

 何も、おかしくはないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 昼は大通公園。

 夜はススキノで食事。

 そして、週末は競馬場。

 

 ああ、全部笙子さんに会った場所ばかりか。

 救えねえなあ。

 

 

 

 そして、彼女と初めて出会った場所、ススキノで。

 

 

 なあ、アンタ。

 以前も、あの人に絡んでなかったか?

 

 目撃者はいる。

 手を出すんじゃなくて、出させる方向で。

 

 まあ、俺はこういう性格さ。

 

 

 

 恋愛相手じゃなくて、ストーカーのようなもの。

 うん、勘違いとは言え、彼女の悩みをひとつ解消できた。

 頑張ったよ、俺。

 十分だろ、俺。

 

 でも……一瞬だったけど、俺は彼女の不幸を願ったんだ。

 

 格好悪ぃ。

 

 

 

 ……帰るか。

 帰ろう。

 軍資金が尽きるまでとか、どうでもいい。

 

 ああ、でも『札幌記念』のレースは見てからじゃないとな。

 札幌競馬場といえば、このレースだ。

 競馬ファンとしては、見逃せない。

 

 

 俺は、この北海道に、競馬ファンとしてやってきた。

 

 だから、競馬ファンとして、帰ろう。

 

 北海道で背負った荷物は、北海道に返していこう。

 

 

 

 

 

「競馬ファンなら、絶対ここに来ると思ったわ」

「……笙子さん」

「病院からはさっさと退院したって言うし……考えたら、あなたの連絡先ひとつ知らないって気づいてびっくりしたわ」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

 

 軽く返した俺を、笙子さんが見つめる。

 

「教えてもらってないし、聞いてなかったわ」

「観光客ですからね、俺は」

「……そうね」

 

 笙子さんはちょっと笑って、俺の腕を取った。

 

「今日は、二人で勝つわよ」

「そんな上手くはいきませんよ」

 

 

 

「帰るの?」

「わかります?」

「それなりに、出会いと別れを重ねてきたのよ、これでも」

 

 ゲートが開く。

 馬が走り出す。

 

「ごめんね」

「何がですか?」

「あなたを利用したわ」

 

 騎手を乗せて。

 馬は、ただ走る。

 

「俺は楽しみましたよ」

「ダチョウの餌、なんどもなんどもばら撒いてくれた」

「面白かったんですよ」

 

 騎手の手が動く。

 それに応じる馬がいる。

 あえなく沈んでいく馬がいる。

 

「あなたの優しさが、嬉しかったわ」

 

 最後の直線。

 スタンドが沸く。

 騎手が、観客が、馬に関わる人間が。

 様々な思いを込める。

 

 それでも、馬はただ走る。

 

「私ね、不倫してたのよ」

 

 彼女が笑う。

 

「小賢しい大人が、馬鹿な小娘になる」

 

 馬が。

 通り過ぎていく。

 

「小賢しい大人に戻ることにしたわ」

 

 俺は、彼女にどういう言葉をかければいいのかわからなかった……。

 

 

 

 的中した馬券。

 大した金額じゃない。

 

 換金せず、俺はそれを記念に取っておくことに決めた。

 

 

「帰りは、フェリー?」

「バイクですからね」

「……函館から来たって言ってたわよね?」

「青森までバイクですよ」

「……若いって、ホントに……」

 

 笙子さんがため息を吐く。

 

「苫小牧から大洗に、そこからバイクで帰ろうと思います」

「そうね」

 

 会話が止まる。

 俺は何も言わない。

 そして、笙子さんも。

 

 うん、そういうことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、意外だった。

 

「なんで……?」

 

 苫小牧のフェリー乗り場。

 待ち合わせ室。

 

「ああ、当たっちゃったのね……」

 

 彼女は、ほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべ……そして、笑った。

 

「じゃあ、仕方ないか」

 

 微笑みながら。

 笙子さんは名刺を一枚取り出し、その裏に何かを書き込む。

 そしてそれを俺の手に握らせた。

 

「ほら、こっちに、あなたの連絡先、書いて」

「え、ああ、はい……」

 

 言われるままに、別に渡された紙に書く。

 

「苫小牧~大洗は、1日に約2便……2分の1の確率よね」

 

 彼女の独白めいた言葉が続く。

 

「小賢しい大人に戻るため、馬鹿な小娘のような真似が必要だった……笑えるわ」

 

 ああ、なるほどと思う。

 昔のチームメイトを思う。

 俺が思うよりも、彼女は、追い詰められていたのかもしれない。

 

「これから色々と考えなきゃいけないこともある……だから」

 

 彼女が、俺を見つめる。

 その瞳が、ただ俺を見つめる。

 

「トモダチに、相談しても、いいわよね?」

 

 その瞳に浮かぶのは、不安か。

『トモダチ』って言葉を裏切りまくってますよ、笙子さん。

 

「じゃあ、お友達からってことで」

「ええ、そうして……大人は、小賢しいやり方しかできないの」

 

 

 俺がフェリーに乗り込む。

 彼女が手を振る。

 口を開く。

 

「冬の北海道を、見せてあげるから。待ってて」

 

 

 

 

 フェリーが、港を離れていく。

 陸地が遠くなる。

 それなのに、俺の目から。

 

 彼女の姿が離れなかった。

 

 




原作が瀕死状態かも知れない。(笑)
最後、苫小牧のフェリー乗り場で別れたのだけは覚えてる。
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